マンスリーレポート

2011年10月号 私の英語勉強法

 このコラムでは過去2回に渡り勉強について述べてきました。今回はもう少し具体的な勉強法の話として「英語」を取り上げたいと思います。英語は大学受験を含む多くの試験で必要ですし、多かれ少なかれ大半の仕事で必要(少なくとも英語ができれば有利)と言えるでしょう。最近では楽天やユニクロ(ファーストリテイリング)のように英語が社内公用語となる企業も出てきました。

 すべての日本人が強制的に英語を学ばなければならないということはありませんが、あえて「英語を学ばない」という選択をすべき立場の人というのもまた多くはないでしょう。「英語ができることで得られるメリット > 英語を勉強することでかかる時間とコスト」、と考えられる人が実際は大半を占めるのではないでしょうか。

 私自身のことを振り返ってみると、英語には随分助けられている、というか、英語ができなければこれまでの人生は全然違うものになっていたでしょうし、これからの人生も大きく異なったものになるに違いありません。

 といっても、私は自分の英語の能力は「上手」とか「得意」と言えるレベルでは決してありません。発音は今でも自信がありませんし、英字新聞を読むときに知らない単語が出てくることがあり辞書は今でも必要です。映画を字幕なしで見ることはありますが、きちんと理解できているわけではありません。(そのため、後で字幕をみるとまるで違った理解をしていた、ということがしばしばあります)

 というわけで、私自身がまだまだ発展途上の段階にあるのですが、それでもこれまで、多少英語ができるようになって随分と得をしています。そもそも私は、英語が苦手で嫌いでしたから、1991年に企業(商社)に就職したときは、人事部に対して、「僕は英語が苦手ですから海外事業部ではなく国内営業を希望します」と言ったのです。しかし、配属されたのは海外事業部・・・。その発表を聞いたとき、人事部のH部長をうらんだことを今でも覚えています。

 しかし、入社早々、希望していない部署に配属になったからという理由で退職するというわけにもいきませんし、劣等感と抑うつ感を感じながらも新入社員として働く(というより先輩社員に迷惑をかけながら研修させてもらったというのが実情ですが)ことになりました。働き始めた当初は、回ってくるFAXや文書が英語ですから訳が分かりませんし、電話がなると恐怖におののいていました。

 企業が社員を採用する条件というのは、「その社員を雇うことにより企業に得られるメリット>その社員を雇うことによりかかるコスト」、となるときだと思いますが、私は少なくとも最初の2年間はいくらひいき目にみても、私がいることで企業に利益をもたらすということはありませんでした。
 
 今思えば、私にとって生まれて初めて真剣に長期間勉強したのがその時期でした。大学(関西学院大学)受験時は、直前2ヶ月でほとんど過去問を暗記するのみ、という勉強を、学校もさぼって1日15~16時間くらいしましたが、これはわずか2ヶ月間のことです。関西学院大学時代は、勉強はたしかに好きにはなっていましたが、それは「興味のある分野の本を読むのが好き」という程度であり、真剣に勉強したとは言えません。長期間に渡り毎日「勉強」を、つまり「強いられておこなう勉強」をおこなったのは会社員時代の英語が初めてだったというわけです。

 後で述べますが、現在と当時(1990年代前半)は英語の勉強に対する環境が随分と異なります。現在はお金をかけずに大変効率のよい勉強をすることができます。ここでは、当時の苦労話をしても仕方がないので、これから英語を勉強しようと考えている人の参考になるような勉強法を紹介したいと思います。

 まず、よくある質問が「英会話学校はいいですか」というものですが、結論から言えば私はすすめません。私自身も入社直後から就業後に英会話学校に週2~3回通っていましたがあまり効果はありませんでした。もちろん予習や復習もしましたが役に立った実感はありません。この最大の理由は、先生一人に生徒が複数だから、というものです。複数の生徒であれば英会話学校というのは時間をかけるほどの価値はないというのが私の考えです。(では、マンツーマンならいいのか、となりますが、これについては後で述べます)

 次に、CDを聴く、ラジオ(ニュースや英語講座)を聴くという方法ですが、通勤時間や車の中で聞くことは悪くはありませんが(注1)、自宅での勉強にはすすめません。なぜなら、テレビ(注2)やインターネットを使う方がはるかに有効だからです。

 1991年から現在も続けている私の勉強法のひとつはNHKのテレビ講座です。NHKはいつも初心者から上級者向けの複数の英語講座を用意してくれています。そして、これらはいずれのプログラムも非常によくできています(注3)。私は複数の英語勉強用のプログラムをテレビのハードディスクに録画して後から見るようにしています(注4)。

 これらNHKの英語勉強用のプログラムには、専用のテキストも販売されていますが、買う必要はないと思われます。(もちろん買ってもかまいませんが・・・) 話される内容のキャプションがでますから、必要あればそれを書き留めればテキストは不要というわけです。書き留めるときにも、まず英語を聴き取ってそれを書いてあとからテレビ画面をみて確認するという方法をとれば、大変有効な書き取り(dictation)の勉強になります。

 おそらく私はこれからも、日本に住んでいる限りは、NHKの英語勉強プログラムは一生見ることになると思います。それくらい、有効で楽しく勉強できるツールなのです。

 他にテレビを用いた英語の勉強で私が長年おこなっていたのは、NHKの夜7時のニュースを英語で見るという方法です(2ヶ国語放送ですから録画しておいて後から副音声でみるのです)。いきなりBBCやCNNは難易度が高いですし、これらは有料になります。NHKのニュースであれば、通訳者が日本語を聞いて同時通訳しているために、平易な英語が使われ、聴き取りやすいのです。

 しかし、現在私はこの勉強はしていません。もっと有効な方法があるからです。それは、NHKのウェブサイトで英語のニュースを聞くという方法です。この方法が有効なのは、キャスターが話す英語が、その横に記載されているからです。同じようなサイトはBBCでもありますからこちらもおすすめです。インターネットであれば無料ですから、私はわざわざ英語を勉強するためにお金を払ってBBCを契約する必要はないと考えています。(実際、私はBBCのウェブサイトが充実しだしてから有料のBBCの契約を解除しました) また、Voice of Americaのサイトは、英語をゆっくりと発音してくれますのでdictationを本格的に勉強するには適しています。

 これまで述べてきたNHKのテレビ、インターネットを用いたニュースでの勉強はほとんど無料でおこなえます。特にインターネットの登場は英語の勉強を劇的に変化させました(注5)。しかも、これがほぼ無料なのですから、英語の勉強法はわずか20年で革命的に進化したといってもいいでしょう。

 無料ではありませんが、もうひとつ英語の勉強におすすめしたい方法があります。それは、英語を母国語とする外国人をみつけてプライベートレッスンを受けるという方法です。インターネットを使えば簡単に講師がみつかります(注6)。

 以前私は1年間ほど週に一度のペースでオーストラリア人の講師からレッスンを受けていました。毎回喫茶店などを利用し、前半の30分はテーマを決めたディスカッション、あとの30分は、私が1週間で疑問に感じたこと(例えば英字新聞のわからないところ)を質問したり、英作文の添削をしてもらったりしていました(注7)。講師への授業料は、私の場合は1時間2,000円でしたが、実感としてはこの何倍もの価値がありました。 

 勉強は楽しんでおこなうもの、というのが私の持論ですが、私の英語に関しては振り返ってみれば、最初の頃はほとんど強制的にさせられたというのが事実です。しかしそのおかげで人生が大きく変わり視野が広がり今の自分があるのもまた事実です。もしも、あのとき英語を勉強させられていなかったら・・・、と考えるとぞっとします。

 新入社員の配属発表のその日、不本意な辞令を受けた私はH部長をうらみましたが、今では「私の人生を変えた運命的なメンター」として感謝しています。

 最後に、私の英語勉強法をまとめておきます。

   ・ ほとんどの日本人に英語は必要。少なくとも英語ができると人生がより楽しめる。したがってよほどの理由がない限りほとんどの人は英語を勉強すべき。

   ・ テレビとインターネットを使えばほとんど無料で効果的な英語の勉強ができる。ラジオやCDは悪いわけではなく、通勤時間などを利用すれば効果的な勉強ができるかもしれないが、自宅での勉強はテレビやインターネットがおすすめ。

   ・ニュース番組はテレビをみるよりインターネットがおすすめ。NHKやBBCのサイトで、キャスターの話す英語を聞くことができ、その内容が文字で読める。また、その場でネット上の辞書がひける。

  ・お金と時間に少しの余裕があれば、プライベートレッスンもおすすめ。その際は会話だけでなく英作文の添削が非常に有効。

************

注1: 「CDなどで英語の歌を聴くのはどうですか」と尋ねられることがありますが、「英語の勉強にはまったく意味がない」というのが私の考えです。娯楽として聞く分にはもちろんかまいませんが、英語の歌を聴いて英語が上達する人というのはごくわずかです。しかし、英文法などの知識はほとんどなく英語が読めないのに、英語の歌を聞くとそのまま同じ発音で歌える人(なぜかほとんどが女性です)がときどきいて驚かされます。このような人が真剣に勉強すればとてつもないレベルになると思うのですが、私の知る限り、このような人はなぜか文法を勉強せず、読む英語は苦手なことが多いようです。

注2: 「映画を観るのは英語の勉強になりますか」と尋ねられることがありますが、「あまりすすめられない」というのが私の考えです。DVDでは英語の字幕も見ることができますから、映画の種類によってはいい勉強ツールとなるかもしれませんが、時間をかけるだけの効果があるか、と考えたときに疑問です。少なくとも仕事で英語が必要な人は、ニュースの方がはるかに勉強になるのは間違いありません。

注3: 私は拙書『偏差値40からの医学部再受験・実践編』で、NHKをほめすぎたことで数人の人から「NHKと何かやましい関係があるの?」と聞かれましたが、そのようなものがあるわけではありません。何かと批判されがちなNHKですが、多くのプログラムのレベルは(BBCには負けるかもしれませんが)相当高いと私は感じています。英語勉強のプログラムに関しては、すべての人に推薦したいと思います。

注4: 私も含めて多くの人が、複数の番組をみる時間的な余裕がないと感じているでしょう。そこで私は日本人講師の日本語での解説などは、1.5倍にして見ていますし、英語のシーンも簡単なところは1.5倍にしています。ちなみに現在私が観ているのは「トラッドジャパン」「ニュースで英会話」「3ヶ月トピック英会話」です。(「リトルチャロ2」は前回のクールでみましたので今回はみていません)

注5: インターネットの登場により紙の辞書も不要になりました。インターネットでNHKやBBCを読んで、聞いて、分からなければその場でネット上の辞書を引けばいいのです。辞書のサイトによっては発音もしてくれます(例えばGoo)。しかも無料なのです! 

注6: たとえば、「英語」「家庭教師」などのキーワードで検索をかければいくつもサイトがでてきます。講師のプロフィールをみて、気に入った講師がみつかれば、サイト運営者に数千円を支払うとその講師のメールアドレスが送られてきます。あとは直接その講師にアクセスすればOKです。このとき注意したいのは、英語教師にはある程度の「学力」を求めることです。学歴だけがすべてではありませんが、正しい文法の知識を持っていて語彙がある程度豊富で教え方がうまいのは(例外もありますが)大卒以上と考えるべきでしょう。

注7: プライベートレッスンというと英会話が中心と考える人が多いようですが、英作文にも非常に有効です。聞く、話す、読む、書く、のなかで私は「書く」が一番得意(といってもたいしたことはありませんが)なのですが、これは会社員時代に、カナダ人の同僚に徹底的に添削してもらったおかげです。「書く」が苦手という人は、ぜひプライベートレッスンで添削を受けてみてください。英作文は何もむつかしい文章を書かなくても、電子メール(それは友達へのものでも仕事上のものでも)の添削をしてもらえばいいのです。

月別アーカイブ