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2023年12月24日 日曜日
2023年12月24日 妊娠中の電子タバコは胎児発育遅延のリスクを上げない
電子タバコは有害か否か、という話になると、たいていの医師は「電子タバコに替えても有害性は変わらない」と言います。ところが、谷口医院の患者さんをみていると、少なくとも喘息症状は紙タバコから電子タバコに替えることで大きく改善します。
がんや脳血管障害などかなり長期で経過をみなければならない疾患のリスクが下がるかどうかは患者さんをみていても分かりませんが、ほとんどの医師は「電子タバコもやめましょう」と言います。
私自身も、非喫煙者から「電子タバコなら吸ってもいいんでしょうか」と尋ねられれば反対しますが、喫煙者から「電子タバコに替えた方がいいでしょうか」と相談された場合は「電子タバコでも有害性は変わらない」とは言いません。「替えられるなら替えた方がいいですよ」と助言しています。
今回紹介する研究はそんな私の助言に正当性を与えることになるかもしれません。「妊娠中に電子タバコを吸っても胎児発育遅延(Small for gestational age:SGA)のリスクが上昇しない」と結論された研究です。
医学誌「JAMA」2023年12月13日号に掲載された論文「若年層における妊娠後期の電子タバコと(従来の)喫煙(Use of E-Cigarettes and Cigarettes During Late Pregnancy Among Adolescents)」を紹介します。
研究の対象となったのは10,428人の妊娠中の10~19歳の女性です。電子タバコも含めてまったく喫煙していない女性と比べて、電子タバコのみを吸った女性と、電子タバコと紙タバコを併用した女性では退治発達遅延のリスクに差はありませんでした。
他方、紙タバコのみを吸っている女性の場合、退治発達遅延の児を出産するリスクが非喫煙者の2倍以上にもなることが分かりました。
************
だからと言って、妊娠中も電子タバコならOK、という意味ではありません。やはり、様々な疾患のリスクが指摘されている以上は可能なら完全にやめる方がいいでしょう。
ですが、「電子タバコでもリスクは変わらないからすべてやめろ」と言われれば「じゃあ、無理だから紙タバコをやめない」と考える若者もいます。
電子タバコ論争になるといつも感じるのですが、「タバコ絶対反対論者」の人たちは「とにかくすべてやめなさい」としか言いません。私の場合(谷口医院の場合)、「可能ならまずは電子タバコに替えてみませんか」と助言しています。
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|2023年12月18日 月曜日
第244回(2023年12月) なぜ「骨」への関心は低いのか
それは私がまだ医学部の学生だった頃の話。臨床実習で整形外科の外来の見学をしていたとき、整形外科医が患者さんの腰のレントゲン写真をみながら「骨折していますね」と説明しているのを聞いて、驚きました。
骨折というのは、例えば交通事故やスポーツなどで何らかの強烈な物理的な力が骨に加わって折れる、というイメージしか当時の私にはなくて「いつの間にか骨折している」なんてことがあるのか、と不思議に思ったのです。
その後、この背骨(腰椎)がいつの間にかつぶれたように骨折している「腰椎圧迫骨折」がものすごい頻度で起こっていることを知りました。日本人の有病率の正確な数字は知りませんが、80代以上だと3割くらいは圧迫骨折があると思います。実際、腰が曲がっている老人はたいていレントゲンを撮影すれば圧迫骨折が見つかります。
その後私は総合診療医となり、多くの腰椎圧迫骨折を診るようになりました。まだ40代の圧迫骨折は診たことがありませんが、50代なら経験があります。そういえば、元アイドルの松本伊代さんは2021年、2022年と2回も腰椎圧迫骨折を起こしたことが報道されました。松本伊代さんは1965年生まれですから50代で2回も骨折したことになります。しかし、それにしても不思議です。松本伊代さんだけでなくやせていれば腰椎圧迫骨折のリスクがあるのは自明なのになぜ対策が取られていなかったのでしょうか。
もうひとつ、私にとって”不可解な”骨折があります。大腿骨頸部骨折と呼ばれる、股の付け根の骨折です。こちらは腰椎圧迫骨折と異なり「いつの間にか」ではありません。骨折すれば激痛が走り、歩けなくなりますから救急搬送されるのが一般的です。たいていは転んだり、しりもちをついたりしたときの衝撃で起こり、原因というかきっかけがはっきりしています。
では私にとって何が不可解なのか。その後の展開が悲惨だからです。悲惨とまで言えば患者さんには失礼でしょうが、その後寝たきりになる事例がものすごく多いのです。手術がうまくいったとしても日常生活には何らかの制限が課せられます。寝たきりになれば、認知症のリスクが急上昇します。実際このような高齢者は珍しくなく、私は研修医の頃にアルバイトで勤務していた高齢者の病院で不思議に思っていました。なぜ、転倒→大腿骨頸部骨折→寝たきり→認知症→幸せとはいえない末期、のパターンがこんなにも多いのか。
どちらも決して稀ではなくどこにでもある腰椎圧迫骨折と大腿骨頸部骨折の共通点、それは「どちらも多くの人がリスクがあるのが分かっていながらじゅうぶんな対策をとっていない」ことです。
年をとれば骨折するのは仕方がない、という意見があるかもしれません。しかし、骨折だけが無関心なのは不思議です。なぜなら、他の年齢とともに生じやすくなる疾患、例えば、がん、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、認知症などは、多くの人たちが関心をもち、人によっては検査や予防に大金をつぎこんでいるからです。そして、多くの医師が危険性を主張し定期的な健康診断や早い受診を促します。
がんのリスクが簡単に分かると宣伝された線虫の尿検査(N-NOSE)は効果が疑わしい(というよりほとんど否定されている)のにも関わらず、谷口医院にはたくさんの問合せが寄せられます。がんに効くと謳われているいかがわしい健康商品の相談もよく聞きます。「認知症だけにはなりたくない」と必死で訴える患者さんもいます。しかし、これらに比べると骨に関心のある人はそう多くありません。
健康で長生きしたければ骨を丈夫に保つのは必須条件です。診察室でこういう話をすると「カルシウムを(ビタミンDを)摂っています」と言われることがしばしばあります。そして、「前のクリニックではビタミンDを処方されていました」と言われる人も少なくありません。しかし、こんなものは骨折の予防にはなりません。
もっとも、以前はたしかにカルシウムやビタミンDが骨折予防に有効とされていましたから患者さんがそう考えるのは無理もありません。ですが、少なくとも10年くらい前からはこれらの有用性が否定されていました。谷口医院の医療ニュース(2017年10月23日「骨折予防にビタミンDやカルシウムは無効」)でも紹介したことがあります。
こういう調査結果は繰り返し発表されていて、最近のエビデンスレベルの高い論文としては「The New England Journal of Medicine」2022年7月28日号に掲載された「中高年におけるビタミンDの補給と偶発的な骨折(Supplemental Vitamin D and Incident Fractures in Midlife and Older Adults)」があります。この研究は非常に分かりやすいのでここに紹介しておきましょう。
対象者は米国人の50歳以上の男性及び55歳以上の女性、合計25,871人(女性が50.6%)で、中央値5.3年の調査期間中に1,551人が合計1,991回骨折しています。ビタミンDを摂取したグループとしていないグループで比較すると、次のような結果が得られました。
・ビタミンD摂取グループ:12,927人中769人が骨折
・ビタミンDを摂取しないグループ:12,944人中782人が骨折
この数字をみればもはや説明はいらないでしょう。では骨折を防ぐにはどうすればいいのでしょうか。まず誰もがすぐにすべきなのは「骨塩量を計測する」です。たいていの内科または整形外科系のクリニックであれば簡単に調べることができます。谷口医院でも50歳以上の男女(特に女性)の場合は積極的に検討しています。ただ、骨粗しょう症を臨床的に疑ったときにしか保険適用されないので、男性の場合は特に60歳未満では保険適用にはなりにくいという問題はあります(その場合は自費になります)。まだ、50代前半なのに驚くほど骨が少ない人がいます。特に(松本伊代さんのように)やせている女性は要注意です。
それから、骨が脆くなるのは加齢や女性ホルモンの低下だけではありません。見逃してはいけないのが「薬剤性」です。ステロイド、抗リウマチ薬、タモキシフェン(乳がんの薬)などが有名ですが、頻度はそう多くないものの胃薬プロトンポンプ阻害薬(PPI)やSSRIと呼ばれる抗うつ薬、甲状腺ホルモン(チラーヂン)などが原因になることもあります。最近、問題になっているのはHIVの曝露前予防(PrEP)として使われる抗HIV薬です。HIVのPrEPは若い人が飲んでいるケースも目立ち、長期的にはそれなりに高いリスクがあると考えるべきです。
骨粗しょう症が見逃されていることを示すショッキングな日本の報告を紹介しておきます。「日本人の骨粗しょう症性の骨折による死亡者数は人口動態統計として公表されている数値の約19倍にも上る」というのです。医学誌「Journal of Orthopaedic Science」2023年11月18日号に掲載された論文「日本における骨粗しょう症性骨折による死亡者数:疫学調査(Deaths caused by osteoporotic fractures in Japan: An epidemiological study)」によると、2018年の人口動態統計上の骨粗しょうによる死亡者数は190例ですが、死亡診断書(死体検案書)のデータを解析すると3,437例が骨粗しょう症が原因だと判明したのです。
では骨を丈夫にするには、そして骨折を予防するにはどうすればいいか。答えは「ビタミンDを摂る」でも「シイタケなどのキノコを摂る」でもありません(ちなみに、松本伊代さんは主治医からこれらを摂るように言われていたとyoutubeで述べています)。
最も重要なのは「運動」です。それも単なるウォーキングのような軽度のものでなく負荷をかけたワークアウト(筋トレ)が重要になります。筋肉をしっかりつければ骨も丈夫になります。とにかくやせたい、と考える人が多いですが、体重があれば、それが筋肉でなく脂肪であったとしても骨は頑丈になります。とはいえ、身体全体を考えると脂肪はほどほどにして筋肉を増やさなければなりません。
骨折/骨粗鬆症の予防/治療には有効な薬もあります。もちろんカルシウムでもビタミンDでもありません。最近は効果の高い注射薬も出ていますが、より一般的なのは(そして谷口医院でもよく処方するのは)次の3種の内服薬です。
#1 女性ホルモン製剤(エストロゲン)
#2 SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)
#3 ビスフォスフォネート製剤
#1と#2は女性のみが適応となります。閉経後に急激に骨密度が低下するのはエストロゲン(女性ホルモン)が分泌されなくなるからで、当然それを補えばリスクが下がります。谷口医院ではまず#1を検討することが多いのですが、乳がんや子宮体がんなどのエピソードがある人には使えないためにその場合は#2を選択します。ただし、血栓(血の固まり)ができる病気や心筋梗塞、脳梗塞などの血管の病気のエピソードがあれば#1、#2とも使えません。
このように有効な治療があるのですが、残念ながら治療を始める前に骨折してしまう人が少なくありません。まずは骨に関心を持つこと、そして骨密度を測ることが重要です。
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|2023年12月14日 木曜日
2023年12月14日 時間制限ダイエットよりも1日1食ダイエットが有効
正午から午後8時までを食事ができる時間帯とし、残りの時間は絶食するダイエットが数年前から流行っています。16時間の絶食が求められることから「16時間ダイエット」または「オートファジーダイエット」と呼ばれることもあります。
このダイエットが有効とする研究がある一方で、効果を否定したものもあります。今回はその双方を取り上げてみましょう。
医学誌「JAMA」2023年10月27日号に掲載された論文「成人の2型糖尿病の体重減少に対する時間制限食の影響(Effect of Time-Restricted Eating on Weight Loss in Adults With Type 2 Diabetes)」では肥満かつ2型糖尿病の患者75人を対象とした研究が報告されています。
正午から午後8時のみを食事摂取可とし摂取カロリーの制限をしなかったグループは、日々の摂取カロリーを25%減らしたグループに比べ、体重減少率が高いという結果がでました。興味深いことに、糖尿病の改善率は双方のグループ間で有意な差はありませんでした。
時間制限ダイエットには効果がないとする研究も紹介しましょう。医学誌「New England Journal of Medicine」2022年4月21日号に掲載された論文「時間制限ダイエットの有無で比較したカロリー制限(Calorie Restriction with or without Time-Restricted Eating in Weight Loss)」です。
対象者は139人で調査期間は12ヶ月。この調査では時間制限をするグループにもしないグループにもカロリー制限が課せられています。参加者全員に許された1日あたりの摂取カロリーは男性1500~1800kcal、女性1200~1500kcalです。118 人(84.9%)が12 か月のフォローアップを完了しました。結果、両グループとも体重減少は認められたのですが(時間制限グループ:マイナス8.0kg、時間制限なしグループ:6.3kg)、これらに有意差はありませんでした。
この研究を取り上げたThe New York Timesは記事のタイトルを「時間制限ダイエットに効果がないことが分かった(Scientists Find No Benefit to Time-Restricted Eating)」としていますが、私はそうは捉えていません。なぜなら、この研究の対象者はダイエットには成功しているからです。ただ、時間制限をせずにカロリー制限だけしかしていないグループもダイエットに成功し、両者に有意差はなかった、と言っているわけです。
言うまでもなくカロリー制限は簡単ではありません。たとえ1日1回でも満腹感の味わえる時間制限ダイエットの方がハードルが低いわけです。そして、最初に取り上げた論文のように「時間制限が有効だ」とする結果がでた研究もあるのです。
ということはまずはやってみる価値がありそうです。実際、過去数年で谷口医院でこの16時間ダイエットを実施した患者さんは100人くらいはいて、それなりには成功した人もいます。効果はわずかですが、重要なのはこのダイエット法には危険性がなく、例えば同じものばかり食べるようなダイエットに比べると長続きしやすいという点です。夕食は仲間とアルコールと共に、という人であれば午後4時から午前0時までを食事可能な時間とすればいいわけです。
最後に「とっておきの時間制限ダイエット」をお教えしましょう。それは「1日1食ダイエット」です。この方法はすでに糖尿病があるなどで、食事の仕方に注意点がある人には不向きですが、健康な人ならそれほど危険性はありません。きちんと統計をとったわけではありませんが、谷口医院の患者さんでいえばこの方法はかなりの確率で成功します。朝と昼は水とお茶とコーヒーだけ。その代わり、夜は好きなものを好きなだけ食べる、という方法です。
ただし、健診で異常がある人やそれなりに高度な肥満のある人は先にかかりつけ医に相談することが必要です。
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|2023年12月10日 日曜日
2023年12月 そもそも自尊心とは何なのか、いらないのでは?
前回のマンスリーレポートでは、「日本人は他国の人たちと異なり、年をとればとるほど自尊心が上昇し、その代わり幸福度はどんどん低下する」ことを紹介しました。自尊心と幸福度に直接の因果関係があるとは言えないかもしれませんが、両方とも「主観」で決まることなので、あながち関連がないとは言えないのではないか、という私見を述べました。
こうなると「自尊心とは何か」が気になります。前回は自尊心が極端に高い人と低い人の特徴を挙げて、「自尊心が高ければ傲慢なナルシシストになってしまい、これが不幸せの原因である。だから謙虚さを身につけるべきだ」と結論付けました。
このように、私は「自尊心が高いこと=悪いこと」という前提に立ちましたが、文脈によっては「自尊心を高く持つべし」とするものもあります。というより、一般的には自尊心は高ければ高いほどよい、とされています。今回は、このよくわからない自尊心を掘り下げて考えてみましょう。
自尊心について最も深く学ぶのはおそらく心理学でしょう。ちなみに、臨床医学ではほとんど取り上げられず、精神医学の領域でも言葉くらいは出てくるでしょうが、自尊心についての精神医学者の研究というものを私はあまり見たことがありません。しかし、心理学では自尊心自体がテーマになり繰り返し研究されているはずです。
前回紹介した論文のタイトルにもある「ローゼンバーグ自尊心尺度」はそれなりに有名です。下記の10項目で点数をつけます。簡単にできますから未実施の人は一度試してみてください。
1. 私は、自分自身にだいたい満足している。
2. 時々、自分はまったくダメだと思うことがある。
3. 私には、けっこう長所があると感じている。
4. 私は、他の大半の人と同じくらいに物事がこなせる。
5. 私には誇れるものが大してないと感じる。
6. 時々、自分は役に立たないと強く感じることがある。
7. 自分は少なくとも他の人と同じくらい価値のある人間だと感じる。
8. 自分のことをもう少し尊敬できたらいいと思う。
9. よく、私は落ちこぼれだと思ってしまう。
10. 私は、自分のことを前向きに考えている。
上記項目1,3,4,7,10については「強くそう思う」=4点、「そう思う」=3点、「そう思わない」=2点、「強くそう思わない」=1点で点数化します。項目2, 5, 6, 8, 9は、「強くそう思う」=1点、「そう思う」=2点、「そう思わない」=3点、「強くそう思わない」=4点とします。
合計点数が20点以下であれば「自尊心が低い」、30点以上であれば「自尊心が高い」となり、日本人の平均は約25点だと言われています。ちなみに私の場合、ちょうど25点となり、「自分の自尊心は日本人の平均程度」というとてもつまらない結果となってしまいました……。
しかし、こんなもので本当に人間の自尊心が評価できるのでしょうか。はっきり言うと私は「できない」と思っています。さらに、前回引き合いにだした論文の筆者らには申し訳ないですが、この尺度が信頼できない以上、「日本人は年齢とともに自尊心が高くなる」とした結論の信ぴょう性も疑わしいと思っています。
なぜこのような質問では自尊心が正確に評価できないのか。例えば質問1の「自分自身にだいたい満足している」を考えてみましょう。これは自分自身の「何を」対象とするかで答えが大きく変わってきます。例えば「容姿」なら20代に比べて60代は「満足している」からはほど遠くなるはずです。ですが、「貯蓄」をメインに考えるなら、多くの人は容姿とは反対に20代のときよりも60代の方が満足しているわけです。
また、このような設問に「本当に正直に答えられるか」という問題もあります。そもそも人は自分自身のことをそれほどよく分かっていません。設問10のように「前向きに考えている」と言われても、「前向きなこともあるけど、慎重になって行動を控えることもあるし……」と考える人が多いのではないでしょうか。ちなみに私の場合、自分のことを「悲観主義者で前向きにはなれない」と常々考えているのですが、私をよく知る昔からの友達からは「お前ほどの楽観主義者はいない」と言われます。
というわけで、本来私は他人の悪口を言うのは好きでないのですが、ローゼンバーグさんがお考えになったこの尺度が有用とは到底思えません。
では正確に自尊心を評価する方法はないのでしょうか。日本心理学会のウェブサイトを調べてみると「顕在的自尊心と潜在的自尊心」というタイトルの記事がありました。この記事、ある意味でとても興味深いと言えます。
この記事によると、顕在的自尊心はローゼンバーグ自尊心尺度で測定することができて(ここまではOK)、国際比較ではなんと日本が最も低く、年代による変化は日本では下降傾向にあるというのです。この時点で、前回と紹介した論文とで結論が食い違っています。調査方法が異なりますが、2つの主張に整合性があるとは到底思えません。
潜在的自尊心は興味深い考えだと思いますが、紹介されている検査法がどれだけ正確なものなのかが疑問です。また、顕在的自尊心が高く潜在的自尊心が低い不安定的高自尊心者と、顕在的・潜在的自尊心の両方が高い安定的高自尊心者の分類についてはたしかにおもしろいと思いますが、果たしてそんなに単純に分類できるのか、という疑問が私には残ります。またこの記事の最後には「この論争については明確な結論が出ておらず、今後の研究が待たれるところです」という文章もあり、やはり共通のコンセンサスがあるわけではなさそうです。
結局、自尊心はどのように考えればいいのでしょうか。思い切って誤解を恐れずに私見を述べれば「自尊心なんてものを考えること自体がナンセンス」です。そもそも、日頃から「幸せになりたい」と考える人は大勢いるでしょうし、また考えるべきだと思いますが、「自尊心を高くもちたい」と考えている人がいるとは思えません。もしも、目の前に神様が現れて「幸せがほしいか」と問われれば、よほどのひねくれ者でない限り「ほしいです」と答えるでしょうが、「自尊心がほしいか」と言われて「どうしてもほしい」と答える人はどれだけいるでしょう。私なら「どっちでもいい」と答えます。「くれるならほしい」と答える人は多いでしょうが、「幸せと自尊心のどちらかを選べ」と問われれば誰もが「幸せ!」と即答するに違いありません。
過去のコラムで繰り返し述べたように(例えば「「承認されたい欲求」と「承認したくない欲求」」、「「承認欲求」から逃れる方法」)、私は「承認欲求なんて捨ててしまえばいい」と言い続けています。しかし、これは誰からも嫌われてもよいという意味ではなくて、「自身にとって大切な少数の身内から愛されていればそれでじゅうぶんであって誰からも愛されることに意味はない。身内以外からは嫌われても何の問題もない。大切なのは<変わらざる自身>を持つことだ」という意味です。
自尊心も同じようなものだと思います。つまり、「自尊心なんてどうでもよくて考えることにも意味はない。それよりもそんなことを考える暇があるなら自身にとって大切な少数の身内から認められるよう<変わらざる自身>を持つように努めればよい。もしも他人から『あいつには自尊心がない』などと咎められたとしてもそんな悪口は無視すればいい」と私は思います。
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