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2021年7月18日 日曜日
第215回(2021年7月) アルツハイマー病の新薬が期待できない理由
5月から開始したメルマガ「谷口恭の「その質問にホンネで答えます」」で、複数の読者の方から質問をいただいた、エーザイが米国から承認を得たアルツハイマー病の新薬「アデュカヌマブ」を取り上げました。
メルマガでは、私自身は「この薬にはさほど期待していない」ことを紹介しました。その後、様々なご質問が届いたために、「はやりの病気」でこの新薬を取り上げ、さらにアルツハイマー病をどのように考えるかについて私見を述べたいと思います。
まずは基本的事項を確認しておきましょう。
・アルツハイマー病の新しい薬「アデュカヌマブ」が米国FDAから”認可”を受けた。ただし「迅速承認制度」を利用した認可であり、販売後に「検証試験」が義務付けられており、この試験で有効性が示せなければ認可が取り消しになる。
・費用は高額で、米国では4週間に一度の注射で年間約610万円がかかる。
・日本では現時点では未認可。
・FDAの承認を審議した専門家委員会(諮問委員会)は、2020年11月、賛成0、反対10、保留1で承認を支持しない勧告を出していた。
・FDAが諮問委員会の勧告に従わなかったことに反発し、同委員会のメンバー3名(2名という報道もある)が辞任した。
諮問委員会のすべての決定がFDAの判断に直接つながるわけではありませんが、委員会で賛成0、反対10となった新薬が承認されたということは、常識的に考えて問題でしょう。なぜ認められたのか私には分かりませんが、少し経緯を詳しく紹介しましょう。
アデュカヌマブの説明を始める前に、「アルツハイマー病はなぜ起こるか」について2つの仮説があることを確認しておきます。1つは「アミロイドβ仮説」、もうひとつは「タウ仮説」と呼ばれます。
アミロイドβ仮説は、アルツハイマー病の患者の脳細胞に多く認められるアミロイド斑がアルツハイマー病の原因だとする考え方です。アミロイド斑が原因なら、そのアミロイド斑がつくられないようにすればアルツハイマー病は防げるだろう、という単純な発想です。そして、これまで世界中の会社がアミロイド斑を抑制する薬の開発にしのぎを削ってきました。アデュカヌマブはそのひとつというわけです。
もうひとつの仮説であるタウ仮説は、脳に存在する「タウ蛋白」と呼ばれる蛋白が神経に変化をもたらせてアルツハイマー病が発症するという仮説です。ならば、そのタウ蛋白を抑制する薬ができれば特効薬になるのではないかと考えられ、こちらも世界中の製薬会社が日々研究に勤しんでいます。
二つの仮説のうち、最初に脚光を浴びたのはアミロイドβ仮説で、エーザイは早くから着目していました。実際、エーザイはβセクレターゼ阻害剤と呼ばれるアミロイドβの産生を阻害する薬剤を開発しています。イーライ・リリー社のソラネズマブ、ロシュ社のガンテネルマブなども抗アミロイドβ抗体と呼ばれるアミロイドβ仮説に基づいた薬剤です。しかし、どの薬剤もアミロイド斑を減らすことには成功しても、肝心の臨床効果を証明することができず、開発は暗礁に乗り上げていました。全体的な流れは、アミロイドβ仮説からタウ仮説に移行しつつありました。
そんななか、抗アミロイドβ抗体のアデュカヌマブが突然FDAの承認を受けたわけですから、我々医療者は大変驚いたのです。なんで今さら、アデュカヌマブなの??、という疑問が払拭できないのです。
実際、FDAが審査の対象とした2つのアデュカヌマブの臨床試験のうち「ENGAGE」と呼ばれるものは、アミロイドβの量が減ってはいたものの臨床評価では認知機能の改善が認められなかったのです。もうひとつの臨床試験「EMERGE」では認知機能の改善についても有意差をもって認められたとされていますが、劇的に症状が改善するとは言い難いとする意見があります。
「ENGAGE」について、「対象者全員で解析するといい成績が出なかったが、高用量を投与した群だけでみれば効果が認められた」とエーザイは主張しています。ですが、高用量での使用では、約4割に脳出血や脳浮腫といった重大な副作用が出現しています。高用量で使用した場合は、安全性が高いとは言えないのです。
先に基本的事項として紹介したように、アデュカヌマブは「迅速承認制度」で認可されました。こういった経緯を改めて確認すると、認可するのはさらなる検証をしてからでもよかったのではないかと私には思えます。
さて、ここからは今後の”予想”をしたいと思います。エーザイ(及び共同開発のバイオジェン)は今後どのような戦略をとるかというと、おそらく米国の神経内科医に一斉にアプローチをかけます。そして、受け持ちの患者のできるだけ多くにアデュカヌマブを使ってもらうよう働きかけます。おそらく、患者に投与すればするほどその医師に個人的利益が得られるような手を使うでしょう。同時に、日本の厚労省にも働きかけ、「米国では承認後これだけ大勢に使用されている」といったデータを出して早い承認を求めます。
おそらく同社は販売後の検証試験でいい結果が出ない可能性を見込んでいます。ならば同社にとって一番いい戦略は何か。それはできるだけ短期間にできるだけ多くの患者に使ってもらうことです。効果は関係ありません。なぜなら、使われれば使われるほど同社に利益が出るからです。検証試験の結果、やっぱり効果は認められず認可が取り消されました、となってもOKです。効果が認められなくても返金する必要はなく、すでに十分な利益を得ているわけですから。
このように私の予想はかなり穿ったものです。では、太融寺町谷口医院の患者さん(の家族)からアデュカヌマブを使いたいという希望があった場合はどうすればいいでしょう。その場合、ここに書いたようなことも説明した上で、それでも希望される場合は、アデュカヌマブを処方している病院を紹介するでしょう。他に治療薬がない場合、「効かなかったとしても一縷の望みがあるのなら使いたい」という患者さんの気持ちがよく分かるからです。
しかし、アルツハイマー病を発症していない若い人に対して私が言いたいのは、「この疾患に対する特効薬は現時点ではない。すべきなのは予防とリスクを知ること」です。ただし、予防といっても、暴飲暴食、喫煙、肥満、運動不足などがリスクになることはある程度は事実ですが、これらをすべて改善させたとしても発症するときは発症します。そもそも、それなりに年をとれば誰にでも発症しうるのがこの病です。
リスクについては今挙げたものもそうですが、それらより決定的な因子は「遺伝」です。そして、そのリスク(ApoE遺伝子のタイプ)は血液検査で簡単に分かります。ただし、誰にでも実施してよいわけではなく、ルールやガイドラインがあるわけではないのですが、「若者は受けるべきではない」というのが私見です。例えば、結婚前の若いカップルが受けたとして、ひとりはリスクが非常に低く、ひとりはすごく高かった(ApoE遺伝子がε4・ε4)として、結婚を躊躇するようなことにはならないでしょうか。
他方、出産を終え、ある程度の年齢になった人であれば、いつまで働くか、事業の継承をいつおこなうか、といったことを考える上でもアルツハイマー病のリスクを知っておくことは有益ではないでしょうか。
「アルツハイマー病のリスクが高くても、アデュカヌマブがあるからもう安心」とは考えない方がいいでしょう。
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参考:
はやりの病気第179回(2018年7月)「認知症について最近わかってきたこと(2018年版)」
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|2021年7月6日 火曜日
2021年7月 「相手の立場に立つ」を再考する
2021年6月1日、東京都立川市のホテルで性風俗店勤務の31歳の女性が19歳の少年に殺害されました。この事件は「初対面の女性を70か所もメッタ刺しにした残虐さ」と「未成年の加害者が法律上匿名とされる一方で、被害者のセックスワーカーが実名を報道されたこと」が注目されました。
これだけ残虐な事件が起こると、週刊誌は加害者の人物像を過去にさかのぼり取り上げます。そんななか、私が最も驚いたのは週刊新潮と週刊文春が報道した中学の卒業アルバムに掲載された加害者の文章です。一部を抜粋します。
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僕はいつか、僕を支えてくれた人たちを支えられるような人になりたいと思います。だから、そのためには、まず自分自身が成長し、自立することです。そして、相手の立場に立って一緒に考えてあげる力を身に着けていきたいです。そして、苦しい思いをしている人たちを支えられるような大人になりたいです。
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話は変わって、2021年6月30日、大阪府下のある大学の看護学部の授業で、私は「在日外国人の健康問題」というタイトルで講義をおこないました。日本(特に大阪)では、外国人が適切に医療を受けられていない現状があります。それを、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の経験も踏まえて、外国人医療に関する諸問題を話したのです。
その講義で、外国人医療の問題を解決するために最も重要なのは「相手(外国人患者)の立場に立つことだ」と強調しました。講義では、「相手の立場に立つこと」が外国人医療の最重要事項であるだけでなく、すべての医療問題の最重要事項であるという私見を紹介しました。
実際、患者・医療者間のトラブルのほぼすべての原因が「相手の立場で物事を考えていないこと」と言っても過言ではありません。逆に言えば、そのトラブルは「相手の立場に立てばたいていは解決する」のです。
そして、私自身はこの「相手の立場に立つ」を(後述するように)あるときから実践するよう心がけています。医師になってからも、例えば「救急外来で患者が怒っている」などという話を聞くと「自分の出番だ」と考えて駆けつけていました。なぜ、多くの人が嫌がる仕事を率先して引き受けるかというと、それまでの人生でいくつもの成功体験があるからです。
争いごとは、たいていは、「私があなたのことを理解していることをあなたに理解してもらうまでは私の言い分を言わずあなたの話を聞きます」という態度で臨めば一気に進展します。このときに絶対にやってはいけないことは、「相手の意見を聞く前にこちらの言い分を主張すること」と「正論の押し付け」です。
例えば、外来で「長時間待たされたのにCTも撮ってくれへんのか!」と騒いでいる人がいたとしましょう(実際こういう人は多い)。このときに「この状態ではCTは不要です。不要な検査はあなたのためになりません」などと言ってしまうと、理屈の上ではそれは正しいわけですが、これは医療者側の見方です。こういうときには、「なぜあなたがCTが必要と考えているか聞かせてもらえますか?」という切り口で話を聞くことから始めます。
もっとも、実際の現場では、全体の状況を考えた上で、あえて怒らせたままにしておくこともあります。例えば、暴言を浴びせられて委縮している医療者に対して、いかにも殴り掛からんばかりの態度で威圧してくるような人に対しては、「それは恫喝です。お引き取りください!」と(ちょっとだけ)強い口調で迫ることもあります。
谷口医院でもだいたい年に1人くらいは「お帰りください」と言わねばならないことがあります。理由として多いのは「スタッフへの暴言」と「金払うから〇〇を出してくれ、△△の検査をしてくれ」と威圧的に言ってくる場合です。
コロナ禍以降は、通常の診察時間に「コロナかもしれへんから診てくれ」と言ってやって来るケースも該当します。そういう場合、直ちに外に出てもらい、「いったんお帰りいただいて発熱外来にお越しください。あるいは当院が紹介する医療機関を受診してください」と説明するのですが、「どうしても今ここで(谷口医院で)診てくれ」という人がいます。院内感染を起こすわけにはいきませんから、こういうケースでは強い口調で「お引き取りください!」と言わざるを得ません(当院が今も「コロナ院内感染ゼロ」を維持しているのはこういうことも実施しているからです)。
話を戻します。過去のことを言い出せば私には失敗例がものすごくたくさんあるのですが、少なくとも医師になってから20年近くの間、こちらから訣別することを決めたとき以外は、患者さんとトラブルになったことはほぼありません。仕事ではなくプライベートなことでも、信頼していた人から裏切られたことは何度かありますが、それほど人間関係で苦労したことはありません(注)。裏切られたのならそれは苦労じゃないのか、との指摘はあるでしょうが、こういうときは「あの人はその程度の人だったんだ」と思って以降関わらないようにすればそんなにストレスにはなりません。
「相手の立場に立つ」というのは一見当たり前のようですが、過去の私にとってはそうではありませんでした。私がはっと気づいたのは1997年のある日、このサイトでも何度か紹介した『7つの習慣』を読んだときでした。「7つの習慣」の第5の習慣が「理解してから理解される(Seek first to understand, then to be understood)」です。この本にはこの「習慣」が真実であることを示すエピソードがいくつも紹介されています。
私はこの本を読んで、それまでの人生でいかに自分が正論の押し付けをしていたか、そして議論に勝つことを目標にしていたかを思い知りました。今となっては常識中の常識と認識していますが、過去の私は「議論に勝ったときは内容ではたいてい負けている」ということが分かっていなかったのです。
さて、本題です。冒頭で紹介したように19歳の加害者は、中学の卒業論文で「相手の立場に立って一緒に考えてあげる力を身に着けていきたい」と書いています。「考えてあげる」は上から目線のおかしな表現ですが、それを除けばものすごく大切な人生の真理を述べています。これを常に心がけていれば他者や社会に貢献できることは間違いありません。
私は週刊誌で加害者のこの文章を読んだとき2つの点で大変驚きました。一つは、この部分だけでなく、文章全体に整合性があり、中学生の作文にしてはかなり優秀な内容だということです。なにしろ、私が20代後半になって『7つの習慣』のおかげでようやく理解できるにいたったことが書かれているわけです。そしてもうひとつの驚きは、言うまでもなくこの文章を書いた張本人がこれほど残虐な事件を起こし一人の女性の命を奪ったことです。
ではなぜこの加害者はこれほどまでに身勝手で残虐な事件を起こしたのでしょうか。「中学の卒業アルバムに書いたこの言葉のことなどすっかり忘れていた」と信じたいのですが、それで済ませていいのでしょうか。「忘れていた」にしても、これを書いた中学生時代にはそう思っていたのは事実でしょう。
我々はこの事件とこの卒業アルバムから何を学べばいいのでしょう。常に相手の立場に立って物事を考える人物でも残虐な事件を起こす、ということでしょうか。あるいは、正しく生きるために相手の立場に立つことを忘れてはいけない、ということでしょうか。
いずれにしても、私の場合、残りの人生、命が尽きるまでこの「習慣」を維持していくつもりです。
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注:ただし現在、医師になってから初の、というよりも人生初のトラブルを抱えています。2020年12月に谷口医院の階上に入居したボクシングジムが日々耐え難い振動と騒音をつくりだし、当院の患者さんを苦しめています。ジムのオーナーと話し合いをして「4月末に防音・防振対策の工事をする」との約束をもらったのですが、まったくそのような工事を実施した気配がなく、「本当に工事をしたなら証拠を見せてほしい」と依頼すると、意味不明の写真を送ってきただけでその説明をお願いしても無視されました。5月以降に振動・騒音が悪化していることを伝えると「6月20日を目途にちゃんとした工事をする」と約束を取り付けたのですが、7月5日現在、工事を開始した様子は一切なく説明も求めてもやはり無視です。「工事をする、と言っておけばいいだろう」と思っているのでしょう。「苦しんでいる患者さんに、恐怖と苦痛を与えていることをどう思いますか?」と尋ねると、「ウチは客に”ユメ”を与えなあかんからやめられへんのですわ」という回答が返ってきました。こういう問題は得てして被害者が泣き寝入りすることになると聞きましたが、これ以上、患者さんに苦痛と恐怖を与え続けるわけにはいきません。ときに「理解しようと努めてもまったく理解できない相手」も存在するのです。
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|2021年6月17日 木曜日
2021年6月17日 中年期の孤独と睡眠不足が認知症のリスク
エーザイが認知症の新しい薬を発売予定という話題が盛んですが、この薬は米国で承認されたとは言え、万人に効くわけではありません。また認知症は、遺伝的にあらかじめ決まっているリスクを測定することはできますが(下記参照)、遺伝子を変えることはできません。
よって、中年期(あるいはもっと若い時期)から予防をしていくしかありません。予防をするには遺伝以外の認知症のリスク対策をしなければなりませんが、リスクとして決定的なものが見つかっているとは言えません。ですが、今回発表された2つの論文は注目に値します。
1つ目は医学誌「Alzheimer’s & Dementia」2021年3月24日号に掲載された論文「Framingham Heart Studyにおける孤独とアルツハイマー型認知症のリスクとの関連(Associations of loneliness with risk of Alzheimer’s disease dementia in the Framingham Heart Study)」です。
この研究の対象は「Framingham Heart Study」という名の疫学研究に参加した45~64歳の2,880人です。持続的な孤独を感じている人は、孤独を感じていない人に比べて、認知症の発症リスクが91%も高いという結果がでました。さらにこの研究には興味深い点が2つあります。
1つは、一時的に孤独を感じていた人は、孤独を感じていなかった人に比べて、認知症の発症リスクが0.34倍に、つまり66%も減少するというのです。
もう一つは、「一人暮らしをしているからといって認知症のリスクが上昇するわけではない」ことです。これについては、この論文を紹介した米国の健康情報ニュースサイトのHealthDayが伝えています。一人暮らしがリスクにならないということは、「一人でいても必ずしも孤独でない。他人と過ごしていても孤独なことがある」ということを意味します。
2つ目の論文を紹介しましょう。科学誌「nature communication」2021年4月20日に掲載された論文「中高年の睡眠時間と認知症の発生率との関連(Association of sleep duration in middle and old age with incidence of dementia)」です。
研究の対象者はイギリスの公務員7,959人で追跡期間は25年間です。この間に521人が認知症を発症、発症時の平均年齢は77.1歳でした。1日に7時間の睡眠をとっていた人の発症リスクが最も低く、6時間以下で上がっていました。中年期から7時間睡眠を維持している人に比べると、6時間以下の人は認知症の発症リスクが30%上昇していました。
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2つの論文を合わせた結論は、「いったん孤独を感じてその後孤独から抜け出した人。ただしその間も睡眠時間はしっかり確保できた人」が最も認知症のリスクが低いということになります。「孤独を感じてその後抜け出す」というのは運がなければ難しそうですが、孤独を感じている人こそ睡眠はとった方がよさそうです。
ところで、1つ目の論文を紹介したHealthDayの記事は、「孤独な人は、医者、家族、友人などに自分の気持ちを話すように」と勧めています。たしかに、我々医療者が、患者さんから「誰にも言えないような話」を聞く機会がしばしばあります。彼(女)らは無意識的にそのような話を我々におこなうことで孤独感を癒しているのかもしれません。
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|2021年6月13日 日曜日
第214回(2021年6月) やってはいけないダイエットとお勧めの食事療法
「確実に痩せる方法」などというと、うさん臭い宣伝のようですが、単に(一時的に)痩せる方法ならいくつもあります。極端な例を挙げれば「断食」をすれば誰でも痩せますし、ここ数年間流行りの「極端な糖質制限」でも可能です。そして実際、劇的な結果が得られます。特に一部のフィットネスクラブで実施している「極めて厳しい糖質制限+筋トレ」は、効果が高く、当院の患者さんのなかにも2カ月で10kg以上の減量に成功した人が何人もいます。
では、そういったダイエットに”成功”した人たちが、その後も適正体重を保ち満足しているかというと、残念ながらそういう幸運な人は当院の患者さんのなかにはほぼいません。半年もたてば元の体重に戻っているのです。
興味深いことに、そういったダイエットを実施している最中の人は「意外に楽しいですよ。これなら続けられます」と言います。これは嘘ではないでしょう。ダイエット中の彼(女)らは、生き生きとし姿勢もよく声も大きく爽やかになり「成功者のイメージ」にピッタリです。
ところが、たいていは半年もたてば元の木阿弥になります。そのとき「半年前のあのときはあんなに楽しいって言ってたじゃないですか。もう一度チャレンジしてみればどうですか」と問うてみても、「いえ、もうあんな体験はしたくありません……」と、いう答えが返ってきます。
では、結局のところ、効果的にダイエットをおこなうにはどうすればいいのでしょうか。その話をする前に「やってはいけないダイエット」をまとめておきましょう。
「やってはいけないダイエット」。それは、「方法にかかわらず急激なダイエット」です。つまり、今述べたように短期間で劇的な効果の出るダイエットこそが最も手を出してはいけないのです。
では、なぜ短期間で劇的な効果がでるダイエットが危険なのでしょうか。それを説明するために興味深い論文を紹介しましょう。医学誌「Obesity」2016年5月2日号に掲載された「「The Biggest Loser」大会から6年後の持続的な代謝適応 (Persistent metabolic adaptation 6 years after “The Biggest Loser” competition)」です。
「The Biggest Loser」というのは米国のテレビ番組で、肥満に苦しむ人たちが出演し、誰が最も体重を落とすかを競い合います。私は見たことがありませんが、優勝すると家族がステージに駆け上がり抱き合い、視聴者は感動のあまりハンカチなしでは見られないそうです。優勝者は「人生に自信を取り戻した」と答え、視聴者に応援のお礼を言うのだとか。
ところが、です。論文によると、この番組に出演しダイエットに成功した14人を追跡すると、そのうち13人がリバウンドし、3人は元の体重よりも太っていたことが判ったのです。
では、なぜそのようなことが起こるのでしょうか。論文は興味深い事実を、数字を挙げて指摘します。「安静時基礎代謝率」という言葉があります。何もせずじっとしているときにどれくらいのエネルギー(カロリー)を消耗するかを示した数字です。この数字が高ければ高いほどやせやすいわけです。論文によると、この番組に出演しダイエットに成功した人たちは、6年間で安静時基礎代謝率がなんと500キロカロリーも下がっていたというのです。
500キロカロリーというとだいたいビックマック1個に相当します。ということは、この人たちはダイエットに成功してからは、ビッグマックを1個食べただけで2個食べたのと同じカロリーを摂取したことになるわけです。これでは努力を続けてもリバウンドが避けられないのは無理もありません。
もうひとつ、とても興味深い数値を示しましょう。
レプチンというホルモンがあります。このホルモンを一言でいえば「食欲抑制ホルモン」です。レプチンのレベルが高ければ高いほど食欲が抑制され、その結果やせるわけです。「やせるホルモン」と言ってもいいかもしれません。
論文では番組出場者の「出場前」「番組終了直後」「6年後」のレプチンの血中濃度を測定し全員の平均値を出しています。その数値(単位はng/mL)は、順に41.14、2.56、27.68となりました。解説しましょう。
まず、「出場前」の数値41.14は正常と考えられます。この時点ではまだダイエットを開始していません。そしてダイエットが開始されると、出演者は空腹と戦うことになります。理性は「食べない」でも身体は「食べたい」です。身体が「食べたい」ということはレプチンの濃度が下がっているはずであり、実際大きく下がっています(2.56ng/mL)。ダイエットを開始するとレプチン濃度がダイエット前のわずか6%(2.56/41.14)しか分泌されていないわけですから、ダイエット開始後、空腹感に耐える辛さは想像を絶するほどだったでしょう。
問題は6年後です。厳しいダイエットを終了した後、ほとんどの人がリバウンドしているのにもかかわらず、レプチン濃度はダイエット開始前の3分の2にしか回復していません(27.68/41.14)。ということは、彼(女)らは、1日に3食食べたのに、2食しか食べていないときと同じ空腹感を抱えているわけです。そして、空腹感に逆らえず食べてしまって体重がさらに増えるわけです。
こんなことになるのが分かっていれば、短期間の急激なダイエットなど初めからやらなかったと思う人もいるでしょう。というより、ほとんどの人がそう思うに違いありません。
では安全かつ効果的に体重を落とすにはどうすればいいでしょうか。短期間の急激なダイエットの反対、すなわち「長期間のゆっくりダイエット」を実施すればいいのです。
具体的にはどのような方法がいいのでしょうか。まずは以前も述べたことのおさらいをしておきましょう。2010年11月のメディカルエッセイ第94回「水ダイエットは最善のダイエット法になるか」で、「ダイエットをしようと思えば摂取カロリーを減らす以外に方法はない」と述べました。運動だけでは絶対にと言っていいほど体重は減らないのです。
なぜ運動だけでは痩せないかについてはそのコラムを参照してほしいのですが、それを証明した研究もあります。「スリムな体型をしているアフリカの未開民族ハドザ族が燃焼していたカロリーは、先進国の男女と同量だった」ことが米国デューク大学の人類学者Herman Pontzer氏らの研究でわかりました。つまり、「ハドザ族が痩せているのは消費カロリーが多いからではなく摂取カロリーが適正だから」言い換えれば「先進国に住むあなたが痩せないのは消費カロリーが少ないからではなく食べ過ぎだから」なのです。「The Telegraph」2021年2月21日の記事「痩せることができない本当の理由(The real reason why you can’t lose weight)」で紹介されています。
さて、前出のコラムでは「毎食前に水をコップ2杯飲めば摂取カロリーが1日あたり300キロカロリー減る」ことを示した研究を紹介しました。今回お伝えしたいのはこの方法を1歩進めたものです。ただし、現段階では私の個人的な考えにすぎません。何人かの患者さんに実践してもらい効果は出ているようですが、エビデンスというレベルのものはありません。
その方法は「食事前に牛乳か豆乳を飲む」というものです。私がこれを思いついた理由は「ダイエットをがんばっている人は総摂取キロカロリーを減らしている(または糖質制限をしている)が、蛋白質が足りていない」ことに気付いたからです。特に糖質制限をしている人は糖質を減らし脂肪を増やしてしまっていて、肝腎の蛋白質が摂れていないのです。効果的なダイエットをおこなうには充分な蛋白質を摂取しなければなりません。蛋白質が不足すると筋肉がやせほそり骨折や骨粗しょう症のリスクが上がります。
そこで食事前(1日1~2回)に牛乳または豆乳をとれば、水ダイエットが成功するのと同じ理屈で体重が減ります(牛乳・豆乳でカロリーを摂ることになりますが、それ以上に食事量が減りますし、糖質はさほど多くありません)。そして、痩せるだけでなく血中蛋白質濃度が上昇し、筋肉と骨がつくられ、体型が理想的になります。
ただし、それをしたところで、身の回りの太りやすい食べ物の誘惑を断ち切らねばなりません。菓子パン、ドーナツ、スイーツ、スナック菓子……、空腹でなくても食べたくなるこういったものを断ち切ることなしには体重が減らないことを忘れてはなりません。
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|2021年6月6日 日曜日
2021年6月6日 米国では女性看護師の自殺リスクが一般女性の2倍
医師の自殺リスクが高いということがしばしば指摘されます。きちんとした統計データは見たことがないのですが、我々医師の実感としてもこれは正しそうです。医学部の一学年あたりの学生数は80~100人程度しかいないのですが、卒後10年以内にどの大学のどの学年も1人くらいは自殺しているだろうと言われています。
他方、看護師ではそういう話を聞きません。むしろ、私の個人的な経験でいえば(その多くは太融寺町谷口医院の患者さんですが)看護師として長年勤務して引退されている人は身体も心も健康な人が多いという印象があります。
しかし、米国では女性看護師の自殺リスクが一般女性の2倍とする研究があります。
医学誌「JAMA Psychiatry」2021年4月14日号に掲載された論文「米国の看護師と医師の自殺リスク (Association of US Nurse and Physician Occupation With Risk of Suicide)」を紹介しましょう。
研究に用いられたデータベースでは2017年から2018年にかけて自殺した看護師は2,374人(うち1,912人が女性)、自殺した医師は857人(84.4%が男性)でした。同時期に自殺した一般人口は121,483人(男性が77.8%)でした。これらから、女性10万人あたりの自殺者は看護師で17.1人、一般集団で8.6人となります。よって女性看護師は看護師でない女性にくらべて自殺リスクが約2倍高いということになります。一方、医師は一般人口と比べて自殺リスクが高いとはいえません。
自殺の方法は「薬物」が多く、薬物を用いた自殺者は一般人口では16.8%なのに対し、医療者では24.9%もあります。使用される薬物は、医療者では、バルビツール酸(睡眠薬)、オピオイド(医療用麻薬)、ベンゾジアゼピンが多かったようです。
尚、この研究は新型コロナウイルス流行前のデータであることを押さえておいた方がいいでしょう。きちんとした統計があるかどうかわかりませんが、(女性)看護師が新型コロナのせいで自殺したというニュースを何度か読んだ記憶があります。コロナを加味すればさらに自殺リスクが高くなるかもしれません。
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冒頭で述べたように、引退後もいきいきとしている女性に元看護師が多いという印象が私にはあるのですが(他には元小学校の先生も多い)、よく思い出してみると、谷口医院に通院している若い女性看護師は精神疾患を持ち合わせていることが少なくありません。さすがにバルビツールやオピオイドを常用している人は(ほぼ)いませんが、ベンゾジアゼピンに頼っている看護師はそれなりに多いといえます。
ベンゾジアゼピンはゆっくりと減らしていく治療をおこなっていくわけですが、上手くいかないこともあります。なかには、看護業務を続けられなくなり、看護師をやめて別の仕事にうつる人(なかには社会復帰できない人も)もいます。
ということは、「女性看護師は引退後もいきいき」は「元々引退後も健やかにすごせる人が看護師に向いている」ということであり、「元々メンタルが強くない人が看護師になると薬物に依存するようになり自殺のリスクも上がる」ということなのかもしれません。
たしかに看護師の世界は(おそらく医師の世界よりも)厳しい社会です。ですが、ものすごくやりがいがあって他者に貢献できる職業なのは事実です。谷口医院の患者さんのなかには(なぜか)「これから看護師を目指します」と話す30~40代の女性が少なくなく、またメールでそのような相談を受けることもしばしばあります。
どうかそういった人たちも、米国のこの研究で将来に不安を感じるのではなく、「なぜ看護師を目指そうと思ったのか」をいつも思い出して自身の夢に進んでもらいたいと思います。看護師が素晴らしい職業であることは私が保障します。
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|2021年6月3日 木曜日
2021年6月 コロナワクチンを当院で実施しない理由
2021年3月、翌月より高齢者に対する新型コロナウイルスのワクチン(以下、単に「コロナワクチン」)が始まることが決まり、保健所から太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)での接種依頼が来たとき、私は「実施します」と直ちに返答しました。
ですが、最終的には谷口医院では「実施しない」ことに決めました。高齢者に対してだけでなく、当院をかかりつけ医にしているすべての患者さんに対しても、です。そして、ワクチンを希望する人全員に集団接種会場で接種するよう助言しています。ただし、コロナワクチンについても、谷口医院には担うべき重要な任務が残っています。今回はこれらについてまとめてみます。
谷口医院がコロナワクチンを実施しないことを決めた理由は主に3つあるのですが、そのなかでも最大の理由は「コロナワクチンは集団接種会場でうった方がはるかに安全」だからです。
厚生労働省が5月26日に公表した資料によると、5月21までにファイザー社製のワクチンを接種した約611万人のうち、25歳から102歳の男女85人の死亡が確認されています。このうち5月16日までに報告があった55人について、厚労省は「その全員が情報不足等によりワクチンとの因果関係が評価できない」しています。
役人は後からの責任追及を避けるため断定した表現を嫌います。「因果関係が評価できない」の本音は「ワクチンが原因かもしれないけど、それを決定づける証拠がない」という意味で、要するにこれは「ワクチンが原因の可能性もありますよ」と言っているわけです。
611万人の接種で85人が死亡ですから、100万人あたりの死亡者数は13.9人となります。これを多いとみるか少ないとみるかについては他のワクチンが参考になります。たいていワクチンの説明をするときは「だいたい100万人に1人くらいに重篤な副作用が起こる」という表現が使われます。それに鑑みると、コロナワクチンのリスクは1桁以上高いことになります。
それほどのリスクのあるコロナワクチンですが、「うたないこと」もまたリスクになります。有効率95%であることがわかっているワクチンをあえて接種せず、コロナに感染して死亡すれば悔やみきれないでしょう。コロナについてはワクチンをうたないことがリスクであるとも言えるのです。つまり、うってもリスク、うたなくてもリスク、それが非常事態の現実なわけです。
さて、ワクチンを接種することを決めたとして、接種後のアクシデントは最小限にしなければなりません。そのアクシデントを「接種直後」と「しばらくたってから」に分けて考えてみましょう。
接種直後に起こり得るアクシデントはアナフィラキシーです。また、気分不良や嘔吐なども起こり得ます。もしも意識を失うような危険な状態になったときに最も必要なのは何でしょう。こんなときには「じっくりと話を聞いてくれる優しい看護師」も「最新の論文に熟知し学会発表を頻繁にしている優秀な医師」も役に立ちません。
そのようなときに頼りになるのは、最適な救命用具、薬、そしてそれらを使いこなせる知識と経験が豊富な医師と看護師。そして、最も大切なのが「十分なマンパワー」です。つまり、人数がそろっていることが最重要事項なのです。
要するに、ワクチン接種直後の安全性を確保しようと思えば、谷口医院のようなクリニックで接種するよりも集団接種会場の方がはるかに優れているわけです。
ただし、コロナワクチンには「接種直後」だけでなく「しばらくたってから」のリスクがあります。実際、接種数日後に「予期せぬこと」が起こり、他界しているケースが目立ちます。このリスクを適切に評価し、きちんとフォローしていくのがかかりつけ医の使命です。よって、谷口医院の患者さんには、「ワクチン接種後何かあった場合はすぐに(電話かメールで)連絡してきてください。場合によっては最優先で診察しますし、重症化している場合はこちらで救急車を手配して救急病院に交渉します」と伝えています。
谷口医院がコロナワクチンを集団会場で接種するよう勧めている理由は他にもあります。ワクチン接種をすることにより一般の診察に影響が及ぶことも大きな理由です。コロナ禍で電話再診を増やし、不要不急の受診を控えてもらっていることもあり、以前に比べると少し余裕をもって外来をおこなえていますが、それでも日によっては待ち時間が長くなってしまいます。この状況のなかで、何かと手間のかかるワクチンも手掛けるとなると、通常の外来に来られる患者さんに迷惑がかかることになります。またスタッフの疲労度もかなり増すのは間違いありません。
もうひとつ、谷口医院がコロナワクチンを実施しないことを決めた理由は「コロナワクチンを実施する診療所が思いのほか多い」ことです。医師会から聞いている情報では、かなりの内科系クリニックがワクチン接種をおこなうそうです。3月の時点で「当院はワクチンを実施します」と保健所に回答したのは、「他の診療所はやらないから行き場をなくす人が増えるだろう」と考えたからです。また、この時点では集団接種がおこなわれることがまだ決まっていませんでした。
ですが、現在では、集団接種のみならず、多くの一般の診療所/クリニックが実施することを表明しています。ならばかつてのPCR検査のように「他がやらないのなら谷口医院でやらねば……」と考える必要はもはやないわけです。
思い起こせば昨年(2020年)6月、コロナを疑った患者さんを診察して当院から保健所に交渉してもPCR検査を拒否されることが多く、それならば、と考え検査会社に交渉して谷口医院でPCR検査を開始しました。検査会社によると、谷口医院が大阪市で初めてPCRを実施したクリニックだったそうです。当時はPCRどころか、発熱患者の多くがかかりつけ医を含む複数の医療機関から受診を断られ、保健所からは検査を拒否され、行き場をなくしていました。
そのため、谷口医院の「発熱外来」の原則は「谷口医院をかかりつけ医にしている人のみ」を対象としたものでしたが、例外的に「どこに行っても断られる」という患者さんを診るようにしていました。そして、そういう患者さんが後を絶たなかったのです。
ところが、こういう患者さんは今年(2021年)の2月頃よりほぼいなくなりました。おそらく「発熱外来」をおこなう医療機関が増えてPCRを実施するようになったからでしょう。ところで、大阪府の「発熱外来」実施医療機関は大阪府のウェブサイトの「大阪府 診療・検査医療機関 公表一覧 [Excelファイル/33KB]」に掲載されています。このなかの「A方式」の医療機関はかかりつけ医でなくても診察可能なところです。谷口医院は「B方式」です。B方式は「かかりつけにしている患者さんのみ対応します」という意味です。
ということは、いつのまにか、谷口医院は「コロナにはさほど積極的でない医療機関」へと変わりつつあり、ようやくおよそ1年4か月ぶりに元の状態に戻って来た、ということになります。
ただし、現在の外来が元の世界と異なるのは「ポストコロナ症候群」と私が呼んでいるコロナ後遺症の患者さんが少なくないことです。これからは、さらに「ワクチン接種後の後遺症」の訴えを診察する機会が増えるかもしれません。
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|2021年5月30日 日曜日
2021年5月30日 「仕事で身体動かしてます」は無意味?
2007年の開院以来、当院が一貫して言い続けているのが「検査や薬は最小限に」です。では、薬を極力減らしてどのように治療しているかというと、最も患者さんに言い続けているのが「運動」です。肥満や他の生活習慣病はもちろん、頭痛やめまいなどの神経疾患、胃炎や過敏性腸症候群などの消化器疾患、肩こりや腰痛といった整形外科的疾患、うつや不安などの精神疾患にも運動を積極的に勧めています。そして実際、運動だけでこういった疾患が治癒することも少なくありません。
患者さんに「運動しましょうよ」と言って、よく反論されるのが「私は仕事で身体を動かすので、運動はすでにしています」というものです。しかし、私の経験上、「仕事での運動」は(職種にもよりますが)あまり効果がありません。今回紹介するのはその私の考えを支持するような論文です。
医学誌「European Heart Journal」2021年4月14日号に掲載された論文「心血管疾患における身体活動のパラドックスと全死亡率: 104,046人の成人を対象としたコペンハーゲンの人口調査 (The physical activity paradox in cardiovascular disease and all-cause mortality: the contemporary Copenhagen General Population Study with 104 046 adults)」によると、「余暇の時間に運動をすると心血管疾患のリスクが低下するが、仕事で身体を動かすと逆に上昇する」ようです。
研究の対象はデンマークの20~100歳の一般住民104,046人です。余暇の身体活動レベル、及び仕事での身体活動レベルが、自己申告に基づいて「低値」「中等度」「高値」「極めて高値」の4つのグループに分られています。そして、追跡調査を10年間(中央値)おこない、心血管疾患との関連が調べられています。追跡期間中に7,913件(7.6%)の心血管疾患が確認され、9,846人(9.5%)が死亡しています。
結果は次の通りです。
余暇の身体活動レベルが「低値」のグループに比べると、「中等度」は14%、「高値」は23%、「極めて高値」は15%、心血管系疾患に罹患するリスクが低下していた。
「死亡」でみると、「低値」のグループに比べ、「中等度」は26%、「高値」は41%、「極めて高値」は40%、リスクが低下していた。
一方、仕事での身体活動レベルが「低値」のグループに比べると、「高値」は15%、「極めて高値」は35%、心血管系疾患に罹患するリスクが上昇していた。
「死亡」でみると、「低値」のグループに比べ、「高値」は13%、「極めて高値」は27%、リスクが上昇していた。
************
なぜ、余暇の時間に運動すれば健康になり、仕事で身体を使えば不健康になり死亡率が上昇するのか、その理由は論文からは分かりません。
大切なのは、理由はともかく、仕事で身体を動かす人もそうでない人も、余暇の時間に運動しましょう、ということです。
尚、どのような運動が望ましいかについてまでは分析されていませんが、当院で勧めることが多いのは、50歳未満ならジョギング、50歳以上なら速いスピードのウォーキング、さらに年齢に応じた筋トレです。
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|2021年5月20日 木曜日
第213回(2021年5月) 分かり始めた「ポストコロナ症候群」
「コロナ後遺症」という言葉を聞く機会が増えてきました。新型コロナウイルス(以下、単に「コロナ」)に感染し、ウイルスは消えたのにもかかわらず様々な症状に苦しめられることを言います。私は、過去のコラム「よく分からなくなってきた「ポストコロナ症候群」」で、この”疾患”はつかみどころがなく、実に分かりにくいという話をしました。
コロナに感染すると後遺症が出現することがあると私が確信したのは去年(2020年)の4月です。このサイトでポストコロナ症候群という言葉を用いて初めて紹介したのは、2020年8月のコラム「ポストコロナ症候群とプレコロナ症候群」ですが、日経メディカルの私の連載では「長期的視野で「ポストコロナ症候群」に備えよ!」というタイトルで2020年5月8日に公表しました。
ポストコロナ症候群が存在することを確証していながら、なぜ次第に分かりにくくなってきたのかというと、その最大の要因は「症状が客観的に分かりにくいこと」です。通常、ある疾患の病名を確定するには「客観的な証拠」が必要です。がんなら「がん細胞が病理検査で検出された」、甲状腺機能低下症なら「甲状腺ホルモンの数値が下がっている」などです。
ポストコロナ症候群の場合、患者さんが訴えるのが、倦怠感、頭痛、味覚障害など、測定することができないものばかりです。脱毛については明らかな例もありますが「本当にそうかな?」と疑わざるを得ないものもあります。また、抑うつ感や不眠を訴える人も少なくないのですが、以前からそういう訴えがあった人も少なくなく、コロナと関係があるのかどうかは調べようがありません。
ポストコロナ症候群が分かりにくい理由はまだあります。コロナに感染していたのが確実なのであれば、症状があればとりあえずはポストコロナ症候群と呼んでいいわけですが、感染していたかどうかが不明な場合、診断のしようがないのです。
理論上、抗体検査は診断の根拠になり得ますが、精度がそれほど高くないことが欠点です。最近は精度がかなり上がり、スパイク蛋白に対する抗体も調べることができるようになったのですが、抗体は長期間維持されないことが指摘されています。また、保険適用がなくこの点が隘路となります。例えば「PCRはしてないけど去年の春にコロナになったんです。その後、しんどいのが続いてて今も就職活動ができないんです」という人がいます。就職活動が上手くいかない原因をコロナのせいにしているのでは?と疑いたくなることもあります。
ポストコロナ症候群が分かりにくい理由はまだあります。実は、私がこの疾患の存在を疑い出したときから、症状を訴える人の何割かはもともとナーバスで、精神的に脆弱な人が多かったのです。そういった人が、いったん「コロナに感染したに違いない」という思考回路に入ってしまうと、ほんのささいな症状でも後遺症だと思い込んでしまいます。そして、こういうタイプの人たちは症状が長期間続きます。
ただ、太融寺町谷口医院に長年通院している患者さんのなかには、そのようなナーバスなタイプではないのに症状を訴える人もいます。しかし、その症状は客観的に評価しづらいものです。
ここまでをまとめると、ポストコロナ症候群の特徴は次の3つになります。
#1 症状は頭痛、倦怠感、抑うつ感、動悸など神経に関係しているものが多く、これらは客観的に評価しにくい
#2 もともとナーバスな性格の人に多い
#3 もともとナーバスな人は後遺症が長期間続く
#1について、最近興味深い論文が発表されました。医学誌「The Lancet Psychiatry」2021年5月1日号に掲載された論文「Covid-19に罹患した236,379人の6か月間の神経学的および精神医学的転帰 (6-month neurological and psychiatric outcomes in 236?379 survivors of COVID-19: a retrospective cohort study using electronic health records)」です。
この論文では、コロナと他の疾患(インフルエンザ及び他の呼吸器疾患)で神経学的な後遺症がどれほどの差をもって起こるかが調べられています。その結果、コロナ感染者は、インフルエンザ感染者に比べて神経症状を発症する確率が44%高いことが分かりました。
私がこの論文を読んで最初に思ったのが、「コロナでなくても、インフルエンザでも他の呼吸器感染症でも神経症状(後遺症)が起こるんだ」ということでした。今までそのようなことを意識したことがなかったからです。ですが、よく考えてみると、インフルエンザは重症化すると「インフルエンザ脳症」を起こしますし、細菌性肺炎の場合でも、特に高齢者の場合はその後脳梗塞を起こすことがしばしばあります。ということは、感染の後の後遺症はコロナに限ったことではない、ということになります。ただし、コロナの場合は他の感染症に比較して、そういった神経症状を発症する可能性が高いわけです。
では、なぜコロナの場合は神経症状を起こしやすいのでしょう。最初私はその鍵が「血栓」にあるのではないかという仮説を立てました。コロナに感染すると体中に血栓ができて血管が詰まることはすでに明らかになっています。血栓が脳の血管に生じると脳梗塞を起こしたり、(米国の舞台俳優のように)足を切断したりといった事例が生じるわけです。ですから、コロナに感染し重症化してくるとヘパリンという血をサラサラにする薬を投与することが治療のひとつになります。
ですが、コロナ後遺症で苦しんでいる当院の患者さんに血栓ができているとは思えません。たしかに感染してしばらくしてからはd-dimerという血栓の指標が上昇することが多いのですが、その上昇はそれほど長く続きません。ですが、症状は残るのです。血栓が何らかのきっかけになったとしても他に理由があるはずです。私の仮説は「炎症」そして「低酸素血症」です。そう考えるきっかけとなった論文を紹介しましょう。
医学誌「Free Neuropathology」に掲載された論文「COVID-19の神経病理学:臨床病理学的最新情報 (Neuropathology of COVID-19 (neuro-COVID): clinicopathological update)」によれば、コロナで死亡し剖検された184人の脳のうち、43%にミクログリアの活性化が認められました。また、別の論文、医学誌「Brain」2021年4月15日号の「コロンビア大学でのCOVID-19神経病理学 (COVID-19 neuropathology at Columbia University Irving Medical Center/New York Presbyterian Hospital )」でも、コロナで死亡した人の解剖から脳にミクログリアの活性化が認められました。ミクログリアというのは脳内の免疫を担う細胞の1つで、炎症反応を引き起こします。つまり、コロナに感染すると脳内のミクログリアが活性化し炎症が起こることを示しているわけです。
ただし、コロナそのものが脳内のミクログリアに直接働きかけて炎症を生じさせている証拠はありませんし、その可能性はそれほど高くないと思います。先述の「Brain」の論文によれば、おそらく低酸素血症が原因で全身性の炎症が起こり、その結果脳内のミクログリアが活性化したのではないかと推測されています。
ということは、先に起こった症状は「肺炎」です。肺炎→酸素が取り込めない→低酸素血症→脳のミクログリアに炎症、と考えられるわけです。
ところで、うつ病の病態が「炎症」ではないかということが最近よく言われます。全貌は分かっていないものの、うつ病患者の脳内ではミクログリアの活性化が生じていることを示した研究も相次いでいます。炎症が元々あるところに、低酸素血症が起こればさらにその炎症が悪化することは想像に難くありません。
そして、最近の論文でコロナに感染するとかなり長期間抑うつ症状が生じることが分かりました。医学誌「JAMA」2021年3月12日号に掲載された論文「コロナの急性症状と成人のうつ症状との関連 (Association of Acute Symptoms of COVID-19 and Symptoms of Depression in Adults)」によれば、感染から4ヵ月後の時点で52%が「大うつ病」の診断基準を満たしていました。
これですべての謎が解けたかもしれません。まず、コロナに罹患するとたとえ自覚症状が軽度であったとしても低酸素血症が起こります。呼吸苦の訴えが乏しいのにもかかわらず酸素飽和度が低下していることがコロナではよくあります。低酸素血症の結果、脳内のミクログリアが活性化し炎症が起こります。うつ病患者はもともとミクログリアの活性化が高く、低酸素血症で炎症が一気に悪化します。いったん炎症が起これば回復するのに時間がかかりますが、やがて回復すれば神経症状は消えます。ただし、うつ病があれば元々ミクログリアが活性化しているわけですから、長引くことが予想されます。
ここまでくれば後は「対策」です。「コロナに感染した(かもしれない)ときはできるだけ早く酸素投与をおこなえば、後遺症=ポストコロナ症候群を予防できる可能性がある」となります。
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|2021年5月15日 土曜日
2021年5月 「残された時間」がわずかだからメルマガ発行
私には残された時間がわずかしかない……
などと言えば「何をおおげさな……」と思われるでしょうが、ここ数か月でこの気持ちが「確信」に近づきました。といっても、末期がんが見つかったわけでも、自殺を決意したわけでもありません。では、なぜ私には残り時間がわずかしかないのかを説明していきます。
まず、私は以前から人生を逆算して計画を立てることを心がけています。思い通りにならないのが人生であり、これまでの人生を振り返ってみても予期せぬことの連続であったわけですが、それでも「〇歳までに△△をしなければ……」という計画を立て、見直す作業を頻繁にしています。太融寺町谷口医院のことで言えば、いつまでこのスタイルでクリニックを続けるべきか、ということをよく考えます。最近は「生涯現役」という言葉をよく聞きますし、死ぬまで働きたいと考える医師も少なくないのですが、私はそのようには考えていません。
その理由は2つあります。老後はゆっくり過ごしたいから、ではありません。ひとつは、タイでやり残したことがあること、もうひとつは、いずれ今のようには身体も頭も動かなくなるから、です。
「定年制をなくしていくつになっても働くのが社会のためにも自身の健康のためにも望ましい」とする意見を聞く機会が増えてきました。これを間違っているとは言いませんが、若い頃と同じようなパフォーマンスは発揮できません。体力も記憶力も、さらには認知力も落ちてくるからです。現在のように、働く若い患者層が中心のクリニックで1日約70名の患者さんを診察し、困ったことがあれば何でも相談してもらうというスタイルは、ある程度の体力と常に新しいことを学んで知識を増やしていく努力が不可欠となります。
もちろんその努力を放棄するわけではありませんが、どうしても体力の低下は避けられず、若い頃には考えられなかった凡ミスもするようになるでしょう。そういったミスをする前にクリニックの医師は引退しなければならない、というのが私の考えです。引退した後のことは完全に決まったわけではありませんが、以前実施していたようにタイのエイズ施設でひとりひとりの患者さんとじっくり向き合うスタイルのボランティアを考えています。
ところで、私が日本での開業を急いだ理由は「医療機関から見放されている人の力にならなければ……」と考えたからです。医療不信がある、医療機関でイヤな思いをした、医療者から心無い言葉を吐かれた、どこに行っても「うちでは診られない」と言われた、何科を受診していいか分からない、など、医療者からの助けを必要としているのに医療機関を受診できない人が大勢いることを知ってしまったが故に「自分がクリニックを立ち上げねば」と考えたのです。
大学病院で外来をしているときも「どのようなことも相談してください」と言っていたのですが、(大学)病院では診断がつけば「続きは診療所/クリニックで診てもらってください」と言わねばなりません。私はこれがイヤで「いつでも困ったことがあれば相談してください」と言える立場に立ちたかったのです。
日本中のすべての人に「困ったことがあればいつでも相談を」と言いたいわけではありません。すでに何でも相談できるかかりつけ医を持っている人は、私のところには来る必要がありませんし、かかりつけ医をまだ持っていない人も遠方の人は診られません(このため、遠方から来られる人には、せっかく来られたところを申し訳ないのですがお断りさせてもらっています)。それに、当院をかかりつけ医にするようになった人も、「いつでも気軽に」ではなく、できるだけ受診回数を減らすように努力してもらっています。「検査や薬は最小限にして、受診回数を減らしていきましょう」は15年前の開業時から言い続けている言葉です。
さて、こんな私は「かかりつけ医をみつけてもっと利用すべきだ」ということを様々なところで言い続けているわけですが、新型コロナウイルス(以下、単に「コロナ」)が流行しだしてからこの考えが変わりました。なぜなら、この1年と3か月の間、「かかりつけ医からはうちでは診られないと言われてどこに相談していいか分からない」という相談をもう百回以上も聞いたからです。当院は2020年3月の時点から「症状に関係なくコロナが心配な人は相談してください」と言い続けて、通常の時間枠とは別の「発熱外来」を設けました。PCR検査が保健所の許可が必要だったときから検査会社と独自に交渉して、2020年6月上旬には当院で検査を始めました。
ところが、多くの診療所/クリニックは「コロナは診ません」という方針をとったのです。私にはこれが理解できませんでした。なぜ、日ごろ困っている患者さんが「コロナかもしれない」と不安に苦しんでいるときに「うちでは診られないからよそに行って」と言えるのでしょう。百歩譲って何らかの事情で診られないとしても、ならばなぜ診てもらえる医療機関を紹介しないのでしょう。高熱と呼吸困難で苦しんでいる患者さんに対して、「自分で診てもらえるところを探せ」はあまりにもひどすぎます。
我々医師の世界では「前医を非難してはいけない」というルールがあります。これは前医の診断が間違っていたとしても、それはそう診断する理由があった事情を尊重しなければならないからです(参考:メディカルエッセイ第26回(2005年10月)「後医は名医?!」、マンスリーレポート2018年2月「医師が医師を非難するのはNGだけど…」)。
「前医を非難してはいけない」というルールには今も従うつもりでいますが、この1年あまりで「例外は多数ある」と考えるようになりました。もっと言えば、「例外の方が多いのでは」と思わざるを得ません。この1年間で当院をかかりつけ医にしている患者さんの多くが仕事を失くしています。そして、新たな仕事が見つからないと言います。飲食店の経営者の人たちは「協力金のおかげでなんとか続けていられるがこの先が不安」と言います。そんななか、保険医協会という医師の団体は「全ての医療機関に減収補填を」と訴えているのです。私はこの文字を見たとき自分の目を疑いました。患者数が減ったのはコロナを診ないからに他なりません。それで、自身が感染する危険を回避し、患者数が減って暇になって収益が減ったからから補填せよ、はあまりにも自分勝手です。仕事をなくした患者さんのことをどう考えているのでしょうか。
コロナ流行後、いろんな立場の人が批判されています。首相官邸、与党、各自治体及びその首長、公衆衛生学者、保健所、などなど。私の意見を率直に言うと、もっとも非難されるべきは開業医です。日ごろ困っている患者を見放すことが私には理解できないのです。コロナ流行後、この1年余りで当院への相談メールは急増しました。全国から寄せられています。今のところ、どれだけ時間がかかろうと全例に返事をしていますが、もっと効率よく、適切な情報を伝えることができる方法はないだろうか……。
そこで思いついたのが「メルマガ」です。もちろん(守秘義務の観点から)受け取った質問メールをそのまま大勢に転送することはできませんが、内容をアレンジしてプライバシーを確保した上で大勢の人に知ってもらうことは有用でないかと考えるようになりました。これまで当院に寄せられた相談メールは2万通以上あります。そして、改めてよく考えてみると似たような内容のメールが多数あります。
また、私は言うべきことは言葉を飾らずに率直に言うようにしていますが、それでも現在連載している「医療プレミア」や「日経メディカル」ではあまりに露骨なことを書けば編集でカットされますし、このサイトでも書きにくいこともあります。メルマガならそういった表現の制約に悩まされることもないでしょう。もちろん自分の言葉には責任を持ちますが、ダイレクトに言いたいことを表現したいと考えています。「残された時間」を使って、開業をしたときから抱き続けている「患者さんに伝えたいこと」をメルマガで述べていきたいと思います。
そんなメルマガは「まぐまぐ」を使うことにしました。興味のある方は「まぐまぐ」のトップページから「谷口恭」で検索してみてください。
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|2021年5月9日 日曜日
2021年5月9日 鳥のさえずりと水の音で健康増進
波の音と鳥のさえずりで目を覚ます日々……。考えただけでワクワクするのは私だけではないでしょう。そして、こういった環境が健康を増進するという研究結果が発表されました。
医学誌「PNAS」2021年4月6日号に発表された論文「自然の音による健康上の利点と国立公園でのそれらの分布 (A synthesis of health benefits of natural sounds and their distribution in national parks)」です。
この研究では、これまでに発表された自然の音についての合計36件の論文が精査されています。その上で、18件を取り出しそれらを総合的に解析(これをメタ解析とよびます)しています。その結果、単に気分が改善するだけでなく、痛みが軽減し、ストレスが減り、さらに、認知能力の向上も認められたのです。
************
この論文は米国の健康サイトHealthDayでも取り上げられています。タイトルは「(波の音と鳥のさえずり、自然の音が癒しをもたらすことを示した研究(Waves Lapping, Birds Singing: Nature’s Sounds Bring Healing, Study Finds)」です。さらに、ビデオもあります。
公園の横に位置したマンションやホテルはそれだけで人気があると聞いたことがあります。公園の存在だけでなく、鳥のさえずりも人気に寄与しているのかもしれません。公園に噴水や池があれば尚いいと思いますが、それらがあったとしても「水の音」は聞こえるのでしょうか。
と、ここまで書いて思い出したのが大阪の梅田にあるウエスティンホテルです。私はこのような高級ホテルとは(おそらく生涯)縁がありませんが、このホテル、中庭に「森」があり、その中に滝があることで有名です。近くを通ると(私も通ったことはあります)、まさに本物の滝と同じ音が聞けます。季節と時間によっては鳥のさえずりも聞こえるでしょうから、最高にリラックスできるかもしれません。
ちなみに私は、高級ホテルではありませんが、以前タイ南部の田舎にある海に面したホテルに泊まったことがありこの体験をしました。周りには何もないところで、まさに波の音と小鳥のさえずりで目を覚ましたのです。着替えて海岸に行くと、海藻をとっている高齢の女性がひとりいるだけ。海は格別きれいというわけではありませんでしたが、10年以上も前のあの朝のシーンを今回紹介した論文を読んで思い出しました。
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