医療ニュース
2015年6月29日 ピーナッツアレルギー予防のコンセンサス
ピーナッツアレルギーに対する考え方が変わってきている、ということを以前お伝えしました。(下記「医療ニュース」参照)
以前の考え方では、妊娠中はナッツ類の摂取を避けて、出生後も早い段階でナッツを食べるべきでない、とされていましたが、これを完全に否定する研究が相次いで発表されました。つまり、母親は妊娠中にナッツを積極的に食べるべきで、出生後は、早期に積極的にナッツを食べさせた方がアレルギーが起こりにくいという考えが注目されているのです。
従来のこととまったく正反対のことが主張されると当然混乱を招きます。「ピーナッツを食べるな!」が、一転して「早く食べろ!」となったわけですから、いわばコペルニクス的な展開です。
現場の混乱を抑えることを目的として、世界のアレルギーに関する10の学会が共同でコンセンサスを発表しました(注1)。10の学会は、アメリカ、ヨーロッパ、カナダ、オーストラリアなどのアレルギー関連の大きな学会で、「日本アレルギー学会」もその1つに入っています。
コンセンサスでは、最近の研究(注2)を引き合いに出し、重症の湿疹や卵アレルギーのある乳児が早期にピーナッツを摂取すると、ピーナッツアレルギーの発症を大幅に減らすことができるとしています。
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このコンセンサスを受けて「すべての乳児がピーナッツを早期に食べる」のは危険です。この共同声明が引き合いに出しているのはLEAPと命名された大規模研究ですが、すべての乳児がピーナッツを食べてよい、と言っているわけでは決してありません。
ピーナッツアレルギーというのは、一気に重症化する可能性もありますから、安易に食べさせると取り返しの付かないことになりかねません。ですから、すでにピーナッツアレルギーの可能性がある小児の親御さんは、まず主治医に相談すべきです。
ピーナッツアレルギーかどうかを知りたいので血液検査をしてほしい、という依頼がときどきありますが、血液検査のデータは、特に小児の場合はあくまでも「参考」です。問診及び食物負荷試験(入院してもらい実際にピーナッツを摂取してもらう試験)が必要になります(注3)。
今回のコンセンサスとこれまでの研究などから考えて現段階で言えることは次のとおりです。
・母親にピーナッツアレルギーがなければ妊娠中にピーナッツを積極的に食べて問題ない。
・乳児自身にアレルギー疾患を疑うエピソードがなければ早期にピーナッツを積極的に摂取してもよい。(むしろ積極的に摂取すべき)
・何らかのアレルギー疾患を有している小児は、ピーナッツを摂取すべきかどうかまず主治医に相談すべき。
また、このサイトで過去に何度か紹介している「Dual Allergen Exposure Hypothesis」(2通りのアレルギー曝露仮説)を考慮すると、次の2つも重要です(注4)。
・湿疹や傷があった場合、保湿をしっかりおこなうなどして、ピーナッツのエキスが皮膚に触れないようにしなければならない。
・ピーナッツオイルを皮膚に塗るべきではない
ピーナッツアレルギーはいったん発症すると治りにくく、重症化しやすく、アーモンドやカシューナッツなど他のナッツ類なども食べられなくなることもあります。一方では、ナッツ類は非常にすぐれた健康食でありますから、できることなら何としてでもアレルギーは避けたいものです。
乳児期のピーナッツアレルギー対策がその後の人生に大きな影響を与えると言っても過言ではないでしょう。
注1:このコンセンサスは下記URLで全文を読むことができます。
また日本アレルギー学会のサイトにも和文で掲載されています。
http://www.jsaweb.jp/modules/news_topics/index.php?page=article&storyid=232
注2:このコンセンサスで最も重視している研究の概要は下記URLで参照することができます。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1414850
注3:入院施設のない医療機関ではこの試験はできませんし、実施できる医療機関は現時点で多くなく今後対応できる病院が増えることが望まれます。太融寺町谷口医院では、アレルギー検査については現在は成人のみを対象としています。
注4:これについて詳しくは下記「メディカルエッセイ」を参照ください。
参考:
メディカルエッセイ第136回(2014年5月)「免疫学の新しい理論」
医療ニュース(2015年3月30日)「変わってきたピーナッツアレルギーの予防」
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