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2014年8月22日 金曜日
2014年8月22日 運動で「座りっぱなし」のリスクが減少する可能性
あまり日本のマスコミでは報道されませんが、「座りっぱなし」の生活が生活習慣病の大きなリスクになるということを過去何度かお伝えしてきました。(下記メディカルエッセイなど)
座りっぱなしのリスクが難儀なのは、ただ座って過ごす、それだけで健康を害するリスクが上昇し、食事に気をつけようが、運動を定期的におこなおうが、このリスクが軽減しない、ということが指摘されているからです。
ただ、現代人の生活をするのであればまったく座らないというわけにはいきませんし、常識的に考えれば、座りっぱなしの時間をほどほどにして循環動態がよくなる有酸素運動などをおこなえば少しくらいはリスクが下がるのではないの?と思う人もいるでしょう。(実は私もそう思います。というか「思いたい」です。なぜなら、仕事にしても読書にしても映画にしても、ある程度長時間座る生活を完全にやめることはできないからです)
そのような”期待”に応えてくれるかもしれない論文が公表されましたのでお知らせ致します。
座りっぱなしの生活をしていても、フィットネスの時間もとれば健康への長期的影響が少なくなる可能性がある・・・。
これは医学誌『Mayo Clinic Proceedings』2014年7月14日(オンライン版)に掲載された論文(注1)で述べられていることです。
この研究では、米国テキサス州ダラスにあるクリニックの男性患者約1,300人が対象とされています。テレビを見て過ごす時間と車に乗っている時間(つまり「座りっぱなし」の時間)を問診で調査し、運動との関連を調べています。
その結果、フィットネスクラブなどでの運動を積極的におこなっている人は高血圧などのリスクを低下させる可能性があることが分かったそうです。
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この論文を読めば多少ほっとできる人も少なくないのではないでしょうか。「座りっぱなし」が挽回のしようのない健康上のリスクファクターならば、映画館では立ち見が、バーに行くなら立ち飲みが基本になってしまうかもしれません。
しかし、この論文でもリスクを減らす可能性があると言っているだけで、「座りっぱなし」が生活習慣病のリスクであることには変わりありません。デスクワークをしている人なら、定期的に立ち上がる癖をつける、とか、ドライバーの人なら信号待ちの時間に腰を上げてみる、といった取り組みはやるべきでしょう。
もちろん定期的な有酸素運動も誰もがすべき、と私は考えています。
(谷口恭)
参考:メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
注1:この論文のタイトルは「Sedentary Behavior, Cardiorespiratory Fitness, Physical Activity, and Cardiometabolic Risk in Men: The Cooper Center Longitudinal Study.」で、下記URLで全文を読むことができます。
http://www.carenet.com/news/general/hdn/38415?utm_source=m1&utm_medium=email&utm_campaign=2014072700
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2014年8月21日 木曜日
139 難病を患うということ 8/21
すでにお知らせしているように、私は2014年8月1日から自分自身の変形性頚椎症の手術のために太融寺町谷口医院を長期間休診とさせていただきました。しばらくの間は静養とリハビリが必要であったために、術後すぐに退院というわけにはいきませんでした。
変形性頚椎症についての説明はマンスリーレポート2014年7月号及び8月号である程度おこないましたので、ここでは繰り返しませんが、私が最も困っていたのが左上肢に力が入らないということでした。
手術を受けると痛みからはすぐに開放されることはあっても筋力低下や筋萎縮はすぐには治らずに回復するまでに何ヶ月も何年もかかることもあるし、場合によっては回復しないこともある、ということは知っていましたし、手術を受ける前にも聞いていたのですが、それでも、「圧迫されている神経が開放されるのだからすぐに神経が機能を取り戻して元のように左腕に力を入れることができるのではないか」という、今思えば何の根拠もない夢を見ていたのは事実です。
実際のところは、私の甘い期待は裏切られ、手術後2週間以上経過した今も、手術を受ける前とほとんど症状は変わっていません。(2014年4月には茶碗も歯ブラシも聴診器も持てないほど悪化していましたが、6月頃からわずかではありますが回復しており、茶碗の保持や聴診器の使用も短時間ならおこなえるようになっていました。術前と術後で症状はほぼ変わりありません)
症状の劇的な回復を夢みていた私は現実を知らされました。「現実はそれほど甘くないか、それならば長期的な観点から考えていこう」、と冷静に考えなければいけないのは今から思えばわかるのですが、術後数日が経過した頃の私は、まともな思考回路が形成されておらず、なんと、「手術をしても腕に力が入らないのは原因が別にあるに違いない」と、まったく非合理的なことを考え出したのです。
しかも、私の悲観的なこの考えは負のスパイラルに堕ちていきました。まず気になりだしたのが私の症状についてです。典型的な変形性頚椎症の症状は痛みとしびれがまずあり、それが長期間持続すると筋力低下や筋萎縮がおこります。しかし、私の場合は痛みやしびれはそれほどたいしたことはなく、最も辛い症状は筋力低下です。筋力低下が全面的に出てくる疾患と言えば・・・。それは神経内科的ないくつかの病気、なかでもALS(筋萎縮性側索硬化症)ではないのか、と疑いだしたのです。
いったんそう考えると私の思考の「負のスパイラル」はますます深みにはまっていきました。そういえば、左上腕の筋肉がピクッ、ピクッと無意識的に震えることが過去数ヶ月に何度かあったことを思い出しました。これは「筋線維束攣縮」と呼ばれる現象で、ALSを含めた神経内科的疾患でしばしば観察され、逆に変形性頚椎症ではあまり見られないものです。
ALSは比較的早く進行し、最初は片側の上肢の筋力低下、その次は反対側の上肢の筋力低下、さらに下肢にも症状が生じ、飲み込んだり話したりするのが困難になってきます。しかしこれは典型例であり、ALSの非典型例では、ゆっくりと経過が進行し、しばらくの間は片側の上肢のみに症状が起こることもあります。実際、ALSなのにもかかわらず最初は私の疾患、つまり変形性頚椎症と誤診されることもあるという話を思い出しました。
それにまったく頚椎症を示唆する所見がないのにもかかわらず、頚椎X線や頚椎MRIを撮影してみると頚椎が変形していることはよくあります。変形性脊椎症というのは軽症のものも含めればかなりの人が罹患していると言えますから、ALSと変形性頚椎症が合併しているということも珍しくはないわけです。
こういったことまで考え出すと、私の「負のスパイラル」はますます加速され、いつのまにか「ALSに違いない。寿命はもってもせいぜい5年。その間に何をしておくべきか・・・」といったことまで考え出したのです。
これは冷静になって考えれば極端な思考であるのは自明なのですが、しかしだからといって理論的に私がALSでないということを100%証明することもできません。それに、筋力低下をきたす難治性の疾患はALSだけではありません。同じく難病である多発性硬化症という疾患も筋力低下が最初に現れることがありますし、パーキンソン病だってそうです。そのようなことを考えているときに、俳優のロビン・ウイリアムスがパーキンソン病に罹患したことからうつ病を発症し自殺した(注1)、というニュースを目にしました。私の「負のスパイラル」はさらに加速されていきました。
ここまでくると、私の精神状態はまともではなく「うつ状態」と言ってもおかしくはありません。食事は摂っていましたし、自らに課した朝と夕方のリハビリはおこなっていたのですが、心の中は厚くて黒い雲に覆われているようなイメージです。
いったい私はこれからどうすればいいのか、クリニックの患者さんにはどのように話すべきか、GINAが支援しているタイのエイズ孤児に対してはこれからどのようにすればいいのか・・・。そのようなことを四六時中考えるようになっていました。真っ暗な闇の中で光の方向が分からずにもがき苦しんでいる感覚です・・・。
そんなとき、入院中の私を叱咤激励してくれた人たちがいました。それは、私が過去に診た患者さんたちです。といっても、実際に患者さんが私を見舞いに来てくれたというわけではありません。ある日の昼下がり、病室のベッドで夢なのか回想なのかよく分からないようなまどろみのなか、過去の患者さんたちが私の頭の中に登場しだしたのです。
今も鮮明に記憶に残っているのは、私が研修医のときに担当させてもらっていた脊髄損傷の患者さんたちです。私が研修を受けていた病院は脊髄損傷の患者さんを積極的に受け入れており、当時形成外科で研修を受けていた私は褥瘡(床ずれ)の診察で、毎日のように病室を訪れ話を聞いていました。彼(女)らは脊髄が完全にやられていますから、全員が車椅子の生活を強いられており、それは奇跡的な治療法がいきなり登場しない限りは治癒することはありません。そんな彼(女)たちが、「自分たちのことを忘れないで!」と私に訴えるのです。
夢か回想かよくわからないそのまどろみのなかで、過去に私が診たALSの患者さんもでてきました。その患者さんは車椅子に移動するのも困難で会話もできずほとんど寝たきりです。さらに、私がタイで診てきたエイズの患者さんたちもやってきました。「あたしたちのこと忘れたの?」すでに他界している彼(女)らは私にそう訴えかけるのです。GINAが支援しているエイズ孤児たちも無言のまま私を見つめています。
太融寺町谷口医院の患者さんたちも次々に私の頭のなかに登場します。私がガンの告知やHIVの告知をおこなった人たちもいれば、命に関わる病気ではないものの長期間の罹病で相当辛い思いをしているような人もいます。
いったい私はどうすればいいのか・・・。まどろみが消え完全に意識が覚醒し、あらためて過去そして現在の患者さんたちに思いを巡らせていたときに突然ある人の言葉を思い出しました。
それはある日本人のクリスチャンの女性の言葉です。私が変形性頚椎症で簡単でない手術を受けることを伝えたとき、その女性は「あなたにはやり残していることがあるんだから手術は必ずうまくいきます」と言ったのです。なんでも、キリスト教的にはそのような考え方をするそうなのです。
私はキリスト教徒ではありませんが、それを聞いたときに「なるほど」と感じました。そしてこの度、手術後症状が回復せずにうつ状態となり、これまでに診た患者さんが私の心に「しっかりしろ」と訴えかけてきたときに、再びこの言葉が私の頭の中を駆け巡ったのです。
脊髄損傷もALSもパーキンソン病も、ガンもHIVも、あるいは寿命は縮まらなくても生活に不自由がでる疾患も、それらを患った人たちは日々を生きるということに頑張っているのです。そして私は医師でありNPO法人GINAの代表をとつめているのです。私に残された道は、自身の疾患については現実を受け止めてリハビリに励む、そして職業人として患者さんたちに誠心誠意をもって接する、これしかありません。
私が今回手術を受けたのは症状の回復を期待して、あるいはこれ以上症状を進行させないために、ということで、手術が成功したことは大変ありがたいわけですが、症状が思ったほどに改善せずに、それがきっかけで難病を患っている人たちに想いを巡らすことにつながったことも手術と入院生活のおかげではないだろうか・・・。今私はそのように考えています。
注1:米国の俳優ロビン・ウイリアムス(63歳)は2014年8月11日、カリフォルニア州の自宅にて首をつって自殺したと報道されました。パーキンソン病が原因でうつ病を発症したとの報道があります。
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2014年8月20日 水曜日
第132回(2014年8月) エボラ出血熱の謎
私は2014年8月1日から変形性頚椎症の治療(手術)目的でしばらくの間入院していたのですが、入院期間中も医学系の情報のみならず一般の新聞などにも目を通していました。座ってパソコンをしたり本を読んだりすることはできませんでしたが、寝たまま両腕を垂直に持ち上げてiPADを眺めることはできたため、インターネットで入手できる情報ならほとんど何でも読むことができました。手術が終わった後も、私の左上肢は力が入らずに、少し重たい茶碗などは持つのに不自由していたのですが、iPADを読めることで随分とストレスの軽減になりました。
医療系の情報は毎日複数のサイトをチェックしました。海外だけでなく日本のサイトでもエボラ出血熱に関する情報が連日取り上げられており、関心の高さを示していました。
今回はそのエボラ出血熱に対して、マスコミが言わないことをここで取り上げたいと思います。まずはこの大変やっかいな感染症について簡単におさらいをしておきましょう。
といってもエボラ出血熱の患者さんを私は診察したことがありません。過去にかかったことがあるという人にもお目にかかったことがありません。数年前、海外で知り合ったバックパッカーのオーストラリア人が「アフリカで過去に感染して治った」というようなことを言っていましたが、旅先で聞くこのような話は大半が眉唾もので、私はその話を信用していません。
私がエボラ出血熱という言葉を初めて聞いたのは医学部3回生のウイルス学の授業です。そのときあることを疑問に感じたのですが、それを解決することはできませんでした。その後、2000年代に入ってからも流行が起こり、比較的短期間で終息する度に、私が初めに抱いたこの「疑問」は大きくなってきています。この「疑問」について述べる前に、重症化する感染症に関する教科書的なポイントをまとめておきたいと思います。
まず「出血熱」という言葉を確認しましょう。出血熱とは一言でいえば「全身から出血が起こり短期間で死に至る病」です。原因はウイルスで、感染すると短期間の間に、高熱と倦怠感に苛まれ、血小板が低下し、全身から出血が起こり死んでしまう、というわけです。今のところワクチンも治療方法もありません。
出血熱にはいくつかありますが、次の4つがその代表と考えて差し支えありません。その4つとは、エボラ出血熱、マールブルグ熱、ラッサ熱、クリミア・コンゴ出血熱です。エボラ出血熱は、一応コウモリが宿主であると言われていますが、コウモリからだけ感染するのではなく、ヒトからヒトへの感染も簡単に起こりますから、特定の生物に気を付ければいいというものではありません。マールブルグ熱はサル、ラッサ熱はマストミスという齧歯類(ネズミの仲間)、クリミア・コンゴ出血熱はダニが宿主とされていますが、これらもエボラ出血熱と同様、ヒトからヒトへの感染が容易に起こります。
出血熱と聞くと、日本人に最も馴染みのあるのはデング出血熱だと思いますが(馴染みがあるといっても国内で発症した例はありませんが)、デング出血熱はヒトからヒトへの感染はなく蚊からの感染に限られますし、またデング熱に一度かかった人が別のタイプのデング熱ウイルスに感染した場合に稀に発症するという程度なので、同じ「出血熱」という名がついても、エボラ出血熱を代表とする4つの出血熱とは分けて考えるべきです。
エボラ出血熱が初めて報告されたのは1976年アフリカのスーダンです。この感染者の出身地の近くにある川がエボラ川という名前であることから、エボラ出血熱と命名されたと言われています。この第1号感染者から近くにいた者へ感染し、ヒトからヒトに容易に感染することが判りました。しかし、そのときは大流行にはいたりませんでした。
その後、忘れた頃に、というか、数年に一度小さな流行が起こります。不思議なことに、感染力が強くヒトからヒトに容易にうつり、また有効な治療薬もなく、そして(失礼ですが)さほど衛生状態が良好とは言えないアフリカ諸国なのにも関わらず、大きな流行にはつながらないのです。
21世紀に入ってから、エボラ出血熱は2008年にコンゴ民主共和国で、2012年にはウガンダで流行しましたが、報告された患者数は数十人程度で(ただし約半数は死亡しています)、おそらく日本ではほとんど報道されなかったと思います。
今回の流行は、2013年の年末頃からギニア、シエラレオネ、リベリアといった西アフリカ諸国で流行が始まり、2014年4月の時点で感染者は150人以上、死亡者も100人を超えました。この頃から日本のマスコミでも報道が開始されるようになりました。その後も勢いが止まらず、1976年以降何度も繰り返されていた小流行とは様相が異なります。
WHO(世界保健機関)の報告(注1)によりますと、2014年8月13日までに感染者数(疑い例を含む)が2,127名、うち死亡者が1,145名で、死亡率は54%になります。西アフリカのギニア、シエラレオネ、リベリアでは「非常事態宣言」がすでに発令されており、さらに、これら3つの国で最も東のリベリアから1,000km以上も東に位置するナイジェリアでも感染者が報告され、同国大統領は非常事態宣言を発令しました。また、WHOは、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」であると公式に宣言するにいたりました。
我々医療従事者にとってショックなのは、米国人の医療従事者が感染したということです。このため、米国途上国支援団体の平和部隊は西アフリカからのボランティアの撤退を決議し、CDC(米国疾病予防管理センター)はついに渡航自粛勧告をおこないました。WHOが緊急事態宣言をおこない、CDCは渡航自粛勧告をおこなったわけです。これは人類にとって極めて危機的な状態だと考えるべきです(注2)。
さて、ここで疑問が出てこないでしょうか。西アフリカの医療機関での衛生状態がいかに劣悪だとしても、国境なき医師団を初め、世界中から医療ボランティアが集まっているのです。彼(女)らは、先進国の医療用具を持参してきていますし、何よりも感染予防の「知識」があるはずです。にもかかわらずアメリカ人の医療従事者は院内感染をおこしたのです。そして、エボラ出血熱はヒトからヒトへの体液などを通しての感染はあるものの空気感染は「ない」とされています。
なぜ感染がこれだけ一気に広がり、医療者にも感染したのでしょうか。推測の域を出ませんが、私は「飛沫感染」により感染しているのではないかとみています。「空気感染」と「飛沫感染」は似ているようで異なります。わかりやすくいえば「空気感染」とはウイルスが”乾いた”空気にも含まれており、例えていえば「同じ教室にいるだけでおこりうる感染」です。代表的なものに麻疹(はしか)や水痘(みずぼうそう)があります。
一方、飛沫感染というのは患者のくしゃみや咳に含まれている病原体が感染することをいいます。患者からエボラ出血熱に感染したアメリカ人の医療者は、患者に直接触れてはおらず、マスクやゴーグルはしていたと思いますが、咳やくしゃみから感染したのではないでしょうか。マスクをしているのに感染?と思う人もいるでしょうが、N95を代表とする微小な粒子をブロックできるマスクというのは、適切に顔面にフィットさせるのは意外にむつかしくきちんと装着できていないことが多いのです。
さて、先に述べたエボラ出血熱に関する私の「疑問」について述べたいと思います。それは、これだけ感染力が強いのにもかかわらず過去に何度かおこった流行は、なぜ小規模に留まり大流行につながらなかったのか、ということです。感染力がこれだけ強く、治療薬はないのです。にもかかわらず、これまでの流行は数十人に感染し半数が死亡した後に、”自然に”終息したのはなぜなのでしょう。
私のイメージで言えば、まるでウイルスに”意思”があり、「今回はこれくらいにしといたるわ」といった感じでウイルス側が暴れるのをやめているように思えるのです。もちろん、私はこのようなウイルスの”意思”を真剣に考えているわけではなく、一昔前のSF小説にあるような、誰かが(秘密の組織が)殺人ウイルスをばらまいている、といったことを考えているわけでもありません。
今回の大流行を終焉させるための、そして今後再び流行させないための鍵は、ワクチンや薬の開発よりもむしろ、なぜこれまでは何度も繰り返してきた流行は治療法がないのにもかかわらず突然おさまったのか、を先に解明してくことではないかと私は考えています。
注1:WHOのこの報告は下記を参照ください。
http://www.afro.who.int/en/clusters-a-programmes/dpc/epidemic-a-pandemic-alert-and-response/outbreak-news/4256-ebola-virus-disease-west-africa-15-august-2014.html
注2:離れている国は渡航を自粛、さらに「禁止」するという方法があるかもしれません。日本のような島国では空港と港で厳重なチェックをすれば感染者の入国を未然に防げるでしょう。しかし陸続きの国ではそうはいきません。すべての道を封鎖すればいいではないか、と思う人もいるでしょうが、アフリカという土地は(私も聞いた話で直接見たわけではありませんが)、現地の人は必ずしもわかりやすい「道」を移動するわけではなく外国の人間からは考えられないような山や荒地を超えていくそうです。また、ナイジェリアですでに感染者が報告され非常事態宣言がおこなわれているということは、リベリアとナイジェリアの間にあるコートジボワール、ガーナ、トーゴ、ベナンでも正式な報告がないだけで感染者は存在すると考えるべきでしょう。もしも今後アフリカ北部にまで広がるようなことがあれば世界中に広がる可能性もなくはないと私は考えています。
参考:
厚生労働省のエボラ出血熱に関するページ
http://www.forth.go.jp/useful/infectious/name/name48.html
厚生労働省検疫所FORTHのエボラ出血熱に関するページ
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/ebola_qa.html
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2014年8月18日 月曜日
2014年8月18日 米国国内で蚊からチクングニアに感染
今、世界で最も注目されている感染症といえば、西アフリカでアウトブレイクしているエボラ出血熱ですが、米国で報道されたチクングニアも見逃せません。(エボラ出血熱については今月(2014年8月)号の「はやりの病気」で取り上げる予定です)
チクングニアというのは蚊に刺されることにより、蚊の体内にいたチクングニアウイルスが人の体内に侵入して高熱や倦怠感、関節痛などが発症する感染症です。流行している地域も東南アジアから南アジアが中心ですから、イメージとしてはデング熱と同じようなものと考えて差し支えないと思います。
そのチクングニアがアメリカ人に発症し米国では大きな話題になっています。なぜ大きな話題になっているかというと、海外に渡航していないアメリカ人2人が感染したからです。つまり、チクングニアウイルスを媒介する蚊が米国内に存在するということを意味するのです。
感染したアメリカ人はいずれもフロリダ州在住で、1人は41歳の女性、もう1人は50歳の男性です。2人とも最近は海外渡航をしていないそうです(注1)。
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この2人はどのようにしてチクングニアに感染したのでしょうか。私はカリブ海から来た飛行機や船の中、あるいは貨物の中に蚊がまぎれこんで米国にたどり着いたのではないかと思ったのですが、別の見方もあるようです。
それは、カリブ海で蚊にさされてチクングニアに感染した人が米国に渡航し、米国にいる蚊がその人を吸血したときにチクングニアウイルスを体内に取り込み、別の人を吸血するときにそのウイルスを感染させる、というストーリーです。このようなことが簡単に起こるのならば、今後爆発的な速度でチクングニアが蔓延する可能性もなくはありません。
チクングニアという感染症はここ数年で私が耳にする機会が飛躍的に増えてきています。私の場合はNPO法人GINAの関係でタイとつながりがあるというのが最たる理由ですが、増えているのはタイだけでなくアジア全域にかけてです。
さらに興味深いことにここ1~2年の間にカリブ海でアウトブレイクしています。国立感染症研究所感染症情報センターのウェブサイト(注2)には、1952年~2005年の「チクングニアの報告症例の分布」というタイトルの世界地図が掲載されているのですが、なんとこの図ではカリブ海の報告がゼロになっているのです。つまりカリブ海付近の中米諸国では、これまでになかったチクングニアという感染症がここ数年の間に爆発的に増えているということです。
チクングニアの日本での報告は、今のところ、海外で感染し帰国後に発症した例に限られているようですが、これからは米国のように国内での感染例も増えていくかもしれません。
(谷口恭)
注1:米国では多くのメディアがこの話題を取り上げています。例えばUSA Todayは「Nasty chikungunya virus gaining traction in U.S.」というタイトルで報道しています。詳しくは下記URLを参照ください。
http://www.usatoday.com/search/Nasty%20chikungunya%20virus%20gaining%20traction%20in%20U.S./
注2:国立感染症研究所感染症情報センターによるチクングニアの情報は下記URLを参照ください。
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k07/k07_19/k07_19.html
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2014年8月18日 月曜日
2014年8月号 手術は成功。だけれども・・・
前回(2014年7月号)のコラムでお伝えしましたように、「変形性頸椎症」という疾患に対する手術を受けるためにクリニックを長期間休診させていただくことになりました。前回のコラムでは、症状発症の契機、その後の症状の移り変わりと医療機関受診、検査から診断に至る過程などについてお話しました。今回はその後の経過についてまずお話しておきます。
私の症状で最も辛かったのが左上肢の筋力低下です。4月中旬頃から増悪し、一時は聴診器を持てないほどにまで進行していました。しかし、6月上旬あたりからわずかですが回復し、聴診器も長時間の把持は困難ですが、通常の聴診はできるようになりましたし、覚束ないものの茶碗を持つことも軽いものなら可能になりました。
ただ、左上肢(前腕と上腕)の見た目の筋肉量の低下は進行し、筋萎縮は進行しているように見えます。7月に入ってからは何人かの患者さんに「痩せましたね」と言われたのですが、これは全身が痩せたのではなく、左上肢の筋肉が減ったためにそう見えたのだと思われます。
さて、筋力がわずかに回復したとは言え、日常生活がなんとかできる程度ですし、これ以上頚椎の変形が進行し、脊髄を圧迫するようなことがあれば社会復帰ができなくなるかもしれません。私に残された選択肢は手術以外にありません。
2014年8月4日、予定通り手術がおこなわれました。手術の名称を正確に言えば「全身麻酔下観血的後方除圧及び椎弓形成術」になります。簡単にいえば、頚椎が変形して後ろにせりだしてきたせいで狭くなってしまった脊柱管を広げる手術、となりますが、これでは分かりにくいのでもう少し詳しく説明したいと思います。
脳から続いている脊髄は脊柱管という骨で囲まれた管を通って腰の方まで伸びています。その管の前の部分を構成しているのが脊椎で、後ろの部分が椎弓と呼ばれる骨と考えて差し支えありません。私の場合、前部を構成している頚椎(脊椎の首の部分)が変形して管の内腔にせり出してきたために脊髄がつぶれてしまっています。もしも頚椎がせり出してきて脊髄が後ろにおされても、その後ろにスペースがあれば問題ないわけですが、後部は後部で椎弓という骨がありますから脊髄は、変形した頚椎と後部の椎弓にはさまれて圧迫されているというわけです。
筋力低下も筋萎縮も、痛みもしびれもすべて脊髄(もしくは脊髄から別れて出ている神経根)が圧迫されていることが原因です。ならば、唯一の解決法は狭くなった脊柱管を広げることです。もっとも、軽傷であれば自然に軽快することはよくありますが、私のように症状が増悪し、すでに1kgのダンベルも持てないような状態であれば外科的に治療するしかないというわけです。
慢性で難治性の疾患というのは得てして民間療法も盛んです。ご多分に漏れず、この疾患、変形性頸椎症にも多くの民間療法があるようです。さすがに漢方薬やサプリメントで治る、としているものは見当たりませんが、枕とか、マッサージとか、あるいは電磁波をあてるようなものもあるようです。しかし、そのような民間療法を全面的に否定するわけではありませんが、私のように筋力低下がある程度まで進行してしまったような状態では可及的速やかに手術をすることが必要になります。これ以上の進行はなんとしても防がなければならないからです。
話を手術の内容の説明に戻します。手術の目的は「脊柱管を広げること」ですが、そのためには脊柱管の後ろの部分、すなわち椎弓と呼ばれる骨を切らなければなりません。切っただけであれば不安定ですから、(切っただけでそのまま置いておくという術式もありますが)そのなかに「詰め物」をすれば安定が得られます。
これではわかりにくいと思うので手の指を使ってイメージしてみてください。まず、手の親指と人差し指でわっか(輪っか)をつくってみてください。そして親指の先端と人差し指の先端を1cmほどあけてみてください。それからその2本の指でサイコロをはさむところを想像してみてください。指先どうしをくっつけていたときと比べるとわっかの面積が広がったことがわかると思います。実際の手術ではもっとこみいったことをおこなうのですが、イメージとしてはこのような感じです。
次に「詰め物」について説明します。従来「詰め物」として使われていたのは、患者自身の骨が多かったはずです。私が麻酔科の研修を受けていた頃は、患者自身の腸骨が使われていた症例が多かったことを記憶しています。つまり、首を切開する前に、腸骨(骨盤の一部)の骨を切り取り、それを適切なサイズと形態に加工しておきます。椎弓を切除して(親指と人差し指の間をあけて)その間にこの腸骨を「詰め物」として使うのです。
少し想像してもらえればわかると思いますが、骨盤の一部の骨を切除するというのも大変な手術になります。それが終わって今度は首の後ろからメスを入れて、骨を切って広げるわけですから、この手術は大変長時間を要します。私が麻酔科の研修を受けていた頃、他の研修医がこのような長時間の手術を希望しないこともあり、私は積極的にこの手術を見学していたのですが(麻酔科医の仕事はいったん麻酔がかかると余裕ができるので手術の見学が可能になるのです)、大変高度な技術が必要であり、長時間に渡る集中力と体力を要する極めて難易度の高い手術であるという印象がありました。
もちろん大変なのは執刀医だけではありません。患者さんの術後の苦しみは相当なものです。長期間動けませんし、痛みは並大抵ではありません。否、それだけではありません。首の筋肉を大きく切りますから回復したとしても、後頭部から後頸部の動きが元通りにならないことも珍しくないのです。
私が研修医として麻酔科でトレーニングをつんでいたのは2002年です。それから12年が経過したわけですが新しい手術法はないのでしょうか。それがあるのです! まず、「詰め物」についてです。ここからは「詰め物」ではなく「スペーサー」と呼ぶことにしましょう。自分の骨を用いるのではなくセラミック製の人工骨が少しずつ普及してきています。セラミックはここ20年くらいの間に、人工骨や人工関節、あるいは歯科のインプラントなどで用いられるようになってきているのですが、首の骨(椎弓)を切除した後にはめこむスペーサーとしても普及しだしているのです。
また、首の皮膚を切開し、骨まで到達する方法も随分進化していることが分かりました。従来は首の皮膚を大きく切開した後、首の後ろの筋肉を大きく切らなければならなかったわけですが、筋肉を切るのではなく「はがす」ような感じでほとんど筋肉に傷をつけることなくおこなえる手術があるのです。筋肉を傷つけなければ出血量もごくわずかで済みます。もちろん、このような手術がおこなえるのは相当熟練した医師のみです。私の場合、大変幸運なことに、頚椎を専門とする熟練した専門の先生に執刀してもらうことができました。
そして手術は成功しました。実際術後のCTを撮影してもらうと脊柱管が大きく広がっていました。これで脊髄の圧迫症状からは開放されたはずです。ところがです・・・。私の左上肢の筋力低下は変わっていません。手術をしても痛みやしびれはすぐになくなることが期待できるが筋力低下は回復するまでに長期間かかる、という説明は聞いていたのですが、それでも、私の心のどこかに「長時間の正座から開放された直後は動かせなかった足がしばらくすると元に戻るように、私の左上肢も手術が終われば元に戻るのではないか・・・」と期待してしまっていたのです。
しかし現実はそう甘くはありません。相変わらず私の左腕は1kgのダンベルをあげるのも四苦八苦しています。ただ、術前よりも悪くなっているわけではなく、食事は摂れますし、歩くことも可能ですし、500mLのペットボトルを持った上腕のトレーニングならできます。
退院はもう少し先になりそうですが、入院している病院から太融寺町谷口医院に通勤するというかたちで当初の予定どおり本日(8月18日)から診療を再開したいと思います。術後の痛みはゼロにはなっていないために(骨まで切っているのですから当然といえば当然です)、首のカラーもまだ外せないために、しばらくの間は診療に時間がかかるかもしれませんが、これまでと同じように診療をおこないますので困ったことがあればどうぞお気軽にいらしてください(注1)。
注1:しばらくの間、再診の方(当院に一度でも受診したことがある方)のみとさせていただきます。初診の方の診察再開についてはトップページで案内いたします。
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2014年7月31日 木曜日
2014年7月31日 糖尿病新薬「SGLT2阻害薬」の副作用
糖尿病の治療がここ数年でドラスティックに変化してきた、ということを以前述べました(注1)。今年(2014年)に入って相次いで新薬が発売されているのが「SGLT2阻害薬」と呼ばれるもので、すでに5つの製品(スーグラ、フォシーガ、ルセフィ、デベルザ、アプルウェイ)が発売されています。
同じ薬効を持つ薬が半年で5種類も発売になったということに驚かされますが、さらに驚くのはこの5つの薬剤を販売している製薬会社が11社(注2)もあるということです。薬の世界ではこのように同じものを複数の製薬会社が発売するということがしばしばあります。複数の会社が販売権を有することになり、ライバル会社が同じ薬の販売でしのぎを削っているのです。これだけ多数の製薬会社が販売に携わっているということは、それだけ市場が大きいことが見込まれている、ということです。さらに、SGLT2阻害薬は、今年中に2つのものが発売になる予定で合計4つの製薬会社が販売する予定です(注3)。
SGLT2阻害薬の作用機序は大変シンプルです。糖尿病は血液中に糖が多いのだからその糖を尿と一緒に出してしまえ、というもので、この薬を飲めば血中の余分な糖が尿と一緒に排出されて血糖値が下がるという仕組みです。
これを聞くとなんだか簡単そうな薬に思われるようです。糖尿病の薬の説明をするときには、インスリン、グルカゴン、インクレチンなどややこしいホルモンの名前が出てきたり、あるいは「インスリン抵抗性」とか「高インスリン血症」などよく分からない言葉が出てきたりしますから、なぜこの薬が効くのか、ということについてきちんと理解されていない患者さんも実際には少なくありません。一方、SGLT2阻害薬は、いらない糖分を尿と一緒に出してしまう、と言うことができますから分かりやすくて好感がもたれやすいのかもしれません。
さて、今回お伝えしたいのは、そのSGLT2阻害薬で副作用が、それも重篤な副作用の報告もでてきている、ということです。
2014年6月13日、日本糖尿病学会は「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」というタイトルの注意勧告(注4)を医師向けに発表しました。この勧告によりますと、脳梗塞3例を含む重篤な副作用が報告されています。
今後SGLT2阻害薬の使用には充分な注意が必要となるでしょう。
*****************
注1の「はやりの病気」にも書きましたが、私自身は当分の間、SGLT2阻害薬を処方するつもりはありません。その理由は、副作用を懸念して、ということもありますが、それ以外に、価格が安くないこと(新薬ですから当たり前です)と、昔からある安くて安全な薬だけで多くの症例が改善するからです。糖尿病の治療は「薬を飲むこと」よりも「生活習慣の改善」の方がはるかに重要です。たとえ、既存の薬で血糖値が思うように下がらない症例があったとすれば、それは既存の薬から新薬に替えれば解決するという問題ではありません。むしろ、新薬に頼りすぎて生活習慣の改善をおろそかにする方がはるかに問題です。
今回日本糖尿病学会が報告した「脳梗塞」についても、私自身はこれからも一定の割合で生じると考えています。「はやりの病気」でも書きましたが、単純に考えて尿の浸透圧が上昇し尿量が増えるでしょうから、脱水状態となり、脳梗塞が起こりうるのです。特に脱水状態に陥りやすい夏場は要注意でしょう。
こんなことを書き、実際に患者さんにもこの新薬を薦めていない私は製薬会社からすれば「好ましくない医者」ということになるでしょうが、もしもこの文章を製薬会社の人が読んでいれば、気を悪くせずに、医師の仕事は「可能な限り薬の量を減らし、かつ価格も安くおさえること」ということを思い出してもらいたいと思います。
(谷口恭)
注1;下記を参照ください。
はやりの病気第125回(2014年1月)「糖尿病治療の変遷」
注2:これら11社とは、アステラス製薬(株)、寿製薬(株)、MSD(株)、ブリストル・マイヤーズ(株)、アストラゼネカ(株)、小野薬品工業(株)、大正富山医薬品(株)、大正製薬(株)、ノバルティスファーマ(株)、サノフィ(株)、興和(株)です。
注2:4つの製薬会社は、田辺三菱製薬(株)、第一三共(株)、日本イーライリリー(株)、日本ベーリンガーインゲルハイム(株)です。
注4:この注意勧告は下記URLで全文を読むことができます。医師向けに書かれていますが、一般の人が読んでいけないことはないと思います。
http://www.jds.or.jp/common/fckeditor/editor/filemanager/connectors/php/transfer.php?file=/uid000025_7265636F6D6D656E646174696F6E5F53474C54322E706466
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2014年7月28日 月曜日
2014年7月28日 ビタミンBとC、クロレラなどが片頭痛のリスク
ビタミンやミネラルのサプリメントは最近では有害性の報告ばかりが目立つ、ということをこのサイトでも述べる機会が増えてきていますが、今回の報告もそのような内容です。(もっとも、こういったサプリメントが健康によいとする報告も一部にはあり、そのような情報も紹介していく予定です)
今回はビタミン剤などのサプリメントが片頭痛の発症率を上昇させる、という台湾の大規模研究です。医学誌『Headache』2013年7月12日号(オンライン版)に論文が掲載されています(注1)。
18歳から65歳の合計15,414人が参加した台湾の国民調査(実施は2005年)が解析されています。片頭痛を含む慢性の頭痛を有しているのは、男性の17.2%、女性の32.4%で、サプリメントとの関係は男女で異なるようです。
男性の場合、イソフラボンのサプリメントを摂取すると、していない場合に比べて頭痛の発症率が3.86倍にもなるそうです。
女性の場合は、ビタミンB、ビタミンC、緑藻(green algae)(注2)のサプリメントで、頭痛の発症率がそれぞれ1.28倍、1.21倍、1.43倍になるそうです。
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サプリメントの頭痛の副作用として、論文は見たことがありませんが、私自身の実感としてはイチョウのサプリメントが多いような印象があります。ビタミン剤については実感としてはありませんし、頭痛を引き起こす理論も見当たりませんが、比較的規模の大きい疫学調査ですから今回の結果は重要視すべきだと思います。
ビタミン剤などのサプリメントは、上に述べたように健康によいとする報告も散見されますが、有害性の報告の方がはるかに多く、おしなべて言えばサプリメントというのはほとんどの人が摂取する必要はありません。
ただし(ここは重要なポイントです)、サプリメントでなく新鮮な野菜や果物、あるいは海藻からビタミンやミネラルを摂取するのは非常に大切です。ですから、サプリメントにお金をかけるのではなく、新鮮な食材を用いた料理にお金をかけるべきというわけです。
(谷口恭)
注1 この論文のタイトルは「The Association Between Use of Dietary Supplements and Headache or Migraine Complaints」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/head.12180/abstract
注2 緑藻(green algae)というのはおそらくクロレラ(またはその類似物)のことだと思われます。
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2014年7月22日 火曜日
第131回(2014年7月) 認知症について最近わかってきたこと
認知症は多くの人にとって他人事ではないでしょう。なにしろ80歳以上の4分の1がアルツハイマーに罹患することが分かっているわけです。そして認知症はアルツハイマーだけではありません。脳血管性のものや他のものも含めると80歳で何らかの認知症に罹患している割合は50%を超えるとも言われているのです。
80歳になれば2人に1人は認知症、などと聞けばよほど楽天的な人でも心配になるに違いありません。また、認知症は自分が罹患することを避けたいのはもちろんですが、家族が認知症を患っても大変です。実際、働き盛りの20代、30代の人たちが、親の介護のために仕事を辞めなければならない、ということはそう珍しくありません。
例えば私が最近知った事例では、20代後半のある非正規社員の男性が仕事を辞めて母親の介護に専念することになりました。60代前半という若さで認知症を患った母親には家族の介護が必要であり、現在50代後半の父親の収入の方が高いという理由で、収入の低いこの若い男性が仕事を辞めることになったというのです。
両親が認知症になっても大変ですし、配偶者がそうなった場合もかなり大変です。もちろん自分自身が認知症を患うこともなんとしても避けたいものです。しかし、80歳になると半数以上が認知症などと聞くと、絶望的な気分になってきます・・・。
治療法があれば救われますが、現在4種の薬があるとはいえ、すべての症例に有効というわけではなく、そもそも使用開始するタイミングが遅ければ効果は期待できません。また高いエビデンスのある(科学的確証のある)予防法も現時点ではあるとは言えません。
ではどうすればいいのでしょうか。今回は認知症に関する最近の見解をまとめてみたいと思います。
まず、認知症を整理しましょう。認知症を分類すると、①アルツハイマー、②脳血管性、③その他、の3つになります。頻度としては①が最多で②がその次で③は少数です。今回は③については述べません。
②の血管性は脳梗塞や脳出血が原因である場合が多く、これらを予防していくのが効果的です。つまり、基本的には生活習慣病を予防することが結果として認知症の予防にもなるというわけです。現在喫煙していたり肥満があったりしている人の中で「病気になって早死にしてもかまわない」と考えている人がいるとすれば、「では早死にするのではなく認知症になってもいいのか」ということを考え直すべきです。
問題は①のアルツハイマー型認知症です。認知症のなかで最多で、この傾向は年々顕著になってきています。そして、アルツハイマーは現在のところ、早期発見する方法が確立されていませんし、劇的に効く薬があるとは言えないのです。また、予防法も確立しているとはいえません。とはいえ、最近は少しずつ検査法、予防法についても研究が増えてきているので今回はそういったことを紹介したいと思います。
まず、アルツハイマーを早期に知る方法として、実用化が現実になるかもしれない検査法について発表がおこなわれました。BBCによると、英国オックスフォード大学の研究チームがアルツハイマーの早期発見が可能な血液検査の方法を開発したそうです。研究チームは千人以上を対象にした研究で、1年以内にアルツハイマー病を発症するかどうかを87%の確率で推測できたそうです(注1)。
87%の確率で推測できる、というのはものすごく画期的な検査です。現在使われているアルツハイマーの薬はどれも早期で使用しなければあまり意味がありません。しかし、適切なタイミングで使用すれば発症を大きく遅らせることも可能です。ということは、例えば60歳になれば国民全員がこの血液検査を受けるようにして、アルツハイマーになることが予想される人に対して薬を予防的に使用するということが可能になります。(しかし、これを実際に実行するとなると莫大な費用がかかります・・・)
この検査が実用化されることになったとしても当分先になると思いますが、既存の検査でもある程度認知症のなりやすさを知ることができる、とする研究もあり、これは日本のものです。2014年7月14日の読売新聞(オンライン版)によりますと、東京都健康長寿医療センター研究所が、「健診の赤血球数、HDLコレステロール(善玉コレステロール)、アルブミンの3つが低いと認知機能の低下が2~3倍起きやすい」という研究結果をまとめたそうです。新聞記事からは、これら3つの項目がどの程度低ければどの程度認知症のリスクになるのか詳細が分からないのですが、同誌によれば、近いうちに医学誌に掲載される予定とのことなのでそちらを待ちたいと思います。
ここからは予防についての研究を紹介していきたいと思います。まずは、やってはいけないこと、をみていきましょう。
ひとつめはタバコです。私の知る限り、喫煙がアルツハイマーのリスクになるとした大規模研究はないのですが、「喫煙で認知症のリスクが2倍になる」という研究が日本で最近発表されました。2014年6月14日に開催された日本老年医学学会で発表されたそうです。研究者は、1988年に健康診断を受けた65歳以上で認知症がない712人(当時の平均年齢72歳)を対象とし、15年間追跡調査をおこない、202人が認知症と診断されたそうです。喫煙者と非喫煙者にわけて解析すると喫煙者のリスクが2倍になったそうです。ただし、これは認知症全体であり、アルツハイマーだけではありません。血管性の認知症は動脈硬化が誘因となりますから、喫煙者に認知症が多いのは当たり前といえば当たり前です。可能なら、認知症全体ではなく、アルツハイマーと喫煙の関係を解析してもらいたいものです。
次は、ベンゾジアゼピン系薬剤です。医学誌『British Medical Journal』2012年9月27日号(オンライン版)にフランスの研究者による論文(注2)が掲載されています。平均年齢78.2歳の男女1,063人を15年間追跡調査した研究により、ベンゾジアゼピン系薬剤を使用しているとおよそ50%認知症のリスクが上昇することがわかったそうです。ベンゾジアゼピン系薬剤というのは、多くの睡眠薬や抗不安薬(日本では「安定剤」という名目で処方されることが多い)を差します。しかし、この論文が少し残念なのは先ほどの日本の研究と同様、アルツハイマー単独のリスクが検討されていないことです。
アルツハイマーのリスクを上昇させるという研究に殺虫剤があります。医学誌『JAMA neurology』2014年3月1日号(オンライン版)に米国人の研究が掲載されています(注3)。殺虫剤に使われるジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)という物質があるのですが、これが体内に取り込まれるとジクロロジフェニルジクロロエチレン(DDE)という物質に代謝されます。そしてアルツハイマーの患者ではこの物質の濃度が上昇していることが分かったそうです。さらに、特定の遺伝子「APOEε4アレル」を保有する例でDDEの濃度上昇がより強くみられることが分かったそうです。この研究はアルツハイマーの症例が86例で、対照(コントロール)が79例と、対象とされた症例は比較的少数ではありますが、クリアカットに結論が導かれていますから、今後重要視されていくと思われます。あらかじめ「APOEε4アレル」という特定の遺伝子を持っているかどうかを調べて、もしも持っていれば都心の高層マンションなど殺虫剤を使わなくても生活できるところに引っ越しするという選択ができるからです。
他人を信用しないひねくれ者(cynical distrust)は認知症になりやすい・・・。このような研究もあります。医学誌『Neurology』2014年5月28日号(オンライン版)にフィンランド人の研究が掲載されています(注4)。1997年に65~79歳(平均71.3歳)の合計1,146人を対象として、cynical distrust(注5)の強弱と認知症との関係が調べられています。その結果、cynical distrustの傾向が強い人はそうでない人に比べて認知症のリスクが3倍になることが分かったそうです。しかし死亡率には影響がなかったようです。
ここからは、アルツハイマーを含む認知症の予防になるかもしれない、という研究を紹介していきたいと思いますが、まずは残念な研究から・・・。
EPA(エイコサペンタエン酸 )やDHA(ドコサヘキサエン酸)といったω3系不飽和脂肪酸が認知症を予防するのではないか、ということが以前から期待されていたのですが、残念なことに予防効果はなかったという研究が発表されました。医学誌『Neurology』2013年9月25日号(オンライン版)に掲載された論文(注6)によりますと、米国の女性を対象とした大規模研究WHISCA(Women’s Health Initiative Study of Cognitive Aging)に登録されている2,157人の血液中のDHA及びEPA濃度を測定し認知機能との関係を調べています。その結果、これらω3不飽和脂肪酸の濃度と認知症には相関関係がなかったそうです。
ここからは期待のもてる研究の紹介です。
緑茶を毎日飲む人は、まったく飲まない人に比べて認知症のリスクが大きく減少する・・・。これは金沢大学の研究者らによる研究で、医学誌『PLoS One』2014年5月14日(オンライン版)(注7)に掲載されています。研究では、緑茶をまったく飲まないグループを基準とすると、毎日緑茶を飲むグループのオッズ比が0.26(起こりやすさが0.26倍)だったそうです。コーヒーや紅茶では認知症を予防するという結果は認められなかったそうです。オッズ比が0.26というのはにわかには信じがたいような数字ですが、これが事実なら今後世界中で緑茶ブームが起こるでしょう。
次いでもうひとつ日本の研究を。日本の有名な疫学研究に久山町研究というものがあります。これは、福岡市に隣接した糟屋郡久山町(人口約8,400人)の住民を対象に脳卒中、心血管疾患などの疫学調査を1961年から行っている研究なのですが、この研究で、牛乳・乳製品を多く摂るほど認知症リスクが低下する、という結果がでたそうです。医学誌『Journal of the American Geriatrics Society』2014年6月10日号(オンライン版)に掲載されています(注8)。
この結果が意外なのは、世界的には乳製品というのは高脂肪であることから敬遠される傾向にあり、認知症の予防も含めて健康食として何かと取り上げられることの多い地中海料理では牛乳や乳製品はあまり使われないからです。従来高脂肪食をあまり摂らない日本人には当てはまる研究、言い換えると、伝統的な日本食を摂っている人では乳製品が認知症の予防になるということかもしれません。
因果関係が証明されているわけではありませんが、認知症の予防としては地中海料理が有効であろうというのが世界的な流れです。医学誌『Epidemiology』2013年7月号(オンライン版)には、英国の研究者による研究が報告されています(注9)。解析の結果、地中海料理を摂取する人ほど、脳機能が良好で、精神機能の低下が起こりにくく、アルツハイマーのリスクも低いことが示唆されたそうです。
他にも認知症に関連する細かい研究はいろいろとあるのですが挙げていけばきりがありません。今回紹介したもの以外では、やはり運動が有効とする研究が目立ちます。アルツハイマーを含めた認知症を完全に予防する方法はありませんが、禁煙、規則正しい生活、適度な運動、栄養のある食事、素直な性格、勤勉(語学の勉強が有用という研究が複数あります。下記医療ニュースも参照ください)などを心がけるというのが現時点での現実的な予防法ではないでしょうか。
注1:このニュースは日本のマスコミではほとんど報じられていないようですが、BBCでは大きくとりあげています。2014年7月8日付けの記事のタイトルは「Alzheimer’s research in ‘major step’ towards blood test」です。詳しくは下記URLを参照ください。
http://www.bbc.com/news/health-28205680
注2:この論文のタイトルは「Benzodiazepine use and risk of dementia: prospective population based study」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.bmj.com/content/345/bmj.e6231.abstract?sid=d1661398-c316-4fcf-8aa8-33e2d43bf2ad
注3:この論文のタイトルは「Elevated Serum Pesticide Levels and Risk for Alzheimer Disease」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://archneur.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1816015&resultClick=3
注4:この論文のタイトルは「Late-life cynical distrust, risk of incident dementia, and mortality in a population-based cohort」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.neurology.org/content/82/24/2205.short?sid=6891352b-980a-4a67-ac58-70841f6dcc11
注5:cynical distrustは、さしあたり、「いつも皮肉を言い、他人を信用せず、バカにするようなひねくれ者」というイメージだと思います。この性格の程度を測定する「Cook-Medley Scale」という質問票があるのですが、日本ではあまり使われていないと思われます。少なくとも実際の臨床でこの質問票を用いている医療機関や医師を私は知りません。
注6:この論文のタイトルは「Omega-3 fatty acids and domain-specific cognitive aging」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.neurology.org/content/81/17/1484.short?sid=4a5f0dc4-7abc-46d5-b8ba-2f7f3d63a842
注7:この論文のタイトルは「Consumption of Green Tea, but Not Black Tea or Coffee, Is Associated with Reduced Risk of Cognitive Decline」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0096013
注8:この論文のタイトルは「Milk and Dairy Consumption and Risk of Dementia in an Elderly Japanese Population: The Hisayama Study」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jgs.12887/abstract?deniedAccessCustomisedMessage=&userIsAuthenticated=false
注9:この論文のタイトルは「Mediterranean Diet, Cognitive Function, and Dementia: A Systematic Review」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://journals.lww.com/epidem/Abstract/2013/07000/Mediterranean_Diet,_Cognitive_Function,_and.1.aspx
参考:
はやりの病気第95回(2011年7月)「アルツハイマーにどのように向き合うべきか」
医療ニュース2014年6月30日「今からでも語学を勉強すれば老化の予防に」
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2014年7月22日 火曜日
第138回(2014年7月) 認知症の鉄道事故、なぜ議論が盛り上がらない? (追記:2016年3月)
2014年4月24日、名古屋高裁は、愛知県大府市の認知症の男性が徘徊してJR東海の電車にはねられて死亡した事故について、「見守りを怠った」という理由で91歳の妻に359万円の支払いを命じました。
自分の夫が電車にはねられ死亡して、さらにその鉄道会社から359万円も請求されるという判決に違和感を覚えるのは私だけではないでしょう。この判決は(おそらく)すべての全国紙で報じられましたから、大変な物議を醸すことになるだろう・・・、私はそのように予測していました。JR東海に非難が集中し、場合によっては不買運動ならぬ「JR東海不乗運動」まで起こるのではないかと私はみていたのですが、そのようなことはまったく起こっていないようです。
この事件は、認知症の患者さん、その家族、医療や介護関係者には他人事ではないはずで、同じような事故が日本全国で起こることが充分予想されます。はねられた認知症の患者さんの家族に責任を追及するのはおかしいですし(私はそう思います)、しかし、かといって鉄道会社が寛容になれば解決するものでもありません。問題の根は深いわけですが、まずはこの事件(事故)を振り返っておきたいと思います。
2007年12月7日、当時91歳の認知症の男性が徘徊し線路内に進入しJR東海の電車にはねられ死亡しました。この男性は「要介護4」の認定を受けており、当時85歳の妻と同居していました。その妻が目を離したすきに男性は外出し電車にはねられたというわけです。
JR東海は電車が遅れたことにより損害が発生したと主張し、損害賠償を求め訴訟を起こしました。2013年8月、地方裁判所はJR東海の請求通り720万円の支払いを命じました。さらに地裁はこの死亡した男性の長男にも注意義務違反を認定しました。しかし、長男は経済的に父親を支援していたとはいえ、20年以上別居しているそうです。電車事故で夫に先立たれた高齢の女性に高額の支払いを命じ、さらに20年以上別居している長男にも責任を追及するというのはあまりにも気の毒です。
当然弁護側は控訴をおこないました。そして2014年4月、名古屋高裁で先に述べた判決が出たという次第です。報道によりますと、弁護側は上告も検討しているそうですが、それは当然でしょう。
ここで私が問題として取り上げたいのは、ひどすぎる判決よりもむしろ、なぜマスコミがこのようなJR東海や司法判決に黙っているのかということ、そして一般の人たちはなぜJR東海の対応に怒りを示さないのか、ということです。
最近は些細なこと(当事者にしてみればそうではないのかもしれませんが)で企業やショップ、レストランなどに苦情(クレーム)を言う人が増えてきていると聞きます。店員に土下座をさせてそれを写真に撮りネット上で流した人もいるとか・・・。私個人の印象を言えば、最近は消費者が過剰に権利を主張しすぎるように感じますし、また店員の対応も丁寧すぎるというか、言葉遣いからお礼の仕方まで行き過ぎでは?と感じることがしばしばあります。例えば、タクシーに乗るときはわざわざドライバーが外からドアを開けるサービスは行き過ぎています。自動でドアが開くだけでも親切すぎるくらいで、私自身の希望を言えば、乗せる側が開けるのではなく乗る側が自分で開ける方がいいと思います。実際海外にいけばタクシーのドアは自分で開けるのが普通です。
話を戻しましょう。企業に完璧さを求める消費者たちはなぜJR東海の対応に怒りをぶつけないのでしょうか。他人のことには興味がないということなのでしょうか。しかし、徘徊の症状が出ている認知症を家族に持つ人なら他人事ではないはずです。また、今は親が認知症でなくても、80歳を超えると程度の差はあるものの半数が認知症を発症すると言われています。ですからほとんどの日本人にとって人ごとではないのです。
医療機関や介護施設からももっと大きな声が出てきていいはずです。もしも入院中や介護施設に滞在中に抜け出して線路に進入し電車にひかれたとすれば、誰が責任を追及されるでしょうか。おそらくこの場合は、鉄道会社からも家族からも医療(介護)施設に矛先が向けられることになるでしょう。ちなみに私は、研修医時代に担当の患者さんが病院を抜け出して(脱走して)問題になったことがあります。その患者さんは認知症を患っていたわけではありませんが、反社会的な側面を有していたために何か問題を起こさないかとヒヤヒヤしました。結局夕食の時間には戻ってきていましたが。
では、認知症の患者さんが電車にはねられた場合、鉄道会社は黙っているのがいいのか、というとそういうわけでもありません。鉄道会社は大企業ですから、それでもやっていけるでしょうが(昔は飛び込み自殺があったときは遺族感情に配慮して訴訟などは起こさないことが多かったはずです)、これが個人ならどうでしょう。例えば、徘徊したときに他人の家に火をつけた場合はどう考えるべきでしょう。あるいは、徘徊しているときに若い女性がひとりで歩いていれば、強姦される可能性もないわけではありません。実際、医療・介護の現場では女性職員が認知症の患者さんからセクハラを受けることは日常茶飯事ですし、なかにはレイプまがいの事件もあります。
つまり、徘徊した患者さんが何か事件を起こしたときに、家族や入居施設に損害賠償を請求すれば解決するものではもちろんないわけですが、その一方で(JR東海のような)”被害者”が黙っていればそれで解決するという問題でもないというわけです。ちなみに、2013年1年間で、認知症で行方不明になったと警察に届出をされたのが約10,300人で、そのうち390人が死体で発見されたそうです。(警察庁が2014年5月14日衆議院の厚生労働委員会で発表しています)
ではどうすればいいのでしょうか。もしも最高裁でも今回の事件の判決が覆らなければ、家族や医療・介護施設は認知症の患者さんを徘徊させないようにあらゆる手段を講じるでしょう。つまり、最終的にはベッドに縛り付けて身動きがとれないように拘束することが予想されます。
ところで、医療や介護の現場で「抑制」という言葉を聞いたことがありますでしょうか。私は医師になりたての頃、随分とこの言葉に戸惑いました。医療者や介護者がいう「抑制」というのは、要するに認知症などでベッドから落ちる(あるいはベッドから抜け出して困った行動をとる)可能性のある患者さんの手足をベッドの柵にくくりつけて身動きがとれないようにする”医療行為”のことを言います。「抑制」などという表現であればなんとなくソフトなイメージが沸きますが、やっていることは「拘束」です。
私はここで、「抑制」などというマイルドな言葉を使って非人道的な処置をとる医療者・介護者を糾弾すべき、と言っているわけではありません。患者さんの手足を拘束しなければ転倒や他人に危害を加える事故を防ぐためにそのような処置はやむをえないと思います。
認知症で徘徊する患者さんが人や会社に迷惑をかければすべて介護者の責任にされるのなら、患者さんの自由を奪う行為、つまり事実上の身体拘束が激増するだろう、ということをここで指摘しておきたいと思います。
認知症の問題は社会全体で考えていかなければなりません。今回のJR東海の事故のようなことが起こったときにお金が保証される損害保険のようなものがあればいいという案も出ているようですが、保険に入るお金がないという人も必ずでてきます。町中に監視カメラをつけるとかGPS機能のついた腕時計を装着させるとか(あるいはGPSのカプセルを皮膚に埋め込むとか)いう案も出てくるかもしれません。しかし、このような案が出てくれば、人権侵害ではないか、という意見もでてくるでしょう。
ひとついえるのは、家族だけで認知症のケアはできない、ということです。また、医療機関や介護施設、介護サービスなどにも限界はあります。つまり社会全体でこれからの認知症対策を考えていく必要があるのです。北欧では高齢者の認知症対策が上手くいっており徘徊する者はいない、と言われることがあり、見習えるところはあるかもしれませんが、日本の方が高齢化は進んでいますし、社会保障のあり方も異なりますし、国民性も異なるでしょうから、そのまま北欧のケアの方法をまねるだけでは上手くいかないでしょう。
日本独自の認知症対策について国民全員が真剣に考えなければならない時代にすでに入っているのは間違いありません。
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追記(2016年3月7日)
2016年3月1日、最高裁判所は「妻と長男は監督義務者にあたらず賠償責任はない」と結論づけ、JR東海の敗訴が確定しました。
このコラムのタイトルにもしたように、2014年の名古屋高裁の判決の時点では遺族の責任が追及されているのにもかかわらず世間での議論はそれほど盛り上がりませんでした。しかし、今回の最高裁の判決はマスコミからも注目されたようです。
特に、長男の妻が世間の注目をあびました。長男夫妻は両親の元を離れて横浜に住んでいたそうです。しかし認知症の義父と高齢の義母の面倒をみるために、長男の妻は夫から離れて単身で愛知県に引っ越し、義父に対して熱心に介護をおこない献身的な日々を過ごされていたそうです。
2016年3月7日の日経新聞一面のコラム(春秋)では、小津安二郎監督の映画『東京物語』で長男の妻の役を演じていた三宅邦子さんを引き合いに出していました。偶然にも、私が今回の訴訟に関する一連の報道を見聞きして思い出したのも『東京物語』でした。しかし、私が思い浮かべたのは三宅邦子さんではなく、戦死した次男の妻を演じた原節子さんでした。原節子さんは『東京物語』のなかで、義父と義母に対し実の息子や娘以上に献身的な態度で接します。『東京物語』が公開されたのは1953年です。もしも現在高齢の方が初めてこの映画を見れば、「こんなによくできた義理の娘などこの時代にいるわけない」と感じるのではないでしょうか。
日経新聞のコラムでは、献身されたこの妻に対し「無私の5年余に頭を下げたい」という言葉で結んでいます。私もまったく同じ気持ちです。
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2014年7月11日 金曜日
2014年7月号 手術を受けることになりました
すでにウェブサイトのトップページでお知らせしていますが、2014年8月1日から17日まで(医)太融寺町谷口医院は休診とさせていただきます。これは院長の私自身がある疾患で手術を受けることになったからです。
何人かの患者さんからは、「2週間以上も入院しなければならないということは、かなり大きな手術ですよね。ということは大変な病気なんですか・・・」、と聞かれました。医師が自分の疾患を公表するべきではないかと当初は考えていたのですが、多くの患者さんから質問される、というよりも、心からご心配いただいていることがひしひしと伝わってくることも少なくないために、きちんと説明すべきと考えるようになりました。
私の病歴は以下のようになります。
**************
2014年1月4日。とあるフィットネスクラブにて。懸垂をしようと思い、鉄棒にとびついたときに左後頚部に鈍い痛みを感じました。両手で鉄棒を把持しているものの、いつもと感覚が違います。左上肢に力が入らず懸垂ができなくなっていることに気付きました。
鉄棒から降りてじっとしていると、強くはないものの鈍い痛みが左後頚部から背部に広がっています。また、左手の親指側に、強くはありませんがしびれがあります。しかし握力はそれほど落ちていないようです。実際、懸垂はできなくなっていましたが、鉄棒にぶらさがっていることには問題ありませんでした。ただし、筋力低下は明らかにあります。どの筋肉に力が入らないのかを調べるためにいくつかの筋トレをおこなってみました。ベンチプレスはまずまず可能です。しかし、ダンベルを持って肘を曲げる筋トレができません。普段は12~14kgのダンベルを持つのですが5kgのダンベルでも上がらないのです。
これらから私がつけた自己診断は「頸椎椎間板ヘルニア」です。おそらく鉄棒に飛びついたときの勢いで椎間板が後ろに飛び出たのだろう、そのように考えました。というのも、このような頸椎の形態異常に起因する疾患はいくつもありますが、症状出現のきっかけがはっきりしている場合はヘルニアである場合が最も多いからです。例えば後縦靱帯骨化症や脊椎管狭窄症ではじわじわと症状が出現しだし、患者さんに「いつからですか」と尋ねても、2~3年前くらいから・・、といった曖昧な答えが返ってくるのが普通です。一方、椎間板ヘルニアの場合は、患者さんが「〇月△日に★★をしていたときからです」、と答えることがしばしばあるのです。
腰椎の場合もそうですが、頸椎の場合も、椎間板ヘルニアはしばらくすると自然に症状が取れることもよくあります。椎間板は骨ではなく比較的柔らかい組織ですから、マクロファージなど貪食機能のある細胞が、後ろに出てしまった椎間板を少しずつ小さくしてくれることが期待できるのです。実際、頸椎ヘルニアの患者さん(太融寺町谷口医院では月に1~3人程度みつかります)に対して、私は専門医に紹介することはありますが、手術を強く薦めることはほとんどありません。そして専門医を受診してもらっても、その専門医から手術を薦められることもあまりありません。
頸椎の椎間板ヘルニアで手術が積極的に薦められない理由は、何もしなくても症状が軽快することが多い、ということだけではありません。腰椎に比べると手術が上手くいかないケースが多いということの方が大きな理由でしょう。「上手くいかない」というのは、手術をした後もしびれなどの症状が残る、ということだけではありません。手術の合併症に苦しめられる、はっきり言えば、手術が失敗して余計にひどくなる、最悪の場合は寝たきりになるというリスクもあるのです。そこまでのリスクを背負ってまで手術する必要があるケースというのはそう多くはないというわけです。
この時点で私は手術などまったく考えなかったばかりではなく、医療機関を受診するつもりもありませんでした。とりあえずは3ヶ月ほど様子をみよう、そのときに症状が悪化していればそのときに考えようと楽観的な気持ちでいました。そう思えた最大の理由は、日常生活にはほとんど問題がなかったからです。懸垂をしたり5kgのダンベルをもったりしなくても生活はできますし、医師としての仕事にも影響はほとんどありません。
しかし私の希望的観測は裏切られることになります。3ヶ月と少したった4月のある日の午後の診察室。くしくもその患者さんは右腕のしびれと右肩の痛みを訴えました。ヘルニアかどうかは別にして、私と同じ頸椎からきている状態だなと考えた私は、診察するために、患者さんの腕をもったり首を後ろに傾けてもらったりしていました。
そのときです。患者さんの後ろにまわり患者さんの両腕を持ち上げたときに、私の左腕に力が入らないことに気付いたのです。患者さんにはそれを悟られないようにしたつもりですが、私の筋力低下が一気に進行したのは明らかでした。しかもごく軽いものが持てなくなるほどの筋力低下です・・・。その次に診察した患者さんは長引く咳が訴えでした。私は聴診器で患者さんの肺の音を聞いていたのですが、左手が震えて聴診器を胸にあてておくことができないではないですか・・・。
これはまずい・・・。その日の夜、いくつかの実験をしてみました。まず茶碗を上げて維持することができません。歯磨きもできません。(私は左利きで歯ブラシは左で持ちます) 携帯電話も20秒もすると腕を維持してられずに会話が続けられなくなります。このままでは日常生活も医師としての診察もままなりません。現在太融寺町谷口医院では以前のような手術はしていませんし、左腕の強い力が必要な処置などもほとんどありません。しかし聴診器が使えなくなれば診察が成り立ちません。
手術の心構えはできていませんが、とりあえずMRIで頸椎の評価をしてみようと考えた私は5月のある日、ある医療機関を受診してMRIを撮影してもらいました。MRIのフィルムを見せてもらったとき、すぐに決心がつきました。というより決心せざるをえませんでした。これは手術しかないと・・・。
頸椎の一部が見事に変形しており、変形した骨(頸椎)が脊柱管を圧迫していたのです。私の「椎間板ヘルニア」という自己診断は”誤診”であり、「変形性脊椎症(頚椎症)」が正確な病名です。つまり椎間板ではなく骨そのものが変形しており、変形した骨が脊髄を圧迫していたのです。実は私は12年前の2002年に交通事故で頸椎のMRIを撮影しています。そのときは右上肢に痛みが生じたのですが、MRIではほとんど異常を認めませんでした。頸椎の変形もほぼありませんでした。頸椎の変形というのは加齢と共に生じますが、33歳の時点では正常であったわけですから、この12年間で加齢が進行したということになります。鉄棒に飛びついたときに初めて症状がでたのは、おそらく症状が出る前から骨が脊髄を圧迫する寸前であり、鉄棒に飛びついたときに骨がごくわずかに動き、そのために症状が突然出たのでしょう。
*******************
というわけで、私は手術を受けることになりました。先にも述べたように頸椎の手術は簡単ではなく術後の後遺症の問題もあります。頸椎の手術を受けたという患者さんをこれまでたくさんみてきましたが、手術が成功したという症例でも何らかの後遺症が残ることが少なくありません。
一般に、頸椎の手術というのは、脊髄損傷のリスクもあり、術後車椅子の生活を余儀なくされる、あるいは寝たきりの状態になる可能性もなくはありません。このため、頸椎の手術がすすめられるのは、脊髄の症状が強くなり、例えば下肢にまでしびれや疼痛が出ている場合や、膀胱直腸障害といって排尿や排便が困難になった場合、あるいは上肢が動かなくなった場合など、重症化した場合に限られます。
私の場合は、持った茶碗を維持することはできませんし、両手を使って頭を洗えないなどといった不便さはありますが、最低限の日常生活はできないことはありません。しかし、聴診器を自由に使えない、患者さんの腕や足を持ち上げられない、といった医師生命に関わる不自由さがでてきたために手術を受けるべきと判断しました。(術式については、大きく分けて前方固定術と後方除圧術があります。私が手術をお願いすることになった先生は、低侵襲の手術をされる大変ご高名な先生ですが、これ以上の説明はここでは省略します)
8月18日からは仕事に復帰するつもりでいます。しかし、比較的大きな手術ですし、術後しばらくの間は安静を余儀なくされます。冒頭で紹介した患者さんは、私が大変な病気に罹患したから長期間入院することになったと考えられたわけですが、疾患自体は悪性のものではありませんし、寿命が短くなるものではありません。しかし術後の安静が強いられるために長期間休まなければならないのです。
術後の経過、そして予定通り8月18日から診療を再開できるか、などについては、ホームページでお伝えしていく予定です。しばらくの間ご迷惑をおかけしますことをお許しください。
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