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2014年11月10日 月曜日
2014年11月号 「総合」なるものの魅力(前編)
「専門は何ですか」というのはプロフェッショナルの領域ではよくある質問であり、医師の世界でも同様です。医師にこの質問をすると、例えば「脳外科です」とか「循環器内科です」という答えが返ってきます。もう少し踏み込んで聞いた場合は「てんかんの外科を専門としています」「心臓のカテーテルアブレーション専門です」といった回答になります。
では私の場合はどうかというと、医療者から聞かれたときは「大阪市立大学の総合診療部に所属していて、日本プライマリ・ケア連合学会の認定医と指導医をもっています」となります。もう少し具体的なことを聞かれた場合は、「日頃は大阪の都心部にあるプライマリ・ケアのクリニックで働いており、働く若い世代を中心に診ています」となります。
一般の人や患者さんから聞かれた場合は、最近は随分「プライマリ・ケア」という言葉が浸透してきましたが、まだまだ周知度は低いために「総合診療をおこなっています」と答えています。「総合診療」という言葉もまだ充分に認知されているとは言えないかもしれませんが「プライマリ・ケア」という言葉に比べると、まだなんとなく理解してもらいやすいかな、という気がします。
私が「総合診療」を医師としての専門にしたいと本格的に思ったのは、医師になりたての研修医1年目の夏休みでした。大学病院から1週間の夏休みをもらった私は、かねてから訪れたかったタイのロッブリー県にある世界最大のエイズ・ホスピスであるパバナプ寺(Wat Phrabhatnamphu)を訪問しました。わずか1週間という短い期間でしたから、ボランティアをするつもりで訪れたものの、患者さんの役に立つことはほとんどできませんでした。
何もできなくて患者さんや施設のスタッフには迷惑をかけただけでしたが、私にとっては、人生の中でこれほど重要な1週間もなかったといっても過言ではないと思います。まずエイズという病の凄絶さを目の当たりにしました。当時のタイではまだ抗HIV薬がなくその施設では毎日数人が死亡していました。当時のタイではHIV陽性者は生きる場所がなく、職を失い、道を歩けば石を投げられ、バスに乗ろうとすると引きずり下ろされ、病院では診察を拒否され、家を追い出され、行く場がなかったのです。それでも前を向いて生きていこうとしている患者さんがその施設にいて私は胸を打たれました・・・。この話をしだすと止まらなくなりますので話を元に戻します。
その施設に訪問して私はエイズという病に本格的に取り組みたいと思ったわけですが、もうひとつ、私の人生に大きなインパクトを与えた出来事がありました。それは、当時その施設でボランティアとして活躍していたベルギー人の男性医師です。この医師はエイズ専門医ではありません。いわゆるGPと呼ばれる医師だったのです。
GPとはgeneral practitionerまたはgeneral physicianの略で、日本語にすると「一般医」または「総合診療医」となります。ベルギーを含むヨーロッパ諸国の多くは、日本のようにどこの医療機関でも受診できるわけではなく、まずGPを受診します。そして必要あればGPの紹介状を持って「脳外科」「循環器内科」などの専門医や大きな病院を受診するシステムになっています。
GPのそのベルギー人医師はエイズ専門医ではなく抗HIV薬を処方しているわけではありません。GP(総合診療医)として、HIVに伴う諸症状、というよりはHIVが原因かどうかに関係なく、患者さんの悩みをすべて聞いていました。間違っても(日本の医師がよく言う)「それは自分の専門外だから分からない」とは言わないのです。
もちろんこの医師にできないこともありますが(というより、充分な薬剤や検査装置のないこのホスピスでできることは限られていました)、少なくとも「なぜそのような症状が出現していて、どのような経過をたどることが予想されるか、その症状を取り除くのに今できることにはどのようなものがあるか、そしてどの程度その症状が改善することが見込めるか」といった説明をするのです。「できることは限られているが、それでもあなたにできる最大限の医療をします」というメッセージがそばで診ている私にもビシビシと伝わってくるのです。
ここで言葉を整理したいと思います。欧米諸国では「GP」という言葉が一般的ですが、医療者でない日本人にGPという言葉はほとんど普及していません。そもそも日本では少し前まで医学部を卒業すれば、整形外科とか産婦人科といった何らかの臓器を専門とする医局に入るのが普通であり、欧米諸国のようにGPという制度が存在しませんでした。
しかし日本でも、今から10年くらい前から、臓器だけをみるのではなくすべてを診ることのできる医師が必要だという声が大きくなり、「プライマリ・ケア」「総合診療医」「家庭医」などという言葉が注目されるようになりました。学会としては日本プライマリ・ケア学会、日本総合診療医学会、日本家庭医療学会があり、これらは独自で活動していたのですが、目指すところは共通している部分も多く、紆余曲折があったものの、2010年に「日本プライマリ・ケア連合学会」として統一されました。
したがって、現在の日本では医療者の間では「プライマリ・ケア」という言葉が最も浸透していると思われます。GPという言葉は日本では医療者の間でもあまり使用しません。一般の人たちの間ではプライマリ・ケアという言葉はまだそれほど浸透していないでしょうから、私自身が、専門は?と聞かれれば、プライマリ・ケアというよりも「総合診療」という言葉を用いるようにしているのです。(GP、プライマリ・ケア医、家庭医、総合診療医と多くの言葉を使うとややこしくなりますので、ここからは「総合診療医」で統一します)
話を戻します。研修医時代に夏休みを利用してタイのエイズ施設を訪問し、そこで私はベルギー人の医師から総合診療の魅力を感じとりました。帰国後、残りの研修医の期間は、将来総合診療が担えるようにできるだけ多くの科でトレーニングを積み、毎日のように救急外来を手伝わせてもらい、可能であれば手術見学もさせてもらっていました。
研修期間が終了しても私の実力などまだまだです。しかし、2年前に訪れたタイのエイズ・ホスピスにもう一度訪れたいと考えた私は再びタイに渡航しました。元々の予定では最低でも半年はボランティアを行う予定でしたが、諸事情から急きょ帰国しなければならなくなり、いったん1ヶ月ほどでボランティアを打ち切りました。
しかし、この1ヶ月間で私が学んだことは非常に実りのあるものでした。このときは2年前にいたベルギー人の医師はいませんでしたが、アメリカ人の総合診療医(GP)が長期間のボランティアに来ていたのです。私はこの医師からも日本では学べないような多くのことを学ぶことができ、大変貴重な経験となりました。
帰国後、いくつかの事情からタイに長期間滞在することができなくなり、日本で総合診療を学びたいと考えた私は、母校の大阪市立大学医学部の総合診療科の門を叩きました。当時は、日本で、しかも大学病院で総合診療を本格的に学ぶのは困難であることは分かっていましたが、それでも大学に所属しておくことで勉強がしやすくなるのではないかと考えたのです。
大学病院にも総合診療科の外来がありますが、やはり大学病院を受診する患者さんには偏りがあります。そこで私は、大学での自分の外来は水曜日だけにさせてもらい、金曜日には他の先生の診察(主に婦人科)を見学させてもらうことにし、月、火、木は別の医療機関(内科、整形外科、皮膚科、アレルギー科など)に研修に行かせてもらうことにしました。(今考えればよくこんなわがままを聞いてもらえたものだと思います。自分の厚かましさに辟易とします・・・)
見学や研修ではお金はもらえませんから、平日の昼間はほとんど無収入でした。そこで土日や平日の夜中にいくつかの救急外来でアルバイトをして生活を凌ぎ、そして次回のタイのエイズ・ホスピス訪問にかかる費用を捻出していました・・・。
今回のコラムでお伝えしたかったのは「総合診療」がなぜ興味深いのかということであり、さらに「総合」というものの魅力について話したかったのですが、自分の医師としての経歴の振り返りで文字がオーバーしてしまいました。
実は、私のこれまでの人生で「総合」というものの魅力にとらわれたのは、総合診療というものを知った今回述べたタイでの出来事が初めてではありません。つまり過去にも何度か「総合」というものに魅せられたことがあるのです。次回はそのあたりについても述べていきたいと思います。
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2014年11月8日 土曜日
2014年11月8日 グレープフルーツでダイエット
すでに糖尿病がある人や、その予備群の人、あるいは血糖値は正常だけれどもダイエットをしているという患者さんから言われる言葉に「果物は糖分が多いので食べないようにしています」というものがあります。
また、医療従事者の中にも、果物の摂取が血糖コントロールに悪影響を与えることを懸念する声もあります。
しかし、果物の制限は不要という意見もありこれを実証した研究があります。医学誌『Nutrition Journal』2013年3月5日号(オンライン版)(注1)に掲載された論文によりますと、肥満があり糖尿病の診断がついている患者に対して、果物摂取を制限しても血糖値や体重減少がみられることはないようです。
この論文が正しいとすると、肥満があっても糖尿病があっても好きな果物をやめる必要はない、ということになるわけですが、さらに「グレープフルーツで血糖値改善+体重減少」という論文が出ましたので紹介したいと思います。
医学誌『PLOS one』2014年10月8日号(オンライン版)に掲載された論文(注2)でマウスにグレープフルーツを与えた実験が紹介されています。実験では12匹のマウスを2つのグループに分け、双方に高脂肪食を与えながら、一方のグループにはグレープフルーツジュースを、もう一方のグループには水を飲ませています。
100日後、グレープフルーツを与えたグループのマウスは、水のグループに比べ体重増加は18%低く、血糖値も13%低かったそうです。
研究者は、グレープフルーツに含まれるnaringin(ナリンギン)と呼ばれる成分に血糖値を下げる効果があることを確認したそうです。
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この研究はマウスを対象としたものでヒトでも同様の効果が得られるかどうかは判りませんし、食事療法の大原則として「同じものばかりを摂取するのはNG」です。間違ってもグレープフルーツジュースを1日1リットルというような日課を課してはいけません。
しかしながら、過剰な効果は期待しない方がいいとは思いますが、グレープフルーツが好きな人は積極的に摂取してもいいと思います。糖尿病(予備軍も含めて)のある人や体重を気にしている人たちのなかには、日頃から食事制限で辛い思いをしている人も少なくありません。グレープフルーツが好きな人はどんどん食べればいいと思います。
ところで、以前私はある患者さんから「あたしはマンゴーとドリアンが大好きなんですけど食べ過ぎると太りますか?」と質問されて答えに困ったことがあります。この患者さん(女性)は東南アジアが大好きで年に4~5回は短期旅行にでかけるそうです。
熟れたマンゴーやドリアンはたしかにかなり糖分が多そうで、グレープフルーツとは同じように考えられないかもしれません。このようないかにも糖分が多そうな果物の研究について知っている人がいれば教えてください。
(谷口恭)
注1:この論文のタイトルは「Effect of fruit restriction on glycemic control in patients with type 2 diabetes – a randomized trial」で下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.nutritionj.com/content/12/1/29
注2:この論文のタイトルは「Consumption of Clarified Grapefruit Juice Ameliorates High-Fat Diet Induced Insulin Resistance and Weight Gain in Mice 」で下記のURLで全文を読むことができます。
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0108408
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2014年11月7日 金曜日
2014年11月7日 米国のA型肝炎流行は輸入ザクロが原因
このサイトの「はやりの病気」の第127回(2014年3月号)「A型肝炎に要注意、可能ならワクチンを」でお伝えしましたように、日本では今年(2014年)A型肝炎が流行しました。米国では2013年に複数の州でA型肝炎がアウトブレイクしたのですが、その感染経路が特定され医学誌『The Lancet Infectious Diseases』2014年9月4日号(オンライン版)(注1)に掲載されましたので紹介します。
2013年3月31日から8月12日に米国の10の州で合計165人がA型肝炎を発症しています。このうち153人(93%)がA店のBという商品(イチゴ、ラズベリー、ブルーベリー、チェリー、ザクロの実を含む冷凍ミックスベリー)を摂取していたことが判りました。合計69人(42%)が入院し、2人(1%)が劇症肝炎を発症し、そのうち1人は肝移植まで実施したそうです。幸いなことに死亡者はなかったようです。
A型肝炎を発症した人から採取した検体を用いて遺伝子解析をおこなった結果、トルコから輸入されたザクロが疑わしいことが判明しました。
A店は顧客カードに基づいて商品Bを購入した約25万人の顧客に電話で連絡し、Bを食べないように指導したそうです。さらにA店は、1万人を越える顧客のワクチン代金を支払っています。
尚、アメリカでは2006年より生後12~23ヶ月の小児全員にA型肝炎ウイルスのワクチン接種をしており、小児での感染者はゼロだったようです。
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この論文を読んで私が驚いたのは、A店及び行政の対応です。25万人に電話連絡し謝罪するのも大変だと思いますし、1万人以上のワクチン代金を負担したということに驚きました。また、暴露後(商品Bを食べた後)2週間以内の人にワクチンと免疫グロブリンを速やかに投与した州や地域の保健局の対応も見事です。
同じことが日本で起こったとき、果たして今回のアメリカと同様の対応ができるでしょうか。
A型肝炎ウイルスが混入したザクロを輸出したトルコがけしからん!と感じる人、あるいは、輸入時に検疫をすべき、と考える人もいるかもしれません。しかし、A型肝炎ウイルスというのは、日本や欧米を除いた地域ではいくらでもありますから、私自身の考えをいえば、国に頼るのではなく対策は個人でおこなうべきです。
日本でのA型肝炎の発症の原因で最も多いのは生ガキの摂取です。次いで多いのは海外(特にアジア)で屋台などの現地料理を食べての感染です。タイの大洪水以降、A型肝炎ウイルスのワクチン接種希望者が増えていますが、無関心の人も依然少なくありません。
ワクチン後進国のこの日本で、米国のようにA型肝炎ウイルスのワクチンが定期接種に組み入れられるのは現時点では絶望的だと私は思っています。ならば自分の身は自分で守るしかありません。
劇症肝炎を起こしたアメリカ人は肝移植で救われたようですが、日本ではアメリカほどスムースに肝移植がおこなえるわけではありません。生ガキを食べたい人(ただし生ガキはノロウイルスのリスクもあることをお忘れなく)、海外(特にアジア方面)に行く人は、自分の身を守るためにワクチン接種を検討すべきです。
(谷口恭)
参考:はやりの病気第127回(2014年3月号)「A型肝炎に要注意、可能ならワクチンを」
注1:この論文のタイトルは「Outbreak of hepatitis A in the USA associated with frozen pomegranate arils imported from Turkey: an epidemiological case study」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099%2814%2970883-7/abstract
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2014年10月29日 水曜日
2014年10月29日 糖尿病新薬「SGLT2阻害薬」服用で5人が死亡
今年(2014年)になり、糖尿病の新しい薬「SGLT2阻害薬」が次々と発売になり、現在6つの製品(スーグラ、フォシーガ、ルセフィ、デベルザ、アプルウェイ、カナグル(9月3日発売))が発売されています。さらに、今年中にもう1種類「エンパグリフロジン」という一般名のものが発売になる予定です。わずか1年で同じ機序の薬が7種類、それも合計で15もの製薬会社が発売するという過去に例をみない事態となっています。これは、それだけSGLT2阻害薬が大きなマーケットになっているということです。
新しい薬が発売になるときは、しばらくの間は副作用に注意しなければならないのですが、医療ニュース2014年7月3日「糖尿病新薬「SGLT2阻害薬」の副作用」でお伝えしたように2014年6月13日の時点で脳梗塞3例を含む重篤な副作用が報告されています。
その後の副作用の情報が『日経メディカル』2014年10月17日号(オンライン版)でまとめられているので、ここで簡単に報告したいと思います。同誌によりますと、これまでで合計5人の死亡例が報告されています。
スーグラ服用者で1人、フォシーガが3人、デベルザ/アプルウエィで1人です。(デベルザとアプルウェイは同じもので、一般名は「トホグリフロジン」です)
いずれのケースも、これらSGLT2阻害薬の服用と死亡との因果関係は断定はできません。合計投与患者数は明らかでなく、医療機関が必ずしも届出をおこなっているとも限らず、正確な死亡発現頻度は不明です。また、どのSGLT2阻害薬でリスクが高いかといった比較ができるわけでもありません。
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合計5人の死亡は、SGLT2阻害薬との因果関係は断定はできませんし、仮にSGLT2阻害薬が原因だとしてもそのメカニズムは明らかにされていません。しかしながら、以前お知らせしましたように脳梗塞が3例発症したことと合わせて考えると、急激な脱水が起こったことが原因である可能性があります。
SGLT2阻害薬は、血中の”不要な”糖を尿と一緒に排出する薬です。ということは、糖と一緒に血中に”必要な”水分も排出してしまう可能性があります。実際、糖と一緒にナトリウムの排出が増えることが分かっており、ナトリウムの排出が増えると水分の排出も増えるのです。
ここからいえることは、SGLT2阻害薬を内服するときは水分摂取に気をつけよう、ということになります。しかし、糖尿病のせいで尿量が多いために日頃から積極的に水分を摂取しているという人も多いわけで、そのような人たちに「さらに水分を・・・」というのは大変かもしれません。
どうしてもSGLT2阻害薬が必要な人は、そのあたりに注意して服用を続けなければなりませんが、果たして、「どうしてもSGLT2阻害薬が必要な人」はそんなに多いのでしょうか。古くから使われている安くて安全な薬もあるわけです。
わずか1年で同じ機序の薬が7種類、それも合計で15もの製薬会社が発売するという事態が私には異様に感じられます・・・。
(谷口恭)
参考:
医療ニュース2014年7月31日「糖尿病新薬「SGLT2阻害薬」の副作用」
はやりの病気第125回(2014年1月)「糖尿病治療の変遷」
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2014年10月27日 月曜日
2014年10月27日 歩く速度が遅いのは認知症のリスク
認知症のリスクにはいろんなことが言われていて、生活習慣病や喫煙はその最たるものです。その逆に、認知症のリスクを下げる方法には絶対的なものはありませんが、運動がリスク低下につながるとした報告はいくつかあります。
では、運動不足はどうかというと、直感的には運動不足は認知症のリスクにつながりそうです。今回は「運動不足」ではなく「歩行時の速度」ですが、認知症のリスクについて興味深い研究が発表されましたので紹介したいと思います。米国Yeshiva University(イェシーバ大学)のJoe Verghese氏らがおこなった研究が医学誌『Neurology』2014年8月19日号(オンライン版)に掲載されました(注1)。
研究者らは、まず「運動認知リスク症候群」(motoric cognitive risk syndrome, 以下MCR)という概念に注目しています。この概念は、まだ日本の教科書などには登場していませんが、近年少しずつ注目されるようになってきており、定義としては「遅い歩行速度と軽度の認知異常がある状態」となると思います。
今回の研究の対象者は、認知症になっていない60歳以上の男女26,802人です。過去におこなわれた疫学データを分析し、MCRと認知症の関係が調べられています。
研究開始時点で全体の9.7%がすでにMCRと呼べる状態になっていたそうです。高齢になる程有病率は高くなったものの男女差はなかったようです。また、興味深いことに高学歴者にMCRは少なかったそうです。
次いで、最長で12年間にわたる対象者の追跡調査がおこなわれました。その結果、研究開始時点でMCRの診断がついていた人は、そうでなかった人に比べて認知症の発症率が約2倍であることが判ったそうです。
MCRの診断で歩行速度が「遅い」とされるのは、時速3.5キロメートル以下だそうです。
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この研究が興味深いのは、認知症の決定的なリスクが分かりにくいなかで「歩く速度」という客観的な観察がしやすい事象に注目していることです。認知症の初期というのは、本人からも家族からもなかなかわかりづらいものであり、自他が気付いたときにはすでに進行していて薬開始のタイミングが遅れた・・・、ということがよくあります。
ただ、MCRは、認知症が起こり始めているから歩行速度が遅くなるのか、歩行速度が遅くなることで認知症のリスクが上がるのかは現時点の研究では判定できません。前者であれば予防にはつながりませんが、後者であればもしかすると日頃から歩行速度を速くするように意識することで認知症のリスクが低減できるかもしれません。
歩行速度を速くすれば、生活習慣病の予防にもなりますし、適正体重の維持にもつながります。逆に、交際を開始しだしたばかりのカップルのデートやウィンドウショッピングを除けば、歩行速度を遅くしていいことはあまりなさそうです。
ならば通勤時の歩行速度を速くして、仲睦まじいカップルは速歩きを心がけたウォーキング・デートを考えてみてはどうでしょうか。
(谷口恭)
参考:
メディカルエッセイ第141回(2014年10月)「速く歩いてゆっくり食べる(前編)」
医療ニュース(2010年4月14日)「歩くのが速い女性は脳卒中を起こしにくい」
注1:この論文のタイトルは「Motoric cognitive risk syndrome Multicountry prevalence and dementia risk」で下記URLで概要を読むことができます。
http://www.neurology.org/content/83/8/718.short?sid=06e461c3-cb03-48d0-b1e0-ee5d0684c385
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2014年10月21日 火曜日
第134回 誤解だらけの脂肪肝とNASH 2014/10/21
患者さんの病気に対する認識が我々医療者の認識と随分と異なっていて驚かされることがしばしばあります。例えば、抗ガン剤は百害あって一利なしと思っている人、ステロイドが猛毒だと信じている人、すぐれた薬が開発されたからHIVは予防しなくてもよいと思っている人、活性酸素が怖いといって一切の運動を行わない人、などいくらでも挙げることができます。
今回はそんな患者さんの”誤解”のなかで、最近特に目立つと私が感じている「NASH」について紹介したいと思います。NASHは「ナッシュ」と呼び、正式名は「Nonalcoholic Steatohepatitis」で、日本語では「非アルコール性脂肪肝炎」と言います。(steato-というのは脂肪という意味の接頭語で医学用語ではよくでてきます)
患者さんにこの病気について最初に話をするときは「非アルコール性脂肪肝炎と呼ばれる病気で・・・」というような説明をすることもありますが、患者さんにも「ナッシュ」という呼び名を覚えてもらうように私はしています。ナッシュという言葉の響きがどこかかわいらしいですし(病態自体は憎いものですが)、ほとんどの患者さんは「非アルコール・・・」よりも「ナッシュ」の方が覚えやすいと言います。
このNASHについて何が”誤解”かというと、NASHという病気の名前を知っていてもただの脂肪肝と思っている人が非常に多いのです。これは完全な誤りで、NASHとは放っておけばガンになるかもしれない大変重要な病気です。実際、NASHの診断がついた人の1~2割は10年後に肝臓ガンになることが指摘されています。
ここで言葉を整理したいと思います。NASHすなわち非アルコール性脂肪肝炎という病名に、わざわざ「非アルコール性」と付けられているのは「アルコール性」と区別する必要があるからです。
周知のようにアルコールを飲み過ぎると肝臓がやられます。まず「アルコール性脂肪肝」という状態になり、これが進行すると「アルコール性肝炎」となり、さらに進行すると「アルコール性肝硬変」あるいは「肝臓ガン」にまで進展します。こうなれば命にかかわる状態となります。つまりアルコールというのは肝臓の組織を崩壊させ死に至る病に移行させることもある大変危険な物質なのです。(もちろん適量であれば病気をもたらすどころか、その逆に健康増進につながるものでもあります)
一方、アルコールによるものではない、単に食べ過ぎや肥満から起こる脂肪肝はそれほど重要視されてきませんでした。アルコールは依存性があるために簡単にやめられないのに対し、食べ過ぎや肥満から起こる脂肪肝は「やせればいいんでしょ」というふうに捉えられることが多いからでしょう。(実際はやせるのも大変な場合が少なくないのですが)
NASHの詳しい説明に入る前にもうひとつ別の病名を紹介したいと思います。それは「NAFLD」というもので「ナッフルディー」と呼びます。正式名称は「Nonalcoholic Fatty Liver Disease」で日本語では「非アルコール性脂肪性肝疾患」です。ナッシュと同様、これも日本語の「非アルコール性・・・」は覚えにくいでしょうから、ナッフルディーと呼ぶ方がいいでしょう。
NAFLDはNASHを含む非アルコール性の肝障害をすべて包括したものです。NASHは「肝炎」ですから肝細胞に炎症がある状態で、NAFLDの重症型と言うことができます。そして日本人のNAFLDの1~2割がNASHであると言われています。日本では健康診断を受けた人の1~3割、あるいは日本人の1,500万人~2,000万人がNAFLDであることが指摘されています。ただ、健診の結果の説明を受けるときは、「あなたはNAFLDですよ」という言われ方はあまりしないと思われます。実際には、「肝臓の数字が少し悪いですね」とか「脂肪肝になってますね」という言い方をされているはずです。
日本で1,500万人~2,000万人がNAFLDで、そのうち1~2割がNASH、そしてNASHが進行すると肝硬変や肝臓ガンになる、10年後の発ガン率は1~2割・・・、と言われればなんとしても防ぎたい疾患であることがわかると思います。
ではNAFLDにならないように肥満に気をつけよう、という考え方は間違っていません。さらに、NASHは脂肪の摂り過ぎという生活習慣の乱れからきているんだから、他の生活習慣病も一緒に予防すればいいんだな、という考えも正しいといえます。実際、NASHのなかで肝臓ガンが発生しやすい人というのは「肥満が顕著で生活習慣病を合併している人」です。例えば、NASHがあり、BMI35(身長160cmなら約90kg、170cmなら約100kg)で肝臓ガンの発生率が4倍になり、糖尿病があれば2~4倍、また高血圧も発ガンのリスクであることが分かっています。
NASHは肥満があれば起こりやすいわけですから、男性では肥満者が増加する30~40代から増え出します。女性の場合は閉経後に増えるという特徴があります。しかし、男女とも小児期から肥満があれば20代でも起こりえます。
では、やせていれば問題ないのかというと、そういうわけでもありません。特に怖いのが極端にやせている人、とりわけ拒食症を患っている人です。拒食症が「死に至る病」であることは以前紹介しましたが(注1)、拒食症の死因のひとつがNASHであろうと言われています。カレン・カーペンター(といっても若い人は知らないかもしれませんが)は拒食症から心不全を来したとされていますが、直接の死因はNASHだったのではないかとの噂もあります。
肥満がある人はやせること、あるいは拒食症の人は食べること、つまり適正体重を保つことがNASHの予防になるわけですが、では進行してしまったNASHに対してはどのような治療をすればいいのでしょう。残念ながら現在NASHに有効な薬はほとんどありません。新しい薬に期待できないのかというと、最近(2014年8月)米国でNASHに対する新薬が承認されましたので近いうちに日本でも処方可能になるかもしれません。しかし、大切なことは薬に頼るのではなく、どの段階であったとしても、つまりすでに肝細胞の障害が進行していたとしても、適正体重にもっていく努力をすることです。
どうしてもやせることができないという人には手術という選択肢もあります。どこの医療機関でもおこなっているわけではありませんが、食事量を減らすことを目的とした胃の手術がいくつかあります。(ただし、現時点ではこれらの手術に保険適用はなく全額自費診療となります)
最も侵襲性が低い(身体への負担が小さい)手術は「内視鏡的胃内バルーン留置術」と呼ばれるもので、簡単にいえば、胃カメラを用いて胃の中でバルーン(風船)を膨らませてそれを胃内に留置するという方法です。バルーンのせいで胃の体積が減ることで食事量が減るというわけです。
全身麻酔下で腹腔鏡を用いた手術(腹部を大きくあけるのではなく小さな穴を3カ所ほど開けてそこから器具を挿入する手術)もあります。「腹腔鏡下調節性胃バンディング術」といって胃全体を外側からバンドでくくって胃内の体積を小さくする方法や、「腹腔鏡下スリーブ状胃切除術」といって胃の大部分を切除して胃を腸のような細い管にしてしまう方法があります。
NASHは生まれたときから患っている人はいないわけですし、感染するものでもありません。たしかに、遺伝的に太りやすい、脂肪をためやすい、そしてNASHになりやすいということはあります。実際、米国でもヒスパニック系はNASHに遺伝的になりやすいことが指摘されています。
ただしすべて遺伝で決まるわけではなく、実際には遺伝よりも生活習慣の占める割合の方が大きいのです。ならば肥満(あるいは極端なやせ)がある人は、今一度肥満(やせ)のリスクについて再考し、生活習慣の見直しをするべきということになります。
NAFLDという言葉を聞いたことがないという人も、もしも健康診断などで「軽度の肝機能障害がある」、「肝臓の数字が少し悪化している」、「脂肪肝がある」などということを言われたことがあれば、NASHの可能性はないのかどうか、日常生活でどのようなことに気をつければいいのかについてかかりつけ医に聞いてみることをすすめます。
おどかすようで恐縮ですが、NAFLDの1~2割がNASHであり、NASHの1~2割が10年後に肝臓ガンになるということは覚えておいた方がいいでしょう。
注1:詳しくは下記を参照ください。
はやりの病気第38回(2006年10月)「本当に恐ろしい拒食症」
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2014年10月21日 火曜日
第141回(2014年10月) 速く歩いてゆっくり食べる(前編)
歩くことが健康増進につながるのは間違いないのですが、日常の診療では、よく歩いているのにもかかわらず生活習慣病が改善しない、という人がいるのも事実です。また「1日1万歩」という言葉が一人歩きしていますが、例えば20代の健康な人が1日1万歩をゆっくりと歩いても健康増進にはほとんど意味がないでしょうし、その逆に80代の高齢者であれば早歩きで4千歩も歩けば充分健康に寄与します。
日頃の患者さんをみていても、「営業職で歩くことが多いから大丈夫です」とか「会社から帰宅するとき散歩をしてから電車に乗るようにしています」という人でも生活習慣病が改善せず悪化していくような人もいます。その逆に、「運動の時間はとれず内勤なのでほとんど歩いていません」という人でも日常の中のちょっとした工夫でダイエットに成功し、生活習慣病が改善する人もいます。
私は医師として生活習慣病を抱える患者さんを多くみてきましたが、運動をしていても(食事の量が増えているわけでもないのに)生活習慣病が改善しない人がいること、また、その逆にあまり時間がとれなくて最低限のことしかしていないという人でも改善することも多いことが数年前から気になっていました。
当初私は、(患者さんには失礼ですが)患者さんが本当のことを言っていないのではないかと考えていました。つまり、「営業職で歩く」といってもわずかな距離を大袈裟に言っているのではないかと考え、その逆の「さほど運動できていない」と言って効果がでている人は謙遜して控えめに話しているのではないか、と思っていたのです。
しかし、数多くの患者さんを診ているなかで、どうもそういうわけでもなさそうだ、ということに気付くようになりました。ここで私が太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)で診ている2人の患者さんを紹介したいと思います。(といっても患者さんの情報を公開するわけにはいきませんので、本人が特定できないようにアレンジを加えています)
ひとりめの患者さんは40代の男性(Aさん)で、仕事は通信機器の営業です。軽度の高血圧と高脂血症、さらに肥満があり、3~4ヶ月に一度私の元を受診しています。運動は得意でもないけれど苦手というわけでもないそうです。営業には電車を使い、歩く距離は少なくないと言います。また、仕事が早く終われば一駅分歩くようにしていて、さらに週末は自転車に乗ることを心がけているそうです。
できるだけ薬は使わないというのが生活習慣病の治療の基本ですし、またAさんもそのように考えているために、生活習慣の改善、具体的には食事の量と内容の見直し、そして運動をおこなうよう私は助言しています。診察を開始して2年近くがたちますが、残念ながら中性脂肪の値も血圧の数値も良くなるどころか少しずつ悪化してきています。このままでは薬を開始しなければならなくなります。
ふたりめの患者さんは50代の公務員の女性(Bさん)です。BさんもAさんと同じように軽度のメタボリック・シンドロームがあり、谷口医院受診のきっかけは、健診で異常を指摘されて、というものでした。BさんはAさんと異なり、運動は苦手とはっきりと言います。そして、主婦でもあるために運動時間をとることはできない、ウォーキングは定年退職後におこなうことを考えているけれども今は無理、ということでした。
そこで私は、今の状態でもできることをアドバイスしました。職場が3階だというので、まず職場では階段を使うこと、駅でも可能な限り階段を使うことをすすめました。電車では座らずにつり革を持って可能な範囲でつま先だちを繰り返す運動をおこなってもらうようにしました。(これを「カーフ・レイズ」と呼びます。本格的なカーフ・レイズはバーベルを持っておこないますが、自体重だけでも充分な運動になります) そして速歩きを心がけるように助言しました。結果は、これを3ヶ月おこなっただけで2kgの減量と、肝機能、中性脂肪の値が改善し、血圧も血糖値も下がったのです。(ちなみに、自宅でダンベルを用いた筋トレもすすめたのですが、これはやってもらえませんでした)
筋肉量を維持するには筋肉にある程度の負荷をかける必要がありますし、丈夫な骨を維持して骨粗鬆症を予防するのにもある程度の負荷が不可欠です。ならば筋トレをすればいいではないか、となるわけですが、先に紹介したBさんのように、理屈では分かっていても実際には・・・、という人は少なくありません。ジョギングは、特に下半身の筋肉量維持や股関節の骨折予防、また膝関節症の予防にもなるのですが、継続しておこなうのはそれなりに大変で、運動が苦手という人には相当ハードルが高いといえます(Bさんもそうでした)
ではどうすればいいのか、ですが、私はウォーキングをすすめています。ただしどのようなウォーキングでもいいというわけではありません。私は直接Aさんが歩いているところを見たことがありませんが、おそらくAさんの歩く速度では遅すぎるのです。つまり、一般的な歩行速度では、あまり意味がないということです。高齢者ならまだしも40代で普通の速度(おそらく時速はせいぜい5km/hr程度でしょう)であればあまり生活習慣病の改善にはつながらないのです。
Aさんは自転車にも乗っていると言っていましたが、市内で自転車に乗ってもあまり健康増進には寄与しません。ウォーキングにしてもサイクリングにしても少し心拍数が上昇するくらいにもっていく必要があります。しかし、心拍数が上がるほど自転車をこぐとスピードが出過ぎて危険です。ウォーキングであればこのような危険性はありませんし、少し心拍数が上昇するくらいの速度を意識するようにすれば大変有効な運動になります。
Bさんが実践しているように「階段を使う」というのも大変優れた方法です。谷口医院の何人かの患者さんは、駅では原則として階段を使うというのをルールにしています。実際にやってみると分かりますが、日頃運動をしていない人がエスカレーターを使わないというのはけっこうしんどいものです。しかし、慣れてくると階段の利用がそれほど苦痛でなくなってきます。
ウォーキングは速く歩いてこそ意味がある、というのは私ひとりが主張していることではなく科学的に実証した疫学データもあります。日本で最も有名なのは、東京都健康長寿医療センター研究所の青柳幸利医師がおこなった青柳研究(中之条研究とも呼ばれています)です。この研究は、群馬県中之条町の65歳以上の高齢者約5,000人を対象として13年間の追跡調査をおこない、1日の歩数や運動強度と健康の関係を調べたものです。その結果「1日8,000歩、20分の速歩き」が健康の鍵という結論が導かれています(注1)。
海外でも歩く速さと生活習慣病の関係の研究はときどき報告されており、例えば医学誌『Journal of the American Heart Association』2010年4月6日号に掲載された論文では、歩くのが速い女性は脳卒中を起こしにくい、ということが述べられています(注2)。
また、最近では「運動認知リスク症候群」(Motoric cognitive risk syndrome、MCRと略されます)という疾患の概念が確立されてきています。これは、遅い歩行速度と軽度の認知異常がある状態のことをいい、認知症の前段階と言われています。ここで重要なのは、「軽度の認知異常」は本人にも家族にも分かりにくいけれども、「遅い歩行速度」なら気付きやすい(気付かれやすい)ということです。早い段階で認知症のリスクが評価されると、適切なタイミングで薬を開始することが可能になります。
私は、メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」で健康を増進させる「10個の習慣」を提唱しました(注3)。「10個の習慣」の1つがExercise(運動)であり、今回はそのひとつのExerciseについて述べました。まとめると、次のようになります。
・本格的な運動のハードルが高い人にはウォーキングがおすすめ
・ウォーキングのためのまとまった時間がとれないという人は日頃から速歩きをこころがける
・エスカレーターやエレベーターは極力避けて階段を使う
・漠然とゆっくり歩いて歩数を稼いでも健康増進には寄与しない
・日常生活で筋トレもできる。電車の中でのカーフ・レイズはそのひとつ
・年齢に応じたトレーニングを考慮する
次回は「10個の習慣」のひとつであるEating(食事)について、最近の研究結果を踏まえて効果的な食事について述べていきたいと思います。
注1:この研究は下記URLで詳しく知ることができます。
http://www.yakult.co.jp/healthist/221/img/pdf/p20_23.pdf
また、青柳医師の著書『病気の9割は「運動」が原因』(あさ出版)でも詳しく知ることができます。このタイトルは一見すると運動を否定したもののようにとれますが、実際には適度な運動が推薦されています。おそらく出版社や編集者がインパクトのあるタイトルを求めたためにこのような誤解を招くものになったのだと思います。
注2:詳しくは、下記医療ニュースを参照ください。
2010年4月14日「歩くのが速い女性は脳卒中を起こしにくい」
注3:下記コラムを参照ください
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
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2014年10月17日 金曜日
2014年10月17日 AB型は認知症のリスクが上昇
すでに一般の雑誌などでも取り上げられているようですが、血液型がAB型の人は認知症のリスクが上昇する、という研究が話題になっています。医学誌『Neurology』2014年9月30日号(オンライン版)にこの論文(注1)が掲載されています。
研究では、45歳以上のアメリカ人の被験者約3万人を対象として記憶力・思考力の検査を実施し、3.4年後に再検査を行っています。被験者のうち、認知機能障害(cognitive impairment)があると診断された495人と、スコアが正常であった587人の対照者を比較し、血液型の違いが調べられています。
その結果、血液型がAB型の人は、思考能力の低下が起きる比率がO型の人よりも82%高かったそうです。AB型は米国人口の約4%を占めるそうです。(ちなみに、米国は相対的にAB型の人が少なく、日本では全人口の10%がAB型と言われています)
この研究で研究者らは、第Ⅷ因子にも注目しています。第Ⅷ因子というのは血液凝固に関連する物質で、これが遺伝的に体内でつくられないのが血友病です。血友病の人は無治療でいるとが出血が止まらなくなりますから、定期的に注射で第Ⅷ因子を補わなければなりません。
AB型→第Ⅷ因子高値→血液凝固が亢進→認知機能障害、と研究者らは考えたようですが、結果としてはAB型と第Ⅷ因子高値の相関はそれほど高くなく、AB型で第Ⅷ因子高値による認知機能障害が起こったと推測されるのは18%のみだったようです。
*************
AB型の人はこのような報告を聞くといい気持ちがしないでしょうが、今回の研究だけでAB型は認知症の絶対的なリスクとまで言い切れません。(この研究に影響を受けて、AB型の子どもを避けるためにA型とB型のカップルが出産を諦める、などというのはあまりにも馬鹿げています)
この研究で認知機能障害がみられた被験者は、喫煙率が高く、高血圧・糖尿病・心疾患・高コレステロール血症などを有する比率も高かったようです。
今のところ、認知症を確実に予防できる方法というものは確立されていませんが、基本的な生活習慣病の予防をしていくのが最も現実的な対処法と考えるべきでしょう。尚、私は生活習慣病を防ぐための「10個の習慣」を推薦しています。興味のある方は下記コラムを参照ください。
(谷口恭)
参照:メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
注1:この論文のタイトルは「ABO blood type, factor VIII, and incident cognitive impairment in the REGARDS cohort」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://www.neurology.org/content/83/14/1271.abstract?sid=008bc994-e140-4fe4-896d-b51a15892c57
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2014年10月10日 金曜日
2014年10月号 「社会人ナース」という選択
医学部受験を考えているんですけど・・・、という相談が私のもとにしばしば寄せられます。これは私自身が一般の大学を卒業し一般のサラリーマン生活を経た後に医学部に入学していること、そして医学部受験の本を上梓したことがあるからです。
私のように別の大学を卒業してから医学部を受験することは一般に「再受験」と呼ばれています。私が最初に上肢した本のタイトルは『偏差値40からの医学部再受験』です。実は、出版社と本のタイトルを決めるときに当初私はこのタイトルに反対でした。その理由は、「再受験」という言葉に違和感があったことと、私自身は『あなたも医学部を目指しませんか』というタイトルにしたかったからです。しかし編集者の意見は『あなたも・・・』ではインパクトが弱すぎるし、「再受験」という言葉は充分に認知されている、というものでした。
結局、編集者の意見に従うことにして自分の本に「再受験」という言葉を入れたのですが、私は今でもこの言葉に馴染めません。それに、私は「再受験」を考えている人だけを応援したいのではなく、現役生で勉強のスランプに陥っている人も、社会人の経験はなく医学部を何度も受験している人も、高卒で働いていて医学部受験を考えている人も、同じように応援したい、と考えています。
いったん大学を卒業してから、あるいはいったん会社員の経験をしてから医学の道を志すのは医師だけではなく、看護師を目指す人たちも少なくありません。しかし、別の大学を卒業しているとか、社会人の経験があるとかいった人が看護学校を受験するときにはなぜか「再受験」という言葉はあまり使いません。その代わりに、このような経験がある看護師のことを「社会人ナース」と呼ぶそうです。例えば、『日経メディカル』オンライン版では2014年9月に「社会人ナース」という言葉を使って特集記事を載せています。
一般の会社員の経験のある医師を「社会人医師」とは呼びませんし、そもそもナース(看護師)も社会人ですから「社会人ナース」などという言葉に私は違和感があるのですが、この言葉もすでに確立されているなら従うしかありません。
もっとも、私は言葉の定義にこだわっているわけではなく、今回のコラムの主題はここからです。社会人ナースが増加しており、看護学校のなかには社会人枠を設けているところも増えてきているようで、先に挙げた『日経メディカル』によれば、なんと定員の50%が社会人枠の看護学校もあるそうです。
私が日頃診ている患者さんのなかにも、「先生、あたし、看護学校を受験することにしました」と報告してくれる人がいます。私が再受験で医学部に入学したことを元々知っていて、元々看護師になることに興味があって、ついに決心したから報告に来た、という人もいれば、太融寺町谷口医院の看護師の仕事ぶりをみていて看護師という仕事に興味がでてきた、という人もいます。すでに看護学校を卒業して看護師として第一線でがんばっている太融寺町谷口医院の(元)患者さんも増えてきています。
看護学校受験を考えているんですけど・・・、という相談をメールで受けることもときどきあります。彼女らの最大の悩みは、年齢がハンディキャップにならないか、ということです。そしてこの「年齢のハンディキャップ」の悩みを細かく分類すると、①入学後の勉強についていけるか、②高卒で入ってくる若い子たちと良好な人間関係がつくれるか、③実際に仕事に出たときに年下の先輩と上手くやっていけるか、④患者さんから受け入れられるか、くらいになります。
年齢以外の悩みで多いのが、看護学校に合格できる学力がない、周囲の理解が得られない、不器用だけど大丈夫か、血をみることに抵抗がある、入学までにどれくらい貯金が必要か、などです。これらはいずれも本人にとっては深刻な悩みだとは思いますが、今回は「年齢のハンディキャップ」に絞って述べていきたいと思います。
まず上記④の、患者さんから受け入れられるか、という点についてはまったく問題ありません。私は医師になってから社会人の経験があるということで随分と”得”をしました。まず単純に年をとっていますから(私が研修医1年目のとき33歳でした)、医師としての貫禄があるわけではありませんが、患者さんからも他の医療スタッフからも、それなりの「社会人」とみなされました。
一方、24~25歳の若い研修医だとなめられたりすることもあるわけです。もちろん私も患者さんに挨拶するときは「研修医です」と話していましたが、たいがいは話の流れから「医学部に入る前は社会人をしていました」という会話になります。私の経験上、このことを否定的にとらえる患者さんは皆無でした。むしろ、現役や一浪で医学部に入学した研修医よりもアドバンテージがあったといっても過言ではないと思います。
次に、①の、勉強についていけるか、ですが、これも問題ありません。ただし、看護学校に入学すれば、おそらくこれまでに体験したことのないくらいの勉強を強いられます。睡眠時間も短くなるでしょうし、アルバイトが必要な人は自由時間がほとんどなくなるかもしれません。子育てをしている人はさらに大変です。しかし、です。”たかが”学校の勉強です。社会人の経験のある人、主婦の経験がある人、子育ての経験のある人からすれば、学校の勉強よりも遙かに大変なことをこれまでさんざん経験しているはずです。その苦労を考えればたかが学校の勉強など取るに足りません。少なくとも高卒後すぐに入学した若い人たちにできることができないはずがないのです。
②の、若い同級生との関係、については、勉強にも実習にも、そして生きるということにも熱心な元社会人の看護学生は同級生から尊敬の眼差しを受けることになります。私の知る範囲でいえば、元社会人の看護学生は講義では前の方の席に座り、講師への質問も積極的におこない、実習ではリーダーシップを発揮します。そのような学生は他の(若い)学生から尊敬されることはあっても嫌われることはありません。たとえ何らかの理由で一時的に嫌われるようなことがあったとしても、「人」として、そして「社会人」として正しいことをしていればそのうち再び周囲に人が集まってきます。
③の、職場での人間関係、特に年下の先輩との関係はどうでしょうか。医師の世界ではこれらは問題にならないのですが(私にも年下の先輩医師は大勢いますが、人間関係で悩んだことはほとんどありません)、看護師の世界は少し複雑であるという話をときどき聞きます。
先に紹介した『日経メディカル』の記事にもそれについて触れられており、せっかく社会人を経て看護師になったというのに、彼女らの「早期離職」が問題になっているそうです。ある病院の看護教育担当者によれば、「価値観が違う」「合わない」などの理由で辞めていく社会人ナースが少なくないそうです。私の経験でいえば、「価値観が違う」などの理由で辞めていくのは高卒で看護学校に入った若い看護師にむしろ多いのですが、大病院の教育担当者がコメントするくらいですから社会人ナースのなかにも少なくないのでしょう。
しかしながら、「価値観が違う」などの理由で辞めてしまった社会人ナースも、これから社会人ナースを目指そうとしている人もまったく心配することはありません。看護師を含む医療者の醍醐味は「求められている場所はいくらでもある」ということ、そして「自分の信念を曲げることなくミッションに従事できる」ということです。
「求められている場所はいくらでもある」というのは、単に日本の看護師は慢性的な人手不足である、ということだけではありません。世界に目を向けるとまともな医療を受けることのできない人たちが大勢います。そのようなところで働いても給料はもらえませんが、看護師の知識と技術、経験があれば、生涯にわたり他人に貢献することができるのです。このことだけでも看護師がどれだけ素敵な職業かということが分かるでしょう。
「自分の信念を曲げることなくミッションに従事できる」というのは、看護師のミッションが明確であるということです。患者さんの命を救い健康に貢献する、というのが世界共通の看護師のミッションです。例えば、もしもあなたがA社に勤務しておりXという製品を担当していたとしましょう。それを顧客に販売するときに、どうしてもXを売らなければならない理由はあるでしょうか。その顧客にとってはB社製のYの方がいいかもしれないですし、そもそもXもYも必要ないものかもしれません。一方、医療者が患者さんの命を救い健康に貢献すべきというのは自明なわけです。
文化や宗教が異なっても、命を救い健康に貢献する、という医療者のミッションは変わりません。もしもあなたの勤務先が不幸なことに金儲け主義の病院であったとすれば(実際にはマスコミなどが言うような金儲けを考えている医療機関はめったにありませんが)、さっさとそこを退職してまともな医療機関に転職すればいいだけの話です。あるいはどうしても人間関係に馴染めなければ、運が悪く縁がなかった、と考えて次を探せばいいのです。
私が医師になってから、医療の世界と一般の会社とは違う、と感じることのひとつに「職員が退職するときの寂しさがあまりない」というものがあります。同じ医療機関で働く医師や看護師が退職するとき、もうしばらく会えない、あるいは一生会えないかもしれない、と思うと寂しい気持ちがないわけではありませんが、「同じミッションを持つ有志だからいずれどこかでまた一緒に社会貢献ができるかもしれない」という感覚があるのです。
これは私が院長をつとめる太融寺町谷口医院でも同じです。一抹の寂しさがないわけではありませんが、長く働いた看護師が念願のやりたい仕事やボランティア、NGO活動などに専念するために退職するとき、院長の私の立場からすると「卒業生を送り出す」ような感覚になります。一般の企業であれば退職は「裏切り」と見なされることもあるでしょうが、医療機関では裏切りではなく「卒業」になるのです。
年齢のハンディキャップなどほとんどなく、たとえ多少のハンディがあったとしても看護師の仕事の醍醐味を考えれば取るに足らないものである、ということを社会人ナースを目指している人に知ってもらいたいと思います。
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2014年10月6日 月曜日
2014年10月6日 東京のカレー屋で腸チフスの集団感染
2014年9月に東京で最も話題になった感染症といえばなんといってもデング熱であり、その他の感染症はほとんど注目されなかったと思います。デング熱以外に、どうしても看過できない感染症の報告が東京都千代田区でありましたので、遅くなりましたがここでお伝えしておきたいと思います。
その「どうしても看過できない感染症」とは腸チフスです。
2014年9月10日、東京都は、東京都千代田区麹町のカレー屋「D」で食事をした9~40歳の男女合計8人が下痢や発熱などの食中毒症状を訴え、そのうち6人から腸チフス菌が検出されたことを発表しました。今回の腸チフスの報告がなぜ見逃せないかというと、海外から帰国した直後の腸チフスの報告はしばしばありますが、今回のように国内での感染、しかも集団食中毒というのは最近ではなかったからです。(少なくとも厚労省で統計をとりだした2000年以降での報告はありません)
東京都によりますと、症状を訴えた8人は、2014年8月8日前後に「D」が調理した食事や弁当を食べたようです。重症化した6人が入院しましたが全員が治癒したそうです。「D」は9月6日から営業を自粛し9月15日から再開しています(注1)。
****************
一般に、腸チフスは衛生状態が良くない地域に発生する感染症で、日本でも戦前から戦後しばらくの間はそれなりに感染者がいましたが、環境衛生の改善で、国内での感染はほぼなくなりました。今も年間100例程度の報告はありますが、これらはほぼすべて海外で感染したケースです。特にインド、パキスタンなど南アジアでの感染が目立ち、(なぜか)東南アジアではあまりありません。
今回はカレー屋での発症ですから、南アジアから輸入した食材に含まれていた可能性が高いと考えられます。腸チフスはヒトからヒトへの感染はありませんし、デング熱のように他の生物が媒介することもなく、食べ物以外からの感染はほとんどありませんから慌てる必要はないと思います。
ただし、南アジア料理が普及するにつれ、このような事例は今後増えていくかもしれません。腸チフス菌に効果のある抗菌薬はたくさんありますから、耐性菌に悩まされる心配は(今のところ)ありません。ただ、他の細菌感染に比べて抗菌薬を比較的長期間使用しなければならないことが多く、診断がつけば入院になるのが普通です。
腸チフスの診断がつくのはときに遅れることがあるのですが、その理由のひとつは、必ずしも下痢が伴わないということです。むしろ便秘になることも多く、発熱や頭痛に皮疹が現れることもあり、患者さんからみれば、下痢も嘔吐もないことから食中毒は考えないのです。また、アジア帰りで、蚊に刺されたエピソードがあったりすると、医療者の方も先にデング熱やチクングニヤを疑ってしまいます。
腸チフスにはワクチンがありますが日本で認可されている製品はありません。腸チフスとよく似た感染症にパラチフスと呼ばれるものがあり、症状は腸チフスと似ておりやはり抗菌薬で治療します。ただしパラチフスにはワクチンはなく、腸チフスのワクチンを接種していてもパラチフスには無効です。
ちなみに、よく似た名前の感染症に「発疹チフス」というものがありますが、これはリケッチア属に属する細菌感染で、腸チフスやパラチフスの原因菌とはまったく異なり、治療法も違います(有効な抗菌薬のタイプが異なります)。では、なぜ似たような名前がついているのかというと症状(発熱、皮疹)が似ているからです。
さらにややこしいことに、腸チフス、パラチフスは英語ではそれぞれTyphoid Fever, Paratyphoid Feverというのですが、腸チフス菌、パラチフス菌を英語ではSalmonella Typhi、Salmonella Paratyphi Aと呼びます。つまり、これら2つの菌はサルモネラ属に属する、つまりサルモネラ菌と同じ仲間なのです。
このあたりがややこしくて、私は医学生の頃、覚えるのに苦労しました・・・。
注1:カレー屋「D」はその後閉店したようです
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