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2017年4月21日 金曜日
第171回(2017年4月) こんなにも不便な院外処方
こんなにも安くなるんですね…
今年(2017年)になってから患者さんからこのセリフを何度聞いたでしょうか。スギ花粉症に対する舌下免疫療法の薬「シダトレン」は、冷蔵庫のスペースが確保できなかったことから当院は過去2年間院外処方としていました。しかし、あまりにも「院内処方にしてほしい」という要望が多いために2017年1月から院内処方に変更しました。
太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)は、2007年にオープンしたときからほとんどの薬を院内処方にしていました。この理由はおもに2つ。ひとつは開院当初は近くに調剤薬局がなかったことです。このあたりはオフィス街と繁華街が一緒になったようなところで昼間の人口が多い割にはクリニックがあまりありませんでした。そのため調剤薬局が存在しなかったのです。しかしこの10年で少しずつクリニックの数が増えてきて、そのおかげで調剤薬局も誕生しました。
谷口医院が院内処方にしている理由はもうひとつあります。そしてこの理由のために、近くに調剤薬局ができたのにもかかわらず院内処方を続けているのです。その理由とは「患者さんを診ていない薬剤師に薬の適正使用を説明できるのか」という疑問を私が持っているからです。
このようなことを言うと薬剤師からは反対意見が出るでしょう。私も別に薬剤師と喧嘩をしたいと思っているわけではありません。薬剤師の方々には、勤務医時代に随分とお世話になりましたし、また助けられました。医師は自分の患者さんに処方する薬の形も色も大きさもよく知りませんし、「味」となるとまったくお手上げです。ところが薬剤師はこれらを何でも知っているのです。ですから実際の服薬指導は薬剤師の方が医師よりも何倍も上手です。しかし、これは入院患者さんに限ってのことです。入院の場合は、医師と薬剤師が同じ患者さんを「診ている」わけで、看護師も交えたミーティングを頻繁におこない、まさに「チーム」で患者さんに接することができます。
ところが、外来はそうはいきません。調剤薬局に勤める薬剤師は診察室で患者さんを診るわけではありません。薬局のカウンター越しに患者さんと簡単な会話をするだけで、医師が発行した処方箋をみて薬の「一般的な説明」をするだけです。あえて意地の悪い言い方をすると、そのような「一般的な説明」は添付文書を読めばわかることです。薬の添付文書はネット上で簡単にダウンロードできます。
なぜ患者さんを診ていない薬剤師に薬の適切な説明ができないのか。例を挙げましょう。
【症例】30代女性Fさん
谷口医院では、喘息とアトピーと花粉症で通院。症状が改善してきたため、吸入薬は今回から別のタイプのものに変更となった。内服は抗ロイコトリエン拮抗薬を1種類と抗ヒスタミン薬1種類、アトピーは経過良好で顔面と首はタクロリムスでコントロール可能。身体も安定してきたためステロイドからタクロリムスに変更を検討。
この症例に対し、まず吸入薬の「一般的な説明」をおこないます。その後、症状が安定していれば頻度を減らすことも可能で、その減らし方について説明します。Fさんは介護士であり夜勤もあります。その場合吸入する時間をどうするかを考えなければなりません。内服については、抗ロイコトリエン拮抗薬は1日1錠継続し、抗ヒスタミン薬は調子が悪いときには自己判断で1日2錠に増やしてもいいという判断をおこないました。ステロイド外用は次第に弱くすることに成功していますから、今回は全身をタクロリムスでコントロールすることを目標とします。しかし、必ず成功するとは限りませんから、悪化すれば再びステロイドに戻します。ステロイドは部位によって種類も塗る回数も異なります。さらに、ステロイドを「治療」として用いるのではなく「予防」として用いる場合の使用法(これを「プロアクティブ療法」と呼びます)を説明します。
さて、この説明が医師と一緒にFさんを見ていない薬剤師にできるでしょうか。外用薬の説明はできるはずがありませんし、抗ヒスタミン薬の増量についても患者さんのことをよく知っていなければできません。
この一例で充分でしょう。患者さんを診ていない調剤薬局の薬剤師に薬の適切な説明をするのは多くの例で困難なのです。
ところが、21世紀になってから、クリニックの院外処方の割合が急増しています。厚労省が2017年3月29日に公表した「診療報酬(その1)」という資料(注1)があります。この資料に「医薬分業」がいかに増えているかを示したグラフが掲載されています。「医薬分業」とは一言でいえば、「クリニックで医師の診察を受けて、調剤薬局で薬剤師から薬を受け取る」というもので、要するに「院外処方」のことです。グラフをみれば医薬分業率は右肩上がりに上昇しており、平成27年度の医薬分業率はなんと7割。谷口医院のように院内処方を中心としている医療機関は3割しかありません。
これはなぜなのでしょうか。Fさんの例を振り返るまでもなく院内処方の方が薬の説明をしやすいのは自明です。では、なぜ医薬分業率がこれだけ上昇しているのか。その答えは「厚労省の誘導」です。つまり、厚労省がクリニックに対して医薬分業を促しているというわけです。ですが、なぜ医薬分業をすべきなのか、その理由が私には理解できません。理解できる人に意見を聞いてみたいものです。では、厚労省はどのようにして医薬分業を促しているのか。答えは「クリニックの儲け」です。もちろん医療機関は営利団体ではありませんが、多少は利益を出さないと人件費を払えませんから、利益が高い方に流れるのはある程度は仕方がありません。そこで、クリニックからみたときに院内処方よりも院外処方の方が儲かるように「操作」をおこなったのです。
つまり、院外処方箋を発行する際の保険点数を高く設定したのです。クリニックで処方箋を発行すると、それが軟膏1本でも「院外処方箋発行代」として680円(3割負担で200円、以下かっこ内は3割負担)かかります。そして薬局では、最大で1,780円(530円)もかかります(注2)。合わせると最大で合計2,460円(730円)もかかることになります。もしも院内で薬を受け取った場合、この費用(処方代)は合計で620円(190円)で済みます。この差額、1,840円(540円)は決して小さくありません。
〇院内処方の場合: ゲンタシン軟膏1本122円 + 処方代620円 (調剤料60円+処方料420円+外来後発医薬品使用体制加算40円+薬剤情報提供料100円)
〇院外処方の場合: ゲンタシン軟膏1本122円 + 処方箋発行代680円 + 薬局での費用1,780円 (基準調剤加算320円+調剤基本料410円+調剤料350円+かかりつけ薬剤師指導料700円)
薬を処方してもらう度に薬代以外にかかる費用が院外処方から院内処方にするだけで最大540円(3割負担)も安くなるのです。冒頭で紹介したように、院外から院内処方に変更するだけで患者さんから感謝されることがよく理解できます。
院外処方から院内処方に切り替えるとこれだけ安くなり、しかも診察している医師から薬の説明を聞けるとなると、誰が好んで院外処方箋をもって調剤薬局に行くでしょうか。しかも、薬局にまで行く時間と手間がかかるわけです。クリニック側としても、院内処方にすれば、利益は減りますが患者さんには喜ばれます。
では、なぜ7割の医療機関は院外処方とし、院内処方にこだわる医療機関は3割しかないのか、そして院内から院外への流れが止まらないのはなぜなのでしょうか。おそらくその最大の理由は、院内処方だと「見かけ以上の損失が多い」ということだと思われます。薬の利益というのはほぼゼロです。例えば1錠100円で処方する薬であればだいたい仕入れ値は99円です。もしも薬の準備をするときに床に落としてしまったりすればクリニックの損失になります。また消費期限もあります。期限の切れた薬は廃棄せねばなりません。さらに、品切れをしないように、かつ在庫を抱えすぎないように薬を管理するのは思いのほか大変です。実際、谷口医院のスタッフも薬の管理で疲弊してしまっています。しかも谷口医院のような総合診療のクリニックは取り扱っている薬の種類が非常に多いのです。
ですが、谷口医院では時代に逆らって院内処方を続けていく方針です。たとえ赤字になったとしても、薬の説明は患者さんを診ている医師や看護師がおこなうべき、という考えを変えるつもりはありません。
************
注1:下記URLを参照ください。4ページに医薬分業率がいかに増えているかを示している分かりやすいグラフがあります。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000158273.pdf
注2:注1の資料の43ページに分かりやすい説明があります。
http://www.stellamate-clinic.org/images_mt/0000158273%2043.pdf
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|2017年4月21日 金曜日
第164回(2017年4月) 本当に危険なベンゾジアゼピン依存症
太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)を開院して以来、多くの患者さんに対してずっと言い続けていることは「薬や検査は最小限に」というものです。以前どこかに書きましたが、「お金払うのあたしですよね…」と言われ、「金払うって言ってるやろ!」と言葉を荒げられ、また泣き落としをされたとしても、医師は患者さんの害になるかもしれないことはできないのです。
薬でいえば、谷口医院で特に慎重な処方をおこなっているのが、睡眠薬や抗不安薬として用いる「ベンゾジアゼピン」(注1)、抗菌薬、鎮痛薬の3種です。他の薬も、原則として最小限の処方としていますが、とりわけこの3種にはしつこいくらい危険性を訴えてきました。(鎮痛薬については過去のコラム「メディカルエッセイ第97回(2011年2月)鎮痛剤を上手に使う方法」を参照ください。抗菌薬については、現在もシリーズとして連載を続けている毎日新聞「医療プレミア」の「抗菌薬の過剰使用を考える」が参考になると思います)
ベンゾジアゼピンについては、過去のコラム(注2)でデパス/エチゾラムの危険性を例を挙げて示し、さらに依存しやすい薬のランキングを紹介しました。また、マイスリー/ゾルピデムの危険性については、実際に記憶がないまま我が子を殺めた40代の主婦の事件や、高齢者のレイプ事件を紹介し、安易に手を出すべきでないことを述べました(注3)。
我々医療者と患者さんの認識の”ズレ”を感じることはしばしばありますが、このベンゾジアゼピンに対する危険性の認識はそのズレが非常に大きいと言わざるを得ません。先日も次のような患者さんが来ました。
【症例】30代男性Aさん
東京から出張中。怪我をして下肢が膿んできた、とのことで当院受診。投薬が必要ですから、今飲んでいる薬との飲み合わせを検討せねばなりません。
私:「今飲んでいる薬はありますか?」
Aさん:「一番弱い安全な睡眠薬を寝る前に2錠飲んでます。名前は忘れました」
私:「今飲んでいる薬が分からなければ、飲み合わせの関係から当院では一切の処方ができません。処方してもらっているクリニックに電話して聞いてください」
(5分後)
Aさん:「トリアゾラムを2錠です。弱い薬だから心配ないと聞いています。もう2年ほど毎日欠かさず飲んでいます」
私:「副作用のリスクとか依存性のことについてはどのように聞いていますか」
Aさん:「そんな話聞いたことありません。弱い薬、ということしか聞いていません…」
医師のルールとして「安易に前医を批判してはいけない」というものがあります。前医が診察したときには、そうすべき理由があったと考えなければならないからです。ですが、2年間も依存性の強い薬を説明もなしに処方している医師がいるのであればこれは問題です。
注2のコラムで紹介したように、実は”安易に”ベンゾジアゼピンを処方している医師は思いのほか多いようです。医学部の授業では、ベンゾジアゼピンについては副作用のみならず依存性についても学びますから、なんで??という疑問が拭えません。たしかにベンゾジアゼピンを使用すべきケースもあり、谷口医院でも処方することもあります。ですが、必ず危険性、副作用、依存性などについても理解してもらうことが処方の条件となります。
医薬品の過剰摂取で入院した患者は日本全国で年間21,663人。うち63.1%でベンゾジアゼピンの使用。35~49歳では74%、75歳以上でも59.3%…。
これは医学誌『Journal of Epidemiology』2017年2月24日号(オンライン版)に掲載された研究結果です(注4)。
この研究は、2012年10月から2013年9月までの1年間に「急性中毒」で入院した21,663人の症例をレセプト(診療明細書)を用いて分析しています。日本では薬の過剰摂取による入院費用が年間77億円に上ると推計されています。原因となる薬剤は、米国ではオピオイド系鎮痛薬(麻薬に近いもの)が多いのに対し、日本ではベンゾジアゼピンが最多です。
2017年3月、PMDA(医薬品医療機器総合機構)が「ベンゾジアゼピン受容体作動薬の依存性について」というタイトルの発表(注5)をおこないました。患者さん向けに、ベンゾジアゼピンの漠然とした使用がいかに危険かを分かりやすく、実例を挙げて示しています。
厚労省もアクションを起こしました。2017年3月21日、「催眠鎮静薬、抗不安薬及び抗てんかん薬の「使用上の注意」改訂の周知について(依頼)」という通知(注6)をおこないました。これは医療者に対して、ベンゾジアゼピンの処方を最小限にするよう注意勧告したものです。
ここで、なぜベンゾジアゼピンが危険なのかを振り返っておきましょう。まず「記憶障害」があります。注3のコラムでは悲惨な事件について触れましたが、そこまでいかなくても、食事や電話の記憶がなくなっている、ということはよくあります。次に「反跳性不眠」があります。これはベンゾジアゼピンを睡眠薬として使った場合、たしかに飲めば眠れますが、使い続けることにより不眠が悪化し、飲み始める前よりもかえって不眠の程度がひどくなることを言います。
長期使用した場合「依存性」がでてきます。もはやベンゾジアゼピンがないとほとんど眠れない身体になってしまいます。さらに、認知症のリスクがあると言われています。これは「リスクがない」とする研究もあるのですが、大規模調査では「認知症のリスクあり」とされています(注7)。他にもたくさんの副作用があります。
次に、ベンゾジアゼピンはなぜ簡単にやめられないかを説明します。一番の理由は「依存性があるから」で、タバコや覚醒剤が簡単にやめられないのと同じです。そして、ベンゾジアゼピンの場合、覚醒剤や麻薬などと同様のやっかいな点があります。それは、急にやめると「禁断症状」が出るということです。嘔気や頭痛程度なら軽症で、ひどい場合は、痙攣や意識障害が起こります。
ですから、効果的にベンゾジアゼピンを中止するには、突然やめるのではなく、ゆっくりと量を減らしていかねばなりません。谷口医院では、中等度から重度のベンゾジアゼピン依存症の人に対しては半年から1年くらいかけてゆっくりと少しずつ減らしていくようにします。しかし、必ずしもうまくいきません。タバコならチャンピックスという禁煙補助薬があり、麻薬の場合は(日本で実施しているところはおそらくないと思いますが)「メサドン療法」といって麻薬の代替品を用いる方法があります。ベンゾジアゼピンの場合は、そのようなものがありませんから、ベンゾジアゼピンを弱いものや作用時間の異なるタイプのものに変更していきます。あるいは異なる作用機序の比較的安全な睡眠薬を併用します。
タバコをやめるときは、禁煙補助薬で”自動的に”やめられるわけではなく、ある程度は「絶対やめるんだ!」という意思が必要です。それと同様、ベンゾジアゼピンの場合も、患者さん自身がまず危険性を充分に認識し、やめるという意思を持たねばならないのです(注8)。
************
注1:ベンゾジアゼピンは、正確には「ベンゾジアゼピン受容体作動薬」という名称です。これを省略して「ベンゾジアゼピン系」と呼ぶこともあります。BZと略すこともあります。英語はbenzodiazepineで、略すなら「BD」の方がいいような気がしますが、なぜかBZとなります。(ちなみに、英語をそのままカタカナにすると「ベンゾダイアゼピン」となります。私は日本人以外の医師が「ベンゾジアゼピン」と発音するのを聞いたことがありません) ここでは「ベンゾジアゼピン」で統一します。また、マイスリー/ゾルピデム、ゾピクロン/アモバン・ルネスタは「非ベンゾジアゼピン」と表記されることがありますが、実際の作用・副作用は同じですから、ここでは「ベンゾジアゼピン」に含めます。
注2:メディカルエッセイ第165回(2016年10月)「セルフ・メディケーションのすすめ~ベンゾジアゼピン系をやめる~」
注3:はやりの病気第124回(2013年12月)「睡眠薬の恐怖」
注4:この論文のタイトルは「Epidemiology of overdose episodes from the period prior to hospitalization for drug poisoning until discharge in Japan: An exploratory descriptive study using a nationwide claims database」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0917504017300254
注5:下記を参照ください。
https://www.pmda.go.jp/files/000217046.pdf
注6:下記を参照ください。
http://www.pmda.go.jp/files/000217230.pdf
下記は、このなかで取り上げられているベンゾジアゼピンです。
○一般名 ○先発品の商品名
アルプラゾラム コンスタン、ソラナックス
ロフラゼプ酸エチル メイラックス
エスゾピクロン ルネスタ
エスタゾラム ユーロジン
オキサゾラム セレナール
クアゼパム ドラール
クロキサゾラム セパゾン
クロラゼプ酸二カリウム メンドン
クロルジアゼポキシド コントール、バランス、クロルジアゼポキシド
ジアゼパム エリスパン、セルシン、ダイアップ、ホリゾン
ゾピクロン アモバン、ルネスタ
ゾルピデム酒石酸塩 マイスリー
トリアゾラム ハルシオン
ニトラゼパム サイレース、ネルボン、ベンザリン、ロヒプノール
ニメタゼパム エリミン
ハロキサゾラム ソメリン
クロチアゼパム リーゼ
フルジアゼパム エリスパン
フルタゾラム コレミナール
フルトプラゼパム レスタス
フルニトラゼパム(経口剤) サイレース、ロヒプノール
ブロマゼパム(経口剤) セニラン、レキソタン
フルラゼパム塩酸塩 ダルメート
ブロチゾラム レンドルミン
メキサゾラム メレックス
メダゼパム レスミット
リルマザホン塩酸塩水和物 リスミー
ロラゼパム ワイパックス
ロルメタゼパム エバミール、ロラメット
クロナゼパム ランドセン、リボトリール
クロバザム マイスタン
ジアゼパム(坐剤) ダイアップ
ミダゾラム ドルミカム、ミダフレッサ
エチゾラム デパス
注7:はやりの病気第151回(2016年3月)「認知症のリスクになると言われる3種の薬」
注8:ベンゾジアゼピンは1カ月内服すると約半数(47%)が依存症になるという研究があります。医学誌『Psychopharmacology』2003年5月号に掲載された論文「Benzodiazepines: more “behavioural” addiction than dependence」で紹介されています。この論文によれば、 より依存しやすいのは、中年で離婚していて低学歴で、無職か専業主婦をしている女性だそうです。
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|2017年4月11日 火曜日
2017年4月 なぜ「幸せ」はこんなにも分かりにくいのか
先月のマンスリーレポートで、私はいつも時間に追われる生活を送っているという話をしたところ、それで幸せなのか、という意見を複数の方からいただきました。ある人が「幸せ」かどうかは、幸せの定義によりますし、簡単に結論がでる話ではありません。古今東西、人間はいつも「幸せとは何か」について思索しているわけで、幸せについて論じた書籍は無数にあります。
私にとって何が幸せかはひとまず置いておいて、まずは幸せというテーマになると必ず出てくる「お金」について考えてみたいと思います。
最初に基本的なことをおさえておきましょう。人はお金のために生きているわけではないのは事実ですが、お金がないと生きていけません。これは当たり前のことですが、きれいごとが好きな人のなかには「お金なんてなくてもいい。もっと大切なものがある」と強調する人がいます。また、「自分はお金はないけど幸せだ」という人もいます。こういうセリフ、文脈によっては他人を傷つける無神経な発言となります。
話す相手によっては「お金はない」などと気軽に口にすべきではありません。私はNPO法人GINAの関係でタイによく渡航します。日本にはちょっとないような貧困層の人と話をすることもあります。彼(女)らの「お金がない」というのは、ひどい場合は、「その日に食べるものの確保も困難」というレベルです。そこまで困窮している人は私と継続的に付き合いのある人たちのなかにはそうそういませんが、「冷蔵庫やテレビがない」という人は地方に行けばいくらでもいます。それでも「家族がいれば幸せ」と話す人もいますから、「お金」は最低限必要ですが、お金があればあるほど幸せとは言えない、というのは間違いなさそうです。
お金と幸せについてもう少し掘り下げて考えてみましょう。個人差はあるにせよ、全体でみたときには年収がいくらくらいあれば人は満足できるのでしょうか。
これには有名な学説があります。科学誌『PNAS』に2010年に掲載された、ノーベル経済学賞受賞者ダニエル・カーネマンの論文「高収入で人生の評価が改善しても感情的な幸福は改善しない(High income improves evaluation of life but not emotional well-being)」です。カーネマンによれば、年収が75,000ドル(約900万円)を超えると、それ以上収入が増えても「感情的な幸福」が変わりません。「感情的な幸福」とは、喜び、ストレス、悲しみ、怒り、愛情などの頻度と強さのことです。つまり、「幸福」の基準を高級車や豪華な住宅に求めるならともかく、「感情」を大切なことと考えるなら、その感情を得るのに必要な年収はそんなに高くなくてもOK、ということです。
ですが、年収75,000ドルは低くありません。こんなに稼げる人は世界の5%もいないでしょう。この数字だけをみると、「年収75,000ドルなんて一生かかっても達成できるはずがない。ということは自分は生涯幸せとは縁がないんだ…」と考える人もいるかもしれません。しかし悲観するのはまだ早い。
これは米国の2010年のデータです。日本が世界有数の物価高だったのはバブル経済の頃の話であり、いまや日本は先進国のなかで物価は安い方です。一例をあげましょう。日本なら、都心部に住んでもワンルームマンションは安ければ家賃4万円代の物件があります。一方、アメリカでは、ニューヨークやロサンジェルスでワンルームマンションを探すと30万円近くを覚悟しなければなりません。単純に家賃だけで決められるわけではありませんが、物価を考慮すると、米国の75,000ドルは、日本でいえば年収300~400万円くらいではないでしょうか。
さて、ここで私が以前タイで知り合ったHさんの話をしたいと思います。Hさんは当時40歳くらいの男性で、15年間勤務した一部上場企業を退職しタイにやってきました。タイには「沈没組」と呼ばれる、日本でドロップアウトして安宿に引きこもっている人たちも大勢いますがHさんは異なります。いつも颯爽としていて明るくて話も面白いのです。英語だけでなくタイ語も堪能です。このHさんから聞いた「タイの農夫と日本のビジネスマン」の逸話がとても印象的でした。こんな話です。
タイのイサーン地方(東北地方)の昼下がり。ハンモックに揺られながらのんきにビールを飲んでいる中年男性に、同い年くらいの日本のビジネスマンが近づいた。
日本人:昼間からのんびりしているね。
タイ人:カモとナマズにエサをあげたから今日はもうすることがないんだ。
日本人:へえ、飼育の仕事をしているんだ。たくさん飼っているの?
タイ人:いや、家族と親戚が食べる程度。これで充分だ。夕方になると村の連中が集まってくる。一緒に飲んで騒いで子供たちがはしゃいでいるのをみればそれで幸せだ。
日本人:もっとたくさん飼育して金儲けをすればいいのに。
タイ人:金儲けをしようと思えばどうすればいいんだ?
日本人:そうだな、まず経営のことを勉強する。資金がないなら銀行に借りればいい。事業計画書がきちんとしていればお金を借りることができる。そして会社を立ち上げてこの県一番の食品会社にするんだ。
タイ人:それで?
日本人:次は国際関係も学んで輸出をするんだ。一時的に誰かに経営をまかせて海外留学してMBAをとるのがいい。
タイ人:それで?
日本人:輸出で大儲けすれば次は株式上場だ。
タイ人:それで?
日本人:そうなれば株式を全部売ってしまって億万長者だ。
タイ人:億万長者になれば何ができるの?
日本人:もう勉強も仕事もしなくていい。昼間からハンモックに揺られながらビールが飲めるぞ…。
その後似たような話を何度か聞きました。どうやらこの話は世界的に有名な逸話で、オリジナルは「メキシコの漁師と米国人ビジネスマン」という説が有力です。
Hさんは退職金には手を付けずに、日本で3か月ほど工場で夜勤をして、そのお金を持ってタイなどで残りの9か月を過ごすそうです。ローカルバスに乗り、日本人が行かないような田舎に行ってタイを楽しんでいると言います。
私がHさんと知り合ったのはタイのエイズ問題に関わり始めたばかりの頃で、当時はまだNPO法人GINAの設立も、日本でクリニックを始めることもまったく考えていませんでした。工場の夜勤も高収入でしょうが、過去にも述べたように医師のアルバイトもそれなりに高収入です。例えば、日本で3か月の間、健康診断や深夜の救急外来のアルバイトをおこなえば、残りの9か月をタイで過ごし、エイズ施設でボランティアをすることも充分に可能です。
もしもあのときHさんのような生活を選択したとすれば、私の時間管理は上手くいき、今のように時間に追われる毎日から解放されていたでしょうか。そして「幸せ」と感じることができていたでしょうか。
実はこのことは今でもときどき考えます。そして結局毎回同じ結論にたどり着きます。私の「選択」は正しかった、という結論です。当時の私は研修医を終えたばかりで、医師としての知識も技術もまだまだ未熟でした。ということは、患者さんに貢献するには自分がもっと勉強せねばなりません。私のとった行動は、母校の大阪市立大学医学部の総合診療科の門を叩き、研修医のとき以上に勉強するということでした。大学病院のみならず複数の病院や診療所に修行にでかけ知識と技術の習得に努めました。そして、タイのエイズ患者さんや孤児に対してはNPO法人GINAを立ち上げて組織として貢献することを考えました。
今も知識と技術の習得はまだまだ必要だと考えています。結局、私は「勉強」と「貢献」に価値を置いていて、これらを自分のミッションと認識しています。つまり、当時も今もやるべきことをやっているということに他なりません。ならば私は幸せなのか…?
「タイの農夫と日本のビジネスマン」の逸話は、金持ちでなくとも幸せになれることを示しています。そして、私はあきらかに「タイの農夫」とは異なるライフスタイルをとっています。では、私は「日本のビジネスマン」に近いのかというと、これも明らかに違います。日ごろしている勉強、無料でおこなっているメール相談、GINA関連の諸業務などは時間とお金を使うだけですから、ビジネスとは真逆のものです。
それで忙しい、時間がない、と嘆いている私は幸せなのでしょか…。イエス、と言いたいところですが、Hさんや「タイの農夫」のことが羨ましいと思うこともあります。
私にとって「幸せ」とは何か。いまのところ自分ではまったく分かっていないようです…。
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|2017年4月7日 金曜日
2017年4月7日 血圧低下は認知症のリスク
高血圧は生活習慣病のリスクであり、減塩・運動・減量では下がりきらず、降圧薬を使わざるを得ない人も少なくありません。適度な血圧を維持することは、将来の脳卒中や心筋梗塞を予防するために重要なことですが、血圧が下がることは「認知症」のリスクになります。最近、2つの研究が報告されました。
ひとつめの報告は医学誌『Alzheimer’s & Dementia』2017年2月号に掲載されています(注1)。ポイントをまとめます。
・認知症を患っていない90歳以上の対象者559人(米国人)を約3年調査したところ、(なんと)40%が認知症を発症した。
・80歳以降で高血圧を発症した人は、90代で認知症を発症するリスクが正常血圧の人に比べて42%低かった。
・90歳以降で高血圧を発症した人は、90代で認知症を発症するリスクが正常血圧の人に比べて63%低かった。
・以上の関連性は降圧薬を服用しても変わりはなかった。
ということは、80代以降に高血圧を発症すれば、認知症になりにくく、また動脈硬化のリスクは降圧薬服用で下がるのだから、高血圧を発症した方が心身ともに健康で長生きできることを意味しています。むしろ、90歳をこえれば4割もが認知症になるのなら、高血圧を起こすためにどうすればいいかを考えたくなってきます。
もうひとつ紹介したいのはスウェーデンの大規模調査です。医学誌『European journal of epidemiology』2017年2月11日号(オンライン版)に掲載されています(注2)。
対象者は同国の18,240人(平均年齢45歳±7歳、男性63%)であり、1974~92年に安静時と体位変換時の血圧が測定されています。そして2002~2006年に再度安静時の血圧が測定されています(平均年齢68±6歳)。結果は以下の通りです。
・2009年12月末までに428人(2.3%)が認知症を発症した。
・調査開始時の起立時の拡張期血圧(下の血圧)が低ければ認知症のリスクが高かった。10mmHg低下するごとに1.22倍のリスク上昇。これは(安静時に)正常血圧である場合にリスク上昇となる。
・2002~06年の再検査で、血圧が高くなっていれば認知症のリスクは低下していた。収縮期血圧(上の血圧)は10mmHg上昇していれば6%のリスク低下、拡張期は10mmHg上昇していれば13%低下。
・2002~06年の再検査で、最も血圧が下がっていたグループは、血圧が最も上昇していたグループと比較すると、認知症のリスクが大きく上昇していた。収縮期の低下は46%のリスク上昇、拡張期の低下は54%の上昇。
こちらは比較的若い世代での検討です。40代でも60代でも血圧が低いことは認知症のリスクとなり、年をとってから血圧が下がった場合は、リスクが大幅に増加することを示しています。
************
この2つの研究、日本のメディアはあまり取り上げていませんが、もっと注目されてもいいのではないでしょうか。血圧を下げることに躍起になっている人は少なくありません。もちろん認知症のリスクは血圧だけで予測できるわけではありませんし、民族間の差もあると思われます。
私の知る限り、日本では低い血圧が認知症のリスクと結論づけられた研究は見当たりません。私が診察室でよく感じるのは、数字にこだわりすぎる人が多い、ということです。(もちろん血圧にまったく無関心な人も少なくありませんが…) 収縮期血圧、拡張期血圧がどれくらいが理想かというのは、その人の年齢、性別、体重、運動量、ライフスタイル、これまでの病気などによってまったく異なります。メディアが語る「理想の数字」に囚われるのではなく、ひとりひとりがかかりつけ医と相談すべきであることは間違いありません。
注1:この論文のタイトルは「Age of onset of hypertension and risk of dementia in the oldest-old: The 90+ Study」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.alzheimersanddementia.com/article/S1552-5260(16)32962-4/fulltext
また、下記URLで一般向けのプレスリリースを読むことができます。こちらの方が英語が分かりやすくておすすめです。
http://alz.org/documents_custom/high-bp_statement_011717.pdf
注2:この論文のタイトルは「Longitudinal and postural changes of blood pressure predict dementia: the Malmö Preventive Project」で、下記URLで概要を読むことができます。
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|2017年4月3日 月曜日
2017年4月3日 グルテンフリー食は糖尿病のリスク?!
過去のコラム(「はやりの病気」第158回(2016年10月)「「コムギ/グルテン過敏症」という病は存在するか」)で紹介したように、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)には、コムギ/グルテンフリー食を実践している患者さんが少なくありません。
医学的根拠はないものの「コムギ/グルテン過敏症」が存在する可能性は否定できず、私自身はこの疾患の存在を100%の確証を持って肯定しているわけではありませんが、実践して調子がいい、という患者さんは応援するようにしています。
その理由のひとつが、コムギ/グルテンを除去することで糖質摂取が制限され、また、米は食べていますから、適度な「糖質制限」ができるからです。「糖質制限」についても私自身は「完全肯定」しているわけではありませんが、経過観察を続けながらやり過ぎないように実践する分にはかまわないと考えています。
ですから、適度なコムギ/グルテンフリー食は糖尿病や肥満の予防になるのではないかと考えていました。ところが、です。「グルテンフリー食にすると糖尿病のリスクが上昇する」という研究が最近報告されました。米国心臓協会(American Heart Association)がウェブサイトで報告(注1)しています。
研究は、医療従事者を対象とした3件(NHS (Nurses’Health Study), NHSⅡ(Nurses’Health StudyⅡ), HSPS(Health Professionals Follow-up Study))の疫学調査のデータ合計199,794人分を解析することによりおこなわれています。結果、グルテン摂取量が最も多い上位20%のグループは、最も少ないグループ(4グラム/日未満)に比べて、糖尿病のリスクが13%低下していたのです。
なぜ、グルテンフリー食は糖尿病のリスクを上昇させるのか。研究者らは「食物繊維」が要因のひとつと考えています。つまり、グルテンを含む食品には食物繊維が豊富に含まれており、これが糖尿病の予防になるのではないかという考えです。さらに、研究者らは、グルテンフリー食はビタミンやミネラルといった微量元素が不足する可能性についても言及しています。
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食物繊維をしっかり摂れば肥満や糖尿病のリスクを軽減できることが最近よく指摘されます。そして、食物繊維というのは量をある程度摂らねばならないことから、食品から取り出してサプリメントや健康食品をつくることが困難です。しかも、食物繊維には様々な種類があります。結局、効果的に食物繊維を摂取するには「バランスの良い食事をする」のが最も現実的です。
この研究は米国人を対象としています。日本食の場合、野菜、海藻、いも類、あるいは玄米などから食物繊維を摂取することができます。本文でも述べたように、私自身はグルテンフリー食を否定も肯定もしていませんが、日本食をバランスよく摂取するのであれば、この報告に影響を受けてやめる必要はないと考えています。
注1:このレポートのタイトルは「Low gluten diets may be associated with higher risk of type 2 diabetes」で、下記URLで読むことができます。
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|2017年3月31日 金曜日
2017年3月31日 殺虫剤や蚊取り線香が子供の行動障害を起こす可能性
殺虫剤が健康上有害かどうかというテーマはもう何十年も議論が続いています。DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)は大変効果的な殺虫剤であり、かつては日本でも幅広く使われていました。八重山諸島のマラリア対策にも使われ、DDTのおかげで日本はマラリアを根治できたのです。ですが、有害性のために現在日本での使用は禁止されています。
現在、日本製の殺虫剤及び蚊取り線香で最も一般的に使われているのが「ピレスロイド」と呼ばれる物質です。ピレスロイドが有害か否かという問題も何十年にわたり議論されていて、現在では「よほど大量摂取しなければ人体に有害はない」とされています。日本中毒センターは、蚊取り線香に対しては「ひとかけら程度の誤食では中毒症状は出現しない」とし、家庭用のピレスロイド系殺虫剤スプレーでも「通常、大量でない限り重篤な中毒は起こりにくい」と案内しています(注1)。
私のように東南アジアによく行く者にとっては、蚊取り線香は必需品です。特に安宿に泊まるときはデング熱やチクングニア熱対策に蚊取り線香は絶対に必要なものであり、地域によってはマラリア対策もせねばなりません。
妊婦や小児がピレスロイドに曝露されると行動障害のリスクが増加する…
医学誌『Occupational & Environmental Medicine』2017年3月1日号(オンライン版)でこのような報告がおこなわれました(注2)。研究は仏国Rennes大学病院によりおこなわれています。
対象者はフランスの母親287人。妊娠中、及び子供は6歳のときの尿中ピレスロイド代謝物の濃度が測定され、行動障害との関連が分析されています。
結果、異常または境界線の社会行動障害のリスクがピレスロイド曝露により2.93倍も上昇することが判りました。興味深いことに社会行動障害の種類が、ピレスロイドの曝露が妊婦か子供かによって異なります。妊娠中の母親が曝露された場合は、小児の内在性困難(internalising difficulties)のリスクが上昇しました。内在性困難とは、例えば、うつ状態や不安のことです。一方、6歳の子どものピレスロイド濃度が高い場合は、外在性困難(externalising difficulties)のリスク上昇がみられます。これは、他人への攻撃や破壊的な行動のことです。
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この研究だけでピレスロイドの危険性を過剰に流布するのは間違いだとは思いますが、妊婦さんや小さな子供がいる場合は、殺虫剤も蚊取り線香も最小限の使用にすべきかもしれません。となると、蚊帳や蠅とり紙の出番でしょうか。少なくとも21世紀の日本で私はこれらを見たことがありませんが…。
注1:日本中毒センターの情報は下記を参照ください。
・殺虫剤について
http://www.j-poison-ic.or.jp/ippan/M70219_0100_2.pdf
注2:この論文のタイトルは「Behavioural disorders in 6-year-old children and pyrethroid insecticide exposure: the PELAGIE mother-child cohort」で、下記URLで概要を読むことができます。
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|2017年3月31日 金曜日
2017年3月31日 成人女性のニキビの発生因子とは?
アダパレン(ディフェリン)、過酸化ベンゾイル(BPO、ベピオゲル)などが日本でも使えるようになり、一昔前に比べるとニキビの治療は随分とおこないやすくなりました。ですが、ニキビは慢性疾患ですから、他の慢性疾患と同様、日ごろの生活習慣の改善が大切です。
医学誌『Journal of the American Academy of Dermatology』2016年12月号(オンライン版)に興味深い論文(注1)が掲載されました。成人女性のニキビの発生因子が検討されています。
研究の対象者はイタリア国内の12の都市の外来を受診した25歳以上の女性278人。対照グループはニキビ以外で受診した270人の女性です。結果は以下の通りです。それぞれの項目でニキビの発症リスクが何倍になるかが調べられています。
・親にニキビがある(あった) → 3.02倍
・兄弟姉妹にニキビがある(あった)→ 2.40倍
・自身が思春期にニキビがあった → 5.44倍
・妊娠の経験がない → 1.71倍
・多毛症がある → 3.50倍
・オフィスワークをしている(無職または専業主婦と比べて) → 2.24倍
・精神的なストレスがある → 2.95倍
・野菜・果物の摂取量が少ない → 2.33倍
・新鮮な魚の摂取量が少ない → 2.76倍
両親や兄弟、過去のことは変えられませんが、食生活やストレスなどについては改善の余地があるかもしれません。
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冒頭で述べたように、日本でも世界標準の薬が使えるようになったことでニキビの治療は随分とおこないやすくなりましたが、それだけで解決するわけではないようです。この研究結果を単純に解釈すれば、オフィスワークをしていてストレスがあって、妊娠の経験がなく、野菜・果物と新鮮な魚をあまり食べていないのであればリスクが何十倍にもなってしまいます。このような女性はいくらでもいるでしょうから、さすがに何十倍にまではならないでしょうが、他の多くの慢性疾患と同様、ストレスコントロールと健康的な食生活が重要であることは間違いないでしょう。
参考:はやりの病気第140回(2015年4月)「古くて新しいニキビの治療」
注1:この論文のタイトルは「Adult female acne and associated risk factors: Results of a multicenter case-control study in Italy」で、下記のURLで概要を読むことができます。
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|2017年3月31日 金曜日
2017年3月31日 大通り沿いに住むことが認知症のリスク
大通りや幹線道路沿いに住めば認知症を発症しやすい・・・
これは一流の医学誌『Lancet』2017年1月4日号(オンライン版)に掲載された報告です(注1)。
研究はカナダでおこなわれたものです。対象者はオンタリオ州に居住の20~50歳の約440万人、及び55~85歳の約220万人です。大通りから住居までの距離と認知症の発症との関係が分析されています。観察期間は2001年から2012年です。
調査期間中に合計243,611人が認知症を発症しました。大通りから居住地の距離との関係は、大通りから300メートル以上離れたところに住んでいる人に比べ、50メートル未満の人では1.07倍認知症を発症しやすいことがわかりました。50~100メートルでは1.04倍、101~200メートルは1.02倍、201~300メートルなら1.00倍です。
大通りに近づけば近づくほど認知症のリスクが上昇するという”きれいな”結果となっています。尚、認知症と同じ脳疾患であるパーキンソン病と多発性硬化症でも同じ分析がおこなわれていますが、これら2疾患の発症と大通りからの距離との関連性はありませんでした。
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私的なことになりますが、私が幹線道路沿いに初めて住んだのは20歳の頃で、医学部入学時に引っ越ししたワンルームマンションも幹線通り沿いに位置していました。医学部卒業後は研修先の病院の寮に入ることになりその寮は幹線道路から大きく離れていました。そのときは、研修医ということもありほとんど寮に帰れない生活でした。その後、幹線道路か否かにこだわったわけではないのですが、たまたま幹線道路から離れたところに住み始めました。
すると、まったく予想していなかったことが起こりました。よく眠れるのです! 今考えれば、当たり前といえばそうなのですが、静かな環境というのがこんなにも大事なのかと驚きました。
その後私は、国内でも海外でもホテルを予約するときには、幹線道路から離れたところという条件で探すようにしています。尚、日本では心配不要ですが、海外でホテルを探すとき、私は他に2つの条件を求めます。ひとつはホットシャワーが出ること(40歳を過ぎてから冷たい水はキツイのです)、もうひとつは「窓があること」です。アジアでは、ボロボロのゲストハウスでなくとも、例えば2,500円くらいするような中堅のホテルでも、窓がないということがあります。このような研究は見たことがありませんが、窓のない部屋で生活すると間違いなく健康を害する、と私は考えています。
ですが、窓があるかどうかを事前に調べることが困難であり、これが私の悩みです。Agoda、Tripadviser, Expediaのいずれのホテル検索サイトも「窓あり」で検索できません。他の人はどうしているのでしょうか…。
注1:この論文のタイトルは「Living near major roads and the incidence of dementia, Parkinson’s disease, and multiple sclerosis: a population-based cohort study」であり、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)32399-6/fulltext
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|2017年3月25日 土曜日
第170回(2017年3月) 医師が知り合いを診察すべきでない理由
医師はフェイスブックをすべきでなく、患者さんとは友達になれない、ということを英国医師会の勧告を紹介して過去のコラム「僕は友達ができない」で述べました(注1)。同医師会は医師が患者さんからの「友達リクエスト」を「承認」すると、医師・患者の双方が不利益を被る可能性があることを指摘しています。
ただ、実際には日本ではフェイスブックをおこなっている医師は少なくありません。患者さんから「友達リクエスト」がきたときに「拒否」することに抵抗があるために、私自身は英国の指針に従って今後もフェイスブックを含むSNSをおこなうつもりはありませんが、実際にフェイスブックをやっている医師に聞いてみると、あまり抵抗なく「拒否」しているようです。私なら、せっかくの患者さんからの友達リクエストを拒否してしまったら、その次に診察室で顔を合わせたときに気まずくなると考えるのですが、このあたり、私の感覚が他の医師とズレているのかもしれません…。
医師・患者関係というのは、友達関係とはまったく異なるものです。仮に医師・患者の関係から友達の関係になったとして、その患者さんの病状が安定していて回復傾向にあればいいですが、そうはならなかったときに関係がこじれることがあります。外で会ったときの会話をカルテに残すようなことはしませんから、「言った言わない」という問題がでてくるでしょうし、患者さん側は「特別に目をかけてくれている」と誤解することもあるでしょうし、医師の側からみても「なんとかしてあげたい」という気持ちから冷静さを欠く可能性もあります。
医師とは友達になれません、なんてことを学校で学ぶわけではありませんから、患者さんのなかには医師と友達関係を求める人もいます。もっとも、これは患者さんの立場にたてば理解できることであり、お世話になった人(医師)とこれからもいい関係を続けたい、とか、尊敬できる医師から医学以外のことも学びたい、と考える人もいると思います。医師への感謝の気持ちが恋愛感情に発展することもしばしばあります。(医師・患者のロマンスは原則として禁じられています。日本には明文化された規則はありませんが、アメリカ医師会の「医療倫理の指針」で述べられています。詳しくは過去のコラム(注2)を参照ください)
診察室で、元気になった患者さんから「今度食事に招待させてください」「プライベートで電話していいですか」といったことはよく言われますし、太融寺町谷口医院は、繁華街に位置していますから、近隣の飲食店につとめる患者さんから「今度うちに食べにきてください」と言われることや、ときにはキャバクラや(北新地の)クラブで働く女性から「一度遊びにきてください」と言われることもあります。このようなとき、私は(というよりすべての医師は)医師・患者は友達になれず外で会えないルールがあるという説明をしてお断りしています。
残念なのは、すでに私が客として利用している飲食店のスタッフが患者さんとして来院されたときです。「えっ、せんせーやったんですか?」と驚かれ、私の方も「いつも、美味しいご飯を、あ、あ、ありがとうございます…」とかなりぎこちない会話になります。もちろんそのときはプロ意識を持ってきちんと診察しますが、それ以降私は原則としてその店に行かないようにしています。
しつこく誘われて断れなかったということなのかどうかはわかりませんが、ひとりの医師が暴力団の幹部と外で会い、診断書に虚偽を記載した疑いがもたれた事件が発覚しました。今回はこの事件を振り返って、なぜ医師は知り合いを診察すべきでないかを考えてみたいと思います。
2014年7月、指定暴力団の幹部である男性が京都府立医科大学で腎臓の移植手術を受けました。報道によれば、同大学の学長が専門外であるのにもかかわらず手術に立ち会いました。そして、手術の1か月前に学長と手術を受けたこの幹部が病院外で個人的に会っていたことが発覚しました。
この幹部は、恐喝事件で2015年6月に最高裁で懲役8年の実刑判決を受けています。幹部(ここからは受刑者とします)は、「腎臓の持病」を理由に判決確定後から1年半以上にわたり収監を免れていました。いつまでたっても回復しないことに不信感を抱いた大阪高検及び京都府警は府立医大を調査することになります。
「腎臓の病気のため収監に耐えられない」と診断書を書いた医師は、京都府警の任意の事情聴取に対し「院長からの指示で虚偽の書類を書いた」と供述したとされています。これに対し、学長は2017年2月28日に記者会見を開き疑惑を完全否定しました。しかし、そのわずか2日後の3月2日、退職を発表しました。
その後、一部のマスコミが、府立医大の電子カルテには腎臓の評価に用いられるクレアチニンの値が1.1mg/dLと記載されていたと報道しました。同時期に高検に提出された診断書には10.6mg/dLとされていたそうです。10.6mg/dLなら継続治療が必要であり、とても収監には耐えられません。一方、1.1mg/dLなら、腎機能のみで判断するのであれば、通常の生活を送ることができます。ただ、この情報は私の知る限り、情報の出所がはっきりせず信ぴょう性は定かではありません。ですが、いったんこのような情報が世間に出たわけですから、学長にはこれを説明する義務があります。尚、学長と受刑者が外で会っている現場は複数回目撃されているそうです。
さて、この事件、どこに問題があるかというと、私的な関係と医師・患者関係が区別されていないところにあります。私は医師が個人として暴力団員と接するのがいけないとは考えていません。現在私はその筋の人で仲良くしている人はいませんが、これまでの人生でその世界と接触しかけたことはないわけではありません。過去にも述べましたが(注3)、小学校には親がヤクザの同級生がいて、家が近所だったこともあり、よく家に遊びに行っていました。彼は小学校卒業と同時に引越し、今はどこで何をしているのか知りませんが、もし引越ししていなかったなら同級生として今も付き合いがあったかもしれません。
個人的に私は「暴力団排除条例」というものに違和感を覚えますが(注4)、暴力団員の知り合いがいたとすれば、自分で診察することはおこないません。これは暴力団員だから、ではなく自分の知り合いを自分が診察するのが「よくないこと」であることを知っているからです。単なる風邪くらいならいいかもしれませんが、移植が必要なほどの腎疾患であれば、たとえ自分が腎臓専門医であったとしても他の専門医を紹介します。知り合いに治療をおこなえば冷静さを失うことがあるからです。
マスコミの報道をみていると、この事件のポイントを「ヤクザの親分のために大学病院の医師たちがお上に対して嘘をついた」としているように見受けられます。ですが、真の問題は、患者さんが暴力団員だったことではなく「知人」に便宜を図った疑いが否定しきれない、ということです。もしも「暴力団員」が「政治家」や「権力者」あるいは「医師」であれば、メディアはある程度今回と同じような報道をおこなったでしょう。ですが、「単なる知り合い」であればこのような報道はされなかったに違いありません。
また、今回のケースは患者が「受刑者」であったことが問題だとされています。ですが、患者が受刑者でなく、診断書の宛先が高検や京都府警でなく勤務先や学校であったとしても、内容に「虚偽」があったとすれば虚偽記載をした罪は同じです。
「暴力団員」「受刑者」という条件を外して考えてみると、2つの問題が浮かび上がってきます。ひとつは、虚偽記載という罪を犯したこと。もうひとつは、医師と患者が知り合いであったということです。難治性の疾患であればカルテの内容や診断書が重要な意味をもちます。すべての文字や文章に、知り合いであることからくる「先入観」や「主観」が入らないと言い切れるでしょうか。
医師は自分の友達や知人が重大な疾患であればあるほど診察すべきではなく、患者さんと友達になることは避けるべきであり、患者さんからの誘いは断らねばならないのです。医師とはそのような「窮屈な職業」、というのが私の考えです。
************
注1:メディカルエッセイ第103回(2011年8月)「僕は友達ができない」
注2:メディカルエッセイ第118回(2012年11月)「解剖実習が必要な本当の理由」
注3:NPO法人GINA「GINAと共に」第63回(2011年9月)「暴力団排除条例に対する疑問」
注4:上記注3のコラムを参照ください。
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|2017年3月25日 土曜日
第163回(2017年3月) 誰もが簡単にすぐにできる「鼻うがい」
現在私がウイークリーで連載をもっている毎日新聞電子版の「医療プレミア」で、一度自分自身が実施している「鼻うがい」を紹介したことがあります(注1)。
私は新聞という、いわば準公共の媒体に掲載する医学・医療系のコラムには、あまり個人的なことを書くべきではないと考えています。基本的には医学的エビデンス(確証)の高いものを紹介するべきであり、奇を衒ったようなものや普遍性に乏しいものを書くことは、ときに有害でさえあると思っています。
ですから、「鼻うがい」について、しかもそれが私自身の考えたオリジナル鼻うがい法といったものを「医療プレミア」に書いていいものかどうか悩みました。その結果、「注釈」で簡単に述べる、という方法にしたのです。
しかし、です。意外なことに、詳しく教えてほしい、という問合せが今も多く寄せられます。「医療プレミア」は単なるその場限りの情報提供ツールではなく、公開後何年たっても読みごたえのあるコラムを集めているのですが(私はそう思っています)、それにしても公開して1年以上がたって、本文ではなく「注釈」に書いたことに興味を持ってもらえるとは想定していないことでした。
「鼻うがい」で検索をかけるといろんなサイトがヒットします。少し読んでみると、風邪予防や花粉症に有効とする肯定的なものがある一方で、「痛い」というコメントが多いのが目立ちます。また、方法については「生理食塩水」「ぬるま湯」というのがキーワードになっているようです。
もしも私が鼻うがいに対してまったくの「白紙」だったとすると、鼻うがいには否定的な気持ちになったに違いありません。まず「痛い」のはイヤですし、生理食塩水を自分でつくるような面倒くさいことはできません。その上、温度調節をしなければならない、などと聞けば、一度や二度はできたとしても毎日続けることなど(ずぼらな私に)できるはずがありません。
しかし、私はもう4年近く鼻うがいを続けています。しかも、何の痛みも自覚することなく、面倒くさいことは一切せずに、です。今となっては私が今から紹介する「鼻うがい」をどのようにして考案したのかが思い出せないのですが、おそらく最初は単なる”思いつき”で始めたのだと思います。
鼻うがいが有効なのは明らかです。ですが、その前に通常のうがいが有効であることを確認しておきましょう。実は、うがいの有効性を実証した研究というのは(私の知る限り)あまりありません。おそらく世界的に有名な研究はないと思います。私が患者さんによく説明する研究は注1の「医療プレミア」のコラムでも紹介した医学誌『American Journal of Preventive Medicine』に掲載された京都大学の研究です。この研究ではそれまで有用とされていたヨード系うがい液には風邪を予防する効果がなく、水でなら有効であることが示されました。
通常の水でのうがいが風邪の予防になることは感覚的にも納得できるのではないでしょうか。そして、病原体が棲みついて仲間を増やすのは咽頭や扁桃だけではありません。「鼻かぜ」という言葉があるように病原体が鼻粘膜に棲みついて炎症をきたすこともある、というか、頻度としてはおそらくこちらの方が多いわけです。鼻づまりで苦しいときに、「あ~、鼻の中の病原体を洗い流したい」と強く感じるのは私だけではないでしょう。それに、鼻水や鼻づまりが生じる前の段階で”わるさ”をする病原体を洗い流すことが有効なのは間違いありません。すでに京都大学の研究で消毒液は役に立たないことがわかっています。また、皮膚の傷に対しても、かつて使われていた消毒薬にはあまり効果がなく、通常の水道水で洗浄する方がずっと有効であることが分かっています。特に日本の水道水は飲料水としても合格するほどきれいなものです。
ならば鼻の中に水をいれて病原体を洗い流すことは是非ともやるべきです。しかし、プールで息つぎを失敗して鼻に水が入ったときのあの苦しさを思い出すと、鼻に水を入れるなんて恐ろしくてできません。臆病な私には鼻から水を吸い込む勇気がありません。
そこで私は「シリンジ」を用意することにしました。シリンジとは注射や採血のときに使う注射針に接続するプラスティックの筒のことです。面倒くさがりの私はコップどころか洗面器を用意するのもおっくうに感じます。そこで、シャワーをするときに片方の手を少し丸めて掌に湯をためて、そこからシリンジを片手に持ち掌のお湯を吸いあげるのです。10mLのシリンジであればこの作業を1回するだけでスタンバイOKです。
次に少し上を向いた状態で、シャワーでお湯を口の中に入れ、通常のうがいをします。このときのポイントは声を出さず喉の上でお湯を静止させるような感じです。そして、そのまま少し上を向いたまま片方の鼻を押さえて、もう一方の鼻(鼻腔)にシリンジの先端をいれて、勢いよくシリンジからお湯を注入するのです。そして、そのお湯を口から出すのではなく、そのまま勢いよく鼻の外に噴出させます。このとき、喉の上にためていたお湯は口から同時に吐き出します。この間、もう一方の鼻は押さえたままです。この作業を片側で2~3回おこない、その後反対側でもおこないます。
一般的な鼻うがいは鼻腔に入れた水を口から出すそうですが、その作業を通常のお湯でやればけっこうな痛みが伴うはずです。しかし、私のやり方であれば、痛みはほぼゼロです。やり始めた頃は軽い痛みを感じるかもしれませんが、ほとんど気にならないレベルですし、すぐに慣れます。
私は毎日2~3回シャワーをします。(これはうがいをするためではなく汗を流すためです。私は身体を洗うときにタオルは使わず、石ケンもほとんど使いません。この方法で多くの湿疹が改善しますし、これも多くの人に伝えたいことなのですが、今回の鼻うがいとは関係のないことなので、これ以上の言及はやめておきます) そのシャワーのときにこの鼻うがいをおこなうのです。この方法はとても行儀が悪いというか、一度鼻に入れたものをそのあたりにまき散らしますから銭湯などではおこなえません。また、自宅のシャワールームでおこなうにしても、行儀が悪いことだけでなく、鼻水や病原体をまき散らすのは不衛生で家族に迷惑をかけますから実践した後は床などをシャワーできれいにしておかなければなりません。
この鼻うがいを開始してから4年近くたちます。この間、風邪はほとんどひいておらず、ひいたとしてもすぐに治ります。抗菌薬や市販の風邪薬はもちろん、鎮痛剤も飲んでいません。私が風邪で飲むのは麻黄湯くらいです。また、この鼻うがいは、風邪をひいてしまったときにも鼻腔内の病原体を洗い流せるという利点もあります。
それに鼻うがいは花粉症やダニアレルギーの対策にもなるはずです。いくらきれいな部屋でも多少のダニやハウスダストは存在しますし、花粉の季節に外出すればいくらかは花粉が鼻腔に入ってくるでしょう。
この私の鼻うがいについて、シリンジはどうやって手に入れるんですか、と何度か聞かれたことがあります。薬局で買えるかどうか確かめたことはないのですが、例えばAmazonでなら簡単に買えます。「シリンジ」で検索すればたくさんでてきます。医療機関でシリンジを使うときは使い捨て(single-use)ですが、鼻うがいには数百回は使えます。(それ以上使うとゴムが劣化して吸水作業ができなくなります)
この私が思いついた「鼻うがい」。実践されるのは自由ですが、蓄膿や副鼻腔炎を過去に起こしたことがある人は、副鼻腔にお湯が入ってしまうリスクもあります。念のため、かかりつけ医に先に相談することを勧めます。
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