医療ニュース
2015年12月26日 土曜日
2015年12月26日 コーヒーを飲んで長生き、自殺も予防!
否定的な研究がないわけではないものの、ここ数年コーヒーが健康に良いとする研究が相次いでおり、このサイトでも何度か紹介しています。今回も「コーヒーを飲めば長生きできる」とする研究です。
医学誌『Circulation』2015年11月16日号(オンライン版)に報告されています(注1)。
この研究は米国ハーバード大学公衆衛生学教室が、NIH(米国立衛生研究所)の資金援助を受けておこなったものです。対象者は、米国の医師や看護師など合計20万人以上の医療従事者で、調査期間は30年以上にも及びます。この間に約32,000人が死亡しています。
結果、調査開始時点で1日1~5杯のコーヒーを飲んでいた人は、死亡リスクが低く、病名でみてみると、心血管疾患、神経疾患(パーキンソン病など)による死亡が少なく、、また自殺も少ないという結果が出ています。
さらに喫煙を除外してコーヒー摂取量の検討をおこなうと、1日3~5杯のコーヒーを飲んでいる人は死亡リスクが0.85に低下(15%減少)し、5杯以上では0.88(12%減少)とされています。
なぜ死亡率が低下するかについて、はっきりとしたことは判っていませんが、コーヒーの抗酸化作用、抗炎症作用、血糖調節作用などが有力視されています。
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これまで発表された研究では、コーヒーは生活習慣病や悪性腫瘍のリスクを下げるとするものが多かったわけですが、全体の死亡率を下げ、さらに神経疾患や自殺のリスクも下げるとした今回の研究は特筆に値すべきと言えます。
コーヒーを飲んで自殺を予防しよう!と言ってしまうのは時期尚早でしょうが、自殺の多い我が国で自殺とコーヒーの大規模研究をおこなう価値はあるのではないでしょうか。
注1:この論文のタイトルは「Association of Coffee Consumption With Total and Cause-Specific Mortality in 3 Large Prospective Cohorts 」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://circ.ahajournals.org/content/132/24/2305.abstract?sid=6b9e4651-d92d-4c5f-a5d3-a06d4be29d94
参考:
はやりの病気
第22回(2005年12月)「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
第30回(2006年4月)「コーヒー摂取で心筋梗塞!? 」
メディカルエッセイ
第105回(2011年10月)「お茶とコーヒーとチョコレート」
医療ニュース
2015年8月28日「コーヒーが悪性黒色腫を予防」
2014年8月22日「コーヒーで顔のシミも減少」
2014年6月30日「コーヒーで基底細胞癌のリスクが43%も減少」
2013年9月2日「コーヒーの飲み過ぎで死亡リスク増加?」
2013年4月18日「コーヒーでも緑茶でも脳卒中のリスク低減」
2013年1月8日「コーヒーで口腔ガン・咽頭ガンの死亡リスク低下」
2012年10月1日「コーヒーは消化管疾患と無関係」
2008年9月13日「子宮体癌の予防にコーヒーを」
2007年9月3日「コーヒーは肝臓癌のリスクを下げる」
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|2015年12月26日 土曜日
2015年12月25日 ブラジルで小頭症をきたすジカ熱がアウトブレイク
蚊が世界一恐ろしい生物であることは過去に紹介しました(注1)。最大の理由は蚊(ハマダラカ)がマラリアを媒介するからであり、マラリアは世界三大感染症のひとつで毎年50万人以上が死亡しています。しかし「蚊が媒介する死に至る病」はマラリアだけではなく、黄熱やウエストナイル熱、日本脳炎などは致死率が高い感染症ですし、デング熱やチクングニア熱もときに激しい症状に苦しめられます。
今年(2015年)後半になり、ブラジルでジカウイルス感染症が急増しています。ジカウイルスというのは生物学的にデング熱や日本脳炎の仲間のウイルスで、やはり蚊(ネッタイシマカ)が媒介します。
実は、2015年5月7日、汎米保健機関(PAHO)がジカウイルス感染症に対する注意喚起情報を発表していました(注2)。このときは、まだ死亡例は出ていなかったのですが、熱帯の各地方で報告が増加していることから注意喚起がおこなわれたのです。2007年にはミクロネシアで、2013年にはプランス領ポリネシアで流行がおこり、2014年にはニューカレドニアとクック諸島、さらにチリのイースター島での報告がありました。
そして2015年になりブラジルで大流行が生じ、ついに死亡例も報告されました。ジカウイルス熱は1週間程度の潜伏期を経た後、発熱、頭痛、筋肉痛、皮疹などをきたしますが、通常は自然治癒し後遺症はほぼないとされていました。ところが、ブラジルでは小児への感染が爆発的に広がり、同国保健省の2015年11月30日の報告では、疑い例も含めればジカウイルスに感染し小頭症を発症した患児は1,248人、うち7人は死亡しています。
これまでは感染してもすぐに治癒すると考えられていたジカウイルスは、小児に感染すると頭蓋骨や脳の発育障害から小頭症が生じ、成長障害や知的障害を伴い死に至ることもあるということです。
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この時期にブラジルでジカウイルスが大流行というのは、なんとも皮肉というか、こうなるとオリンピックが無事開催されるかどうかの心配もでてきます。少なくとも、小さい子供を連れてのブラジル渡航は自粛すべという勧告が出されることになるでしょう。
ブラジルに行かない人は安心かというとまったくそんなことはなく、実際2014年にはタイのサムイ島から帰国した日本人の感染が報告されています。ジカウイルスはネッタイシマカが媒介するということは、ネッタイシマカが生息する地域ではいずれ流行する可能性が強いといえます。ですから、今後タイやシンガポールを含む東南アジアから、さらに香港・台湾あたりにまで流行が広がる可能性は充分にあります。実際、デング熱の流行は北上しており現在では台湾でも珍しい感染症ではなくなっています。そのうち沖縄で、デング熱やチクングニア熱のみならずジカウイルス熱も流行する可能性もなくはありません。
しかし蚊を恐れて(亜)熱帯の渡航をやめるというのもナンセンスです。DEETや蚊取り線香を中心に対策を立てれば(注3)それほど恐れることはありません。
注1:下記コラムを参照ください。
メディカルエッセイ第149回(2015年6月)「世界で最も恐ろしい生物とは?」
注2:下記URLを参照ください。
http://www.paho.org/hq/index.php?option=com_docman&task=doc_view&Itemid=270&gid=30075&lang=en
注3:下記を参照ください。
トップページ→旅行医学・英文診断書など→〇海外で感染しやすい感染症について
→3) その他蚊対策など
参考:はやりの病気
第133回(2014年9月)「デングよりチクングニアにご用心」
第126回(2014年2月)「デング熱は日本で流行するか」
第63回(2008年11月)「日本脳炎を忘れないで!」
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|2015年12月22日 火曜日
2015年12月22日 「社会的時差ボケ」が糖尿病などのリスクに
「Social jetlag」という言葉をご存知でしょうか。jetlagなら時差ボケ、これにsocial(社会的な)という修飾語がつき、直訳すれば「社会的時差ボケ」、つまり夜勤やシフト勤務などで生活が乱れることを指します。
以前から、夜勤やシフト勤務は肥満や生活習慣病、また不眠や頭痛といった様々な疾患のリスクになることが指摘されています。(下記「医療ニュース」も参照ください)
今回紹介する研究も同じような内容です。医学誌『Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism』2015年11月18日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)によりますと、「社会的時差ボケ」が心疾患のリスクを高めます。
研究の対象は、米国の30~54歳の健康な男女447人でフルタイムまたはパートタイムのシフト勤務者です。睡眠時間と活動時間を記録する活動計(actigraph)を装着してもらい、勤務日と休日で睡眠がどの程度異なるかが測定され、「社会的時差ボケ」の程度と生活習慣病のリスクとの相関関係が検討されています。
結果、社会的時差ボケが大きいほど、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低下し、中性脂肪が増加し、糖尿病のリスクが増加し、体重増加が生じています。また夜型(evening chronotype)の人は、HDLコレステロールの低下が顕著なようです。
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これは経験的に実感している人も多いのではないでしょうか。シフト勤務から昼間だけの勤務となり健診の結果が良くなり元気になったという人は大勢います。我々医療者の間では特にそういう話をよく聞きます。たとえば、転職で夜勤がなくなると、それだけで体重が減って元気になったという看護師は少なくありません。
以前紹介した研究(下記「医療ニュース」)は規模が小さく、研究の信憑性は高くなかったかもしれませんが、今回ご紹介したものは対象者も多く注目に値する研究だと思います。
ではシフト勤務をやめて昼間の仕事に!と考えたいところですが、社会全体でみれば夜に働いてくれる人がいなくては困ります。私個人の意見としては、シフト勤務者は生活習慣病のリスクが高い人や高齢者はできるだけ避けるようにして、また若く健康な人であってもシフト勤務者は休日を増やすといった工夫を社会全体でおこなっていくべきと思っています。しかし、最もそういったことを反省しなければならないのは医師かもしれません・・・。
本文で述べたevening chronotypeという言葉は、おそらく辞書には載っていないと思いますが、これからちょっとした流行語になるのではないかと私は思っています。chronotypeというのは、生物学の用語で概日リズムの型を指します。evening chronotypeは日本語でいう「夜型」のことです。一方「朝方」はmorning chronotypeです。
注1:この論文のタイトルは「Social Jetlag, Chronotype, and Cardiometabolic Risk」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://press.endocrine.org/doi/10.1210/jc.2015-2923
参考:
医療ニュース2014年12月26日「夜勤は肥満のリスク」
メディカルエッセイ第128回(2013年9月)「同じ時間に起きて同じ時間に寝るということ」
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|2015年12月4日 金曜日
2015年12月4日 小児の特異的IgE抗体陽性、4分の1が疾患なし
アレルギーの血液検査はあくまでも「参考」であり、絶対的なものではないのですよ、という話を患者さんにすることがよくあります。特に小児の場合は、検査で陽性と出るけれども実際は何の反応もでない、ということが多々あります。こういうケースで、うかつに食事制限などをおこなってしまい、成長障害が起こるようなことがあれば目もあてられません・・・。
最近は、学校の先生が詳しくなってきていて「血液検査の結果でアレルギーが分かるわけではない」ということを親御さんに伝えてくれているのですが、それでも血液検査を希望される父兄は少なくありません。
食物アレルギーでは、確実な検査は「食物負荷試験」といって実際に可能性のある食べ物を少量摂取してもらう検査をおこないます。しかし、この検査は危険性を伴いますから入院が必要になります。その次に有用な診察は検査ではなく「問診」です。いつ、どのようなものを食べて、どれくらい時間がたってからどのような症状がでたのかを詳しく聞くことによってアレルギーかどうかがある程度分かります。私の印象でいえば、こういった「問診」の方が血液検査より有用です。
では血液検査はどれくらい不正確かというと、最近興味深い研究が報告されました。
小児の特異的IgE抗体陽性の約4分の1は疾患がない・・・。
医学誌『Allergy』2015年10月27日号(オンライン版)に論文が掲載されました(注1)。研究の対象となったのはスウェーデンの小児2,607人で、4歳、8歳、16歳時に採血がおこなわれ一般的な食物または吸入アレルゲンに対する特異的IgE抗体が調べられています。
結果、全体の51%の小児が何らかのアレルゲンに対する特異的IgE抗体が陽性でした。そのなかの約4分の1(23%)はいかなるアレルギー疾患も有していなかったのです。
*****************
たとえば、「コムギのIgE抗体が陽性となったけれどもこれまで何の問題もなく食べている」、という場合にあなたはどのように考えるでしょうか。
「検査はいい加減だ。だからこれまで通り食べよう」、と思えれば問題ありません。この考え方で合っています。しかし、「今までは何の症状もでなかったが、これからアレルギーが出るかもしれない・・・」と考え、コムギ製品を口にするときいつも恐怖心を感じてしまう人もいます。そして、そう人に限って検査を希望することが多いのです。
念のために付記しておくと、この研究はIgE抗体を調べたものです。過去に何度か述べましたが、IgG抗体を計測して「遅延型食物アレルギー」などとしているものはまったくデタラメで参考にすらなりません。にもかかわらず、「高いお金を払ってIgG抗体を調べられ「遅延型食物アレルギー」と言われ食物を制限するよう言われました。本当に食べてはいけないのですか?」といって受診される患者さんがいまだにいます。訳の分からない業者にだまされる前にまずはかかりつけ医に相談するべきです。
注1:この論文のタイトルは「IgE-antibodies in relation to prevalence and multimorbidity of eczema, asthma and rhinitis from birth to adolescence」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/all.12798/abstract
参考:医療ニュース
2014年12月25日 「遅延型食物アレルギー」に騙されないで!
2015年8月3日 食物アレルギーが急増
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