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2013年7月2日 火曜日

2012年8月27日(月) 太っているだけなら早死にしない?

 数年前から、単に太っているだけなら寿命が短くなるわけではない、あるいは、少し太っている方が長生きする、という研究が相次いでいますが、新たに「肥満は短命のリスクでない」とする研究が、医学誌『JABFM(Journal of the American Board of Family Medicine)』2012年7-8月号(オンライン版)(注1)で発表されました。

 この研究は、米カリフォルニア大学サンディエゴ校によりおこなわれています。研究の対象者は、2000~2005年に実施された「Medical Expenditure Panel Survey(MEPS)」という調査に参加した18~90歳の男女約51,000人です。身長と体重から算出したBMI、糖尿病・高血圧の有無を調べ、6年間の追跡調査がおこなわれています。追跡期間中に死亡したのは全体の3.1%だったそうです。

 この研究では対象者を5つのグループに分けています。BMI20未満(注2)の「低体重群」、BMI20~25未満の「普通体重群」、BMI25~30未満の「過体重群」、BMI30~35未満の「肥満群」、BMI35以上の「超肥満郡」の5つです。

 分析の結果、「普通体重群」「過体重群」「肥満群」では、糖尿病・高血圧の有無に関わらず寿命に差はありませんでした。「超肥満群」では、死亡のリスクが高いという結果がでていますが、糖尿病や高血圧の患者を除いて分析すると有意差が消失したそうです。つまり、太っているからといって必ずしも短命というわけではなく、超肥満であっても糖尿病や高血圧がなければ早死にするわけではない、ということになります。

 さらに、糖尿病や高血圧を持っていない「肥満群」では、6年間の平均余命に及ぼすリスクが「普通体重群」に比べ低くなる(0.81倍)という驚くべき結果もでています。また、糖尿病で早死にするリスクは、「肥満群」や「超肥満群」よりも「低体重群」の方が高いという、これまた意外な結果となっています。

 「低体重群」にとって好ましくないデータはまだあります。「低体重群」のグループは、糖尿病や高血圧に関係なく、「普通体重群」に比べ死亡リスクが1.8~1.9倍にもなったというのです。

 この研究が発表されたのとほぼ同時期に、医学誌『JAMA』2012年8月8日号(オンライン版)(注3)に似たような研究が発表されました。その研究では、「糖尿病発症時に正常体重であれば、過体重・肥満であった場合と比べると、死亡リスクが約2倍となる」、としています。

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 これら2つの研究をまとめると、①やせていれば寿命は短い。逆に少々の肥満があっても問題ない、②「超肥満」であっても糖尿病や高血圧がなければ問題ない、③肥満がない状態で糖尿病に罹患すれば死亡リスクが上昇する、となります。

 しかし、肥満は糖尿病や高血圧を導きやすい、というのもまた事実です。特に日本人は欧米人に比べると、肥満に耐えられない、つまり、肥満になる前に糖尿病などを発症しやすい、と言われています。

 あまりこういった研究には影響を受けずに、太らないことに注意する方が賢明だと私は考えています。

(谷口恭)

注1 この論文のタイトルは、「Body mass index, diabetes, hypertension, and short-term mortality:
a population-based observational study, 2000-2006」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://www.jabfm.org/content/25/4/422.full.pdf+html?sid=33ede6ef-8e8b-4a69-b03a-945955974e11

注2 BMIとは体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割った数字です。この研究のグループで考えると、身長を170cmとすれば、
低体重群:57.8kg未満
普通体重群:57.8kg~72.75kg
過体重群:72.75~86.70kg
肥満群:86.70~101.15kg
超肥満群:101.15kg以上
となります。

注3 この論文のタイトルは、「Beyond the Obesity Paradox in Diabetes, Fitness, Fatness, and Mortality」で、下記のURLで概要を読むことができます。(しかし、この概要には重要なことがほとんど書かれていません・・・)

http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1309157

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2013年7月2日 火曜日

2012年8月31日(金) 血液型で心疾患のリスクが異なる

 今も昔も「B型の性格は・・・」「だからAB型のやつは・・・」といった話が好きな人は少なくないようですが、血液型による性格診断が科学的に実証されたことはありません。しかし、血液型により(心筋梗塞や狭心症といった)虚血性心疾患のリスクが異なる、という興味深い研究が、医学誌『Arteriosclerosis,
Thrombosis and Vascular Biology』2012年8月14日(オンライン版)に掲載されました(注)。

 この研究は米国ハーバード大学公衆衛生学教室によっておこなわれています。研究の対象者は米国看護師健康調査(the Nurses’Health Study, NHS)に参加した62,073人の女性と、米国医療従事者追跡調査(the Health Professionals Follow-up Study, HPFS)に参加した27,428人の男性です。20年以上にわたり追跡調査をした結果、NHSでは2,055人が、HPFSでは2,015人が虚血性心疾患を発症しています。

 そこで発症者を血液型で分析してみると、O型の人のリスクが最も低いという結果がでています。最も高いのはAB型で、O型の人に比べると23%も心疾患のリスクが高くなっています。B型では11%、A型では5%のリスク上昇が認められています。

 虚血性心疾患の明らかなリスクに喫煙、体重、病歴(高血圧や高コレステロール血症)などがありますが、今回の研究ではもちろんこのような他のリスクは除外してあります。なぜ、このように血液型で差が出るかについて、研究者は「O型には血をサラサラにして固まりにくくする未知の因子があるのではないか」と推測しているようです。

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 今回の研究の対象者はほとんどが白人であるために、他の人種でも同様の結果がでるかどうかは不明です。したがって日本人であてはまるかどうかは分かりません。仮に日本人でも同様のことが言えるとしても、虚血性心疾患のリスクが血液型よりも、喫煙、体重、運動不足、糖尿病、高血圧などの方がはるかに高いのは自明です。

 自分はO型だから安心・・・、などとは決して考えないように・・・。

(谷口恭)

注:この論文のタイトルは、「ABO Blood Group and Risk of Coronary Heart Disease in
Two Prospective Cohort Studies」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://atvb.ahajournals.org/content/32/9/2314.abstract?sid=839f8123-6b58-4f41-9b4b-ac4acefa33fd

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2013年7月2日 火曜日

2012年9月3日(月) 人間ドックの「異常なし」は過去最低

 すでに各マスコミでも報道されていますが、日本人間ドック学会は、2012年8月24日、2011年に人間ドックを受診した全国の約313万人について、「異常なし」とされた人の割合が7.8%であり、これは過去最低になることを発表しました。

 異常の内訳をみてみると、最多が「肝機能異常」で33.3%、2番目が「高コレステロール」で29.8%、以下、「肥満」27.6%、「血糖値異常」23.2%、「高血圧」21.0%、「高中性脂肪」15.3%と続きます。

 地域別では、異常なしが最も少なかった(異常ありが多かった)のは、順に、近畿(5.2%が異常なし)、北海道(9.8%)、東北(7.2%)、関東甲信越(7.6%)、東海北陸(7.4%)、九州沖縄(8.9%)、中国四国(12.6%)となります。

 人間ドックでみつかった悪性腫瘍は、多い順に胃ガン、大腸ガン、肺ガンとなるようです。

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 企業などでおこなわれる定期健康診断の結果は毎年厚生労働省から公表されます。2011年の結果は「有所見率」が52.7%で、これは「異常なし」が47.3%(100 – 52.7 = 47.3)ということになります。人間ドックで「異常なし」は10%未満で、定期健康診断での「異常なし」は約半数となります。なぜこのような差が生じるのでしょうか。

 定期健康診断での異常は、多いものから、脂質異常、肝機能異常、血圧異常、血糖異常です。なぜ最多が肝機能異常でないのかというと、定期健康診断では「高コレステロール」と「高中性脂肪」を合わせて「脂質異常」として算出しているからだと思われます。定期健康診断には「肥満」という項目がありませんから、もしも「肥満」を「有所見」とすれば、定期健康診断でも異常なしは1割未満となるのでしょうか。

 不健康な人が人間トックを受けて、健康な人は定期健康診断を受けている、といったことがあるのでしょうか・・・。

 人間ドック学会のデータにも定期健康診断のデータにも共通することがひとつあります。それは、年々「異常あり」が増加しているということです。定期健康診断でデータが最も古い1990年(平成2年)は、有所見率が23.6%と2011年の半分以下です。日本人が不健康になる一方、というのは双方のデータから言えることだと思います。

 今後日本人の平均寿命が短くなる、そのような時代が来る日は案外近いかもしれません・・・。

(谷口恭)

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2013年7月2日 火曜日

2012年9月15日(土) ダニに刺されて発症する新しい感染症

 2009年、米国ミズーリ州で57歳と67歳の男性が相次いでダニに刺され高熱がでる原因不明の疾患に罹患しました。二人の男性は、命はとりとめましたがその後2年間にわたり頭痛、倦怠感、記憶障害などに苦しめられたそうです。最終的には症状は回復しましたが原因は不明のままでした。

 この疾患の原因となった病原体は新種のフレボウイルスで「ハートランドウイルス(heartland virus)」と命名された。

 医学誌『New England Journal of Medicine』2012年8月30日号に掲載された論文(注1)でこのことが公表されました。

 研究者らは電子顕微鏡検査でこの病原体がブニヤウイルス科のウイルスであることを確認し、いくつかの精密検査を駆使してこのウイルスがフレボウイルス属に属する新種であることを証明しました(注2)。

 この新種のハートランドウイルスについて分かっていることはあまりありません。人から人へ感染するのか、感染すると全員が発症するのか、どのような経過をとるのか、後遺症を残すことがあるのか、といったことは現時点では分かりません。

 媒介するダニは、A. americanumと呼ばれるダニで、背中の1つ星模様が特徴だそうです。

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 ダニに刺されて発症するのは、刺されたときにダニの体内に棲息していた病原体が侵入するからです。このようなダニが媒介する感染症はたくさんあり、日本でも日本紅斑熱、ライム病、ツツガムシ病などは今でもときおり報告があります。
 
 海外では、ロッキー山紅斑熱(北米)、クリミア・コンゴ出血熱(アフリカ・中東など)、ダニ媒介性回帰熱(イベリア半島やアジア西部の半島)、ダニ媒介性脳炎(ロシア春夏脳炎ウイルス、中部ヨーロッパ脳炎ウイルスなど)があります。これらには死に至ることもあり、発生している地域に渡航する際には注意が必要です。

 また、ダニ刺されは、こういった感染症に罹患しなかったとしても激しい痒み(ときに痛み)に苦しめられますから、野外に出かけるときは、露出部位を減らし、虫除けスプレーをする、などの対策をとるべきです。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「A New Phlebovirus Associated with Severe Febrile Illness in Missouri」で、下記のURLで読むことができます。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1203378

注2:少し補足しておきます。生物の分類は、大きなグループから「界」「門」「綱」「目」「科」「属」「種」となります。例えばヒトであれば、動物界・脊椎動物門・哺乳綱・霊長目・ヒト科・ヒト属・ホモサピエンス種となります。新種のハートランドウイルスは「ブニヤウイルス科・フレボウイルス属」ということになります。尚、ブニヤウイルス科は、ブニヤウイルス属、フレボウイルス属、ナイロウイルス属(Nairovirus)、ハンタウイルス属などに分類されます。フレボウイルス属は約30種あるとされています。

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2013年7月2日 火曜日

2012年9月28日(金) 重症化する新型コロナウイルス

 重症化する新型コロナウイルスが発見された・・・

 WHO(世界保健機関)は2012年9月23日と25日に、肺炎を発症し重体となった40代のカタール人男性から新型のコロナウイルスが検出されたことを公表しました(注1)。

 このカタール人男性は、2012年9月上旬にサウジアラビアとカタールを旅行中に呼吸器症状を発症し、ドーハの集中治療室に入院となり、9月11日にイギリスに航空搬送されています。急性腎不全も併発しているそうです。

 HPA(The Health Protection Agency of the UK、英国健康予防局)の調査により、新種ウイルスが検出され、このウイルスはコロナウイルスの新型と認定されたようです。

 HPAによれば、このウイルスは2012年6月に死亡したサウジアラビア人の肺の細胞から採取されたウイルスと99.5%一致するそうです。このサウジアラビア人の調査はオランダのエラスムス大学がおこなっていました。

 コロナウイルスといえば、よくある風邪の代表的な原因ウイルスのひとつですが、2002年から2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)もコロナウイルスの1種です。WHOの報告によれば、今回カタール人が発症したものはSARSの原因ウイルスとは異なる、まったく新しいタイプのコロナウイルスとなるそうです。

 この新型ウイルスは今後急速に広まる可能性もあります。9月26日、デンマークのオーデンセ大学病院は、このウイルスに罹患した可能性のある5人(うち2人は5歳未満)を病院内に隔離したことを公表しました。同院によりますと、5人のうち4人は同一家族で父親がサウジアラビアへの渡航歴があり、もう1人はカタールへの渡航歴があるそうです。
 
 これら一連の動きを受け、サウジアラビア保健省は、9月26日、感染予防策を講じるとの発表をおこないました。入国者の監視を強化し、感染の疑いのある人に検査を実施していくそうです。サウジアラビアでは、10月に「ハッジ」と呼ばれるイスラム教聖地メッカへの巡礼があり、世界中から200万人以上が集う予定だそうです。

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 現時点では、WHOは旅行規制の推奨はおこなっていないようですし、日本の外務省のウェブサイトにも情報がありませんが(注2)、今後どのような指針が発表されるか分かりません。中東方面に渡航される方は充分注意してください。

(谷口恭)

注1:WHOのこの発表文のタイトルは「Novel coronavirus infection – update」で、下記のURLで閲覧することができます。

http://www.who.int/csr/don/2012_09_25/en/index.html

注2:外務省のウェブサイトには情報がありませんが、FORTH(厚生労働省検疫所)のサイトには簡単な説明があります。興味のある方は下記を参照ください。

http://www.forth.go.jp/news/2012/09261721.html

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2013年7月2日 火曜日

2012年9月30日 RSウイルス感染症に注意

 乳幼児のかぜの原因ウイルスとして有名なRSウイルスが流行しています。昨年(2011年)も過去最多と報じられていましたが、今年はそれを上回る勢いです。

 国立感染症研究所の報告によりますと、2012年9月の1週間あたりの患者数は2,785人に上り、これは2004年~2011年の同時期平均の6倍以上になります(注1)。

 地域ごとにみてみると、東京都、大阪府、福岡県、宮崎県で罹患者が多いことが分かります。9月26日には北九州市の幼稚園で学級閉鎖が実施されたことが発表されました。

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 RSウイルスは乳幼児に罹患すると肺炎や脳炎に進行し重症化することもあります。このため疑われれば入院となることも多い感染症です。RSウイルスには感染の有無を調べる「検査キット」がありますが、保険適用は「入院患者のみ」とされています。また、報告が義務付けられているのは「小児科の定点」のみです。

 したがって、小児科でない一般内科などで発見された感染者(小児も成人も)、小児科であっても「定点」に指定されていない医療機関に入院して感染が発覚した症例、「定点」の小児科に受診したけれども(重症化せず)入院にいたらなかった例などはカウントされていません。また、RSウイルスは、近年小児だけでなく高齢者の介護施設などでも集団発症することが指摘されています。ですから実際の感染者は報告数の数倍~数十倍になるでしょう。

 今月(2012年9月)に入ってから、谷口医院にも風邪の患者さんが急増しています。比較的重症な人のなかに、細菌感染は考えにくく、インフルエンザでもない、原因不明のウイルス感染と考えられる症例があります。これらのいくらかはRSウイルスが原因なのかもしれません。

 RSウイルスには特効薬もなければワクチンもありません。(月並みな言い方ですが)これからの流行シーズンに向けてうがい・手洗いをしっかりしましょう。
 
 尚、流行している都道府県は、昨年の発表でも東京、大阪、福岡、宮崎が上位4県でした。なぜこの4県で例年RSウイルスが流行するのか・・・。私には不思議でなりません。

(谷口恭)

注1:国立感染症研究所が発行している「IDWR 2012年第36号」に今年のRSウイルスに関する詳しい情報が掲載されています。興味のある方は下記を参照ください。

http://www.nih.go.jp/niid/ja/rs-virus-m/rs-virus-idwrc/2662-idwrc-1236.html

参考:医療ニュース
2011年9月30日 「RSウイルスがアウトブレイク」

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2013年7月2日 火曜日

2012年10月1日(月) コーヒーは消化管疾患と無関係

 コーヒーは身体にいいことばかりで、いくつかのガンの予防にもなって、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の予防にもなるんですよ、ということをこのサイトで何度かお伝えしてきました。しかし、コーヒーは苦手、という人が少なくないのも事実です。コーヒーが苦手な人の意見で多いのが「胃に悪いのではないか」というものです。

 コーヒー摂取と代表的な4つの上部消化管疾患にはなんら関係がない・・・

 これは、2012年9月13日に東京で開催された第16回コーヒーサイエンスセミナーで東大病院消化器内科の医師が報告した研究結果です(注1)。「4つの上部消化管疾患」とは、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃食道逆流症、非びらん性胃食道逆流症の4つです。

 この研究では、過去に胃の病気を指摘されたことがない健康診断で内視鏡検査(胃カメラ)を受けた8,013人(男性4,670人、女性3,343人)が対象とされ、コーヒー摂取と4つの上部消化管疾患発症の関連が調べられています。

 内視鏡検査及び問診から発覚したのは、胃潰瘍172人、十二指腸潰瘍282人、胃食道逆流症994人、非びらん性胃食道逆流症1,118人です。1日のコーヒー摂取量については、1杯未満が2,473人、1~2杯は2,978人、3杯以上は2,562人とのことです。これらからコーヒー摂取と消化管疾患の関連性を分析したところ、有意な差は認められなかったそうです。

 逆に、これら4つの疾患と有意な関連が認められたのは下記の通りです。

・胃潰瘍:ピロリ菌陽性、高齢者、喫煙、男性
・十二指腸潰瘍:ピロリ菌陽性、ペプシノゲンⅠ/Ⅱ比高値、BMI低値、喫煙
・胃食道逆流症:ピロリ菌陰性、男性、BMI高値、ペプシノゲンⅠ/Ⅱ比高値、高齢者、喫煙、飲酒
・非びらん性胃食道逆流症:若年者、女性、喫煙、BMI高値

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 コーヒーが胃に悪いと考えられていた(いる)のは、コーヒー摂取により胃酸の分泌が亢進するからです。今回の研究から言えることは、「コーヒーで胃酸分泌が増えてもそれが消化管疾患の発生につながるわけではない」ということです。

 コーヒーの味や香りが嫌い、という人は別ですが、「胃に悪いからコーヒーを控えている」という人にとっては嬉しい研究結果となるでしょう。ただし、コーヒーが身体に有害とする研究結果も存在することは覚えておくべきでしょう。(下記コラムも参照ください)

 最後にコーヒーの豆知識を2つ紹介したいと思います。1つは、日本人は世界的にみてもコーヒー好きで、コーヒー消費量は世界第4位ということです。ちなみに、1位はアメリカで、2位がブラジル、3位がドイツです。私のイメージでは、フランスやイタリアが多いような印象があったのですが、ヨーロッパではドイツが1位で、そのあとに日本がきているというのは少し意外でした。

 もうひとつの豆知識は、本日(10月1日)が「コーヒーの日」ということです。これを知ったからといって別にいいことはありませんが・・・。

(谷口恭)

注1(2013年9月2日付記):この研究結果は後に論文にされ、医学誌『PLoS One』2013年6月12日号(オンライン版)に掲載されました。タイトルは、「No Association of Coffee Consumption with Gastric Ulcer, Duodenal Ulcer, Reflux Esophagitis, and
Non-Erosive Reflux Disease: A Cross-Sectional Study of 8,013 Healthy Subjectsin Japan」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0065996

参考:
はやりの病気第22回(2005年12月) 「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
はやりの病気第30回(2006年4月) 「コーヒー摂取で心筋梗塞!」
医療ニュース2008年9月13日 「子宮体癌の予防にコーヒーを」
医療ニュース2008年6月30日 「コーヒーはいいことばかり」
医療ニュース2007年10月16日 「お酒の代わりにコーヒーを、すい臓ガンを予防」  
医療ニュース2007年9月3日 「コーヒーは肝臓癌のリスクを下げる」

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2012年10月12日(金) 10月15日は「世界手洗いの日」

 10月1日が「コーヒーの日」ということを先日お伝えしましたが、10月15日は「世界手洗いの日」です。これはユニセフによって2008年に定められたものです。

 ユニセフによりますと、5歳の誕生日を迎えずに、命を終える子どもたちは世界中で年間760万人もいるそうです。もしも清潔に手洗いができていれば年間100万人もの子供たちの命を守ることができるそうです。

 日本ユニセフ協会は、日本の子供たちにも正しい手洗い方法を知ってもらうために専用ウェブサイトを設けています(注1)。

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 手洗いが感染症予防に大変有効なのは言うまでもないことであり、我々日本人のことだけを考えるならば、わざわざ「手洗いの日」など意識しなくてもいいのではないか、と個人的には思います。

 しかし、世界には、石ケンがないどころか、充分な水がなくて手洗いが充分にできない子供(大人もですが)が少なくない、ということを多くの人に思い出してもらう日になればいいなと思います。

 トイレで大便をした後に、お尻を手でふいて、その手を洗える水が不十分、というのは実際にそのような地域に行ってみないとわかりにくいかもしれません。清潔な便器と清潔な紙が用意されていて、手洗いに充分な水と石ケンが使えて、しかもお尻をふいた紙をそのまま便器に流せる、というのは、実は大変贅沢なことなのです。(下記、マンスリーレポートも参照ください)

谷口恭

参考:マンスリーレポート2012年9月号 「トイレの使い方、間違ってませんか?」

注1:このウェブサイトのURLは下記です。ビデオやポスターもダウンロードできますので教育者の方は子供たちに教えるツールになるかもしれません。
http://handwashing.jp/

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2012年10月27日(土) セアカゴケグモに注意

 セアカゴケグモの被害が相次いでいます。

 今年(2012年)7月23日には、大阪府泉佐野市で11歳の男児が右の胸をかまれて治療がおこなわれたことが報告されています。(どのような状況でセアカゴケグモが胸にかみついたのかはわかりません)

 9月3日には福岡市東区で86歳の女性が足の指をかまれて医療機関を受診しています。この女性は重症化し、呼吸困難も生じ、抗血清まで使用されたそうです。

 セアカゴケグモは、ヒメグモ科に分類される小型の有毒グモで、メスが人をかむそうです。メスの体長は約1cm、黒色で腹部に砂時計型の赤色紋があるのが特徴です。オスは約0.4mmとメスの半分以下のサイズで、褐色で腹部に白い斑紋があるそうです。(メスのみがかむのかもしれませんが、小さなオスにはかまれても医療機関を受診するほどでないのかもしれません)

 セアカゴケグモは、もともと日本には生息していませんでしたが、オーストラリアから輸入された材木やコンテナなどに付着して国内に定着したと考えられています。1995年に大阪府高石市で初めて見つかったときは大きく報道されましたから、当時のニュースを覚えている方も多いのではないでしょうか。その後、おそらく日本国内での物資の移動が原因で、生息域が拡大しています。現在では、北海道や東北地方を除く日本のほぼ全域で確認されています。工場や住宅地のブロックや、道路の溝、公園の植え込みなどで見つけられることが多いそうです。

 セアカゴケグモの毒は「αラトロトキシン」と呼ばれる神経毒です。かまれてから、5~60分ほどで強い痛みが生じ、徐々に広がるそうです。多くは軽症ですむそうですが、冒頭で紹介した福岡の女性のように、重症化することもあるようです。

 国立感染症研究所昆虫医科学部の報告によりますと、「セアカゴケグモの被害は1995年以降20例ほど報告されているが、国内での死亡例はない」、とのことです。「小児や高齢者では重症化する可能性もあるが抗血清を適切に使えば対処できる」、そうです。

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 私自身はセアカゴケグモの被害にあわれた患者さんを診察したことがないので推測の域を超えませんが、診察した医師の報告によれば、治療にはコデインやモルヒネといった麻薬やダントロレンなどの筋弛緩薬が用いられています。こういった薬剤を用いなければならない症例は入院が必要ですし、「軽症」とは呼べないのではないかと思います。

 上記に「抗血清を適切に使えば対処できる」とありますが、セアカゴケグモの抗血清はそもそも日本には存在しませんし、抗血清を使うときはアナフィラキシーを含む重篤な副作用を考えなければなりません。

 セアカゴケグモのいそうな溝や公園には近づかないようにしましょう、などと言うと子供の遊び場を制限することになりますし、これからの対策には苦労することになるかもしれません。

(谷口恭)

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2013年7月2日 火曜日

2012年11月3日(土) マルチビタミン摂取でわずかながらもガン減少

 最近のビタミン剤に関する研究は、有害性の報告が多く、身体に良いとされるものはほとんど目にしないのですが、マルチビタミンの有益性についての報告がありましたのでお知らせいたします。

 医学誌『JAMA』2012年10月17日号に掲載された論文(注1)によりますと、男性がマルチビタミンを摂取した場合、わずかではあるもののガンのリスクが低下するそうです。

 この研究は米国ハーバード大学の研究者J. Michael Gaziano氏らによっておこなわれています。米国の男性医師を対象とした「the Physician’s Health Study(PHS)Ⅱ」と命名された対照試験(RCT)の解析がおこなわれています。

 この調査では、50歳以上の男性医師14,641人(平均年齢は64.3歳)が登録され、7,317人が毎日マルチビタミンを服用し、7,324人がプラセボ(偽薬)を内服しています。1997~2011年の期間に合計2,669例のガンが確認されています。そのうち約半数の1,373例は前立腺ガンだそうです。

 分析の結果、ガン発症率(1年当たり、人口1,000人に対し何人発症するか)は、マルチビタミン摂取群で17.0、プラセボ群で18.3でした。これを統計学的に解析すると、マルチビタミン群でのリスク低下がわずかに認められることになるそうです。しかし前立腺ガンと大腸ガンでは有意なリスク低下は認められなかったそうです。

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 この結果をどうみるか、ですが、発症率が17.0と18.3ではそれほど大差があるようには思えません。この研究はアメリカのものですが、日本にはビタミン剤で発ガンリスク上昇とする研究もあります(下記医療ニュース参照)。

 確実にいえることは、ガンを予防したいならサプリメントよりもまずは生活習慣の見直しをすべき、ということです。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは、「Multivitamins in the Prevention of Cancer in Men The Physicians’ Health
Study II Randomized Controlled Trial」で、下記のURLで全文を読むことができます。

http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1380451

 
参考:医療ニュース
2011年11月14日 「ビタミンEの発ガンリスク」  
2011年8月26日 「ビタミン剤で発ガンのリスク上昇」

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