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2013年7月23日 火曜日

2009年8月24日(月) またもやステロイド入り化粧品

 アトピー性皮膚炎が劇的に治る天然系の化粧品、実は高濃度のステロイドが入っていた・・・。

 数年に一度はこのような事件が報道されますが、最近も発覚したようです。

 警視庁生活環境課が8月19日、薬事法違反の疑いで東京都新宿区の化粧品販売会社「ラバンナ」(現イエス・オーケー)の元社長ら5人を逮捕しました。この会社が販売していた化粧品「NOATOクリーム」には高濃度のステロイドが入っていたそうです。(報道は8月19日の共同通信)

 この会社は、米国からこの化粧品約4万個を輸入し、およそ2万個を販売しています。自社ホームページのほか、情報交換サイトに第三者を装って「アトピーが完治した」などと書き込み宣伝していたそうです。

 国民生活センターには「生後6カ月の娘に使ったが、やめた後はガサガサで色素が抜けたようになった」「使うのをやめると、使用前より悪化した」といった相談が寄せられていたようです。

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 逮捕に際して、容疑者は「ステロイドが入っているとは知らなかった」と述べているそうです。「知らなかった」というのが本当とは思えませんが、このようなものの輸入を許可している税関には問題がないのでしょうか。

 今回の事件はアメリカで製造されたクリームですが、中国製の化粧品にステロイドが含まれていた、という事件もときどき起こっています。不正な表示をする海外のメーカーがなくなることはないでしょうし、逮捕された東京の会社のような会社(あるいは個人)がこれから出てくることもあるでしょうから、まずは税関での対策をしっかりしてほしいと思います。

(谷口恭)

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2013年7月23日 火曜日

2009年8月24日(月) よく遊んでよく寝る子供に自尊感

 外でよく遊んで、早く就寝する子供は、自分に価値があると感じる「自尊感情」が高い傾向にある・・・。

 これは福岡県が小中学生およそ13,000人を対象とした調査で分かったことです。(報道は8月19日の共同通信)

 福岡県は、昨年(2008年)12月から3ヶ月間にわたり、県内の小学4年と6年、中学2年と3年を対象に、「何をやっても失敗するのではないかと思う」、「友達と同じくらいいろいろなことができる」、など10項目の設問で自尊感情を評価し、併せて普段の生活を調べました。

 その結果、小学生では外で1時間以上遊ぶ児童の42%が「自尊感情が高い」とされたのに対し、1時間未満しか遊ばない子では29%にとどまっています。同様に、午後10時までに就寝する児童では45%が自尊感情が高く、夜更かしをする児童では34%となっています。

 中学生も同じ傾向だったようです。

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 「自尊感情」が高いのは生きていく上でとても大切なことです。勉強ができる、などより遥かに重要なことです。今回の調査結果が正しいとすれば、塾になど通わず、屋外で遊んで、帰宅してからもゲームやテレビに熱中するのではなく早く寝ることが大切、ということになります。

 これは、我々大人が一般的に「健全な子供」としてイメージする像に一致するのではないでしょうか。

 個人的には、この調査の有効性が社会に広く認識されるようになり、「健全な子供」が増えてほしいと願います。

(谷口恭)

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2013年7月23日 火曜日

2009年8月24日(月) 中国黒龍江省のペスト騒ぎ

 先日、中国青海省海南チベット族自治州興海県で、12人が肺ペストに罹患し死者も相次いでいる、というニュースを紹介しましたが、今度は黒龍江省でペストの騒ぎがありました。

 8月19日の共同通信によりますと、黒竜江省の伊春市保健当局は8月17日、同市内で7人の出血熱発症例が報告されたと発表しました。出血熱の原因となる病原体については発表がありませんが、7人は森林地帯の住民で、7月28日から8月3日の間に発症していたことが判っています。すでに治療を受けており全員の容態が安定しているそうです。

 当局の発表では、全員がネズミにより汚染された食べ物を食べたり、水を飲んだりしたことが原因である、とされています。

 この騒ぎに対して、インターネット上では肺ペストの噂が出回っていましたが、保健当局はこれを否定しています。

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 肺ペストは致死的な病気ですから、流行すればその地域や国が壊滅する恐れもあります。実際、ヨーロッパの歴史は、ペスト菌により何度も作り変えられているといっても過言ではありません。

 それだけに、もしもペスト菌が内陸に位置する青海省から東北部にある黒龍江省まで波及すれば、世界史に残る大惨事になるに違いありません。

 今回の噂は、黒龍江省の患者がネズミから感染したことから出たのかもしれません。

 しかし、このニュースは「ペストじゃなくてよかったね」で終わらせるのはちょっとまずいように思えます。なぜなら出血熱は一般的に感染力が強く重症化することも珍しくないからです。

 当局には、この出血熱の原因となった病原体が何なのか、そして今後感染が蔓延する可能性がないのかどうか、といったあたりについても発表をしてもらいたいと思います。

(谷口恭)

参考:医療ニュース 2009年8月5日「中国で肺ペスト、一帯を封鎖」

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2013年7月23日 火曜日

2009年9月9日(水) この夏の食中毒は過去10年で最少

 今夏(6~8月)の食中毒患者数が前年より激減し、過去10年間で最少であったことが厚生労働省の速報で明らかとなりました。(報道は9月8日の日経新聞など)

 今夏の食中毒患者数は826人にとどまり、これは前年(2008年)の約6分の1に相当します。1,000人を割ったのは過去10年間で初めてだそうです。発生件数も52件で、これは前年の約8分の1にあたります。

 厚生労働省は、「8月の気温が平年より低かったことに加え、食品の衛生管理が向上している」と分析しています。

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 「食品の衛生管理が向上している」という厚生労働省のコメントは、企業の不祥事が今年はなかった、ということを示唆しているようです。実際、過去10年間で、夏場で最も食中毒が多かったのは、雪印乳業の集団食中毒事件が起こった2000年です。そして、この事件以降、メーカーやスーパーなどでは食品の品質管理が徹底されるようになってきています。

 私がこのニュースをみたとき、「たしかに言われてみれば今夏はインフルエンザを含めて上気道炎の感染症が多く、胃腸炎は少ないかな・・・」とも感じましたが、それでも、おなかをこわして受診という患者さんが少ないわけではありません。

 食中毒という診断がつかなくても、感染性胃腸炎は少なくないというわけです。もっと言えば、感染症でない下痢や嘔吐の患者さんも少なくありません。

(谷口恭)

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2013年7月23日 火曜日

2009年9月10日(木) 自殺者の4人に1人がアルコール問題

 自殺に至った背景を調べた43人のうち、10人がアルコールをめぐる問題を抱えていた・・・。

 これは自殺予防総合対策センター(下記参照)が9月8日に発表した調査結果です。この調査に際して、同センターは、自殺した人の遺族に対し、自殺に至った経緯や心理状態について昨年(2008年)聞き取りをおこなっています。(報道は9月9日の共同通信)

 調査結果によりますと、調査対象者43人のうち、アルコール依存症や不眠のための寝酒の習慣があった人が10人に上っています。10人全員が40~50代の仕事を持つ働き盛りの中高年で、10人のうち4人は自殺時にも多量のアルコールを飲んでいたそうです。

 1日当たりの平均飲酒量は日本酒換算で3.5合と算出されています。

 また、43人のうち20人が精神科に通院しており、離婚や借金などの問題を抱えている人もいたようです。

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 自殺予防総合対策センターは、2005年に参議院厚生労働委員会「自殺に関する総合的対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議」において設置することが決議された機関で、2006年10月から正式に活動を開始しています。

 今回の調査結果を考察すると、「うつ病などの精神疾患やアルコールが自殺に密接に結びついており、地域社会や社内、家族で、まずこういった問題に関わっていくことが自殺減少につながる可能性がある」、ということになると思います。

 参考までに9月10日は「世界自殺予防デー」、9月10日から16日は「自殺予防週間」です。

(谷口恭)

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2013年7月23日 火曜日

2009年9月15日(火) 救急車現場到着も医療機関搬送も過去最悪

 救急車が通報を受けてから現場に到着するまでの時間も、患者を医療機関に収容するまでの時間も過去最悪・・・

 このようなことが総務省消防庁の調査で明らかとなりました。(報道は9月9日の共同通信など)

 調査によりますと、救急車が通報を受けてから現場に到着するまでにかかった時間の2008年の全国平均は7.7分で、これは前年(2007年)より0.7分遅いことになります。7.7分というのは、データがある1984年以降最悪(最長)の数字となっています。

 また、通報から患者を医療機関に収容するまでの時間は過去最悪の35.1分で、これは前年より1.7分遅くなっています。1998年には26.7分でしたから、過去10年間で8.4分も延びていることになります。

 救急車の出動件数自体は5,095,615件で、これは前年より3.7%減少しています。搬送人数も4,677,225人で、こちらは4.6%の減少です。これらの減少は2年ぶりということになります。

 救急車を要請した人を年代別でみると、65歳以上の高齢者が48.2%で最多となっています。

 また、救急車が到着するまでに、その場に居合わせた人が心臓マッサージなどの応急処置をしたケースは、心肺停止状態の患者の40.7%に相当する46,149人で、これは前年より1.2ポイント増加しています。

 心肺停止に対しては、2004年からAED(自動体外式除細動器)の一般の使用が認められるようになっており、心臓疾患にAEDを使用した428人の1ヶ月の社会復帰率は38.8%と高い数字を示しています。これは前年から3.3ポイント増えていることになります。

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 これらのデータをまとめていきましょう。

 まず、救急車が現場に到着する時間も患者を医療機関に収容するまでの時間も過去最悪となったことの理由として、消防庁は、「搬送先が決まらないと、救急隊が待機場所である消防署へ戻るのが遅くなり、結果的に次の出動や現場到着が遅れる悪循環が起きている」、と指摘しています。これは、救急患者を医療機関が迅速に受け入れることができていないことを示唆しています。

 この問題に対して、10月に施行される改正消防法では、「救急と医療の関係者が事前に搬送のルールを取り決める」ことなどを定めており、この取り決めが上手くいけば搬送時間の短縮が少しは実現するかもしれません。

 しかし、医療機関側としては人員や施設の問題から救急患者の受け入れはすでに限界にきているのが現状です。したがって、単に「救急と医療機関の搬送のルール」を定めただけでは抜本的な解決にはならないのではないかと思われます。

 次に、救急車の出動件数が減ったことの理由については、軽症の場合は救急車を使わないといった適正利用の呼びかけが浸透している、ことが考えられます。これまでは、軽症の人でも救急車を(気軽に)要請していることが問題となっていましたから、適正利用が浸透しているとすれば評価されるべきと思われます。しかしながら、このような呼びかけがいきすぎると、本当に救急車が必要な人まで要請を躊躇する可能性もあり、このあたりについては充分注意する必要があると思われます。
 
 AEDの普及については、成功していると言えるでしょう。AEDがもしもその場所になければ命を失っていたかもしれない人が大勢いるということです。

 太融寺町谷口医院の院内に置いてあるAEDはまだ一度も使用する機会がありませんが、いずれ活躍する日が来るかもしれません・・・。

(谷口恭)

参考:医療ニュース 2009年1月27日「一般市民によるAED救命率が42.5%!」

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2013年7月23日 火曜日

2009年9月15日(火) 人間ドックで「異常なし」は過去最低

 2008年に人間ドックを受診して「異常なし」となった人は、全体のわずか9.6%で過去最低・・・。

 これは、日本人間ドック学会が先日発表したデータです。(報道は9月10日の読売新聞)

 「異常なし」が1割を切ったのは、1984年の調査開始以来初めてだそうです。

 同学会によりますと、調査対象となった人間ドック受診者約295万人のうち、肥満・高血圧といった生活習慣病などの検査23項目すべてで「異常なし」となったのは、全体の9.6%に相当する約28万人です。これまで最低だったのは2006年の11.4%でしたから大きく下がっていることになります。

 「異常」で最も多い項目は、「高コレステロール」で全体の26.4%、次いで「肝機能異常」、「肥満」の順となっています。男性でみると「肝機能異常」、女性では「高コレステロール」が多いようです。

 今回の結果について同学会は、①腹囲測定が組み込まれるなど検査の基準が厳しくなった、②受診者の高齢化、③経済不況でストレスが増した、などを理由に挙げています。

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 肝機能に異常があるから、高コレステロールだから、という理由だけですぐに治療が必要というわけではありませんし、「腹囲」については基準を巡って様々な議論がありますから、国民の9割以上が病気、というわけではないと考えた方がいいでしょう。

 しかし、上記③の「経済不況でストレスが増して・・・」というのは注目されるべきだと思います。日頃患者さんをみていると、人間ドックの検査では異常と出ないような症状、例えば、不眠や気分の落ち込み、検査異常のない倦怠感・疲労感、などを訴える人がますます増えてきているように感じます。

(谷口恭)

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2013年7月23日 火曜日

2009年9月15日(火) 100歳以上が4万人を突破

 9月15日時点で、100歳以上の高齢者が40,399人となり、初めて4万人を突破!

 これは、厚生労働省が9月11日に「敬老の日」を前に発表した数字です。(報道は9月14日の読売新聞)

 男女別では、女性が86.5%となる34,952人で、男性は5,447人です。人口10万人あたりの全国平均は31.64人で、都道府県別では沖縄が67.44人と37年連続のトップです。最も少なかったのは埼玉県の15.90人で、こちらは20年連続の最少となります。

 国内最高齢者は昨年に続き沖縄県在住の114歳の女性です。男性の最高齢者は京都府の112歳の男性です。

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 沖縄県民が長寿であるのはよく知られていますが、埼玉県民に100歳以上の高齢者が少ないということを私はこれまで知りませんでした。新聞記事には、地域差の理由については述べられていませんでしたが、この理由についての研究を待ちたいものです。

(谷口恭)

参考:医療ニュース 2009年7月18日「日本人の寿命がさらに長く」

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2013年7月22日 月曜日

第126回(2013年7月) 我々はベジタリアンの道を進むべきか

  前回は、巷に出回っている「日本人は肉をもっと食べなさい」という意見が、大変乱暴であり危険である、という話をしました。では、肉はまったく食べるべきでないのか、と言えば、確かにそのような意見があるのは事実なのですが、私自身はそこまでは考えていません。というより、肉より美味しいものがあるのか、と私自身感じることもあるくらいですから、肉は禁止するのでなく上手に美味しく食べる方法を考えるべきだと思います。

 しかし、最近の世界的な流れとしては、肉がますます「危険な食べ物」と見られるようになり、ベジタリアンを讃賞する声が増えてきているような感じがします。最近発表された大規模研究でもそのような結果がでています。

 ベジタリアンになると死亡率が12%も減少する・・・。

 これは米国カリフォルニア州のロマ・リンダ大学(全米で最大の私立医科大学)のMichael J. Orlich博士らによる研究結果で、医学誌『JAMA Internal Medicine』2013年6月3日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 この研究の対象となったのは、米国及びカナダ在住の73,308人の25歳以上の男女で、全員がセブンスデー・アドベンティスト教会(注2)の信者です。対象者を次の5つのグループに分けて解析が行われています。(「ベジタリアン」は4つに分類されています)

①非ベジタリアン(non-vegetarian)
②セミ(semi-vegetarian):魚も鶏肉もOKのベジタリアン
③ペスコ(pesco-vegetarian):鶏肉はNG、魚はOKのベジタリアン
④ラクト・オボ(lacto-ovo-vegetarian):牛乳と卵はOKのベジタリアン(注3)
⑤ヴィーガン(vegan):牛乳や卵もNG、完全なベジタリアン

 平均で5.79年の追跡調査がおこなわれ、73,308人中2,570人の死亡が確認されています。死亡率(1年間に人口1,000人当たり何人が死亡するか)は6.05人となります。②~⑤の各ベジタリアンの死亡率は、②のセミで6.16人、③のペスコで5.33人、④のラクト・オボで5.61人、⑤のヴィーガンで5.40と、②のセミ以外のベジタリアンは、非ベジタリアンに比べて死亡率が低下しています。

 研究ではさらに分析が加えられています。①非ベジタリアンに対する②~⑤の全ベジタリアンのハザード比(①を1としたときの②~⑤の危険度と考えてください)は0.88となり、これは12%のリスク減少があるということになります(注4)。

 さて、これだけベジタリアンに有利な研究が登場すると肉食推進派たちはどう反論するのでしょうか。比較的新しい年月で肉食を肯定するような研究を探してみたのですが残念ながらめぼしいものはありませんでした。肉の脂肪が身体に良い、とする研究はないでしょうが、赤身についてならあるかもしれません。そのように考えて最近の研究を調べてみたのですが、結果はその逆で「赤身の肉も危険」とするものが複数みつかりました。

 医学誌『British Journal of Nutrition』2013年5月7日号(オンライン版)(注5)には日本人による日本人を対象とした研究が紹介されています。国立国際医療研究センター疫学予防研究部の黒谷佳代博士らの研究で、「赤身肉の摂取量が多い男性は糖尿病リスクが約1.5倍高い」結論づけられています。

 もうひとつ紹介しておくと、医学誌『JAMA Internal Medicine』2013年6月17日号(オンライン版)(注6)でも似たような研究結果が掲載されています。こちらの結論も「赤身肉をたくさん摂取すると糖尿病のリスクが1.5倍になる」とされています。こちらは対象者が米国人ですが、上に述べた日本人を対象とした研究と同様に、「糖尿病のリスクが1.5倍」とまったく同じ結果がでていることが興味深いと言えます。

 肉食が健康を害するという例は、論文を読まなくても実感することができます。沖縄がその最たる例だと思います。周知のように沖縄は、以前は長寿の地域として有名でしたが、ここ10~20年で一気に肥満と生活習慣病で有名な県に様変わりしてしまいました。

 この理由はあきらかで、野菜や海藻中心の伝統的な食生活から米軍が持ち込んだ肉製品に大きく変化したからです。私が沖縄を初めて訪れたのは1987年ですが、この頃すでに少なくとも沖縄の若者は伝統料理をそれほど食べていませんでした。誤解を恐れずにいえば、伝統的な沖縄料理を美味しく食べられる人はそう多くはないと思います。沖縄料理は豚肉をよく使うから健康、と言われることがありますが、これも私が沖縄で聞いたところによれば正しくありません。ある沖縄の高齢者は、豚肉を食べるのはせいぜい年に1度か2度(つまり肉をほとんど食べない)、と言っていました。

 沖縄料理と聞いて、ゴーヤやもずくを思い浮かべる人が多いでしょうが、私にとっての沖縄料理というのは「スパム」「ステーキ」「ファストフード」という生活習慣病の大敵ばかりです。私は大学生(関西学院大学時代、1987年~1990年)に毎年沖縄でアルバイトをしていたために、沖縄の食文化にどっぷりとつかっていました。普通の食堂で出てくる伝統的な沖縄料理は美味しく感じられないために、つい自分でも食べられそうなものを注文することになるのですが、スパムを焼いたものは安くて腹もちがいいためによく食べていました。スパムとは缶詰のハムで、今では本土でも普通のスーパーに売っていますが、当時は日本で手に入るのは沖縄くらいだったと思います。普通のハムに比べると美味しくはないのですが、それでも他に食べられるものがないためにスパムを食べることになるのです。

 ステーキハウスは沖縄にはたくさんあって値段も随分安いのですが、それでも学生が気軽に食べられるものではありません。そこで、「ジャッキー」や「88(ハチハチ)」といった大衆ステーキハウスにあるハンバーグとフライがセットになっているような「Cランチ」(注7)を注文することになります。ファストフードは学生でも手軽に食べられますし、沖縄のファストフード店の充実度は間違いなく日本一でしょう。24時間営業も当たり前で、ほとんどすべてのファストフード店(注8)がそろっています。

 というわけで、私の沖縄での食生活は、食堂でスパムを焼いたものを食べる、またはスーパーでスパムを買う、1日1度はファストフードでハンバーガーのセットを食べる、ステーキハウスでは安い「Cランチ」を食べる、といった感じでした。しかしこれは私だけでなく、本土から沖縄にやってきた若者の多くは似たような食生活になっていましたし、おそらく沖縄の若者もさほど我々と差はなかったのではないかと思います。そして、アメリカ型の食生活、スパム、ステーキ、ファストフードという肉食文化にどっぷりと浸かった結果が、肥満と生活習慣病の急増というわけです。

 世界の研究では、ベジタリアンが賞賛され、肉については脂肪はもちろん赤身も身体に悪いとされ、実感としても、沖縄の肥満と生活習慣病の増加の原因が肉食にあることは自明です。

 では我々は、ベジタリアンの道を進むべきなのでしょうか。

 私はそうは考えていません。前回のコラムでも述べたように、私は「肉食推進派」ではありませんが、肉は上手に美味しく食べるべき、という考えをもっています。まずは、大規模調査に比べると説得力は随分と弱くなりますが、肉は悪くない!という理由を考えてみたいと思います。

 まず、肉、特に赤身肉には非常に良質なアミノ酸が含まれていてこれは紛れもない事実です。ですから摂りすぎなければ肉は効率よく大切なアミノ酸を摂取できるのです。この意見に対し、ラクト・オボのベジタリアンたちは、卵と乳製品で充分摂れますよ、と反論してくるでしょう。たしかにそれはその通りです・・・。

 では、肉にあって卵や乳製品にないものは何か・・・。私がさんざん考えた挙句に出た結論は「肉の方が美味い!」という、医療者らしくない理由だけでした・・・。それでも医者か!、とお叱りの言葉を受けるかもしれませんが、ここは開き直って「美味しく食べることができて身体を害さなければそれでいいじゃないか!」と考えています。

 この「身体を害さなければ」というところが非常に大切で、この点が「日本人は肉を食べなくなった。もっと肉を食べなければならない」とする肉食推進派と私の考えが異なるところです。私は、前回も述べたように、肥満者が増えている現状をみたときに日本人はこれ以上肉の摂取を増やすべきではないと考えています。しかしまったく摂るべきでない、と言っているわけではありません。少量の肉を上手に美味しく食べましょう、これが私の考えです。

 例えば、運動の後などでとてもお腹がすいたときに何が食べたくなるでしょうか。私はこのようなときハンバーグや焼肉などの肉料理を想像するとワクワクします。あの空腹感のなかで、卵と乳製品だけを思い浮かべて満足することは私にはできません。まして、お腹の音が聞こえてくるほどの空腹時に、野菜や豆乳、ライスミルクを想像して「これで必要な栄養素がとれるか」といった計算をするような食生活は無理です。

 ならば少量の美味しい肉を、毎日は無理でも1日おきくらいに味わいながら食べることを考えればいいのです。しかし「少量」というのを外食でおこなうのは案外むつかしいものです。

 では、朝と昼をわずかにして夕食時に肉がメインのディナーを食べるようにすればどうでしょう。「肉がメインのディナー」、考えただけでも楽しくなるではないですか。私はこれを書きながらなつかしの「Cランチ」のことが頭から離れなくなってきました。この次那覇に行ったときには、朝と昼は少しの果物と野菜だけにして、夜に「Cランチ」を食べに行こう・・・。今、そんなことを想像して悦に入っています。(しかし、今でも「ジャッキー」や「88」、そして「Cランチ」はあるのでしょうか・・・)

 

注1:この論文のタイトルは、「Vegetarian Dietary Patterns and Mortality in Adventist Health Study 2」で、下記のURIで概要を読むことができます。

http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1691919#Abstract

注2:セブンスデー・アドベンティスト教会は、日本では「安息日再臨派」とも呼ばれるプロテスタントの一派で、菜食主義を推奨しています。

注3:ベジタリアンの分類には、ラクト(lacto-vegetarian)というのもあり、卵はNG・乳製品はOKというタイプです。これに対し、オボ(ovo-vegetarian)と呼ばれる、卵はOK・乳製品はNGというタイプのベジタリアンはそう多くはないと思います。

注4:世間には、ベジタリアンは不健康とする説もありますが、その最大の理由は、肉に含まれているビタミンDを野菜からは摂取できないからです。日光にあたればビタミンDは合成されますが、今度は紫外線のリスクを考慮しなければなりません。そこで、ヴィーガンの人たちは栄養強化された豆乳やライスミルクでビタミンDを摂取しているそうです。(ビタミンDは乳製品にも含まれますから上記②③④のベジタリアンでは問題ありません)

注5:この論文のタイトルは「Red meat consumption is associated with the risk of type 2 diabetes in men but not in women: a Japan Public Health Center-based Prospective Study」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://journals.cambridge.org/action/displayAbstract?fromPage=online&aid=8896651&fulltextType=RA&fileId=S0007114513001128

注6:この論文のタイトルは「Changes in Red Meat Consumption and Subsequent Risk of Type 2 Diabetes MellitusThree Cohorts of US Men and Women」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://archinte.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1697785

注7:当時(80年代後半)の私がよく通っていたステーキハウスは那覇港の近くにあった「ジャッキー」と「88(ハチハチ)」でした。たしかどちらも「Cランチ」(「Bランチ」だったかもしれません)という名前のセットメニューで、メインディッシュはハンバーグとたしかトンカツかチキンカツ(もしかしたら魚のフライだったかもしれません)とサラダ、これにライスとスープがついて380円という大変お得なメニューだったのです。それに「ランチ」とは名ばかりで24時間いつでもこの値段で食べられたのです。

注8:数多くあるファストフード店のなかで、私は「A&W」が最も気に入っていたのですが、本土にはあまりありません。80年代には神戸と、たしか東京にもあったと思うのですが今はおそらくないと思います。A&Wの名物といえば、ルートビアという薬臭いドリンクで、当時はそれほど美味しいとは思わなかったのですが、なぜかその後無性に恋しくなってきました。最近私が沖縄に行くのは数年に一度ですが、行けば必ずA&Wに立ち寄りルートビアを注文します。

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2013年7月22日 月曜日

2009年9月30日(水) 1日2回の歯磨きでガンのリスクが減少

 1日2回以上歯を磨く人が口の中や食道ガンになる危険性は1回の人より3割低い・・・

 愛知県がんセンター研究所がこのような調査をまとめ、10月1日から開催される日本癌学会で発表する予定のようです。(報道は9月28日の共同通信)

 この調査は20~79歳(平均61歳)の約3,800人を対象としておこなわれています。同がんセンターを受診した人の中から、口の中やのどなどのガン(頭頸部ガン)や食道ガンに罹患した人961人と、ガンでない2,883人に対して、歯磨き、喫煙、飲酒などの習慣を調査しています。

 調査の結果、2回以上歯磨きする人は、1回の人に比べ、ガンになる危険性が約29%低く、まったく磨かない人の危険性は、2回以上磨く人の2.5倍となっています。この結果は、喫煙や飲酒といった他の因子と関係なく、「歯磨きの回数」が独立したガンの危険因子であることを強く示唆しています。

 なぜ歯磨きがガンを抑制するのか・・・。この理由に対して、同研究所は「口やのどには発がん物質とされるアセトアルデヒドを作る細菌がいる。歯磨きで細菌や発がん物質が洗い流されるので、少なくとも朝と夜に磨けば、がん予防に役立つ」とコメントしています。

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 このような調査はおそらく初めてではないでしょうか。歯磨きが齲歯(虫歯)や歯周病の予防になるのは常識ですが、ガンを抑制するとなると、歯磨きの重要性はもっと注目されるべきでしょう。

 調査には「まったく磨かない人」も対象となっています。”普通の”生活をしていて歯をまったく磨かない人はいないでしょうから、これは寝たきりなどの状態になり自力で歯を磨けない人を指しているのではないかと思われます。ということは、この調査結果は介護者にも理解してもらわなければならないことになります。

(谷口恭)

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