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2013年7月10日 水曜日
2011年1月14日(金) 2時間以上のテレビやパソコンは心臓病のリスク
テレビやコンピュータなどの余暇で1日に2時間以上を過ごすと全死亡と心血管疾患のリスクが大幅に高まる。しかも、そのリスク上昇は運動をしていても変わらない・・・。
このような研究がロンドン大学より発表されました。(論文は医学誌「Journal of the American College of Cardiology」の2011年1月18日号で発表されています。下記注を参照ください)
この研究は英国在住の35歳以上の男女4,512人(そのうち男性は1,945人)を対象としており、余暇で画面を見る時間が、2時間未満、2~4時間、4時間以上の3つのグループに分け、さらに中強度から高強度の身体活動を行っているかどうかも調べています。また、体重や、コレステロールなどの値、喫煙の有無、糖尿病や高血圧などの有無が影響を受けないように調節して解析を加えています。
調査期間中に死亡したのは325例、心血管疾患(心筋梗塞など)に罹患したのは215例でした。これらを分析した結果、運動の有無には関係なく、画面を見る時間が4時間以上のグループは、2時間未満のグループに比べて全死亡で1.48倍、心血管疾患は2.25倍にもなっていることがわかりました。2~4時間のグループも2時間未満に比べると有意にリスクが上昇しているようです。
この結果を踏まえて、研究者らは、心血管疾患予防のためには身体活動の改善に加え、余暇の坐位時間を制限するガイドラインを含んだ推奨を早急に行う必要がある、と提唱しています。
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運動しているかどうかに関係なく、画面の前に長時間座っているだけで心血管疾患のリスクが上昇するというのは意外なような気もします。運動の効力を過信しすぎてはいけないのでしょう。
尚、同じような研究結果を過去に紹介したことがあります。その研究でも、運動に関係なく長時間のテレビが寿命を縮めるという結果が導かれています。下記の医療ニュースを参照ください。
今回紹介した論文で分かりづらいのは、何をもって「余暇」とするかです。原文では、Screen-Based Entertainment Timeとなっていますが、インターネットを使って調べ物をするような時間は「余暇」に含まれるのかどうかが分かりません。例えば、インターネットを使って夏休みに訪れる旅行先の情報を調べるのは「余暇」なのでしょうか。一方、仕事で必要な情報をインターネットで収集するのは余暇ではなく「仕事」だと思いますが、では、「余暇」と「仕事」は厳密にどうやって区別するのでしょう。
もしも「仕事」でインターネットを閲覧することも心血管疾患のリスクになるとすれば、多くの人が仕事内容を見直さなければならなくなるかもしれません。
谷口恭
参考: 医療ニュース2010年1月25日「テレビの見すぎが寿命を縮める?」
注:この論文のタイトルは、「Screen-Based Entertainment Time, All-Cause Mortality,
and Cardiovascular Events」で、下記のURLで概要を読むことができます。
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|2013年7月10日 水曜日
2011年1月21日(金) 朝食をしっかり摂れば太る?!
ダイエットをしたければ朝食はしっかり摂りましょう、と言われることが多いと思いますが、これに反対する研究結果がドイツの研究者らによって発表されました。
1日のカロリー摂取量における朝食の比率は減らした方が減量につながる・・・
ドイツ・ミュンヘン工科大学のVolker Schusdziarra氏らが結論づけたこの研究は、医学誌『Nutrition Journal』2011年1月17日号(オンライン版)に掲載されました。(注)
この研究では、現在治療を受けている過体重および肥満者280例(男性75例・女性205例、平均年齢45歳、平均体重108kg、平均BMI36.6)に10日間食事記録をつけてもらい解析を加えています。一方、年齢や性を一致させた標準体重者100人(男性33例・女性67例、平均年齢42歳、平均体重67kg、平均BMI22.5)にも同様の食事記録をつけてもらって比較検討を加えています。
その結果、朝食カロリー摂取量が増えるほど1日の総カロリー摂取量が有意に増加していることが分かり、この傾向は標準体重者でも同様の結果となったようです。
研究者は、「朝食の摂取カロリーを抑えることが、日々の摂取カロリーバランスを改善させる簡単な方法となる」、と結論づけています。
さらに研究者は、NWCR(The National Weight Control Registry、米国国立体重管理室)のデータでは、「減量に成功した78%が定期的に朝食を摂取しているとされているが、残りの22%は朝食を抜いて減量に成功していることから、朝食を摂取することが必ずしも減量に不可欠なわけではないことに注意すべき」、とコメントしています。
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ダイエットの方法が語られるとき、たしかに「朝食はしっかり摂りましょう」と言われることが多いようです。おそらくこれは、「就寝前の食事は脂肪が蓄積されやすいのだから、同じカロリーを摂るなら活動前の朝食時にすべき」、という考えが前提にあるからです。
もちろん、この考え方は正しいのですが、夕食を減らす、ということを実践できない人も少なくありません。仕事上の付き合いもあるでしょうし、食べることが好きな人は、慌しい朝ではなく時間のとれる夕食時に好きなものをゆっくりと食べたい、と考えるでしょう。
今回の研究は、見方を変えれば当たり前のことで、昼食と夕食の摂取カロリーが変わらないなら朝食をたくさん摂ればカロリー過多になるのは当然です。
私は、夕食がカロリー過多になりやすい患者さんに対しては、「では当日の(もしくは翌日の)朝食と昼食を加減して帳尻を合わせましょう」と助言することがありますが、これは1日もしくは2日全体でみたときの総摂取カロリーを適正にすれば、体重過多になることが防げるからです。(しかし、この方法は<乱暴な方法>であり、例えばすでに高血圧や糖尿病で治療を受けているような人には向きません)
谷口恭
注:この論文のタイトルは、「Impact of breakfast on daily energy intake – an analysis of
absolute versus relative breakfast calories」で、下記のURLで全文(PDF)を読むことができます。
http://www.nutritionj.com/content/pdf/1475-2891-10-5.pdf
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|2013年7月10日 水曜日
2011年1月23日(日) 米国の塩分摂取基準は1日3.81グラム未満!
2010年4月に改定された厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」で、塩分の適正摂取量が男性9グラム未満、女性7.5グラム未満と改定されました。これは、従来の日本人の塩分摂取量を考えれば随分と厳しい基準となっています。最近は健康志向が高まり、塩分の摂りすぎに注意する人が増えたとはいえ、それでも現在も日本人の塩分摂取量は11~13グラムはあると言われています。
2011年1月13日、AHA(American Heart Association、米国心臓協会)が行動勧告(call to action)を発表しました。その勧告によりますと、ナトリウムの摂取目標は1,500mg未満となっています。これは塩分摂取量で言えば、1日あたりわずか3.81グラム未満ということになります(注1)。
AHAは2020年までに全米国人の心血管障害や脳卒中による死亡を20%減らすことを目標としています。AHAのガイドラインは、心血管の健康状態を理想状態に保つには、血圧を120/80mmHg未満とし、ナトリウム摂取量を1,500mg/日未満に抑えることが重要としています。
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食塩摂取量が増えると血圧は上昇し、高血圧が継続すれば、心血管疾患、脳卒中、腎障害などのリスクとなります。しかし、血圧の上昇は食塩摂取量を減少させることで予防することができます。いったん上昇した血圧を高価な降圧剤を服用して下げるよりも、初めから塩分を控えて高血圧を予防すれば、コストをかけずに国民が健康になれる、というのがAHAの考え方です。
ちなみに、親子丼(並盛)を食べればそれだけで4.2グラムの塩分をとることになります。身体に優しいとされている幕の内弁当でさえも1食で4.2グラムの塩分が含まれています(注2)。ということは、我々日本人は和食を放棄しない限りは、1日あたり3.81グラム未満の塩分などというのは到底実現不可能ではないでしょうか。
(谷口恭)
注1:AHAの論文には塩分ではなくナトリウムの量が記載されています。一方我々日本人はナトリウムよりも塩分で表記する方に馴染みがあるでしょう。ナトリウムと塩分の換算式は、ナトリウム量(ミリグラム)×2.54÷1000=食塩相当量(グラム)です。
注2:どの食品にどの程度の塩分が含まれているかは、いろんなサイトでみることができますが、厚生労働省の下記のサイトがおすすめです。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/himan/meal.html
注3:この発表(論文)のタイトルは、The Importance of Population-Wide Sodium
Reduction as a Means to Prevent Cardiovascular Disease and Stroke:
A Call to Action From the American Heart Associationで、下記のURLで全文(PDF)を読むことができます。
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|2013年7月10日 水曜日
2011年1月28日(金) マイコプラズマが急増!
全国的にインフルエンザが猛威をふるっているようですが、国立感染症研究所の報告によりますと、マイコプラズマも急増しており、過去10年間で最多となっているようです。
同研究所によりますと、マイコプラズマ肺炎は昨年(2010年)10月に入ってから報告数が急増し、今年(2011年)1月9日までの15週間で報告数は4,087人となっています。2010年1年間の報告数は10,333件で、いずれも過去10年間の同期比で最多となるようです。
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まず、上記の「報告数」というのは特定の医療機関からの報告のみです。マイコプラズマの診断が付けば報告しなければならない医療機関(通常は小児科を有する医療機関)があらかじめ決められており、そこからの報告のみとなりますから、実際にマイコプラズマに罹患している人はこの数十倍から百倍以上になると考えられます。
マイコプラズマは小児に感染すると、肺炎まで進行し入院を要することもしばしばありますが、成人の場合は咽頭炎や気管支炎にとどまることが多く高熱が必ずしもでるわけではありません。
しかし、長引く咳に苦しめられ、夜間眠れないなど生活に影響がでてくることがありますし、咳により職場で集団感染するようなこともあります。
マイコプラズマは、肺炎まで進行している可能性を考えれば、レントゲンを撮影しその所見だけで強く疑えることもありますし、血液検査で抗体(IgM抗体)を調べることもできますが精度がそれほど高いわけでなく、いつもいつもそう簡単に診断がつくわけではありません。
治療については、マクロライド系の抗生物質が奏功することが多いため、マイコプラズマの診断が完全につかなくてもマクロライドを数日間処方することもあります。マクロライドは同じく長引く咳が特徴の百日咳にも効くことが多いので、「細菌性が強く疑われ長引く咳のある上気道炎にはマクロライドを投与すればなんとかなる」という、”荒っぽい”治療でもそれなりに有効なケースが多かったのですが、最近では、マクロライドが効かないマイコプラズマが増えてきており、治療に難渋することもあります。
(谷口恭)
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|2013年7月10日 水曜日
2011年2月2日(水) 夜間の明るい照明が高血圧や糖尿病のリスク
日没から夜間にかけて明るい人工照明にさらされると、睡眠の質が低下し、高血圧や糖尿病のリスクが増大する・・・
これは、米国ブリガム&ウィメンズ病院のJoshua Gooley氏らの研究内容で、医学誌『Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism』の2010年12月30日号(オンライン版)に掲載されています(注参照)。
研究では、18歳から30歳の健常者116人を、照明が明るい部屋のグループと暗い部屋のグループに分けて、5日連続で就寝前の8時間、各部屋で照明に曝露してもらっています。部屋滞在中は、睡眠に関わる脳内ホルモンであるメラトニンのレベルを30分から60分おきに調べています。
その結果、明るい部屋のグループでは、暗い部屋のグループに比べ、メラトニン産生時間がおよそ90分も短いことがわかりました。さらに、就寝している時間も明るい照明を曝露した実験では、照明がないときに比べてメラトニンの産生が50%以上抑制されていることがわかりました。
メラトニンは、脳の松果腺(松果体)で夜間に産生されるホルモンで、睡眠をつかさどり、さらに血圧と体温の調節に関わることが知られています。
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この研究では、夜間の人工照明がメラトニン産生を低下させることを明らかにしているだけですが、メラトニンの分泌が不十分であれば高血圧や糖尿病のリスクになることが以前から知られています。また、メラトニンの産生低下は、ガン(特に乳ガン)のリスク上昇につながることが指摘されています。
ということは、夜間、室内灯に長時間さらされるシフト勤務者は、こういった疾患のリスクにさらされているということになるのかもしれません。
(谷口恭)
注:この論文のタイトルは、「Exposure to Room Light before Bedtime Suppresses Melatonin
Onset and Shortens Melatonin Duration in Humans」で、下記のURLで概要を読むことができます。
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|2013年7月10日 水曜日
2013年7月号 感染症と感染症以外のすべての病気の違いとは?
先月(2013年6月)のこのコラムで、私が研修医のときにお世話になった石井正光先生が開業されたことに触れました。また、昨年(2012年10月)にはノーベル賞を受賞された山中伸弥先生のことについて述べました。
大阪市立大学は、全国的にみれば、どちらかというと地味な大学(注1)と世間からはみられていると思いますが、実際に入学してみると全くそういうわけではなく、私が学生の時代には石井先生や山中先生以外にもユニークで魅力ある先生が大勢おられました。(今もそうだと思います)
医学部に入学すると、ただちに専門的な医学教育を受けるのではなく、最初の1年間は一般教養を学びます。その一般教養の先生のなかにも魅力的な先生は大勢おられて(注2)、私は毎日学校に行くのが楽しくて仕方がありませんでした。授業をさぼる学生が信じられなかったほどです。前の大学(関西学院大学)時代は、授業に出席する学生を信じられない、と思っていたわけですから、人間とはここまで変われるものなのかと自分自身に呆れたほどです。
前置きが長くなりましたが、今回お話したいのは、そんな魅力的な先生が多い大阪市立大学のなかでも私が最も感銘を受けた先生についてです。その先生とは当時の産婦人科教室の教授だった荻田幸雄先生です。荻田先生の講義は私が4回生のときにあったのですが、初回の授業のとき、いきなり次の言葉を黒板に大きく書かれました。
感染症以外のすべての病気は直立歩行が原因である
教壇に立たれたときの第一印象から、この先生は少し違うな、というか、一種のオーラのようなものを感じたのですが、感染症以外のすべての病気を一括りする、というのはあまりにも大胆です。そのときに先生は、たしか椎間板ヘルニアや胃下垂を例に上げ、直立歩行が病気につながる、という話をされたのですが、ほとんどの学生はきょとんとしていたと思います。
第1回目のこの講義では、この直立歩行が病気の原因という話以外に、(14年前の記憶でおぼろになっていますが)たしかどこかのメーカーと協力して下着(うろおぼえですがブラジャーだったような・・・)を開発したとか、そういった話で、結局産婦人科学のことはほとんど何も話されなかったように記憶しています(注3)。
その授業の後、「感染症以外の・・・」というこの説を話題にする学生は私の周りにはいなかったのですが、私はその後何年にも渡りこのことを考えていました。すべての病気が直立歩行に原因がある、などということを厳密に検討すれば暴論とみなされます。例えば遺伝的な疾患で生まれつき障がいがあるようなケースでは直立歩行が原因とは言えないと思いますし(しかし、臍帯脱失や常位胎盤早期剥離で正常に分娩ができないケースは直立歩行と関係があるかもしれません)、関節リウマチのような慢性疾患、あるいは悪性腫瘍や生活習慣病なども、直立歩行だけで説明するには無理があるでしょう。
当時の私がなぜ荻田先生のこの言葉にこだわり、いろんな病気に対し直立歩行との関係を吟味していたのか、そのあたりの理由は自分でもよく分からないのですが、そのうちに私の興味の対象は「直立歩行」ではなく「感染症以外の」という言葉の方にうつっていきました。つまり、感染症と感染症以外の疾患を分けることに重大な意味があるような気がしてきたのです。
感染症とは何かというと、一言で言えば「外敵との戦い」です。それに対し、感染症以外の病気の原因は「自己内の問題」です。自分自身を敵とみなしてしまう膠原病やアレルギー疾患、遺伝子の複製のエラーから細胞の異常増殖が生じるガン、不摂生な生活から生じる生活習慣病、生まれたときから遺伝子に異常があり発症する様々な疾患、などこれらはすべて自分の内部に問題があり敵からの攻撃を受けたわけではありません。
医学部在籍中や研修医になりたての頃は、感染症に対して特に力を入れて取り組んでいきたいと思っていたわけではありませんが、感染症というのはときに短期間で人を死に至らしめる疾患ですし、私自身は医学部入学前からHIVやHTLV-1に関心がありましたし、また感染症が世界史に影響を与えているという考えに興味を持っていましたから(注4)、感染症には将来的に何らかのかたちで向き合っていきたいとも考えていました。
しかし、大学病院でも他の病院でも「感染症科」という科はありません。医学部の5回生と6回生には教室での講義がなく、すべて病院での臨床実習というかたちになります。実習の途中から私はこのこと、つまり「感染症は何科が診るの?」ということを疑問に感じ始めました。もちろん、腸炎は消化器内科、肺炎は呼吸器内科、HIVは血液内科、などという区切りはなんとなくわかるのですが、では大学病院で腸炎を消化器内科がみて、肺炎は呼吸器内科がみているのか、というとそういうわけではありません。基本的に大学病院では一部のものを除き感染症をみないのです。
ですから、感染症を専門にしている医師というのは、当時はほとんどいなかったのです(注5)。実際、ある年の医師国家試験の問題には感染症に関わる設問が1問もなく、これが問題になったほどです。感染症を専門にしている医師がほとんどいないわけですからこのようなことも起こりうるわけです。
私がある程度本格的に感染症に関わっていきたいと痛感したのは研修医1年目の夏休みにタイのエイズ施設を訪問したときです。私は元々エイズという疾患に興味をもっていましたが、この理由は感染症だからというよりも「差別される病」だからです。当時その施設でみたエイズはまさに「差別される病」で、地域社会から、病院から、そして家族からも追い出された、行く当てのない人たちが集まってきていました。当時のタイにはまだ抗HIV薬もなく「HIVは空気感染する」と思っている人たちが多かったのです。
この体験を経て、私はHIVという感染症に関わっていくことを決意しました。研修医終了後、再びタイに渡航し、様々なエイズの現場を体験した後、私は大学に戻り総合診療部に所属しました。そして、複数の診療科、複数の医療機関で勉強させてもらった後に、太融寺町谷口医院を開業(開業当時の名称は「すてらめいとクリニック」)するのですが、感染症に対する私の興味は開業後にさらに強くなっていきました。
クリニックでは大病院とは比較にならないほど感染症のウエートが増えます。最も多い感染症は「風邪」ですが、風邪といっても、実にいろんな病原体が原因になっており、風邪だけで本が一冊書けるのではないかと思うほどです。(このエッセンスは当院ウェブサイトのトップページの「のどの痛み(咽頭痛)」や「長引く咳(せき)」で述べています)
風邪以外にも、感染性の胃腸炎、皮膚炎、膀胱炎などにも遭遇しない日はありません。さらに、クリニックで診る感染症の大半は急性の一時的なものですが、なかには長期にわたるものもあります。結核が見つかることもありますし、B型肝炎も少なくありませんし、もちろんHIVも珍しくありません。そして、一部の感染症はその後の人生を大きく変えます。感染症のせいで、仕事を失い、家族を失い、そして自らの命を失う、ということもあるのです。
他人を敵とみなし殺し合うことが愚かであるのは自明ですが、目に見えない小さな病原体という外敵のせいで、仕事や家族を失い寿命まで短くなる、といったことも馬鹿げています。もちろん、予防法がなく有効な治療法もない感染症であればやむを得ないかもしれません。しかし、HIVを含む多くの感染症は、自らが感染を防ぐ予防ができて、他人へ感染させることも防ぐことができて、また有効な治療法も確立しています。
つまり、感染症とは「外敵との戦い」であり、ほとんどの感染症では適切な知識を持ち適切な行動をとることによって自らが感染したり、他人に感染させたりという”悲劇”を未然に防ぐことができるのです。
「感染症以外のすべての病気は直立歩行が原因である」という荻田先生の当時の言葉は、今、私の中で「感染症以外のすべての病気は自己内部に原因があり時に治療困難であるが、感染症は知識と行動で悲劇を防ぐことができる」、とかたちを変えて生きているのです。
注1 私が医学部を受験する前の大阪市立大学のイメージは、とにかく暗くて赤い(つまり左翼的な)大学というもので、実際、私が知っていた大阪市立大学の出身者といえば、よど号ハイジャック事件の田宮高麿とあさま山荘事件(連合赤軍事件)の森恒夫くらいでした。実は私が初めて大阪市立大学を訪問したのは1986年、高校3年生の夏休みです。このときに東京と関西のいくつかの大学をみて、ほとんど”一目ぼれ”した関西学院大学を第一志望にしたのですが、その反対に大阪市立大学の私の印象は”最悪”なものでした。校門前で何人ものヘルメットとマスクで顔を隠した「革命戦士」たちが、拡声器で何やらわめいているというのが大阪市立大学との最初の出会いでしたから、左翼活動を否定するわけではありませんが、関西学院大学に惚れ込むタイプの者が興味を持てるはずがなかったのです。ところが、1996年に実際に入学してみると、左翼活動というのは一部に残ってはいましたが、顔面を隠し拡声器でがなりたてるかつての「革命戦士」の姿はなく、垢抜けた学生が大半となっていました。
注2 私は医学部の受験勉強をしている頃、NHKで生物学関連の番組をよく見ていました。そのときによく登場されていた学者に団まりな先生がおられたのですが、医学部入学後、生物学の先生がその団まりな先生で大変驚いた記憶があります。何しろ最近までブラウン管の中にいた先生が目の前におられるのですから。
注3 その後荻田先生とは5年生の臨床実習のときにお会いして直接話をさせていただきました。その際に「君はひとつの科にとどまっているタイプではない。将来、他人とは違うことをするだろう」と何やら<予言>めいたことを言われました。荻田先生がなぜ私にそのようなことを言われたのかはいまだにわからないのですが、「総合診療部に籍を置きながら多くの科や多くの医療機関に出向いて総合診療やプライマリケアを勉強していく」というやり方をした医師というのはいまだに私以外に聞きませんから、荻田先生の<予言>はあたっていたことになるでしょう。尚、荻田先生は私が医学部を卒業したのと同じ2002年に退官されたのですが、その後関西の芸術系の大学に大学生として入学され本格的に絵画に取り組まれたと聞いています。
注4 例えば、ペロポネソス戦争では感染症(ペスト説、天然痘説、発疹チフス説などがあります)の流行が戦況に大きな影響を与えました(スパルタ軍の兵士たちはなぜか罹患しなかったために勝利したという説もあります)。アメリカのインディアンがヨーロッパ人に滅ぼされたのは、インディアンだけが天然痘に感染したからだと言われています。(つまりヨーロッパ人の兵力ではなく実際にインディアンを滅亡に追い込んだのは天然痘ウイルスであったということです) 14世紀のヨーロッパではペストにより当時の人口のおよそ3分の1が死亡したとされていますし、梅毒が世界史に登場するのは有名な話です。
注5 最近は、感染症を専門にする医師も少しずつ増えてきており、大学病院などでは「感染症内科」を標榜するところもでてきています。
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|2013年7月10日 水曜日
2011年2月4日(金) 1日1万歩で糖尿病のリスクが低下
毎日1万歩歩けば週5日3千歩歩くより糖尿病のリスクが低下する・・・
オーストラリアでウォーキングと糖尿病の関連性についての研究がおこなわれ、このような結果がでたようです。詳細は医学誌『British Medical Journal』2011年1月13日号(オンライン版)に掲載されています(注1参照)。
この研究では、オーストラリアの成人男女592人が対象とされ、2000年及び2005年に調査がおこなわれています。対象者は調査開始時に健康状態に加え食生活や生活習慣をチェックされ、万歩計が与えられています。
5年間の経過観察をした結果、1日の歩行数が多ければ多いほど、BMI(注2)もウエスト/ヒップ比も小さく、またインスリン抵抗性(注3)が良好であることがわかりました。これらは、食生活、喫煙、飲酒などの影響を取り除いた後でも同様の結果となっています。
具体的には、毎日1万歩を歩けば、1日3,000歩を週に5日歩く場合に比べ、インスリン感受性が3倍向上することが算出されたとのことです。
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1日1万歩と言われてもウォーキングに馴染みのない人にはわかりにくいと思いますので少し解説してみます。
おおまかに言えば、やや早歩きの状態で1分間に80メートルくらい歩くことになります(分速80メートル、時速なら4.8キロメートル)。歩幅は性別や身長で差が出ますが、だいたい65cmくらいとすると、1分間に123歩歩くことになります。85分間この歩幅・スピードで歩いたとすると10,455歩となりますから、やや早歩きで1万歩歩くにはおよそ85分間のウォーキングをすればいい、ということになります。
ついでに消費カロリーもみてみましょう。時速4.8キロメートルでウォーキングをすれば消費カロリーはだいたい1分間で3.5Kcal程度になることがわかっています。85分間このスピードでウォーキングを続けると297.5Kcal(≒300Kcal)となります。
だいたい白いご飯1杯やや軽盛りで300Kcalですから、1日1万歩=85分のウォーキング=ご飯1杯のダイエット=糖尿病予防、と覚えてみてはいかがでしょうか。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは、「Association of change in daily step count over five years with insulin
sensitivity and adiposity: population based cohort study」で、下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.bmj.com/content/342/bmj.c7249.full?sid=a40271ba-dc39-4cb4-9172-ae2b9280eacf
注2:BMIはBody Mass Indexの略で、体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割って算出します。例えば、体重88キログラム、身長2メートルの人であれば、88÷2の2乗=88÷4=22となります。
注3:インスリン抵抗性とは、わかりやすく言えばインスリンの効きやすさ(効きにくさ)のことです。糖尿病(もしくは糖尿病予備軍)の人は、せっかくインスリンが分泌されても(あるいはインスリンを注射しても)血糖値がなかなか下がってくれません。今回の研究では、しっかり歩けばインスリンがよく効いて血糖値が下がりやすくなる、といっているのです。
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2011年2月4日(金) 2月3日は「不眠の日」
2月3日は日本記念日協会が認定する「不眠の日」だそうです。同協会は毎月23日も「不眠の日」に認定しているようで、ということは、今月(2月)は不眠の日が同月に2回もあることになり、なんだかありがたみがないような気がするのですが・・・。
2011年2月3日、エスエス製薬が「睡眠改善委員会」というウェブサイトを立ち上げました。このサイトでは「かくれ不眠」という言葉が使われており、同サイトによりますと、「慢性的な不眠ではなく、専門的な治療をする必要はないけれど、睡眠に悩みや不満を抱え、日常生活に影響がある」ような不眠のことをいうそうです。
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「睡眠改善委員会」のURLは、http://www.brainhealth.jp/suimin/ です。
同サイトには、「かくれ不眠チェックシート」なるものもありますので、関心のある方は一度試してみればいかがでしょうか。
このサイトはエスエス製薬によるものであり、「かくれ不眠」とは”専門的な治療をする必要はないけれど”とありますから、(穿った見方をすれば)同社の睡眠改善薬「ドリエル」の宣伝ツールなのかな、と感じてしまいますが、そうであったとしても多くの人に睡眠に関心を持ってもらえるのはやはりいいことだと思います。
(谷口恭)
参考:
はやりの病気2010年10月号 「新しい睡眠薬の登場」
医療ニュース:
2008年6月30日 「睡眠不足はダイエットの強敵!」
2010年4月2日 「睡眠障害の自殺リスクは28倍」
2010年9月14日 「男性の睡眠不足は短命に・・・」
2010年11月4日 「睡眠不足は脂肪を蓄積」
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|2013年7月10日 水曜日
2011年2月14日(月) 新規エイズ患者がまたもや過去最多
厚生労働省のエイズ動向委員会は2月7日、2010年のHIV新規感染者、エイズ発症者などを発表しました。
同省によりますと、新たにエイズを発症した患者(HIV感染が発覚したときにすでにエイズを発症していた患者、いわゆる「いきなりエイズ」)が453人で過去最多となります。2008年と2009年はいずれも431人で過去最多でしたが、2010年はさらに増えて記録を塗り替えたというわけです。
まだエイズを発症していないHIVが新たに判ったケースは1,050人で、2009年の1,021人より増加しています。(2008年は1,126人)
保健所などでの無料抗体検査を受けた数は130,930件で、2009年は150,252件ですから約13%減っています。2008年は177,156件ですから、2年間でみると実に26%も減少していることになります。
感染経路は同性愛の性的接触によるものが63%と最多ですが、異性間での感染も少なくはなく、さらに「不明」としているものも目立ちます。また、2010年は4年ぶりに母子感染が2例報告されています。母子感染は適切な対策で防げるはずなのに、です。
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上記をまとめると、①検査数や相談数が大きく減少、②新規感染者は微増、③いきなりエイズは過去最多、④4年ぶりに母子感染が発覚、となり、いかに、HIVに対する関心が薄れているかということがわかります。
実は最近、当院でも2010年にHIV感染が発覚したケースをまとめてみたのですが、なんと新たにHIV感染が判った症例の半数以上が、検査のときに「患者さん自身はまさか自分がHIVに感染しているとは思っていなかった」というケースです。つまり、原因不明の皮疹、リンパ節腫脹、かかっている病気がなかなか治らない、などの理由で、こちらからHIVの検査の必要性を説明し同意を得て検査をおこなったというケースなのです。
当院では2007年と2008年は、患者さんの方から「HIVの検査をしてください」といって感染が発覚するケースの方が多かったのですが、2009年にはちょうど半数が「患者さんが希望したのではなくこちらから検査をすすめたケース」で、ついに2010年にはこの割合が過半数を超えたというわけです。
さらに(関心が薄れていることとは無関係かもしれませんが)、HIVに対する誤解・偏見は一向に改善されていません。何らかの理由でHIVの検査をすすめても、「陽性であれば結果を受け入れられない」「検査を受ける決心がつかない」などの理由で、患者さんが拒否するケースも依然として少なくありません。
(谷口恭)
注:厚生労働省の公表した内容は下記のURLで参照できます。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000121rr.html
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2011年2月16日(水) 米国農務省のガイドラインでも厳しい塩分摂取
AHA(American Heart Association、米国心臓協会)が発表した行動勧告(call to action)では、1日あたりの塩分摂取は3.81グラム未満とされているという衝撃的なニュースを先日お伝えしましたが、今度は米国農務省(USDA)が「米国人の食生活ガイドライン(Dietary Guidelines for Americans 2010)」を発表しました(注1)。
そのガイドラインによりますと、1日あたりの塩分摂取量は5.84グラムとなっています(注2)。しかし、51歳以上の男女、すべての黒人、高血圧、糖尿病、慢性腎疾患を有しているすべての年齢の男女は3.81グラム未満とすべき、とされています。年齢、人種、現在のアメリカ人の高血圧などの有病率を勘案すると、全アメリカ人のおよそ半数が3.81グラム未満にしなければならないことになるそうです。
このガイドラインをざっと通して見てみると、野菜・果物をたくさんとりましょう、砂糖は避けましょう、脂肪の摂り過ぎに注意しましょう、といった常識的に考えて納得しやすいことばかりが書かれていますが、この塩分の厳しい上限値には驚かされます。
このガイドラインには現在の米国人の平均塩分摂取量が年齢・性別ごとに紹介されているのですが、例えば30代男性でみると、上限であるはずの5.84グラムのほぼ倍量を摂取していることがわかります。また、平均的な米国人は8.64グラム摂取しているとの記載もあります。
参考までに、日本の厚生労働省が定めている1日あたりの塩分摂取量は男性で9グラム、女性で7.5グラムです。また、日本高血圧学会など生活習慣病に関する学会の多くは6グラム未満を推奨しています。一方、日本人の実際の塩分摂取量は1日あたり11~12グラムと言われています。
*************
結局のところ、アメリカ人も日本人も推奨される塩分のラインを大きく超えて摂取しているのが実情であり、高い目標を掲げること自体は簡単ですが、目標に到達するにはかなりの努力が必要になります。
健康な食事の代表のように言われている和食は、「塩分」という観点でみればよほど注意して料理しない限りは不合格となります。漬物、味噌、醤油などを普通に摂れば、6グラムなどすぐに超えてしまいます。米国のガイドラインの3.81グラムなど、和食を食べるなら塩分控えめで体にいいとされているメニューを選んだとしても、おそらく1食だけで上限ギリギリくらいになってしまうはずです。
いったい我々は何を食べればいいのでしょうか・・・。
(谷口恭)
注1:このガイドラインは下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.cnpp.usda.gov/Publications/DietaryGuidelines/2010/PolicyDoc/PolicyDoc.pdf
注2:原文では、ナトリウム2,300mgとなっています。ナトリウムと塩分の換算式は、ナトリウム量(ミリグラム)×2.54÷1000=食塩相当量(グラム)です。(この場合、2,300x2.54÷1,000=5.84となります)
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