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2015年8月28日 金曜日

2015年8月29日 睡眠薬使用者の自動車事故

 睡眠薬を使用している人は自動車事故を起こしやすい・・・。

 なんだ、当たり前じゃないか、と思いますが、これを主張している論文を読んで、私はある患者さんのことを思いだしました。そのことは後で述べるとして、まずはこの研究を簡単に紹介したいと思います。研究は医学誌『American Journal of Public Health』 2015年8月号(オンライン版)に掲載されました(注1)。

 米国シアトル大学の研究チームが合計409,171人のドライバーの調査をおこないました。対象者はワシントン州の運転免許証を2003年~2008年に取得し少なくとも1年間以上保持した21歳以上の成人です。自動車事故と下記の3つの睡眠・鎮静薬との関係が調べられています。結果は下記のとおりで、数字はその薬を使うことによって事故を起こすリスクがどれくらい上がるかを示しています。

・トラゾドン(商品名は「レスリン」「デジレル」「アンデプレ」) 1.91倍
・ゾルピデム(商品名は「マイスリー」「ゾルピデム」) 2.20倍
・temazepam(日本では未発売) 1.27倍

 研究チームは「睡眠薬の新たな使用が自動車事故のリスクに関連がある」と結論づけて、処方する医師は「睡眠薬使用の期間と運転のリスクを説明しなければならない」と述べています。

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 ゾルピデム(マイスリー)は、日本で最も処方されている睡眠薬の1種です。即効性がありかつ「短時間作用型」であることから、寝付きが悪いという人によく処方されます。「短時間型だから翌日に残ることもない」と言われています。

 ところが、今回の結果は自動車事故を起こすリスクが2.20倍と大きく上昇しています。さらに驚くのはここからです。睡眠薬の多くは「ベンゾジアゼピン系」と呼ばれるもので、ベンゾジアゼピン系薬剤は「依存性」と「反跳性」に注意しなければなりません。「反跳性」とは、以前にも増して不眠の程度が悪化することを言います。

 ゾルピデム(マイスリー)は、ベンゾジアゼピン受容体に結合することで作用しますが、ベンゾジアゼピンには入りません。そのため「非ベンゾジアゼピン系」と呼ばれます。ベンゾジアゼピンでないのだから安全性は高いのではないかという意見があるのですが、このデータをみると、安全ではないということになります。

 日本では発売されていませんが今回の研究に加えられたtemazepamはベンゾジアゼピン系です。そしてtemazepamのリスクはゾルピデムよりも低くなっています。ということは、非ベンゾジアゼピン系のゾルピデムはベンゾジアゼピン系睡眠薬よりもむしろ自動車事故のリスクが高いということになります。

 また、もうひとつ研究に加えられたトラゾドンは、睡眠薬として使用するのではなく、ある程度進行した「うつ病」に用いる薬剤です。ゾルピデム(マイスリー)は、このような進行したうつ病に用いる薬剤よりも自動車事故のリスクが高いということになります。

 以前、ゾルピデム(マイスリー)が原因で起こってしまった悲惨な事故(事件)について紹介しました(注2)。ただ、マイスリーばかりが否定的な情報で目立ちますが、注意しなければならない睡眠薬はもちろんマイスリーだけではありません。少なくともベンゾジアゼピン系睡眠薬はすべて注意が必要です。

 本文の冒頭で紹介した私が思い出した患者さんは「マイスリーはすぐに効果が切れるから翌日の運転は大丈夫。前の病院でも処方してくれたんだからここでも出してくれ」と何度も訴えました。私は、「自覚がないとしても判断力が落ちることもあるから運転は危険。運転する人には当院では処方できない」と言うと怒って帰って行きました・・・。

 当院の患者さんに対しては、ベンゾジアゼピン系を減らして、依存性や反跳性のない睡眠薬に切り替えていくよう助言しています。

注1:この論文のタイトルは「Sedative Hypnotic Medication Use and the Risk of Motor Vehicle Crash」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://ajph.aphapublications.org/doi/abs/10.2105/AJPH.2015.302723

注2:マイスリーが引き起こした事件(事故)については下記を参照ください。

はやりの病気第124回(2013年12月)「睡眠薬の恐怖」

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2015年8月28日 金曜日

2015年8月28日 コーヒーが悪性黒色腫を予防

 2~3年に一度程度でしょうか。「このホクロがガンではないかと思って受診しました」という患者さんが、短い期間に集中して受診されることがあり、この夏がそうでした。医師になりこの現象を何度か経験しましたが、これはまず間違いなく何かのテレビ番組で「ホクロと思っていたが実はガンだった。あなたは大丈夫ですか?」というようなものが放送されたからです。

 大半はガンではなく「ただのホクロ」なのですが、たしかに一部はガンが疑わしい症例があります。当院でいえば年間1人くらいはホクロに見えるガン、つまり「悪性黒色腫(マリグナント・メラノーマ)」が見つかります。

 カフェインおよびカフェイン入りコーヒーが悪性黒色腫のリスクを下げる・・・

 このような嬉しい研究結果が米国ハーバード大学の研究チームによって導かれました。医学誌『Epidemiology』2015年7月10日(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 研究は過去に実施された3つの大規模研究を調べ直すかたちをとっています。3つの研究とは、①女性89,220人を対象とし1991~2009年に実施された「Nurses’ Health Study II」、②女性74,666人を対象とし1980~2009年に実施された「Nurses’ Health Study」、③男性39,424人を対象とし1986~2008年に実施された「Health Professionals Follow-up Study」です。

 調査機関中に合計2,254人に悪性黒色腫が発生しています。カフェイン摂取量と悪性黒色腫の発生リスクについて検討すると、カフェイン摂取が多いグループでは悪性黒色腫の発症率が有意に低い(0.78倍)という結果が出たようです。ただし性差があり、女性では0.70倍とよりリスクが低いのに対し、男性は0.94倍とそれほど差はでていません。

 悪性黒色腫は全身の皮膚のどこにでも発症します。今回の研究では部位ごとの検討もおこなわれています。コーヒーでリスクが下がったのは、頭部、首、四肢など露光部の悪性黒色腫であり、日光があたらない背中や腹部などではあまり差がなかったようです。

 また、この研究はカフェイン抜きのコーヒーとの関連性も調べられています。カフェイン抜きのコーヒーでは悪性黒色腫のリスクが下がらなかったようです。

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 コーヒーがメラニンの合成を抑制し「シミ」を抑制するということはしばしば指摘されることであり、このサイトでは日本の研究結果を紹介したことがあります(下記医療ニュース参照)。今回の研究で露光部の悪性黒色腫のリスクが特に低下するという結果がでたということは、「コーヒーが紫外線から肌を守る」ということを裏付けています。

 また、コーヒーが「基底細胞ガン」という皮膚ガンのリスクを下げるという研究もあります(下記医療ニュース参照)。基底細胞ガンのリスクもまた「長期間の日光暴露」です。

 紹介・報告が偏らないよう、コーヒーが健康に悪いという研究も紹介してきましたが(下記医療ニュース参照)、トータルでみればコーヒーがガンのリスクを下げ、生活習慣病の予防をおこない、皮膚にも好影響を与えるということはどうやら間違いなさそうです。

注1:この論文のタイトルは「Caffeine Intake, Coffee Consumption, and Risk of Cutaneous Malignant Melanoma.」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://journals.lww.com/epidem/Abstract/publishahead/Caffeine_Intake,_Coffee_Consumption,_and_Risk_of.99164.aspx

参考:

はやりの病気
第22回(2005年12月)「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
第30回(2006年4月)「コーヒー摂取で心筋梗塞!? 」

メディカルエッセイ
第105回(2011年10月)「お茶とコーヒーとチョコレート」

医療ニュース
2014年8月22日「コーヒーで顔のシミも減少」
2014年6月30日「コーヒーで基底細胞癌のリスクが43%も減少」
2013年9月2日「コーヒーの飲み過ぎで死亡リスク増加?」
2013年4月18日「コーヒーでも緑茶でも脳卒中のリスク低減」
2013年1月8日「コーヒーで口腔ガン・咽頭ガンの死亡リスク低下」
2012年10月1日「コーヒーは消化管疾患と無関係」
2008年9月13日「子宮体癌の予防にコーヒーを」
2007年9月3日「コーヒーは肝臓癌のリスクを下げる」

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2015年8月21日 金曜日

第151回(2015年8月) 二人の医師が死亡したトライアスロン

 マラソンやトライアスロンのブームは加速し続けているような印象があります。そして、あまり報道はされませんが、大きなマラソン大会やトライアスロンの大会には事故が少なくありません。しかも心肺停止に至るものも珍しくはなく、なかには死に至ることもあります。

 2015年7月19日、鳥取県米子市皆生(かいけ)で開催された「第35回全日本トライアスロン皆生大会」に参加した愛知県一宮市の医師、則武克彦さん(56歳)がスイム中に意識を失い死亡しました。同日に山形県鶴岡市鼠ケ関(ねずがせき)で開催された「温海トライアスロン大会」では、同市の開業医、今野拓さん(48歳)がやはりスイム中に意識を失い死亡しました。

 マラソンやトライアスロンでの死亡事故はあまり報じられませんが、今回一般紙で二人の死亡が報道されたのは、職業が医師だからでしょうか。つまり、自分の健康管理ができている(と思われている)医師が死亡したために取り上げるべきとマスコミが判断したのかもしれません。

 ここでこういったスポーツがどれだけ危険なものかを考えてみたいと思います。トライアスロンの方がマラソンよりも死亡事故率が高いのはほぼ間違いないでしょうが、トライアスロンについてはきちんとしたデータがないこともあり、競技人口の多いマラソンでまずは考えてみたいと思います。

 フルマラソンでは、だいたい10万人に1人程度の割合でレース中に心肺停止が起こると言われています。日本でマラソンが急激に普及したのは2007年に第1回が開催された東京マラソンがきっかけとなったと思われます。その後全国で一般市民が参加できるマラソン大会が相次いで開催されるようになりました。

 私の知る限り、マラソンブームが起こった2007年以降、大きな大会での死亡事故というのはあまりなく、全国紙レベルで報道されたのは、2015年4月に長野県飯田市で開催された「天竜峡温泉健康マラソン大会」で60代の男性が死亡した事故くらいではないかと思います。

 しかし「死亡」にまではいたらなくても「心肺停止」になりその後医療者が蘇生をおこなったというケースはけっこうあります。最も有名なのは、2009年の東京マラソンで心筋梗塞を起こし致死的な不整脈がでたものの救護班の迅速な対応で一命を取り留めたタレントの松村邦洋さんだと思いますが、有名人でなく一般人が心肺停止を起こす事故は報道されないだけであって珍しくはありません。(そういった情報は医療者から伝わってきます)

 ランニングの場合、危険なのは初心者ではなく中堅からベテランのランナーです。そして危険なのは30km、とりわけ35kmを過ぎてからです。1980年代以降、日本での死亡例は数件程度ですが、心肺停止ではおそらく平均すると1つ大会があれば1件程度は起こっているのではないかと思われます。

 私は一度大阪マラソンの救護班に参加したことがあります。大会では5kmごとに班が設置され、そこにはAED(心肺停止時に電気ショックを与える器械)を置いていますがそれだけではありません。自転車にAEDを積んで、実際にコースを巡回する医師もいます。また、救急車はいつでも発動できるように待機しています。これだけの準備をしますから、レース中に突然倒れ心肺停止が起こっても助かる可能性が高いのです。

 日頃私が診察している患者さんのなかにも、フルマラソンを趣味にしている人、トライアスロンに果敢に挑む人、なかには100kmのウルトラマラソンを目標にしている人もいます。健康のために運動をおこなうことは非常にいいことなのですが、度を超えると危険性が増します。

 運動が健康にいいのは自明であり、「運動が身体に悪い」と考えている医療者も一部いるようですが、”適度な”運動が健康に有用であるということは世界中の研究で明らかになっています。体重が落ちなくても運動を続けることで生活習慣病のリスクが低減できることも判ってきています(注1)。

 しかし、運動のやりすぎが健康を害するどころか危険なのもまた自明です(注2)。毎日トライアスロンに参加することを想像してみれば明らかでしょう。では、どの程度の運動が理想なのでしょうか。これについては年齢、性別、元々の運動能力や持っている疾患によって変わってきますから一概には言うことはできずかなりの個人差があります。

 トライアスロンの他の競技をみてみましょう。同日に別の大会で二人の医師を死にいたらしめた「スイム」が危険なのは明らかです。とはいえ、私は「水泳」を否定したいわけではありません。プールで自分のペースで泳ぐのはすぐれた有酸素運動ですし、肩周囲や大腿の筋肉も鍛えられますから同時に筋トレもできるわけで、ランニングよりもむしろ有効な運動ともいえます。(ランニングでは上半身の筋肉強化はほとんどできません)

 膝の痛みや腰痛がありジョギングができないという人も、プールで自分のペースで歩くという方法ならおこなえます。フィットネスクラブでは、水泳教室の他にも、水中でのダンスやエアロビクスのコースもあります。プールでの運動は(ある程度のお金は必要でしょうが)是非ともすすめたいものです。

 しかしながら、トライアスロンのスイムはそう勧められるものではありません。まず海での水泳の危険性はプールとは比較になりません。それに、トライアスロンでは、少しでも前に行こうとする人が少なくなく、そのため押し合いへしあい、というかもっと言うと殴る蹴るといった格闘技に近いことも実際にあります。意図的ではなかったとしても、たとえばキックした足が他人の頭にあたり脳震盪を起こすということもあり得るのです。

 トライアスロンのバイク(自転車)を考えてみましょう。バイクでは私の知る限り、日本の大会での死亡事故はないと思います。しかし、骨折を伴う事故は珍しくはありません。また、大会では自動車との交通事故はないでしょうが、当然のことながら練習中には自動車との接触に注意しなければなりません。実際、練習中に交通事故で死亡している人は稀ではありません。なかには駐車中の車に激突して即死したような例もあります。

 マラソンやトライアスロンの大会に出ようと思っているんです・・・。患者さんからそのような相談をされたとき、返答に困ることがあります。特に負けず嫌いで頑張り屋の性格の人の場合、何と助言しようか躊躇することがあります。こういった大会はゴールしたときの感動が大きいですし、大会を励みに練習すれば健康の向上にも寄与するのは事実です。

 しかしながら、同時に危険性も理解してもらわねばなりません。心肺停止のリスク以外にも熱中症や外傷、低体温のリスクなどもあります。ハーフマラソン程度なら走行中の水分補給すら絶対必要というわけではありませんが、フルマラソンになってくると水分補給は必須ですし塩分の補給も考える必要がでてきます。そのため、練習はもちろん、大会中の身体の管理も簡単ではないのです。

 私が中2のとき、フルマラソンの距離42.195kmは「必ずテストに出すから覚えておけ」と先生に言われ、何度も口ずさんで記憶しました。42.195というこの数字について、最近ある患者さんから興味深い覚え方を教えてもらいました。

 死(4)に(2)行く(19)カクゴ(5)と覚えるそうです。

注1 1つ研究を紹介しておきます。医学誌『Hepatology』2015年2月17日号(オンライン版)に掲載された論文です。たとえ体重が落ちなくても運動が脂肪肝を改善するとしたもので、タイトルは「Moderate to vigorous physical activity volume is an important factor for managing nonalcoholic fatty liver disease: a retrospective study.」で下記のURLで概要を読むことができます。

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/hep.27544/abstract

注2:運動のやりすぎが危険とする研究についても紹介しておきます。医学誌『Mayo Clinic Proceedings』2012年6月号(オンライン版)に掲載された論文でタイトルは「Potential Adverse Cardiovascular Effects From Excessive Endurance Exercise」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.mayoclinicproceedings.org/article/S0025-6196%2812%2900473-9/abstract

医学誌『Heart Disease』2014年3月4月号(オンライン版)では、「Study finds that long-term participation in marathon training/racing is paradoxically associated with increased coronary plaque volume」というタイトルで、運動のしすぎが心疾患を引き起こす可能性があることを述べています。下記URLを参照ください。

http://www.medhelp.org/heart-disease/articles/Study-Finds-Male-Marathon-Runners-Have-Increased-Coronary-Plaque-Buildup/1174?page=2

また、『The Wall Street Journal』紙2013年5月24日号(オンライン版)では、「The Exercise Equivalent of a Cheeseburger?」(運動はチーズバーガーと同じ?)というタイトルで過度な運動の危険性を報じています。

http://www.wsj.com/articles/SB10001424127887323975004578501150442565788

参考:はやりの病気第123回(2013年11月)「マラソンに伴う健康被害と利点」

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2015年8月21日 金曜日

第144回(2015年8月)増加する野菜・果物アレルギー

 先日、3歳児の食物アレルギーが増加しているという調査結果を東京都が発表し、このサイトでも報告しました(注1)。そのときも述べたように、食物アレルギーが増えているのは小児だけではありません。成人の食物アレルギーもほぼ確実に増加しています。

 成人については東京都の調査のようなきちんとしたものをあまりみたことがなく、具体的な数字を示して論じることはできないのですが、私の印象でいえば、ここ数年間で確実に増加しているのは「野菜と果物のアレルギー」です。

 通常、食物アレルギーというのは重症化(アナフィラキシー)することが少なくなく、喘息発作や意識消失が生じることもあり、最悪の場合は死に至ることもあります。2012年に東京都調布市の小学5年生の女子生徒がチーズ入りのチジミを食べてアナフィラキシーを起こし死亡した事故はまだ記憶に新しいでしょう。

 ですから、食物アレルギーの確定がついている場合、あるいは確定までいたらなくても可能性が強い場合は、その食物を制限する(一切食べない)のが原則ということになります。調布市の小学生はチーズや卵にアレルギーがあることが判っていてあらかじめこれらを除去したチジミが出されていたのですが「おかわり」のチジミにはチーズが入っていたそうです。

 成人の場合、好きでたくさん食べ続けたものでアレルギーが生じることが多く、具体的にはエビ、カニ、ピーナッツ、ソバ、小麦(注2)、魚貝類(注3)などが多いといえます。これらを「今後一生食べられない」と言われたときに大変なショックを受ける人は少なくありません。

 今回は食物アレルギーのなかでも「野菜と果物のアレルギー」をとりあげます。これらのアレルギーはエビや小麦などのような従来のアレルギーとは症状が随分と異なります。従来のアレルギーというのは食べてから10~15分程度でじんましんや喘息などの全身症状が生じ、重症化すると死に至ることもあるもので、調布市の小学生もこのアレルギーに相当します。これを「即時型アレルギー」と呼びます。

 野菜・果物アレルギーは例外がないわけではありませんがそれほど重症化しません。症状としては口のなかに違和感・不快感が生じる程度なのです。しかも、症状出現時に口のなかを見せてもらっても視診上の異常はまったくありません。このような疾患を「口腔内アレルギー症候群」と呼ぶのですが、野菜・果物アレルギーと口腔内アレルギー症候群は事実上ほぼ同じものを指しています。

 果物のアレルギーには、食べてから2日くらいたってから口の周りに湿疹がおこるものがあり、頻度ではおそらくマンゴーが一番多いと思いますが、これは口腔内アレルギー症候群とは異なります。口の周りの湿疹は、かぶれの一種であり、食べるときに口の周りにマンゴーのエキスが付着することが原因です。したがって熟れたマンゴーにかぶりつけば生じますが、小さくカットしたものを行儀よく口に入れればアレルギー症状はでません。ただし、マンゴーを食べて口腔内アレルギー症候群を起こすこともあります。

 では、野菜・果物アレルギーはどのような野菜・果物で起こりやすいのかをみていきましょう。

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の症例でいえば、圧倒的に多い3つが、アボカド、キウイ、バナナです。次に多いのが、クリ、リンゴ、メロン、トマト、セロリ、パパイヤ、モモ、ナシあたりだと思います。これら以外にも起こりうるものを教科書も参照して並べてみると、ニンジン、(生の)ジャガイモ、アプリコット、チェリー、プラム、イチジク、ブドウ、イチゴ、パイナップル、パッション、ピーマン、あたりが挙げられると思います。

 これらを食べてしばらくすると口のなかに違和感・不快感が生じたときは、口腔内アレルギー症候群を発症している可能性があります。では、一度でもこういった症状が生ずれば、今後その食べ物を一生避けなければならないのでしょうか。

 実はこれは大変むつかしい問題です。谷口医院の患者さんをみていると、たとえば最初はキウイだけだったのに、そのうちモモでもリンゴでも・・・、となっていくケースが少なくありません。数多い野菜・果物のなかで1つか2つだけであれば避けることに問題がないかもしれませんが(それでも好きな果物で起こることが多い!)、あれもこれも避けて・・・、となると、そのうち食べられる野菜・果物がなくなってしまいます。

 では重症度を測定してみてアレルギーの反応が強いものを避けよう、という考えがでてきますが、これもそう単純にはいきません。アレルギーの血液検査というのはあくまでも参考であり絶対視すべきでないということは過去に述べたことがあります(注4)。血液検査でIgE抗体が陽性であったとしても必ずしもアレルギー反応が生じるとは限らないのです。(IgG抗体はまったくあてになりません)

 野菜・果物アレルギーの場合、症状がでていてアレルギーであることはあきらかなのに抗体価がさほど上がらない、というケースもあります。このため、より正確に検査をおこなおうと思えば、皮膚のテストを実施する必要があります。これは特殊な針を該当する野菜や果物に刺して、その次にその針を皮膚に刺す検査です。しばらくして赤く腫れてくればアレルギーがあると考えられます。ただし、この検査は果物を用意しなければなりませんし、何かと手間がかかるために実施している医療機関はあまり多くないと思います。(谷口医院では現在検討中ですが現時点では実施していません)

 ですから、野菜・果物のアレルギーの診断は「問診」でおこなうのが現実的ということになります。一度、アレルギーを疑う軽度の症状が出現し、その次に同じものを食べていきなり重症化、ということは非常に考えにくいために、谷口医院では全例に「完全除去」を指導していません。もしも症状がでた(かもしれない)ときに薬を飲んでもらうという方法もありますから、それぞれの患者さんの重症度を勘案して検討していくことになります。

 野菜・果物アレルギーで知っておくべき重要なことが3つあります。

 1つは、頻度は少ないとはいえ、重症化がないわけではないということです。重症化することがある野菜・果物として、バナナ、アボカド、クリがあります。また野菜にも果物にも当てはまらないと思いますが、ソバとピーナッツでは全身症状が出現することがしばしばあります。

 2つめは、野菜・果物アレルギーがあるとラテックスアレルギーを起こしやすくなるということです。その逆に、ラテックスアレルギーがあると野菜・果物アレルギーを起こしやすいということもわかっています。これは、野菜・果物とラテックスの表面の蛋白質の構造が似ているからです。野菜・果物アレルギーに重症化は少ないですが、ラテックスアレルギーは海外では死亡例もあります。ラテックスアレルギーを併発しやすい野菜・果物アレルギーの原因としては、バナナ、アボカド、クリ、キウイ、セロリ、マンゴー、パッション、ピーマンなどがあります(注5)。

 3つめは、花粉症があると野菜・果物アレルギーが生じやすいということです。ラテックスと同じように、ある種の花粉と野菜・果物の表面の蛋白質の構造が似ているのです。花粉症といってもスギやヒノキの花粉症があれば生じやすいわけではありません。

 私の印象でいえば、頻度としてはシラカバが一番多いといえます。シラカバに反応する人は、リンゴ、モモ、ナシ、チェリーなどでアレルギーがでやすいのです。そのため私はこれら果物にアレルギーがありそうな人には出身地を聞くようにしています。すると、かなりの確率で彼(女)らは北海道から東北地方、北関東の出身なのです。シラカバは関西にはありませんし、リンゴやモモ、ナシ、チェリーは北日本でよく採れるものです。シラカバ以外では、全国に分布している花粉症の原因の樹木にオオバヤシャブシとハンノキがあり、これらの花粉に反応する人も野菜・果物アレルギーを起こしやすいと言われています(注6)。

 先に述べたように、例外がないわけではありませんが、一般に野菜・果物アレルギーは重症化することはそう多くありません。ですから絶対に除去しなければならないというわけでもありません。どのように対策を立てていくべきかについて、気になる人は一度かかりつけ医に相談してみてください。

注1:詳しくは下記「医療ニュース」を参照ください。

医療ニュース(2015年8月3日)「食物アレルギーが急増」

注2:このサイトで何度も紹介しましたからここでは省略しますが、「茶のしずく石けん」などに含まれていたコムギによりコムギアレルギーが生じ、その後小麦製品が一切食べられなくなったという人が相次ぎました。現在では再び小麦製品が食べられるようになっている人もいます。

参照:はやりの病気第94回(2011年6月)「小麦依存性運動誘発性アナフィラキシー」

注3:魚貝類のアレルギーは魚そのものよりも魚に寄生するアニサキスによるアレルギーの方が多いといえます。また古い魚などで蕁麻疹が生じることもあります。詳しくは下記コラムを参照ください。

はやりの病気第98回(2011年10月)「いろいろな魚介類のアレルギー」

注4:詳しくは下記「医療ニュース」を参照ください。

医療ニュース(2014年12月25日)「「遅延型食物アレルギー」に騙されないで!」

注5:下記「はやりの病気」も参照ください。ラテックスに触れる機会が多いのは、歯科医院で治療を受けるとき(衛生士や歯科医師は通常ラテックス製の手袋を用いています)、ゴム風船(甲子園球場でジェット風船を膨らませると口がかゆくなるという訴えがあります)、あとはコンドームも要注意です。

はやりの病気第35回(2006年7月)「ラテックスアレルギー」

注6(2017年3月25日追記):
花粉症と野菜・果物アレルギーを大まかに分類すると次の4つになります。尚、このコラムを書いた2015年8月時点では、本文にあるように、野菜・果物アレルギーは関東出身者に多い印象がありましたが、その後患者さんが急増し、関西出身者にもバラ科のアレルギーが増えています。また、最近重症化が目立つのが豆乳アレルギー(ハンノキ花粉症もあります)及びスパイスアレルギー(ヨモギ花粉症もあります)です。

◎カバノキ科(シラカバ、ハンノキ、オオバヤシャブシ)
バラ科(リンゴ、西洋ナシ、サクランボ、モモ、スモモ、アンズ、アーモンド)
セリ科(セロリ、ニンジン)
ナス科(ジャガイモ)
マメ科(大豆、ピーナッツ)
マタタビ科(キウイ)
カバノキ科(ヘーゼルナッツ)
ウルシ科(マンゴー)
シシトウガラシ

◎ヒノキ科(スギ、ヒノキ)
ナス科(トマト)

◎イネ科(カモガヤ)
ウリ科(メロン、スイカ)
ナス科(トマト、ジャガイモ)
マタタビ科(キウイ)
ミカン科(ミカン、オレンジなど)
マメ科(ピーナッツ)

◎キク科(キク、ヨモギ、ブタクサ)
セリ科(セロリ、ニンジン)
ウリ科(メロン、スイカ、カンタループ、ズッキーニ、キュウリ)
バショウ科(バナナ)
スパイスなど

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2015年8月7日 金曜日

2015年8月 お金に困らない生き方~4つの秘訣~(中編)

 お金に困らない生き方として、前回は「タイで幸せをつかんだ日本人の高齢者」の話をしました。この男性は、年金の受取ができるようになり、ホームレス同然の生活から一気にお金持ちになったのです。しかし一方で、前回も述べたように、月額12万円の年金を受給していた東京都の男性は新幹線の中で焼身自殺を図っています。タイで幸せになった男性の年金額は分かりませんが、定年前にタイに渡航しているようですから受給額は東京都の男性とそう変わらないと思われます。

 同じような受給額でこれほどの差が出るのは興味深いといえます。新幹線で自殺した男性は12万円を生活できないレベルと考え、タイで幸せになった男性はリッチな生活をしているのです。(ただし、前回述べたように若い女性と結婚して家を建てたというのは未確認情報で私の「推測」にすぎませんが・・)

 ここで疑問が出てくると思います。「月収12万円でタイに渡ったとして誰もが幸せになれるわけじゃないのでは?」というものです。もちろん、持病を抱えていたり介護しなければならない家族がいたり、といった理由で海外に出ることができない人も大勢いるでしょう。しかし、報道によればこの男性は身寄りもなく一人で生きていたようですし、海外渡航が制限されるような持病を持っていたわけでもないようです。

 では、健康で日本に居続けなければならない理由が特にない場合、誰もがタイで生きていくことができるのでしょうか。私はこの問いに対して条件付きで「イエス」と答えたいと思います。

 条件付きというのは、ぜいたくしなければ、つまり「倹約」すれば、というものです。タイだけではありませんが日本よりも物価が安い国にせっかく旅行しているのに、外国人が泊まるホテルを利用し、外国人用のレストランばかりに行く人が少なくなく、これは短期旅行であればいいでしょうが、長期で過ごすにはもったいないと言わざるを得ません。つまり、現地の人たちと同じような生活をすれば滞在費は半分どころではなく、5分の1から10分の1くらいに減らすことができます。

 この私の考えには反対意見が多いでしょう。ロングステイを考えている人が読む雑誌やウェブサイトには、長期滞在するにはある程度のお金が必要(つまり貧乏人はロングステイできない)といったことが書かれています。海外移住に詳しいある作家によれば、「日本人が現地の料理で生活することは絶対にできない」そうです。

 太融寺町谷口医院では、海外渡航する人、あるいは海外から帰国した人の健康の悩みをしばしば聞きます。ときどき驚かされるのが、例えばジャカルタやバンコクに数年間駐在していたという人が一度も屋台でご飯を食べたことがない、ということです。なかには会社から「現地滞在中は現地人が行くような食堂には行かないこと」と言われているという人もいます。

 たしかに現地の人が利用する食堂や屋台では食中毒のリスクがありますから、会社としては大切な社員をそのようなリスクに晒すわけにはいかないのでしょう(注1)。これは各企業の考え方ですから私がどうのこうの文句を言う立場にはありません。

 しかし、生活費を低く抑えたいという観点からみれば、現地の人たちと同じご飯を食べればいいのです。タイでは最近少し物価が上がり、また円安の影響で以前ほど安くなくなりましたが、それでも一食あたり100円程度で外食(といっても屋台ですが)ができます。しかも、そういうところの料理の方が美味しいこともよくあるのです。ちなみに私がタイに渡航するときは、だいたい現地の人と行動を共にしているという理由もありますが、外国人が利用するようなレストランにはめったに行きません。
 
 食事だけではありません。我々日本人が当たり前と思っているホットシャワーもアジアの田舎に行けば贅沢品です。というより、シャワー自体が高級品です。おけに貯めた雨水を洗面器を使って頭と身体を洗うのがタイの田舎では一般的です。トイレで用を足すときはもちろん紙など使わずお尻は手で拭きます。石鹸は贅沢品で日常的には使いません。衣服など局所を隠せればそれでいいと考えればほとんどお金がかかりません。ただし、誤解のないように言っておくと、アジアでは貧しい地域に行ってもそれなりの美学があり、特に女性はお金はさほどかけていないもののファッショナブルな衣服に身をまとっています。

 ここで私が以前北タイで知り合った日本人男性を紹介したいと思います。その男性は30代前半に日本での仕事をやめいくらかの貯金を持ってタイに渡航、貯金が尽きかけた頃に現地の女性と恋に落ち結婚することになりました。奥さんの紹介で小さな旅行会社に仕事を見つけることができたそうです。しかし月給は1万バーツ、日本円で3万円ほどです。ただし、タイでは大卒の初任給がそれくらいですらタイ人の感覚からいえば悪い給料ではありません(注2)。

 この男性は、生活はもちろんラクではないし、日本人の観光客が行くようなレストランには到底行けないと言いますが、さほど苦痛ではないと言います。その男性と一緒に食べた屋台のパッカパオ・ムー(豚挽肉の野菜炒めをご飯にかけて食べるタイ料理)がすごく美味しくて私はそれ以来この料理の虜になっています。ちなみに値段は50円程度でした。

 タイでは屋台で料理を注文してもこのような値段ですし、市場で野菜や果物を買うとあまりにも安い値段に驚かされます。市場の値段はバンコクでもさほど変わりません。日本でマンゴーは高級品ですが、タイでは子供が気軽に食べているおやつです。

 スイーツはどうでしょう。私はバンコクを訪問したとき、時間があれば立ち寄るケーキ屋があり、そこでバタークリームのケーキを買います。これは理解されない人の方が多いと思いますが、現在の私は生クリームよりもバタークリームの方が好きなのです。私が小学生の頃はケーキといえばバタークリームが普通でした。私が生まれて初めて生クリームのケーキを食べたのは小学校6年生のとき、お金持ちの友達の誕生日パーティに行ったときです。生クリームを初めて口にしたあの衝撃・・・。あまりの美味しさに言葉をなくした程です。それ以来私の舌はバタークリームを拒絶するようになりました。

 しかし不思議なものでそれから20年以上たってから妙にバタークリームが恋しくなりだしたのです。けれども、現代の日本にバタークリームのケーキなどすでに存在しません。諦めかけていたそんなときにふと立ち寄ったのがバンコク郊外のケーキ屋だったのです。けばけばしい色をしたバタークリームのケーキが1つなんと7バーツ(20~30円程度)です。およそ四半世紀ぶりに口にしたバタークリームは、美味い!というよりは懐かしい!でした。今も私は生クリームも好きですが、好んで食べたいのはバタークリームです。

 話を戻します。北タイで私が知り合った日本人男性は月給3万円(1万バーツ)で幸せな生活をしていました。年金で幸せになった高齢男性と比べて収入は4分の1程度でしょう。タイ人と比較するとこの年金男性は大卒の初任給の4倍もの月収があるのです。

 貧乏人は海外にロングステイできないという人たちに私は堂々と反論したいと思います。海外滞在に向いているのは、高い円を持って行って贅沢をしたいと考えている金持ちだけではないのです。倹約の精神をもってすれば衣・食・住に必要なお金は随分と少なくて済むのです。

 ただし、私は日本でも倹約の精神を遵守すれば月12万円もあれば生活できると思うのですが、これは甘い考えでしょうか。タイのように新鮮な野菜や果物を安く入手することはできないでしょうが、12万円もあれば風呂なしの安いアパートを利用すれば食べていけると思うのですがどうなのでしょう。少なくとも私が大学生の頃は、これよりも少ない収入でやりくりしていましたが(というかやりくりするしかなかったのですが)、自殺した男性はどのように考えていたのでしょうか。

 お金に困らない秘訣の1つめは前回述べたように「年金」で、引退後働かなくても生涯にわたり受け取ることのできる年金というものは大変貴重です。ちなみに私は医学生時代に貧困からどうしても年金を払えなかった期間があり、そのため将来の受給額が少なくなってしまいました。今思えば借金をしてでも払っておけばよかったと後悔しています。

 そして秘訣の2つめが今回述べた「倹約」です。倹約はお金持ちの家庭に育った人にはむつかしいかもしれません。おそらく、先に紹介した私が小学6年生のときの金持ちの友達は今もケーキは生クリームしか食べられないでしょう。そういう意味では、私のように貧しい家庭で育った者の方が倹約するには有利であり、これは”自慢話”になるのかもしれません。

 次回はお金に困らない生き方の秘訣の3つめと4つめについて述べたいと思います。

注1:たとえばA型肝炎はアジアでは多くの人が幼少児に感染しすでに抗体を持っているために屋台のものを食べても平気です。一方、日本人はワクチンを接種していなければ抗体を持っている人はほとんどいません。ただし、日本でもまだ衛生的でなかった時代に子供時代を過ごした世代、具体的には現在60代以上の人であれば抗体を持っている人も大勢います。

注2:タイでは物価上昇の影響で現在の大卒の初任給は12,000バーツといわれています。円安もあるために日本円でいえば42,000円程度になり、本文で述べた時代と比べると少し生活しにくいといえるかもしれません。しかし、初任給が42,000円の社会で年金受給額が12万円あればやっていけないはずがありません。

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2015年8月7日 金曜日

2015年8月7日 スパイシーフードで長生きできるか

 唐辛子などの香辛料が使われたスパイシーフードをよく食べる人は食べない人に比べて死亡リスクが14%も低い・・・

 これは医学誌『British Medical Journal』2015年8月4日号(オンライン版)に掲載された研究です(注1)。

 研究は中国・北京大学の学者によりおこなわれています。中国の一般住民487,375人(30~79歳)が研究の対象とされています。対象者は2004年から2008人に登録され、2013年まで追跡調査がおこなわれています。平均7.2年間(正確には「中央値」が7.2年)の追跡がおこなわれ、この期間中に20,224人が死亡しています。

 解析をおこなった結果、唐辛子などのスパイシーフードをほとんど食べない(週に一度未満)の人と比べると、週に1~2日食べる人では死亡リスクが10%低く、週に3日以上食べる人では14%低かったそうです。また、疾患別の調査では、スパイシーフードをよく食べる人は、ガン、(心筋梗塞などの)虚血性心疾患、呼吸器疾患による死亡リスクも少なかったそうです。

 男女比は特に認められなかったものの、アルコールを飲まない人の方が、より死亡リスクが低下していたそうです。

 さらに、どのようなスパイシーフードがより効果があるのかも解析されています。その結果、生の唐辛子に最も大きな効果があったそうです。この理由について研究者は、生の唐辛子にはカプサイシンやビタミンCが豊富に含まれていて、またビタミンA、K、B6、カリウムなども好影響を与えているかもしれないと考察しています。

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 そうか、では早速生の唐辛子を食べよう、と思っても、乾燥唐辛子やパウダー、チリソースならともかく、生の唐辛子(fresh chilli pepper)など日本人にはそう食べられるものではありません。

 研究の対象者が50万人近くですから、統計学的にはそれなりには意味のある研究と言っていいと思いますが、摂取したものは自己申告ですし、また民族による違いもあるでしょうし、現時点ではこの研究を我々日本人は「鵜呑み」しない方がいいと思います。

 また、唐辛子に含まれるカプサイシンが肥満を防ぎ、ガンのリスクを下げると言われることもありますが、どのようなものも「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉のように度を過ぎてはいけません。

 生の唐辛子を食べ続けると、そのうち胃痛と下痢に悩まされることになるでしょう。

(谷口恭)

注1:この論文のタイトルは「Consumption of spicy foods and total and cause specific mortality: population based cohort study」で、下記URLで全文を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/351/bmj.h3942

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2015年8月3日 月曜日

2015年8月3日 食物アレルギーが急増

 食物アレルギーが増加しているというのは、日々の診療で多くの医師が感じていることです。先日、東京都がそれを裏付けるようなデータを公表しました(注1)。

 東京都は5年毎に3歳児を対象としたアレルギー疾患の調査をおこなっています。今回公表されたのは2014年の調査です。3歳までに何らかのアレルギー症状を有し、かつ診断がついた(つまり親御さんがアレルギーを疑っているだけではなくきちんと医師が診断をつけたケース)のは39.3%に上ります。5年前の2009年は38.8%、10年前の1999年は36.8%ですから増加傾向にあります。

 アレルギーを疾患別にみてみると、アトピー性皮膚炎は1999年の16.6%から11.2%と3割以上減少しています。喘息はあまり変わっておらず、アレルギー性鼻炎も顕著な変化はありません。

 一方、大幅に増えているのが食物アレルギーです。1999年が7.1%で、2014年が16.7%ですから2倍以上も増えていることになります。

 原因の食物については、「卵」81.0%、「牛乳」33.3%、「小麦」14.6%、「落花生」9.2%、「大豆」6.3%、「キウイ」6.2%、「えび」5.1%の順で高くなっています。

 5年前(2009年)のデータと比べてみると、順位・割合ともに上昇した食物は、落花生、キウイ、ごま、くるみがあげられます。逆に低下した食物には、えび、いくら、やまいも、そば、かに、さけ、鶏肉、さばがあります。

 なぜ食物アレルギーが増えているのか、この理由についてはコンセンサスが得られた意見は今のところありません。

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 食物アレルギーが増えているのは小児だけではありません。この東京都のようなきちんとしたデータは見たことがありませんが、日本人の成人も確実に食物アレルギーが増えている印象があります。

 一般に、成人のアレルギーというのは「同じ物質に触れ続けることが原因」です。戦後日本はスギを植えすぎてスギの花粉に曝露される機会が増えたためにスギ花粉症が増えたわけですし、動物好きの人が一緒に過ごす時間が長いことでイヌやネコのアレルギーになるということはよくあります。

 したがって、食物アレルギーのいくらかは同じものをたくさん食べ過ぎたからという可能性があります。そのため私は、食物アレルギーの人に、「これ以上アレルギーを増やさないようにするために特定のものを多く食べるような食習慣は避けましょう」と話しをしています。

 しかし、小児の場合は、この「同じものを食べ過ぎたから」という理論は通じません。東京都のデータでは、発症時期は半年くらいで起こっているケースが多いようです。ピーナッツアレルギーの場合は、経皮感作(つまり、皮膚の微小な傷などにピーナッツが触れたことでアレルギーになる)で説明が可能な場合があるのですが(注2)、すべての食物アレルギーをその理屈で説明することはできません。

 食物アレルギーの発生機序については分からないことが多く、新しい研究を待たねばなりません。現在我々がすべき予防対策は、妊娠すればバランスよく食べて偏った食事をしない(ピーナッツはその妊婦にアレルギーがある場合を除いて避けるべきでないことが判っています)、小児期の経皮感作を防ぐ(保湿をしっかりおこなう)、成人も含めて同じものばかりを食べないようにする、といったことです。

注1:東京都のこのデータは下記のURLですべて閲覧することができます。

http://www.tokyo-eiken.go.jp/files/kj_kankyo/allergy/c_naiyou/sansaiji.pdf

注2:下記「医療ニュース」を参照ください。

参考:医療ニュース
2015年3月30日「変わってきたピーナッツアレルギーの予防」
2015年6月29日「ピーナッツアレルギー予防のコンセンサス」

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