医療ニュース

2017年6月30日 金曜日

2017年6月30日 咳止めの「コデイン」が12歳未満は禁止に

「コデイン」というのは咳止めの代表的な薬剤で、医療機関でよく処方されますし、また、多くの市販の風邪薬に含まれています。一般的に使用されるようになってからおそらく50年以上はたっているでしょう。

 2017年6月22日、厚労省は12歳未満へのコデインの使用を原則禁止することを発表しました。具体的には、製薬会社に対し2019年中に添付文書を改訂するように指示するそうです。報道によれば、コデインが含まれる市販の風邪薬は600種類にものぼるそうです。

 これまで普通に使われていたコデインをなぜ厚労省が禁止とするのか。どうやら米国FDA(米食品医薬品局)が2017年4月に12歳未満への処方を禁じたことを受けて、まったく同じ処置をとろうと考えたようです。

 医師がコデインを処方するときは慎重に投与しますが、それでも副作用の報告があります。日本では2004年4月~2017年5月に、呼吸不全や意識障害などの子供の重篤な副作用が4例報告されています(毎日新聞2017年6月4日)。

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 コデインは「劇薬」というよりは「麻薬」そのものと考えた方がよく、実際アヘンから抽出されるものです。大量摂取すればいわゆるダウン系の薬物と同様の作用があり、80年代には随分と問題になりました。アンプル剤の咳止め(製品名は伏せます)にコデインがそれなりに含まれていて、これを10~20本ほど一気に飲んで「トリップ」する遊びが流行したのです。しかもこのアンプル剤、同じく咳止めとして使われる「エフェドリン」もそれなりに含まれていて、こちらは大量摂取すると覚醒剤と同じような作用があります。つまり、ダウン系の麻薬とアッパー系の覚醒剤を同時摂取することになり、いわば「スピードボール」が作用したときと同じような状態になるのです。

 そのような危険なものをなんで使うの?という声もあるでしょうが、適量をうまく使えば劇的に咳の苦しみから解放されることがあるのです。特に体力のない幼児が眠れないほどの咳をしているときは、短い日数を条件に少量を処方する(というか水薬に混ぜる)のです。今後、コデインが使えないとなると咳の対処に苦労しそうです。

 もっとも、コデインを代表とした中枢性の咳止めは安易に処方すべきではありませんし、市販の咳止めも安易に飲むべきでないのは事実です。咳反射を司っている神経を無理やり抑え込むようなやり方ですから、使用はやむを得ない場合に限定すべきです。咳で最も重要なのは「原因究明」です。咳の原因は様々であり、これらを解明することが何よりも重要なのです。太融寺町谷口医院には昔から「長引く咳」で受診する人が大勢います。安易に「咳止めをください」という患者さんに私が毎回伝えているのは「まず咳止め」ではなく「まず原因」です。

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2017年6月28日 水曜日

2017年6月28日 60歳未満の高血圧は認知症のリスク

 少し前、高齢者の血圧低下は認知症のリスクになるという興味深い研究を紹介しました(注1)。今度はその逆で、若年者(60歳未満)の高血圧はアルツハイマー病のリスクになる、という研究です。

 論文は医学誌『Alzheimer’s research & therapy』2017年5月31日号(オンライン版)に掲載(注2)されています。

 研究はノルウェーの研究者によりおこなわれ、対象者は「HUNTスタディ」(Nord-Trondelag Health Study)と命名された研究に参加した合計24,638人です。そのうち579人が、アルツハイマー病、血管性認知症、または両者の混合型認知症と診断されています。

 データが分析された結果、60歳以上では、収縮期血圧(上の血圧)が高ければアルツハイマー病および混合型認知症の発症リスクが低いことがわかりました。(血管性認知症には相関関係は認められませんでした)

 一方、60歳未満で降圧薬を服用している人では、収縮期血圧が高いとアルツハイマー病とのリスクが上昇することがわかりました。

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 最近の流れをまとめると、高齢者(何歳からかは議論がありますが)の場合は、血圧が下がるとアルツハイマー病のリスクが増えて、中高年者の場合は逆にリスクが上がる、ということになります。

 こういった研究はすべての人に当てはまるわけではなく、自分の判断で薬を中断したり開始したりするのは極めて危険です。気になる人はかかりつけ医に相談してください。

注1:医療ニュース2017年4月7日「血圧低下は認知症のリスク」

注2:この論文のタイトルは「Association between blood pressure and Alzheimer disease measured up to 27 years prior to diagnosis: the HUNT Study」で下記URLで全文を読めます。

https://alzres.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13195-017-0262-x

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2017年6月26日 月曜日

2017年6月26日 少量の飲酒でも認知症のリスク!?

「酒は百薬の長」は昔からよく使われることわざですが、私の経験上、この言葉を述べる人のほとんどが「酒飲み」ですし、この言葉を考え付いたのも酒飲みでしょう。ですが実際に、少量の飲酒は血圧を下げ、生活習慣病を予防でき、寿命を延ばすという報告は多数あります。おそらくほとんどの医療者もこれを支持しています。

 最近、一流の医学誌にこの「常識」を覆すかもしれない論文が掲載され医療者の間でも話題となっています。その論文とは『British Medical Journal』2017年6月6日号(オンライン版)に掲載されたもので、なんと「少量の飲酒でも認知症のリスクになる」と結論づけています(注1)。

 研究の対象者は550人のイギリス人。公務員を対象とした「Whitehall II」と命名された大規模調査に参加した6,306人のなかから無作為に1,380人が選ばれ、その中で研究の趣旨に同意した人たちです。30年間にわたり1週間のアルコール摂取量が調べられ、認知機能が調査され、さらに脳MRIが撮影されています。550人の中からデータ不備などを除いた527人が分析されています。

 結果、30年間のアルコール摂取量が多ければ多いほど海馬(脳の記憶をつかさどっている部分)の萎縮のリスクが上昇していることがわかりました。アルコールをほとんど飲まないグループ(週1未満単位、1単位はアルコール8g)と比べると、週30単位以上摂取しているグループのリスクは5.8倍と最も高くなっています。週に14~21単位であっても、右側海馬萎縮のリスクが3.4倍となっていました。さらに少量摂取(週1~7単位)であったとしても認知症の予防効果は認められていません。

 アルコール摂取量が多ければ、言語を流暢に話す能力も低下していたようです。

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 この論文を読むときには「単位」に注意しなければなりません。アルコールの「単位」はいくつかの基準があり、日本のアルコール健康医学協会は純アルコール20gを1単位と決めています。この方式なら1単位が日本酒1合で(だから日本人にはわかりやすい)、ワインなら1単位が180mLとなりワイングラスに入りきらないくらいの量になります。一方、イギリス式の単位は、この論文ではワイン5杯で14単位と説明されています。以前紹介した論文(下記「医療ニュース」)では「ワイン1杯で3単位」と述べました。

 さて、週に14~21単位で海馬のリスクが3.4倍というのは大変ショッキングな結果です。ワインで言えば週にグラス5~7.5杯。ビールで言えば大雑把に行って週に中ジョッキ4~6杯程度です。毎日飲酒するから人からみれば「少量」になります。さらに、これら以下の摂取量であっても少なくとも認知症の予防効果はなかったということになります。

 酒は百薬の長・・・、本当に正しいのか疑う必要がありそうです。

注1:この論文のタイトルは「Moderate alcohol consumption as risk factor for adverse brain outcomes and cognitive decline: longitudinal cohort study」で、下記URLで全文を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/357/bmj.j2353

参考:医療ニュース
2015年9月29日 どのような人がお酒を飲み過ぎるのか

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

2017年6月2日 金曜日

2017年6月2日 ピロリ菌除菌で酒さが大きく改善

 難治性の皮膚疾患で患者数が少なくないのにもかかわらず、なぜかマスコミではあまり取り上げられない酒さ。先日は白ワインが酒さ発症のリスクになるかもしれないという研究をお伝えしましたが、今回はその何倍も衝撃的な報告(注1)を紹介します。

 その報告とは、まず酒さの原因のひとつがヘリコバクター・ピロリ菌(以下「ピロリ菌」)かもしれない、というものです。この説は突然湧き出てきたものではなく、以前から一部の医師からは指摘されていました。しかし、反対意見も多く、また高いレベルのエビデンス(科学的確証)をもってピロリ菌と酒さの因果関係を証明した研究は存在しないことから、これまでそれほど強調されてこなかったのです。

 今回の研究では、酒さの患者をまず集めたのではなく、その逆で、ピロリ菌陽性者を先に観察することから始めています。研究の対象者はイラン・タブリーズ医科大学(Tabriz University of Medical Sciences)に2013年5月から2015年11月の間に受診したピロリ菌陽性者872名。そのうち167名(19.15%)が臨床的に酒さと診断されました。酒さは血液検査や画像検査で診断がつくのではなく「臨床的」すなわち医師の視診で診断をつける疾患です。

 167名のうち150名がピロリ菌の除菌がおこなわれ138人(92%)が除菌に成功しました。除菌に成功した患者が酒さも治ったかどうかについては、酒さのそれぞれの症状について検討されています。ほてり、紅斑、丘疹、熱感、落屑、乾燥、浮腫、眼症状については除菌後に有意差を持って改善しています。一方、血管拡張、周辺部位の症状(これが具体的に何を意味するのかは論文からはよく分かりません)、腫瘤様変化については改善は認められませんでした。

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 酒さは人種差があると言われています。私はイラン人の知人が多いわけではなくイランの医療事情のことがよく分からず、それが故にこの報告を日本人にあてはめていいのかどうか判断できません。ですが、ピロリ菌の除菌に成功すればこれだけの統計学的有意差を持って酒さが改善するという結果は注目すべきだと思います。

 まだあります。酒さを治すのは困難ですが、ピロリ菌の除菌は一次除菌に失敗したとしても二次除菌(さらに二次除菌に失敗すれば三次除菌…)があります。この報告は酒さで悩んでいる患者さんは一度は検討してもいいと思います。

 ですが、酒さの原因は様々であり、おそらくピロリ菌が原因の酒さというのはごく一部だと思います。(この研究でピロリ菌陽性者の19.15%が酒さというのは数字が大きすぎるように感じます。日本ではここまでの数字にはならないと思います) ちなみに、太融寺町谷口医院を受診している酒さの患者さんでいえば、原因として最も多いのがステロイドの不適切使用です。ステロイド外用を長期間使用していたことが原因と考えられるのですが、なかにはステロイドの内服や注射を実施しその後酒さを発症したと思われるケースも少なくありません。

 他の酒さの原因として、紫外線曝露、飲酒などが挙げられますが、なかにはまったく原因不明のものもあります。そういったケースではピロリ菌感染の有無を調べてみてもいいかもしれません。

注1:この論文のタイトルは「Effects of Helicobacter pylori treatment on rosacea: A single-arm clinical trial study」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1346-8138.13878/abstract

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