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2022年7月28日 木曜日
2022年7月28日 1日43分の早歩きで認知症の「リスク」が3割低下
いい薬があるとは言えず、確実な予防法があるわけでもないのが認知症です。運動は有効とする意見は昔からありますが、過去のコラム「認知症について最近わかってきたこと(2018年版)」で紹介したように、認知症になった人に運動をしてもらっても進行を遅らせることができないという研究があります。
今回紹介するのは「明るい話題」です。「中等度の強さの運動は認知症を発症するリスクを27%下げる」が結論です。
医学誌「Journal of Alzheimer’s disease」2022年4月号に掲載された論文「日本人高齢者の身体活動強度と認知症:8年間の縦断研究に基づいた用量反応分析(Physical Activity Intensity and Suspected Dementia in Older Japanese Adults: A Dose-Response Analysis Based on an 8-Year Longitudinal Study)」を紹介します。
研究の対象者は3,722人の日本人の高齢者。8年間の追跡期間中に「認知症の疑い(suspected dementia)」と診断されたのが全体の12.7%でした。「中等度の強さの運動」を週あたり300分以上続けていた高齢者は、そうでない高齢者と比べると、「認知症の疑い」と診断されるリスクが27%減少していました。
「中等度の強さの運動」の実施時間と「認知症の疑い」のリスク減少は直線的な関係となりました。つまり、「運動をすればするほどその分だけ認知症のリスクが下がる」となります。
興味深いことに、「強度の強さの運動」と「認知症の疑い」には有意な関係はありませんでした。
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結論としては、「中等度の強さの運動を週に300分しましょう」、ということになるわけですが、「中等度」と言われてどのようなことをすべきか分かるでしょうか。東京都健康長寿医療センター研究所のウェブサイトに分かりやすい説明があるので、それをここでさらに簡単にまとめて紹介したいと思います。
中強度(中等度の強さ)の運動とは、安静時(椅子に座ってじっとしている状態)の3.0~5.9倍の強度を指します。普通歩行なら3.0倍、速い速歩きは5.0倍の強度に相当します。
高強度(高度の強さ)の運動とは、安静時の6.0倍以上の強度を指します。ゆっくりとしたジョギングがちょうど安静時の6.0倍に相当します。山登りは6.5倍、ランニングは8.3-9.8倍、水泳なら10.0倍です。
今回紹介した論文の結論は「中等度の強さの運動を週に300分」ですから、「1日43分の早歩きかゆっくりのジョギングを毎日しましょう」ということになります。
参考:
医療ニュース2021年1月29日 1日わずか11分の運動で「座りっぱなし」のリスク解消
はやりの病気第215回(2021年7月) アルツハイマー病の新薬が期待できない理由
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|2022年7月21日 木曜日
第227回(2022年7月) 「将来のビジョン」を描くことで精神症状を治す
太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)は「精神科」を標榜していませんが、「心(精神)の調子が悪く診てほしい」という依頼は2007年の開院時からあります。頼まれれば無条件で診察する、というわけではなく、できるだけ希望は聞くようにしますが、初めから精神科を紹介する場合もあります。
しかし、いつの頃からか「精神科を受診したけれどうまくいかなくて……」という訴えが増え始め、現在ではそういう患者さんは谷口医院で診るようにしています。どのような患者さんが多いかというと、最も多いのが「精神科で処方される薬を使いたくない」あるいは「精神科で処方されている薬を止めたい」という希望をもっている人です。
今回は、そういった人たちに谷口医院ではどのような治療をしているかを紹介したいと思います。尚、巷には「精神科医は一切不要」とする「精神科医不要論」があるようですが、私はそういった考えには与しません。ただ、精神科の薬を止めたいといって受診する患者さんのなかには、たしかに「はじめからこんな薬、要らなかったのでは?」と思わざるを得ないケースがあるのは事実です。
元々私は谷口医院を開業する前から「薬(や検査)は最小限」と言い続けてきました。Choosing Wiselyという概念が登場したときに、すぐに飛びついたのも元々私が考えていたことと一致したからです。もっとも、こういう考えは私のオリジナルではなく、大学の総合診療の現場では以前から徹底されています。私が研修医の頃も、上司に自分が診た事例の報告をすると「その検査は本当に必要だったのか」「その薬はどうしても処方しなければならなかったのか」といったことを厳しく追及されました。
さて、精神疾患について。開業当初よりも現在の方が、私の処方量(処方する薬の量/精神症状の訴え)は減っています。そうなったきっかけはいくつかありますが、ここでひとつ挙げるとすると、以前のコラムでも紹介した2012年9月に起こった「目黒区社長夫人マイスリー息子殺害事件」です。当時42歳の社長夫人がマイスリーを飲み、意識がないなかで5歳の我が息子を殺めました。目と口をガムテープでふさぎ、ビニール紐で身体を縛り上げ、さらには家庭用ゴミ袋を二重に被せてガムテープで密閉したのです。
この社長夫人はマイスリー以外にもアルコールも飲んでいたと報道されていますが、アルコールなしでの高齢者によるレイプ事件も起こっています。2012年3月、明石市の総合病院で当時72歳の男性が深夜に女性部屋に忍び込み、当時87歳の女性に襲いかかったのです。
これらの事件が報道されてから、私はマイスリーを処方している患者さん、及びこれから処方する患者さんのほぼ全員に事件の話をしています。すでにマイスリーを飲んだことのある患者さんのなかには、「夜中に友達に電話していたことを翌日の携帯を見て知った」とか「朝起きるとお菓子を食べ散らかしていたことが分ったけど記憶がない」といったエピソードを話す人もいます。そして、必ずしもアルコールは伴っていません。
ベンゾジアゼピン系及びその類似薬品(マイスリーはこちらに入ります)は過去のコラム「本当に危険なベンゾジアゼピン依存症」などで述べましたから繰り返しませんが、ここでは「依存性の強い薬は安易に使うべきではなく、仮に使い始めたとしてもできるだけ早く離脱することを考えなければならない」という基本を確認しておきましょう。
では、すぐに効いて患者満足度の高いベンゾジアゼピン系を使わないとすれば、不眠や不安、うつ状態にはどのような治療をおこなえばいいのでしょうか。比較的副作用が少なく、依存性がない薬もいくつかあるので、必要があればそういった薬剤の処方をすることもありますし、代替として漢方薬を処方することもあります。けれども、今回は「薬以外」の方法を紹介します。
まずは「運動」が挙げられます。これは世界的に周知の事実で、例えば英国の国民保健サービス(NHS)も、米国のメイヨークリニックも、ハーバード大学も精神症状に対する運動を推奨しています。谷口医院の患者さんでも効果が出ていますし、診察室では「どのような運動を始めるか」について私が患者さんに助言しています。
今回のコラムでは、その「運動」と共に私が一部の患者さんに勧めている「将来のビジョンを描く」について紹介しましょう。これは「将来のビジョンを明確に描くことにより、不安感や抑うつ感を解消する方法」です。この方法を思いついたのは、谷口医院をオープンする前にタイで出会った当時40歳のうつ病を患っている男性との会話がきっかけです。そして、その話は過去のコラム「お金に困らない生き方~4つの秘訣~(前編)」でもしました。ここではもう一度、その男性のセリフを紹介しましょう。
「一生食べていける大金をもらえるか、安定した仕事に就けるなら、僕のうつ病はすぐに治ります。世の中のうつ病の大半は単にお金がないことが原因なんですよ……」
この男性の言葉に反論できる人はどれだけいるでしょう。もちろんお金があれば何もかも解決するわけではありませんし、この説は飛躍しすぎています。ですが、お金があれば「この先食べていけるか不安……」という悩みは解決しますし、将来病気を患って頼れる人がいなかったとしても、ある程度のお金があればたいていはなんとかなります。
けれども、例えば「現在の仕事は辛くて続けられない」「仕事は続けたいけどあの上司の下ではこれ以上働けない」「履歴書をいくら送っても仕事にありつけない」といった場合はどうでしょう。仕事がない、あるいは失うかもしれない、といったときに抑うつ感や不安感がゼロでいられる人はそうはいないでしょう。こんなときに気分がすぐれないからといって向精神薬を内服して問題が解決するでしょうか。
それならば、たとえ現状が苦しくても、不安感や抑うつ感や不眠に苦しめられながらでも将来のビジョンを思い描く方がずっと健全です。私がよく患者さんに問いかける言葉は、「5年後にはどんな生活をしていたいですか?」というものです。「同じ職場にいたいですか?」と聞くと、半数以上の人は「できるなら別のことをしていたいです」と言います。そこで、「それを実現するには1年後にはどのようなことができるようになっている必要があるでしょう」、さらに「では1年後そうなるためには今日からできることは何かありませんか?」と聞きます。ここまでくると、不安や抑うつ感を感じているヒマなどない、という考えに至る人もいます。
高齢者の場合は「あなたはいくつまで生きる予定ですか?」と聞くこともあります。このような質問は、患者医師関係が構築できてからにすべきですが、ときには初診時に尋ねることもあります。次に「ではそれまでにやりたいことを全部やるようにしませんか」というふうに話をもっていきます。そもそも、高齢者に対してはよほどのことがない限り、向精神薬を使うべきではありません。もちろん、それ以外の薬も安易に使うべきではありません。健診の結果が少々基準から離れていても必ずしも薬が必要になるわけではないのです。すぐに「検査、検査」という人がいますが、谷口医院では「検査はいつも最小限」を徹底しています。ですから、特に高齢者の場合、初診時には診察代のみとなることも多々あります。
この「将来のビジョンを描いて精神状態を健全に保つ」という方法、スランプに陥った精神状態を改善させるだけでなく、人生に元気と勇気を与えてくれます。現状に満足できていなくても、将来に明るいビジョンを持つことさえできればなんとかやっていけるものなのです。
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|2022年7月10日 日曜日
2022年7月 世界から戦争をなくす方法
たしか20代の頃、なにかの雑誌で「世界で戦争がなかった日は〇〇日しかない」という内容のコラムを読んだ記憶があります。この出処は思い出せず、ネット検索をしても出てこないので詳しいことは分からないのですが、このコラムの著者は「人間は世界のどこかでほぼ毎日戦争をしている(愚かな生き物だ)」ということを皮肉りたかったわけです。
シリア、イエメン、アフガニスタン、パレスチナ、イスラム国、スリランカ、ミャンマー、エチオピア、ウクライナなど、21世紀になってからも世界のどこかで戦争または内戦が繰り広げられ、21世紀になってからは「戦争がなかった日」はおそらくゼロだと思います。
人類の歴史が始まって以来、世界のすべての地域で平和だった時代などほぼないのではないでしょうか。いわば人類の歴史は戦争の歴史でもあるわけです。ということは、人間とは「戦争が好きな生き物」、それが言い過ぎだとしても「戦争を避けられない生き物」くらいは言えるでしょう。
しかし、私は人類が「戦争をしない生き物」になることは可能だと考えています。太古から変わらなかった「戦争を避けられない」という歴史を塗り替えることなどできるはずがない、とほとんどの人は考えるでしょうが、戦争を「過去のもの」にすることができる方法があります。今回はその考えを披露したいと思います。
世界から戦争をなくす方法、それは「空港とLCCの拡充」です。これでは訳が分からないと思うので解説していきます。
例えば、これから日本が韓国やアメリカと戦争を起こすことはあるでしょうか。私はないと思います。では、日本と北朝鮮ならどうでしょうか。私はあり得ると考えています。この違いはどこにあるのかというと、日本と韓国、日本とアメリカは人の動きが活発で互いに深い交流があるからです。この交流の大きさは太平洋戦争の時代とは雲泥の差です。
90年代初頭、韓国人が日本を訪れることは容易ではありませんでした。それどころか、韓国内では日本の書籍や音楽を入手することは極めて困難で、日本の文化に触れるには大型図書館などに出向かなければなりませんでした。
私はこの頃に来日した韓国人の若い女性と話をしたことがあります。過去のマンスリーレポート「外国を嫌いにならない方法~韓国人との思い出~」でも述べたのでここでは詳しくは繰り返しませんが、その女性は「大阪や東京というのは、ヤクザが跋扈(ばっこ)した街で、若い女性は決してひとりで歩いてはいけない。男性から声をかけられるようなことがあれば直ちに逃げないといけない」と聞かされていたと話していました。
今やソウルやブサンに1泊2日で行く日本人もいるほどです(私も1泊で行ったことがあります)。こんなにせわしないプランで来日する韓国人は知りませんが、それでも日本と韓国はお互いに気軽に行ける国になり、友達や恋愛のパートナーが韓国人という日本人も少なくありません。過去の微妙な”歴史”の話から仲違いした日本人男性と韓国人女性のカップルの話は過去のコラム「インド人の詐欺と外国人との話のタブー」で紹介しましたが、それだけで相手のことを憎むようになるわけではありません。
外務省によると、コロナ流行前の2018年、渡米した日本人は約350万人、韓国には約300万人が渡航しています。中国には270万人、タイは165万人です。これだけ人の行き来があると、渡航先の国で友人ができ、なかには恋愛関係に発展することも大いにあります。「アメリカの奴らは日本人と違って……」「韓国人は……」といった否定的な言葉を事前に聞いていたとしても、実際に行ってみれば「同じ人間で、仲良くできるんだ」ということが分ります。
では、北朝鮮の人たちは日本人のことをどのように思っているでしょうか。私が90年代初頭に話をした韓国人女性のように、「日本人は冷酷で仲良くなれない」と思っている人たちが多いのではないでしょうか。
私はウクライナにもロシアにも行ったことがありませんが、今回の戦争が始まる前、ウクライナ人とロシア人の交流はそれほどなかったのではないでしょうか。ウクライナは裕福な国ではなく、一人あたりのGDPが4千ドルに届きません。ロシアは1万ドルほどだったと思いますが今やロシアはかつての共産主義国ではなく貧富の差が大きな国です。ということは、平均的なウクライナ人と平均的なロシア人が頻繁に相手国に行き来して友達が多い、ということは考えられません。プーチン大統領が「ロシア軍はウクライナ市民を救うために戦争をしている」などというデタラメなプロパガンダをロシア国民に主張できるのも、大半のロシア人がウクライナ人を知らないからです。
イギリスとフランスは歴史上何度も戦争をしていますが、これから起こることはないでしょう。それは、交通の発達ですでに両国を行き来して互いの国に友達や恋人がいるという人が大勢いるからです。日本と韓国は、まだまだ英仏ほどの関係には達していませんが、コロナが終わり、両国の、特に若者が互いの国を行き来する機会が増えれば、戦争が起こることはないと思います。
ならば、世界中の、特に若者が(戦争で駆り出されるのは若者です)、全世界を飛び回って各国で友達をつくるようにすれば、国と国との戦争が起こるリスクはぐんと低くなります。そのためには、出入国の手続きを簡単にして、渡航の費用を安くする必要があります。よって、空港を拡充して、LCCの便を増やせば戦争が起こらない、というのが私の理屈です。
日本と北朝鮮が戦争を起こすリスクを回避しようと思えば、十万人くらいの単位で学生の交換留学を促進すればいいのです。若い学生どうしが時空間を共有すれば、自然に友情や愛情が生まれます。若者どうしの交流が活発化すれば、それは上の世代にも伝播していきます。そうなれば戦争は起こり得ません。もっとも、北朝鮮トップの御仁はこのような案は即却下するでしょうが。
人間というのは奇妙な生き物で、集団で行動すると、他の集団のメンバーと争いごとを起こす一方で、自分たちとは背景の異なる他の集団のメンバーに対して興味をもち、友情や愛情を発展させます。そして、集団どうしが対立するときには、必ず「相手が悪で自分たちが正義だ」という大義名分をつくりだします。だから、集団のリーダーは「自分らが正しいんだ」というプロパガンダをメンバーに植え付けようとするわけです。
これに抗うには、そういうリーダーの馬鹿げたプロパガンダが広まる前に、集団の各メンバーが相手側の集団のメンバーと積極的に交わるようにすればいいのです。過去のコラムでも述べたように、我々は「〇〇国の人の性格は……」という話が好きでたいてい盛り上がります。日本人どうしの「△△県出身者は……」という話と同じです。しかし、もちろんどこの国にも地域にもいろんな人がいます。「〇〇国の人は……」という話は”ネタ”にとどめておいて、世界中の若者がいろんな地域に行って自分で確かめるようにすればきっと世界は平和になります。
そのためにはコロナにはそろそろ大人しくしてもらって、我々人間は空港とLCCの拡充に努めるべきです。コロナの影響もあって現在世界的な不況が訪れようとしていますが、私が政治に携わる立場にいれば、自国はもちろん他国にも働きかけて旅行業界に大型投資を仕掛けます。不況から抜け出すことが期待できるだけでなく、世界中で若者の交流が活発になり国際間の友情や愛情が芽生えることにより、きっと世界に平和が訪れるからです。
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|2022年7月3日 日曜日
2022年7月4日 東アフリカでは2千万人が飢餓
「医療ニュース」のほとんどは、医学誌に掲載された新しい論文を紹介することが多いのですが、今回は一般紙の社会ニュースに掲載された記事を取り上げたいと思います。
結論からいえば、現在世界は大変なことになっていて「救える命が救えない」状態です。
「The New York Times」2022年6月12日に掲載された記事「『あの子を埋葬し、歩き続ける』餓死するソマリアの子供たち(’We Buried Him and Kept Walking’: Children Die as Somalis Flee Hunger)https://www.nytimes.com/2022/06/11/world/africa/somalia-drought-hunger.html」によると、現在東アフリカでは干ばつが進んでいて、その結果、食料が不足し、2022年末までにケニア、エチオピア、ソマリアの三国で最大2千万人が飢餓に苦しむと試算されています。
記事によれば、ソマリアの人口は推定1600万人で、そのうち約700万人が深刻な食料不足に直面しています。ユニセフの報告によれば、2022年に入ってから少なくとも448人の子供が重度の栄養失調で亡くなっています。
なぜこの地域では食料が不足しているのか。最大の原因は干ばつです。調査機関によれば、ソマリアでは2021年の中盤からすでに300万頭の家畜が死んでいます。ソマリアは、度々干ばつの被害に苦しんでいます。2011年には干ばつによる死亡者数がなんと26万人にも上りました。そして、今回の干ばつは来年(2023年)まで続く見通しです。
尚、欧州紙「Euronews」に2022年6月14日に掲載された記事「サイレントキラー:熱波に備えれば毎年数千人の命を救うことができると赤十字が警告(’Silent killers’: Preparing for heatwaves could save thousands of lives every year, warns Red Cross )」によると、毎年世界では48万人もが熱波が原因で死亡しているそうです。
さらに、食料不足の要因は干ばつだけではありません。ウクライナ戦争が影響を及ぼしているのです。つまり、ウクライナやロシアから小麦が輸入できなくなったことで食力不足に拍車がかかっているのです。
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食品ロスが社会問題となっているこの国で暮らす者としてはどう考えればいいのでしょうか。
さらに、我が国の医療費について考えてみましょう。
脊髄性筋委縮症の治療薬ゾルゲンスマ(注射薬)は1本1億6707万7222円です。以前に比べると随分安くなったとはいえ、がんの治療薬のオプジーボは1人あたり年間1千万円以上します。
ちなみに、ソマリアの一人当たりのGDPは1,815ドル(約20万円)です。
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|2022年6月30日 木曜日
2022年6月30日 乳製品の摂り過ぎは前立腺がんのリスクか
「乳製品は前立腺がんと乳がんのリスクを上げるのではないか」という問題は以前から議論になっていました。最近、「乳製品は前立腺がんのリスクを上げる」という報告が出ましたので報告します。
医学誌「The American Journal of Clinical Nutrition」2022年6月8日号に掲載された論文「『Adventist Health Study-2』における乳製品、カルシウム摂取量、および前立腺がんの発症リスク(Dairy foods, calcium intakes, and risk of incident prostate cancer in Adventist Health Study-2 )」の紹介です。
研究の対象者は、米国とカナダのセブンスデー・アドベンティスト教会の男性信者28,737人で、平均7.8年間の追跡調査期間中に合計1,254人が前立腺がんを発症しました。うち190人は進行がんでした。
乳製品の摂取量が上位1割の男性は下位1割に比べると、前立腺がんのリスクが27%上昇していました。上位1割の男性は、乳製品をまったく摂らないグループと比べると62%も上昇していました。
発がんの原因が乳製品に含まれるカルシウムにあるのか、とった点も検討されています。乳製品以外でのカルシウム摂取量が少ないグループと多いグループの間で発がんリスクの差は認められませんでした。ということは、乳製品が前立腺がんのリスクを高めるのは、乳製品に含まれるカルシウム以外の成分が原因ということになります。
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研究の対象となったセブンスデー・アドベンティスト教会は、過去のコラム「メディカルエッセイ第126回(2013年7月)我々はベジタリアンの道を進むべきか」でも紹介しました。同協会では菜食主義が勧められており、信者にはビーガン(肉魚だけでなく、卵も乳製品も一切摂らない菜食主義者)も少なくありません。
この論文を読めば、「乳製品を止めようかな……」と思う人もいるかもしれませんが、そう思い込むのは早そうです。論文で紹介されている乳製品摂取上位1割は1日あたりの摂取量が430グラムにもなります。一方、国立健康・栄養研究所によると、日本人男性の乳製品摂取量の平均は166.1グラムと4割以下です。
乳製品はカルシウムを効率よく摂ることができるだけではありません。蛋白質も効率よく摂取できる貴重な食品です。よって、極端に摂りすぎなければむしろ健康及び長生きに寄与する食品と考えるべきです。
ところで、乳製品は乳がんのリスクになるという説もありますが、現在ではほぼ否定されています。日本乳癌学会は、乳製品摂取はむしろ乳がんのリスク低下になるとしています。
尚、前立腺がんは男性にしか起こりませんが(女性は持っていないのですから)、乳がんは女性だけでなく男性にも起こります(男性にも乳房はありますから)。乳がんのリスクが喫煙、アルコール、糖尿病であることをここで確認しておきましょう。
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|2022年6月12日 日曜日
第226回(2022年6月) アトピーの歴史は「モイゼルト」で塗り替えられるか
「はやりの病気」でアトピー性皮膚炎(以下、単に「アトピー」)を取り上げる機会がここ数年で増えてきています。その理由はいずれも「画期的な新薬が登場した」からであり、今回もまた新たな新薬が登場したが故に再び取り上げることにしました。
今回はその新しい薬「モイゼルト軟膏」の話をする前に、「アトピー性皮膚炎の治療の歴史」をまとめておきましょう。
1999年まで:ステロイドしかなかった時代
1999年:タクロリムス軟膏登場
(2007年:当院開院)
2008年:シクロスポリン登場
2018年:デュピクセント®(注射)登場
2020年:コレクチム®軟膏登場
2020年:オルミエント®登場
2021年:リンヴォック®登場
2021年:サイバインコ®登場
2022年:モイゼルト®軟膏登場
まず、1999年までは効果のある薬はステロイド外用くらいしかありませんでした。そのため、「ステロイドを塗ればよくなるけれどもやめれば悪化する。そしてそのうちに取り返しのつかない副作用に悩まされる……」ということが多かったのです。
私の見解を言えば、ステロイドによる最も多い副作用は「酒さ様皮膚炎」です。顔面の、特に鼻や鼻の周囲、頬部、口の周りに赤い炎症が起こり、これが治らないのです。酒さ様皮膚炎は比較的少ない量のステロイドでも起こり得ます。さらに進行すると、全身の皮膚が薄くなり、そんなに強い力を加えなくても皮膚に触れると皮がめくれるようになります。ここまでくるとどうしようもありません。
1999年までは(それ以降も)ステロイド以外の治療としていろんなものが試みられましたが、私の印象で言えば、一部の漢方薬を除けば有効といえる薬はほぼありません。漢方薬も、効く人もいるけれど効かない人の方が多い、といった感じで、おおざっぱにいえば(患者さんには失礼な言い方ですが)1999年までのアトピーは「どうしようもない病気」だったのです。そういう背景もあり、多数の民間療法やアトピービジネスが蔓延しました。
タクロリムス(先発の商品名は「プロトピック」)は画期的な製品でした。なにしろ「もうステロイドを使わなくてもアトピーを治すことができる」という噂が広がり、「夢の薬」という声もあったほどです。
けれども、実際には当初期待されていたほどには普及しませんでした。この経緯については2011年のコラム「アトピー性皮膚炎を再考する」にも書きましたが、ここでもポイントだけを振り返っておくと、「タクロリムスを使えない」という人は「タクロリムスを始める地点にまだ立っていない」のです。
強い炎症を取ることができるのはステロイドを置いて他にはありません。ですが、どれだけ重症であっても、ステロイドを1週間も外用すればまず間違いなく症状をゼロにできます。そして、この状態になって初めてタクロリムスの出番となります。その後は、タクロリムスを適切に使用すればステロイドはその後(頭皮以外は)不要となります。
ではタクロリムスは塗るタイミングを誤らず、その後適切に塗っていれば、もう何も心配ないのかと言われれば、そういう人も多いのですが、そうでない人もいます。「感染症のリスク」があるからです。若い人の場合、タクロリムスでアトピーの再発を防げたとしても、ニキビ、ヘルペス、脂漏性皮膚炎といった病原体が関与する疾患が生じることがあります。
特にニキビは厄介で、元々ニキビ肌ではないのに、タクロリムスを使用し始めたがために発症するようになり、そのためにニキビの予防薬を外用しなければならなくなったという人もいます。すると、皮膚症状がまったくないのに、アトピーの再発予防目的でタクロリムスを外用し、そのタクロリムスの副作用で生じ得るニキビを防ぐためにニキビの予防薬を塗らなければならなくなります。これはかなり面倒くさいことです。
少し補足しておくと、ニキビ予防に保険診療で処方できるのはディフェリンゲルとベピオゲル(いずれも商品名)で、発売されたのはそれぞれ2008年10月、2015年4月です。これらが発売されるまでは有効なニキビの予防薬もなく、そのため谷口医院では、ディフェリンを海外から輸入して処方していました。尚、アゼライン酸(商品名AZAクリア)も優れたニキビの予防薬ですが、なぜか日本では化粧品扱いとなり保険適用はありません。
アトピーには極めて有効だけれど、ニキビなどの感染症のリスクとなるというのはタクロリムスの欠点と言えます。そして、この問題をほぼ克服したのが2020年6月に発売となったコレクチム(商品名)です。コレクチムもJAK阻害薬と呼ばれる免疫抑制剤の一種であるため、ニキビなどの感染症の発症が懸念されていたのですが、発売前の調査では頻度は少なく、また発売後の市場調査でもそれほど多くありません。谷口医院の患者さんを診ていてもコレクチムがニキビで使えないというケースはほぼ皆無です。タクロリムスとコレクチムは作用メカニズムがまったく異なりますが、イメージでいえば「コレクチムはタクロリムスの欠点を克服した薬」です。
そして、2022年6月1日、そのコレクチムに続く外用薬「モイゼルト軟膏」が発売となりました。この薬も作用メカニズムは、タクロリムスやコレクチムとはまったく異なります。3種のなかでは免疫抑制作用が最も弱く、副作用も最も少ないことが予想されます。ただ、実際にはコレクチムの患者満足度がかなり高いために、モイゼルト軟膏はそれほど広がらない可能性もあります。
ですが、待望の新薬ですから谷口医院では発売された6月1日以降、コレクチムかタクロリムスを使用している(ほぼ)すべてのアトピーの患者さんに、モイゼルト軟膏を「お試し」というかたちで処方しています。本稿執筆時点(6月12日)でその後再診された患者さんは2人います。「コレクチムvsモイゼルト」の印象を尋ねると、コレクチム派が1人、モイゼルト派が1人と意見が別れています。
ところで、アトピーの新薬という話になると、学会では過去のコラム「アトピー性皮膚炎の歴史が変わるか」、「アトピー性皮膚炎の歴史を変える「コレクチム」」で紹介したような、高価な薬が取り上げられます。3割負担で年間50万円から100万円もするこういった薬、効果が高ければいいではないかという人もいるでしょうが、副作用のリスクが高すぎて安易には使えません。
これら過去のコラムでも述べたように、いずれも免疫抑制作用が強すぎるのです。ここで、冒頭で述べた「歴史」に戻りましょう。実は2008年にシクロスポリンという極めて効果の高い内服薬がアトピーに使われるようになりました。しかし普及したとは言えません。その最大の理由は「副作用が強すぎて使えない」です。強力な免疫抑制作用があるために、感染症、さらには悪性腫瘍のリスクが上昇するのです。
では、2018年に発売されたデュピクセント、2020~21年に使用できるようになった3種の内服薬はどの程度のリスクがあるのかというと、少なくとも添付文書上のリスクはシクロスポリンとほとんど同じです。「生ワクチンが接種できない」はすべてに共通しています。シクロスポリンの添付文書には、いったん治ったB型肝炎ウイルスの活性化、敗血症、悪性リンパ腫や他のがんのリスクなどが記載されていて、これらはオルミエント、リンヴォック、サイバインコのものにも同様の注意が書かれています。また、これら3種の内服薬の添付文書には結核のリスクについても言及されています。
つまり、現在学会などで盛んに取り上げられ、各製薬会社が資金を投入してPR活動をしているデュピクセント、オルミエント、リンヴォック、サイバインコは、副作用のリスクが高すぎて普及しなかったシクロスポリンと、同等とまではいえませんが、同じようなリスクがあり、また費用は驚くほど高いのです。
というわけで、今後のアトピー性皮膚炎の治療は「タクロリムス、コレクチム、モイゼルトの3種の外用薬を、効果、費用、副作用の3点に注意しながら各自それぞれの方法で使い分けていく」ということになるでしょう。
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|2022年6月12日 日曜日
2022年6月12日 「16時間断食ダイエット」に効果なし
数年前から世界的に「16時間断食ダイエット」が流行しています。これは、24時間のうち連続16時間は何も食べないようにすれば体重が減っていくという夢のようなダイエット法です。例えば、午後8時から翌日の正午までの16時間何も食べなければ正午から午後8時には無制限に何を食べても減量できるというのです。8時間の間は好きなものをいくら食べてもいいというのですから試さない手はないと考えた人も多いのではないでしょうか。
しかし、結論から言えばこのダイエットはどうも有効ではないようです。
医学誌「The New England Journal of Medicine」2022年4月21日号に「カロリー制限をしたときに時間制限を併用するときとしないとき(Calorie Restriction with or without Time-Restricted Eating in Weight Loss)」という論文が掲載されました。
研究の対象者は139人で、ランダムに2つのグループに分けられました。一方は、カロリー制限に加え時間制限(食事をしていいのは午前8時から午後4時まで)もおこない、もう一方はカロリー制限のみをしました。
結果、時間制限を加えたグループでは平均8㎏、カロリー制限単独のグリープでは6.3kgの体重減少が認められました。8㎏と6.3kgですから、時間制限に効果があったのかと思えますが、統計学的には有意差と呼べる差ではありませんでした。
また、腹囲や体脂肪、血圧などにも差異はありませんでした。
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残念な結果ですが、現実は現実として受け止めるほかありません。ただ、まったく無効というわけではないと思います。太融寺町谷口医院の患者さんでいえば、このダイエット法を実践している人のほとんどはある程度は効果が出ています。
その理由はおそらく「寝る前に食事(やお菓子)を摂らなくなったから」、という単純なからくりではないかと思われます。
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|2022年6月9日 木曜日
2022年6月 「若者の命」を考えれば戦争は防げるか
戦争ほど愚かなことはない、と当たり前のように学んできました。人類の歴史は戦争の歴史でもあるわけですが、それでも2つの原爆を落とされ、300万人以上が犠牲になった太平洋戦争を経験した日本人は二度と戦争をしないと子供の頃から言い聞かされてきました。
戦争をしかけるのが罪だというのなら、当時日本のために頑張った日本の軍人は犯罪者なのかと問うてみると、「それは時代を考えると仕方がない」というような答えが必ず返ってきました。では、「次に戦争が起これば自衛隊員は犯罪者になるのか」という質問に対してはどうでしょう。「日本は戦争をしない……」と苦し紛れに誰かが言っていたような気がします。
太平洋戦争の空襲や原爆のフィルムを何度か見ましたが、直接人が人を殺すシーンを見たことはありません。私の幼少時にはまだ続いていたベトナム戦争でも殺戮シーンを見たことはありません。ソ連がアフガニスタンに侵攻したアフガニスタン紛争は私が小学校5、6年生のときでしたからニュースでみた記憶はありますが、人が直接人を殺めるようなシーンは見ていません。
1990年の湾岸戦争も空爆シーンは何度もテレビで見ましたがやはり人が人を殺すような映像はありませんでした。1994年のルワンダでのフツ族がツチ族を大量虐殺した事件は想像するのも苦痛ですが、直接現場を知っているわけではありません。
その他、物心がついてからリアルタイムで報道されていた戦争はいくつかありますが、ある人間が目の前の人間を銃やナイフで次々と殺害するシーンは直接見たことはありませんでした。そういうシーンを想像できるのは、映画やテレビでそのようなシーンに見覚えがあるからです。
ところが、2022年2月にロシアの一方的な侵攻で勃発したウクライナ戦争ではスマホとSNSのおかげで、死体の写真や人が人を殺害する瞬間のビデオなどが世界中に広く拡散しています。欧米の大手メディアもこのような映像を紹介していますから、殺害シーンがどうしても目に入ってしまいます。映像をみればあきらかなように、戦争の犠牲になっているのはほとんどが若者です。
最近の米国をみてみましょう。2022年5月14日はニューヨーク州バッファローのスーパーマーケットで、その10日後の24日には米国テキサス州ユバルディの小学校で、いずれも18歳の青年による銃乱射事件が起こり、ニューヨークでは10人、テキサスでは21人(うち19人は児童)が犠牲となりました。6月1日には、医師の治療に満足できなかった男性がクラホマ州タルサでの病院の敷地内で銃を乱射し4人が死亡し自身は自殺しました。報道によると、この事件は今年(2022年)米国で起こった233番目の銃乱射事件になるそうです。
このように戦争や無差別事件が頻繁に起こっているのが人類の歴史であることを考えると、人が人を殺すことはそう難しくないのかもしれないと思えてきます。平和な日本で育った我々は、まさか生涯のうちに自分が人を殺すことがあると考えている人は(たぶん)ほとんどいないと思いますが、状況が変わればまた我々の考え方も変わるのかもしれません。
2022年4月のマンスリーレポート「「社会のため」なんてほとんどが偽善では?」では、あさま山荘事件を取り上げ、左翼(赤軍派と革命左派からなる連合赤軍)による集団リンチ殺人について述べました。この事件が起こったのは1972年2月で、その3か月後の5月30日にはイスラエルで「テルアビブ空港乱射事件」が起こりました。
テルアビブ空港で起こった銃乱射事件は合計26人の命を奪いました。犯人は3人の日本人です。(後に日本赤軍となる)犯人らの目的は「革命のため」ということなのでしょうが、それにしてもイスラエルとパレスチナの紛争になぜ日本人が加担できたのか、しかも何の罪もないイスラエルの人々をなぜ無差別に殺すことができたのか私には謎です。しかも、「左翼」というのはどちらかというと武力に訴えることを避ける思想を持っていたのではなかったでしょうか。あさま山荘事件の集団リンチと同様、左翼の輩の方が右翼的な思想よりもはるかに暴力的で危険です。
つまり、(右であろうが左であろうが)人間の社会ではいつ戦争が始まるか分からず、同じ民族であろうが、隣人であろうが平気で人を殺すことができ、銃を使って一気に見知らぬ人を犠牲にすることもできるのが人間の真実なのかもしれません。
では、私にもそのときが来れば人を殺すことができるのでしょうか……。できません。たとえ、そのような状況になれば他人を殺すことができるのが人間の性(さが)であったとしても私にはできません。それはなぜなのか。おそらく、これまで医師として、人の、特に若い人の死をみてきたからです。病気で、事故で、若い生命を救えなかったことは日本の病院でも経験していますが、私の場合は2002年及び2004~5年にかけて赴いたタイのエイズ施設でみてきた「死」に多大な影響を受けています。当時のタイではまだ抗HIV薬が充分に使えずに、HIV感染は「死へのモラトリウム」を意味していました。そして、実際、若い命が毎日のように奪われていたのです。
高齢者にも自分の運命を受け入れることができない患者さんがいますが、私の経験でいえば、若くしてエイズを発症し末期になった人の多くは死を受容できていませんでした。自力での水分摂取も困難となり、もうあと一日もつかどうかわからないといった段階になってもそれでもなお死を受け入れられず「助けて……」とか細い声で私の腕に触れようとする患者さんもたくさんいました。
「命は平等」という言葉がありますが、私はそうは考えていません。私には高齢者の命よりも若者の命の方が大切に感じられます。さらに、誤解を恐れずにいえば、物心がまだついていない赤ちゃんよりも自我を認識できるようになった年齢の若者の命の方が大切です。若者の命が簡単に失われるようなことはあってはならないのです。
だから、戦争をすることや、人が人を殺すことが人間の性(さが)だとしても、私にはまだそれを阻止する方法が残っていると信じています。その方法とは、世界中で徹底的に「若者の死」についての教育をおこなうことです。
現在ロシアはウクライナをネオナチになぞらえて国民を洗脳していると言われています。ロシア軍はネオナチに迫害されているウクライナの民間人を救うために戦っているんだと国民に納得させれば国民の支持が得られると考えているのでしょう。戦争には大義名分が必要なのです。しかし、「戦争とは若者を容赦なく殺害すること」であることを再認識すればそのような洗脳には騙されなくならないでしょうか。
ウクライナ側からみたときも、攻めてくるロシア兵を殺せるだけ殺すのではなく、白旗を挙げ降参している敵兵の命は守ることを考えるべきです。もしも私がロシアかウクライナで医師をしているとすれば、戦争は若者の命を奪うことであることを両国の国民に訴えかけます。私は戦争を阻止するキーパーソンは医療者ではないかと考えています。医師だけが命の大切さを知っているわけではありませんが、医師は若者の不遇な死を繰り返し経験しているからです。
けれども、この私の主張には説得力がないかもしれません。先述したテルアビブ空港乱射事件の主犯格の奥平剛士の(戸籍上)の妻は最近刑期満了で出所した重信房子です。重信の帰国後の潜伏を手助けしていた一人は若い頃に学生運動に傾倒していた医師です。この医師は重信の秘匿の罪で医師免許を剥奪されましたが、その後再び医師免許を取得し(おそらく現在も)医療を続けています。戦時下の九大医学部の医師たちは生きた若い米兵を実験の材料にしました。満州では731部隊が捕虜の中国人やロシア人の若い男女に想像を絶するような人体実験を繰り返し、最大では3千人以上の命を奪ったと言われています。
こういった事件を考えると、医師だから若い命の大切さを知っているなどと主張すれば噴飯ものだと言われるかもしれません。ですが、それでも「若い命は大切だ」と私は言い続けるつもりです。
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|2022年5月26日 木曜日
2022年5月26日 胃腸の病気と片頭痛の関係
総合診療を実践する太融寺町谷口医院では2007年の開院当初から「健康上のことで困ったことがあれば何でも相談してください」と言い続けています。そのため、一人の患者さんがいくつもの症状の悩みを話されます。アトピーと花粉症と喘息というのは最も多いパターンのひとつですが、これは「共通のアレルゲンが複数の症状をもたらす」わけですから当然と言えば当然です。また、不眠と頭痛、抑うつ感と下痢、なども精神症状が持病を悪化させることはよくあるわけでこれも当然です。
ですが、じんましんと倦怠感、とか、関節痛と便秘、となると関連があるのかないかがすぐには判断できません。そのようなよくある組み合わせの一つに「頭痛と下痢」というものがあります。そして、これはどうやら関係がありそうです。
医学誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」2022年3月28日号に「胃腸疾患と片頭痛との関連(Association between Gastrointestinal Diseases and Migraine)」という興味深い論文が掲載されました。結論から言えば、「胃腸疾患と片頭痛には関連がある」ということを韓国のこの研究は示しています。
研究は、通称「HIRA」と呼ばれている「健康保険審査評価サービス(Health Insurance Review & Assessment Service)」のデータが用いられています。韓国の保険制度は日本と同様、国民皆保険、つまり韓国民の(ほぼ)全員が加入しています。つまり、このデータベースにアクセスすれば、すべての国民の健康状態が把握できるというわけです。
このデータベースから、片頭痛または胃腸疾患の診断が年に2回以上認められた患者781,115例が解析の対象とされました。胃腸疾患は、消化性潰瘍、消化不良、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、胃食道疾患が選ばれました。
解析の結果、1つ以上の胃腸疾患があれば片頭痛の発症が約3.5倍高くなることが分かりました。さらに胃腸疾患の数が増えるほど、片頭痛の発症率が高くなることも分かりました。
反対の視点からみると、片頭痛の予防薬及び急性期の治療薬(鎮痛剤)の双方を使用していると、予防薬か急性期の治療薬のどちらかだけを使用している場合よりも胃腸疾患に罹患していることが多いことも分かりました。
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補足しておくと、片頭痛の予防薬と急性期の治療薬の双方を使用しているということは、それだけコントロール不良、つまり重症の片頭痛ということです。
重症の片頭痛があれば重症の胃腸疾患がある、という現象は珍しくありません。おそらく、自律神経系の不調がベースにあるのでしょう。片頭痛も胃炎も過敏性腸症候群もストレスだけでは発症しませんが、ストレスが増悪因子になるのは確実です。
谷口医院が開院して今年で16年目です。次第に、複数の症状を訴える人が増えてきています。というより、谷口医院を長年かかりつけ医にしている人はたいていは複数の症状・疾患の相談をされます。
やはり、人間を診るのはトータルでなければならないのでしょう。総合診療はこれからさらに普及することを私は確信しています。
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|2022年5月16日 月曜日
第225回(2022年5月) 意外な食物アレルギーと仮性アレルゲン
食物アレルギーを疑って受診する患者さんが一向に減りません。年々増えているのが「野菜・果物」ですが、それだけではありません。魚も肉もピーナッツも豆乳も増えています。このコラム(「はやりの病気」)で最近取り上げた食物アレルギーを改めて振り返ると、自分で書いた文章でありながらこんなにも多いのかと驚かされます(下記参照)。今回は最近多い食物アレルギーを紹介し、さらにこれまで取り上げていなかった「仮性アレルゲン」についてポイントをまとめておきます。
食物アレルギーを疑って、最初に谷口医院を受診する人はそう多くありません。たいていは他のクリニック(皮膚科が最多)を受診して「診断がつかなかった」、あるいは「前医での説明がよく分からず、結局食べ物を避けるべきかどうか分からない」という訴えで受診されるのがよくあるパターンです。ちなみに、食物アレルギーに関わらず、谷口医院ではこのパターン、つまり「前医で診断がつかなかった」という受診動機が(口コミでの受診を除けば)ほとんどです。
「前医の検査でよく分からなかった」という患者さんにその検査結果をみせてもらうとセット検査がされていることが多々あります。MAST36などと呼ばれるIgE抗体のセット検査が一例です。この検査は「絶対に受けてはダメ」とまでは言いませんが、精度がそれほど高くなく、ほとんどのケースで余計なものも含まれていますから、谷口医院では原則として実施しません。
もっとひどいのが”遅延性食物アレルギー”などと謳い、血中IgG抗体を調べているケースです。これは過去に何度も指摘しているように、食事を摂れば誰もが上昇する可能性のある指標であり、はっきり言うと詐欺のようなものです。こんなものに騙されて、要らない食事制限をするような馬鹿げたことは止めなければなりません。
では具体的なアレルギーの話をしましょう。「それなりに重症化+前医で診断がつかず」で最近増えているのは「香辛料のアレルギー」です。この診断がつきにくいのは、食物アレルギーを疑ったときには直前に食べたものを考えるわけで、その原因がその料理に使われていた香辛料だとはなかなか思わないからです。
もうひとつ理由があります。香辛料は、谷口医院の経験でいえば、クミン、コリアンダー、コショーに多いのですが、これらの特異的IgEを調べることは(少なくとも通常の検査会社では)できません。よって、”推理力”を働かせない限りは、なかなか”回答”にたどり着けないのです。
では事例を紹介しましょう。
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【事例1】30代男性
カレーを食べた直後に全身の蕁麻疹を発症。あまりにも強いために夜間に救急病院受診。ステロイド点滴で改善。翌朝、近くの皮膚科クリニックを受診。「ナンとカレーを食べた」と言うとコムギアレルギーを疑われ検査を受けたが陰性だった。
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この男性は自身もコムギアレルギーを疑っていました。しかし、日ごろからパンやパスタを食べていると言います。コムギアレルギーには特殊型(運動誘発性アナフィラキシーなど)もありますが、そのようなエピソードはありません。カレーは好物で月に1~2回は食べていて、これまでは何ともなかったと言います。
そこで私は「どのような料理店か」を訪ねました。予想通り、本格的なインド料理屋で、料理人は全員インド人だそうです。花粉症のエピソードを訪ねると「ある」と言います。秋にも症状が出ることがあると言います。この時点で「クミンアレルギー≒ヨモギアレルギー」でまず間違いありません。案の定、ヨモギのIgEが陽性でした。
ここでよくある質問に答えておきます。「なぜカレーを食べても症状が出ないことがあるのか」という質問です。それは、本格的なインド料理屋では自然の状態に近い、つまり加工の度合いが低いクミンが使われているからです。アレルギーは感染症ではありませんから似ても焼いても起こりえますが、加工度が高ければ表面の蛋白質の形がかわり、アレルゲンになりにくくなるのです。
もう一例挙げましょう。
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【事例2】20代女性
創作料理屋でエビのアヒージョを食べた直後に呼吸苦と蕁麻疹を発症し救急車を呼んだ。エビを食べた直後に発症したためにエビアレルギーと考え、診察した医師も「そうだろう」と言っていたとのこと。翌日、近くのクリニックで検査を受けるとエビのIgE抗原が陰性だった。結局よく分からないために友達に聞いた谷口医院を受診。
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このケースで最初にエビアレルギーを疑ったことは間違いではありませんが、他のアレルゲンも考えなければなりません。よくあるのが、エビが原因だと思っていたら実際はエビに寄生していたアニサキスだったというパターンです。そこでアニサキスを調べることにしましたが、もう少し幅を広げて考えた方がいいかもしれません。詳しく問診すると、そのアヒージョにはパクチーが使われていたと言います。「パクチーアレルギー≒ヨモギアレルギー」です。結果は、アニサキスは陰性、ヨモギが陽性でした。
ヨモギアレルギーがくせ者なのは、ヨモギ花粉自体のアレルギー症状はたいしたことがない(あるいは検査では陽性となるが秋の花粉症の症状はないという人もいます)のに、香辛料のアレルギーは救急車を呼ばねばならないほど重症化することがあるからです。
過去のコラム「急増するPFAS(花粉食物アレルギー症候群)」でも述べたように、ヨモギのPFAS(花粉食物アレルギー症候群)として、ニンジン、セロリなどがあります。これらは「セリ科」の植物です(ヨモギはキク科)。そして、パクチー(コリアンダー)もセリ科、クミンもセリ科です。ヨモギアレルギーがあるとコショウに反応することもあるのですが、コショウは「コショウ科」で別のカテゴリーです。尚、コショウアレルギーのある人も日本の食卓に置いてあるようなコショウでは反応しません。本格的なタイ料理などで出てくる緑の丸い実(激辛!)で初めて発症するのです。
尚、ヨモギではなくシラカンバの花粉症があり、シラカンバのPFASとして香辛料にアレルギーがある場合があります。また、トウガラシやマスタードで起こることもあります。これらをまとめてさらに補足してみましょう。
・ヨモギ(キク科)かシラカンバ(カバノキ科)の花粉症があると、PFASを起こすことがある。
・セリ科の植物とこれらが似ている。セリ科の植物の代表はセロリとニンジン。パクチーもセリ科。
・香辛料のなかにはセリ科のものがあり、代表がクミンとコリアンダー(コリアンダーは通常粉末だが、元はパクチー)
・マスタードアレルギーはヨモギ、シラカンバのいずれでも起こる。コショウはヨモギを疑う。唐辛子はシラカンバを疑う。
さて、春先に増えるのがトマトアレルギーです。おそらく、スギの影響で身体がスギに敏感になり、スギのPFASを起こすトマトに反応しやすくなるのではないかと思われます。そして、ナスアレルギーも増えます。トマトもナス科ですからその関係かな、と思うのですが、それを記した文献が見当たりません。
そこで私はもうひとつの可能性を考えています。それが「仮性アレルゲン」です。仮性アレルゲンとは蕁麻疹の原因となるヒスタミンを多く含む食事を摂取したときに生じる蕁麻疹のことを言います。古い魚を食べると、魚の身に含まれているヒスチジンが細菌によりヒスタミンに変化して蕁麻疹を起こすことは以前紹介しました。「仮性アレルゲン」は細菌によるものではなく、元々ヒスタミンが多く含まれている食べ物を食べることで起こります。
そのヒスタミン(や類似物質)を多く含む食べ物の代表がナスなのです。他には、チーズ、ワイン、ホウレンソウ、タケノコ(あくの強いもの)、ヤマイモ、魚の開きなどが知られています。ややこしいのは、トマトにもヒスタミンは多く含まれていて、トマトを食べて蕁麻疹、というケースはスギのPFASなのか仮性アレルゲンなのか区別がつかないことです。治療法が変わるわけではないのですが、PFASなら次第に重症化していく可能性がありますからこの見極めは重要です。
食物アレルギーはいったん発症するとその人の人生を大きく変えることもあります。また、思い込みや間違った診断のせいで無駄な食事制限をしている人もいます。疑問がある人はかかりつけ医に相談しましょう。
はやりの病気
第196回(2019年12月) 「”遅延型食物アレルギー”と「遅発型食物アレルギー」」
第191回(2019年7月) 「複雑化する食物アレルギーと私の「仮説」」
第184回(2018年12月)「急増する「魚アレルギー」、寿司屋のバイトが原因?」
第173回(2018年1月) 「急増するPFAS(花粉食物アレルギー症候群)」
第166回(2017年6月)「5種類の「サバを食べてアレルギー」」
第157回(2016年9月)「最近増えてる奇妙な食物アレルギー」
第144回(2015年8月)「増加する野菜・果物アレルギー」
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