医療ニュース
2019年9月26日 木曜日
2019年9月26日 犬を飼えば心臓の病気になりにくい
太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の約13年間の歴史を振り返ると、犬アレルギーの患者さんが増えているような印象があります。割合で言えば猫アレルギーの方が多く、猫アレルギー自体も増加傾向にあるのですが、犬も確実に増えています。もちろん、アレルギーがあるからといって必ずしも離れて暮らす必要はないのですが、それなりの対処が必要です。
最近増えている相談が「アレルギーを発症するのが怖いのですが初めから飼わない方がいいですか」というものです。例えば両親のどちらかが犬アレルギーがある場合は自身もそのうちに発症するのではないか、花粉症があるのでいずれ犬にも反応するのではないか、などと考えられているのです。この考えは間違っておらず、たしかに自身もしくは血縁者にアレルギー体質の人がいれば、現在は大丈夫でも将来的に犬アレルギーを発症する可能性はあります。
ですが、現時点でないのであれば飼育することに問題はありませんし、アレルギーになりにくくする方法もあります。ですから「将来のリスク」よりも「現在及び将来の(犬と過ごすことでの)メリット」を考えるべきだと私は思います。それに、最近は犬を飼うことの利点を報告する研究が増えてきています(下記「医療ニュース」参照)。今回お伝えするのもそんな研究です。
犬を飼えば心血管障害を起こしにくい……。
米国の有名病院「メイヨー・クリニック」のウェブサイトにそのような研究「犬の飼い主と心臓の病気(Dog Ownership and Cardiovascular Health: Results From the Kardiovize 2030 Project)」が掲載されました。研究の対象者はチェコスロバキア第二の都市ブルノ在住の住民1,769人で、研究を実施したのもチェコ共和国の研究者です。なぜ、チェコの学者が米国の病院のウェブサイトに論文を載せるかというと、メイヨー・クリニックというのはいわゆる診療所(クリニック)ではなく、全米で最も優れた病院のひとつであり、臨床のみならず教育や研究にも力を入れています。メイヨー・クリニックのサイトに研究成果が掲載されるということは一流の医学誌に論文が掲載されるのと同じように名誉なことなのです。
話を研究結果に戻しましょう。犬を含む何らかのペットを飼っている人は、飼っていない人に比べて喫煙率は高かったものの、身体活動度、食事、血糖値がより良好であることが判りました。ペットのなかで、特に犬を飼っている人は何もペットを飼っていない人に比べ、心臓の健康度を示すスコアが有意に高かったのです。また、犬を飼っている人は他のペットを飼っている人に比べ、身体活動度および食事がより良好であるとの結果も得られています。
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この研究を評した解説を探していると、同様の結果が過去の研究でも認められていることが分かりました。医学誌『Circulation』2013年5月9日号(オンライン版)に「ペット飼育と心血管疾患のリスク(Pet Ownership and Cardiovascular Risk)」という論文が掲載されており、ここでも「ペット(特に犬)を飼うことで、身体活動度が向上し、心血管疾患のリスク低下が期待できる」とされています。
これだけの恩恵をもたらせてくれる犬。アレルギーや他のリスクに注意が必要だったとしても簡単に諦めない方がよさそうです。
医療ニュース
2019年6月30日「乳幼児期に犬と過ごせば食物アレルギーを予防できる?」
2019年2月23日「乳児期に動物に接するとアレルギーを起こしにくい?!」
2018年1月26日「単身者は犬を飼えば長生き 雑種より猟犬が良い?」
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|2019年9月26日 木曜日
2019年9月26日 ビタミンDの補給でがんによる死亡リスクが低下
サプリメントに関する質問のなかでここ数年で最も多いのがビタミンDだという話を何度かしています。ビタミンDで心疾患の予防ができる、がんが防げる、感染症にかかりにくくなる、若返る……、いろんなことを言う人がいます。また、ビタミンDは食事だけでは十分量が摂れないことを指摘する人もいます。これらについて、つまりビタミンDの「総論」について「はやりの病気」2019年4月号「ビタミンDが混乱を招く2つの理由」でまとめました。
そこで私が述べた結論は、ビタミンDは大切な栄養素であることは間違いないが、日本人であれば食事から十分量が摂れるので心配はない。サプリメントではなく食事に気を付けようというものでした。
ですが、世界では今も「ビタミンDを積極的にサプリメントで摂るべき」とする研究もあります。今回紹介するのもそのようなひとつです。
ビタミンDのサプリメントを摂取すればがんによる死亡率が16%低下する……。
医学誌『British Medical Journal』2019年8月12日号(オンライン版)に掲載された論文「ビタミンD補給と死亡率の関連:系統的レビューとメタ分析(Association between vitamin D supplementation and mortality: systematic review and meta-analysis)」でそのような結論が導かれています。
この研究は「メタ分析」でおこなわれています。つまりこれまで世界中で発表されているビタミンDについての研究をまとめ、それを解析することにより結論を出そうすると研究です。対象となった研究は52で、被験者は合計75,454例となります。
そのメタ分析の結果、全死亡例は8,033例。そのなかで心血管疾患での死亡が1,331例、がんによる死亡は877例でした。ビタミンDサプリメントの摂取とすべての死因を含む死亡との間には関連性が認められませんでした。また心血管疾患による死亡との関連もありませんでした。
しかしながら、ビタミンDのサプリメントはがんによる死亡のリスクを16%低下させているという結果が算出されています。
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論文の原文は「vitamin D supplementation」とされており、内容からこれは食事による補完ではなくサプリメントや薬剤としてのビタミンDによる補給と考え、ここでは「ビタミンDのサプリメント」と表現しています。
さて、ビタミンDのサプリメントを積極的に摂るべきかどうかについて、私個人の考えとしては以前から述べているように基本的には「不要」です。例外となるのは、ヴィーガンの人だけです。よく「紫外線に一切あたらないようにしているんですがそれでもビタミンDのサプリは不要ですか」と聞かれます。私の答えは「サーモンとキノコ類をしっかり摂っていれば不要」です。
はやりの病気
第188回(2019年4月)「ビタミンDが混乱を招く2つの理由」
医療ニュース
2019年1月31日「ビタミンDで心血管疾患のリスクは低下しない」
2017年10月23日「骨折予防にビタミンDやカルシウムは無効」
2014年2月28日「ビタミンDのサプリメントに有益性なし」
2010年2月11日「ビタミンDが不足すると喘息が悪化」
2010年2月1日「ビタミンDの不足は大腸ガンのリスク」
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|2019年8月29日 木曜日
2019年8月29日 海外で出回っている偽物ワクチンに注意を
日本のワクチンは高いから海外での接種を検討しませんか。
これは私がよく患者さんに話すことです。過去数年は円安傾向に進んだことで海外との薬の差はさほど大きくなくなってきたと言われていますが、例外のひとつがワクチンです。例を挙げると、麻疹・風疹・おたふく風邪のワクチンを日本で接種すると、少なくとも15,000円はします。これを、例えば私がよく推薦するタイのマヒドン大学内にある「Thai Travel Clinic」で接種すればわずか7ドル(もしくは227バーツ)です。20倍近く違うわけですから日本での接種が馬鹿らしくなるのではないでしょうか。ちなみに、私自身もこのクリニックでいくつかのワクチン接種をしています。
しかし、その安いワクチンが偽物である可能性がないかについては充分に注意しなければなりません。2018年後半からフィリピンで偽物の狂犬病ワクチンが出回っており、WHOが2019年7月16日付けで注意喚起を出しました。
当初出回っていた偽物ワクチンは商品名が「Verorab」というものだけでしたが、最近は「Rabipur」、「SPEEDA」、さらに狂犬病の治療薬である ERIG(ウマ抗狂犬病免疫グロブリン)の偽物も確認されているようです。これらはWHOの注意喚起に写真も載せられています。見る者が見れば「怪しい」と感じますが、ぱっと見ただけでは本物と区別がつかないものもあります。
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では、海外ではワクチン接種を控えた方がいいのでしょうか。100%の保証ができるわけではありませんが、日本人が運営に関与しているところや日本人医師がいるところならまず安心です。しかしこういうところは日本よりは安いものの少し値段が高いようです。
個人的には、先述したタイの「Thai Travel Clinic」か同じくバンコク内の通称「スネーク・ファーム」と呼ばれている「Immunization and Travel Clinic」がお勧めです。狂犬病ワクチンは、それぞれ347バーツ、350バーツ(約1,200円)です。ちなみに太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)では15,000円ですから12.5倍も高いことになります。もちろん谷口医院が暴利を貪っているのではなく、これはほとんど仕入れ値と変わらない価格です。
尚、狂犬病ワクチンは日本ではこれまで日本製しか認可されていませんでしたが、2019年7月後半より(フィリピンで偽物が出回っている)「Rabipur」が承認され谷口医院でもこちらに切り替えています。日本製ワクチンよりも高い効果があることがわかっているからです。
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|2019年8月29日 木曜日
2019年8月29日 43歳以上の飲酒は翌日眠くなる
「酒は百薬の長」、「少量の飲酒は健康にいい」、などと以前から言われていますが、果たして本当に正しいのでしょうか。過去に紹介したようにこれを否定する研究もあります(下記「医療ニュース」参照)。
今回紹介したいのは「43歳以上の飲酒は翌日の眠気をもたらせる」というもので注目に値する研究です。医学誌『Occupational Medicine』2019年7月号に掲載された「ドライバーにおける日中の眠気とアルコール消費(Excessive daytime sleepiness and alcohol consumption among commercial drivers)」というタイトルの論文です。
研究の対象者は全日本トラック協会(Japan Trucking Association)に登録されている20~69歳の男性ドライバー1,422人で結果は次の通りです。飲酒翌日の日中の眠気が飲酒でどのように変わったかが算出されています。
〇43歳未満の場合
軽度飲酒者:非飲酒者と比べて眠気は19%減少
中等度飲酒者:7%減少
大量飲酒者:39%減少
〇43歳以上の場合
軽度飲酒者:非飲酒者と比べて眠気は42%上昇
中等度飲酒者:53%上昇
大量飲酒者:337%上昇
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私が知る限り、この研究これまでに一般のメディアで紹介されていないようですが、驚くべき結果です。43歳以上で大量飲酒をすれば、翌日の眠気のレベルが3.37倍(337%)になるというのです。そして、興味深いことに43歳未満なら大量飲酒で逆に眠気が4割も低下するのです。
43歳まではたっぷりと飲んで、43歳の誕生日がくるとお酒をやめましょう、というような単純な話ですが、この結果をよく考えるべきでしょう。「酒は百薬の長」は43歳未満の場合だけかもしれません。
参考:
医療ニュース
2017年6月26日 「少量の飲酒でも認知症のリスク!?」
2011年10月26日 「女性は中年期の適量の飲酒で高齢期が健康に」
2011年1月9日 「飲酒→睡眠→運転はキケン!」
2010年5月21日 「飲酒によりリンパ系腫瘍のリスクが低減」
2010年8月23日 「飲酒が関節リウマチに有効?」
2010年4月8日 「適度な飲酒は女性の体重増加を抑制」
2009年9月10日 「 自殺者の4人に1人がアルコール問題」
マンスリーレポート
2012年6月号 「酒とハーブと覚醒剤」
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|2019年7月29日 月曜日
2019年7月29日 筋肉増強やダイエット目的のサプリメントはこんなにも危険
太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の患者さんは比較的若いということもあり、サプリメントの相談のなかでは動脈硬化予防やがんの予防よりもむしろ、筋肉増強やダイエットに関したものの方が多いという特徴があります。「〇〇を飲もうと思っているんですけど…」という相談をされる方もいますが、多くはすでに飲みだしてから不安になった人たちです。あるいは、これは相談ではありませんが、健診で肝臓や腎臓の数値が悪いことで受診され、問診からその原因がサプリメントであることが判ったということもよくあります。
では、どの程度の割合で健康被害がでるのでしょう。これについては我々は漠然と”多い”という感覚がありますが、具体的な数字はよく分かっていませんでした。薬の場合は発売前から「〇%の使用者に△という副作用がある」ということが分かっていますが、サプリメントの場合はほとんど情報がありません。過去に東京都福祉保健局が実施した「サプリメントの副作用は全体の4.2%」という調査結果がありますが、これは自覚症状に限ってのことであり、無自覚の肝機能障害、腎機能障害などを加えるともっと高くなるはずです。
これを検証した研究が発表されました。医学誌『Journal of Adolescent Health』2019年6月5日(オンライン版)に「小児から若い世代でのサプリメントの弊害(Taking Stock of Dietary Supplements’ Harmful Effects on Children, Adolescents, and Young Adults)」というタイトルの論文が掲載されました。さらに、一般向けの医療情報サイト「Health Day」では「10代にとっての多くのサプリメントは危険(Many Dietary Supplements Dangerous for Teens)」というタイトルで紹介されています。
この研究では、FDA(米国食品医薬品局)の有害事象報告システムが用いられています。2004年1月~2015年4月に報告された米国の0~25歳の小児から若年成人が内服したサプリメントによる有害事象が解析されています。その結果、調査期間中に合計977件の有害事象が認められ、そのうち(なんと)40%もが「重篤な健康被害」だったというのです。重症例には入院例、救急受診例、さらに死亡例も含まれています。
この研究では若者が好むサプリメントがビタミン剤に比べてどれくらいリスクが大きいのかが検討されています。結果、筋肉増強を目的としたサプリメントでは2.7倍、性機能増強などのエネルギーアップを目的としたものでは2.6倍、体重減少(ダイエット)を目的としたものでは2.6倍リスクが上昇していることが分かりました。
上記「Health Day」の記事では、ハーバード大学公衆衛生学部教授のオースティン(Austin)氏の言葉を紹介しています。氏によれば、サプリメントが野放しのこの現状は「アメリカの若者にロシアンルーレットをさせているようなもの」だそうです。
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たしかに、死亡例も出ているわけですから「ロシアンルーレット」という表現も大げさではないかもしれません。
参考までに谷口医院で診断がついた最も多いサプリメントの被害は、男性の場合、プロテインによる腎機能障害、次いでクレアチンによる腎機能障害です。女性は、ダイエットのサプリメントでの動悸、嘔気、肝機能障害です。これらについては過去のコラム(マンスリーレポート2018年11月「サプリメントや健康食品はなぜ跋扈するのか」も参照してください。
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|2019年7月26日 金曜日
2019年7月26日 ライチを食べて子供が死ぬ理由
過去1ヶ月で、患者さんから受けた質問で最も多いひとつが「ライチは毒って本当?」というものです。主にネットニュースで「インドでライチを食べた子供が次々と死んでいる」という趣旨の報道がおこなわれているようです。
実はこれは今に始まったことではなく、インドでは過去にも同様の”事件”が報道されています。ここでは、なぜライチで子供が死んでしまうかについて解説したいと思いますが、まずは最近の報道を振り返ってみましょう。
2019年6月25日のBBCの記事「ビハール州の脳炎はインドの保健システムが原因(Bihar encephalitis deaths reveal cracks in India healthcare)」によると、2019年6月上旬頃よりビハール州のムザファルプル県で150人以上の子どもたちがライチを食べた後に死亡しています。BBCによれば、死亡した子供たちのほとんどがまともな医療を受けることができていません。
BBCは2017年にも同様の報道をしています。2017年2月1日の記事「インドの子供たちが空腹時にライチを食べて死亡(Indian children died after ‘eating lychees on empty stomach’)」で、毎年100人以上の子供が脳炎を起こして死亡していることを指摘し、その原因を医学誌『LANCET』から引用して紹介しています。
ここでその『LANCET』の論文を紹介しましょう。同誌2017年1月30日号(オンライン版)に「ムザファルプル県の脳炎のアウトブレイクと脳炎の関係(Association of acute toxic encephalopathy with litchi consumption in an outbreak in Muzaffarpur, India, 2014: a case-control study)」というタイトルで掲載された論文で、要旨は次のようになります。
・2014年5月26日から7月17日の間に390人の患者が入院し、うち122人(31%)が死亡した。
・この中からデータが残っている104人を選び、他の疾患で入院した同じ年齢の対照群コ(ントロール群)と比較した。
・発症24時間前のライチ消費量は対照群と比べて9.6倍だった。
・発症前に夕食を摂っていなかった割合は対照群と比べて2.2倍だった。
・ヒポグリシンA(hypoglycin A)もしくはMCPG(methylenecyclopropylglycine)の代謝物が、脳炎発症者73人の尿検体のうち48人から検出された。一方対照群からは検出されなかった。
・ムザファルプル県の36個のライチの殻を調べると、ヒポグリシンAの濃度は12.4μg/g~152.0μg/gの範囲で、MCPGは44.9μg/g~220.0μg/gの範囲だった。
ライチには2種の「毒素」が含まれており、その毒素が体内で糖を新生することを阻害することが分かっています。低栄養状態時にその毒素が体内に入ると急激に低血糖が進行し、糖の補給をおこなわなければ死に至る、というメカニズムです。
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BBCによると、この脳炎は現地では「急性低血糖脳炎(acute hypoglycemic encephalopathy) (AHE)」と呼ばれているそうです。過去20年以上にわたり毎年100人以上の子供が他界しており、かつては日本脳炎だと考えられていたそうです。しかし『LANCET』に報告されたことから、正確な診断と治療がおこなわれるようになり、患者数は減少傾向にありました。ところが、今年(2019年)は再び患者数が上昇し、その原因がBBCが指摘しているように脆弱な医療システムにあるというわけです。
日本人の場合、飢餓になるほどの状態でこの地を訪れることはまずないでしょうし、仮にライチの皮に含まれる毒素を摂取したとしてもすぐに糖分を摂れば問題ありません。むしろ、日本脳炎の方を注意すべきです。インド(のみならずアジア全域)に渡航するなら、日本脳炎のワクチン接種歴を確認しておくべきです。
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|2019年6月30日 日曜日
2019年6月30日 乳幼児期に犬と過ごせば食物アレルギーを予防できる?
「猫好き女子は肺がんで死にやすい」「単身者が犬を飼えば長生きできる」「乳児期に犬や猫に接するとアレルギーになりにくい」(いずれも下記「医療ニュース」参照)など、ここ1~2年で犬・猫が健康に与える研究がよく発表されるようになってきました。それだけ世間の関心が高いということでしょう。
今回紹介するのは「乳幼児期に犬と過ごせば食物アレルギー発症率が90%低下する」という俄かには信じがたい研究で、医学誌『Allergy』2019年5月11日号(オンライン版)に掲載されています。タイトルは「Dog ownership at three months of age is associated with protection against food allergy」(生後3か月で犬を飼っていれば食物アレルギーが予防できる)です。
英国の研究者が対象としたのは、「Enquiring About Tolerance(EAT)」と呼ばれる食物アレルギーの無作為化試験(聞き取り調査のようなもの)に登録された生後3ヵ月の乳児1,303人です。犬飼育の有無とアレルギー発症との関連が検討されています。生後36ヶ月時に食物アレルギーが発症したかどうかが調べられています。
その結果、「食物アレルギー」の診断がついたのは全体の6.1%。犬猫の飼育と食物アレルギーの関連を調査したところ、犬と一緒に過ごしていれば食物アレルギーの発症率がなんと90%も低下していたのです! さらに、2匹以上の犬を飼育していた家庭の乳児49人では発症者がゼロであり、犬の数が多いほど食物アレルギーを防ぐ可能性が高いことをほのめかしています。
ただ、残念なことに犬を飼っていてもアトピー性皮膚炎発症の予防にはならなかったようです。
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アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎など他のアレルギー疾患と比較すると、食物アレルギーは過去10~20年間で、世界中で急増しています。そして、他のアレルギー疾患に比べると重症化、あるいは死に至る確率も高いと言えます。いったん発症すると、治癒しないことも多く、また完全な食物除去は思いのほか大変ですから、予防できる方法があるならありがたい話です。
この研究ひとつだけで「将来の食物アレルギー予防のために犬を飼いましょう」とまでは言えないでしょうが、犬を飼うことには他にもいくつもの利点がありますから、今後は(猫よりも)犬がペットとして注目されることになるかもしれません。
参考:医療ニュース
2019年2月23日「乳児期に動物に接するとアレルギーを起こしにくい?!」
2019年4月25日「ネコ好き女子は肺がんで死にやすい?!」
2018年1月26日「単身者は犬を飼えば長生き 雑種より猟犬が良い?」
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|2019年6月30日 日曜日
2019年6月30日 イチゴアレルギーで搭乗拒否
少し古い話ですが、世界中で話題になっている事件なので報告しておきます。
2018年9月、英国のLCC「トーマス・クック」が19歳の英国人女性を「イチゴアレルギーがあるから」という理由で搭乗拒否しようとしました。英国の3つのタブロイド紙による報道から概要をまとめてみます(注)。
19歳の英国人女性とその恋人の21歳の男性が休暇を利用してギリシャのザンテ島(Zante)にバカンスに出かけました。往路は問題なく搭乗できたものの、帰りの便の搭乗間際に「問題」が起こりました。女性は二人の客室乗務員にイチゴアレルギーの話をし、客室乗務員は「イチゴの成分が含まれるマグナーズ(アイルランド製のイチゴ入りビール)やロゼ・ワインを機内サービスで他の乗客に提供しない」と約束しました。
ところが、上司の女性客室乗務員がこれに納得しませんでした。報道によればこの客室乗務員は「あなたのせいで200人以上の乗客に機内サービスができないのは不快だわ。あなたはどういうつもりなの?(I’m not happy not serving these products because we’ve got more than 200 guests and what do you expect them to do?)」と言い、女性の搭乗を拒否しようとしたのです。
すると、女性の恋人がこの客室乗務員に「乗客の安全を重視しないのか」と詰め寄り、また他の客室乗務員もこの女性の味方となり、最終的には搭乗拒否しようとした客室乗務員も渋々女性の搭乗を認めました。そして、「重度のアレルギー患者が同乗しているため、イチゴの含まれたものは供給できません。また、フライト中はイチゴの飲食を控えてください」と機内アナウンスしたそうです。
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帰国後、この女性は今回の事件をSNSなどで公表し世界中で話題になりました。さて、このケース、航空会社が他の乗客へのイチゴを含む飲料の供給を中止したのは正しかったのでしょうか。
たしかに空気中に浮遊するアレルゲンを吸い込むことによって生じるアレルギーはあり得ます。Mayo Clinicのウェブサイトによれば、例えばピーナッツオイルのクッキングスプレー(私はそのようなものを見たことがありませんが)を吸い込んでアレルギー反応が起こることがあるそうです。
ですが、イチゴ入りのアルコールを飲んだ他の乗客の呼気でアレルギー反応が起こるとは到底考えにくいのです。ただし、万が一にでも発症すれば命に関わる可能性がありますから、これは今後科学的に検証していくべきでしょう。
ところで、太融寺町谷口医院の12年半の歴史を振り返ると、イチゴアレルギーはどんどん増えているような印象があります。オープンした2007年の時点では「フルーツのアレルギーは次第に種類が増えていき、そのうちに食べられるものが減っていくかもしれません」という説明をするときに、「イチゴアレルギーは稀です」と話していました。
それが、年を追うごとにイチゴアレルギーの患者さんが増えています。もっとも、イチゴだけでなく、他のバラ科のフルーツのリンゴ、モモ、ナシ、ビワ、サクランボなども増えているのも事実です。ただ、昔からリンゴやモモ、ビワなどのアレルギーは珍しくありませんでしたが、以前は「イチゴだけはOK」という人も少なくなかったのです。
ちなみに、イチゴアレルギーを含むバラ科のフルーツにアレルギーがある人はハンノキやシラカンバなどの樹木の花粉症も併発していることが多いと言えます。これをPFAS(花粉食物アレルギー症候群)と呼び、最近増加しています。
いずれにしても食物アレルギーがある人が搭乗するときは、早い段階で航空会社に相談しておくべきでしょう。アレルギーが理由で断られることはないと信じたいのですが、トーマス・クックのことを考えると「LCCは避けた方が……」という声が出てくるかもしれません。
注:英国のタブロイド紙である『Express』、『The Sun』、『Mirror』の記事です。
参考:はやりの病気
第173回(2018年1月)「急増するPFAS(花粉食物アレルギー症候群)」
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|2019年5月30日 木曜日
2019年5月30日 HTLV-1感染増加は九州だけでないと考えるべき
九州の若年者でHTLV-1感染者が増加していることが各メディアで報じられました。ただ、厚労省の発表とメディアの報道を比較して読んでみると、メディアの報道では誤解が生じるように思えるので、少し詳しく解説してみたいと思います。
まず各メディアは「九州の男性で増加」と強調しています。これは、今回発表されたのが九州のデータだからであり、全国調査の結果が発表されたわけではありません。ですから、九州以外の地域でも増加している可能性は充分にあります(後述するようにおそらく確実です)。
次に、男性だけで増加しているわけでもありません。たしかに厚労省の発表にも「AYA世代男性での感染者増加」と書かれているのですが、公表されたグラフをよくみると、「生年階層別HTLV-1陽性率」(11ページ)で90年代後半に生まれた女性(つまり現在20代前半の女性)の陽性率が上昇(急増)しています。
ここで基本的事項をおさらいしておきましょう。
HTLV-1の感染ルートは、母子感染、血液感染、性感染で、ちょうどHIVと同じです。ウイルス学的にもHIVとHTLV-1はよく似ていて、どちらも「レトロウイルス」に相当します。HIVというウイルスがまだ解明されていなかった頃にはHIVがHTLV-3と呼ばれていたことからもそれは分かります。
HTLV-1の感染者数はHIVと異なり、90年代以降は下降傾向にありました。これは母子感染予防が実施されたからです。日本には現在も100万人以上の陽性者がいるとされていますが、今後も減少していくであろうと見る医療者の方が多いと思います。
ただし現実はもう少し複雑です。
「第1次HTLV-1水平感染疫学調査」という調査がおこなわれ、医学誌『The Lancet Infectious Disease』2016年8月23日号(オンライン版)で報告されています。この研究が(少なくとも私にとっては)ものすごく興味深いのは「水平感染」を調べていることです。つまり、単に「現在HTLV-1陽性の日本人は〇人」としたものではないのです。
水平感染というのは母子感染以外の感染、すなわち血液感染と性感染のことを指します。日本ではHIV感染が血液感染であることは非常に稀でほとんどは性感染ですから、HTLV-1も血液感染よりも性感染の方がずっと多いことが予想されます。そして、これまではHTLV-1が性感染でどれだけ感染しているのかがよくわかっていませんでした。
少し遠回りになりますが教科書をみてみましょう。世界共通の医学の教科書『UpToDate』によると、異性愛者において「男性→女性」は「女性→男性」よりも感染しやすいとされています(100人・年当たり4.9対1.2)。また、例えば日本のセックスワーカーがどの程度陽性かというデータはないのですが、同書によれば、ザイールとペルーでは3.2〜21.8%の範囲で陽性とされています。
「第1次HTLV-1水平感染疫学調査」は、日赤の献血のデータベースを基におこなわれています。2005年1月1日から2006年12月31日までの期間で、16〜69歳の繰り返し献血をおこなった人のどの程度が新たにHTLV-1に感染したかが調べられたのです。その結果、追跡期間中(中央値4.5年)のあいだに、男性204人、女性328人の合計532人が感染していました。この数字から全国でどれくらいの人数が一年間の間にHTLV-1に新たに感染しているかを算出すると、男性975人、女性3,215人の合計4,190人となりました。ただし、1年間に新たにHTLV-1に感染する男性のストレートとゲイの割合を知る術はありません。
「第1次HTLV-1水平感染疫学調査」では、もうひとつ興味深いことがわかりました。それは感染者の居住地です。元々HTLV-1は九州(沖縄含む)に多いとされていたのですが、この調査では、女性は九州地方で最も多いのに対し、男性では20代と40-50代で九州よりも近畿地方などに多いことがわかったのです(このデータは先述した厚労省の発表に紹介されています)。
今回の発表の本質について述べます。「第2次HTLV-1水平感染疫学調査」というのが九州地方でおこなわれ、これが冒頭で述べたようにメディアで報道されています。この調査は2010~2016年におこなわれ、追跡期間中に九州地方でHTLV-1に感染したのは男性124人、女性105人の合計229人です。この数値を第1次HTLV-1水平感染疫学調査と比較すると、男性の新規感染者は大幅に伸び、女性には顕著な変化を認めません。
まとめていきましょう。
1つめの重要な点は、「第2次HTLV-1水平感染疫学調査」は九州でのみおこなわれたものであり、全国の状況を反映していません。すでに「第1次HTLV-1水平感染疫学調査」の時点で、男性は九州よりも他地域で感染者が増えていたわけですから、現在も九州よりも他地域で増加していることが予想されます。
2つめの重要な点は、先述したように現在20代前半の女性感染者が増えていることです。ただし、この傾向が九州だけでなく全国的に認められるのかどうかは分かりません。
3つめは男性に増えている「理由」です。発表では「AYA世代男性での感染者増加」とされていますが、この理由は解明されていません。大部分が性感染であることはほぼ間違いないと思いますが、感染者がストレートかゲイかは分かりません。ですが、若い女性の感染者が増えていることを考えると、ストレートの男性感染者も少なくなく、さらにその男性から女性に感染が広がっていると考えるべきではないかと思われます。
現在HTLV-1はすべての自治体で無料検査ができるわけではなく、HIV抗体検査をやっていてもHTLV-1は実施していない地域が大多数です。HTLV-1もHIVと同様、一度感染すると生涯体内に残ります。そして、HTLV-1がHIVよりもやっかいなのは、感染しても初期症状は起こらずに、その後も何の自覚もないままに何年、何十年と経過することです。無自覚・無症状のまま生涯を過ごせることも多く、ここだけを取り出すといいことのように思えなくもありませんが、これは裏を返せば「自覚のないまま他人に感染させる可能性がある」ということに他なりません。
参考:
はやりの病気
第47回(2007年7月)「誤解だらけのHTLV-1感染症(前編)」
第48回(2007年8月)「誤解だらけのHTLV-1感染症(後編)」
医療ニュース
2009年6月29日「HTLV-1が大都市で増加」
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|2019年5月30日 木曜日
2019年5月30日 女性の「マイスリー」は危険でない?
大切なことなのと”悪口”ではないためにあえて商品名を書きます。
別のところにも書きましたが、以前ある患者さんから次の言葉を聞いて愕然としたことがあります。
「一番弱いと聞いたマイスリーをください。深夜便の飛行機に乗るんです・・・」
このサイトで繰り返し伝えているように睡眠薬(の大半)は一般の人が思っているよりもはるかに危険です。過去には、マイスリーを飲んで意識がないままわが子を殺めた女性の話や、入院中のお婆さんをレイプした男性の話なども紹介しました。
今回紹介するのは医学誌『Journal of Clinical Psychopharmacology』2019年5月6月号(オンライン版)に掲載された「ゾルピデム(マイスリーの一般名)と性~女性は本当にリスクが高いのか~」(Zolpidem and Gender Are Women Really At Risk?) というタイトルの論文で、マイスリーを「擁護」しています。
この論文が作成されるきっかけは2013年にFDA(米国食品医薬品局)が公表したマイスリーの警告です。FDAは、女性は男性に比べて翌日にマイスリーが血中に残りやすいことを指摘し、2013年1月10日、投与量を男性の50%まで減量するよう警告書を発表しました。
今回紹介する論文はそのFDAの見解に疑問を投げかけています。男性と同様の量を内服した場合、翌日の血中濃度が女性の方が高くなることは認めているのですが、路上走行試験では運転障害に男女差が確認されていないことを挙げ、その他の性差も臨床的に認められていないことを主張しています。
さらに、女性への投与量を減らすことによって不眠の治療が不充分となり、それがかえって危険なのではないかと結論付けています。
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日本と同様、マイスリーは米国でもよく処方される睡眠薬で、少し古いデータですが、2011年には約6千万錠が処方され、これは2006年から20%増加しています。
重要なのは男女差を追求するのではなく、性に関係なくこのような睡眠薬を使わなくてもいい状態に持って行くことで、これこそが「真の治療」です。もちろん、将来的に止めなければならないのはマイスリーだけではありません。冒頭で紹介した患者さんが言うように、マイスリーよりも”強い”睡眠薬は多数あり、私の経験で言えば多くの人がその危険性をきちんと認識していません。よって、当院では「どうやって睡眠薬を減らしていくか」という観点で過去13年間治療をおこなっています。
参考:
はやりの病気第164回(2017年4月)「本当に危険なベンゾジアゼピン依存症」
はやりの病気第151回(2016年3月)「認知症のリスクになると言われる3種の薬」
メディカルエッセイ第165回(2016年10月)「セルフ・メディケーションのすすめ~ベンゾジアゼピン系をやめる~」
はやりの病気第124回(2013年12月)「睡眠薬の恐怖」
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