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2022年3月27日 日曜日
2022年3月27日 片頭痛はやはり認知症のリスク
片頭痛が認知症のリスクであることはもはや「確定」と言えそうです。
過去の医療ニュース「2021年11月8日 片頭痛は認知症のリスク」でも述べたように、片頭痛が認知症のリスクであることが大規模調査ではっきりとしました。今回、新たに大規模調査がおこなわれ、やはり片頭痛が認知症のリスクであるという結果となりましたので報告しておきます。尚、片頭痛は脳梗塞のリスクであることもすでにはっきりとしています。
医学誌「Aging Clinical and Experimental Research」2022年1月31日号に掲載された論文「片頭痛と認知症のリスク:メタアナリシスと系統的レビュー (Migraine and the risk of dementia: a meta-analysis and systematic review)」を紹介します。
この研究も、過去に発表された質が高い9つの研究を総合的にまとめなおしたメタアナリシスという方法がとられています。9つの研究のうち、7つはコホート研究(前向き研究)と呼ばれる研究です。”まだ”認知症を発症していない片頭痛のある人とない人を追跡した研究です。9つのうち2つはケースコントロール研究(後ろ向き研究)と呼ばれる方法で、”すでに”認知症を発症している人が片頭痛があったかなかったかが調べられています。
研究の全対象者は291,549人で、結果は「片頭痛があれば認知症のリスクが33%上昇する」というものです。
興味深いことに、血管性認知症のリスクが85%上昇していた、という結果も出ています。
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冒頭で紹介した医療ニュースで取り上げた研究では「片頭痛があれば認知症のリスクが34%上昇する」でしたから、ほぼ同じ結果となっていることは注目に値します。
もうひとつ注目すべき点があります。それはその過去に紹介した研究では「アルツハイマー病のリスクが2.49倍も上昇するが、血管性認知症のリスクは上昇させない」だったのに対し、今回の研究では「血管性認知症のリスクを85%も上げる」とされている点です。
いずれにしても、現在片頭痛を持っている人は注意した方がいいでしょう。注意すべきは2つ。1つは、「片頭痛の治療、というよりも予防をしっかりとおこなうこと」。もう1つは「脳梗塞や認知症の片頭痛以外のリスクを取り除くこと」です。つまり、規則正しい生活をして、禁煙して、太らないように注意し、運動を積極的におこない、知的な生活をして、社交も大切にする、といったようなことが大切というわけです。
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|2022年3月20日 日曜日
2022年3月20日 ADHDには濃いコーヒーが有効かも
「発達障害ブーム」あるいは「発達障害バブル」と呼んでもいいかもしれませんが、患者さんから「私は発達障害でしょうか」という訴えを10年ほど前からよく聞くようになり、一向に減りません。発達障害の分類については、いろいろと変更があったり、医療の範疇を離れた考えが世間で大きく広がったりして、いまだまとまっているとは言えませんが、「ADHD型とアスペルガー型がある」と考えている人が多いような印象があります。
そのADHD(注意欠陥多動性障害)にカフェインが有効かもしれない、という研究を紹介したいと思います。
医学誌「Nutrients」2022年2月号に掲載された論文「カフェインによるADHDの治療:動物研究の系統的レビュー (Effects of Caffeine Consumption on Attention Deficit Hyperactivity Disorder (ADHD) Treatment: A Systematic Review of Animal Studies)」に掲載された研究です。
論文のタイトルからわかるように、この研究は動物実験を対象としています。ですが、これまで発表された複数の研究をまとめなおした系統的レビューですから、エビデンスのレベルはまったく低いわけではありません。
結果は、カフェイン摂取により、注意力が上昇し、学習、記憶、嗅覚の識別が向上することが分かりました。しかも血圧も体重も変化していませんでした。また、この結果は神経学的に理にかなったものです。
ただし、多動性と衝動性に関するカフェインの効果は一定していません(つまり、有効とする研究と無効とする研究があるという意味です)。
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動物実験レベルの研究をそのまま鵜呑みにするわけにはいきませんが、適量で度を越さなければADHDの人(または疑っている人)がカフェインを試すのはいいかもしれません。そもそも、ADHDにはメチルフェニデートが有効であることが分かっていますから、似たような作用のあるカフェインが有効なのは頷けます。
メチルフェニデートは覚醒剤類似物質で、商品名で言えばコンサータが該当します。連日内服すれば依存症にもなり得る危険な薬で安易に服用すべきではありません。また、メチルフェニデート以外のADHDの薬も長期服用は危険性が伴うと考えた方がいいでしょう。
カフェインも大量摂取は危険であり依存性もありますが、自制の効かないものではありません。そういう意味では、今後カフェインがADHDに対する比較的安全で長期使用が可能な”薬”となるかもしれません。
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|2022年3月20日 日曜日
第223回(2022年3月) GLP-1ダイエットが危険な理由
「GLP-1ダイエット」が大流行しています。薬剤を使ったダイエットがかつてこれほど流行ったことはおそらくありません。そして、有効性が高く、また安全性も”一応は”高いのです。実際、有効性・安全性に関したエビデンス(医学的確証)も集まってきています。
しかし、このダイエットを批判する声も次第に強くなってきています。後述するように日本医師会の副会長はかなり厳しい言葉を使ってこのダイエットを非難しています。では、「やせたい」と考えている人は今後このダイエット法を実践してもいいのでしょうか。今回は、GLP-1ダイエットの有効性と危険性をまとめてみたいと思います。
まずは歴史と作用機序を簡単に振り返っておきます。
GLP-1は消化管(胃腸)から分泌されるホルモンの名前で、発見されたのは比較的新しく1983年です。炭水化物を摂取すると分泌され、膵臓のランゲルハンス島β細胞に作用してインスリンを分泌。その結果、血糖値が下がります。ですからGLP-1がきちんと分泌されていれば糖尿病を防ぐことができます。
「GLP-1ダイエット」と呼ばれていますが、この表現は正確ではありません。なぜならGLP-1とは上述したように、ヒトが分泌するホルモンの名前だからです。「GLP-1ダイエット」という言葉のなかの「GLP-1」は正確には「GLP-1受容体作動薬」を指します。つまり、GLP-1と同じように作用する薬の名前が「GLP-1受容体作動薬」であり、元々この薬は「インスリンを分泌する」わけですから糖尿病の薬です。というより、今も糖尿病の薬です。
しかし、単にインスリンを分泌するだけではなく、GLP-1作動薬には食欲抑制効果があります。さらに、中性脂肪が吸収されるのを防ぐ効果もあります。さらに……、という説明を続けると難しくなってきますから、これ以上の説明はやめておきます。ここまでをまとめると、「GLP-1作動薬は糖尿病の薬でインスリン分泌を促す。食欲も低下するからダイエットにつながる。正確にはこのダイエットは、<GLP-1受容体作動薬を使って食欲低下をもたらせるダイエット>とでも言うべきだが、一般に<GLP-1ダイエット>という名前で呼ばれている」ということになります。ここからは「GLP-1ダイエット」で通します。
さて、実際にGLP-1ダイエットはどれくらいの人が成功するのでしょうか。これには複数の信頼性の高い研究があります。ここでは比較的最近発表された論文を紹介しておきます。
医学誌「BMJ Open Diabetes Research & Care」2022年1月号に掲載された論文「GLP-1受容体作動薬を用いた英国の2型糖尿病患者の体重変化、服薬遵守、中止について(Real-world weight change, adherence, and discontinuation among patients with type 2 diabetes initiating glucagon-like peptide-1 receptor agonists in the UK)」です。
研究の対象者は589人。56.4%が女性で、年齢の中央値は54歳。BMI(体重(kg)の2乗/身長(cm))の中央値は41.2(身長170cmなら119kg)です。GLP-1ダイエットを開始し、1年間が経過した時点で「5%以上の減量」を達成したのは3人に1人(33.4%)、2年が経過した時点では43.5%でした。
1年続ければ3人に1人以上が、2年続ければ4割以上が「5%以上の減量」に成功、しかも重篤な副作用がほとんどなし、というのですからこれはかつてない有用なダイエット法です。実際、海外ではすでに大勢の肥満の人たちがこの薬の恩恵にあずかり、減量に成功しているのです。
では、このダイエットの何が問題なのでしょう。1つは「現時点で保険適用がない」ことです。GLP-1受容体作動薬は非常に高価な薬です。例えば自己注射型のビクトーザは標準的な使用量では1回0.9mgを1日1回注射します。注射剤は1本18mgで薬価は10,359円(税抜き)です。ということは1本で20日分、費用は少なくとも15,000円くらいにはなるでしょう。尚、注射型のGLP-1受容体作動薬は、ビクトーザの他に、バイエッタ(1日2回)、リキスミア(1日1回)、トルリシティ(週1回)、ビデュリオン(週1回、2022年2月販売中止)、オゼンピック(週1回)、サクセンダ(1日1回)(日本未発売で輸入品のみ、ビクトーザと同じもの)(いずれも商品名)があります。
GLP-1受容体作動薬には飲み薬も1つだけあります。リベルサス(商品名)という内服薬で、標準的な使い方は1日1錠(7mg)で、薬価は1錠334.2円(税抜き)です。自費で購入するには最低でも1錠500円くらいにはなるでしょう。
つまり、注射にしても内服にしても最低でも月に15,000円くらいはかかるのです。ただ、「この程度の値段ならやってみたい」と考える人も少なくないでしょう。今までどんな方法でも成功しなかったダイエットが、月に15,000円でかなり高い効果が期待できて、安全性も問題ないのなら始めたいという人は大勢いるに違いありません。
では、費用を納得して始めることの何が問題なのでしょうか。
2022年3月2日、日本医師会の今村聡副会長が記者会見を行い、GLP-1ダイエットを実施している医療機関が増加していることを問題視しました。同副会長は「医の倫理に反する」という言葉を使い、さらに「医師が医療機関の名の下に、このような状態に関与していることは同じ医師として大変遺憾に感じている」と憤りを隠さなかったと報道されています。
実は、今村副会長は2020年6月にも同じような記者会見を開き、これは医師会のウェブサイトにも掲載されています。このときにもやはり「医の倫理に反する」と同じ表現を使っています。
「医の倫理に反する」というこの言葉、かなりきつい表現です。これを言われた側は、「もうお前は医師じゃない」と宣告されたようなものです。では、なぜ医師会の副会長がこれほどまで尋常でない言葉を使って非難するのでしょうか。それは、一部の医療機関が金儲け主義に走っているからです。いまや美容外科のクリニックはほぼ例外なくGLP-1ダイエットに手を出しているといっていいでしょう。さらに、一部の糖尿病専門医も手を出しているようで(と、太融寺町谷口医院の患者さんが話していました。大阪にあるようです)、今村副会長の面目は丸つぶれです。
しかし、「医療機関が金儲けをしようがやせたい患者も幸せになれるのならそれでいいではないか」という意見もあります。もしもあなたがこのように感じたとすれば、実際の患者さん(というよりは”被害者”と呼んだ方がいいでしょう)を見れば必ず考えが変わります。
谷口医院に花粉症の治療目的でやってきたある初診の患者さん(30代女性)が美容クリニックでGLP-1ダイエットの処方を受けていることが分かりました。しかし、この女性、肥満どころか異常なほどやせています。ピンときたために詳しく問診してみると、案の定でした。この女性、重度の摂食障害(拒食症)があり、もともと標準体重よりも少ないのです。そこにGLP-1ダイエットを始めたために病的なやせ方をしています。ですが、本人はそれでもまだ太っていると思い込み、さらなる減量を目指すためにGLP-1ダイエットはやめられないと言います。
今に始まったことではありませんが、一部の美容クリニックはもう無茶苦茶です。「医の倫理」など考えたこともないに違いありません。
医師会副会長が憤りを隠さずに表明したように現状を放置していいはずがありません。ではどうすればいいか。答えは簡単です。まず肥満を病気と認めて(これはすでに認められています)、GLP-1ダイエットは、例えばBMI30以上を対象とし、そして保険適用とし、保険適用外の自費診療を禁止するのです。禁止にする法律をつくることはできなくても、患者を登録制として、登録がなければ製薬会社が販売しない方針をとれば事実上の禁止にすることはできます。個人輸入という抜け道は残りますが、税関での審査を厳しくすればある程度は解決します。
「医の倫理」などとうに失われている現実に目を向けなければなりません。規則を厳しくすることでしか薬のまともな処方ひとつできないのが現在の日本の医師の実情というわけです。
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|2022年3月10日 木曜日
2022年3月 『総合診療医がみる「性」のプライマリ・ケア』上梓にあたり
2022年3月5日、『総合診療医がみる「性」のプライマリ・ケア』という本を上梓しました。一応、医学書というカテゴリーにはなりますが、太融寺町谷口医院をオープンして15年が経過した今、人の身体と精神を診察する上で、そして人間そのものを考える上で「性」がいかに大切かという観点からまとめた本です。
私の文章を昔から読んでくれている人はもう聞き飽きたと思いますが、私自身が医師を目指すようになったのは医学部の4年生になってからという遅さで、医学部入学時には医師ではなく研究者を目指していました。研究したかったのは「人間の思考、行動、感情」といったもので、一言で言えば「人間とは何か」を知りたかったのです。
私は10代の頃からこの「疑問」に取りつかれていて、高校生の頃は「人は何のために生きているのか」「自分はどこに行くべきなのか」「自分が生涯をかけてやるべきことはあるのか、あるとすればそれは何なのか」といったことを四六時中考えていました。その時に出た「とりあえずの結論」は、「ここにいてはいけない」でした。
つまり、「こんな田舎にいても自分の人生を無駄に過ごすだけだ」と考え、都心部に出ることだけを夢見るようになったのです。高校生の頃、大学に(少なくとも偏差値の高い大学に)行けるような学力はなく、このまま卒業して地元の工場で働いて、ささやかな楽しみは車をいじることとパチンコと週末のスナック通いと……、とそんな生活を想像すると耐えられなくなったのです。
なにしろ、ファストフードは1軒もなく(私が卒業してからマクドナルドができたようです)、喫茶店が数軒あるだけ、映画館はときどきできてもすぐにつぶれ、貸しレコード屋が1軒のみ、とそんな田舎です。高校を卒業すれば、堂々とパチンコ店に入れることと、スナックとやらに行けることくらしか娯楽は増えません。
その数年後には「勉強が好き」になった私ですが、高校生の頃、勉強は最も嫌なもので楽しいと思ったことなど一度もありません。模擬試験の偏差値が50を超えることはほとんどなく、英語と数学のクラスは成績別でしたが、私はついに最後まで上のクラスには行けませんでした。高3の12月に返って来た河合塾の全統記述模試では総合で偏差値が40です。
しかし後がない私は「都会に出る」ことだけを心の糧に高3の12月から猛勉強を開始しました。高3の夏休みに見学に行った関西学院大学(以下「関学」)のとても綺麗なキャンパスを思い出し、時計台の前の芝生で寝そべっている自分を想像し、勉強に嫌気がさしてくると関学のパンフレットを取り出してやる気を奮い立たせ、そして、勉強する内容は関学の赤本過去9年分のほぼ丸暗記です。
この方法で合格できた私は、「やればできる」という感覚をつかんだような気がしました。その後、関学時代も就職してからも「やればできる」をモットーに、苦手だった英語を克服し、一見無理にみえる仕事にも取り組むようになりました。会社員時代は新しいプロジェクトを自分で提案し、キーパーソンへの根回しなど人間関係でも「やればできる」の精神で突き進みました。医学部受験も「やればできる」を信じました。
「やればできる」は使い古された表現なので、いつしか「no pain, no gain」を口癖のようにしていました。この言葉も受け売りですが、韻を踏んでいるところが気に入ったのです。きっかけは、たしかリチャード・ブランソンの自叙伝だったと思います。
「医学部受験など真剣になれば誰にでも可能だ」、と当時の私は言い続けていました。そして、その考えをまとめたのが『偏差値40からの医学部再受験』という本で、2002年、私が研修医1年目のときに出版しました。この本はよく売れて改訂版も3度ほど出版され、全国から多くの手紙やメールをいただきました。なかにはこの本を持って私の職場まで会いに来られた人もいました。本を持ってきて「サインをしてください」と言われるのです。
こういうときはたいてい「何か一言書いてください」と依頼されるので、私はいつも「no pain, no gain」と書いていました。
さて、冒頭で述べたように最近新しい本を上梓しました。現在谷口医院に勉強に来ているある医師にこの本をプレゼントしたとき「何か一言書いてください」と言われました。本にサインをするのは久しぶりだったので、以前のように「no pain, no gain」と書こうと一瞬思ったのですが、同時に心のなかから「やめておけ」という声が聞こえてきました。
なぜか。それは現在の私がもはや「no pain, no gain」が正しいと思っていないからです。今年54歳になる今となって思うのは、「人生は努力だけではどうにもならないことがある」ということで、より正確に言えば「努力できること自体が幸運だ」となります。
過去のコラム「『偏差値40からの医学部再受験』は間違いだった」でも述べたように、私はこれまでの人生で、不幸としかいいようのない運命の人たちに出会ってきました。もちろん、私が直接知らない人のなかにも「不幸」以外に言葉が見つからないような境遇の人は世界中にたくさんいます。ある日突然、戦争が始まり難民になることだってありますし、肌の色が原因でいきなり暴力の犠牲になったり、突然不治の病を宣告されたり、自分に責任のない交通事故の犠牲となり障害を負ったり……、とそういったことはいくらでもあります。そのような運命に遭遇した人に向かって「no pain, no gain」などと言えるわけがありません。
その過去のコラムで述べたように、「努力ができるのも幸運に恵まれたから」であり、「ならば与えられた境遇で精一杯のことをやる」のが正しい生き方ではないかといつしか考えるようになりました。シェークスピアの名言「All the world’s a stage」が示すように「この世のすべては舞台だ」と考え、与えられた役割を演じるのです。
私が総合診療医を目指すようになったのは、研修医の頃に訪れたタイのエイズホスピスで出会った欧米の総合診療医たちの影響です。彼(女)らは、患者さんの訴えをすべて聞き入れ、日本の専門医がよく口にする「それはうちの科じゃありません」というセリフを決して言いません。たいていの訴えはきちんと聞いて診察・治療をおこない、自身で診られない症状や疾患についても何らかの助言をおこないます。そういった診療の姿をみるにつれ、「これが医師が患者を診るべき姿だ」と直感した私は帰国後、総合診療医になることを決意しました。
その後は決意が揺らぐことなく総合診療医の道を進んできました。どのような患者さんのどのような訴えも聞くように努めています。患者さんとの距離は近くなり、家族や親友にも話していないようなことを聞く機会もよくあります。もちろん話を聞くだけでは意味がなく、その患者さんにとって最善の治療をおこなわなければなりません。そのための知識と技術の吸収をやめることはできません。
そういった診療を15年以上続けてきて思うことのひとつに「<性>は人間にとってとても大切なこと」があります。患者さんの訴えの”裏側”には「性」が隠れていることが多々あるのです。また、生活習慣の改善にはパートナーの協力が得られるか、パートナーのために治療に前向きになることはできるか、そもそもパートナーはいるのか、性的指向は同性か異性か、もしかすると性自認が揺らいでいるということはないか、リビドーがその人の行動に影響を与えていることはないか、といったことを考えるべきこともあります。
医学部入学、研究者から医師への進路変更、タイでの総合診療医との出会い、帰国後の大勢の患者さんとの出会いなどの運命を通して、培ってきた経験を他人に伝え、そして与えられた”舞台”で役割を演じるのが今の自分の運命だと思っています。
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