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2021年6月17日 木曜日
2021年6月17日 中年期の孤独と睡眠不足が認知症のリスク
エーザイが認知症の新しい薬を発売予定という話題が盛んですが、この薬は米国で承認されたとは言え、万人に効くわけではありません。また認知症は、遺伝的にあらかじめ決まっているリスクを測定することはできますが(下記参照)、遺伝子を変えることはできません。
よって、中年期(あるいはもっと若い時期)から予防をしていくしかありません。予防をするには遺伝以外の認知症のリスク対策をしなければなりませんが、リスクとして決定的なものが見つかっているとは言えません。ですが、今回発表された2つの論文は注目に値します。
1つ目は医学誌「Alzheimer’s & Dementia」2021年3月24日号に掲載された論文「Framingham Heart Studyにおける孤独とアルツハイマー型認知症のリスクとの関連(Associations of loneliness with risk of Alzheimer’s disease dementia in the Framingham Heart Study)」です。
この研究の対象は「Framingham Heart Study」という名の疫学研究に参加した45~64歳の2,880人です。持続的な孤独を感じている人は、孤独を感じていない人に比べて、認知症の発症リスクが91%も高いという結果がでました。さらにこの研究には興味深い点が2つあります。
1つは、一時的に孤独を感じていた人は、孤独を感じていなかった人に比べて、認知症の発症リスクが0.34倍に、つまり66%も減少するというのです。
もう一つは、「一人暮らしをしているからといって認知症のリスクが上昇するわけではない」ことです。これについては、この論文を紹介した米国の健康情報ニュースサイトのHealthDayが伝えています。一人暮らしがリスクにならないということは、「一人でいても必ずしも孤独でない。他人と過ごしていても孤独なことがある」ということを意味します。
2つ目の論文を紹介しましょう。科学誌「nature communication」2021年4月20日に掲載された論文「中高年の睡眠時間と認知症の発生率との関連(Association of sleep duration in middle and old age with incidence of dementia)」です。
研究の対象者はイギリスの公務員7,959人で追跡期間は25年間です。この間に521人が認知症を発症、発症時の平均年齢は77.1歳でした。1日に7時間の睡眠をとっていた人の発症リスクが最も低く、6時間以下で上がっていました。中年期から7時間睡眠を維持している人に比べると、6時間以下の人は認知症の発症リスクが30%上昇していました。
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2つの論文を合わせた結論は、「いったん孤独を感じてその後孤独から抜け出した人。ただしその間も睡眠時間はしっかり確保できた人」が最も認知症のリスクが低いということになります。「孤独を感じてその後抜け出す」というのは運がなければ難しそうですが、孤独を感じている人こそ睡眠はとった方がよさそうです。
ところで、1つ目の論文を紹介したHealthDayの記事は、「孤独な人は、医者、家族、友人などに自分の気持ちを話すように」と勧めています。たしかに、我々医療者が、患者さんから「誰にも言えないような話」を聞く機会がしばしばあります。彼(女)らは無意識的にそのような話を我々におこなうことで孤独感を癒しているのかもしれません。
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|2021年6月13日 日曜日
第214回(2021年6月) やってはいけないダイエットとお勧めの食事療法
「確実に痩せる方法」などというと、うさん臭い宣伝のようですが、単に(一時的に)痩せる方法ならいくつもあります。極端な例を挙げれば「断食」をすれば誰でも痩せますし、ここ数年間流行りの「極端な糖質制限」でも可能です。そして実際、劇的な結果が得られます。特に一部のフィットネスクラブで実施している「極めて厳しい糖質制限+筋トレ」は、効果が高く、当院の患者さんのなかにも2カ月で10kg以上の減量に成功した人が何人もいます。
では、そういったダイエットに”成功”した人たちが、その後も適正体重を保ち満足しているかというと、残念ながらそういう幸運な人は当院の患者さんのなかにはほぼいません。半年もたてば元の体重に戻っているのです。
興味深いことに、そういったダイエットを実施している最中の人は「意外に楽しいですよ。これなら続けられます」と言います。これは嘘ではないでしょう。ダイエット中の彼(女)らは、生き生きとし姿勢もよく声も大きく爽やかになり「成功者のイメージ」にピッタリです。
ところが、たいていは半年もたてば元の木阿弥になります。そのとき「半年前のあのときはあんなに楽しいって言ってたじゃないですか。もう一度チャレンジしてみればどうですか」と問うてみても、「いえ、もうあんな体験はしたくありません……」と、いう答えが返ってきます。
では、結局のところ、効果的にダイエットをおこなうにはどうすればいいのでしょうか。その話をする前に「やってはいけないダイエット」をまとめておきましょう。
「やってはいけないダイエット」。それは、「方法にかかわらず急激なダイエット」です。つまり、今述べたように短期間で劇的な効果の出るダイエットこそが最も手を出してはいけないのです。
では、なぜ短期間で劇的な効果がでるダイエットが危険なのでしょうか。それを説明するために興味深い論文を紹介しましょう。医学誌「Obesity」2016年5月2日号に掲載された「「The Biggest Loser」大会から6年後の持続的な代謝適応 (Persistent metabolic adaptation 6 years after “The Biggest Loser” competition)」です。
「The Biggest Loser」というのは米国のテレビ番組で、肥満に苦しむ人たちが出演し、誰が最も体重を落とすかを競い合います。私は見たことがありませんが、優勝すると家族がステージに駆け上がり抱き合い、視聴者は感動のあまりハンカチなしでは見られないそうです。優勝者は「人生に自信を取り戻した」と答え、視聴者に応援のお礼を言うのだとか。
ところが、です。論文によると、この番組に出演しダイエットに成功した14人を追跡すると、そのうち13人がリバウンドし、3人は元の体重よりも太っていたことが判ったのです。
では、なぜそのようなことが起こるのでしょうか。論文は興味深い事実を、数字を挙げて指摘します。「安静時基礎代謝率」という言葉があります。何もせずじっとしているときにどれくらいのエネルギー(カロリー)を消耗するかを示した数字です。この数字が高ければ高いほどやせやすいわけです。論文によると、この番組に出演しダイエットに成功した人たちは、6年間で安静時基礎代謝率がなんと500キロカロリーも下がっていたというのです。
500キロカロリーというとだいたいビックマック1個に相当します。ということは、この人たちはダイエットに成功してからは、ビッグマックを1個食べただけで2個食べたのと同じカロリーを摂取したことになるわけです。これでは努力を続けてもリバウンドが避けられないのは無理もありません。
もうひとつ、とても興味深い数値を示しましょう。
レプチンというホルモンがあります。このホルモンを一言でいえば「食欲抑制ホルモン」です。レプチンのレベルが高ければ高いほど食欲が抑制され、その結果やせるわけです。「やせるホルモン」と言ってもいいかもしれません。
論文では番組出場者の「出場前」「番組終了直後」「6年後」のレプチンの血中濃度を測定し全員の平均値を出しています。その数値(単位はng/mL)は、順に41.14、2.56、27.68となりました。解説しましょう。
まず、「出場前」の数値41.14は正常と考えられます。この時点ではまだダイエットを開始していません。そしてダイエットが開始されると、出演者は空腹と戦うことになります。理性は「食べない」でも身体は「食べたい」です。身体が「食べたい」ということはレプチンの濃度が下がっているはずであり、実際大きく下がっています(2.56ng/mL)。ダイエットを開始するとレプチン濃度がダイエット前のわずか6%(2.56/41.14)しか分泌されていないわけですから、ダイエット開始後、空腹感に耐える辛さは想像を絶するほどだったでしょう。
問題は6年後です。厳しいダイエットを終了した後、ほとんどの人がリバウンドしているのにもかかわらず、レプチン濃度はダイエット開始前の3分の2にしか回復していません(27.68/41.14)。ということは、彼(女)らは、1日に3食食べたのに、2食しか食べていないときと同じ空腹感を抱えているわけです。そして、空腹感に逆らえず食べてしまって体重がさらに増えるわけです。
こんなことになるのが分かっていれば、短期間の急激なダイエットなど初めからやらなかったと思う人もいるでしょう。というより、ほとんどの人がそう思うに違いありません。
では安全かつ効果的に体重を落とすにはどうすればいいでしょうか。短期間の急激なダイエットの反対、すなわち「長期間のゆっくりダイエット」を実施すればいいのです。
具体的にはどのような方法がいいのでしょうか。まずは以前も述べたことのおさらいをしておきましょう。2010年11月のメディカルエッセイ第94回「水ダイエットは最善のダイエット法になるか」で、「ダイエットをしようと思えば摂取カロリーを減らす以外に方法はない」と述べました。運動だけでは絶対にと言っていいほど体重は減らないのです。
なぜ運動だけでは痩せないかについてはそのコラムを参照してほしいのですが、それを証明した研究もあります。「スリムな体型をしているアフリカの未開民族ハドザ族が燃焼していたカロリーは、先進国の男女と同量だった」ことが米国デューク大学の人類学者Herman Pontzer氏らの研究でわかりました。つまり、「ハドザ族が痩せているのは消費カロリーが多いからではなく摂取カロリーが適正だから」言い換えれば「先進国に住むあなたが痩せないのは消費カロリーが少ないからではなく食べ過ぎだから」なのです。「The Telegraph」2021年2月21日の記事「痩せることができない本当の理由(The real reason why you can’t lose weight)」で紹介されています。
さて、前出のコラムでは「毎食前に水をコップ2杯飲めば摂取カロリーが1日あたり300キロカロリー減る」ことを示した研究を紹介しました。今回お伝えしたいのはこの方法を1歩進めたものです。ただし、現段階では私の個人的な考えにすぎません。何人かの患者さんに実践してもらい効果は出ているようですが、エビデンスというレベルのものはありません。
その方法は「食事前に牛乳か豆乳を飲む」というものです。私がこれを思いついた理由は「ダイエットをがんばっている人は総摂取キロカロリーを減らしている(または糖質制限をしている)が、蛋白質が足りていない」ことに気付いたからです。特に糖質制限をしている人は糖質を減らし脂肪を増やしてしまっていて、肝腎の蛋白質が摂れていないのです。効果的なダイエットをおこなうには充分な蛋白質を摂取しなければなりません。蛋白質が不足すると筋肉がやせほそり骨折や骨粗しょう症のリスクが上がります。
そこで食事前(1日1~2回)に牛乳または豆乳をとれば、水ダイエットが成功するのと同じ理屈で体重が減ります(牛乳・豆乳でカロリーを摂ることになりますが、それ以上に食事量が減りますし、糖質はさほど多くありません)。そして、痩せるだけでなく血中蛋白質濃度が上昇し、筋肉と骨がつくられ、体型が理想的になります。
ただし、それをしたところで、身の回りの太りやすい食べ物の誘惑を断ち切らねばなりません。菓子パン、ドーナツ、スイーツ、スナック菓子……、空腹でなくても食べたくなるこういったものを断ち切ることなしには体重が減らないことを忘れてはなりません。
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|2021年6月6日 日曜日
2021年6月6日 米国では女性看護師の自殺リスクが一般女性の2倍
医師の自殺リスクが高いということがしばしば指摘されます。きちんとした統計データは見たことがないのですが、我々医師の実感としてもこれは正しそうです。医学部の一学年あたりの学生数は80~100人程度しかいないのですが、卒後10年以内にどの大学のどの学年も1人くらいは自殺しているだろうと言われています。
他方、看護師ではそういう話を聞きません。むしろ、私の個人的な経験でいえば(その多くは太融寺町谷口医院の患者さんですが)看護師として長年勤務して引退されている人は身体も心も健康な人が多いという印象があります。
しかし、米国では女性看護師の自殺リスクが一般女性の2倍とする研究があります。
医学誌「JAMA Psychiatry」2021年4月14日号に掲載された論文「米国の看護師と医師の自殺リスク (Association of US Nurse and Physician Occupation With Risk of Suicide)」を紹介しましょう。
研究に用いられたデータベースでは2017年から2018年にかけて自殺した看護師は2,374人(うち1,912人が女性)、自殺した医師は857人(84.4%が男性)でした。同時期に自殺した一般人口は121,483人(男性が77.8%)でした。これらから、女性10万人あたりの自殺者は看護師で17.1人、一般集団で8.6人となります。よって女性看護師は看護師でない女性にくらべて自殺リスクが約2倍高いということになります。一方、医師は一般人口と比べて自殺リスクが高いとはいえません。
自殺の方法は「薬物」が多く、薬物を用いた自殺者は一般人口では16.8%なのに対し、医療者では24.9%もあります。使用される薬物は、医療者では、バルビツール酸(睡眠薬)、オピオイド(医療用麻薬)、ベンゾジアゼピンが多かったようです。
尚、この研究は新型コロナウイルス流行前のデータであることを押さえておいた方がいいでしょう。きちんとした統計があるかどうかわかりませんが、(女性)看護師が新型コロナのせいで自殺したというニュースを何度か読んだ記憶があります。コロナを加味すればさらに自殺リスクが高くなるかもしれません。
************
冒頭で述べたように、引退後もいきいきとしている女性に元看護師が多いという印象が私にはあるのですが(他には元小学校の先生も多い)、よく思い出してみると、谷口医院に通院している若い女性看護師は精神疾患を持ち合わせていることが少なくありません。さすがにバルビツールやオピオイドを常用している人は(ほぼ)いませんが、ベンゾジアゼピンに頼っている看護師はそれなりに多いといえます。
ベンゾジアゼピンはゆっくりと減らしていく治療をおこなっていくわけですが、上手くいかないこともあります。なかには、看護業務を続けられなくなり、看護師をやめて別の仕事にうつる人(なかには社会復帰できない人も)もいます。
ということは、「女性看護師は引退後もいきいき」は「元々引退後も健やかにすごせる人が看護師に向いている」ということであり、「元々メンタルが強くない人が看護師になると薬物に依存するようになり自殺のリスクも上がる」ということなのかもしれません。
たしかに看護師の世界は(おそらく医師の世界よりも)厳しい社会です。ですが、ものすごくやりがいがあって他者に貢献できる職業なのは事実です。谷口医院の患者さんのなかには(なぜか)「これから看護師を目指します」と話す30~40代の女性が少なくなく、またメールでそのような相談を受けることもしばしばあります。
どうかそういった人たちも、米国のこの研究で将来に不安を感じるのではなく、「なぜ看護師を目指そうと思ったのか」をいつも思い出して自身の夢に進んでもらいたいと思います。看護師が素晴らしい職業であることは私が保障します。
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|2021年6月3日 木曜日
2021年6月 コロナワクチンを当院で実施しない理由
2021年3月、翌月より高齢者に対する新型コロナウイルスのワクチン(以下、単に「コロナワクチン」)が始まることが決まり、保健所から太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)での接種依頼が来たとき、私は「実施します」と直ちに返答しました。
ですが、最終的には谷口医院では「実施しない」ことに決めました。高齢者に対してだけでなく、当院をかかりつけ医にしているすべての患者さんに対しても、です。そして、ワクチンを希望する人全員に集団接種会場で接種するよう助言しています。ただし、コロナワクチンについても、谷口医院には担うべき重要な任務が残っています。今回はこれらについてまとめてみます。
谷口医院がコロナワクチンを実施しないことを決めた理由は主に3つあるのですが、そのなかでも最大の理由は「コロナワクチンは集団接種会場でうった方がはるかに安全」だからです。
厚生労働省が5月26日に公表した資料によると、5月21までにファイザー社製のワクチンを接種した約611万人のうち、25歳から102歳の男女85人の死亡が確認されています。このうち5月16日までに報告があった55人について、厚労省は「その全員が情報不足等によりワクチンとの因果関係が評価できない」しています。
役人は後からの責任追及を避けるため断定した表現を嫌います。「因果関係が評価できない」の本音は「ワクチンが原因かもしれないけど、それを決定づける証拠がない」という意味で、要するにこれは「ワクチンが原因の可能性もありますよ」と言っているわけです。
611万人の接種で85人が死亡ですから、100万人あたりの死亡者数は13.9人となります。これを多いとみるか少ないとみるかについては他のワクチンが参考になります。たいていワクチンの説明をするときは「だいたい100万人に1人くらいに重篤な副作用が起こる」という表現が使われます。それに鑑みると、コロナワクチンのリスクは1桁以上高いことになります。
それほどのリスクのあるコロナワクチンですが、「うたないこと」もまたリスクになります。有効率95%であることがわかっているワクチンをあえて接種せず、コロナに感染して死亡すれば悔やみきれないでしょう。コロナについてはワクチンをうたないことがリスクであるとも言えるのです。つまり、うってもリスク、うたなくてもリスク、それが非常事態の現実なわけです。
さて、ワクチンを接種することを決めたとして、接種後のアクシデントは最小限にしなければなりません。そのアクシデントを「接種直後」と「しばらくたってから」に分けて考えてみましょう。
接種直後に起こり得るアクシデントはアナフィラキシーです。また、気分不良や嘔吐なども起こり得ます。もしも意識を失うような危険な状態になったときに最も必要なのは何でしょう。こんなときには「じっくりと話を聞いてくれる優しい看護師」も「最新の論文に熟知し学会発表を頻繁にしている優秀な医師」も役に立ちません。
そのようなときに頼りになるのは、最適な救命用具、薬、そしてそれらを使いこなせる知識と経験が豊富な医師と看護師。そして、最も大切なのが「十分なマンパワー」です。つまり、人数がそろっていることが最重要事項なのです。
要するに、ワクチン接種直後の安全性を確保しようと思えば、谷口医院のようなクリニックで接種するよりも集団接種会場の方がはるかに優れているわけです。
ただし、コロナワクチンには「接種直後」だけでなく「しばらくたってから」のリスクがあります。実際、接種数日後に「予期せぬこと」が起こり、他界しているケースが目立ちます。このリスクを適切に評価し、きちんとフォローしていくのがかかりつけ医の使命です。よって、谷口医院の患者さんには、「ワクチン接種後何かあった場合はすぐに(電話かメールで)連絡してきてください。場合によっては最優先で診察しますし、重症化している場合はこちらで救急車を手配して救急病院に交渉します」と伝えています。
谷口医院がコロナワクチンを集団会場で接種するよう勧めている理由は他にもあります。ワクチン接種をすることにより一般の診察に影響が及ぶことも大きな理由です。コロナ禍で電話再診を増やし、不要不急の受診を控えてもらっていることもあり、以前に比べると少し余裕をもって外来をおこなえていますが、それでも日によっては待ち時間が長くなってしまいます。この状況のなかで、何かと手間のかかるワクチンも手掛けるとなると、通常の外来に来られる患者さんに迷惑がかかることになります。またスタッフの疲労度もかなり増すのは間違いありません。
もうひとつ、谷口医院がコロナワクチンを実施しないことを決めた理由は「コロナワクチンを実施する診療所が思いのほか多い」ことです。医師会から聞いている情報では、かなりの内科系クリニックがワクチン接種をおこなうそうです。3月の時点で「当院はワクチンを実施します」と保健所に回答したのは、「他の診療所はやらないから行き場をなくす人が増えるだろう」と考えたからです。また、この時点では集団接種がおこなわれることがまだ決まっていませんでした。
ですが、現在では、集団接種のみならず、多くの一般の診療所/クリニックが実施することを表明しています。ならばかつてのPCR検査のように「他がやらないのなら谷口医院でやらねば……」と考える必要はもはやないわけです。
思い起こせば昨年(2020年)6月、コロナを疑った患者さんを診察して当院から保健所に交渉してもPCR検査を拒否されることが多く、それならば、と考え検査会社に交渉して谷口医院でPCR検査を開始しました。検査会社によると、谷口医院が大阪市で初めてPCRを実施したクリニックだったそうです。当時はPCRどころか、発熱患者の多くがかかりつけ医を含む複数の医療機関から受診を断られ、保健所からは検査を拒否され、行き場をなくしていました。
そのため、谷口医院の「発熱外来」の原則は「谷口医院をかかりつけ医にしている人のみ」を対象としたものでしたが、例外的に「どこに行っても断られる」という患者さんを診るようにしていました。そして、そういう患者さんが後を絶たなかったのです。
ところが、こういう患者さんは今年(2021年)の2月頃よりほぼいなくなりました。おそらく「発熱外来」をおこなう医療機関が増えてPCRを実施するようになったからでしょう。ところで、大阪府の「発熱外来」実施医療機関は大阪府のウェブサイトの「大阪府 診療・検査医療機関 公表一覧 [Excelファイル/33KB]」に掲載されています。このなかの「A方式」の医療機関はかかりつけ医でなくても診察可能なところです。谷口医院は「B方式」です。B方式は「かかりつけにしている患者さんのみ対応します」という意味です。
ということは、いつのまにか、谷口医院は「コロナにはさほど積極的でない医療機関」へと変わりつつあり、ようやくおよそ1年4か月ぶりに元の状態に戻って来た、ということになります。
ただし、現在の外来が元の世界と異なるのは「ポストコロナ症候群」と私が呼んでいるコロナ後遺症の患者さんが少なくないことです。これからは、さらに「ワクチン接種後の後遺症」の訴えを診察する機会が増えるかもしれません。
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