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2021年2月22日 月曜日
第210回(2021年2月) よく分からなくなってきた「ポストコロナ症候群」
新型コロナウイルスに感染した後、体内からウイルスが消失しているのは明らかなのに(新型コロナウイルスは慢性化しません)、その後も症状が続いたり、別の症状が出現したりすることがあります。私はこれを「ポストコロナ症候群」と命名し、過去のコラム(「ポストコロナ症候群とプレコロナ症候群」)でも述べました。また、他のサイト(「長期的視野で「ポストコロナ症候群」に備えよ!」、「新型コロナ 治療後に健康影響の懸念」でも紹介しました。尚、「ポストコロナ症候群」という病名は私が勝手に名付けているだけで正式なものではありません。
私が初めてポストコロナ症候群と思われる事例に遭遇したのは2020年2月下旬です。おそらく、新型コロナに感染したであろう40代の男性で、解熱後も咳が止まらないと言います。その頃は、新型コロナは重症化することはあっても症状が長引くことはないとされていましたから、この男性は近くの病院や保健所で「新型コロナとは関係がない」と言われ続けていました。
過去に何度か太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)を受診したことがあることから相談に来られました。その男性は以前にも風邪を引いた後、咳が長引いた経験があったために(これを「感冒後咳嗽」と呼びます)、今回も過去の咳と同じようなものではないかと当初は考えたのですが、「頭痛と倦怠感もとれない」と言います。しかも咳の様子がたしかに通常の感冒後咳嗽と異なります。しかし、当時は世界中のどこからも報告のなかった新型コロナの後遺症だと診断することはできません。もちろん困ったのは原因がわからず診断がつかないことだけではありません。問題は咳止めや喘息の吸入薬があまり効かず、なす術がないことです。
しばらくして次第に症状は改善していったのですがその後2カ月が経過しても完全には治らないと言います。この頃はまだ抗体検査が一般的でなく、しかも精度が高くないことも指摘されており、その上保険適用はなく自費になりますから(当院では実施していませんでした)、勧めることはありませんでした。それからさらに数か月し再診されたときには症状がほぼ消失していました。
この男性に生じた高熱と咳はおそらく新型コロナウイルスによるものだと思われます。今なら直ちにPCR検査ができますが当時はこの程度であれば重症性がないとみなされ検査の対象とならなかったのです。また、長引いた咳は新型コロナの後遺症であることはおそらく間違いなく、このケースはポストコロナ症候群と呼べます。
ですが、長引いた症状で受診されるなかには「本当にコロナと関係があるのだろうか?」と感じる事例も少なくありません。例えばこのようなケースです。
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30代女性。求職活動中。2020年4月初旬より倦怠感と頭痛がある。最初は咳もあったが新型コロナの検査は保健所に依頼しても拒否された。1ヶ月以上経過しても症状がとれない。そのために求職活動ができなくなった。
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この女性が主張するようにたしかにこの頃は余程の重症例でない限りはPCR検査ができませんでした。そして、この女性がポストコロナ症候群である可能性は否定できません。ですが、抗体検査を勧めても「自費になるから……」「検査は正確でないと聞いた……」などと言って受けようとしません。半年ほどたってから「かなり精度の高い抗体検査が登場しましたよ」と言ってみると、今度は「感染して半年たちましたから抗体が消えている可能性もありますよね」と言ってやはり受けようとしません。
たしかに自費の検査となるのは事実ですが、当院の負担で受けてもらおうと提案してみましたがそれでも受けないと言います。100%の確証を持てるわけではありませんが、この女性、本当は「新型コロナではなかった」と思われるのがイヤなのではないでしょうか。そのうち受診しなくなったのは、私が「コロナとは関係ない」と思っていると感じたからかもしれません。
この女性にとっては、「コロナのせいで体調不良が続いており、そのせいで就職活動ができない」と考えることで、就職活動がうまくいかないことの言い訳ができるわけです。これを「疾病利得」と呼びます。「病気が治らなければ学校に行かなくていい」、あるいは「病気が治らなければかまってもらえる」という気持ちから体調不良が続くようなときにこの言葉を使います。複雑なのは、こういうケースは必ずしも”嘘”を言っているわけではないということです。「病気が治らなければいいのに……」という思いが、いつのまにか症状を引き起こしているということが実際にあります。
世界のデータをみてみると、先述の過去のコラムでも紹介したイタリアの研究では感染者の87.4%が2カ月後に何らかの症状を有していました。医学誌「Lancet」2021年1月8日号に掲載された論文「新型コロナの患者退院6カ月後の研究 6-month consequences of COVID-19 in patients discharged from hospital: a cohort study」によれば、武漢の新型コロナウイルスの入院患者1,733人の6割以上は、退院後6ヵ月時点で、倦怠感・筋力低下、睡眠障害、不安・うつなどに悩まされていることが分かりました。
新型コロナウイルスに感染し「血栓」ができて脳梗塞を起こし障害が残ったとか、足の血管がつまって足を切断せざるをえなくなった、というような事例はあきらかな後遺症でありポストコロナ症候群のなかに入ります。
ですが、倦怠感、不安・うつなどは客観的に評価のしようがありません。咳や筋力低下も精神症状から起こることはよくあります。新型コロナウイルスに感染していたのが事実だとしても、その後出現した症状と感染が本当に関係あるのかと問われれば疑問が残ります。
ただし、広い意味では関係があります。感染したことが事実であれば、因果関係がはっきりしなかったとしてもその後何らかの症状が出現しているのであれば関係があると考えるべきです。実際、感染して死ぬかもしれないという恐怖や、他人に感染させた(かもしれない)という罪悪感から倦怠感や抑うつ状態が生じることはあり得ます。だからこそ、私は単に「後遺症」と呼ぶのではなく、広い意味での症状も含めて「症候群」とすべきだと考えたのです。
それに、「因果関係がはっきりしない(から病気と認められない)」という言葉は苦しんでいる人を傷つけることになります。もしもあなたの周りに新型コロナに感染してその後何らかの症状に苦しんでいる人がいたとすれば、その人の立場になって考えるべきです。日本は感染したことを責められて差別される国です。感染したことですでに相当辛い思いをしているはずです。その辛さが原因でいろんな症状が起こることは充分予想できます。
しかしながら、実際には感染していなかったとすればどうでしょう。それでも苦しまれているのは事実ですから我々医療者が見放すことはありませんが、コロナのせいにするのは間違っています。
では、どうすればいいのでしょうか。ポストコロナ症候群の可能性があるなら「抗体検査を早急に受ける」ことが勧められます。たしかに、現在保険適用はなく、精度が低い検査も出回っています。しかしECLIA法という方法で信頼できる検査会社で実施すれば、それなりに高い精度で結果が得られます。そして、先述した女性が言っているように「時間がたてば抗体が消失する」可能性もあります。もちろん、本当は抗体検査を保険でできるようになればいいのですが、行政に期待しても裏切られるだけです。
検査をして抗体陽性を確認したからといって画期的な治療法があるわけではありませんが、それでも意味がないわけではありません。ポストコロナ症候群の他の患者さんの治療を参考にできますし、その後の抗体価を追っていくことも有用です。
抗体検査以外にもうひとつ勧めたいことがあります。それは「医療機関を替えない」ことです。谷口医院にポストコロナ症候群を疑い受診される人の多くは、谷口医院にたどり着くまでにいくつもの医療機関を受診していることが少なくありません。気持ちは分かりますが、医療機関を替えていいことはまずありません。必要ならその医療機関で紹介状を書いてもらえばいいのです。あるいは、初めから谷口医院に来てもらってももちろんOKです。
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|2021年2月9日 火曜日
2021年2月 コロナ禍でも旅に出よう
「GoToトラベル」がこれだけ批判され中止に追い込まれたなかで、「旅に出よう」などと言えば「非常識だ!」と各界から非難されるでしょうが、それでも私は「旅に出よう」と言い続けたいと考えています。ただし、すべての人に旅を促しているわけではありません。私が少々のリスクを抱えてでも旅に出ることを勧めているのは次の2つのグループです。
1つは「先が長くないかもしれない人」です。もちろん持病を抱えた高齢者がコロナ禍で外出するのは大きなリスクが伴います。たいていの観光旅行は不要不急とみなされ、「そんな持病を持っている人がコロナ禍で旅行だなんてとんでもない!」という意見の方が多いでしょう。
ですが、例えば余命半年を宣告されている人ならどうでしょう。もしも、あなたのお母さんやお爺さんが来年の桜を見ることが絶望的な状況だとして、今年の桜を見せてあげたいとは思わないでしょうか。桜を見なければ6月まで生きられたのに、4月に花見に行ったがために1ヶ月寿命が短くなったとすれば、あなたは、そして当事者のあなたのお母さんやお爺さんは不幸なのでしょうか。
旅行を勧めたいもうひとつのグループは大学生くらいの若い人たちです。太融寺町谷口医院の大学4年生の患者さん、つまり4月から就職する人たちに対し、私は「寝る時間を惜しんででもどんどん遊んで旅行にも行ってきてください」と言っています。昨年4月に大学1年生になった人たちにも「4年間の楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうから、1日1日が貴重だと思ってとにかく外に出ましょう。旅に出ましょう」と話しています。ちなみに、私は若者にはコロナに関係なくどんどん恋愛をすることを勧めています(参考:「新型コロナ それでも若者は恋をしよう」)
不謹慎だ、という声が聞こえてきそうですが、遊び方を工夫すればいいわけです。若い人たちが注意すべきなのは「大人に感染させないこと」です。例えば、キャンピングカーを借りて若者だけで海や山に行くのは何の問題もありません。電車や飛行機を使う旅行も守ってもらわねばならないマナーがありますが、それらをクリアすればOKです。そのマナーについては後で述べるとして、まず「GoToトラベル」が批判された経緯とそれに伴う議論について例を挙げて少しだけ触れておきましょう。
2021年1月21日、医学誌『Journal of Clinical Medicine』に京都大学の西浦博教授らが発表した論文「”Go To Travel” Campaign and Travel-Associated Coronavirus Disease 2019 Cases: A Descriptive Analysis, July?August 2020(「GoToトラベル」キャンペーンと旅行が関与した新型コロナの症例:記述的分析2020年7月から8月 )」が掲載されました。これに対し、数名の識者が異議を唱えSNSを介した論争がありました。ここでその詳細を振り返ることはしませんが、なぜそのような意見の食い違いが起こったのかを明らかにしましょう。意見の相違が生じるのは「何を基準にした分析で何を目的としたものかが明確でないから」です。わかりやすく言えば、西浦教授はGoToトラベルを中止すべきだと主張しているわけではなく、単に「こういう方法でデータを分析するとこういう結果になりました」と言っているだけです。他方、この論文を批判した識者たちは、この論文が政府を批判し直ちにGoToトラベルの中止を勧告したものだと捉えたのです。
西浦教授は医師向けのポータルサイトm3.comで「(自身の研究は)GoToトラベルという政策の是非を強く問うものではありません。また、この私たちの記述疫学研究が、広い範囲で報道に取り上げられましたが、それが政策議論に直結しすぎるのも私たちの意図するところではありません」とコメントしています。
西浦教授の論文に反論した人たちは、あたかもGoToトラベルが感染者増加の最たる原因のように読める論文の妥当性について意見を述べました。こういう人たちの意図するところもよく分かります。GoToトラベルが諸悪の根源のような風潮が社会に広がれば迷惑を被る人が出てくるわけですからこういった意見は必要です。
このような”論争”がメディアで取り上げられると、一般の人たちは「いったい旅行はいいの?悪いの?」と分からなくなるでしょうし、「GoToトラベルを積極的に実施/中止すべきだ)」という政策を考えたくなる人も出てくるかもしれません。
ですが、あなたやあなたの大切な人にとって最も重要なことは「政策」ではなく「あなたやあなたの大切な人がどうするか」です。政府や公衆衛生学者にとって重要なのは国民全体の感染者を減らすことですから政策が重要になります。一方、個人でみたときには、まず自分自身と自分の身内の”幸せ”が最重要事項です。幸せになるためにリスクを引き受けるという選択肢も当然出てきます。
分かりやすい例を挙げれば、GoToトラベルがあろうがなかろうが、緊急事態宣言が出てようが出てなかろうが、遠距離恋愛をしている若い大学生はパートナーに会いに行くことを何よりも優先します。恋愛中の若い二人を止めることは誰にもできません。たとえ相手に感染させたとしても、周囲の者に感染させなければ二人の行為を非難することはできないのです。
では若者が旅行するときには何に気を付ければいいのでしょうか。簡単です。「大人の前でマスクを外さない」です。これだけです。これだけを守ればどこにでも出かければいいのです。ただし、これをきちんと守ろうとすると旅行の楽しみが少しばかり減ってしまうのは事実です。
例えば、新幹線や特急に乗るときの楽しみに「友達との飲食」がありますが、これは慎んだ方がいいでしょう。私が大学生の頃、友人たちと新幹線に乗ったとき、自由席の椅子をくるんと回転させビールを買って”宴会”を楽しみました。このようなことはコロナ禍ではできません。地方都市に行けば、小さな居酒屋に行ってみたくなりますがこれも慎重にならねばなりません。もちろんホテルや旅館内でも共用の場でマスクを取ることは極力避けねばなりません。
「書を捨てよ、町へ出よう」という寺山修司の言葉は”真実”であり、大勢の若者に考えてもらいたいと私は思っています。人生で大切なことは、本にもいくらかは書いてありますが、それが自分の血となり肉となるには読むだけでは不充分です。外に出て、人と触れ合い、人に揉まれなければ、大切なことは分かりません。
私は過去のコラムで「人生で大切なことの7割くらいは居酒屋で学んだ」と述べました。そして、今回は「人生で大切なことの4%くらいは旅から学んだ」ことを付け加えておきます。たった4%?、と思われる人もいるでしょう。私もそう思います。これはつまり、私自身がまだまだ旅をしなければならないことを意味しています。私がこれまで訪れたことのある国は20もありませんし、今も訪ねたことのない県がいくつかあります。旅先でのふとした経験がその後の人生に大きな影響を与えることもあるわけで、旅はとても大切です。
特に若者にとっては大切です。若いうちは借金してでも旅をすべきです。そして、旅を続けるべきなのは若者だけではありません。私は立場上、現在は外出を控えていますが、いずれ再び旅に出ます。せめて「人生で大切なことの2割くらいは旅から学んだ」と言えるくらいになるまでは……。
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|2021年1月30日 土曜日
2021年1月29日 1日わずか11分の運動で「座りっぱなし」のリスク解消
座りっぱなしが健康のリスクになることはこれまでこのサイトで繰り返し伝えてきました。生活習慣病、がん、ED、そして認知症のリスクにもなると言われている「座りっぱなし」は「第2の喫煙」と呼ばれることもあります。
その危険な「座りっぱなし」をいかに解消するか。今回紹介したいのは「わずか1日11分の運動で解消できる」とするものです。発端は、医学誌「British Medical Journal」2020年12月号に掲載された論文「加速度計で測定された身体活動と座りっぱなしの時間と死亡率との関連性~44,000人以上の中年以上のメタ分析~(Joint associations of accelerometer-measured physical activity and sedentary time with all-cause mortality: a harmonised meta-analysis in more than 44 000 middle-aged and older individuals)」ですが、「1日11分」という言葉が広がったのは「New York Times」の記事「1日11分の運動が座りっぱなしを解消するかも(11 Minutes of Exercise a Day May Help Counter the Effects of Sitting)」だと思います。
ポイントを述べていきましょう。
・従来、座りっぱなしのリスク解消には「1日60~75分の適度な運動が必要」とされていた。この根拠となっているのが医学誌「The Lancet」2016年9月24日号に掲載された論文「座りっぱなしのリスクを身体活動で解消できるか~100万人以上の男女から得たデータのメタ分析~(Does physical activity attenuate, or even eliminate, the detrimental association of sitting time with mortality? A harmonised meta-analysis of data from more than 1 million men and women)」。
・しかし今回、研究をより客観的な方法で実施しなおしたところ、早期死亡のリスクを減らすための最適な運動量は「1日35分程度の早歩き、もしくはそれに準ずる運動」であることが判った。
・1日少なくとも11分の運動をすれば長時間のデスクワークによる健康被害を減らすことができることも判った。
・座りっぱなしの時間が最も長く運動量が最も少ないグループは、運動量が最も多く座りっぱなしの時間が最も短いグループに比べて、早期に死亡するリスクが260パーセントも高い
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運動の”敷居”は高いと考える人は少なくありませんが、1日11分なら可能でしょう。ただし、例えば「通勤で11分は歩いています」ではほとんど意味がないと思います。論文にはっきりと書いてあるわけではありませんが「心拍数を上げての11分」にすべきです。どれくらい心拍数を上げればいいかは年齢やその人の背景によって異なります。
日頃診察していて私が思うのは「運動なしで健康を維持することはできない」「運動メニューの確立と実践は生活習慣病においては薬よりも有効な処方箋」ということです。
参考:
医療ニュース2018年6月9日 「「座りっぱなし」は認知症のリスクか」
医療ニュース2016年2月27日 「「座りっぱなし」はやはり危険」
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
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|2021年1月30日 土曜日
2021年1月29日 ベジタリアンは骨折しやすい
日本は諸外国と比べてベジタリアン、特にビーガンは少ないと言われていますが、太融寺町谷口医院の患者さんのなかに何人かはおられます。では、その人たちがとても健康かというと、そういうわけではなさそうです。貧血や低蛋白血症を防ぐためにサプリメントを多用して腎臓や肝臓を悪くするというケースはよくありますし、体重コントロールが上手くいかず過体重になっていく場合もあります。
今回紹介したいのは「ビーガンは骨折リスクが4割高い」というイギリスの研究です。医学誌「BMC Medicine」11月23日号に「ベジタリアンとビーガンの食事と骨折のリスク~前向きEPIC-Oxford研究の結果 Vegetarian and vegan diets and risks of total and site-specific fractures: results from the prospective EPIC-Oxford study」というタイトルで掲載されました。
ビーガンは肉、魚のみならず卵も乳製品も一切とらない最も厳しいベジタリアンで、骨折のリスクが上がるのは想像に難くありません。この研究では他のベジタリアンについても調査されています。
調査の対象は「EPIC-Oxford」と呼ばれる研究の参加者約55,000人で、追跡期間は平均17.6年です。参加者の内訳は、通常の食生活をしている人(肉も食べる人)が29,380人、肉は食べず魚を食べる人(これをpescetarianと呼びます)が8,037人、通常のベジタリアン(肉も魚も食べない人)が15,499人、ビーガンが1,982人です。追跡期間中に発生した骨折は3,941件です。
その結果、ビーガンはベジタリアンでない人に比べて、骨折のリスクが1.43倍になることが判りました。特に大腿骨近位部の骨折ではリスクが2.31倍にもなります。また、大腿骨近位部の骨折リスクは、ビーガン以外のベジタリアンでも上昇しています。魚を食べるが肉を食べないベジタリアン(pescetarian)は1.26倍、通常のベジタリアンは1.25倍となっています。
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ベジタリアンになってから(あるいはビーガンになってから)調子がいいという人に、無理に肉を食べろとは言いませんが、私の経験上、ベジタリアンでいい健康状態を維持している人はほとんど見たことがありません。
日本ではベジタリアン専用のレストランはあまりないと思いますが、海外ではよくあります。私は過去に一度バンコクのベジタリアン専門レストランに行ったことがあります。そこは「レストラン」というよりは体育館みたいなつくりで数百人のベジタリアンが集まってビュッフェ形式の食事を楽しんでいました。何人かに声をかけて気付いたのは、ほぼ全員が「ベジタリアンになって日が浅いこと」です。やはり長続きはしないのでは?、とその時感じました。
太融寺町谷口医院の患者さんで言えば、長続きして効果もでていることが多い食事療法は小麦制限です。あるいは極端なものは危険ですが、(小麦以外のものも含めた)糖質制限(低炭水化物ダイエット)やパレオダイエット(caveman diet)も、それなりにいい状態を維持し、かつ長続きしている人が多いようです。一方、ベジタリアンは軒並み上手くいっていません。
きちんとしたことを言うには症例数を増やして統計学的な検討を加えなければなりませんが、私の「印象」としては、(もちろん個人ごとに考えなければなりませんが)おしなべて言えば肉を中心の生活にした方がいいように思えます。
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|2021年1月25日 月曜日
第209回(2021年1月) 新型コロナ、5類への格下げは妥当か
新型コロナウイルスが流行しだした1年前あたりから、当院に寄せられるメールでの問い合わせの大半が新型コロナ関連となりました。当院の患者さんだけでなく、遠方にお住まいで当院未受診の人からも多くの声が寄せられます。なかには半年以上にわたり、ほぼ毎週のように質問をされる人もいます。
今年(2021年)になってから最も多いのがワクチン関連の質問です。ワクチン以外で最近多いのが、酸素飽和度やパルスオキシメーターについて、PCRのCt値について(このような高度で難易度の高い質問が次々と寄せられることに驚かされます)です。もちろん「〇〇の症状が出たが検査を受けるべきか」「△△の症状はコロナの後遺症か」といった内容のものも少なくありません。今回は、そのなかでもここ1週間くらいで増えている「指定感染症の変更」について私見を交えながら述べていきたいと思います。
まずは「指定感染症」の意味から解説していきます。感染症というのは他の疾患と異なり、感染が広がると社会に大きな影響を与えます。そこで、感染症の重症性や感染力などを考慮し、社会全体で管理すべきものを選び、さらにそれらを重篤度に応じて分類すべきだという考えに至っています。すべての感染症が届出され分類され管理されているわけではありません。例えば、水虫になったからといってそれが届けられることはありませんし、健診でピロリ菌がみつかったとしてもその情報が保健所にいくことはありません。ここで感染症の5つの分類をその代表的疾患と共にみていきましょう。
1類:致死率の高い感染症で交通制限もおこなわれる。診断がつけば直ちに入院が義務付けられる。例:エボラ出血熱、ペストなど。
2類:1類から交通制限を取り除いたもの。例:SARS、MARS、鳥インフルエンザ、結核など。
3類:必ずしも入院は必要でないが就業制限はある。例:コレラ、赤痢、腸チフスなど。
4類:主に動物を介して感染する感染症。例:A型肝炎、デング熱、マラリア、狂犬病など
5類:感染者数調査のために届出が必要とされている。「全数把握」と「定数把握」に分かれる。
・全数把握の例:麻疹(はしか)、風疹、百日咳、梅毒、HIVなど。
・定数把握の例:インフルエンザ、水痘、性器クラミジア、性器ヘルペスなど。
おおまかには1類が最重症で5類が軽症と考えて問題ありません。5類に分類されているHIVは(治療しなければ)致死的な疾患じゃないか、という質問がときどきあります。しかし、HIVは空気感染や飛沫感染が起こるわけではないのと感染者が少なくないことから「社会にどの程度影響を与えるか」という観点からはさほど重篤性は高くないと考えられているのです。
5類の全数把握と定数把握について補足しておきます。全数把握に分類されている感染症はすべての医療機関に届出義務があります。例えば梅毒であれば多彩な症状がでますから、当院のような総合診療科だけでなく、一般内科、耳鼻科、眼科、婦人科、皮膚科、泌尿器科などいろんなところで診断がつきます。どこで診断がつこうが診断をつけた医師は保健所に届け出なければなりません。
一方、定数把握に分類されている感染症は、「指定された医療機関」は診断をつけた全例を報告しますが、それ以外のところでは報告しないのがルールです。もちろん、その感染症に罹患した患者さんが「指定された医療機関」を受診するとは限りません。例えば、当院では毎年(今シーズンは除きます)多数のインフルエンザの患者さんを診ていますが、当院は「指定された医療機関」ではありませんから報告はしていません。
では、新型コロナウイルスの話を……、と言いたいところですが、「1~5類以外に3つの分類」が残っていますのでそちらをおさえておかねばなりません。その3つとは「新型インフルエンザ等感染症」「指定感染症」「新感染症」の3つです。「新型インフル……」は文字通りです。「新感染症」はまったく未知の感染症と考えてOKです。「指定感染症」は「1類から3類に準じた扱いとする感染症で最長2年とする」とされたものです。要するに、「社会にとって重要な感染症であるけれどまだよく分かっていないところがある。とりあえずここに入れておいて2年以内に別の分類にしよう」と考えられているいわば暫定的な分類です。そして、新型コロナがこれに相当するというわけです。
2020年2月1日、政府は新型コロナを1年間の期間限定で「2類に相当する指定感染症」としました。当時はSARSやMERSと似たような疾患と考えられていましたからこの判断は妥当です(私はそう思います)。その後この分類が厳格化されました。2月14日、無症状病原体保有者にも(事実上の強制)入院が適応されることになりました。これで1類とほぼ同じ扱いになったと言えます。
3月27日、さらに規則は厳しくなります。建物の立ち入り制限や封鎖、交通の制限、外出自粛等の要請なども政府により可能とされました。ここまでくると純粋な「1類」と何らかわりはありません。ただし(私の知る限り)行政が正式に「1類相当」と明言した記録はなく、今も「2類相当」という表現がとられています。
コロナは軽症とする「軽症派」に最も勢いがあったのが夏の第2波の頃だと思われます。この頃は、感染者は第1波に比べて大幅に増えたものの死亡者が少なく、「なんで風邪で1類相当なんだ!」という声は世論からだけでなく医療者からも出るようになり、今もそのように主張する医療者も少なくありません。8月末、こういった世論の影響も受けてなのか、厚労省は2類相当から5類への引き下げを検討したことが報道されています。
ところが第3波の影響からなのか、12月17日、厚労省は5類に引き下げるのではなく2021年1月31日に期限を迎える指定感染症の指定を1年間延長すると発表しました。しかしそれ以上の延長はできませんからその後どうするかを決めなければなりません。そして、2021年1月15日、新たな分類を、先述した「1~5類以外に3つの分類」の1つである「新型インフルエンザ等感染症」のカテゴリーに入れることを決めました。厚労省としては「新型インフルエンザ等感染症」という分類を「新型コロナウイルス感染症および再興型コロナウイルス感染症」と変更する方針で、この案を今期の通常国会が閉会する6月までに通したいようです。
つまり、医師のなかにも現状の2類(実際には1類)から5類へという声が少なくないなかで、政府は現在よりもより厳しい措置のとれる分類に移行することを(ほぼ)決定したというわけです。「新型インフルエンザ等感染症」であれば「政令により一類感染症相当の措置も可能」「感染したおそれのある者に対する健康状態報告要請、外出自粛要請」が行えるルールになっていますから、堂々と厳しい命令が下せるようになります。
これが発表され、「軽症派」の人たちは黙っていません。軽症派の医師が言うのは「病院でクラスターが発生すれば通常業務が止まり、コロナ以外の人の治療ができない」「保健所の業務が逼迫する」「ひとり発熱患者を診る度に防護服が必要で診察後の消毒に時間がかかる」「インフルエンザの方が死者が多い」「経済が回らない」などです。軽症派の医師は「5類にすれば多くの医療機関が新型コロナを診るようになり医療崩壊が防げる」と主張します。
ですが、もしも新型コロナが完全な5類、つまり季節性インフルエンザと同じ扱いになれば大変なことになります。熱があって通常の外来を受診すれば院内感染が広がるのは必至です。軽症派の人たちは「軽症なのだから」と言いますが、高齢者や持病を抱えた人ではそうではありません。休む時間もなくときには差別を受けながら必死で新型コロナと戦っている医療者が「5類にせよ」という気持ちは理解しなければならないと私は思っています。ですが、5類にするということはコロナ前の状態になるということです。「密」だらけの社会、自粛のない社会、誰もがいつでも医療機関を受診できるような状態に戻ってしまえば最悪の事態も想定せねばなりません。
何類が妥当かという議論の前に、新型コロナウイルスの特徴、つまり「無症状者でもうつす」「ただの風邪ではない」「後遺症が残る」「現時点では特効薬がなくワクチンも今すぐうてるわけではない」といったことを思い出さねばなりません。
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|2021年1月11日 月曜日
2021年1月 世界がどう変わろうとも各自がすべきこと
「2020年が始まった時点ではこんな一年間になるとは誰も予想していなかった」と誰かが言っていました。たしかにその通りで、学者とか経済人と名の付く人から宗教者まで「2020年は新型コロナ一色になる」と年初に予言した人はおそらく皆無でしょう。
では2021年はどうなるのでしょうか。おそらく多くの人が「まだコロナ禍が続く」とみているのではないでしょうか。一部にはワクチンができたから下半期には元の世界に戻るという楽観論(例えばこのコラム)もあります。目下のところ、日本政府としては東京オリンピックを開催する予定だと聞きます。
世界全体でどのような事件が起こるのか、日本ではどうか、日本の経済や株価や為替は……、という話は専門家に任せるとして、今回は「世界がどうなろうとも一人一人がすべきこと」について考えてみたいと思います。
まず「自分ではどうしようもないことが起こるのが現実だ」ということを我々は認識しなければなりません。もしも1年前のお正月に戻れたとして、あなた自身がどんな努力をしようとも新型コロナウイルスの勢いを止めることはできませんでした。そして、新型コロナ以上の災いが2021年に絶対に起こらないと断言できる人は一人もいません。南海トラフ大地震が2021年に100%起こらないと断言できる人はいるでしょうか。
事実を客観的に見るのは意外に難しいものです。トランプ大統領が何度も使うフェイクニュースという言葉があります。興味深いことに、あきらかに正確なことを「陰謀だ!」と言って否定する人も少なくなく、どう考えてもおかしなことを真実と捉える人もいます。驚くべきことに、米国ではQアノン信奉者が国会議員に当選しています。これは、知識人であろうとも「人は物事を自分の見たいように見ている」ことを示しています。
もちろん、新聞に書かれていることがすべて正しいわけではありません。それどころか、メディアの報道は一度は疑ってかかるべきだと思います。情報の出所は確かか、場合によっては誰が書いたかにも注目すべきでしょう。一見陰謀論に見えるものが実は正しかったということもあるかもしれません。
新型コロナで言えば、「新型コロナはただの風邪」という意見が正しいか間違っているかを論争することに意味はありません。「ただの風邪と変わらないくらい軽症のこともあれば若くして死に至ることもある」が事実です。「ワクチンは有効か無効か」という問いに対しては「効く可能性があるが効かない可能性もある」が事実です。「それでは何も言っていないのと同じだ」という意見があるでしょうが、「ワクチンは期待してもいいが効果は不明」が現在言える最大限のことです。
新型コロナに関して確実に言えるのは「(年齢や持病により確率は変わりますが)感染しても治癒する可能性が高い」ということです。であるならば、感染しないような対策をとった上で、それ以上「感染すればどうしよう……」と考えるのではなく「感染してもしなくてもコロナ禍で生きていかねばならない」と認識することが重要です。
過去1年間で我々は人間の嫌な部分をたくさんみてきました。感染者への差別、医療者への差別、自粛警察、海外では人種や国籍による差別もあります。どうやら我々人間の正体は「とんでもなく醜い生き物」のようです。この表現が大袈裟だとしても「醜い側面も持つ生物」くらいはいえるでしょう。つまり、自分さえよければいいと考え他人を蹴落とす人たちが大勢いることが分かったわけです。2021年からは世界中のすべての人が利他的な生き物に突然豹変するということはあり得ないでしょう。ならばこの「事実」を受け入れなければなりません。
つまり、他人からの助けなど期待できない、またはいつ裏切りに合うかもわからない冷酷な社会で我々は生きていかねばならないのです。そのために必要なのは「力強く生きること」で、経済的な自立が必要になります。「働かざる者食うべからず」という言葉を私は好きになれないのですが、各自が自身の能力をお金に変換できる術を持たねばなりません。厳しいことを言えば、たとえ障がいがあったとしてもお金を得るために何をすべきかを考えるのです。
もちろん、すべての人が上手くいくわけではなく、なかには努力を重ねたけれど仕事が見つからない、すぐにクビになる、という人もいるでしょう。障がいを持つ人が安定した収入を得るのは簡単ではありません。しかし、公的なセーフティネットがありますし、そういった恩恵に預かれない人たちも、支援してくれる人が現れることもあります。利己的な人が多いのは事実ですが、「困っている人を放っておけない」と考える人たちが少なからず存在するのもまた事実だからです。
しかしながら、自身が努力をせずに他人の支援を期待することはできません。終身雇用はとうの昔になくなり、リモートワークが進んだことで「会社にいるだけの人」は無用であることがはっきりしました。つまり、仕事ができなければ会社での居場所がなくなるわけです。「私を雇うことで会社に利益がでますよ」ということを示せなければ仕事が得られない時代になってしまったといえるでしょう。
厳しい現実はまだあります。新型コロナに感染しても回復すれば寿命が短くなるわけではありません。後遺症があるのはほぼ確実ですし(私はこれを「ポストコロナ症候群」と呼んでいます)、数十年後には「新型コロナに感染した人は寿命が短い」という研究がでるかもしれませんが、現時点では新型コロナに感染しようがしまいが寿命が短くなるわけではありません。つまり、新型コロナの流行とは関係なく大勢の人はかなりの確率で希望しなくても長生き”してしまう”わけです。これもまた「事実」です。
2019年に「老後2000万円必要問題」が話題になりました。詳しい説明は省略しますが、ひとつ言える確実なことは「多くの人の老後が経済的に不安」で、不安な人にとっての最善の対処法は「可能な限り働き続ける」ことです。このことを主張する識者は少なくないと思いますが、あまり指摘されない重要事項があります。それは、「加齢とともに仕事のパフォーマンスが低下する」ことです。
メディアは高齢者が元気に働く姿や高齢者の起業を”美しく”取り上げますが、全員がうまくいくわけではありません。むしろ、若い人たちの足手まといとなり、いつ解雇されるか分からず怯えている高齢者の方が多いわけです。少子化社会で人手不足になるから高齢者も売り手市場になるという意見もありますが、雇用する側からみれば「その高齢者を雇うことによって生まれる利益がその高齢者の人件費を上回らなければ採用しない」のは自明です。これは直視したくないことではありますが、これもまた「事実」です。
「仕事のパフォーマンス」とは単に体力のことを言っているわけではありません。個人差はありますが、年をとると理解力や記憶力もほぼ確実に低下します。当院は過去14年以上の歴史のなかでそれなりの人数のスタッフを雇用してきました。なかには1日で辞めた人もいます。数十人をみてきて感じるのは、ある程度年をとっていて経験の乏しい人は仕事のパフォーマンスが低いことです。不思議なことに、若い人なら経験がなくてもできます。つまり、同じように経験のない20代と40代を比べれば生育環境や学歴に差がなくても20代の方がずっと有利なのです。40代でも明らかな差があるわけですから、経験のない60代なら20代とは勝負にならないでしょう。
もちろん40代の人はすべての仕事ができないと言っているわけではありません。ですがある程度の年齢になると経験のないことを簡単にはできないのは「事実」です。実は私は随分前からそのことに薄々気付いていたのですが心の中で否定していました。人生いつになってもやり直しがきく、と信じていたからです。前半に述べたように「物事を見たいように見よう」としていたのです。しかし、何十人もの従業員をみてきてその「事実」を認めざるを得なくなりました。
現在40代の人が20代に戻ることはできません。ならば「今日が一番若い日」と考えて、今できる最善のことを始めなければなりません。大変厳しい意見になりますが、以上から導かれる結論は「年をとっても続けることができる仕事を一日も早く見つけなければならない」となります。
今回の内容をまとめておきましょう。すべて私の主観を取り除いても客観的にいえる「事実」だと思います。
・先のことは誰にも分からない。新型コロナ以上の災いが起こる可能性もある。
・世の中には困った時に手を差し伸べてくれる人もいるが、身勝手で自分のことしか考えず他人を差別する人も多い。
・大勢の人にとって、新型コロナに感染しても死ぬ確率はわずかであり、また、今後我々の寿命が極端に短くなる可能性も少ない。我々は厳しい社会の中で、望まなくても長期間生き続けることになる。
・多くの人は長生きすればお金の心配が出てくる。
・生涯現役で働くならお金の心配は解消されるが、体力と気力があったとしても仕事のパフォーマンスが落ちる。
・年をとってから新しい仕事を始めるにはハンディがある。年をとっても続けることができる仕事を一日も早く見つけるべきだ。
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|2020年12月27日 日曜日
第208回(2020年12月) 新型コロナ、ワクチンはうつべきか
ここ1~2週間の間、患者さんからも知人からも最もよく聞かれる質問が「新型コロナのワクチンはうつべきですか?」というものです。
私のワクチンに対する考え方は医師になってから変わっておらず、毎日新聞「医療プレミア」でも繰り返し伝えています。それは、ワクチンは「理解してから接種する」です。ワクチンの利点・欠点をよく考えた上で、最終的には自分自身で判断しましょう、と言い続けています。「それでは医師として無責任ではないか!」という声があるかもしれませんが、私はワクチンは(というより緊急性がなければほとんどの医療行為は)医師の言いなりになるべきではないと考えています。
我々医療者がすべきことは、ワクチンに対する情報を分かりやすく患者さんに伝えることです。免疫の話は難解ですから、一般の人が教科書を読んでもなかなか分かりにくいと思います。分からないことがあれば易しい言葉で説明する、それが医師の仕事だと考えています。何度も質問を受けて説明した結果、最終的に「今は接種しません」という結論になったのならそれでいいのです。「理解してから接種する」というのは、裏返せば「理解したから接種しない」という選択肢もOKということです。
少し例を挙げましょう。過去10年間で、日本で最も物議を醸したワクチンはHPVワクチンです。当院でも過去何百人という人からこのワクチンに関する質問をうけています。私がこのワクチンの利点・欠点について説明した結果、「うたない」という人も「うつ」という人もいます。これでいいわけです。我々医師の仕事は「説明して理解してもらう」ことであり、決してワクチン接種者数を増やすことではありません。ときどき「前のクリニックではワクチンを強引に勧められた」と言う患者さんがいます。そんな医師が実在するとは思えませんが、結果としてその患者さんがそのように感じたのならその医師とは「合わない」と考えた方がいいでしょう。
前置きが長くなりました。そろそろ本題に入ります。新型コロナのワクチンについて質問を受けたときには現時点で分かっている利点と欠点を説明しています。
利点としては、ファイザー社とモデルナ社のワクチンは発表では有効性が9割以上と高く、安全性も現時点では問題ないとされていることです。尚、「ファイザー社のワクチン」として名が通っていますが、正確にはBioNTech社というドイツの小さな企業が開発したものです。この会社の規模では早期に市場に送り出すことができないために提携先を探しファイザー社が同意したという経緯があります。ただ、ここでは「ファイザー社のワクチン」として話を進めます。
これら2社のワクチンの欠点は少なくとも2つあります。1つは「持続期間が分からない」というものです。両者ともワクチンは2回接種になると思われます(おそらく1ヶ月ほどあけて2回目をうつことになると思うのですが詳細は分かりません)。では2回接種してどれくらい効果が持続するのかといえば、それが分からないのです。これは当然であり、開発に着手して1年未満で市場に登場したわけですから、長期間のデータは皆無です。9割以上の効果があったとしても、それを半年ごとにうたねばならない、しかも国民の大多数がうたねばならないのだとしたらかなり大変なことになります。
もうひとつの欠点は「安全性」です。そもそも安全性というのは長期間観察しなければわからないものです。開発から1年足らずのワクチンを市場に出せば、当初は思ってもみたかった副作用が出現するのはまず間違いありません。それが軽微なものであればいいのですが、その人の人生を台無しにしてしまうような副作用が起こらないとも限りません。これはワクチンの「歴史」をみれば明らかです。
ここで、最近起こったワクチンの”悲劇”を紹介しておきましょう。2016年4月、フィリピン政府はサノフィ社のデング熱ウイルスのワクチン「Dengvaxia」の接種を開始しました。80万人以上の子供たちに接種された結果、600人以上がこのワクチンを接種した後、死亡しました。フィリピン政府はこのワクチンを中止し、WHOはフィリピン政府を支持、サノフィ社も同意しました。そして、フィリピン政府はこのワクチンを「永久に禁止」としました。
「ワクチンで600人以上の子供が死亡。製薬会社もワクチンを中止することを認め、国が永久に禁止とした」というこのニュース、もっと大きく報じられてもいいのではないか、と私は言い続けているのですが、このニュースを大きく報道した日本のマスコミを私は知りません。それどころか、サノフィ社のMR(営業)に尋ねてみると、なんとそのMRは「そのような事実は知らない」というのです。つまり、同社のなかでも情報が共有されていないのです。
これをどうみるか。同社はできるだけ自社社員にもこの事実を伏せておきたいと考えているのか、あるいは600人の子供が死んだことをたいしたことではないと考えているのかのどちらかでしょう。
話を戻しましょう。ここで私が言いたいのはサノフィ社の責任問題ではありません。強調したいことは「サノフィ社はこのデング熱ウイルスのワクチン開発に20年を費やしていた」ことです。20年かけて研究開発しても600人以上の子供が死亡することが予期できなかったわけです。では、1年足らずで開発され市場に登場したファイザー社とモデルナ社のワクチンの安全性はどのように考えればいいのでしょうか。
「デング熱と新型コロナは違う種類のウイルスであり、比較するのはおかしい」という声もあるでしょう。実際、これら2種のウイルスはウイルス学的に系統が異なります。ですが、私にはどうしても「気になること」がありその不安が払拭できません。
この話をきちんと説明すると長くなってしまうので簡単に紹介すると、デング熱は2回目に別のタイプのものに感染すると悪化することが判っています。これを「抗体依存性感染増強現象」と呼びます。そして、サノフィ社のワクチンは1回感染した人に接種すると効果があり、一度も感染したことのない人にワクチン接種してその後感染すると悪化することが指摘されています。つまりワクチン接種が1回目の感染と同じことになっている可能性があるわけです。
抗体依存性感染増強現象が起こり得るのはデング熱、エボラ出血熱など限られたウイルスだと考えられています。では、新型コロナはどうなのでしょう。新型コロナに再感染したという報告は、感染者がこれだけいることを考えると非常に少ないのは事実ですが、それでも世界中から報告が集まっています。オランダの報道機関BNO Newsによると、2020年12月27日現在、確実に再感染した例が31人でうち2名は死亡しています。そのうち2回目の感染の方が悪化した例が10例あります。この10例は抗体依存性感染増強現象が起こった可能性があるのではないか、というのが私の仮説です。世界で8千万人以上が感染しているなかでのわずか10人ですから、仮に抗体依存性感染増強現象が起こったとしてもごくわずかなのかもしれませんが、これを無視してもいいのでしょうか。尚、再感染は確定例は31例のみですが、再感染の疑い例は2,290例あり、そのうち24人が死亡しています。
さて、ファイザー社製ワクチン、モデルナ社製ワクチン、あるいは登場間近の他社製のワクチンは抗体依存性感染増強現象を起こさないと言い切れるでしょうか。
ワクチンの基本は「理解してから接種する」であることをもう一度強調しておきたいと思います。
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|2020年12月27日 日曜日
2020年12月27日 Z薬は認知症の人の骨折・脳卒中のリスク
「一番弱い睡眠薬って聞いたんでマイスリーを出してください」と言われて、大変驚かされたという話は以前どこかに書きました。なぜ、マイスリー(マイスリーは商品名。ゾルピデムが一般名。ここからはゾルピデムで統一)が一番弱いと言われているのかはまったく謎なのですが、このように言われることがときどきあります。
ゾルピデムは一番弱いどころか、取り返しのつかない悲惨な事件の原因になっていることは過去にも述べました(はやりの病気第124回(2013年12月)「睡眠薬の恐怖」)。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬(以下BZ)が依然性が強く、大変危険であることも過去に何度も述べています(例えば、はやりの病気第164回(2017年4月)「本当に危険なベンゾジアゼピン依存症」)
ゾルピデムはベンゾジアゼピンに似ているのですが薬理学的な構造が異なるために、以前は「非ベンゾジアゼピン系」と呼ばれていました。しかし、この表現であれば「BZとは異なり安全なのかな……」と誤解の元になります。最近はゾルピデムのような薬は「Z薬」と呼ばれるようになってきました。ゾルピデムの他にはゾピクロン(アモバン)、エスゾピクロン(ルネスタ)、ザレプロン(国内未承認薬)があります。いずれもZで始まるか、その関連品であるが故にZ薬と名付けられたのです。
そのZ薬を認知症の人が使用すると、骨折や脳卒中のリスクが上昇することが報告されました。医学誌『BMC Medicine』2020年11月24日に「認知症患者の睡眠障害に対するZ薬の副作用:人口ベースのコホート研究(Adverse effects of Z-drugs for sleep disturbance in people living with dementia: a population-based cohort study)」という論文が掲載されました。
研究は、睡眠障害があるがBZもZ薬も使用していない人、Z薬が使用されている人、BZが使用されている人で比較が行われました。Z薬を「高用量」で使用している人は、Z薬もBZも使用していない人に対して、大腿骨近位部骨折のリスクが1.96倍、脳梗塞のリスクが1.88倍になることが判りました。
尚、この論文でのZ薬の「高用量」の定義はゾピクロン7.5mgです。日本ではゾピクロンは7.5mgと10mgが発売されていますから、どちらを選んでもすでに高用量となります。
************
大腿骨近位部骨折はかなり難儀な骨折で、寝たきりになる可能性が高く、1年後の死亡率は1~2割、1年が経過しても骨折前の歩行状態に回復しない割合は50%と言われています。
どうしてもZ薬が必要なら半錠から始めるべきだ、と言えるかもしれませんが、当院の経験でいえば、Z薬は(もちろんBZも)安易に手を出すべきではありません。最近当院で患者さんから聞く「睡眠障害」の訴えは、「眠れないから睡眠薬を出してほしい」よりも「睡眠薬をやめたいけどやめられない」が増えてきています。
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|2020年12月27日 日曜日
2020年12月27日 夜勤は喘息のリスク
一定の年齢になると夜勤はやめるべき、ということをこのサイトで繰り返し述べています(例えば、はやりの病気第192回(2019年8月)「「夜勤」がもたらす病気」)。
今回は夜勤が喘息のリスクを上昇させるという研究を紹介します。医学誌『Thorax』2020年11月16日号に「夜勤は喘息のリスク増加に関連(Night shift work is associated with an increased risk of asthma)」というタイトルの論文が掲載されました、
研究の対象者は2007~2010年に「UK Biobank」と呼ばれる調査に参加した286,825人です。対象者のなかで喘息を有していたのは全体の5.3%(14,238人)です。常に夜勤の人は、固定時間勤務の人に比べて中等症から重症の喘息を発症するリスクが36%高いことが判りました。
また、常に夜勤をしている人は、夜勤なし、または夜勤はまれ、という人たちに比べて肺機能が低下している確率が20%高いことも明らかとなりました。
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過去にも述べたように、誰かが夜勤をしなければならないのは明らかですが、誰が何歳までおこなうのかについては社会全体で何らかのガイドラインをつくるべきだと私は考えています。
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|2020年12月14日 月曜日
2020年12月 「新しい世界」を受け入れよう
大阪府では新型コロナウイルスの新規感染者が連日300人を超えていますが、間もなく減少傾向に入ると思われます。なぜそのような予想ができるかというと、増加の幅が縮小傾向に入ったからです。毎日の感染者数を何気なくみていると「今日は〇〇〇人感染したんだな」と思ってしまうかもしれませんが、これは誤りで、毎日の感染者数の発表は「1~数日前に検査を受けて陽性となった人数」で、その人たちが発症したのはその数日前で、感染したのはさらに数日前です。ということは「真の新規感染」は発表された1週間から10日程度前に起こっているはずです。
つまり、感染者の増加幅が小さくなってきたということはそれだけで感染が落ち着いてきたことを示しているわけです。しかし、これにて一件落着……、というわけにはいきません。人々が行動を引き締めると感染者数が減るのは当然であり、また緩みだすと増加に転じます。当分の間、これを繰り返し、第4波、第5波、……、と続くことになります。
ワクチンができるまでの辛抱だ、という声が一部にあります。ですが、ワクチンができたところで元の世界に戻ることはありません。WHOの緊急時の責任者であるMichael Ryan氏も「ワクチンがパンデミックを終わらせるわけではない」と明言したことが報道されています。
なぜワクチンができても新型コロナの脅威が消えないのか理由を述べていきます。まず、100%有効なワクチンは少なくとも現段階では存在しません。例えば、早ければ年内にも接種開始されるといわれているファイザー社のワクチンについてみていきましょう。
11月19日付の同社のプレスリリースでは43,000人以上を対象とした研究がおこなわれ、プラセボ(偽薬)群で162例、ワクチン群で8例の感染がそれぞれ認められ、ここから有効率は95%とされています。95%という数字が極めて高いことは間違いないのですが、よくある誤解が「ワクチンをうてばウイルスに感染しても95%の確率でウイルスを退治できる」というものです。
有効率というのはそうではなくて「プラセボと比較したときにその薬(ワクチン)がどれくらい発症を減らすことができたか」をみる指標です。研究に参加した人数が43,000人ですから、ファイザー社のワクチンを接種した人、偽薬を接種した人を共に21,500人とすると、偽薬接種の21,500人中発症したのは162人、ワクチン接種の21,500人中に発症したのは8人ということになります。偽薬でも99%以上の人(21,500 – 162 / 21,500)は感染していないのです。一方、ワクチンを接種しても0.04%の人(8 / 21,500)は発症したのです。また、そもそもこのような研究に参加する人というのは新型コロナウイルスに多少なりとも興味がある人が多いでしょうから、それなりの感染予防をしていたはずです。有効率が高いのは間違いありませんが、全員に必ず効果があるわけではありません。
さらに「効果持続期間」についても検討せねばなりません。人数は多くないものの再感染の報告が集まってきています。そして、今回のワクチンは「緊急性」が要求されたのだからやむを得ないとはいえ、各社のワクチンは効果持続時間を検証していません。いいワクチンが開発されたけれど効果は1年も持たない。そして安全性は100%担保されない。そのうちにウイルスが変異してワクチンが効かなくなった……、という可能性は充分にあると私はみています。ちなみに、ファイザー社の社長は、ワクチンの有効性を発表したその日に420万ポンド近くの自社株を売却したことが報道されています。
患者さんからも知人からもメディアの取材でもよく聞かれる質問に「コロナ流行前の生活にいつになったら戻れるのですか?」とういものがあります。私の答えは「もう元には戻れない」です。このことを信じられない、あるいは信じたくないと言う人は少なくありませんが、私は元の世界は諦めるべきだと思っています。では「元の世界」とはどのような世界なのか。一言で言えば「初対面の人とも居酒屋でワイワイできる世界」です。
「元の世界」に戻れないことがどれだけ辛いかについて、私はある程度理解しているつもりです。私が連載している毎日新聞の「医療プレミア」にも書いたのですが、「人生で大切なことの7割くらいは居酒屋で学んだ」と私は自負しています。お酒を交えて楽しいことだけでなく辛いこと悲しいことを仲間と語り合い、仲間が別の仲間をつれてきて交流が広がり、先輩たちからは人生の教訓を学び、そして仲間と議論し、ときには喧嘩にもなる、それが私の人生を振り返ったときの居酒屋の姿です。
「人生で大切なことの7割」は大袈裟だろうと思う人もいるでしょうが、大学の仲間と、あるいは会社の同僚と居酒屋でワイワイガヤガヤと楽しい時間を過ごした思い出がない人の方が少ないでしょう。そこで生涯の親友や人生を共にするパートナーと巡り合ったという人もいるに違いありません。元のように楽しめないのはもちろん居酒屋だけではありません。ディスコやクラブも以前のような遊び方はできません。そういった場所でのパーティも従来のかたちでは開けません。今もカラオケ店は存在していますが、私はカラオケは絶滅する可能性すらあると思っています。
ウェブ会議やミーティングが「意外に便利」であることに気付いた人も多いでしょうが、一方で「ウェブにはもう飽きた。やはり人は人の目を直接見てコミュニケーションを取るべきだ」と感じている人も多いのではないでしょうか。私は随分前からこのことを言い続けています。あまり同意してくれる人はいないのですが、私はZOOMなどでのコミュニケーションなら電話の方がはるかに意思疎通がしやすいと考えています。電話でなら微妙な息遣いやトーンの変化が察知できるからです。そもそもコミュニケーションのメインは言葉ではなくnon-verbalのはずです。
「初対面の人とも居酒屋でワイワイできる世界」はもう戻ってきません。書物やビデオやyoutubeからは知識を得ることはできますが、non-verbalのコミュニケーションは不可能であり、他者と触れ合うことができません。
ではそんな新しい世界の中で、我々は何を求めて、何を目標にして生きていけばいいのでしょうか。これを明らかにするには「何のために生きているのか」を考えなければなりません。そしてこの問いに簡単に答えられる人はあまりいません。ちなみに私は10代半ばから数年間、ほとんど毎日「人は何のために生きているのか」を考えていましたが答えは見つかりませんでした。
しかし、大学生になってから少しずつその答えが分かるような気がしてきました。仲間と楽しい時間を過ごすため、愛する人を守るため、感動を伴う経験をするため、などいろんな答えに気付き、さらなる答えを求めるようになりました。会社をやめて母校の社会学部の大学院を目指していた頃、そして医学部に入りたての頃は、学問を究めて世の真実を知ることが人生の答えだと思っていました。医師になりタイのエイズ施設にボランティア目的で訪れたときは、助けを求めている人の力になることこそが答えだと思うようになりました。
そして今、新型コロナのせいで他人と触れ合うことが容易にはできない世界となりました。そんな世界で今、私ができることは何なのか。そのひとつが今まで自分が探し求めて得ることができたかもしれない人生の「答え」を若い人に伝えることではないかと思っています。しかし「居酒屋」は簡単には使えません。ウェブで伝えるのは困難です。ではどうすればいいのか。最近の私は毎日このことついて考えています。
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