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2024年12月26日 認知症の遺伝リスクが高くても心肺を鍛えれば低下する

 認知症の最大のリスクは「遺伝」であることはこのサイトで繰り返し述べています。世間では、脳の専門家でさえも「認知症は遺伝しない」というようなことをしきりに言いますが、これは正しくありません。

 ApoE遺伝子をε4で持っている人が認知症のリスクが上昇するのはすでに自明であり、日本人での割合は、ε4/ε4、ε4/ε3、ε4/ε2で持つ人の割合がそれぞれ1%、21%、5%と言われています。日本人の3割以上(31%)はε4を持っているのです。リスクの高さについては、日本人の6割が持つε3/ε3に比べて、ε4/ε4は11.6倍、ε4/ε3とε4/ε2は3.2倍だとする研究があります。

 ですから「認知症は遺伝しません」などと事実と異なることを訴えるよりも、「ε4を持っている3割以上の人は認知症のリスクが高いのは自明なのだから、残り7割弱の人よりもしっかりと予防をしましょう」と現実を見据えるべきです。

 ε4を持っていても必ずしも発症するわけではないのは事実ですが、ε4/ε4を持つ1%の日本人(約120万人でしょうか)は若くして認知症を発症しやすいことを受け入れるべきですし、ε4/ε3、ε4/ε2の人もリスクを認識して老後の生活を考えるべきだと私は思います。

 今回紹介するのは、そのε4を持っている31%の日本人に嬉しい研究です。論文は医学誌「British Journal of Sports Medicine」2024年11月19日号に掲載された「遺伝的素因の異なるレベルにおける心肺機能と認知症リスクの関連性:大規模な地域ベースの縦断的研究(Association of cardiorespiratory fitness with dementia risk across different levels of genetic predisposition: a large community-based longitudinal study)」です。

 この論文では認知症の遺伝的リスク因子としてApoEではなく、多遺伝子リスクスコア(=Polygenic Risk Scores in Alzheimer’s Disease=PRSAD)を用いています。研究の対象者は、調査開始時点で認知症のない39~70歳の61,214人、追跡期間は最長12年間です。

 追跡期間中に553人(0.9%)が認知症を発症しました。解析の結果、心肺機能の能力(=cardiorespiratory fitness=CRF)が高い人は低い人に比べて、認知症の発症リスクが40%低く、認知症の発症が1.48年遅れることが示されました。

 PRSADが中程度から高い人でみると、CRFが高い人は低い人に比べて、全認知症のリスクが35%低いという結果が得られました。

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 認知症の遺伝リスクが高くても、心肺機能の能力が高ければリスクを35%も低下できるという研究結果は有難い知らせです。リスクが高い人(≒ApoE遺伝子をε4で持つ人)にとって、この結果をみて運動しないという選択肢はないでしょう。

 では、まだ自分のApoE遺伝子のタイプを知らない人はまずはε4の有無を調べればいいか、というと、ここは慎重になるべきです。なぜなら、遺伝子というのは生涯変わることがなく一度知ってしまえばその現実を必ず受け入れなければならないからです。当院では若い人(≒これから子供を持つ可能性がある人)からの依頼は原則断っています。

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