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2013年8月20日 火曜日
第127回 見当違いのマスコミとおとなしすぎる薬剤師 2013/08/20
以前にもお伝えした薬のインターネットでの販売に対して厚労省で新たな動きがありましたので、今回はこのことについてお話ししたいと思います。
これまでの経緯をまとめておくと次のようになります。
まず、2009年に厚生労働省は、薬局で販売されている薬の第1類とそれに準じた第2類をインターネットで販売することを禁止しました。すると、この禁止令は違法であるとしてネットのドラッグストアなどが訴訟を起こしました。2013年1月、最高裁で「厚労省の禁止令は違法」との判決がでてドラッグストアが勝訴しました。この判決以降、いくつかのドラッグストアはインターネット販売を再開しています。
そして、2013年6月5日、安倍晋三首相は内外情勢調査会で成長戦略第3弾を発表し、その中で「インターネットによる一般医薬品の販売を解禁します」と発言しました。これでインターネットによる薬の販売が一気に加速するかと思われましたが、厚生労働省は、首相の発表に横槍を入れるようなかたちで、一部のネット販売の再禁止を検討しています。具体的には、一部の薬を一般用医薬品(大衆薬)から医療用医薬品(処方薬)に戻そうとする案が出ています。
では、なぜ厚労省は、薬のインターネットでの販売に反対するのでしょうか。一番の理由は、副作用の出やすい薬が野放しにされることの危険性を懸念している、というものです。もしもインターネットで薬の流通が広がり、それで副作用が社会問題になれば「そのような危険な薬を処方薬でなく大衆薬に分類した厚労省の責任ではないか」という声が出てくるでしょうから、厚労省としてはこれを避けたいわけです。
もうひとつは、これはあまり報道されていないようですが、おそらく厚労省は薬の依存症を懸念しているのではないかと私は見ています。例えば、この議論になるといつも引き合いにだされる「ロキソニン」という解熱鎮痛薬があります。ロキソニンは今も医療機関で処方されていますが、2011年1月に「ロキソニンS」という名称の大衆薬が発売され薬局でも購入できるようになりました。
ロキソニンは多くの痛みにシャープに効きますから、服用している人は多いのですが、知らず知らずのうちに依存している人が少なくありません。この依存が進行すると「ロキソニン中毒」と呼ばれる状態に移行することもあり、特に頭痛に対してロキソニンを用いている人に危険があります。週に1日程度の服用であれば依存症にまで進展することはあまりありませんが、これが週に3回、4回、それも1日あたり3錠も内服している、となると依存症になっていく可能性があります。そうすると「薬物乱用頭痛」と呼ばれるたいへんやっかいな頭痛に移行することがあります。
薬物乱用頭痛とは、簡単に言えば、「鎮痛薬を使い続けるうちに痛みへの敏感さが増し常に痛みを感じるようになった頭痛」のことです。つまり、ロキソニンをあまりにもたくさん飲み続けたことによって、ちょっとした痛みにも耐えられない状態になってしまうのです。そして、薬物乱用頭痛の原因になるのはロキソニンだけではありません。日常の診療でもっともよく遭遇する薬物乱用頭痛の原因の鎮痛薬は、イブプロフェンを主とした鎮痛剤です。商品名でいえば「イブ」「ナロンエース」「リングルアイビー」などです。医療機関で処方されるものでいえば「ブルフェン」が相当します。
薬物乱用頭痛の治療は簡単ではなく、鎮痛剤から離脱するのにかなりの苦労を要します。アルコール依存症や覚醒剤中毒者、あるいはニコチン中毒者が薬物を断ち切るのはかなり大変なことですが、薬物乱用頭痛から鎮痛剤を減らしていくのは、それに準じるくらいの困難さがあるのです。
おそらく厚労省はこういった依存症へのリスクも踏まえて、薬のネット販売の全面解禁に反対しているのだと思います。現在同省は、28の薬品について大衆薬から処方薬へ移行させ、医療機関での処方のみとすることを検討しているようです(注1)。ロキソニンなどはいったん大衆薬として認めたけれども処方薬のみである元の状態に戻そう、というわけです。
私個人としても、28のそれぞれの薬品すべてが妥当かどうかまでは断言できませんが、ロキソニンのように依存性の強いものや重大な副作用を懸念しなければならないものについては、あまりにも気軽に買えてしまうのは問題だと考えています。(私個人としては28項目に含まれていないものにも気になるものがあります。例えば先に述べたイブプロフェンを主とした鎮痛剤はこれら28項目に含まれていません)
では、この問題をマスコミはどのように捉えているかというと、残念ながら見当違いのものが目立ちます。
例えば、日経新聞2013年8月16日に掲載された「「ロキソニン」また規制?」というタイトルの記事には、「ネットで買えれば、処方薬をもらうために通院する人が減り、開業医の稼ぎは減る」という記載があります。開業医の稼ぎが減る???、見当違いも甚だしいと言わざるを得ません。
先に述べたように我々医師が注意しているのは、ロキソニンでいえば「いかにして依存症への移行を防ぐか」ということであり、ロキソニンに限らず、我々医師の仕事は、薬の処方量を増やすことではなく減らすことにあります。
日経新聞の記者はいつも経済のこと、もっと言えば金を稼ぐことばかりを考えているからこのような発想になるのかもしれませんが、冷静になって考えれば、医師がロキソニンを処方したいと考えているわけではないことは数字を見直してもらえれば誰にでも分かることです。ここでそれを説明しておきたいと思います。
ロキソニンは、現在は後発品が普及しており薬価が随分安くなっています。太融寺町谷口医院で処方しているロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム)は1錠5.6円(3割負担で1.68円。ただし患者さんの側からみればこれに診察代や処方代がかかります。それでも薬局で買うよりは随分安くなりますが)です。仕入れ価格はこれよりわずかに安い程度で、1錠あたりの医療機関の利益は0.2~0.3円程度です。日経新聞の記者は、0.2~0.3円の利益を確保するために我々医師がネット販売に反対していると言うのでしょうか・・・。
経済発展のために自由化を原則とすべきなのは理解できます。しかし、どのようなものも野放図に解禁するのは問題です。ネットでロキソニンを買おうとすると、画面にいくつか質問事項が現れてそれをクリアしないと買えないように一応はなっています。しかし、このようなものは買おうと思えば実際にはなんとでもなります。
薬は可能なものは医療機関以外でも入手できるようにすべきで、かつ危険性を充分に認知してもらう必要があるわけです。ではどうすればいいのか。私の意見は「薬局及び薬剤師の活用」です。ロキソニンが必要な人は薬局に行き、症状について相談し、薬剤師が妥当だと判断すれば販売できるようにすればいいのです。薬局まで行く時間がないとか、身体が不自由で度々薬局まで足を運べないという人もいるでしょう。そのような人たちにとってインターネットは大変便利なツールです。ならば、そのかかりつけ薬局のホームページから買えるようにすればいいのです。ホームページがない薬局ならメールを利用すれば済む話です。
安倍首相の成長戦略第3弾を実現させ、なおかつ、薬の危険性から国民を守る最善策、それは「薬局及び薬剤師の活用」に他なりません。しかし、これは医師である私が主張すべきことではありません。インターネットでの薬の全面解禁というのは、薬剤師にとっては自分たちの尊厳に関わる問題のはずです。主役であるのにもかかわらず蚊帳の外に置かれて薬剤師はなぜ黙っているのでしょう。
私は「薬剤師の逆襲」を期待しています・・・。
注1:これら28の薬品の詳細は下記URLに記されています。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000014659.pdf
参考:
マンスリーレポート2013年4月号「薬局との賢い付き合い方(前編)」
マンスリーレポート2013年5月号「薬局との賢い付き合い方(後編)」
はやりの病気第第96回(2011年8月)「放っておいてはいけない頭痛」
メディカルエッセイ第97回(2011年2月)「鎮痛剤を上手に使う方法」
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|2013年8月12日 月曜日
2007年1月7日(日) インフルエンザ発症者がチラホラ
12月28日の毎日新聞によりますと、札幌市地域衛生課は27日、市内の医療機関を受診した1歳女児と10代男性の計2人から、北海道では今冬初のA香港型インフルエンザウイルスを検出したと発表しました。全国では岐阜県に次いで2番目で、今年は全国的に発生が少ない冬になっています。
私の所属するプライマリケア医のメーリングリストでも、東京と奈良でのインフルエンザの発生が各1名ずつ報告されています。
昨シーズンの第1号は11月30日でしたから、今年の流行は例年に比べて遅いようです。
しかしながら、インフルエンザが今年も流行するのはほぼ間違いないでしょうから、うがい・手洗いが重要であることには変わりありません。
例年であれば、今からワクチン接種というのは遅すぎますが、今年はまだ間に合いそうです。おそらく今月の終わりにはある程度の流行を迎えているでしょうから、まだワクチンを接種していないという人は、遅くとも今月中旬までに接種するようにしましょう。
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|2013年8月12日 月曜日
2013年8月 この夏の暑さと塩と味の素
今年(2013年)の夏はとにかく暑い・・・。多くの人がそのように感じているでしょう。過去にこれほど暑い夏はなかったのではないか、と思わずにはいられません。私はクーラーの効いたクリニックでの勤務ですし、通勤もTシャツにジーンズという格好ですから、暑いといってもましですが、現場の仕事をしている人や、スーツを着て外に出られている人にとってはたまらない暑さだと思います。紺色のシャツなどを着れば汗が析出され塩の結晶が確認できるのではないでしょうか。
今年は、太融寺町谷口医院を受診する夏バテの患者さんは、総数で言えば例年と変わりないと思うのですが、なぜか「塩分はどうしてとればいいのか」という質問をよく受けます。
マスコミからの取材もきます。春先には、ある雑誌の「熱中症対策講座Q&A」という記事の監修を頼まれましたし、先月はあるテレビ番組が熱中症を取り上げるとのことで取材を受けました(この番組は早朝に放送されたのにもかかわらず多くの患者さんから「テレビに出ていましたね」と言われました。テレビの影響は大変大きいことを改めて実感させられました)。マスコミからの取材依頼は断ることが多いのですが、その理由は特定の製品(商品)や特定の治療法を肩入れするものになりがちだからです。しかし今回は熱中症や塩分摂取についてのことであり、そういった心配がないと判断し受けることにしました。
患者さんからもマスコミからもよく聞かれるのが「塩をどれくらい摂ればいいのか」というものなのですが、この問いには大変返答しにくく、いつもどのように答えるべきか悩まされます。答えを聞きたい側としては、たとえば「1日に何グラム」という言い方がわかりやすいと思うのですが、ことはそれほど単純ではありません。
まず、塩がどれくらい必要かというのは、その人によってまったく異なってきます。クーラーの効いた部屋で仕事をしている人と、炎天下で朝から晩まで肉体作業に従事している人ではまったく異なりますし、例えば高血圧や糖尿病などがあれば個々の対応が必要になってきます。
ですから、「塩をどれくらい摂ればいいのか」という質問に対する最適な答えは、「どのような人がどのような環境にいるかによりますから各自かかりつけ医に相談してください」という身も蓋も無いものになってしまうのです。
特に高血圧や糖尿病など生活習慣病がある人、あるいは腎臓に何らかの異常がある人は、マスコミなどが報じる一般論をそのまま当てはめない方がいいでしょう。当院の患者さんにも「熱中症対策として塩を摂らなければならない」と思い込んで、1日に何度も塩を舐めているという人がいました。この人は薬を飲むほどではありませんが、日頃から血圧が高く、私は塩分制限の指導をしていた(つもり)なのですが、この患者さんは「夏は例外」と思い込んでいたのです。案の定、そのときの診察での血圧は上昇しており、直ちに塩分制限を徹底するように説明しました。
しかし、この患者さんのように血圧が高い人も含めて、長時間大量の汗をかくような環境にいるときは塩分摂取を考慮しなければなりません。例えば、フルマラソンを走ったり、登山をしたりするようなときにはどのような人も注意が必要になります。
ではこの見極めはどのようにすればいいのでしょうか。高血圧や腎疾患がないような人も含めて日本人は日頃から塩分を取りすぎています。厚労省のデータ(2008年)によると、日本人の1日あたりの平均塩分摂取量は、男性で11.9グラム、女性で10.1グラムです。目標は男性9グラム、女性で7.5グラムとされていますが、これでも世界的にはかなり多く、国際水準では6グラムが一般的ですし、これを下げようとする動きもあります。日本人でも高血圧や慢性腎臓病があれば6グラム以下にしなければなりません。
普段は塩分をできるだけ減らさなければならない、しかし熱中症を予防するために必要なときには摂らなければならない、と言われて「分かりました」と答えられる人はそれほど多くないでしょう。
ではどうすればいいのか。一般論として述べるのはむつかしいのですが、私の場合は、「着ているTシャツを絞って滴り落ちるくらいの汗をかいたときには積極的に塩分を摂取する」ことを心がけています。それから「(塩分を含まない)水分をとっても身体がだるい」ときは塩分が不足している可能性があります。また、(これはあまりあてにならないかもしれませんが)「塩気のあるものが食べたくなったときに塩分を摂る」というのもひとつの方法です。私がよくするのが「今、スイカを食べるとしたら塩をふった方が美味いだろうか、そのままの方が美味いだろうかを考える」、という方法です。
この「スイカに塩」というのはとてもすぐれた夏バテ防止フードになります。私は小学生の頃は、ほぼ毎回スイカを食べるときに塩をふっていましたが、大人になるにつれて塩を使う頻度が減りました。塩をかけても美味しくならないから使わなくなったわけですが、これは小学生の頃は外で遊んで汗を大量にかいていたために自然に身体が塩分を欲していたからでしょう。ちなみに、今の私はふだんはスイカはそのまま食べますが、運動後だけは塩を振って食べています。これはトマトでも同じです。
熱中症予防の塩分の摂り方については、理論上は「OS-1」やスポーツドリンクがいいとされていますが、このようなものだけでは飽きてきますから、クラッカーやミックスナッツ、またスープや味噌汁を摂るのもおすすめです(注1)。
大量に汗をかくようなとき以外は、日本人の大半は塩分制限を考える必要があります。しかし、これは日本食では大変困難です。味噌汁1杯で約2グラムもの塩が含まれていますし、醤油や味噌にもたっぷりの塩分が含まれています。これで1日6グラム以下にもっていくのは至難の業です。では洋食はどうかというと、ピザやハンバーガーは塩分制限を考えたときには最悪の料理です(おまけにカロリー過多になります)。では中華料理はどうかと言えば、チャーハン1人前で3.2グラム、五目そば1杯で8.0グラム(いずれも厚労省のサイトより)ですから絶望的です。
では、どのようにして塩分を制限しながら美味しくご飯を食べればいいのか・・・。これについてはそのうちに改めてまとめてみたいと思っているのですが、ここではひとつだけ提案したいと思います。それは「味の素」を積極的に使ってみよう、というものです。
私が大学生になったばかりの頃、お金がありませんでしたから時間があれば自炊をしていました。しかし何をつくっても美味しくありません。味気がないから塩や醤油を足してみるのですが、辛くなるだけで美味しくなりません。そこであるとき味の素を使ってみたのですが、これが驚く程美味しくなったのです。しかも塩や醤油の使用量がぐっと減りました。それ以来、私は和風もしくは中華風の煮物や炒め物をつくるときは必ずといっていいほど味の素を、しかも(おそらく普通の人が使うよりも)大量に入れています。
「味の素」というのは商品名ですから、例えばNHKが「味の素」を取り上げるときは別の表現があるのでしょうが、世界的に、とまでは言えなくとも、少なくともアジア的には「アジノモト」という名前が浸透しています。
私が以前、NPO法人GINA(ジーナ)の関連でタイの東北地方のある辺鄙な村を訪れたときのことです。その村は何度もバスを乗り継いで行かなければならず、外国人はめったに来ないエリアで、私が初めてその村にやってきた日本人だと言われました。その村には電気も充分に来ておらず、焚き火で料理をするようなところなのですが、あるとき若い女性がソムタム(青いパパイヤをベースにしたタイ風サラダ)をつくっているときに大量の白い結晶をふりかけているのが気になりました。ちょうどタイ語を勉強し始めていた頃だったので、その結晶が入ったビニール袋を借りて印刷されたタイ語を読んでみると、なんと「アジノモト」と書いてあるではないですか。タイ語でも味の素は「アジノモト」なのです。そして、ソムタムを作っていたそのタイ女性に話を聞くと、「あたしが幼少時の頃からアジノモトはいろんな料理に使うのよ」と話してくれました。しかしその女性はアジノモトが日本のものとは知りませんでした(注2)。
味の素は料理を美味しくするだけでなく、塩分制限をするのに大変有用な調味料だと思います(注3)。味の素の成分は「グルタミン酸ナトリウム」ですから、やはり大量に摂取するとナトリウム過多になり、結局塩分過多の状態と同じになってしまうのは事実です。しかし、食べ物を美味しくするために必要な「塩」と「味の素」では、体内に吸収されるナトリウム量が大きく異なります。
塩分制限に味の素を・・・、という声がなぜ上がってこないのか。味の素株式会社はそれを主張するのに遠慮しているのだろうか・・・、これは長い間、私が疑問に思っていることです。
************
注1:詳しくは下記「水分摂取と塩分摂取について」を参照ください。
http://www.stellamate-clinic.org/nettyu/#a03
注2:このような経験をしているのは私だけではありません。例えばノンフィクション作家の高野秀行氏は著書『西南シルクロードは密林に消える』(講談社文庫)のなかで、ナガ(Naga)族(インド北東部からミャンマー国境上に沿うナガランド一帯に暮らす民族)の日常の料理にアジノモトが使われていることを紹介しています。
注3:私は今回のコラムの最初の方で「特定の治療法に肩入れするようなマスコミの取材を受けない」と述べているにもかかわらず「味の素」を高く評価しているわけで、これは矛盾していることになります。しかし、日本のみならず少なくともアジア全域で日々使われている味の素が食事を美味しくするだけでなく塩分制限に貢献しているのはやはり事実ではないかと思います。例えてみると、自動車のメーカーが世界にトヨタ社一社しかなければトヨタ車をすすめるしかない、というようなものです。このように考えると、味の素株式会社のライバル会社はなぜ存在しないのでしょうか。尚、念のために付記しておくと私と味の素株式会社の間には何の利害関係もありません。
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|2013年8月11日 日曜日
2007年1月8日(月) ホワイトカラー・エグゼンプションに過労死の遺族が反対表明
ホワイトカラー・エグゼンプションという言葉がマスコミをにぎわせるようになりました。ホワイトカラー・エグゼンプションとは、ホワイトカラー労働者に対する労働時間規制を適用免除(exempt)することで、これが施行されると、事実上、雇用者は従業員に対して労働時間の制限なく働かせることが可能となります。
ホワイトカラーは、その働き方に裁量性が高く、労働時間の長さと成果が必ずしも比例しない部分があるため、労働時間に対して賃金を支払うのではなく、成果に対して賃金を支払う仕組みが必要、というのがこの制度の趣旨です。
たしかに、効率をあげずにダラダラと仕事をして残業時間を稼ぐ従業員に高額を支給するのはおかしいという考え方は筋が通っています。雇用者の立場からすれば、ダラダラと残業をおこなう従業員よりも、むしろ効率よく仕事をおこないテキパキと仕事をこなす従業員に高額を支払いたいと考えるでしょう。
したがって、この制度を推進する者のなかには、この制度により労働時間が全体として減少すると考えている者もいます。しかしながら、成果主義を取り入れすぎることにより、一部の者は不当に長時間労働を強いられてそれが過労死につながるのではないかとみる向きもあります。
12月28日の共同通信によりますと、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入を求める労働政策審議会分科会の報告書に対し、過労死の遺族らからは27日、「若い人の過労死も増える」との批判が相次いだそうです。
過労死の遺族のひとりは次のようにコメントしています。
「過労死は当時、中高年の問題だったが、最近は20代にも広がっている。(ホワイトカラー・エグゼンプションの導入により)過労死や自殺の増加を加速させるのではないか」
労働政策審議会の報告書には、「自由度が高い」や「104日の休日取得」などの文言が並んでいます。これに対し、父親を過労死で亡くした遺族のひとりは、「働く人に優しい言葉にみえるが、父のことを思うと本当にそういう働き方があるのか疑問」と話しています。
***************
医師の立場からこの制度をみたときに懸念するのは、残業や休日出勤をすべて「自由」とすることにより、自殺も含めた過労死が起こったときに、その原因を「仕事」や「会社」と特定することができにくくなるのではないかということです。
過労死や自殺までいかなくても、過酷な労働のせいで、様々な身体症状や精神症状が出現している人は少なくありません。もしもあなたに思い当たることがあるなら、ひとりで悩まずに、気軽に医療機関に相談するようにしましょう。
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|2013年8月11日 日曜日
2007年1月10日(水) 鳥インフルエンザの診断キット、開発に成功
大阪府立公衆衛生研究所が、世界で初めて鳥インフルエンザの検査キットの開発に成功しました。鳥インフルエンザを検出するには、特殊な遺伝子診断をおこなう必要があり、これまでは特別な機関でのみ実施され、結果が出るまでに2日ほどかかっていました。
今回、同研究所によって開発された迅速診断キットは、わずか10分で結果が得られるようです。まだ一般の病院やクリニックで使用される目途はたっていませんが、近いうちに市販される可能性もあり期待がもたれています。
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|2013年8月11日 日曜日
2007年1月11日(木) ノロウイルスによる感染性胃腸炎がピークに
国立感染症研究所が12月28日にまとめた全国約3000の小児科の定点調査結果によりますと、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎の患者報告数は、12月11日からの1週間で6万8950人に上り、1施設当たり22.8人と、1981年の調査開始以来過去最多だった前週(22.2人)をさらに上回っています。ただ、同研究所は、感染性胃腸炎の流行は「ピークを迎えつつある」とみています。
私自身も、今シーズンは感染性胃腸炎が例年に比べて多いなという印象があります。
よく患者さんに聞かれるのは、「この胃腸炎はノロウイルスによるものですか」というものです。患者さんによっては、「ノロウイルスの検査をしてほしい」、との希望をもたれていますが、現在のところ、ノロウイルスの検査は保険適用がなく、自費診療でおこなうと1万円以上もするため、私は原則として検査をすすめていません。
ノロウイルスの感染性胃腸炎は、たしかに死亡例も出ており危険な印象がありますが、健常人であれば、それほど重症化することはなく、大半は外来の点滴か、入院が必要となったとしても2~3日で元気になります。
また、ウイルス感染ですから、抗生物質は効果がありません。点滴のなかに入れるのは、せいぜい胃薬か吐き気止め程度で、点滴の主目的は水分補給です。
医学の教科書には「ノロウイルスはカキによるものが多い」と書かれていますが、実際はカキで感染した人よりも、感染している人の近くにいる人が感染していくケースの方が圧倒的に多いといえます。
ノロウイルスに限らず、感染性胃腸炎や風邪にもっとも効果があるのは、”うがい”と”手洗い”であることを再認識することが大切です。
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|2013年8月11日 日曜日
2007年1月12日(金) みずぼうそうを難病と勘違いして自殺
みずぼうそうと言えば、誰もが知っている子供の感染症ですが、子供のときにかかっていなければ、大人になってから発症することがあります。よく言われるように、大人になってからみずぼうそうに罹患すると、ときに重症化することがあり入院を強いられることもあります。
しかしながら、みずぼうそうは決して”難病”ではありません。そのみずぼうそうを難病だと勘違いして自殺を図った男性(タイ人)がいます。
1月11日のバンコク週報(日本語でタイの情報を伝えるメディア)によりますと、タイのサケオ県で26歳の男性が森林でわらに火をつけ炎の中で拳銃自殺をしました。
この男性は工場で働くために医師に診断書作成を依頼したところ、診察の結果、軽度のみずぼうそうに感染していることが判ったそうです。
ところが、この男性は医学の知識が乏しいせいもあってなのか、みずぼうそうを”難病”と勘違いし遺書を残し自殺を図りました。
遺書には次のような記載があったそうです。
「お母さん、ごめんなさい。僕は火の中で死にます。いつまでも愛しています」
************
みずぼうそうは”難病”でもなんでもなく、成人になってから感染したとしても、薬を数日間飲めば治ります。ワクチンもありますから、最近は罹患すること自体も減ってきています。
この事件は自殺した患者さんに非があるわけではなく、きちんと説明をしなかった医師に責任があると言えるでしょう。日本で同じようなことが起こるとは考えにくいでしょうが、医師が患者さんに正しい知識を伝える義務を再認識させられる事件だと言えます。
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|2013年8月11日 日曜日
2007年1月13日(土) 広島でインフルエンザ流行開始
1月12日の毎日新聞によりますと、広島県では年末の1週間(12月25日から31日)に県内115箇所の医療機関から報告されたインフルエンザの患者数が130人となり、県の保健対策室は「インフルエンザの流行シーズンに入った」と発表しました。
同対策室によりますと、県の流行開始から1~3週間後には「インフルエンザ注意報」が発令され、5~6週間後には「インフルエンザ警報」が発令されることが例年の傾向から推測されるそうです。
関西ではまだ本格的な流行の兆しが見えていませんが、流行開始は秒読みの段階に来ていると考えるべきでしょう。
ワクチンは来週までなら間に合うかもしれませんが、おそらく再来週になると遅すぎると思われます。まだ接種していない人はお急ぎを・・・
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|2013年8月11日 日曜日
2007年1月17日(水) 次々にインフルエンザで学級閉鎖 -東大阪も-
インフルエンザでの学級閉鎖が相次いでいます。1月16日の毎日新聞によりますと、東大阪市の中学1年生、三重県内の小中学校合計3校、山口県の幼稚園、熊本県の小学校などが次々と学級閉鎖や学年閉鎖をしたと発表しています。
例年より約1ヶ月遅くインフルエンザのシーズンが到来したという感じです。ワクチン接種は流行が始まった近くに住んでいる人はすでに遅すぎるかもしれません。まだ流行が始まっていない地域の人も来週では間に合わないでしょう。(インフルエンザの予防接種は効果が出るのに2週間程度かかります)
これからは、うがい・手洗いをしっかりおこないましょう。
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|2013年8月11日 日曜日
2007年1月18日(木) アメリカ、がんによる死者が2年連続で減少
1月18日の共同通信によりますと、アメリカのがんによる死者数が、2004年には前年より約3000人少なく、2年連続で減少したことが全米がん協会の最新の統計で17日に分かりました。がんによる死者が増加し続けている日本とは対照的です。
2003年は前年より369人、2004年は2003年より3014人減少しており、アメリカでは1990年代から多くのがんで死亡率が低下しています。
部位別でみると、死者数の多い肺、乳房、前立腺、大腸のいずれのがんでも減っていて、特に大腸がんでの減少が顕著です。女性の肺がんだけが例外的に増えています。
全米がん協会によりますと、がん死者の減少は、大人の喫煙率が1965年の42%から2005年の21%に半減するなど、禁煙の効果が大きいとしています。また、全がんの平均の5年生存率は1975年から77年の50%から、1996年から2002年の66%に上がっており、治療成績の向上も原因のひとつにあげられています。
********
この記事には述べられていませんが、おそらく早期発見される機会が増えたことも要因のひとつではないかと私は考えています。すべてではありませんが、かなりのがんが早期発見されることにより完治が望めます。健康診断や人間ドックの果たす役割が大きいと言えるでしょう。
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