ブログ

2018年1月20日 土曜日

第180回(2018年1月) 私の英語勉強法(2018年版)

 2011年に書いたコラム「私の英語勉強法」で、効果的であると私が考えている英語の勉強法を紹介したところ、たくさんの方から「参考になった」「もっと教えてほしい」といった連絡をいただきました。そのコラムで書いたように、私自身も20代前半の頃から英語の勉強は今も継続しているのですが、最近になってその方法が随分と変わってきました。そして改めて2011年当時のコラムを読み直してみると、改訂版をつくらなければ、という思いになり、今回2018年版を書くことにしました。

 まずは2011年版で紹介した勉強法をまとめてみます。

(1) 英会話学校は役に立たない
(2) CD,ラジオではなくテレビ、インターネットが有効
(3) NHKのテレビプログラムは最強の英語勉強ツール
(4) NHK(正確にはNHK world)のウェブサイトでニュースを聴く
(5) ネイティブの講師をみつけてプライベートレッスンを受ける

 この5つのなかで、今も継続して私が実践していて、そして他人に勧めているのは(4)だけです。(2)は部分的には変わっていませんが根本が異なります。そして、(1)(3)(5)は完全に撤回しなければなりません。

 2011年の時点では、私はNHKを絶賛しており、複数の英語教育番組を録画して観るべきだ、と述べました。なにしろ90年代前半から20年間にわたり私が実践してきた方法です。当時のコラムには「私はNHKの英語教育プログラムを一生見ることになる」とまで書いています。ここまで書いて撤回するのは恥ずかしいのですが、真実を隠すわけにはいきません。

 とはいえ、何もNHKの英語教育番組が劣化したわけではありません。プログラムの内容自体は素晴らしいものです。では、なぜ私がNHKから”卒業”したのか。それは現在ではもっといい方法があるからです。その方法は後で述べるとして、NHKの英語教育プログラムで1点だけ補足しておきます。「ニュースで英会話」という優れた番組があります。この番組を見たことがないという人には是非テレビも勧めたいのですが、インターネットを用いればこの番組をもっと効率よく利用することができます。番組のウェブサイトにアクセスし、会員登録をするとニュースの画像、音声、スプリクトの全てを得ることができます。しかも「音声」はゆっくりと読み上げる機能まであります。この機能が使えるとなるとテレビを見るよりも効果的な勉強ができます。

「ニュースで英会話」を私はデスクトップのパソコンを利用して勉強していますが、これはスマホでも可能です。そしてスマホこそが先に述べた私の勉強法が大きく変わってきた最大の理由に他なりません。スマホ依存症はいまや重大な疾患ですが、「スマホで英語勉強依存症」はむしろ目指してもいいかもしれません。

 元々私は電話自体が好きでありませんし、スマホが登場したときも必要とは思いませんでした。(一方でiPADは比較的早くに買いました) ところが「iPhone 6 Plus」が発売されたときに、私の考えが大きく変わりました。「これは使える!」と直感したのです。以前の私は、あの小さな携帯電話(ガラケーと呼ばれているもの)で、文字をうっている人の気持ちが分かりませんでした。そんなに細かいことしなくても家か職場でパソコンでやればいいんじゃないの?と思っていたからです。スマホが登場したときも、こんなに小さい画面で入力なんて肩がこるだけ、と思っていたのです。しかし「Plus」のサイズがでたときにはその考えが変わりました。

 スマホが英語の勉強に適しているのは「ニュースで英会話」が見られるからだけではありません。インターネットにつながるわけですからCNNでもBBCでもNHK worldでもなんでも見られます。ですが、スクリプトのでない放送をみても勉強になるとは限りません。私のおすすめは「voice of America learning English」(以下VOA)です。これについては、2011年のコラムでも紹介しましたが、英語の学習者用にゆっくりと読み上げてくれて、なおかつ一字一句正確なスクリプトが表示されます。

 ここで「英語はネイティブのスピーキングの速さについていかなければ意味がない」という意見に答えておきます。これはたしかに一理あり、意味が分からなくてもBBCやCNNのキャスターの英語を聞くような勉強もすべきです。ですが、VOAのようにゆっくりと話してくれれば「シャドーイング」ができます。シャドーイングはここ数年英語の勉強の話題になるとよく出てくるキーワードで、英語を聞き取りながらわずかに遅れて同じ英文を話すことです。2011年時点では私はシャドーイングの有効性をそれほど重視していなかったのですが、現在は極めて有効な練習法と考えています。英語はいくら読み書きができて、ある程度リスニングができたとしてもスピーキングはうまくなりません。うまくなるにはこのシャドーイングが極めて有効なのです。

 さらに、話す・聴くで有効な勉強法を紹介しましょう。2011年に私は英会話学校を否定し、自分でプライベートレッスンを受けられる講師を探すことを提案しましたが、これより遥かに有効な方法があります。それは、フィリピンの英語教師からマンツーマンのレッスンを受けるという方法です。2011年の時点で私は知りませんでしたが、ちょうどその頃からフィリピンに短期間渡航し、マンツーマンの英会話学校に入る人、さらにスマホを用いて日本にいながらプライベートレッスンを受ける人が続出しました。そして、これが信じられないくらいに安いのです。

 私も4日間の超短期間ですが、実際にフィリピンに渡航し体験してみました。学校や講師によっては勉強にならないという意見もあるようですが、そんなことはまったくなく私にはとても勉強になりました。そもそも彼(女)らの英語のレベルは少なくとも日常会話でいえばほとんどの日本人より上です。講師によっては、例えば医学で用いる単語を知らない、ということはありましたし、仮定法過去の使用がおかしい講師もいましたが、そんな講師でも発音は私とは比較にならないほど上手ですし、あまり話さない講師なら、こちらから一方的にがんがん話をして、間違っている発音を訂正してもらうという勉強もできます。私のように4日程度なら、”元”をとれないかもしれませんが、1週間以上の時間がとれるならLCCなどを利用すればかかった費用の何倍もの価値があるはずです。

 もちろん日本にいながらスマホを用いて講師の顔をみながらレッスンを受けてもかまいません。ただ、私自身はスマホのスクリーン越しに他人と話すのに慣れておらず抵抗があるので、これはおこなわずに、先述したVOAとNHK worldをメインとした勉強にしています。VOAでは、ニュース以外に「Let’s learn English」、「English in a Minute」、「News Words」、「Everyday Grammar」など、英語勉強用の1~数分のすぐれたプログラムが多数用意されています。

 スマホといえばアプリですが、私は過去数年間で30以上の様々な英語学習用アプリを試してみました。そのなかでひとつ推薦するとすれば「English Central」です。このアプリでもマンツーマンレッスンも申し込めますが、それをしなくても多数のビデオを字幕付きで見ることができます。ビデオの時間は1~数分で、内容が多岐にわたり、初心者から上級者向けまで様々なものが用意されていて無料です。これを毎日続ければ少なくともリスニングとスピーキングに関しては飛躍的に伸びると思います。

 また、読み書きなら誰でもすぐに始められる簡単な勉強法があります。まずスマホの設定を「英語」にします。これでほとんどのアプリが英語版になります。そしてLINEやFacebookやtwitter、メールを可能な限り英語で送信するのです。私はSNSは登録のみで自分から何かを発することはありませんが、たとえばtwitterではトランプ大統領のツイートがほぼ毎日入ります。(返信はしたことがありませんが、すれば読んでもらえるのでしょうか…)

 ここで私の英語勉強法2018年版をまとめておきます。

(1) スマホは最強の英語勉強ツール(もちろんPCでもOK)。アプリも充実している。
(2) NHKの英語教育番組は依然高品質だがテレビを観なければならないのが難点。
(3) NHKの「ニュースで英会話」はテレビよりスマホが効果的。スマホならゆっくり読み上げてくれる機能がある。
(4)  「Voice of America learning English」のゆっくり読み上げてくれる機能はリスニング及びシャドーイングに最適。
(5)英会話学校はマンツーマンレッスンをフィリピンで受けるのがいい。費用は驚くほど安くLCCを利用して渡航すれば1週間でも元がとれる。
 
 最後に、拙書『偏差値40からの医学部再受験』でも述べた英語学習の”特徴”を繰り返しておきます。それは、英語というのはしばらくの間はやってもやってもまったく伸びず、ある日突然理解できるようになり、また停滞して、再びできるようになり…、という感じで階段状に上達していくということです。現在行き詰っていたとしても決して諦めないでください。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2018年1月20日 土曜日

第173回(2018年1月) 急増するPFAS(花粉食物アレルギー症候群)

 果物や野菜のアレルギーが増えている、という話を過去のコラム(はやりの病気第144回(2015年8月)「増加する野菜・果物アレルギー」)で述べました。そのときは、増加しているといっても、そうそう頻繁に診ることはなかったのですが、その後の約2年半でどんどん増えてきています。そして、そのコラムでも述べたように「花粉症との合併」が目立ちます。

 これまで(私の感覚では5年ほど前まで)、野菜・果物アレルギーと言えば、ラテックスアレルギーと合併する「ラテックスフルーツ症候群」がちらほらとあった程度で、そんなに多いという印象はありませんでした。しかし、3~4年ほど前から、主にリンゴ、モモなどのバラ科の植物にアレルギーのある患者さんが増え、私の経験上北海道や東北地方の出身者に多かったために、シラカンバ(シラカバ、白樺)アレルギーがあるからではないかと考えていました。シラカンバの花粉とバラ科の植物の表面の蛋白質の構造が似ているために、シラカンバの花粉症があれば一部の果物を食べたときに口腔内に違和感が生じるのです。そして、シラカンバは北国にしか育ちませんから、西日本にはさほど多くないだろうと考えていたのです。

 ところが、ここ2~3年を振り返ってみると出身地域に関係なくバラ科のアレルギーの患者さんが増えています。また、バラ科だけではありません。メロン、トマト、スイカ、タマネギなどを食べると違和感が出ると訴える人が増えています。さらに、これまでほとんどの患者さんは症状がでても軽症で治療を要するほどではなかったのですが、最近は重症化するケース、例えば息苦しくなり喘息の発作止めを使わざるを得ないようなケースが増えてきています。特に豆乳とスパイス(香辛料)でそのような症例が目立ちます。

 今回は野菜・果物アレルギーと花粉症の関係を整理して、どのような対策をとるべきかについて考えてみたいと思います。

 まずは言葉です。数年前よりPFAS(ピーファスと読みます)と呼ばれる疾患名が注目されるようになってきました。PFASの正式名はPollen-food allergy syndrome、直訳すると「花粉食物アレルギー症候群」となります。概念としては、同じアレルギーのメカニズムで花粉症と食物アレルギーの双方が生じる疾患、となります。その理由は先にシラカンバの例で述べたように、花粉と食物の表面のタンパク質の「かたち」が似ているから同じアレルギー反応が起こるのです。

 どの花粉症があればどの食物アレルギーが起こるのでしょうか。いくつか例を挙げましょう。

・スギ → トマト

・ヒノキ → トマト

・ハンノキ →  バラ科の果物(★)
         ウリ科の果物・野菜(☆)
         ダイズ(主に豆乳)
         その他果物(キウイ、オレンジ、マンゴー)                    
         その他野菜(ニンジン、セロリ、トマト、ゴボウ、アボカド)
         イモ類(ヤマイモ、ジャガイモ)
         ナッツ類(ヘーゼルナッツ)

・シラカンバ → バラ科の果物(★)
         ナッツ類(ヘーゼルナッツ、クルミ、アーモンド、ピーナッツ)
         ウリ科の果物・野菜(☆)
         その他野菜(ニンジン、セロリ)
         イモ類(ジャガイモ)
         その他果物(キウイ、オレンジ、ライチ、ココナッツ)
         ダイズ(主に豆乳)
         香辛料(マスタード、パプリカ、コリアンダー、トウガラシ) 

・カモガヤ・オオアワガエリ → ウリ科の果物・野菜(☆)
                その他果物(オレンジ、キウイ)
                野菜(トマト、セロリ、タマネギ)
                イモ類(ジャガイモ)
                穀類(コメ、コムギ)

・ブタクサ → ウリ科の果物・野菜(☆)
        バナナ

・ヨモギ →  野菜(ニンジン、セロリ、レタス、トマト、キウイ)
        ナッツ類(ピーナッツ、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ)
        その他(クリ、ヒマワリの種)
        イモ類(ジャガイモ)
        香辛料(マスタード、コリアンダー、クミン、コショウ)

★:リンゴ、モモ・スモモ、ナシ・洋ナシ、ビワ、サクランボ、イチゴ、アンズ
☆:メロン、スイカ、キュウリ、ズッキーニ

 太融寺町谷口医院の患者さんでいえば、この中で最も重症化するのは「豆乳」です。なかには豆乳を飲んで2~3分後に呼吸が苦しくなり、救急車を呼ばねばならなかったという例もあります。そして、全例でハンノキに血液検査で強い反応を示していました。興味深いことに、患者さんは自分自身がハンノキアレルギーという意識がありません。ハンノキというのは北海道から沖縄まで日本全国どこにでも山中に生えている木です。知らない間に山の中で花粉を吸いこみアレルギーが成立していたのでしょう。

 豆乳以外に重症化するのはヨモギアレルギーがある人のスパイス(香辛料)です。東南アジアに住まない限りはコリアンダー(パクチー)を毎日食べる人はそういないでしょうが、マスタードやコショウは日本に住んでいても日常的に口にする機会がありますから、完全に避けるのは思いのほか大変です。この場合は、ヨモギアレルギーの自覚がなかったとしても「秋の花粉症があるかも」とほとんどの人が言います。

 アレルギーがやっかいなのは、現在はなくてもそのうちに出てくることがある、ということです。ですから、花粉症もしくは食物アレルギーがある人は、どういった花粉と食物が関連しているかということをあらかじめ知っておくべきでしょう。そして、いつなんどき食物アレルギーが発症するかもわかりませんから、いつも薬を持ち歩くべきかもしれません。ただし、薬に頼りすぎるのはよくありません。豆乳やスパイスアレルギーがあれば完全に避けなければなりませんし、野菜・果物アレルギーの大半は軽症ですが重症化する例もありますからあなどらない方がいいと思います。

 単なる花粉症であれば、くしゃみ・鼻水・鼻づまりなどの鼻症状と目のかゆみなどの眼症状で苦しむことになりますが、命が脅かされる事態になることはほとんどありません。花粉症で皮膚症状が生じれば生活が制限されるほどの苦痛を伴うことがありますし、喘息症状も辛いものですが「花粉症で重体」というのは極めて稀です。ですが、食物アレルギーの場合は重症化して入院を余儀なくされることはまあまああります。つまり、PFASは「死に至る病」になりうるということです。

 PFASがやっかいな点がもうひとつあります。過去のコラムで紹介した最も難渋するアレルギー疾患といえる好酸球性食道炎がPFASと合併しやすいという報告があるのです(注1)。好酸球性食道炎はいったん発症するとその後の人生が大きく変わりかねない重症性疾患であり、実際厚労省の指定難病に入っています。報告によれば好酸球性食道炎を合併しやすいPFASとして、リンゴ、ニンジン、モモが指摘されています。

 PFASは最近注目されだした疾患です。おそらくこれからいろんなことが分かり、花粉と食物の複雑な関係が少しずつ明らかになっていくでしょう。上に述べた関連以外にも食物アレルギーがあれば花粉症を、花粉症があれば食物アレルギーの可能性を検討していくべきだと私は考えています。

************

注1:医学誌『Diseases of The Esophagus』2017年10月26日号(オンライン版)に掲載された論文「Pollen-food allergy syndrome is a common allergic comorbidity in adults with eosinophilic esophagitis」に報告があります。下記URLで概要を読むことができます。

https://academic.oup.com/dote/advance-article-abstract/doi/10.1093/dote/dox122/4566194?redirectedFrom=fulltext

参考:https://www.thermofisher.com/allergy/jp/ja/allergy-symptoms/special-allergies.html

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2018年1月11日 木曜日

2018年1月12日 高学歴はアルツハイマーのリスクを下げるが喫煙も?

 アルツハイマーのリスクを上げる要因、下げる要因については世界中で様々な研究がおこなわれています。今回紹介したいのはスウェーデンでおこなわれた大規模調査で、医学誌『British Medical Journal』2017年12月7日号(オンライン版)に掲載されたものです(注1)。

 調査は、ヨーロッパのアルツハイマー病の患者17,008例と対照37,154例を比較検討することによっておこなわれています。

 結果は、大学を卒業していればアルツハイマー病の発症を26%低減させるというものです。学歴以外の興味深い結果としては、喫煙(1日10本)で31%のリスク低下(!)、コーヒー(1日1杯)は26%のリスク上昇(!)です。

 アルコール摂取、葉酸、ビタミンB12、血糖値、血圧、脂質などには関連性は認められなかったようです。

************

 論文の著者は「高学歴がアルツハイマーのリスクを下げる」ということを最も強調したいようですが、それよりも喫煙がリスクを下げて、コーヒーが逆に上げるということの方が気になります。従来から言われていることと逆になるからです。

 学歴にしてもヨーロッパと日本では事情が異なるでしょうし、大学にも様々なところがありますし、さらに私個人の見解を述べれば、大学卒業後もどれだけ勤勉な態度を維持しているかの方が重要だと思います。

 今回の結果を鵜呑みにするのではなく(特にタバコ!)、従来から言われているように生活習慣病に気を付けて、規則正しい生活をおこなうべきだと私は思います。この論文を読んで喫煙を開始することなどあってはなりません。

注1:この論文のタイトルは「Modifiable pathways in Alzheimer’s disease: Mendelian randomisation analysis」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/359/bmj.j5375

参考:
メディカルエッセイ第179回(2017年12月)「これから普及する次世代検査」
はやりの病気第131回(2014年7月)「認知症について最近わかってきたこと」
医療ニュース
2017年10月10日「認知症になりにくい性格とは?」
2017年4月7日「血圧低下は認知症のリスク」
2017年10月25日「認知症の治療にイチョウの葉は有効か無効か」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2018年1月11日 木曜日

2018年1月11日 バイアグラ過剰摂取で全裸の男が空港で逮捕

 バイアグラが効きにくくなってきたとの理由から自己判断で過剰摂取する人がときどきいますが、それをすると世界中に恥をさらすことになるかもしれません。

 2018年1月4日、タイのプーケットから韓国のインチョン行きのフライトに搭乗予定の韓国系アメリカ人の男性が、プーケット空港で全裸になり、なんと自分の糞便を周囲に投げつけ、危険回避のために逮捕されました。世界中のメディアが写真やビデオ付きで報じています。(なぜか日本のメディアは取り上げていないようですが)

 この男性は平静を取り戻した後、自分の罪を認め、損害賠償にも応じると話しているそうです。当然のことながら、韓国行きのフライトには搭乗できず地元の警察に連行されました。

************

 突然空港で見知らぬ男性が全裸になり糞便を投げつけてくれば恐怖を覚えますから、この男性が罪に問われるのは無理もありません。ですが、実名を晒され、画像が世界中に拡散されるのは問題ではないでしょうか。もはやこの男性が「社会復帰」するのは困難でしょう。(私自身は、名前や画像が広がることを疑問視していますので、ここではこのニュースの出所は書かないでおきます。検索すれば簡単に見つかりますが…)

 それにしても怖いのはバイアグラです。これからの取り調べで別の薬物が出てくる可能性もあるでしょうし、理論的にバイアグラが原因でこのような行動をとったとは考えにくいのですが、バイアグラを過剰摂取したのは事実のようです。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2018年1月9日 火曜日

2018年1月 かつての情熱を失くした私が今考えていること

 1月1日に必ず私がすること。それはミッションステイトメントの見直しです。過去のコラムで述べたように、私の人生で最も大きな転機はミッションステイトメントを初めて作ったときに訪れました。それは1997年の3月で、私が医学部の1回生の終わりごろ、28歳の時でした。その後、毎年1月1日を「ミッションステイトメント全面的見直しの日」としています。

 それから20年が過ぎ、2018年1月1日は21回目の見直しをすることになりました。たいていは早朝に時間をとっておこないます。今年は東南アジアのある地域で早朝のジョギングに出かけ、そのときに自己を見つめなおしミッションステイトメントの見直しにとりかかりました。

 ミッションステイトメントを見直すにはちょっとした勇気がいります。不安感や抑うつ感も伴うからです。自分の内側に深く入り込んでいくと、自分はいかなるときも「善」で行動しているか、ということを問わねばなりません。以前も少し触れたように、私は稲盛和夫さんの「動機善なりや、私心なかりしか」という言葉を座右の銘にしています。何か新しいことをするときはもちろん、いかなるときもこの言葉を忘れないよう努めるのです。

 幸いにも、医師という仕事は利益を考えなくていい(考えるべきでない、考えてはいけない)職業ですから、医療行為をおこなう上で動機を「善」に保つことはそうむつかしくありません。(そういう意味で、京セラやKDDIを純粋に社会のためだけに設立し、さらにJALを再建された稲盛さんは本当に偉大な方だと思います) ですが、自分をよくみせようと振舞ったことは一度もなかったのか、他人のためと言っておきながら自分に有利になるように行動したことはないと言い切れるのか、私心は常にまったくなかったと言えるのか…、このようなことを考えるとときに胸が苦しくなることがあります。

 湧き出てくる不安感や抑うつ感にも向き合い自分を見つめなおし、心の深部に触れようとすると、これまでの人生で感じた「情熱」が蘇ります。ミッションステイトメントを見直すときに思い出す「情熱」で最も強いものは、2002年にタイで感じた「差別と闘っていかなければ!」という思いです。当時のタイでは、HIV告知は「死」を意味していました。抗HIV薬がまだ使われておらず、正確な知識が市民に伝わっておらず、そのためHIV陽性者は行き場をなくし、地域社会からも家族からも、そして病院からも追い出され途方に暮れていたのです。

 病気が原因で差別されることなどあってはならない! そう強く感じた私は、たとえどのような障壁があろうとも、周りに味方がいなくても立ち向かっていくことを誓いました。そして、当時タイのエイズ施設で出会った欧米の総合診療医達の影響を受け、患者さんを幅広い視点から診察し、心理的、社会的にもサポートしていく総合診療医を目指すことを決意したのです。

 当時のタイのHIV陽性者はエイズ施設以外に行ける医療機関がありませんでしたから、そこではどのような症状があろうがすべて総合診療医が診なければなりません。私には何でも診ることのできる彼(女)らがとても魅力的にうつりました。当時の日本では臓器ごとに担当する医師(専門医)が決まっていて、「総合診療医」という概念すらまだ確立されていなかったからです。彼(女)らによれば、欧米では総合診療が当たり前であり、患者さんは何かあれば大きな病院には行かず総合診療医であるかかりつけ医をまず受診すると言います。そして入院や手術が必要なときのみ紹介状を持参して専門医を受診するのです。

 今考えるとタイミングが私に合っていたのでしょう。ちょうどその頃、日本でも総合診療医を育成せねばならないという声が増え始め、大学病院で試みが始まっていたのです。帰国後、私は母校の大阪市立大学の総合診療部の門を叩き、大学で総合診療医を目指すことになります。そして、大学に籍を置きながら、別の病院や診療所で各科のトレーニングを受けるという生活が始まりました。

 しかし、大学病院を中心に診療している限り「何かあればすぐに相談してください」と患者さんに言えません。そこで自分でクリニックをオープンすることにしました。自分のクリニックがあれば、いつでも相談してもらえますし、患者さんから信頼を得られるようになると社会的、心理的なサポートもできるようになるはずです。また、日本でもこれから増えていくであろうHIV陽性者の力になれるだろうとも考えました。HIV陽性者も含めて、どんな背景をもつ人に対しても、そしてどのような症状であってもサポートができる医師を目指したのです。このようなクリニックは私の知る限りひとつもありません。ならば「自分が先駆者になってみせる!」と情熱に駆られました。

 そして10年以上の月日が流れ時代は変わりました。それにつれて私の情熱の”かたち”も変わっていきました。

 まずタイでのHIV事情が大きく変わりました。抗HIV薬が実質無料で供給されるようになりHIVはもはや死に至る病でなくなりました。謂れなき差別は残存していますが、かつてのように食堂に入ると皿を投げつけられ追い返される、ということはなくなりました。今はどこの病院でもHIV陽性者だからという理由で追い返されることはありません。(一方、日本ではまだそういった医療機関が少なくありませんが…)

 タイでHIVに関する活動をしていた世界中のNPOは規模を小さくし撤退するところもでてきました。かつて私が感じた心の底から湧き出てくる怒りは完全になくなったわけではありませんが、あの頃の情熱を維持しているとは言えません。もちろん今も苦しんでいるHIV陽性者の人は少なくありませんから、これからもタイでの支援は続けています。ですが、かつて感じた「差別と闘っていかなければ!」という強い情熱が自覚できなくなっているのも事実です。

 日本での診療はどうかというと、この10年で総合診療は随分とメジャーなものになってきました。かつての私と同様、臓器の専門医を目指すのではなく患者さんのあらゆる健康上の悩みに応えられる医師になりたい、と考える若い医師が増えたのです。実際、全国の総合診療医(及び総合診療医を目指す若者)が集まる「日本プライマリ・ケア連合学会」の学術大会はいつも若い医師達でいっぱいです。昨年(2017年)高松で開催されたときは、ホテルがとれず岡山に泊まらねばならなかったほどです。

 総合診療が盛り上がるにつれ、当時の私が考えた「自分が先駆者になってみせる!」という情熱の”かたち”も変わってきました。少しずつ「教育」のことを考えるべきだと思うようになってきたのです。総合診療に興味を持つ若い医師が増えたのは事実ですが、大半の若い医師たちは、医療の対象を高齢者中心の地域医療と考えています。もちろん高齢社会のなかで彼(女)らの考えは重要であり活躍できる場はたくさんあります。ですが、私が実践しているような都心部で若い世代を中心とする総合診療に興味を持っている若い医師は少数なのです。実際、「(太融寺町谷口医院のようなクリニックは)他にないから」という理由で他府県から定期的に受診している患者さんも少なくありません。

 タイのHIV陽性者が被っている惨状を目の当たりにし「差別と闘うんだ!」と感じたときの”情熱”、欧米のような総合診療医がいないなら「自分が総合診療医となってクリニックを立ち上げるんだ!」と考えたときの”情熱”は、今私のなかでどんどん小さくなってきています。

 しかし、タイでも日本でもそれ以外の国でも助けを求めている人は依然少なくなく、そのような人たちの力になっていかなければ、という気持ちは変わっていません。また、これからは患者さんへの貢献だけではなく、若い医療者を支援していかなければ、という思いが次第に強くなってきています。

 かつてのような激しく情動的な”情熱”は消え去りましたが、「貢献」という原理原則は変わっていないことを確認し、地道な努力を続けていくことを自分に誓いました。私の2018年はその誓いでスタートしました。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2017年12月21日 木曜日

第172回(2017年12月) 「リーキーガット症候群」は存在するか?

 コムギアレルギーやセリアック病ではないのに、コムギやグルテンを摂らなくなって身体の調子がよくなったという人が増えており、これを便宜上「コムギ/グルテン過敏症」と呼べばどうか、ということを過去のコラムで述べました。

 今回は、その類似疾患というわけではないのですが、「コムギをやめて便の調子がよくなった」という人の多くが興味を持っている「リーキーガット症候群」について述べたいと思います。(尚、リーキーガット症候群は、コムギ除去をしていない人たちの間でも関心が高くなっています)

「コムギ/グルテン過敏症」という疾患があることをすべての医師が認めているわけではありませんが、上述のコラムで紹介したように、一流の医学誌に掲載された論文に報告があります。一方、「リーキーガット症候群」という病名は、民間療法を支持する人たちの間では昔から語られていますが、きちんとした論文は(私の知る限り)ありません。たしかにリーキーガット(leaky gut)という言葉は教科書的にもあるのですが、身体の様々な症状をこのリーキーガットで説明しようとするあまりにも短絡的な「民間療法的発想」に多くの医師が反発するのです。

 ですが、正直に言うと、私自身は「リーキーガット症候群」という概念を普及させてもいいのではないか、と個人的に思っています。その理由を述べる前に、まずはリーキーガットの説明から始めましょう。

 ガット(gut)は腸、リーキー(leaky)は漏れやすいという意味で、直訳すれば「漏れやすい腸」となります。胃を経て腸に降りてきた食べ物や飲み物のすべてが腸に吸収されるわけではありません。有害なものの侵入はできるだけ回避しなければならないわけですから腸には「バリア機能」があります。このバリア機能というのは非常に複雑なメカニズムで成り立っていて、そのひとつが「タイトジャンクション」と呼ばれるものです。「タイト」は「固い」、「ジャンクション」は「接合」。つまり粘膜の上皮細胞どうしがきっちりと接合され隙間がなくなり、何も通さなくなっている構造を指します。もちろん必要な水分や栄養素は取り込む必要がありますから、人間にとって必要なものだけをうまく取り込むシステムが備わっているのです。

 しかし何らかの原因でタイトジャンクションが壊れるとどうなるでしょう。細胞と細胞の隙間から人間にとって不要なものが侵入してしまいます。そして、不要なもののせいで身体が様々な不調を起こす。これがリーキーガット症候群の”病態”です。

 先述したように、多くの医師はこの”疾患”に抵抗を示します。複雑な身体のメカニズムがそんなに簡単であるはずがない、と感じるからです。ですが、少なくとも過敏性腸症候群や炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)については、リーキーガットと関連があるとする意見が有力ですし、最近は肥満やアレルギー疾患、さらに精神疾患との関連性を指摘する声も広がりつつあります。

 また鎮痛薬や風邪薬に含まれるNSAIDsと呼ばれる薬剤は小腸粘膜を障害し、結果としてリーキーガットを引き起こすという報告があり、実際これらの薬剤は下痢を起こすことがしばしばあります。リーキーガットのせいで不要な物質が体内に取り込まれるなら、その逆にリーキーガットのせいで、必要な水分が身体の中から腸管に漏れてしまうことだって起こり得ます。つまりNSAIDsの乱用で、リーキーガット症候群が起こる可能性が出てくるのです。

 リーキーガット症候群という疾患名の是非は別にして、我々がタイトジャンクションを維持しなければならないということに異論を唱える医療者はいません。そして、NSAIDsの乱用はやめなければならない、ということにもすべての医療者が同意します。NSAIDsは胃の粘膜にも障害を与えますし、短期間の使用でも腎機能を悪化させることがありますし、長期使用で心血管系疾患のリスクになることも分かっているからです。それに、とてもやっかいな「依存症」という問題があります。

 では「NSAIDs多用をやめる」以外にリーキーガットを防ぐには何をすればいいのでしょうか。民間療法を支持する人たちは健康食品を推薦し、コムギ/グルテンの除去を勧め、整体やヨガの有効性を訴えます。そして、こういったエビデンス(科学的確証)に乏しい説が医師の反発を招きます。

 ところが腸内フローラ(腸内細菌叢)の話題が医学界でも増えてくるにつれ、適切なフローラを維持することによりタイトジャンクションを維持、つまりリーキーガットを防げるのではないかと考える医療者が増えてきました。特に、プロバイオティクスは最近注目を集めています。また、数年前より糞便移植が盛んに議論されるようになってきました。健康な人の便をとりこめばリーキーガットが治るという考えです。

 一方、その逆にフローラを増やすのではなく、強力な抗菌薬を使い、徹底的に”悪い菌”をやっつけることによってリーキーガットを治そうとする試みもあります。先進国に住む人と未開社会の人では腸内フローラが大きく異なることが知られています。そして、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患は未開社会には存在しない疾患です。ならば先進国に住んでいる人の腸内にいる細菌が悪いに違いない、という理屈が出てきます。そこで、強力な抗菌薬が用いられるのです。実際、過敏性腸症候群にも炎症性腸疾患にも次々と新しい抗菌薬が試されています。クロストリジウム・ディフィシルという極めて難治性の感染症に対して、海外では糞便移植がおこなわれることが増えてきましたが、日本では、強力な抗菌薬を用いるのが依然として主流です。

 プロバイオティクスや糞便移植で「いい菌を増やす」治療と、その逆に徹底的に「悪い菌を殺す」両極端な治療があるというわけです。これらのどちらがいいかを考える上で参考になる疾患があります。

 それは、SIBO(小腸細菌異常増殖、small intestinal bacterial overgrowth)と呼ばれるものです(通常「シーボ」と呼びます)。これは文字どおりの疾患で、小腸に細菌が異常なほど増殖します。症状は過敏性腸症候群に似ていて、両者はかなりの確率で合併していると言われています。この疾患の治療として細菌が異常増殖しているのだから抗菌薬を用いればいいと考えたくなりますが、これがそう単純な話ではなくうまくいかないのです。難吸収性抗菌薬と呼ばれる特殊な抗菌薬を用いる試みも一部にはありますが有効性が高いとは言えません。そして、抗菌薬の開発が望まれているその一方で、まったく逆の発想、つまり「いい菌を増やす」という考えがあるというわけです。

 SIBOに対してどちらの治療が効くかではなく、どちらが安全かを考えてみると、これは勝負になりません。抗菌薬にはイヤというほど副作用がありますし「耐性」というやっかいな問題もあるからです。つまり安全性では比較にならないほど「いい菌を増やす」方に分があります。ですから、まずおこなうべきことは「悪い菌を殺す」ではなく「良い菌を増やす」で、そのなかでも最も簡単にできるプロバイオティクスの積極的摂取がまずは勧められます。もちろんそれだけで治らないケースも多々ありますし、多少効果が出たとしても継続して摂り続けなければなりません。プロバイオティクスは腸内に住み着いてくれるわけではないからです。

 保守的な医療界のなかで、すでにさんざん”手垢”がついてしまっている「リーキーガット症候群」という疾患名が医療者間で普及する可能性は低いと思います。また、多くの医療者は、しきりに自社製のプロバイオティクス/プレバイオティクス(食物繊維やオリゴ糖などプロバイオティクスが腸内で増えるのに必要とされる物質のこと)を宣伝する民間医療支持者を好ましく思いません。ですが、私自身は、原則として抗菌薬が中心の治療よりもまずはプロバイオティクス/プレバイオティクスを摂取すべきだと考えています。ただし、特定の商品を勧めることはしませんし、私の立場はあくまでも通常の食事からプロバイオティクス/プレバイオティクスを摂りましょう、とするものです。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2017年12月21日 木曜日

第179回(2017年12月) これから普及する次世代検査

 人間ドックなどで実施されることがある「腫瘍マーカー」。がんの早期発見には(ごく一部のものを除けば)まったく無意味であること、しかし、いくつかの「がん検診」は有益であり、厚労省が推薦している大腸、胃、肺、子宮頸部、乳腺については検査を受けるべきであることを過去のコラム(メディカルエッセイ第158回(2016年3月)「「がん検診」の是非」)で述べました。

 そのコラムを書いてからまだ2年もたっていませんが、正確にがんの早期発見ができるかもしれない検査方法がいくつか開発され実用化に近づいています。また、がん以外の領域でも新しい画期的な検査、それは医学の教科書を大きく書き換えるかもしれない検査が開発されてきています。今回はそれらの検査を「次世代検査」と名付け、今後普及するかどうかを検討したいと思います。

 まずはがんから始めましょう。最初に紹介したいのは、何度かメディアでも報道された「線虫の嗅覚」を用いたがんの早期発見検査です。私自身もこれを初めて聞いたときには驚きました。「線虫」とは寄生虫の仲間で、糸のような体をくねくねと動かす生物です。

 九州大学を中心とした研究グループは、線虫はがん患者の尿に引き寄せられることをつきとめ、がん早期発見のツールとして開発を進めています。わずか尿1滴で検査ができますから痛みも被爆もありません。気になるのは精度と費用ですが、論文(注1)によれば、精度については感度(検査で陽性となる人数/がん患者数)がなんと95.8%。これは驚くべき数字です。ステージ0(ゼロ)でも発見できると報じられています。一方、特異度(検査で陰性となる人数/がんでない人数)は95.0%ですからこちらも高い精度と言えます。費用は数百円といいますから、実用化すれば一気に普及することになるでしょう。現時点ではこの検査はまだ市場に登場していません。

 次に紹介したいのは「マイクロRNA」です。これは血液や唾液、尿などに含まれる小さなRNAのことで、がんに伴い血液中でその種類や量が変動することが分かってきています。国立がん研究センターもこの研究を担っており、同センターのウェブサイトにプロジェクトが掲載されています。同センターのプロジェクトでは1回の採血で13種のがんが診断できるとされています。

 そして、一部のがんについてはすでに一部の検査会社が実施しています。「マイクロアレイ血液検査」と呼ばれる検査は、胃がん、大腸がん、膵臓がん、胆道がんの4つのがんの超早期発見ができます。精度については、感度98.5%、特異度92.9%、と感度では線虫検査を上回ります。ただ、特異度が線虫検査よりも低く1,000人のがんでない人の検査をすると「がんでない」という正確な結果がでるのは929人。つまり71人はがんでないのに「がんの疑い」と言われてしまいます。しかし、特異度92.9%というのは極めて良好な数字です。(腫瘍マーカーは感度・特異度とも著しく低いと言われていますが、それを分析して数字を出した論文は私の知る限り見当たりません。おそらく健診で腫瘍マーカーを調べる国や地域がそう多くないからだと思われます。そういう意味で日本は”特殊な”国なのかもしれません)

 これら4つのがんのうち、胃がんと大腸がんは内視鏡(胃カメラ、大腸カメラ)でも早期発見が可能です。また、胃がんについてはヘリコバクター・ピロリの有無や抗体を調べることでリスク評価ができます。ペプシノーゲンという血液検査で調べる検査もある程度リスク評価ができます。内視鏡などの普及により胃がんと大腸がんは早期発見が可能となっているのです。

 ですが、膵臓がんと胆道がんは早期発見が極めて困難ながんです。98.5%という感度は俄かには信じられないほどで、今後普及するのは間違いないと私はみています。特異度が100%でありませんから、がんでないのにがんの疑いと言われる人がでてきますが、その場合も他の検査、エコーやMRI、MRCPなどを定期的におこなうことで安心することができます。

 この検査の欠点は費用が高くつくことです。今後普及していけば値段は下がってくるでしょうが、現時点では最低でも10万円程度かかります。

 マイクロRNAを測定することで早期発見できるようになってきたがんに「乳がん」があります。乳がんは早期発見できるがんとされていますが、実際には、毎年乳がん検診を受けていたのに発見されたときには手遅れだった、というケースもあります。マイクロRNAの解析をおこなうことで従来の乳がん検診よりも早期発見できる可能性が高くなったのです。乳がんは頻度が多いがんであること、若年者に多いがんであることから、今後普及していくものと思われます。

 遺伝子の話になると最近よく取り上げられるのは「テロメア」です。テロメアとは遺伝子の断片に存在する部分で、生まれつき長さに個人差があり、年をとるにつれてだんだんと短くなっていきます。そして、ギリギリまで短かくなるともはや細胞増殖ができなくなり、細胞の寿命が尽きます。ということはテロメアの長さを測定することによりどの程度長生きできるかが推測できるわけです。そして、このテロメアの長さの測定計測に成功したのが広島大学発のスタートアップ企業「株式会社ミルテル」です。この検査も今後普及していくことが予想されます。

 次に紹介したいのはアルツハイマー型認知症です。アルツハイマーのリスク低減には、地中海食、運動、禁煙(ただし喫煙がリスクを下げるという報告もあります)、社会性、勤勉性、外国語習得などいろいろと言われますが、どれも決定的なものではありません。現在分かっていることで最も確実なのが「ApoE遺伝子」という遺伝子検査です。ヒトが持つApoE遺伝子のタイプはε(イプシロンと読みます)2、ε3、ε4の3つで、2つ一組で存在します。つまり、すべての人は、①ε2・ε2、②ε2・ε3、③ε2・ε4、④ε3・ε3、⑤ε3・ε4、⑥ε4・ε4の6つのうちのどれかを持っていて、この組み合わせは生涯変わりません。3種のεのうち、ε4がアルツハイマーのリスクとなります。ε3・ε3の人がアルツハイマーになるリスクを1とすると、ε4・ε4の場合リスクはなんと11.6倍にもなります。ε3・ε4なら3.2倍です(注2)。

 この検査の”怖い”ところは、「遺伝子は変えられない」、ということです。例えば、あなたが結婚間近だとして、婚約者と共にこの検査を受けたとしましょう。あなたが、あるいは婚約者が上記ε4・ε4だったとしたらあなたはどう思うでしょうか。あるいは、あなたの親御さんはε4・ε4をもつあなたの婚約者をどう思うでしょうか。

 一方、アルツハイマーには「MCIスクリーニング」という検査が開発されました。これはアルツハイマーに”なりつつあるか”を調べる検査で、遺伝子には関係ありません。もしもこの検査で”なりつつある”という判定がでれば、食生活を改め運動を積極的におこなうなどで改善させることができます。実際に、この検査で”なりつつある”と出てから、生活を改め1年後の検査で「異常なし」となることも多いそうです。

 もうひとつ、最近広がってきている検査を紹介しましょう。それは「腸内フローラ」の検査です。フローラは元々「お花畑」という意味で様々な花が共存しているようなイメージです。どのような細菌がどの程度いるかを調べることができる検査です。健康な状態のフローラでなければ、食生活を改める、プロバイオティクス/プレバイオティクスを摂取するなどの対策を立てることができます。

 その他の次世代検査としては、BRCA遺伝子(乳がんの遺伝子検査)、次世代シーケンサーと呼ばれているゲノム配列を調べる検査、SNPs(遺伝子検査の1種)、メチレーション(遺伝子に結合するメチル基の検査)など多数あります。実用化には程遠いものやエビデンス(科学的確証度)が確立しているとはいえないものもありますが今後の展開に注意したいと思います(注3)。

************

注1:この論文のタイトルは「A Highly Accurate Inclusive Cancer Screening Test Using Caenorhabditis elegans Scent Detection」で、下記URLで全文を読めます。

http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0118699

注2:これは医学誌『Alzheimer’s & Dementia』2007年10月号(オンライン版)に掲載された論文「Genetics and dementia: Risk factors, diagnosis, and management」に記されています。この論文は下記URLで概要を読むことができます。(ただし概要ではこれらのリスクの数値についての記載はありません)

http://www.alzheimersanddementia.com/article/S1552-5260(07)00549-3/abstract

注3:今回取り上げた次世代検査のなかで当院で実施する予定なのが、「マイクロアレイ」「ミアテスト」「テロメア」「ApoE遺伝子」「MCIスクリーニング」「腸内フローラ」です。詳しくは該当ページを参照ください。

 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2017年12月10日 日曜日

2017年12月 大学病院総合診療科の患者満足度が高い2つの理由

 医学部入学時には医師になることを考えていなかった私が、医師を目指すようになったきっかけは、友人や知人から聞かされた「医療不信」でした。過去にも述べたように、医師や病院に対する不満を聞くにつれ、「何とかしなければならない」から「自分がやらねばならない」と思いあがってしまうようになり、医学部生の後半には臨床医を目指すようになったのです。

 そもそも「医療不信」の最大の原因は「コミュニケーション不足」にあります。医療者は患者さんに対して、常に効果と安全性を最大限に考慮し治療をおこないます。一方、患者さんもまた安全で有効な治療を求めるわけですから両者の”利害”は完全に一致しているはずです。医師と患者さんはいわばタッグを組んで疾患に取り組まなければならないのですから”仲間割れ”をしている場合ではありません。

 にもかかわらず「医療不信」が生まれるのは医師と患者さん側のどちらか、または双方に誤解が生じるからであり、その最大の理由がコミュニケーション不足です。ということは、しっかりとコミュニケーションを取ることができれば医療不信のほとんどは解消されるはずです。

 これまで私が患者さんから感謝されることが最も多かったのは大学病院の総合診療科で外来をしていたときです。何度も丁寧なお礼を言われ、涙を流しながら感謝の言葉を述べる患者さんも珍しくありませんでした。なぜでしょうか。最大の理由は「充分な時間をとって診察ができるから」です。そもそも総合診療科を受診する人というのは、これまで満足いく治療が受けられておらず複数の診療所/病院を受診していることが多いのです。そして、たいていの医療機関では診察に充分な時間がとれません。

 私が外来を担当していた頃の大阪市立大学病院の総合診療科では、ひとりの医師が診察する患者数は午前が新患のみで7~8人、午後は再診のみで5~6人でした。ひとりあたり20~30分の時間が取れるわけですから、患者さんはこれまでの苦悩や前の病院での不満をたっぷりと話すことができます。「こんなに丁寧に話を聞いてもらったのは初めてです!」「先生に出会えてよかったです!」このような言葉も頻繁に聞いていました。

 しかし、よく考えればすぐに分かることですが、私は単に話を聞いただけです。もちろん医学的な観点から、問診以外にも聴診・打診・触診などもおこないますし、必要な検査は実施します。大学病院ですからありとあらゆる検査ができます。緊急性があれば放射線科医に無理をいって優先的にCTやMRIを撮影してもらうこともあります。場合によっては緊急入院をしてもらうこともありますし、外科医に依頼し緊急手術になることや、循環器内科医と相談し緊急カテーテル検査を実施することもありました。

 不思議なもので、緊急手術をしてくれた外科医や他の仕事をキャンセルして緊急カテーテル検査をしてくれた循環器内科医よりも、最初に総合診療科の外来で診察をした私を慕ってくれる患者さんが多いのです。私は単に重症性と緊急性を見極めただけであり、実際に治療したのは外科医や循環器内科医なのに、です。患者さんは病気や治療の説明を私から聞こうとするのです。

 つまるところ、患者さんにとって必要で重要なのは「きちんと伝えること」つまり「充分なコミュニケーション」だというわけです。患者さんの訴えにしっかりと耳を傾け、適切な診察・検査をおこない診断をつけ、そして治療をおこなう前に、なぜその治療が最適なのかを説明して理解してもらえれば医師患者関係が悪くなるはずはなく医療不信は生まれません。もしも病状が重症で、専門医の治療が必要な場合はすみやかに紹介し、専門治療が終われば再び我々が診ますからその後の関係も良好のままです。もちろん、治療がうまくいかないケースもあります。しかしその場合も、コミュニケーションがきちんととれている場合は不信感を持たれません。

 大学病院の場合、病状がよくなれば「これからは近くにかかりつけ医をみつけてそこで診てもらってください」と言わねばなりません。私にはこれが辛く、「何かあればどんなことでも相談してね」と言いたいという思いが、自分の診療所をもつしか方法はないという結論に達しました。

 そして現在は太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)で「何かあればどんなことでも相談してね」と言っています。では、谷口医院を受診する患者さんは100%満足しているのか…。残念ながらそうではありません。この最大の理由は充分な時間がとれない、ということですが、他にも理由はあります。

 実は大学病院の総合診療科の外来がうまくいきやすいのは、単に時間がとれるからだけでなく、もうひとつ大きな理由があります。それは「患者さんが藁にもすがる思いで受診している」からです。これまでどこに行っても治らなかった、けど大学病院ならなんとかしてくれるはずだ…。そういう思いがあるが故に、初めから信頼度が高く良好な関係が築きやすいのです。ですから、初めから医療不信ありき、の患者さんは大学病院でもうまくいかないことがあります。医師が言うことのすべてを否定するような人もいて少々時間がかかります。ですが、時間をかけてゆっくりと話をすれば信頼を得られることもあります。マインドコントロールを解くような感じです。

 しかしこのタイプの患者さんが診療所を受診するとたいていはうまくいきません。実際、谷口医院で良好な関係が築けなかった患者さんの大半がこのタイプです。「とにかく点滴をしてほしい」「とにかく検査をしてほしい」「とにかくステロイドがほしい」「とにかく抗生物質がほしい(ひどい場合は抗菌薬の種類や名前を指定)」などなど…。こういう患者さんを診察するときはそれなりに疲れます。医療機関のミッションはいかに検査や薬を減らすかですが、この手の人たちになぜその検査や薬が不要なのかを説明しても初めから聞く耳を持っていません。ひどい場合は、「お金払うって言ってるでしょ!」「検査してくれ、っていう患者の希望を聞けないのか!」などと怒り出す人もいます。

 小児科医や皮膚科医のいくらかが苦手とする患者さんに「ステロイド恐怖症」があります。ステロイドをまるで”毒”のように考え一切受け付けない人たちです。90年代に比べるとこのような人たちは随分と減りましたが、それでもいまだに苦労するという話を他の医師達から聞きます。ですが、私はこういう患者さんがそれほど苦手ではありません。たしかに、診察室に入るなり「あたしはステロイド使えませんから!」などと宣言されると「この患者さんは一筋縄ではいかないな…」と感じますが、全例ではないものの結果として良好な医師患者関係ができることも多いのです。(逆に、「とにかくステロイドがほしい」という人とはうまくいきません)

 なぜ初めから医療不信(ステロイド不信)がある患者さんと良好な関係が築けるか。それは「ステロイドの危険性を認識しなければならないという思いは医師と患者で同じだから」です。アトピー性皮膚炎を代表とする慢性湿疹の治療で最も重要なのは「ステロイドをいかに減らしていくか」です。そのためreactive therapy(痒いところに外用)とproactive therapy(維持療法)の違いをまずはしっかりと理解してもらわねばなりません。私の経験でいえば、ステロイド恐怖症の人でこの「基本事項」をきちんと理解していた人は過去に一人もいません。

 無駄な検査はおこなわないこと、薬を使用するときは安全性に注意を払い最小限の使用とすること。こういったことは医師がいつも考えていることであり、そして、これらは患者さんが求めているものと同じはずです。

 最近は医学部の授業でも対患者のコミュニケーションが重視されています。(今月もその実習で医学部の学生の指導に行ってきました) どのような言葉を使うかよりも、医師・患者の目標は同じであることを再認識する方がずっと重要だ、ということを私は医学生に言い続けています。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2017年12月8日 金曜日

2017年12月8日 子宮頸がんより多いHPVが原因の中咽頭がん

 世界的にはかなり普及してきたHPVワクチンが日本では一向に広まらないなか、このウイルスが原因の中咽頭がんが急増していることが指摘されています。

 医学誌『Annals of Internal Medicine』2017年11月21日号(オンライン版)で報告された論文(注1)によれば、米国では2008年から2012年の間に、年平均38,793人が「HPVが原因のがん」と診断されています。そのうち女性が23,000人で59%、男性は15,793人、41%です。そして、驚くのはここからです。

 HPV原因のがんといえば子宮頸がんがいわば”常識”でしたが、これが覆りました。報告によれば、現在米国の「HPVが原因のがん」のなかで最も多いのは子宮頸がんでなく中咽頭がんなのです。そして、興味深いことに中咽頭がんを男女ごとにみてみると、女性が3,100人なのに対し、男性は12,638人。男性の方が4倍も多いのです。

 男女差についてもう少しみていきましょう。2002年から2012年の間、HPVが原因の中咽頭がんは女性ではほとんど増えていないのに対し(年0.57%の増加。後で述べるように最近は減少傾向という報告もあります)、男性では年2.89%の増加です。そして、男性の中咽頭がんの発症率は人口10万人あたり7.8人であり、すでに女性の子宮頸がんの発症率(10万人あたり7.4人)を超えているのです。特に上昇率が顕著なのが50代の男性です。論文によれば、この上昇傾向は2060年までは継続し、中咽頭がんは公衆衛生学的に重要な懸念事項とされています。

 では中咽頭がんに対して最も有効な方法は何か。論文ではワクチン接種で発症を予防できることが指摘されています。ところが、米国ではHPVワクチンの接種が男性ではさほど高くなく、さらにリスクの高い中高年にはほとんど普及していません。

 ここからはHPV感染率についてみていきましょう。やはり男女比が興味深いと言えます。口腔内のHPV感染率は、女性で3.2%なのに対し男性では11.5%もあります。人数に換算すれば男性1,100万人、女性320万人です。ハイリスク(注2)のHPV感染率でみると、男性7.3%、女性1.4%です。HPVのハイリスクとして有名な#16だけでみると、男性の口腔内感染率は女性の6倍にもなります(男性1.8%、女性0.3%)。

 もう少し細かくみてみましょう。同性間のパートナーをもつ男女でみると、男性の場合ハイリスクのHPV口腔内陽性率は12.7%、女性は3.6%です。また、黒人、喫煙者、大麻使用者、生涯に16人以上の膣またはオーラルセックスのパートナーがいた者でリスクが高くなっています。

 この「生涯16人以上のパートナー」を詳しくみてみましょう。これまでの人生で16人以上のパートナーがいた男性の場合、パートナーが1人以下の場合に比べて、口腔内のHPV感染は、そのパートナーたちとの「行為」が、オーラルセックスで10倍、膣交渉で4倍、「いずれも」で8倍高くなっています。女性については16人以上のパートナーがれば、1人未満に比べて、オーラルセックスで3倍、膣交渉で6倍、「いずれも」で7倍高くなっています。

 上に述べたように女性の中咽頭がんは増減がほとんどないとされていますが、この論文では、最近は減少傾向にあることを指摘した別の論文を引き合いに出しています。この理由として、女性のHPV感染の予防(子宮頸がんスクリーニング検査やワクチン)が功を奏した結果ではないかと著者らは考えています。

*************

 この論文は衝撃的です。医学の教科書を書き換えなければならない数字が突き付けられています。これまではHPVが原因のがんといえば子宮頸がんがほとんどだったのが、中咽頭がんが最多となり、しかも男性の方が女性より4倍も多いというのです。

 日本にはまだこのようなデータがありませんし、中咽頭がんでHPVが調べられるようになったのはつい最近のことです。

 ちなみに日本は諸外国と比べてオーラルセックスの普及率が高いと言われており、海外ではいくらか普及している女性の膣をカバーする「デンタルダム」などは日本ではほとんど売れないと聞きます。

 あなたが男性であったとしても女性であったとしても、咽頭のHPV検査、またはHPVワクチン、検討しなくていいですか?

注1:この論文のタイトルは「Oral Human Papillomavirus Infection: Differences in Prevalence Between Sexes and Concordance With Genital Human Papillomavirus Infection, NHANES 2011 to 2014」で、下記URLで概要を読めます。

http://annals.org/aim/article-abstract/2657698/oral-human-papillomavirus-infection-differences-prevalence-between-sexes-concordance-genital

注2:論文によれば、ハイリスクのHPVのサブタイプは、16, 18, 26, 31, 33, 35, 39, 45, 51, 52, 53, 56, 58, 59, 66, 68, 73, 82。ローリスク(通常、尖圭コンジローマの原因となる)は、6, 11, 40, 42, 54, 55, 61, 62, 64, 67, 69, 70, 71, 72, 81, 82, 83, 84, 89です。

参考:
毎日新聞「医療プレミア」
「HPVよりも優先すべきワクチンは」2016年8月7日
「HPVワクチン定期化の費用対効果」2016年8月14日
「ワクチン接種する/しない 学んだ上で判断を」2016年8月21日
NPO法人GINAコラム「子宮頚ガンとHPVワクチン」
NPO法人GINAコラム「悩ましき尖圭コンジローマ」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2017年12月1日 金曜日

2017年11月30日 日本人の年齢別ピロリ菌感染率

 日本の高齢者の半数以上がピロリ菌に感染している…。

 これは私が医学部の学生だった1990年代によく言われていたことですが、それから20年以上経過し、当時と今の「高齢者」の年齢が変わってきています。「高齢者」とは呼ばずに「X0年代生まれ」という言い方にすべきではないか、と個人的に思っていたところ、まさにそのことを調べた論文が発表されました。

 医学誌『Scientific reports』2017年11月14日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。研究を実施したのは愛知医科大学のChaochen Wang氏らで、これまでに発表されている合計86の感染率の研究を総合的に解析(これを「メタ分析」と呼びます)しています。研究の総対象者は170,752人です。

 結果は以下の通りです。数字(%)はピロリ菌の陽性率です。

1910年生まれ 60.9%
1920年生まれ 65.9%
1930年生まれ 67.4%
1940年生まれ 64.1%
1950年生まれ 59.1%
1960年生まれ 49.1%
1970年生まれ 34.9%
1980年生まれ 24.6%
1990年生まれ 15.6%
2000年生まれ  6.6%

************

 若年者、というか現在30~40代の世代にもかなり多いことに驚かされます。ピロリ菌は井戸水で感染すると言われています。私は現在49歳。子供の頃、井戸水を使用している家庭はそれほど多くありませんでした。そして私はピロリ菌陰性でした。田舎育ちの私でも陰性なんだから、全国的に私の同世代は大半が陰性だろうと思っていたのですが、この研究をみると「日本人は若年者にもピロリ菌陽性が多い」と認識した方がよさそうです。

 ピロリ菌が原因の疾患は胃がんを始め多数あります。消化器疾患のみならず、血液疾患や一部の皮膚疾患にも関与していると言われています。では、検査して陽性なら除菌を…、と考えたくなる人も多いと思いますが、私自身はピロリ菌除菌には慎重な対応をすべきだと考えています。

参考:
毎日新聞「医療プレミア」2017年7月2日「ピロリ菌「全例除菌」を勧めない理由」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

月別アーカイブ