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2013年6月13日 木曜日
2007年8月号 産業医の魅力
すてらめいとクリニックは7月30日の午後から8月6日まで休診とさせていただきました。これは、私が産業医の研修に参加していたからです。
「産業医」とは、一言で言えば、「企業で働く人たちが安全に快適に働けるように健康面のサポートをする医師」のことです。
私はいつの頃からか、この「産業医」の資格を取得して企業で働く人たちに貢献したいと考えるようになっていました。すてらめいとクリニックは大阪市北区の都心部に位置していますが、都心部でのクリニックにこだわったのも、診療時間を午後8時までと遅い時間にしているのも、都心で働く人たちの力になりたいと考えたからです。
研修は北九州市の産業医科大学でおこなわれました。数ヶ月前からこの研修を心待ちにしていたのですが、実際行ってみると予想通り、あるいは予想以上に楽しいものでした。
大阪を離れて飛行機に乗って北九州まで行けるということも楽しいことですし、連続6日間の研修を受けることができるというのも私にとってはこの上ない喜びです。受講生が多くて、講義の後、先生に質問ができないというのはややストレスになりましたが、実習については、少人数でおこなわれ質問もできましたから本当に楽しく過ごせました。あらためて、自分は本当に勉強が好きなんだなぁ・・・、と再認識しました。
さて、これから私は認定産業医の登録をおこなうことになり、実際に産業医として働くことができるのは10月頃になります。
産業医には専属産業医と嘱託(しょくたく)産業医の2つがあります。
専属産業医とは従業員1,000人以上の事業所(一部の業種では500人以上)に勤務する産業医で、その企業の一従業員ということになります。
嘱託産業医は、従業員50人以上の事業所が選任する産業医で、こちらは企業にいつもいるわけではなく、月に1~2度程度その事業所に出向いて仕事をおこないます。(社員数が50人以上ではなく、その事業所に勤務する従業員が50人以上です) 企業側からみれば、事業所に50人以上の従業員がいる場合は、必ず嘱託産業医を選任しなければなりません。
私が、今年の秋頃から活動する予定なのは嘱託産業医です。クリニックの診療との兼ね合いもあり、捻出できる時間は限られますから、当分の間、契約をおこなうのは1~2社になると思います。
嘱託産業医は月に1~2度しかその企業に出向きませんが、業務はたくさんあります。
まず、企業で月に一度開催される「安全衛生委員会」に出席します。ここで、従業員の労働衛生上の問題はないか、職場環境の安全性に問題はないか、病気や怪我などで休んでいる従業員の職場復帰をどうするか、などについての話し合いをおこないます。
また、月に一度の割合で「職場巡視」をおこないます。工場などでは、粉塵の処理はできているか、有害物質の管理は適切か、などを巡視しますが、オフィス(事務所)では、照度やパソコンの環境(VDT対策はできているか、など)などをみます。
それから、(私が予想するにこれが一番重要だと思うのですが)、過重労働をおこなっている従業員との面談をおこないます。
これは、2006年の4月に改正された労働安全衛生法の、「月に100時間を越える残業をおこなった者で、本人の申し出があれば、企業は産業医との面談を受けさせなければならない」、という規定によるものです。もちろん、これは最低限の基準ですから、100時間を越えていなくても、疲労が蓄積していたり強いストレスを受けていたりする場合は、産業医の面談を受けることができます。
おそらく現在の日本の会社員で月の残業時間が100時間を越える人は少なくないでしょう。それは、すてらめいとクリニックを受診される患者さんに話を聞いていれば分かります。なかには、毎日会社を出るのが早くても深夜2時という人もいますし、もう2ヶ月以上も休みをとっていない、と話される人もいます。(そういう私も5月4日から休みが一日もありませんが・・・)
過重労働に加え、おそらく現在の日本のビジネスパーソンが直面している重大な問題はメンタルヘルスです。過重労働から、あるいは、配置転換、昇進、職場の人間関係などから、不眠症や不安症、うつ病といった精神的な疾患に罹患する人は少なくありません。すてらめいとクリニックを受診する患者さんにもこういった方は多く、定期的なカウンセリングに通われている患者さんもいます。
ちなみに、職場に原因または悪化因子があって、心身に症状が出現している患者さんを年代でみると、女性であれば20代、男性は30代半ばから後半の人に多いような印象があります。
私は今年39歳になりますから、男性の患者さんで職場のストレスを訴える人をみると同年代として他人事でなく放っておけない気持ちになります。私が大学を卒業し就職した1991年はバブル組と呼ばれ、世界を代表するような大企業からの求人がひっきりなしにきていた時代です。
あの頃は、「24時間働けますか」という言葉が流行語にもなって、みんなが仕事に夢を持っていたように思います。私も例外ではなく、仕事自体はたいへん楽しかったですし、いろんな勉強をさせてもらいました。結局、退職して最終的に医師という職業を選び、さらに自身でNPO法人もたちあげましたから、自由に使えるお金が会社員時代より少なくなったとはいえ、人生のミッションを遂行しているように感じてはいます。しかしながら、「あのまま会社に残っていたら今頃は・・・」といった後悔にも似た一抹の寂しさを覚えることがあります。
あの頃、私と同じように夢をみてがんばっていたビジネスパーソンがストレスを抱えメンタルヘルスの問題に悩んでいると思うと、放っておけない気持ちになり、少しでも力になりたいのです。
医師は患者に感情移入をしすぎてはいけない、というのは我々医師が忘れてはならないルールですが、日本のビジネスパーソンが健康に楽しく働けるようにできる限りのことをやりたい!、と今は思います。
ビジネスパーソンのみなさん、夢を求めて働きましょう。けど、あまり頑張りすぎないように・・・。疲れたときは、産業医を頼ってみてください。
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|2013年6月13日 木曜日
2007年7月 私の一番キライな仕事
仕事を選ぶな!
これは私がサラリーマン時代に先輩社員からよく言われた言葉です。
たしかに「仕事を選ぶな」というのは社会のルールのようなものであって、一従業員が仕事のえり好みをすべきではありません。それに、一見イヤに思う仕事でもやってみればそれなりに面白さを見出せることはよくありますし、その仕事をおこなったことが後で役に立つことはよくあります。
そういうわけで、私は医学部入学以降も、キライな科目の勉強にも手を抜きませんでしたし、医師になってからも一見雑用に見える仕事もイヤな顔をせず(これは疑わしいかもしれませんが・・・)取り組んできたつもりです。
けれども、どうしてもキライな仕事というのはどんな仕事をしていてもつきまとうものです。
私の場合、最もキライな仕事は「レセプト請求業務」です。
レセプトについて少し説明をしておきます。通常、医療機関では診療費の3割を患者さんから徴収します。残り7割は、社会保険であれば、社会保険診療報酬支払基金にレセプトを提出し、その数ヵ月後に同基金より支払われます。要するに、レセプトとは同基金に提出する「請求書」のようなものです。
しかしながら、単に「今月の請求額はいくらになります」という旨の請求書を作成しただけでは同基金は受け取ってくれません。それぞれの患者さんごとにどのような診療をおこなったかを詳細に記した書類を提出する必要があり、この書類がレセプトなのです。
レセプトには、患者さんに対し、どのような検査や投薬をおこなったかを詳細に書かなければなりません。そして、その検査や投薬に適している「病名」を記載しなければなりません。この「病名」の表記がときに非常に複雑になります。
例えば、ある患者さんが糖尿病の疑いがあったとします。この場合、血糖値を測定すれば、病名に「糖尿病の疑い」と記載する必要があります。このとき血糖値が高くもないが低くもないような場合、追加でHbA1Cの値を測定することがあります。現行のルールでは、HbA1Cを測定した場合には、病名は「糖尿病の疑い」ではなく「糖尿病」としなければならないことになっています。
この場合、一度計測した血糖値が微妙な値をとったのだから、血糖値よりも糖尿病の診断により役立つHbA1Cを測定しようと考えるわけですが、レセプトの病名に「糖尿病」と書いてしまえば、この患者さんはまだ正確に糖尿病であることが決まったわけではないのに糖尿病という病名がついてしまうことになります。そして、決まったわけでもないのにレセプトに「糖尿病」と記載すれば、ある意味で「不正請求」ということになってしまいます。
では、実際にはどうしているかというと、患者さんに対して「HbA1Cの測定は自費でお願いします」というわけにもいきませんから、この場合はクリニックの負担で(つまりクリニックが損をして)レセプトを提出しているのです。
また、たくさんの訴えのある患者さんの場合、ついつい病名が抜けていることがあります。発熱と下痢で受診した患者さんに対して、急性胃腸炎という診断がつき、検査と投薬をおこなったようなケースで、患者さんが帰り際に「先生、水虫もついでに診てもらえますか」などと言われることがあります。顕微鏡の検査で水虫をみつけて、抗真菌薬を処方するわけですが、こんなときによく「足白癬」という病名の記載が抜けてしまうことがあります。メインの疾患の急性胃腸炎に目をとられるからです。「足白癬」という病名が抜けたままのレセプトを提出してしまうと、この分は基金から支払われずにクリニックが損をしてしまいます。
レセプトのチェックでは、「病名が抜けていないか」と「不正請求になっていないか」の双方を確認しなければならないというわけです。
医療機関の締めは末日ですから、月末日にはいったん下書きの段階のレセプトを打ち出します。そしてこれらを、1枚1枚カルテを見ながら確認していくのです。
この作業がとてつもなくしんどいのです!! そして、これが私の一番キライな仕事です。
実は、ついさっきまでその仕事に取り組んでいてやっと終了しました。時計の針はすでに午前7時に…。この仕事のせいで、月初めの数日間は徹夜をしなければならないのです。
この作業をしていていつも思うことがあります。そもそも医療機関というものは、営利団体ではなく、現実的には公的機関の側面が強いわけですから、レセプトの内容に関係なく一定額が支払われるようなシステムにすればいいのではないでしょうか。
我々医師がおこなう作業も大変ですが、社会保険診療報酬支払基金でのチェックもかなりの人件費が必要となっているはずです。
もしも、レセプトの作成を簡素化し、一定額が支払われるシステムになれば、かなりの人件費が節約され医療費削減にもつながるのは間違いがありません。
もっと言えば、勤務医も開業医もすべての医師を公務員にして給与を一定にし、レセプト作成業務をなくしてしまえばかなりのコストが削減できるはずです。
医師は自身の給与が高かろうが低かろうが、目の前の患者さんに全力を注ぎますから、公務員として給与を一定額にしても医療の質が低下することはありません。
もしも、レセプトの存在がなくなれば、医師だけでなく医療機関の事務員の仕事も大幅に減りますし、同基金の人件費も大きく削減できます。こうすれば浮いた医療費をより必要なところに使えると思うのですが、この私の案は絵に描いた餅なのでしょうか。
毎月こんなことを考えながら、一番キライな仕事をこなす・・・。
これが私の月初めの姿です。
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|2013年6月13日 木曜日
2007年6月号 チャレンジシートと相乗効果
組織の質を高めていくには個々人の努力が不可欠ではありますが、いくら個々が努力を重ねてもそれぞれが別の方向を向いていれば相加効果すら発揮できません。例えば、ある組織に3人のメンバーがいて、仮にその3人の能力が優秀であったとしても、向いている方向が違えば、1+1+1が3に満たないこともあります。
一方、組織のメンバーが各自で努力をおこない、なおかつそれぞれの目指すところが同じところを向いていれば、1+1+1が3ではなく、6にも9にも、あるいはそれ以上になることもあります。
質の高い組織というものは、単に各自の能力が優れているだけではなく、メンバーの関係性のなかで相乗効果が発揮され、予想以上の力が結果として得られるものだと私は考えています。
これは、スポーツのチームプレイを思い出せば分かりやすいと言えるでしょう。例えば、いくら能力の高いサッカー選手を集めても相乗効果が発揮できなければそれほど強いチームにならないことは多くの人が実感していることだと思います。
さて、組織で活動するという意味では、サッカーチームもクリニックも同じであって、たとえ個々が優秀な能力を持っていたとしても、各自が異なる方向を向いていれば相乗効果が発揮できず、患者さんにとって満足のいく診療ができないことになります。
すてらめいとクリニックはオープンして半年近くがたとうとしていますが、オープン当初に比べれば随分改善されたとはいえ、申し分のない相乗効果が発揮できているとは到底言えない局面もあります。
そこで、一応は組織のリーダーである私は、クリニックのメンバー各自にチャレンジシートを書いてもらうことにしました。クリニックでは短時間のミーティングは毎日おこなっていますが、組織の性質上、なかなか全員が集まって時間を割いて定例会議を開くことができないこともあり、各自の努力の内容や目標を把握するにはチャレンジシートの作成が適していると考えたのです。
チャレンジシートの項目は、①ミッションステイトメントをどれだけ遵守できたか、②半期を振り返ってよくやったと思うこと、③半期を振り返ってできなかったことと今後の取り組み、④自身の長所とその長所を今後どのように伸ばしていくか、⑤自身の短所とその短所をどのように克服していくか、⑥今後クリニックで取り組んでいきたいこと、の6つです。
メンバー各自のチャレンジシートは、内容も量も様々で、「こんなことにまでこれほど考えていてくれたのか・・・」と思うようなものもあれば、「いまひとつ具体性に乏しくて分かりにくいかな・・・」と感じるものもありますが、メンバー各自が、クリニックに対してどのような思いを持っているかがよく分かり、各自の向いている方向が認識できました。
チャレンジシートに書かれた文章の内容が、日頃私が考えていること、感じていることとほとんど同じものもあります。メンバーが書いたそういった文章を読むと、「ああ、この人とはかなりの部分で共感できるな・・・」と感じます。「共感」できるということは、それ自体で感動をもたらせてくれますが、その逆に、「ああ、こういう考え方もあるのか・・・」と自分が考えたことのない内容を目にしたときにも別の感動があります。
メンバーそれぞれがまったく同じ考えをしているときには、組織はまとまりやすいですが、ともすると相加効果は発揮できても、相乗効果が得られないことになります。つまり、3人のメンバーからなる組織を例にとれば、1+1+1=3にしかなりません。
けれども、例えば、ミッションステイトメントを遵守した上で、メンバーそれぞれが独自の考えを持っており、それが互いに尊重できるものであったとすれば、1+1+1>3となります。そういう意味では、自分の考えと異なる意見をもっているメンバーの考えを聞くことは組織を向上させていく上で非常に大切なことではないかと思います。
今は、メンバーそれぞれと面談をおこなっている最中ですが、こういった作業は組織の質を高めていく上で不可欠であることを実感しています。
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ところで、現在のすてらめいとクリニックの最大の問題点は、「患者さんの待ち時間が長い」ということです。
いつも混雑しているわけではないのですが、時間帯によっては患者さんが集中して来られ、待ち時間が長くなってしまいます。ときには、「もうこれ以上待てない」と言って帰られる方もおられます。
また、診察前の待ち時間だけでなく、診察後、薬を受け取って会計を済ますまでの時間が長いときもあり、患者さんには多大なるご迷惑をおかけしております。
この点については、クリニックのスタッフも重々承知しており、ほとんどのスタッフは今回のチャレンジシートに「待ち時間の長さが現在のすてらめいとクリニックの最大の問題」と書いています。
チャレンジシートの作成、各自との面談を通して、はっきりしてきたことは、現在のすてらめいとクリニックには解決すべき問題が数多く存在しますが、最大の”緊急を要する”課題は「待ち時間を減らすこと」であるということです。
私が大変幸せだと思うことは、ほとんどのスタッフがこのことを強く認識しており、待ち時間を減らすために各自が努力を重ねていることが分かったことです。
今後、患者さんの待ち時間を減らすことができるかどうか・・・
これができるかどうかは、スタッフどうしの相乗効果をどれだけ発揮できるかにかかっていると言えるでしょう。
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|2013年6月13日 木曜日
2007年5月号 シンパシーとエンパシー
すてらめいとクリニックがスタートして、しばらくの間は学会発表や講演の仕事を控えていたのですが、先月(4月)は人前で話す機会が2回ありました。
1つは、大阪プライマリケア研究会での症例報告。すてらめいとクリニックに受診された興味深い3つの症例を報告しました。
もうひとつは、関西のある地域の青年会議所での講演です。内容は「タイのエイズ事情とボランティアについて」です。
もともとこの講演は、その青年会議所に所属する友人から依頼を受けたのがきっかけだったのですが、当初考えていたものとは少しかたちが変わりました。
初めは、「タイのエイズ事情について話してほしい」という依頼だったのですが、ミーティングを重ねるうちに、「谷口恭のボランティアに対する考えについても話してほしい」との要望を受けました。私はこれまで、そのような内容では講演をしたことがなかったので少し躊躇したのですが、スタッフの方々の熱意に圧倒され、結局引き受けることにしました。
それにしても、この青年会議所のスタッフは本当に熱心です。通常は、講演依頼を受けても、事前の打合せなどはほとんどなく、当日にいきなり本番というかたちの講演がほとんどです。
ところが、この青年会議所のスタッフの方々は、何度もすてらめいとクリニックに足を運んでくださり、リハーサルを何度もおこないました。そして、その都度、「ここのところをもっと詳しく話してほしい」とか、「この部分は興味深いので時間をとって掘り下げてほしい」といった提案をしてくれるのです。
そのため、これまでの講演に比べると、スライド(パワーポイント)を作成するのにかなり時間がかかりましたし、自分ひとりのリハーサルを何度もおこなうことになりました。
講演当日は大勢の方々が会場に来られました。その日のイベントが急遽ひとつなくなったとのことで、私は1時間半もの時間を使わせてもらいました。
この青年会議所は日頃から社会奉仕やボランティアに力を入れているだけあり、タイのエイズ患者さんやエイズ孤児の実態についてとても熱心に聞いてくれました。この組織も今年救急車1台をタイのある貧困地区に寄付することが決まっているそうです。また、私の話がボランティアに及ぶと真剣さがさらに増しました。
講演が終わると、何人かの方が大変有意義な質問をしてくれました。これだけ活発に質問が出るのは、彼(女)らが興味を持って熱心に話を聞いてくれたからに他ならず、こちらとしては大変やりがいがありました。
また、事前のリハーサルや資料作成を通して、私自身がボランティアや社会貢献ということにあらためて想いを巡らせることができたことも収穫でした。
なぜ社会貢献をするのか・・・
必要だからする!と言ってしまえばそれまでですが、このテーマは、実際に社会貢献をしている人、あるいはしたことのある人なら誰もが一度は考えたことのあるものです。
しかし、「なぜ働くのか」「なぜ勉強するのか」「なぜ結婚するのか」・・・、などに比べると「なぜ社会貢献をするのか」については、はっきりとした答えがなく、人によって理由が様々であると言えます。また「社会貢献」の定義自体にもいろんな考え方があるでしょう。
それだけに、「なぜ谷口恭は社会貢献活動をするのか」という点について、日頃から社会奉仕活動をしている人たちにとっては興味深いものだったのではないかと思います。
ところで、事前の何度かのリハーサル時、当日の講演前の打ちあわせ時、講演中の質疑応答時、講演後の幹部スタッフとの会話時、などに私が感じたことがあります。
それは、うまく表現できないのですが、社会貢献という同じ目標を掲げる”同士としての絆”を実感できたことによる感動のようなものです。一言で表すなら「シンパシー(sympathy)」を実感できた、となるのかもしれません。
一方、私は日々の医療の現場で患者さんの苦悩を聞いたときや、タイで困窮な生活にあえぐエイズ患者さんと話したとき、理屈抜きで「この人の力になりたい!」と感じ、これには強い感動が伴いますが、これは”同士としての絆”とはまた異なります。そうではなく、そういった患者さんたちに対し、ある程度の”感情移入”をしたことによる感動です。これを一言で表すなら「エンパシー(empathy)」と呼べるかもしれません。
sympathyとempathy、おそらく辞書にはどちらも”共感”と書かれていると思います(少なくとも私はどちらも「共感」と記憶しています)。私は今までこの2つの単語をほとんど区別していませんでしたが、今回の講演を通してsympathyの感覚が分かるようになったのかなという気がしています。
同士としての絆=シンパシー、私は今後もこの感動を追求していきたいと考えています。
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|2013年6月13日 木曜日
2007年4月号 働いている人は早朝の勉強を!
すてらめいとクリニックをオープンさせてから私生活が随分と変わりました。やはり最も大きな変化は、深夜の勤務が大幅に減ったということでしょう。
いわゆる当直勤務(以前から勤務している病院で)が現在では月に3~4回のみとなりましたから、医師のなかではかなり規則的な生活をしていることになります。(月に10回以上当直勤務をしている先生方がたくさんおられることを考えると申し訳ない気持ちになります・・・)
すてらめいとクリニックの診療時間は夜8時までです。8時まで受付をおこなっていますから、診察が終わり、患者さんが帰られてその日の業務がすべて終了となるのは9時を回ることもあります。
私がいろんなところで繰り返し述べているように、医師の仕事は診療だけではありません。患者さんと接していないときは、学会や研究会発表の準備や、論文の作成などもしなければなりません。また、月に10冊以上送られてくる学会誌や医学関連の雑誌を読み、それ以外にも勉強をしなければなりません。
そのため、医師という職業をしている以上は、診療以外の仕事(勉強)の時間を最低でも1日に2~3時間程度は捻出する必要があります。
すてらめいとクリニックを開業するまでは、深夜勤務で救急の患者さんが来られないときなどに細切れの時間を見つけて勉強するようにしていましたが、先月からは夜は11時か12時には眠り、朝5時に起きて勉強するようにしています。
実は、この方法は私が会社員時代におこなっていた方法です。
私は会社員時代に勉強時間の捻出にあれこれ試行錯誤を繰り返し、1年目の終わりごろから朝5時からの勉強を日課にするようにしました。
『偏差値40からの医学部再受験』にも書きましたが、私は英語がまったくと言っていいほどできなかったのにもかかわらず、就職した会社ではなぜか「海外事業部」に配属されてしまいました。
このため、好きとか嫌いとかそういう問題ではなくて、ともかく英語をがむしゃらに勉強するしかなかったのです。とはいえ、会社員、特に1年目の会社員というのは夜遅くまでの残業が当たり前ですし、多くの付き合いもあります。若い社員は上司からの誘いを断るわけにはいきません。そのため週に1~2度はお酒を飲むことにもなります。
残業を終えて深夜に帰宅したとき、あるいはお酒が入った状態で帰ってきたときに机に向かう気にはなれません。最初の頃は、それでも帰宅後に勉強していたのですが、能率が上がらずにいつのまにか寝ていることもしばしばでした。
そんななか、あるとき朝5時に起床して勉強するという方法を思いつきました。これなら、疲れが蓄積していたり、お酒が残っていたりすることもありません。効果はてきめんで想像以上の能率の良さを実感することができました。
朝5時に起きているわけですから、夜になると眠たくなってきます。それが分かっているために、日中の仕事は意識的に効率よくテキパキとおこなうようになります。また、眠たくなるときにお酒が入れば早く家に帰りたくなりますから、深酒をしたり、自らが率先して2次会、3次会を企てたりすることもなくなります。
私が勤めていた会社では朝7時半とか8時から勉強会や週例会がありましたが、それでも勉強時間として朝5時から7時までの2時間が確保できます。この2時間は私にとって大変有意義な時間となりました。この日々の2時間がなければ、私の英語はいつまでたっても幼稚なままで、さらに医学部合格もなかったかもしれません。
会社を退職してからは、医学部の受験勉強を始めましたが、このときも私は朝5時からの勉強を義務付けていました。そして、このときには会社員時代に英語を勉強していた頃には気付かなかった”利益”があることが分かりました。
それは、「朝になると難問が解けている!」ということです。
私は元々理数系の科目が苦手なので、数学や化学の計算問題は解答をみてもよく分からないものが少なくありませんでした。身近に質問できる人がいればよかったのですが、予備校も行かずにひとりで勉強していた私には気軽に質問できる人が皆無でした。しかし、医学部受験をする以上は、解答を見ても分からない問題があれば絶望的です。
ある夜、数時間考えても分からない数学の問題を諦めて眠ることにしました。そして、明け方に夢を見ました。夢のなかでも私はその難問を解いていました。すると、数時間考えて分からなかった難問が夢のなかで解答が導けたのです!!
目覚まし時計で目を覚ました私は、実際にノートを使ってその問題を解いてみました。すると、本当に解けたのです!!
この経験をして以来、私は難問を見つけるとその日の最後に回すようにしました。そして眠りにつく前にその問題を考えるのです。もちろん、いつもそう上手くいくとは限りませんが、それでも解答に書いてあることが部分的にでも理解できることも度々ありました。英語の場合は、明け方に自分が英語でしゃべっている夢を見たこともあります。
現在の私の勉強は、受験勉強ではないために、難問に頭を悩ませるといったことはありませんが、記憶すべきことを頭で反芻してから眠ることがしばしばあります。こうすればかなりの確率で記憶が確かなものとなっています。
早朝勉強法は、日中の仕事もはかどり、飲酒量も減り、おまけに眠る前の思考と組み合わせれば難問の理解や記憶の向上にも役立ちます。
あなたもさっそく試してみませんか・・・
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|2013年6月13日 木曜日
2007年3月号 都心のプライマリケア・クリニック
すてらめいとクリニックがオープンして2ヶ月がたちました。
すてらめいとクリニックの最も基本的なコンセプトは”どんな方のどんな症状でも診ます”ということもあり、この2ヵ月の間に、本当に様々な患者さんが来られました。
単に、「風邪をひいた」「包丁で指を切った」「肩がこる」「じんましんが出た」「眠れない」などの訴えもあれば、問診だけで数十分かかる大変複雑な悩みもあります。
また、遠方から来られる方も少なくなく、遠いところでは、岐阜県、高知県、広島県などからも、すてらめいとクリニックに受診する目的で大阪までやって来られた方もいました。診察代よりも往復の交通費の方がはるかに高額になることを考えると、申し訳ない気持ちになります。
よく、「日本の医師は僻地では不足しているけれど都心部では余っている」と言われることがありますが、すてらめいとクリニックの最初の2ヶ月だけをみても、医師は余っているどころか、まったく足りていないことが分かります。
ちなみに、2005年に財団法人社会経済生産性本部が発表した「国民の豊かさの国際比較」によりますと、「人口あたりの医師数」は先進国30か国中、日本は27位です。「人口あたりの看護師数」は19位で、医師よりは少しはましにみえますが、これは看護師の資格を持っている人数で算出されていますから、日本の看護師が結婚や出産を契機に辞めていく人が多いという特徴を考慮すると、看護師不足も医師不足と同様に深刻であると言えます。
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この2ヵ月間のすてらめいとクリニックの患者さんを振り返ると、やはり季節の影響もあって花粉症とインフルエンザが目立ちます。また、すてらめいとクリニックでは提携エステティックサロンと協力して美容医療もおこなっていますので、ピーリングや脱毛といった施術を希望される患者さんもおられます。さらに、プラセンタの注射で通院される方も少しずつ増えてきています。
問診だけでけっこうな時間のかかる複雑な悩みをもたれている患者さんが多いのもすてらめいとクリニックの特徴かもしれません。その内容は、ここに書くべきではないと思いますが、家族や友達、恋人にも言えないような悩みを抱えている方も少なくありません。クリニックの診察室が防音設備をかねそろえていることもあって、患者さんの多くは様々な想いを話されます。なかには、思い余って涙を見せる方もおられます。
もうひとつ、すてらめいとクリニックを受診される方でよくあるのが、HIVやB型/C型肝炎、クラミジアなどの性感染症の検査や治療目的で受診される患者さんです。実際、ほぼ毎日これらの悩みを持っている人が来られます。すてらめいとクリニックは”どんな方のどんな症状でも診ます”とは言っているものの、標榜科目に「泌尿器科「産婦人科」「性病科」などはありません。にもかかわらず、HIVやB型/C型肝炎の検査目的の受診が多いのは、こういった感染症の増加に対して日本の医療機関が全体として対応できていないということなのかもしれません。
患者さんの層を年齢別でみてみると、やはり都心部に位置していることから若い方が目立ちます。データはまだきちんととっていませんが、平均患者年齢はおそらく30歳前後だろうと思います。これは(小児科を除く)医療機関ではかなり若いのではないかと思われます。(私は今でも毎週木曜日にある大病院の皮膚科外来をおこなっていますが、そこでの平均年齢はおそらく70歳前後だと思います)
男女比については、おそらく半々くらいであろうと思われます。これが不思議なことに、ある日は男性が多かったりまた別の日は女性が多かったりと、なぜか日によって偏りがあります。
外国人が多いのも特徴といえるかもしれません。いずれ英語のホームページも作成することを検討しているのですが、遅れていてまだ着手すらできていません。しかし、都心部に位置するクリニックでは必然的に外国人の患者さんの割合が増えます。今のところ、英語以外の外国語でコミュニケーションをとらなければならない機会はありませんが、今後は英語以外の母国語しか話せない方も来られるでしょうから、これからの課題となりそうです。
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すてらめいとクリニックのような都心部でのプライマリケア・クリニックは、従来のステレオタイプ的な古典的なクリニックとは少し趣が異なります。さまざまな環境におられる方がさまざまな悩みを抱えて受診されます。
電話帳や広告、チラシ、看板などの一切のPR活動をおこなっていないにもかかわらず、いろんな患者さんが来られるのは、それだけ日本の医師が不足しているからというだけでなく、「都心のプライマリケア・クリニック」が不足しているからではないでしょうか。
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|2013年6月13日 木曜日
2007年2月号 『偏差値40からの医学部再受験改訂第4版』発売
先月10日に、私の処女作『偏差値40からの医学部再受験』の改訂第4版が出版されました。
3回目の改訂となった今回は、これまでのものと比べると少し内容が変わっています。もともと私がこの本を出版しようと思ったのは、偏差値の高さから医学部受験をあきらめてしまっている人たちに対してエールを送りたいという気持ちが強かったからで、そういった人たちに訴えたかったことのひとつは、「医師とはこんなにも素敵な職業なんですよ」、ということです。
そこで初版から改訂第3版までは、第1章をまるまる使って、「医師はなぜそんなに魅力的な職業なのか」ということを述べました。しかし、今回はその第1章を、「医師はこんなにも大変な職業なのです」、ということを、具体例を挙げながらお話しています。
給料はそれほど高くなく、勤務時間は長く休みはほとんどなし、一生勉強を強いられる、退職金や福利厚生はなし、いつ訴えられるかわからない、うつや不眠に悩まされることもある、・・・
改訂第4版では、これが医師という職業の現実であることを述べた上で、「それでも医師は素敵な職業である」、ということをお話しています。
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「日経メディカル」という雑誌の2007年1月号に、医師を対象としたアンケートが掲載されています。
「子供に医師になってほしいか」という項目では、「はい」と答えた医師が27.9%、「いいえ」と答えた医師が26.7%となっており、両者に差はありません。
さらに、「子供に自身の病院やクリニックを継がせたいか」という項目では、「はい」が21.9%、「いいえ」が32.8%と、「継がせたくない」と答えた医師の方が多くなっています。
注目すべきは、子供に医師になってほしくないと考える理由で、回答者数の多かった上位3つをご紹介いたしますと、
・仕事の忙しさに見合う報酬を得られないから
・患者とのトラブルなど、患者、家族との関係で気苦労が多いから
・医療訴訟に巻き込まれる可能性があるから
となっています。
『偏差値40からの医学部再受験』改訂第4版では、ちょうどこれら3つの理由(割に合わない報酬、患者・家族とのトラブル、医療訴訟)について、具体例を挙げながら説明をしています。
しかしながら、私が強く訴えたいのは、「それでも医師は素敵な職業である」ということであり、こういったマイナス面を補い、尚且つ魅力を感じることのできる醍醐味が医師という職業にはあるということです。
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1月から診療を開始した「すてらめいとクリニック」は今日で24日目となります。(これを書いているのは2月7日の午前6時です)
今はまだ患者さんがそれほど多くないということもあり、ゆっくりと患者さんのお話をお聞きする時間をとることができ、多くの患者さんは、自身が感じている健康上のいろんな問題について話されます。
(健康上の)いろんな悩みを聞いてもらえてよかったです、遠いところから来た甲斐がありました、家族にも言えないことをここでは気軽に話せてすごく楽になりました、・・・・、などと言われて感謝の気持ちを表す患者さんもおられますが、そういった感想を持たれる患者さんたちよりも、私自身の方がむしろ医師の醍醐味を実感できやりがいを感じているということは、もしかすると患者さんたちは気づいていないのかもしれません。
目の前にいる苦悩を抱えた人の力になりたいという欲求、これが、医師が医師であり続けることのできる力の源です。
この欲求があれば、収入が低くても、気苦労が多くても、様々なリスクを抱えなければならなくても、やはり医師とは素敵な職業なのです。
医学部を目指している方がおられれば、世論の医師に対する社会的評価の低さや、マスコミの医者叩きに惑わされずに、原点に戻って医師という職業の醍醐味について思いをめぐらせてほしいと思います。
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|2013年6月13日 木曜日
2007年1月号 感謝!!
当ウェブサイトでもお知らせしましたように、12月14日にすてらめいとクリニックのレセプション・パーティをおこないました。午後6時から12時までのお好きな時間にお越しください、という形式だったこともあり、100人を超える方々が来てくださいました。この場でお礼申し上げたいと思います。
パーティに参加された方々は本当に多種多様で、私が所属する大阪市立大学医学部総合診療センターの教授や助教授から、いわゆる社会的マイノリティとカテゴライズされることの多いコミュニティの方々まで、また、家族総出で出席された方や、遠方から(なんと東京からも!)お越しいただいた方もおられました。
なかには私が初めてお会いする方もいました。以前からこのウェブサイトを読んでいてくれていた方、このウェブサイトや私の書いた本がきっかけで私とメールのやりとりをおこなうようになった方、また、私が普段懇意にしている人の友人の方など、多くの新しい出会いがありました。
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すてらめいとクリニックは今月から保険診療が開始されました。これを書いている時点では、まだ診療開始から3日しかたっていませんが、それでもいろんな訴えの方が来られ、早くも「総合診療」の醍醐味を実感しているところであります。
なかには、「(自分のこの症状は)どこの病院に行っても、分からないって言われるんです・・・」、と、まるで大学病院の総合診療科の外来でお会いする患者さんたちと同じような悩みを抱えている方も多く、総合診療の重要性を実感します。(尚、現在の医療法では「総合診療科」という科の標榜ができないために、すてらめいとクリニックでは「皮膚科・内科・アレルギー科」と標榜しています)
すてらめいとクリニックでは、いろんな症状や疾患に対応できるようなクリニックを目指していますから、私だけでなく看護師をはじめとするスタッフも新たに覚えなければならないことの連続で大変です。幸いなことに、非常にやる気のあるスタッフばかりが集まったおかげで、私自身がスタッフに助けられることもしばしばです。スタッフの方々に感謝!!です。
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私は毎年、年の初めに一年間のテーマを決めるのですが、今年のテーマは「貢献」としました。(去年は「勉強」、その前は「奉仕」でした)
思い起こせば私の2006年は幸運の連続でした。NGOとしてGINAを立ち上げることができ、11月にはNPO法人GINAが誕生しました。国内だけでなくタイ人をはじめとする外国人の協力者も次々と現れ、タイでの支援活動も(まだまだ不十分ですが)一応は軌道に乗り、私が出張に行かなくても現地スタッフと電話やメールでやりとりするだけである程度の活動ができるようになりました。まだまだ寄附金は不足しており、今後どうやって支援額を増やしていくかが課題ですが、それはこれから対策を考えていく予定です。
GINAだけではありません。日頃の臨床においては、指導をしてくださる先生方のおかげで医師としての知識や技術が向上したことを自覚できますし、多くの患者さんたちからも学ばせてもらうことができました。
そして、やはりいい物件が見つかって、すてらめいとクリニックをオープンできたことはこの上ない幸運でしょう。なにしろ、日頃から「こんなきれいなビルで仕事ができればいいなぁ・・・」と思っていたビルが私に紹介され、ビルのオーナーのご好意でクリニックを開院することができたのですから。さらに、やる気のあるスタッフが集まったことも私に運があるからでしょう。
これだけ幸運に恵まれたことに対して私がすべきことは、社会に対する「貢献」であるに違いありません。貢献するのは、患者さん、GINAが支援しているタイのエイズ患者さんやエイズ孤児、そして私を日々支えてくれているスタッフに対してもです。
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|2013年6月13日 木曜日
2006年12月号 パーティへようこそ!! 2006/12/11
ひょんなことからいい場所が見つかって、来月から大阪市北区にクリニックをオープンすることになったことをマンスリーレポート10月号でお伝えしました。一応予定通り準備はすすんでいるのですが、予想していたこととは言え、クリニックの設立は本当に大変です。事務長をはじめスタッフの方々が一生懸命頑張ってくれるからこそ、なんとか予定通りにすすみそうですが、これが私ひとりだととてもできるものではありません。
私は、先月に2週間ほど学会出席とGINA関連でタイに出張に出ており、帰国後はすぐに東京に出張し、第20回日本エイズ学会に出席し演題を発表しました。(発表はNPO法人GINAからのもので、タイトルは「HIV陽性者によるHIV陽性者の支援ータイ国パヤオ県の現場からー」というものです)
東京から大阪に戻らずにそのまま福岡に飛び、福岡市内のある形成外科クリニックで研修を受けてきました。
福岡から大阪に戻ると、やらなければならないことは山積みとなっていました。このため12月9~10日の金沢出張(学会出席の予定でした)もキャンセルしたほどです。
さて、12月14日はすてらめいとクリニックのレセプションパーティをおこないます。
パーティは午後6時から12時頃まで開く予定です。好きな時間に来ていただいて好きな時間にお帰りいただく方式ですので、これを読まれている方で興味がある方がおられましたらどうぞお気軽にお越しください。もちろん無料です。ただし、高級なものごは用意できませんが・・・
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|2013年6月13日 木曜日
2006年11月号 「人の役に立ちたい」という欲求 2006/11/10
11月1日、ついにGINAがNPOとして承認されることになりました。あとは、登記が終わるのを待つだけです。おそらく二週間もあれば登記の手続きが完了するでしょうから、そうなればついに特定非営利活動法人(NPO法人)GINAが正式に誕生することとなります。
GINAは正式にNPO法人となってからPRをおこなおうと思っていたため、これまで私は、比較的身近な友人も含めてGINAのことをほとんど話していません。にもかかわらず、GINAのウェブサイトには月に33,000以上のアクセスがあるようで、この数字は大きくはないでしょうが、PRをほとんどしていないことを考えれば小さくもないと感じています。最近の日本は「エイズへの関心が低い」と言われることが多いのですが、実際はそうでもないのではないか、という気もします。
GINAは、趣旨に賛同してくれた仲間と共に立ち上げたのですが、このようなNPOの必要性を訴え始めたのは私自身です。
ところで、最近、「NPOって何のメリットがあるの?」、と聞かれることが多いのでこの場でお答えしておきたいと思います。
「メリットは何?」と尋ねる人に、「社会貢献ができるから」と答えると、「???」という反応が少なくありません。彼(女)らは、「社会貢献」がキレイ事に聞こえるのでしょう。しかしそういう彼(女)らの気持ちが分からないわけでもありません。私も、20代の頃なら、NPOをつくって「社会貢献」をするなどということは思いつきもしませんでしたから。
私がタイのエイズ問題に興味を持ち出してNPOの設立を考え出したときから、絶えず頭から離れなかったひとりの男性がいます。
といっても私はその男性を直接知っているわけではありません。数年前にある雑誌でその男性が書いた文章を読んだことがあるだけです。それを読んだときは、その内容が私の人生に影響を与えるなどということは微塵も思いませんでしたから、その雑誌は捨ててしまって今は手元にありません。しかしその男性の言葉は今も私の心に根付いています。
その男性は50代で、ひきこもりの青年を社会復帰させることを目的としてNPO法人を設立しました。通常はひきこもっている青年の両親から依頼を受けて、あの手この手で社会復帰を企てます。その男性は、そのNPOを設立するまで、いわゆる「裏社会」で生きてきており、まともな仕事をしたことがなかったそうです。数々の修羅場をくぐりぬけ、かなりの悪事にも手を染めているその男性は、50代になって、「人の役に立ちたい」と思うようになったそうです。
この男性はひきこもっている青年に対して、ときには脅しを使ったり(裏社会で生きてきただけあり、得意とするところなのでしょう)、ときには涙を見せたり、あらゆる手を使ってひきこもりたちを社会復帰させているそうです。成功したときにしか報酬を受け取らないためなかなか黒字にはならないそうですが、それでも他の同じような組織に比べると、ひきこもりの社会復帰成功率は格段に高いそうです。
その雑誌は現在手元になく、正確な言葉を思い出すことはできませんが、その男性はたしかこのようなことを述べていました。
「若い世代には分かってもらえないと思うが、私のように無茶苦茶な人生を歩んでいると、死ぬまでに人のために役立つことをしたいっていう欲求が強くなるんだ」
この言葉が、なぜか私の胸にずっと引っかかっており、私がGINA設立を決意するきっかけとなったのは事実です。
私の人生など、この男性のものからみると、比較するのもおこがましいほど取るに足らないものです。そしてこんなことを言えばこの男性に失礼だとは思うのですが、私はこの男性の言葉に「共感」しています。
私は20代前半までは、社会貢献どころか、低次元の利己的な欲求のみに支配されて生きてきました。25歳のときに、社会学部大学院の受験を考え、それが最終的に医学部受験に変わりました。この動機は「勉強がしたい」という欲求で、これは必ずしも低次元とは言えないでしょうが、それでも「利己的」な欲求であったことには変わりありません。
私が医師になることを考え始めたのは医学部3年生、30歳のときでした。病気から社会的な差別を受けている人の力になりたい、というのがそのときの理由でした。これは「利己的」とは言えないとは思いますが、この時点ではNPOなどはまだ頭にのぼることはありませんでした。
医師3年目のとき、タイに出向き、社会から家族から、そして病院からも差別を受けているエイズに苦しんでいる人たちに直面し、次いでエイズ孤児たちの存在を知るようになり、少しでもこういった人たちに貢献したいと感じた気持ちがGINAの設立につながりました。
私は当分の間、日本で医師をおこないますが、これは異国の地で苦しんでいる人よりも力になるべき人は身近にいると考えているからです。しかし、それでも日本では考えられないような過酷な環境で暮らさざるを得ない人たちに少しでも貢献し続けたいと考えています。
最近、ある雑誌でNPOを設立した人の記事を読みました。その人は40代半ばで地域社会に貢献するためのNPOを設立し、さらに現在はインターネットを使った人生相談もおこなっています。
この人が書いた記事のなかに興味深い文章があります。自分の値打ちということを考えたとき、20代ならそれは「モテるか?」、30代なら「カネあるか?」と「社内的なオレのポジションは?」で、40代になり「オレは人の役に立てるのか?」となったそうです。
やはり人間は年齢を重ね、経験を積むにつれて、「人の役に立つ」あるいは「社会貢献」といったことに対する欲求が強くなってくるものなのでしょう。
私は20代の頃には、ボランティア活動など考えたことすらありませんでしたし、「利他的な行動」などといったことは、家族のための行動を除けば、あり得ないと思っていました。
もちろん、ボランティア、社会貢献などをすることによって、充足感が得られますから、人の役に立つ行動も「利己的」な側面を孕んでいるという見方もできるでしょう。しかしながら、結果としてそれが「貢献」につながるなら、「利他的」であるとも言えるわけで、他人にも自分自身にも満足感を与える、極めて安定した力強い欲求が「人の役に立ちたい!」というものだと私は考えています。
ところで、現在日本に存在するNPO法人は約2万8千、NPO法人への寄附金総額は約7千億円です。一方アメリカは、NPO法人数が約90万、寄附金総額は24兆円です(日本経済新聞2006年11月3日)。日本はアメリカの3%にも満たないのです。
NPOを設立したり、NPOに寄付したりすることだけが「人の役に立つ」わけではありませんが、NPO法人なら活動内容も会計報告も透明化していますから、「人の役に立つ」きっかけとしてもっと注目されてもいいのではないかと思います。
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