医療ニュース

2018年5月28日 月曜日

2018年5月29日 スタチンは認知症の予防になるか

 スタチンと言えば世界中で最も使われている悪玉コレステロール(LDL)を下げる薬ですが、コレステロール以外にも様々な効用があるのではないかと言われています。一方、糖尿病のリスクを上げることも指摘されています。

 今回お伝えしたいのは、「スタチンが認知症のリスクを下げる」とする研究です。医学誌『Scientific reports』2018年4月11日号に掲載されています(注1)。この研究は、新たに対象者を探したのではなく、既存の研究25個を総合的に分析しなおす、いわゆる「メタアナリシス」でおこなわれています。結果は下記の通りです。

 すべての認知症:相対リスク0.849(認知症のリスクを15%下げる)
 アルツハイマー型認知症:相対リスク0.719(28%下げる)
 軽度認知障害:相対リスク0.737(26%下げる)
 脳血管性認知症:相対リスクは認められず

 さらに本研究ではスタチンの種類でリスク低下が検討されています。スタチンは水溶性(hydrophilic statin)と脂溶性(lipophilic statin)に分類することができます(注2)。認知症リスク低下について次のような結果となりました。

 水溶性スタチン:すべての認知症のリスクを下げる(相対リスク0.877)、
         アルツハイマー型認知症のリスクを下げる(相対リスク:0.619)

 脂溶性スタチン:すべての認知症のリスクを下げない
         アルツハイマー型認知症のリスクを下げる(相対リスク:0.639)

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 今回の研究はメタアナリシスですからエビデンスレベルは高いと考えていいと思います。しかし、一方ではエビデンスに基づいた検証をおこなうCochrane Libraryでは否定的な見解が示されています(注3)。

 過剰な期待は禁物ですが、特にアルツハイマー型認知症のリスクのある人には可能なら脂溶性よりも水溶性スタチンを選択する方がいいかもしれません。この論文を意識しているわけではありませんが、現在(医)太融寺町谷口医院で処方しているスタチンの95%以上が水溶性のものです。

注1:この論文のタイトルは「Use of statins and the risk of dementia and mild cognitive impairment: A systematic review and meta-analysis」で、下記URLで全文を読むことができます。

https://www.nature.com/articles/s41598-018-24248-8

注2:水溶性スタチンは「プラバスタチン」(先発品はメバロチン)と「ロスバスタチン」(クレストール)で、残りのスタチン(シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン)は脂溶性です。

注3:Cochrane Libraryのウェブサイトを参照ください。タイトルは「Statins for the prevention of dementia」です。下記のURLで閲覧することができます。

http://cochranelibrary-wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD003160.pub3/full

参考:メディカルエッセイ
第133回(2014年2月)「スタチンの功罪とリンゴのことわざ」

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2018年5月28日 月曜日

2018年5月28日 避妊用ピルは自殺のリスクを上昇させるのか?

 避妊用ピル(以下「ピル」)が自殺のリスクになるとする意見は昔からあったものの、それを検証したエビデンスの高いデータはなく、また、その逆にピルを使用することでイライラや不安感などが解消されることが多いことから、ピルは精神状態を安定させると言われています。

 ところが、「ピルは自殺のリスクを上げる」という大規模調査が報告されました。

 医学誌『The American Journal of Psychiatry』2017年11月17日に掲載された論文(注1)を紹介します。

 研究の対象者はデンマークの女性約50万人で平均年齢は21歳。調査期間の1996年から2013年の間に15歳となった女性がその後自殺を試みたかどうかが調べられています。追跡期間は平均8.3年です。

 全女性の初回の自殺未遂(注2)が6,999例、自殺既遂(注2)が71例です。ピルを含む避妊用薬剤の自殺のリスクは、すべてのピルを合わせて推計すると、自殺未遂が1.97倍、自殺既遂はなんと3.08倍に上昇していました。ピルの種類ごとの自殺未遂のリスクは次のようになります。

 通常のピル:1.91倍 
 プロゲスチン単独ピル(注3):2.29倍
 避妊リング(ホルモン剤が膣内に放出されるタイプ):2.58倍
 避妊パッチ(注4): 3.28倍

 興味深いデータがもうひとつあります。自殺未遂が最も増えるのはピルを開始して2カ月の時点であることが分かったというのです。

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 衝撃的な結果だと思います。私がこの論文を目にしたのは公表されてから5カ月以上たってからだったので、きっと(日本では無関心でも)世界中で話題になっているに違いないと思ってネット検索してみたのですが、意外なことに世界のメディアもあまり取り上げていません。

 この研究は「前向き研究」であり、対象者が50万人と大規模ですからエビデンスレベルは高いと言えます。さらに興味深いのは、通常のピルよりも「安全」と考えられている他の3種のホルモン剤の方が、リスクが上昇していることです。

 私自身の実感としては、冒頭で述べたように、ピルを用いることで精神状態が安定するケースを数多く診てきていますから俄かには信じがたい結果です。ですが、これからは処方前に自殺のリスクがないかどうか検討すべきだと考えています。そして、少なくとも内服開始2カ月は注意を払わなければなりません。

注1:この論文のタイトルは「Association of Hormonal Contraception With Suicide Attempts and Suicides」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://ajp.psychiatryonline.org/doi/full/10.1176/appi.ajp.2017.17060616

注2:原文のsuicide attemptを「自殺未遂」、suicideを「自殺既遂」と訳しています。自殺未遂は何らかのアクションを起こしたものの結果的に死に至らなかったケース、自殺既遂は死亡した例です。

注3:海外ではPOP(Progestin-only Pill)と呼ばれているもので、日本では「ミニピル」と言われることがありますが、認可されていません。

注4:ホルモン剤の貼付薬です。海外では使用者が増えていますが日本では未認可です。

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2018年5月25日 金曜日

2018年5月25日 日焼け止めが禁止されてもサプリメントはNG

 南の島は心も身体も癒してくれますが、紫外線には注意しなければなりません。したがって南のリゾート地に行くときにはサンスクリーン(日焼け止め)(と虫よけ)は忘れてはいけません。

 ですが、ハワイのビーチではサンスクリーンの使用が禁止されるかもしれません。

 2018年5月3日の「The New York Times」によれば、5月1日、ハワイ州は一部のサンスクリーンの販売を禁止することを決めました。

 サンスクリーンに含まれる化学物質オキシベンゾン(oxybenzone)とオクティノクセイト(Octinoxate)がサンゴを漂白するというのが禁止にする理由で、この規則が実行されるのは2021年1月1日の予定です。

 「The New York Times」によれば、世界中で毎年14,000トンのサンスクリーンが海洋に蓄積され、ハワイやカリブ海のサンゴ礁を傷つけています。2015年に非営利組織のHaereticus Environmental Laboratoryが調査したところ、毎日平均2,600人が訪れるオアフ島のハナウマ・ベイではサンゴ礁に毎日平均412ポンド(187キログラム)のサンスクリーンが沈着していたそうです。

 こうなると、サンスクリーン以外に紫外線をカットする方法はないのかと考えたくなり、一部のサプリメントはそれを謳っています。しかし、2018年5月22日、米FDAはこういった製品に対して「警告」を発しました。

 FDAは、はっきりと「サンスクリーンに置き換わる錠剤やカプセルはない」(There’s no pill or capsule that can replace your sunscreen.)と断言し、消費者に誤った情報を与え、効果のないサプリメントを売りつけている業者に警告文(warning letters)を発送しました。該当する製品名は、「Advanced Skin Brightening Formula」、「Sunsafe Rx」、「Solaricare」、「Sunergetic」などです。

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 皮膚がんの発症率が高い米国では紫外線カットやサンスクリーンの話がよく取り上げられます。日本では皮膚がんがさほど多くないことと、ビタミンDの体内合成に紫外線が必要なことから、むしろ日光浴が推奨されることもあります。ですが、ビタミンDは魚介類やきのこなどから摂れますから極端なベジタリアン(ヴィーガンと呼ばれる人たち)以外はあまり心配する必要はありません。

 さて、これからの紫外線対策を考えましょう。ハワイで法案が可決されたことは大きな意味を持ちます。ハワイに行かないという人は関係ないとも言い切れず、他のリゾート地が追随する可能性もあります。法が実行される2021年までに「使えるサンスクリーン」を探しておく必要があります。

 しかし、日本人はあまり心配ないかもしれません。太融寺町谷口医院でサンスクリーンの相談をされる人はたいてい敏感肌で、そういった人たちには紫外線吸収剤が含まれていないもの(紫外線散乱剤だけでできているもの)を勧めています。禁止されるオキシベンゾンもオクティノクセイトも共に紫外線吸収剤ですから、心配不要というわけです。

参考:
アトピー性皮膚炎 塗り薬の使い方Q&A
Q7:サンスクリーン(日焼け止め)はどのようなものを選べばいいのでしょうか。

はやりの病気第15回(2005年8月) 日焼け -日光皮膚炎-

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2018年5月14日 月曜日

2018年5月14日 PPI使用で脳梗塞のリスク認められず

 これまで安全で有効と考えられていた胃薬PPI(プロトンポンプインヒビター)が最近になり副作用の報告が相次いでいるということをこれまで何度かお伝えしてきました(下記「医療ニュース」参照)。

 今回お伝えしたい研究はその”逆”で、「PPIは脳梗塞のリスクにならない」とするものです。

 医学誌『Gastroenterology』2018年4月号(オンライン版)に論文(注1)が掲載されています。研究の対象は、「Nurses’ Health Study」と呼ばれるデータベースに登録された女性68,514人(平均年齢65歳)と「Health Professionals Follow-up Study」というデータベースに登録された男性28,989例(平均年齢69歳)です。

 調査期間の12年間で合計2,599例(女性2,037例、男性562例)が脳卒中を発症(初発)しています。脳卒中の危険因子を考慮して、PPIと脳梗塞との関係を調べるとリスクが18%上昇していることが判りました。

 しかし、PPI使用の「適応」、具体的には、消化性潰瘍、胃食道逆流症、消化管出血の既往歴、H2ブロッカーの使用歴などを考慮して再度、関係を算出するとリスクは8%の上昇のみで、これは統計学的に有意にはならなかったということです。

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 この結果は少しわかりにくいです。PPIの「適応」(原文は「potential indications for PPI use」)を考慮した結果(原文は「after accounting for indications」)、リスク増加に有意差はなかった、ということです。

 ということは、「適応」(そもそもこれがこの論文では分かりにくい)を考慮しなければ、脳卒中の危険因子だけを考えて比較すると、有意差をもってPPIは脳梗塞のリスクになるということですから、やはりPPIは可能な限り避けるべき、ということになります。

 現在PPIは世界中で物議を醸しています。太融寺町谷口医院でも処方していますが、症状が改善すればH2ブロッカーなど他の薬剤に積極的に変更するようにしています。ですが、どうしてもPPIが必要という人もいます。PPIは、脳梗塞だけでなく認知症や骨粗しょう症のリスクも指摘されているわけですから、今後のさらなる研究結果を待ちたいと思います。

注1:この論文のタイトルは「No Significant Association Between Proton Pump Inhibitor Use and Risk of Stroke After Adjustment for Lifestyle Factors and Indication」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://www.gastrojournal.org/article/S0016-5085(17)36710-0/fulltext

参考:医療ニュース
2017年4月28日 胃薬PPIは認知症患者の肺炎のリスク
2017年11月15日 ピロリ菌除菌後の胃薬PPI使用で胃がんリスク上昇
2018年4月6日 胃薬PPIは短期使用でも骨粗しょう症のリスクに
2017年1月25日 胃薬PPIは細菌性腸炎のリスクも上げる
2016年8月29日 胃薬PPIが血管の老化を早める可能性
2017年1月23日 胃薬PPIは精子の数を減らす

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2018年4月28日 土曜日

2018年4月29日 肥満が酒さのリスク

 悩んでいる人が大勢いる割にはあまりメディアで報道されず、また、有効な治療法が確立していないこともありドクターショッピングを繰り返している人が多い「酒さ」について、過去に何度かお伝えしてきました。

 酒さの原因は依然「原因不明」です。ある程度遺伝的な要因があると言われている一方で、生活習慣に起因しているとも言われています。そのひとつが「肥満」で、それを調査した研究が発表されたので紹介しておきます。

 医学誌『Journal of the American Academy of Dermatology』2017年12月号(オンライン版)に論文(注1)が掲載されています。

 研究の対象は、米国で1991年から2005にかけて実施された「Nurses’ Health Study II」と呼ばれる調査に回答した89,886人です。14年以上にわたる調査期間中、酒さの診断がついたのは5,249例でした。

 興味深いことに、酒さの発症リスクはBMI(body mass index)(注2)が上るにつれて増加し、BMIが35.0以上であれば、BMI21.0~22.9の人と比べて酒さのリスクが48%も増えるという結果がでました。また、18歳以降に体重が増加した人は特にリスクが高くなり、10ポンド(約4.5kg)体重が増えると、リスクが4%増えるようです。

 また、BMIとは別にウエストとヒップのサイズ(waist circumference and hip circumference)が大きいほど酒さの発症リスクも有意に高くなっていたことが分かりました。

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 太融寺町谷口医院にも酒さの患者さんは少なくありませんが、肥満者はさほど多くなく、私の実感としては肥満が酒さのリスクとは思えません。もしかすると人種さがあるのかもしれません。ですが、肥満になっていいことは(おそらく)何もありませんから、やはり体重コントロールはすべきでしょう。

注1:この論文のタイトルは「Obesity and risk for incident rosacea in US women」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://www.jaad.org/article/S0190-9622(17)32265-X/fulltext

注2:BMIは体重(kg)を身長(m)の2乗で割って算出します。例えば、身長2メートルで体重88kgなら、88÷2の2乗=88÷4=22、となります。文中にでてくるBMI35というのは、例えば身長160cmなら体重は、35×1.6×1.6=89.6kgとなります。

参考:医療ニュース
2015年10月6日 「酒さ」の原因は生活習慣と遺伝
2016年6月30日  酒さが認知症のリスク
2017年5月11日 白ワインは女性の酒さのリスク 

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2018年4月6日 金曜日

2018年4月6日 胃薬PPIは短期使用でも骨粗しょう症のリスクに

 このサイトで何度も指摘している胃薬PPIの危険性については、ときおりマスコミでも報道されているようで、ここ1~2年でみれば、太融寺町谷口医院で「前の医療機関で処方されたんですけど大丈夫ですか?」と患者さんから質問される薬のナンバー1です。

 特に「PPI使用が胃がんのリスク」という報道は大変物議を醸しています。胃がん以外にも、認知症のリスクを上げる、血管の老化を早める、腸炎や肺炎にかかりやすくなる、精子の数が減る、など次々と否定的な見解が発表されています。

 今回は「PPIが骨粗鬆症のリスク」という報告です。

 医学誌『Current Opinion in Rheumatology』2016年7月号に掲載された論文(注1)に報告されています。この研究では、過去18カ月以内に公表されたPPIと骨粗鬆症リスクについての文献が分析(これを「メタ分析」と呼びます)することにより、より客観的な事実を導こうとしています。

 結果、たとえ短期間であってもPPIを使用すれば、骨粗鬆症および骨粗鬆症性骨折のリスクが高まることが判った、とされています。

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 PPIは胃炎や逆流性食道炎に対しては確かによく効く薬剤です。ですが、これまでは安全性が担保されていると考えられていたこともあり、あまりにも簡単に処方されすぎているように思えます。

 冒頭で述べたような「前の医療機関で処方されたんですけど…」と患者さんから相談されたとき、もちろん症状にもよりますが、H2ブロッカーに切り替えてもらうことがよくあります。それで(全例とはいいませんが)大部分は改善します。もしも、漠然とPPIを長い間飲んでいる人がいれば、一度他の薬剤への変更を検討してみるべきかもしれません。

注1:この論文のタイトルは「Proton pump inhibitors and osteoporosis」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://journals.lww.com/co-rheumatology/Abstract/2016/07000/Proton_pump_inhibitors_and_osteoporosis.13.aspx

参考:医療ニュース
2017年11月15日 ピロリ菌除菌後の胃薬PPI使用で胃がんリスク上昇
2017年4月28日 胃薬PPIは認知症患者の肺炎のリスク

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2018年4月6日 金曜日

2018年4月5日 コーヒーの発がん性をLA高等裁判所が認定

 コーヒーについて米国で驚くべきニュースが報じられました。

 米国ロサンゼルス高等裁判所がコーヒーの発がん性を認め、スターバックスなどコーヒーの販売業者に、「コーヒーには発がん性物質が含まれている」という警告を店内に表示するよう義務付けるというのです。2018年3月30日のAP通信が報道しています。

 この判決が下されたのは地方裁判所ではなく高等裁判所(Los Angeles Superior Court )です。スターバックスなど販売側は最高裁判所に上告することはできますが、この時点で相当大きな問題となっていると思われます。

 AP通信によると、原告側はコーヒーの焙煎過程で生じるアクリルアミドを取り除くか、警告の表示をするよう求めていました。これに対し、被告側(販売側)は、健康に影響が及ぶほどではなく健康上の利点が上回ることを主張していました。

 裁判所の判決は、「原告側は主張を裏付ける証拠を提出したのに対し、被告側の主張は根拠が不十分であった」、と同通信は報じています。

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 コーヒーはかつてはWHOも発がん性を指摘していました。しかし、2016年6月15日、WHOの下部組織であるIARC(International Agency for Research on Cancer、国際がん研究機関)は「発がん性を示す決定的な証拠はない」として、事実上「安全」であると公表しています。

 このニュース、日本ではあまり報道されていないようですが、もしも米国のスターバックスで「警告」が表示されるようになれば、おそらく日本の消費者団体も何らかの行動をおこすのではないでしょうか。

 コーヒーについてはこのサイトで何度も述べているように健康に寄与するエビデンス(科学的確証)がいくつもあります。カリフォルニアのこの判決には惑わされない方がいいのでは、というのが私の意見です。

参考:医療ニュース
2016年8月12日 加工肉はNGだがコーヒーはガンのリスクでない

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2018年3月30日 金曜日

2018年3月30日 3月24日は「世界の8つの記念日」のひとつ~結核~

 先日、3月21日は「世界ダウン症の日」であることをお伝えし、英国発の4分半の画像が世界中を感動の渦に巻き込んだ、というニュースを紹介しました。

 世界ダウン症の日は、健康に関する記念日のなかでは比較的有名な方ですが、全体からみたときにはマイナーです。では、もっと有名というか世界的に重要と考えられているのはどのような疾患かというと、WHO(世界保健機関)が公式に認定している記念日が合計8つあります(注1)。今回はそれらを紹介し、3月24日が記念日の「結核」について述べたいと思います。8つの記念日は以下の通りです。尚、日本語表記について、ここでは「~の日」という表現にしましたが、「~デイ」あるいは「~デー」と呼ばれることもあります。

3月24日   世界結核の日
4月7日    世界健康の日
4月の最終週  世界ワクチン週間
4月25日   世界マラリアの日
5月31日   世界禁煙の日
6月14日   世界献血の日
7月28日   世界肝炎の日
12月1日   世界エイズの日

 このように記念日は春に集中しています。結核の日が3月24日に定められたのは、結核菌を発見したドイツのロベルト・コッホが結核についての演説をおこなった日だからと言われています。

 世界結核の日は日本ではさほど盛り上がりません。世界マラリアの日が日本であまり(というかほとんど)取り上げられないのは日本にはマラリアがないからだと思いますが、結核は世界で最も死亡者の多い感染症ですし(注2)、日本でも少なくありません。たしかにピーク時からは大きく減少していますが、今も先進国のなかではかかり多いのです。

 WHOの2017年のレポートから少し抜粋してみます。まず、結核は世界で9番目に多い死因で、感染症では2位のHIV/AIDSを引き離し第1位です。(このレポートには記載はありませんが第3位はマラリアです) 

 2016年の結核による死亡者はHIV陰性者で130万人、HIV陽性者で37万4千人。2016年に新たなに結核を発症したのは合計で1,040万人。そのうち90%が成人。男性が65%。10%はHIV陽性者です。全体の56%が5つの国(インド、インドネシア、中国、フィリピン、パキスタン)で発症しています。

 日本では毎年約18,000人が新たに結核を発症し、約1,900人が結核で死亡しています(注3)。

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 このサイトは(ありがたいことに)関西以外の人にもご覧いただいているようなので、少し解説しておきます。関西(というか大阪の一部の地域)では、結核が珍しくない感染症であることが広く知られていますが、関西以外の地域では「過去の病気」と思われているようです。たしかに、昔の小説のような主人公が結核で他界するような話は現在の日本では現実味がありませんが、関西では長引く咳の患者さんをみたときには必ず結核を鑑別に入れます。また、結核は肺結核とは限りません。たとえば、膀胱炎が治らないと思っていたら、それは結核性膀胱炎だったということもしばしばあります。

 また、結核は世界のなかでも特にアフリカに多いと思っている人が多いようですが、これも上述したWHOのレポートにあるように、アフリカよりもアジアに多い感染症です。(ただしWHOのレポートによると、HIVと結核を合併している人の74%はアフリカです)

 アジアから帰国後、体調が悪い、咳が続くという人は、結核感染の有無を調べた方がいいかもしれません。発症者が多い関西でも、結核の診断にいたるまでにいくつもの医療機関を受診していることが少なくありません。

注1:詳しくはWHOの下記ページを参照ください。

http://www.who.int/mediacentre/events/official_days/en/

注2:詳しくはWHOの「Global tuberculosis report 2017」を参照ください。

注3:公益財団法人結核予防会のサイトを参照ください。

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2018年3月28日 水曜日

2018年3月28日 世界中を感動させたダウン症の動画

 3月21日は「世界ダウン症の日」です。そして、この日世界中で話題となり多くの涙を誘った動画があります。2018年3月16日、その動画がアップロードされると、一瞬で世界中を駆け巡り、ユーチューブで10万回以上、フェイスブックで100万回以上閲覧されました。翌日のBBCが報道しています(注1)。(12日後の3月28日時点でユーチューブの再生回数はすでに350万回を超えています)

 この動画は、イギリスのダウン症支援グループに所属する49人の母親たちが作成したものです。クリスティーナ・ペリー(Christina Perri)の2011年の名曲「A Thousand Years」のカラオケを車の中にいる母親とダウン症の子供が手話で歌っています。BBCによれば、「James Corden’s Carpool Karaoke」という(おそらく)テレビの企画があり、その方式で母親とダウン症の子供が歌い、それを父親のひとりが編集したようです。

 BBCの報道から、ひとりの母親のコメントを紹介しておきます。

「私たちは普通の母親で、子供たちを愛しています。子供たちもまた私たちを愛しています。子供たちは他の4歳の子たちと変わりありませんし、私たちは子供たちを変えようとも思いません。そういう思いでビデオを作成しました」(The idea is, we are just normal mums, we love our kids, they love us, and they are just like other four-year-olds, we wouldn’t change them)

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 ダウン症の患者数は日本・英国とも約5万人と言われています。染色体異常のなかで最も多い疾患で、一般的な発生頻度は0.1%程度ですが、高齢出産でリスクが上がることが知られています。40歳以上の初産婦では1%になると言われています。

 ダウン症を知るには映画がお勧めです。ダウン症の子供が登場する映画はいくつかありますが、私が最も推薦したいのは『チョコレート・ドーナツ』です。母親から育児放棄されたダウン症の少年をゲイのカップルが育てようとする、というストーリーです。この映画はハンカチなしでは観られません。すべての人に推薦したい映画です。

注1:BBCの記事のタイトルは「カルプール式のカラオケ、母親とダウン症の子供の画像が拡散される」(Carpool karaoke mums’ Down’s syndrome video goes viral)で、下記URLで読むことができます。

http://www.bbc.com/news/uk-england-coventry-warwickshire-43443510

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2018年3月17日 土曜日

2018年3月17日 女性は低収入が肥満のリスク?パートナーの減量に期待?

 年収が低い女性は肥満になりやすい…。

 このような日本の研究結果が発表されメディアで報道されました。研究は滋賀医大の研究者によりおこなわれ同大学社会医学講座のウェブサイトのトップページで案内されています。

 メディアの報道からこの研究をまとめてみます。対象は、厚労省が実施した2010年国民生活基礎調査と国民健康・栄養調査に参加した全国の20歳以上の男女約2900人。就業状況、教育歴、世帯支出などの社会要因や、食事の傾向など生活習慣が健康にどの程度相関するかが調べられています。

 65歳未満の女性の場合、世帯年収が200万~600万円未満であれば、肥満になるリスクが600万円以上の女性に比べて1.7倍、年収200万円未満ならなんと約2.1倍にもなるそうです。教育歴との関係も調べられており、学歴9年以下(つまり中卒)は、10年以上(大卒以上)に比べて1.7倍肥満になりやすいそうです。

 また、年収が低いほど炭水化物をよく摂ることも分かったそうです。

「肥満」に関して、最近発表された興味深い海外の研究を紹介しましょう。それは同居するカップルの一方が減量に成功すると、ダイエットをしていないパートナーも同時にやせる、というものです。医学誌『Obesity』2018年2月1日号(注1)で報告されています。

 この研究の対象者は合計130組の同居するカップルで、一方がダイエットをおこない、もう一方はおこないません。半数の65組は米国の民間企業「Weight Watchers」が提供する減量プログラムに基づいたダイエットをおこない、残りの65組は自己管理でダイエットしました。

 結果はとても興味深いもので、下記の通りダイエットをおこなっていない「相方」も体重が減ったのです! 

ダイエットをした人の体重減少     3カ月後   6カ月後
 減量プログラム              3.4kg    4.3kg
 自己管理で実施             2.0kg    3.1kg
  
その相方の体重減少
 (パートナーが)減量プログラム      1.5kg    2.2kg
 (パートナーが)自己管理で実施     1.1kg    1.9kg

 論文のタイトルにもあるように、著者はダイエット方法に関わらず同居するだけで「Ripple Effect(波及効果)」があることを強調しています。

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 実は、「肥満(やせ)は伝染する」ということは以前から指摘されています。ある有名な研究では、肥満になるリスクはその人の配偶者が肥満になれば37%上昇し、その人の親友が肥満になるとなんと71%も上昇する、とされています。この研究では、興味深いことに、ただ隣に住んでいるだけの隣人が肥満になってもリスクは上昇せず、一緒に暮らしていなくても、兄弟が肥満になった場合はリスクが上昇することを明らかにしています。

 この研究に対する私の「仮説」を紹介しておきます。それは「肉を食べる習慣」です。そして、肉が体重を決めるのではなく、肉に含まれている「抗菌薬」の影響を受けて体重が決まるのではないかというのが私の仮説です。最近は規制される傾向にあるとはいえ、家畜を飼育するときには大量の抗菌薬が使用されます。つまりヒトが肉を食べると抗菌薬も一緒に摂取することになるのです。そして、抗菌薬を与えた家畜は肥満しやすいことが分かっています。そもそも家畜に大量に抗菌薬を投与するのは感染予防ではなく早く身体を大きくして出荷したいという人間の都合によるものなのです。(この理論について興味のある方はかつて私が書いたコラム(注2)を参照ください)

注1:この論文のタイトルは「Randomized Controlled Trial Examining the Ripple Effect of a Nationally Available Weight Management Program on Untreated Spouses」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/oby.22098/abstract

注2;毎日新聞医療プレミア2017年4月2日「やせられない… それは抗菌薬が原因かも」

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