医療ニュース

2026年4月23日 木曜日

2026年4月23日 アルツハイマー病にレカネマブもドナネマブも無効

 以前から「本当に効くのか?」「費用対効果が悪すぎる」と評判のよくないアルツハイマー病の”特効薬”「レカネマブ(レケンビ)」「ドナネマブ(ケサンラ)」の有効性が「コクラン(Cochrane)」により正式に否定されました。

 コクランとは信頼できるエビデンスを提供する国際的な非営利組織で、世界で最も中立であり信頼性の高い組織です。コクランが発表するデータなら無条件で信頼できると言ってもいいでしょう。

 そのコクランがレカネマブもドナネマブも効果がないと断言したわけですから、この発表は世界中の認知症の治療に極めて大きな影響を与えることになります。まずはコクランの発表内容をみてみましょう。タイトルは「抗アミロイド薬は臨床的に意義のある効果を示さない(Anti-amyloid Alzheimer’s drugs show no clinically meaningful effect)」です。

 コクランが検証したのは、アルツハイマー病または軽度認知症患者に対する(レカネマブやドナネマブなどの)合計7種類の抗アミロイド薬の効果が調べられた合計17の臨床試験のデータです。試験の対象者は合計20,342人です。結果、抗アミロイド薬が認知機能低下や認知症の重症度に及ぼす絶対的な効果は皆無、もしくはごくわずかであり、臨床的には意味がないことが明らかにされました。

 研究を主導したイタリア・ボローニャのIRCCS神経科学研究所の神経内科医兼疫学者Francesco Nonino氏は「残念ながら、これらの薬剤は患者にとって何ら意味のある効果をもたらさないことが示されました」と述べています。

 レカネマブを例にとってみてみると、発売当初は、認知機能低下が27%抑制されるとされていました。しかし、記憶力、推論力、日常生活機能を測定する18点満点の尺度で検討したNEJMの研究によると、プラセボ投与群は18ヶ月間で1.66ポイント低下したのに対し、レカネマブ投与群では1.21ポイントの低下にとどまりました。確かに差はありますが、ごくわずかなものです。

 さらに、効果がないばかりでなく、有害性も明らかになりました。発売当初から指摘されていたように、抗アミロイド薬は脳の腫脹や出血のリスクを高めるリスクが高いことも明らかにされました。

 レカネマブ及びドナネマブは臨床試験で良好な結果が得られたとされたため、英国、米国、日本の規制当局によって承認されました。しかし英国では、費用に見合うだけの「効果が小さすぎる」として、NICE(=National Institute for Health and Care Excellence=英国国立医療技術評価機構)はNHS(=National Health Service=英国国民保健サービス)での使用を却下し、結局英国では使用できない状態が続いています。英国でいったんこれらの承認をしたMHRA(=Medicines and Healthcare products Regulatory Agency=医薬品・医療製品規制庁)は、コクランの発表を受けて再審査をおこなうようです。

 費用についてはThe Telegraphの報道をみてみましょう。これらの薬剤を使用するには、定期的な静脈内投与に加え、腰椎穿刺や脳の画像検査が必要となり、患者一人当たり年間4万ポンド以上がかかります。

************

 このコクランの発表には反対意見もあります。検討されたのは合計7種類の抗アミロイド薬で、レカネマブとドナネマブ以外に、アデュカヌマブ、バピネウズマブ、クレネズマブ、ソラネズマブなど、既に販売中止となった薬剤も含まれていたからです。しかし、研究の方法としては何ら間違っているわけではなく、これらの薬と同時に検討されたという理由だけではコクランの分析が間違っているとは言えません。

 ひとつ言えることはアルツハイマー病の原因をアミロイドだけで説明することはできないということです。「アルツハイマー病の原因がアミロイドβ」を”証明”した有名な論文が捏造されたものであることはすでに白日の下に晒されています。

参考:毎日メディカル「STAP細胞よりひどい…社会を揺るがす二つの捏造論文」

 粘着性のあるアミロイドタンパクが脳内に蓄積してプラークを形成し、これがアルツハイマー病に関連しているのは事実でしょう。ですが、それが「原因」ではないことはもはや明白であり、アミロイドを取り除いたからといってアルツハイマー病が治るわけではありません。抗アミロイド薬は、副作用のリスクを抱え、大金を投じておこなうような治療でないことはもはや自明です。

 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2026年4月19日 日曜日

2026年4月19日 ApoEがε4でも肉を食べれば認知症リスクが帳消しに!

 常識を揺るがすような驚くべき論文が発表されました。

 アルツハイマー病の最大のリスクがApoEの遺伝子型で、ε4を所有していればリスクが大幅に上昇することは本サイトで繰り返し述べてきました。ε4・ε4の人は(ε4をホモで所有していれば)、ε3・ε3の人に比べ、アルツハイマー病になるリスクが11.6倍にもなるとされています。

 日本を含む東アジアではもっとハイリスクだとする研究もあります。2023年に医学誌JAMA Neurologyに掲載された論文「ApoE遺伝子型とアルツハイマー病リスク:年齢、性別、および民族(APOE Genotype and Alzheimer Disease Risk Across Age, Sex, and Population Ancestry)」には各民族におけるε4とアルツハイマー病のリスクが掲載されています。結果は、我々日本人にとっては絶望したくなるようなものです……。

 ε4とアルツハイマー病の相関関係は民族によって異なり、東アジアではその関係が最も強くなります。下記のグラフが示すように、ε4を1つ持っていれば(ヘテロで持っていれば)リスクは4.54倍(白人3.46倍、黒人2.18倍、ヒスパニック系1.90倍)です。ε4を2つ保有している場合(ホモの場合)、東アジア人のリスクはなんと30倍近くにもなります(白人13倍、黒人6倍、ヒスパニック系4倍)。

 認知症の他のリスクを考えてみると、例えばLDLコレステロールであれば薬(スタチン)を使えば下げられますし、社会的孤立であれば(人によっては大変でしょうが)自身の努力で挽回できる見込みはあります。

 一方、遺伝子は生まれたときにすでに決まっていて変更することは絶対にできません。アルツハイマー病のリスクは”運命”として受け入れるしかない、ということになります。

 ところが、です。最近、信じられないような(当事者からみれば)歓喜したくなるような研究が報告されました。医学誌「JAMA Network」2026年3月19日号に掲載された論文「ApoE遺伝子別の肉摂取量と認知機能(Meat Consumption and Cognitive Health by APOE Genotype)」です。

 なんと、ApoEをε4で持っていても「肉を食べればそのハンディを完全に克服できる」というのです。研究の対象者は調査開始時に認知症がない60歳以上の2,157人(平均年齢71.2歳、女性62.0%)。うち1,680人が継続して調査を続けることができ、569人(26.4%)がApoEを「ε3・ε4」または「ε4・ε4」で持っていました。15年間の追跡期間中、296人が認知症を発症し、690人が認知症を発症せずに死亡しました。肉の摂取量は食物摂取頻度調査票に基づき、認知機能は次の4つが調べられました。

・エピソード記憶(再生と再認):episodic memory (free recall and recognition)
・意味記憶(語彙):semantic memory (vocabulary)
・言語流暢性(動物名と職業名):verbal fluency (animals and professions)
・知覚速度(数字消去課題とパターン比較):perceptual speed (digit cancellation and pattern comparison)

 解析の結果、ApoEを「ε3・ε4」または「ε4・ε4」で保有する人たちは、総肉摂取量が最も少ない下位5分の1のグループに比べ、最も多い上位5分の1のグループでは、認知機能の低下が抑制され、認知症発症リスクが大幅に低下していました。下記のグラフが示すように、認知機能低下のリスクがApoEをε4で持たない(ε2かε3で持つ人)となんとまったく同じレベルにまで下がったのです!

    ************

 ApoEをε4で持つ人にとっては思わず踊りだしたくなるような嬉しい報告です。では、アルツハイマー病のリスクを帳消しにするにはどれだけの肉を食べればいいのでしょうか。論文には「肉の摂取量を目標値の2倍以上にすること」と書かれています。では、「2倍」とは実際にはどれくらいの量が相当するのでしょうか。

 英国の健康サイトDiabetes UKによると、World Cancer Research Fund(=WCRF=世界がん研究基金)などのがん関連団体は、赤身肉の摂取量を週3食分(調理済み重量で約350~500グラム)以下に制限し、加工肉はほとんど、あるいは全く食べないことを推奨しています。NHS(英国国民保健サービス)のサイトにも「1日70グラム」と書かれています。ApoE遺伝子をε4で持つ人がアルツハイマー病のリスクを帳消しにするためには、これの2倍ですから「1日およそ140グラム」の加工されていない肉を摂取すべし、ということになります。

 もうひとつ興味深いのは、上記のグラフからも読み取れますし、論文の本文でも述べられているように、「(加工されていない)赤身肉の摂取量が多いほど、ApoE遺伝子のタイプに関係なく、認知症のリスクが低い」ということです。発がん性のリスクを考えれば肉の摂取はほどほどに、ということになる一方で、認知症のリスクを下げたいのなら積極的に肉を摂取すべし、となるわけです。

 気を付けなければならないのは「加工肉を食べない」ということです。論文には「総肉摂取量に対する加工肉の比率が高ければ、遺伝子型にかかわらず認知症リスクが上昇する」と指摘されています。

 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2026年3月26日 木曜日

2026年3月26日 枕をやめて眼圧を下げて緑内障を予防

 50歳を超えると一気にリスクが上がる緑内障は日本では失明の原因第1位です。40代から発症することがあり、50代で人口の3~5%、60代で5~10%、70歳以上では10~20%が発症します。治療を受けずに放置すれば次第に視野が欠損し、ついには失明にいたります。

 リスクは近視、糖尿病、喫煙、ステロイド使用(特にアトピー性皮膚炎)などで、予防にはこれらへの対策や治療が有効です。しかし最近、もっと簡単に予防する方法があることが報告されました。「枕を使わない」です。

 医学誌「British Journal of Ophthalmology」2026年1月27日号に掲載された論文「緑内障患者における高い枕使用時の睡眠姿勢と眼圧との関連(Association of high-pillow sleeping posture with intraocular pressure in patients with glaucoma)」を紹介します。

 研究の対象は緑内障の患者144人です。枕を2つ重ねて頭部を20~35°挙上した姿勢と枕を使わない姿勢(仰臥位)でそれぞれの眼圧を測定しました。また、健常ボランティア20人を対象に、超音波検査を用いて体位変化に伴う頸静脈内腔の変化が評価されました。

 結果、仰臥位と比較すると、高い枕を使用した姿勢では眼圧が有意に上昇していました。また、健常ボランティアを対象とした超音波検査では、枕を高くした姿勢では、内頸静脈および外頸静脈の内腔が有意に狭窄し(これはよくないことです)、内頸静脈の最大血流速度が上昇することが示されました(これもよくないことです)。

 

上記論文に掲載されたグラフ:眼圧は日中活動しているときは低く、夜間就寝時に上昇する。黄色が高い枕を使ったときで、枕なし(青色)よりも眼圧が上昇していることがわかる

 

 これらから言えることをまとめてみましょう。まず、枕を重ねると首の位置が変わり、その結果、頸静脈が圧迫されます。そして、この圧迫により、眼球内の液体である房水の自然な排出が妨げられます。

 また、枕を高くすることにより、眼灌流圧(ocular perfusion pressure=OPP)が有意に低下することも分かりました。眼灌流圧とは、眼球内の微細血管に血液を送り出すための圧力のことを差します。直接眼圧に関係するわけではありませんが、眼灌流圧の低下は緑内障のリスクとなることが知られています。

    ************

 枕は高い方がぐっすり眠れるという人もいますが、高すぎる枕は頸椎に負担がかかりますから、枕なしでは眠れないと言う人も高くし過ぎない方がいいでしょう。

 それから、よくある質問に「オーダーメイドの枕はどうですか」というものがあります。これについてはどの程度の効果があるのかよく分かりませんが、この論文が示した「高い枕は頚静脈を圧迫し、緑内障のリスクが上昇する」という点については、どのような枕を使用する際にも知っておくべきでしょう。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2026年3月8日 日曜日

2026年3月8日 数週間の脳トレーニングで認知症発症リスクが25%減少!?

 2月15日の医療ニュース「レッドライトセラピーで慢性外傷性脳症が防げる!?」で、信じられないような慢性外傷性脳症の予防法の話をしました。今回紹介する話も俄かには信じ難い報告です。なんと、わずか数週間の簡単な脳トレーニングで認知症発症リスクが25%も減少するというのです。

 この報告は医学誌「Alzheimer’s Association」2026年2月9日号に掲載された論文「20年間にわたる認知トレーニングが認知症に及ぼす影響:ACTIVE研究からのエビデンス(Impact of cognitive training on claims-based diagnosed dementia over 20 years: evidence from the ACTIVE study)」にまとめられています。

 研究の対象者は米国の65歳以上の2,802人です。対象者はACTIVE研究と命名された認知トレーニングを受けた人(対照含む)です。対象者は次の4つのグループに分けられました。

#1 視覚による情報を処理する能力に焦点を当てた処理のスピードトレーニング
#2 言語エピソード記憶の向上に重点を置く記憶訓練
#3 推論する能力の訓練
#4 対照群(何もしないグループ)

 #1~#3のグループは、5~6週間にわたり、小グループで60~75分のトレーニングを最大10回受けました。その後、8回以上トレーニングを受けた被験者の一部のグループは、11ヶ月後と35ヶ月後に、追加トレーニング(各セッションは最大4回の75分間)を受けました。この研究が開始されたのは1998年で、その後20年間追跡調査がおこなわれました。

 結果は驚くべきものとなりました。#1のなかで追加トレーニングを1回以上受けたグループはアルツハイマー病を発症するリスクが25%減少していたことが分かったのです。興味深いことに、#1のなかで追加トレーニングを受けなかったグループでは認知症リスクの低下は認められませんでした。

 #2、#3のグループもリスクの低下は認められませんでした。

************

 この研究は米国では相当大きなニュースとして捉えられているようで、NIH(米国国立衛生研究所)は「数週間にわたる認知スピードトレーニングは、認知症の診断を数十年遅らせる可能性がある(Cognitive speed training over weeks may delay the diagnosis of dementia over decades )」というタイトルで、論文が公表された翌日の2月10日、ニュースリリースを発表しました。

 認知症の予防に役立ちそうなトレーニングがあるとすれば、なんとなくスピードトレーニングよりも#2や#3のじっくりと頭を使うトレーニングの方が有効なイメージがないでしょうか。それが、#2や#3では認知症のリスク低下につながらず、スピードトレーニングのみが有効というのです。

 ここまでくると、#1の「視覚処理のスピードトレーニング」とはどのようなものかが気になります。調べてみると米国メディアNMR(National Public Radio)に興味深い解説記事がありました。

 この研究で実施されたスピードトレーニングでは、ユーザーはコンピューター画面を見つめます。ある時点で、画面中央で車かトラックが点滅し、周辺に道路標識が表示されます。正しい車両を識別し、道路標識がどこに表示されたかを覚えておくことが課題となります。ゲームが進むにつれて、車両は見分けにくくなり、周辺にも注意をそらすものが現れ始めます。

 このトレーニングなら、例えば学校で習うような基礎知識や文章作成能力や高度な数学の能力などはまったく不要です。求められるのはゲームセンターでよくあるようなゲームで高得点を獲るような能力であり、このような能力であればたいてい繰り返し実践すれば上達します。

 ということは、近いうちに「認知症予防ゲーム」が市場に登場するに違いありません。それにしてもわずか数週間のトレーニング(+追加トレーニング)でアルツハイマー病のリスクが25%も低下するとは驚きです。近いうちに、「65歳になれば国民全員がこのゲームに参加することが義務付けられる」といった社会になるかもしれません。

 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2026年2月28日 土曜日

2026年2月28日 樹木は心血管疾患を防ぎ、草や花はリスクを上げる

 植物との接触が健康に良いとする研究は多数ありますが、ではどのような植物が有効なのかを調べた研究はほとんど見当たりません。最近、公開された論文でその点が検討されていて、結果は、意外なことに「背の高い樹木は心血管疾患を防ぐが、芝生や花壇などでは逆に心血管疾患のリスクとなる」というものでした。

 論文は医学誌「Environmental Epidemiology」2026年2月号に掲載された「看護師健康調査(Nurses’ Health Study)におけるストリートビュー画像のディープラーニング分析を用いた緑地と心血管疾患リスクの評価(Assessing greenspace and cardiovascular disease risk through deep learning analysis of street-view imagery in the US-based nationwide Nurses’ Health Study)」です。

 研究の対象は「Nurses’ Health Study」と呼ばれる米国の看護師を対象としたデータベースに登録されている88,788人の女性。植物の種類については、AIを用いたストリートビュー画像で解析されました。その地域を歩行する際に目にする可能性のある植物を下記のように分類しました。

#1 目に見える樹木【=visible trees】
#2 芝生【=grass】
#3 その他の緑(植物、花、野原など)【=other green (plants/flowers/fields)】

 結果、#1に接する人はそうでない人に比べ心血管疾患のリスクが4%低いことが分かりました。他方、#2に接する人は、意外なことに、心血管疾患のリスクが6%、#3については3%上昇していました。

 地域ごとに分析されていて、例えばカリフォルニア州では、街路緑度(street greenness)が最高3分の1の地域では心臓疾患の有病率が26%低下、高血圧は29%低下していました。ユタ州では、街路緑度が最高3分の1の地域で高血圧のリスクが16%低下していました。

 樹木に触れる機会が多ければ心血管疾患のリスクが下がる理由について、論文では「ストレスの軽減、騒音、大気汚染、極端な気温からの緩衝」を挙げ、さらに「並木道は近隣の歩きやすさと社会的結束を高め、身体活動を奨励し、社会的支援ネットワークを強化する」としています。

 芝生や花が心血管疾患リスクを上げるという意外な結果については、「農薬の増加、芝刈りによる大気への影響、草の花粉、樹木に比べて低い冷却能力、騒音や大気汚染をろ過する能力の低さ、生物多様性の低下など」が挙げられています。

************

 芝生や菜園、花壇などは都心部でも小さな庭やあるいはベランダを利用すればつくれなくはありませんが、樹木となると、公園や並木道の近くに住む以外には方法がほとんどありません。

 となると、樹木が植えられている公園に毎日通う、とか、散歩するなら並木道を歩く、という工夫が必要なのかもしれません。私の肌感覚としては、通行量の多い並木道よりも、樹木がなくても川沿いの静かな道を歩く方がいいような気がしますが……。

 いずれにしても芝生や花壇に過剰な期待をしない方がよさそうです。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2026年2月15日 日曜日

2026年2月15日 レッドライトセラピーで慢性外傷性脳症が防げる!?

 思わず声がでるほどビックリする論文が公開されました。なんと、単純なレッドライトセラピー(red light therapy)で慢性外傷性脳症(CTE)が治るというのです。常識的には考えられないようなこの論文を紹介しましょう。

 その前に、「レッドライトセラピー」と「慢性外傷性脳症」を簡単に振り返っておきましょう。

 レッドライトセラピーとは近赤外光(Near Infrared=NIR)を皮膚に当てて肌を若返らせるというエステティックサロンなどでおこなわれている施術で、誰もが有効性を認めている治療ではなく、むしろ胡散臭い民間療法とみる向きが多いものです。

 慢性外傷性脳症(以下「CTE」)は本サイトで繰り返し取り上げている、コンタクトスポーツなどで頭部に繰り返し衝撃を受けた結果、認知症や人格崩壊を起こす恐ろしい疾患です。オバマ大統領(当時)が「もし自分に息子がいたとすれば、フットボールの選手にはさせない」と発言したことでも有名になった疾患です。有効な治療法はなく、この疾患を避けたければ、初めからサッカーやアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツに手を出さないようにするしかありません。

 その恐ろしいCTEが民間療法のレッドライトセラピーで治るというのですから、驚く他ありません。では件の論文を紹介しましょう。医学誌「Journal of Neurotrauma」2026年1月20日号に掲載された「反復頭部加速イベントに曝露された現役大学アメリカンフットボール選手の神経学的レジリエンスを経頭蓋光バイオモジュレーションが促進(Transcranial Photobiomodulation Promotes Neurological Resilience in Current Collegiate American Football Players Exposed to Repetitive Head Acceleration Events)」です。

 研究の対象者は26人のアメリカンフットボールの大学生の選手です。うち13人の選手には、16週間のシーズンを通して、週3回、1回20分間、赤色光を発するヘッドセットを装着しました。残りの13人には、プラセボ群として、光を発しない同一のデバイスを装着しました。

 結果、プラセボ群の13人の脳をMRIで調べると、シーズン開始前のMRIに比べて、炎症の程度が増悪していました(シーズン中に頭部への刺激を繰り返し受け、その結果、脳内に炎症が生じたと考えられます)。

 他方、レッドライトセラピーを受けた13人は炎症が増加しませんでした。脳のほぼすべての領域で刺激による炎症から保護されていたのです。

************

 なぜこのような奇跡が起こったのか。じゅうぶんな強度の赤色光は頭蓋骨を通過して脳の表層に到達し、脳細胞を刺激します。脳の表層に到達したレッドライトが細胞内の「発電所」とも呼べるミトコンドリアを活性化し、細胞の働きを刺激するというメカニズムです。

 この論文を報じた米国メディアHealth Dayによると、この研究チームは現在、米国国防総省(Department of Defense)の資金提供を受け、外傷性脳損傷または脳震盪による持続的な症状を持つ300人を対象とした臨床試験を開始しています。

参考:医療ニュース2026年1月31日「頭部の外傷が自殺のリスクとなる」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2026年2月1日 日曜日

2026年1月31日 頭部の外傷が自殺のリスクとなる

 「頭部への衝撃がその後の人生を滅ぼすことになる」が注目されるようになったのは、米国アメリカンフットボール界のスーパースター、マイク・ウェブスターの死亡がきっかけだと思います。繰り返し頭部への衝撃を受けた結果、奇妙な行動をとるようになり、妻から離婚をつきつけられ、最後にはホームレスとなって死亡するという、大変ショッキングな転機をたどりました。

 「慢性外傷性脳症(chronic traumatic encephalopathy)」(以下CTE)と呼ばれるこの疾患、世界的には関心が高く、オバマ前米国大統領が「もし自分に息子がいたとすれば、フットボールの選手にはさせない」と発言したことでも有名です。私自身は、本サイトや他のメディアで繰り返しこの疾患の重要性を指摘し、アメリカンフットボールだけでなくサッカーを含むコンタクトスポーツのリスクに警鐘を鳴らしているつもりですが、なぜか日本では今もあまり話題になりません。しかし、この疾患を知らなかったばかりに……、という悲劇は防がねばなりません。

 今回紹介するのはコンタクトスポーツに限ったことではなく「頭部への強い衝撃」が自殺のリスクになるとする研究です。結論は「頭部外傷を経験した人は、経験していない人に比べ自殺を企てるリスクが21%高くなる」です。医学誌「Neurology」2025年12月22日号に掲載された論文「頭部外傷後の自殺未遂リスク:英国におけるマッチングコホート研究(The Risk of Suicide Attempts After Head Injury A Matched UK Population–Based Cohort Study)」にまとめられています。

 この研究の対象者は英国で頭部外傷の治療を受けた389,523人で、対象者には年齢、性別、居住地域を一致させた頭部外傷歴のない(別の疾患の)患者1,489,675人が選ばれています。その後、各自の自殺を企てたエピソードについての調査が実施されました。 

 結果、頭部外傷歴の「あるグループ」では5,107件の自殺のエピソードがあり(1,000人・年当たり2.4件)、他方「ないグループ」では9,815件(同1.6件)でした。これらから頭部外傷歴の「あるグループ」は「ないグループ」に比べ、自殺を企図するリスクが21%高いことが示されました。

 ただし、実際に自殺を完遂させるリスクは上昇していないことも分かりました。つまり、頭部外傷の「あるグループ」では、致死的でない自殺を企てて未遂に終わるケースが多いということです。

 自殺未遂の危険因子としては、頭部外傷後12ヶ月以内、社会的貧困度の高さ、および精神疾患の既往が挙げられています。

************

 外傷を負ってから1年以内に自殺を企てるリスクが特に高いという結果ですが、その後長期間にわたりリスク上昇が持続することも示されています。頭部外傷を起こしたくて起こす人はいないわけですが、頭への強い衝撃は可能な限り避ける努力をすべきでしょう。

 こういう調査結果を踏まえた上で、自身や大切な人の職業選択やスポーツ、趣味を含めたライフスタイルを検討すべきだと思います。

参考:
はやりの病気第137回(2015年1月) 脳振盪の誤解~慢性外傷性脳症(CTE)の恐怖~
医療ニュース2021年4月27日 たった一度の頭部外傷で認知症リスクが上昇
医療ニュース2021年12月22日 サッカーは直ちにやめるべきかもしれない
医療ニュース2024年11月22日 アメリカンフットボール経験者の3分の1以上がCTEを自覚、そして自殺
毎日メディカル2025年3月31日 スポーツ界にとって「不都合な真実」? 日本では周知されない脳へのダメージ
日経メディカル2024年2月21日 コンタクトスポーツによる慢性外傷性脳症リスクの周知を!

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2026年1月25日 日曜日

2026年1月25日 SNSをまったくやらない10代は不幸

 10代のSNS利用にはゴルディロックス・ゾーンがあるようです。

 SNSの過剰使用が10代の若者に悪影響を及ぼすことは繰り返し指摘され、それを示した研究が複数あります。そういった見解に基づき、若者のSNSを禁止したり大きく制限したりする国や地域が増えています。現在では豪州が最も有名でしょうか。

 しかし、SNSの利用が少なすぎると幸福度に悪影響を与える可能性があることが2026年1月1月12日号の医学誌「JAMA Pediatrics」で報告されました。論文のタイトルは「青少年の発達におけるSNSの利用と幸福感(Social Media Use and Well-Being Across Adolescent Development)」で、興味深いことに、最近10代のSNS利用を禁止した豪州での研究です。

 研究の対象者は豪州の4年生から12年生の生徒100,991人(平均年齢13.5歳)で、放課後(平日午後3時から午後6時まで)のSNS利用時間が3年間にわたり調べられました。「全く利用しない」「中程度利用する(週0時間超~12.5時間未満)」「よく利用する(週12.5時間以上)」の3つのグループに分類され、幸福度との比較がおこなわれました。幸福度は「生活満足度」「感情抑制」など8つの指標が用いられ「高い」「低い」のどちらかに分類されました。

 結果、「中程度利用する」のグループに比べ、「よく利用する」グループは「不幸度」が高いことが分かりました(7~9年生の女子では不幸度3.13倍、男子は2.25倍)。他方、「全く利用しない」グループも「不幸度」が高くなっていました(10~12年生の女子では1.79倍、男子では3.00倍)

************

 私自身はSNSをやらないので子供たちの気持ちが分かるとは言えないのですが、もしも私が10代だったとしたらSNSのように世界中につながるツールがあればやはり興味が湧くと思います。言語の問題をクリアしなければなりませんが、現在では翻訳ツールが充実していますから、実質世界中からのメッセージを受け取ったり、発信したりできるわけです。こんなにも魅惑的なツールは他には思いつきません。

 もちろん身近な友達とも簡単に連絡がとれるわけですから極めて役に立つツールです。マイナス面が指摘されている理由はおそらくいじめやハラスメントにつながるからでしょう。ならば小学校低学年のときに「SNSの正しい使い方」を教育すればどうでしょう。

 もっとも、そんな安易な発想で解決するほど問題は簡単ではないのでしょう。ですが、この論文が示すようにちょっとくらいは利用する方が豊かな思春期を送れると私は思います。使いすぎれば学業に悪影響を及ぶすでしょうし、規制は必要かもしれませんが。その「規制」を強制ではなく、短期間なら没頭してもいいとして各自で自己規制の方法を考えるようにすればどうでしょう。SNSのゴルディロックス・ゾーンを個々で考えるのです。

 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2025年12月27日 土曜日

2025年12月28日 やはりベンゾジアゼピンは認知症のリスクを上げる

 ベンゾジアゼピンが認知症のリスクを上げるのか上げないのか。この問題については本サイトでも繰り返し取り上げています。2024年7月の医療ニュース「べンゾジアゼピンは脳を萎縮させる」では、認知症のリスクはともかく、ベンゾジアゼピンが脳を萎縮させるとした研究を紹介しました。

 この度、カナダから「ベンゾジアゼピンはやはり認知症のリスクを上げる」とした論文が医学誌「Journal of the Neurological Sciences」2025年12月15日号に「ベンゾジアゼピンと認知症の関連性:カナダの健康調査と医療行政データベースを用いた症例対照研究(Association between benzodiazepines and dementia: A case-control study from Canadian health surveys and medico-administrative databases)」というタイトルで掲載されました。

 研究の対象者はカナダのデータベース「Canadian Community Health Survey」から抽出されています。結果は以下のとおりです。

・50歳以上の認知症の患者1,082人と認知症を発症していない人4,262人を比較すると、ベンゾジアゼピンの使用が認知症に関連していることがわかった。ベンゾジアゼピンの使用で認知症の発症リスクは1.65倍(オッズ比1.65)となっていた。

・認知症のリスクは、作用時間が長い(半減期が長い)ベンゾジアゼピンでより高かった(作用時間が長いベンゾジアゼピンでのリスクは2.81倍、中程度のベンゾジアゼピンでのリスクは1.57倍)

・使用期間が短期であっても、長期であっても認知症のリスクは上昇していた

************

 過去のコラム「認知症のリスクになると言われる3種の薬」で紹介した研究のように、「ベンゾジアゼピンは必ずしも認知症のリスクを上げない」とするものもたしかにあります。ですが、おしなべて言えば「リスクだ」とする研究の方が優勢なような気がします。

 谷口医院の経験でいっても、高齢者のベンゾジアゼピンの使用は認知機能を低下させ、生活の質を落としているようにみえます。やめればとたんに眠れなくなりますから、患者さんは最初は抵抗を示すことが多いのですが、それでもまずはリスクを知ってもらい、ついで他の安全な睡眠薬に置き換えていく治療をする必要があります。

 谷口医院の過去19年の歴史からいえば、たいていはうまくいきます。

 

 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2025年12月14日 日曜日

2025年12月14日 胃薬PPIは高血圧のリスクにもなる

 他の医師からは絶賛され、極めて多くの人が内服していて、しかも効果を実感しているのだけれど、私が以前から危険性を主張しているのがいわゆる「PPI」(=プロトンポンプインヒビター)と呼ばれる胃薬です。本サイトではこれまでも、PPIが認知症、脳梗塞、骨粗しょう症、糖尿病、腸炎、新型コロナウイルスなどのリスクになるとする研究について紹介してきました。今回は、そのPPIが高血圧のリスクにもなるという論文を紹介します。

 論文は医学誌「BMJ Open」2025年11月27日号に掲載された「PPIと高血圧の関連性:VigiBaseを用いた記述的および不均衡性解析(Association between exposure to proton pump inhibitors and hypertension: a descriptive and disproportionality analysis of VigiBase)」です。

 結論は「ランソプラゾール以外のPPIは高血圧を発症するリスクがあり、服薬量が多ければ多いほどリスクが高い」となります。研究の方法はデータベースの解析です。論文著者らはWHOの薬物関連のデータベース「VigiBase」を用いてPPI使用と高血圧の関連性を調べました。具体的な数値は以下の通りです。

・PPIが原因となったと考えられる高血圧は26,587人

・オメプラゾール、エソメプラゾール、ラベプラゾール、pantoprazole(日本未発売)、dexlansoprazole(日本未発売)は高血圧のリスクとなっていた

・ランソプラゾールのみは高血圧との関連がなかった

・PPIの薬剤服用量が多いほど、また服薬期間が長いほど高血圧のリスクが上昇していた

・ただし、これらは統計学的有意性は認められなかった

************

 過去に繰り返し述べているように、他院から当院にうつってくる患者さんでPPIを内服している人にこういったリスクの説明をした上で他の胃薬に変更してもらうことがあります。ほとんどの場合、その変更した薬で胃症状のコントロールができています。一部には再びPPIに戻さざるを得ない事例もありますが少数です。

医療ニュース
2020年10月31日 胃薬PPIは糖尿病のリスクにもなる
2020年8月6日 胃薬PPIは新型コロナのリスクになる
2019年12月28日 やはり胃薬PPIは認知症のリスクを増やすのか
2017年1月25日 胃薬PPIは細菌性腸炎のリスクも上げる
2016年8月29日 胃薬PPIが血管の老化を早める可能性
2016年12月8日 胃薬PPI大量使用は脳梗塞のリスク
2018年4月6日 胃薬PPIは短期使用でも骨粗しょう症のリスクに
2017年4月28日 胃薬PPIは認知症患者の肺炎のリスク
2017年1月23日 胃薬PPIは精子の数を減らす
2017年11月15日 ピロリ菌除菌後の胃薬PPI使用で胃がんリスク上昇

はやりの病気
第151回(2016年3月) 認知症のリスクになると言われる3種の薬

 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

月別アーカイブ

Translate »