はやりの病気
第98回(2011年10月) いろいろな魚介類のアレルギー
11月上旬から夜間の救急外来にじんましんの患者さんが急増するんです・・・
これは、以前、福井県で救急医療に携わる医師から聞いた話です。じんましんは年中みられる疾患ですが、福井県では11月から急激に、しかも比較的重症のじんましんの症例が夜間に増えるそうなのです。この答えは「越前ガニの解禁日が11月6日だから」だそうです。
じんましんの原因は様々で、食べ物が原因のものはさほど多くはありませんが、たしかに一定の割合で食べ物のじんましんの患者さんは太融寺町谷口医院にも受診されます。そして、食べ物のじんましんのなかでもカニは重症化することがあります。
なかには意識を失うケースもあり、対応が遅れれば命にかかわることもありますから、福井県の救急外来では、冬場はカニのアナフィラキシー(じんましん症状が重症化し血圧が下がり意識を失う状態)を念頭に置かねばならないそうです。
食べ物由来のじんましんで比較的頻度が多いのは、カニ以外では、エビ、コムギ、サバ、ピーナッツ、豚肉などです。じんましん全体の症例数からみると食べ物が原因のものは、頻度は多くありませんが(注1)、ときに重篤化することがあります。
私が最近学んだ、食べ物が原因のじんましんで興味深いと感じたのは、子持ちカレイによるもので、重症化するケースも少なくないそうです。これはある学会で島根の医師が紹介していたのですが、島根も福井と同様、冬に重症のじんましんの症例が増えるそうなのです。このじんましんの原因を調査した結果、子持ちカレイが原因であることが判ったとのことでした。
さらに、この症例が興味深いのは、カレイに対して反応がでるかどうかの検査(特異的IgE)は陰性となることが多く、しかし、牛肉もしくは豚肉に対する検査で陽性となるそうなのです。これは、つまり、元々牛肉もしくは豚肉に対するアレルギーがあり、子持ちカレイに含まれる一部のたんぱく質が牛肉か豚肉に似ていることで、子持ちカレイを従来の”敵”である牛肉や豚肉と身体が間違えて認識したことによると考えられるのです(注2)。
じんましんを引き起こす食べ物のアレルギーのなかでも魚介類は重症化しやすいと言えますが、実際に魚介類にアレルギー反応を示す人は、その魚介類を少しでも摂取すればアレルギー反応を示します。このアレルギーを便宜上「本物の魚アレルギー」としておきます。
さて、あなたの身の周りに(もしくはあなた自身も該当するかもしれませんが)次のような”魚アレルギー”を有している人はいないでしょうか。それは、「いつも出るわけではないが、たまに魚介類でじんましんなどのアレルギー症状がでる・・・」、というものです。
先に、「じんましん全体でみると食べ物のアレルギーによるものはごくわずか」という話をしましたが、しかし一方で、このように「自分は魚介類のアレルギーがある」と考えている人は少なくありません。実は、「魚介類のアレルギーではないのだけれど、魚介類を食べることでじんましんが出る」、という人は珍しくないのです。これはどういうことでしょうか。主な原因は2つあります。
1つは、「アニサキスによるアレルギー」です。アニサキスというのは魚に寄生する虫、つまり寄生虫です。アニサキスといえば、強烈な胃痛や腹痛を起こすアニサキス症が有名で、アニサキスは、サバ、イカ、イワシなどに寄生しています。よくみると肉眼でも見えるほどの大きさなのですが、調理人がさばいているときには気づかずに食卓に出され、食べる人もそれに気づかずに食べてしまうのです(注3)。
アニサキスが胃痛や腹痛をきたすのは、アニサキスそのものが胃粘膜や腸管粘膜に進入しようとすることで起こります。この痛みはかなりの激痛で、夜間に救急搬送されることもしばしばあります。駆除薬があるわけではなく、アニサキスによる胃痛が疑われると胃カメラを入れて直接アニサキスをピンセットのようなもので取り除くことになります。腸の奥の方まで行ってしまった場合は、アニサキスが自然に死滅することを待ちますが、痛みが増悪するような場合は、緊急手術をせざるを得ないこともあります。
さて、今回お話したいのは、胃痛・腹痛をきたすアニサキス症ではなく、アニサキスによるアレルギーです。アニサキスが寄生している魚を食べると、じんましんが出現することがあるのですが、アニサキスが寄生していない魚を食べればもちろん症状は起こりません。
そしてここからが興味深いところなのですが、胃痛や腹痛をきたすアニサキス症は、加熱するか冷凍するかで(下記注3も参照ください)ほぼ完全に予防することができますが、アニサキスに含まれるアレルギー反応をおこす成分は加熱でも冷凍でも消えませんから、どのように調理をしても起こるときは起こるのです。
ですから、「毎回ではないけれども、サバやイワシなどの青魚、あるいはイカを食べたときにじんましんが出ることがある」、という人はアニサキスアレルギーを一度は疑うべきです。この場合、アニサキスに対するIgE抗体を測定します。必ず、というわけではありませんが、もしもアニサキスにアレルギーがでれば陽性と出ることが多いといえます。
もうひとつ、魚アレルギーではないのだけれど、ときどき魚でじんましんが出現する、というケースがあります。これは、新鮮さを失った古い魚を食べたときにおこりやすい、という特徴があります。
これはアレルギーによるものではなくヒスタミンによるものです。ヒスタミンというのはアレルギーを引き起こす物質ですから、そのようなものを食べればアレルギー症状を起こすのは当たり前なわけです。では、なぜ食べ物にヒスタミンが含まれているのか、というと、これは魚がもともともっているヒスチジンというアミノ酸が、魚に寄生している微生物によってヒスタミンに変わるからなのです。通常、アレルギーというのは、身体がヒスタミンを生成して反応が起こるのですが、このケースはヒスタミンを含む魚を食べることによって起こっているというわけです。
魚に寄生している微生物がそのような”悪さ”をするのには時間がかかります。ということは新鮮な魚では起こりにくく、古い魚でおこりやすいのです。そして、ヒスタミンは加熱や冷凍で変性するわけではありませんから、煮ても焼いても(もちろん刺身でも)起こるときは起こります。ヒスチジンを多く含む魚は、サバ、イワシ、サンマ、カツオ、マグロなどで、日本人がよく食べるものばかりです。これらを食べるときは鮮度が落ちていないかを注意しなければならない、というわけです。
以上述べてきたように、”魚アレルギー”には、本物のアレルギー、アニサキスアレルギー、古い魚のヒスタミンによるアレルギー様症状、などがあり、それぞれによって対処法が異なります。まずは、正しい診断をつけなくてはなりません。気になる症状があれば一度医療機関で相談してみるべきでしょう。
では今回のまとめです。
1、本物の魚アレルギーは少量摂取でも起こり、重症化するケースがある。過去に魚を食べたあと、全身に広がるじんましん、呼吸困難、喘息発作、意識障害などのエピソードがある場合は検査が必要。
2、本物の魚アレルギーの治療としては「原因となる魚を避ける」以外にない。また、牛肉と子持ちカレイのような交叉反応にも注意しなければならない。
3、アニサキスアレルギーの場合は、アニサキスが含まれている可能性のある魚の摂取は避けるべき。胃痛や腹痛が起こるアニサキス症の場合は加熱(もしくは冷凍)で予防できるが、アニサキスアレルギーは予防できない。
4、鮮度が落ちた魚の場合、魚に含まれるヒスチジンがヒスタミンに変性し、これがアレルギー様の症状をきたすことがある。加熱や冷凍は効果がなく、そのため鮮度の落ちた魚は食べるべきでない。
************
注1:「じんましんなのに前の病院では血液検査をしてくれなかった・・・」と不平を言われる患者さんがおられますが、血液検査でじんましんの原因がわかるケースというのはごくわずかです。食べ物が原因の可能性があるときには血液検査をおこないますが、その可能性がなければ血液検査は”ムダな検査”となることが多いのです。ですから、前の病院で血液検査をしなかったのは、その医師が怠慢だからではなく、患者さんの余計な負担をなくそうと努めているのです。しかし、このクレームは非常によく聞きます。ということは、血液検査は不要と話した私に対する不平を別の病院で言われている患者さんも少なくないのかもしれません。
注2:このような現象を「交叉反応」といい、比較的頻度の多いものにラッテクス・フルーツ症候群があります。これはラテックス(一部のゴム製品)をアレルゲン(つまり”敵”)と身体が認識し、ラテックスと分子レベルでの構造がよく似ているフルーツ(バナナ、キウイ、アボガドなどが有名)を食べると、身体がそのフルーツをラテックスと認識し、その結果アレルギー反応が起こります。
(2018年6月追記) 尚、カレイやギュウニクのアレルギーの一部は、α
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