医療ニュース
2015年11月6日 抗菌石けんは不要、普通の石けんで充分
風邪のシーズンになると「うがい・手洗い」がよく言われるようになります。「手洗いするときに抗菌石けんは有用ですか」というのは昔からよくある質問です。以前から、我々は(すべての医師ではないかもしれませんが)、手洗いには「普通の石けん」で充分、抗菌作用を謳ったものは不要、ということを言い続けてきました。最近、それを裏付ける研究が発表されたのでここに紹介しておきます。
研究は韓国のKorea University(漢字名は「高麗大学校」だそうです)の研究者によりおこなわれ、医学誌『Journal of Antimicrobial Chemotherapy』2015年9月16日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。20種の細菌を試験管に入れ、一方には普通の石けん、もう一方には抗菌作用のある石けんを加えて細菌がどの程度減少するかを調べました。その結果、9時間以上経過すれば抗菌作用のある石けんを加えた方に強い抗菌効果が認められたそうです。
ところが、石けんを加えて30秒程度では両者に差がない、という結果がでています。通常手洗いは30秒程度で終わるでしょうから、これでは抗菌石けんの意味がないということになります。
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この研究は”意外な結果”が導かれたわけではなく、冒頭で述べたように、以前から医師の間では抗菌作用を謳った石けんは疑問視されていました。むしろ、抗菌成分によるかぶれ(接触皮膚炎)が起こる危険性を危惧しなければなりません。さらに、我々としては(これも医師全員ではないかもしれませんが)通常のものも含めて石けんの使いすぎを懸念しています。
石けんを使いすぎると、皮膚のバリア機能に必要な皮脂をも洗い流すことになり、そうなればかえって微生物に対し脆弱になるからです。
手洗いの際、石けんを使い汚れ(特にアブラ汚れ)を浮きだたせてその後水洗いするのが細菌やエンベロープを持つウイルスを除去するのには有効です。しかし、洗いすぎてバリア機能を損なうようなことがあれば本末転倒になるのです。
ちなみに「エンベロープ」というのはウイルス表面の”殻”のようなもので、これを皮膚から取り除くのにはたしかに石けんが有効です。そしてエンベロープを持つウイルスとしては、インフルエンザ、ヘルペスウイルスといった感染力が強く馴染みのあるものがあります。また、B型肝炎ウイルスやHIVもこのタイプです。
一方、エンベロープを持たないウイルスとして有名なのは、ライノウイルスやアデノウイルスといった「風邪」を引き起こすウイルスや、食中毒で有名なノロウイルスがあります。こういったウイルスには石けんはまったく無効であり、時間をかけて水で洗い流すしかありません。ちなみに、ノロウイルスはアルコールでも死滅しません。アルコールも石けんも無効、しかも感染力は極めて強いというやっかいなウイルスです。
では、手洗いはどうすればいいのでしょうか。答えは簡単で、「抗菌作用を謳った石けんは不要。普通の石けんは用いるべきだが使いすぎに注意。むしろ水洗いに時間をとり、1日に何度もおこないましょう」となります。
それからもうひとつ。太融寺町谷口医院の患者さんのなかには「不潔恐怖」から手を洗いすぎている人が何人かいます。(重症化すると「強迫神経症」という病名がつきます) 先に述べたようにこれをおこなうと必要なバリア機能が損なわれ、かえって感染しやすくなります。ですから、「洗いすぎに要注意!」というのも覚えておくべきでしょう。
尚、今回は手洗いの話なので述べませんでしたが、「うがい」については殺菌作用のあるうがい液は無効であり、たとえばヨード含有のうがい液を用いれば、まったくうがいをしない人と同じように風邪をひくという研究結果があります。つまり、水でのうがいは風邪予防に非常に有効だけれど、ヨード入りのうがい液を使ってしまうとまったく意味がないということです。
注1:この論文のタイトルは「Bactericidal effects of triclosan in soap both in vitro and in vivo」で、下記のURLで概要を読むことができます。
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