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2016年3月19日 土曜日

第158回(2016年3月) 「がん検診」の是非

 がん検診を受けるべきか受けるべきでないか、というのはここ数年間よく話題になりますし、患者さんからもよく質問されることです。今回は、私なりに、この「がん検診は是か非か」についてここ10年ほどの「歴史」を振り返ってみて、ではどうすればいいのか、というところまで述べていきたいと思います。

 がん検診の是非については両極端な考えがあり、患者間のみならず医療者の間でも意見がまとまっていない、というのがひとつめのポイントです。

 両極端な考えの1つは近藤誠先生の「がんもどき理論」です。がんもどき理論とは、「本物のがんは検診では発見することができず発見されたときには助かる術がない。検診で見つかるのは治療不要な<がんもどき>だけ。だから検診は不要」、とするものです。

 近藤誠先生の「がんもどき理論」に全面的に賛成し、この理論を広めようとしている医師を私は知りません。しかし、この理論は世間一般にある程度受け入れられています。ここが近藤先生のすごいところで、同業者の医師にこれだけ批判されながら世間では受け入れられている点は注目に値します。

 がんもどき理論に対し私の見解を述べておくと、少なくとも甲状腺がんの大半についてはがんもどき理論で説明がつくと考えています。(これについては過去のコラムで述べたことがあります)。また、前立腺がんについてもその可能性があるのではないかと考えています(これについては後述します)。

 しかしがんもどき理論を受け入れられないがんもあります。代表は子宮頚がんです。子宮頚がんは定期検診でほぼ100%早期発見できて、早期発見できればほぼ100%助かります。早期発見ができて早期治療をした患者さんに対して「そのがんはがんもどきだから無駄な治療をしましたね」と近藤先生は言われるのかどうか、機会があれば聞いてみたいものです。(これについても過去のコラムで述べたことがあります)

 両極端な考えのもう一方は「腫瘍マーカー」に対する”信仰”です。総合診療(プライマリ・ケア)の現場では、「人間ドックでがんの値が少し高いと言われて心配になって来ました」という訴えが少なくありません。ここで患者さんが言っている「がんの値」というのが腫瘍マーカーです。腫瘍マーカーに対する誤解は過渡期に比べれば少しましになりましたが依然根強くあります。

 腫瘍マーカーとはがんを早期発見できるものではありません。腫瘍マーカーを測定する目的を一言でいえば「がんを発症して治療を受けた人の再発がないかを調べること、または治療できない状態まで進んだ人の重症度を調べること」です。しかも、これらもあくまでも「参考」であり、絶対的なものではありません。そして、がんの早期発見にはまったく無意味です。もしも検診で腫瘍マーカーが高く、その原因が本当にがんであるなら、治療できない状態まで進んでおり「早期発見」とは呼べないのです。

 それだけではありません。「弊害」も少なくないのです。そもそも人間ドックを受ける人というのは健康に対する関心が強く、さらに「もしもがんが見つかればどうしよう・・・」と不安を感じやすい人が多いのです。そして、腫瘍マーカーはあくまでも参考にすぎず、高い値が出てもがんになっているわけではなく(これを「偽陽性」と呼びます)、逆に正常値であったとしてもがんがないとは言えません(これを「偽陰性」と呼びます)。

 不安な人が腫瘍マーカーを調べて高い値がでたとき、それは偽陽性であり心配不要ですよ、ということをいくら説明しても納得してもらえないことがあります。強くなった不安感が冷静な判断を妨げているのです。ひどい場合は、この医療機関で見つからなかったけれど別のところを受診すれば見つかるかもしれない、と考えドクターショッピングを始める人もいます。人間ドックで何気なく受けた不適切な検査がその後の生活に大きな影響を与え、無駄なお金と時間を費やすことになるのです。

 ではすべての腫瘍マーカーががん検診で否定されるのかと言えば、ひとつだけ受けてもいいかもしれないものがあります。それは前立腺がんの「PSA」という腫瘍マーカーです。PSAは長い間、がんの早期発見につながる”唯一の”腫瘍マーカーと呼ばれてきました。しかし、現在ではこの見方も変わりつつあります。
 
 きっかけは2007年9月、厚生労働省の研究班が「PSA検査は集団検診として推奨しない」とするガイドライン案を発表したことです。研究班は、推奨しないとした理由を「PSA検査による死亡率の減少効果が不明であり、さらに精密検査による合併症の危険が高いこと」としています。これに対し泌尿器科学会は反対の声明文(注1)を発表しました。

 そして2012年5月、今度はUSPSTF(米国予防医療サービス対策委員会)が見解を発表しました。「PSA測定は不利益が利益を上回る」として前立腺がんの早期発見にPSA測定をおこなわないように勧告したのです。すると、日本と同じようにやはり米国泌尿器科学会がこの見解に対し反対の意見を公表しました。

 つまり、日本でも米国でも前立腺がんの早期発見にPSA測定が有効か否かというのは政府と泌尿器科学会で意見が正反対ということです。なぜこのようなことが起こるかというと、厚労省やUSPSTFは「国民全体」を見ているのに対し、泌尿器科医は「目の前の患者」を見ているからです。泌尿器科医からすれば、早期発見できれば助かったのに・・・、という症例を経験すると、多くの人にPSA検診をしてほしいと思います。一方、国民全体をみている厚労省やUSPSTFは、全体として死亡率が下がっていないどころか過剰診療につながり、手術の合併症や治療の副作用に苦しむこともあるため推薦できないと考えるのです。

 実際PSA検診が盛んにおこなわれた1990年代の米国では急激に前立腺がんの患者が増えています。以前から、前立腺がん以外の死因で亡くなった死体の解剖をおこなうと約半数に前立腺がんが見つかるということが指摘されています。これは、前立腺がんの多くは治療する必要がない、ということを示しています。前立腺がんは先に紹介した韓国の甲状腺がんの状況と似ていると言えます。

 さらに最近PSA検診の否定につながるかもしれない研究が発表されました。医学誌『Journal of Clinical Oncology』2015年12月7日号(オンライン版)に掲載された論文(注2)によりますと、前立腺がんに対するアンドロゲン遮断療法がアルツハイマー病の発症リスクになるというのです。治療する必要のなかった前立腺がんに治療をおこない、その結果アルツハイマー病を発症することになれば目もあてられません。そもそもPSAなど測定しなければこんなことにならなかったのに・・・、と考えたくなる人もでてくるでしょう。

 現在世界中で物議を醸している論文があります。医学誌『British Medical Journal』2016年1月6日号(オンライン版)に「がん検診はなぜ生存率を上げないのか」という内容の論文(注3)が掲載されました。この論文では、ほぼすべてのがん検診が結果として死亡率を減らせていないことを示しています。従来有効とされていた子宮頚がんや乳がん、胃がんでさえも検診が死亡率低下に寄与していないことをデータが示しているのです。

 ではどうすればいいのでしょうか。私個人の意見を言えば、現在厚労省が推薦している検診は受けるべきです。人間ドックのようにお金をかけるのではなく、市民健診や職場の健診のオプションを利用するのがおすすめです。厚労省が推薦しているのは、大腸がんの便潜血、胃がんのX線(バリウムの検査)及び内視鏡(胃カメラ)、肺がんのX線と喀痰検査、子宮頚がんの細胞診、40歳以降の乳がん(マンモグラフィー)です(注4)。

 ここで注意すべきなのは、先にも述べたように厚労省は「国民全体をみているのであってひとりひとりに注目しているわけではない」ということです。厚労省としては、全体としての費用対効果を最重視します。ごく少数のがん患者を早期発見できたとしても、莫大な費用がかかればその検査は推薦しないわけです。厚労省の推薦している検診以外に、我々ひとりひとりがどのような検査を受けるべきか、また受けるべきでないかという点については、かかりつけ医の意見を聞くのが賢明です。いきなり人間ドックに行って高額な費用を払うのではなく、日頃から目の前の患者さんの医療費を下げることを考えているかかりつけ医にまずは相談するのが一番いいというわけです(注5)。

注1:詳しくは、「「厚生労働省がん研究助成金による「がん検診の適切な方法と評価法の確立に関する研究」班(濱島班)の「有効性評価に基づく前立腺ガイドライン案(2007.9.10)」に対する声明文」を参照ください。

http://www.yokosukashi-med.or.jp/kenshin/psa.pdf

注2:この論文のタイトルは「Androgen Deprivation Therapy and Future Alzheimer’s Disease Risk」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://jco.ascopubs.org/content/34/6/566.abstract?sid=7102d39e-0583-443f-9854-937b6d10ed88

注3:この論文のタイトルは「Why cancer screening has never been shown to “save lives”–and what we can do about it」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.bmj.com/content/352/bmj.h6080

注4:詳しくは下記を参照ください。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000104585_3.pdf

注5:近い将来、がん検診が劇的に変わる可能性があります。現在注目されているのが、国立がん研究センターがすすめている「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」というプロジェクトです。これが実現するとわずか1滴の血液で13種のがんの早期発見が可能となり、2018年度末までに実用化すると言われています。また、ガン独特の臭いに注目した研究も期待されています。ひとつは東京医科歯科大学がおこなっている臭いを感知するセンサーを使って手のひらの臭いからガンの早期発見をおこなう方法、もうひとつは、九州大学理学部がおこなっている線虫に人の尿の臭いをかがせてがんの早期発見をおこなう方法です。これらが実現化すれば現在のがん検診は歴史的転換を迎えるかもしれません。

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2016年3月11日 金曜日

2016年3月 外国を嫌いにならない方法~中国人との思い出~

 私が中国人と初めて本格的にコミュニケーションをとったのは1991年、前回紹介した韓国人女性の話と同じで、やはり商社勤務時代の新入社員の頃です。韓国人のときのように若い女性ではなく、今度は50代の男性です。

 事前に上司から聞いていた情報では、「来日するのは経済省の役人。日本語はできないだろうが、国の任務で来日するのだから英語は堪能なはず」、とのことでした。その役人の任務というのは、私が勤務していた商社の取引先である工場の見学です。日本の技術を学ぶために国の任務として来日する、というわけです。当時の私は英語がダメですし、工場の説明など日本語であったとしてもできません。しかし、工場に行けば、英語のできるスタッフがいるので問題ないとのことでした。その工場には外国人がしばしば見学に来るそうです。

 ということは、私の任務としては、朝ホテルにその中国人を迎えに行き、一緒に電車に乗ってその工場を訪れることと、見学が終われば再び電車に乗ってホテルまで送っていくことだけです。昼食時にはいくらかの雑談も必要になるでしょうが、上司によれば、昼食は工場の応接室でいただくことになるので、英語のできるスタッフも一緒だとのこと。「昼食時くらいは下手くそな英語ででもお前がもてなせ」と上司には言われましたが、当時の私に昼食をとりながら気の利いた話を英語ですることなどできるわけがありません。工場に着いてから出るまではすべて工場のスタッフに任せよう、私はそのように考えました。

 その中国人(ここからはTさんとします)が泊まっていたのは大阪の繁華街の小さなホテルでした。国の役人なんだからもう少し高級なところに泊まればいいのに・・、とおせっかいなことを考えましたが、当時の日中の経済格差を考えれば妥当なのかもしれません。しかし、小さなホテルであったおかげで私はTさんをすぐに見つけることができました。ロビーというよりは歯医者の待合室くらいの空間にいたのはTさんだけだったからです。

 Tさんは私を見かけるとにっこりと微笑んでくれました。よく、中国人は無愛想でウェイトレスもにこりともしない、と言われますが、中国人全員がそういうわけでもなさそうです。初対面の挨拶が大切だ、と考えた私は満面の笑顔をつくり、「グッドモーニング」と言いました。

 ところが、です。Tさんは、笑顔はつくりうなずいてはくれるものの何の返答もありません。年下の者が先に自己紹介すべきだと考え、私は自分の会社名と名前を名乗り、今日は一日お供します、ということを下手くそながら暗記してきた通りに英語で話しました。しかし、依然としてTさんは一言も話してくれません・・・。

 ようやく私は気づきました。そうなのです。Tさんは英語がまったくできないのです。私は焦りました。聞いていた話と違う・・・。しかし、そんなこと言っても何も解決しません。おそらく身振り手振りで工場まで連れて行くことは可能でしょう。しかし、工場に着いてからはどうすべきなのでしょう。英語が堪能な工場のスタッフも中国語はできません。これは困ったと思いましたがとりあえず工場に行くしかありません。私はノートを取り出し「熱烈歓迎」と書いてみました。するとTさんはニッコリ微笑んで初めて何かを話してくれました。しかし中国語など私に分かるわけがありません。この先工場ではどうすればいいのでしょう・・・。

 その日の私は幸運でした。工場で担当者に事情を話すと「何とかなるかもしれない」とのこと。しばらくしてその担当者が連れてきたのはなんと中国人の研修生。今でこそ日本で働く中国人は珍しくありませんが1991年当時、このような中国人研修生は非常に珍しく、実際この工場でも受け入れたのはその研修生が初めてであり、しかも翌日には帰国する予定とのことです。これで私の肩の荷は一気におりました。その研修生は「国の偉い人を日本で案内することになるとは思わなかったが重要な任務を任せられて嬉しく思う」と日本語で話してくれました。工場を出るまで私の役割はまったくなく、タダで昼食をいただいたことを申し訳なく思ったことを覚えています。

 Tさんを無事にホテルまで送りとどけ、私が帰ろうとするとTさんは私の腕をとって引き留めます。どうやら「部屋に来い」とのことです。私は商社勤務時代にいろんな国の人をホテルまで迎えにいったり送ったりしていましたが、後にも先にも「部屋に来い」と言われたのはその一度限りです。

 そのまま帰るわけにはいかないような雰囲気になり、私はTさんと一緒にホテルの部屋に入りました。狭い部屋はベッドが占領し、立っているスペースもないほどです。Tさんは私にベッドに座れ、とジェスチャーで指示します。私より身体の大きい若い男性なら恐怖を覚えたかもしれませんが、Tさんは小柄な初老という感じです。

 大きなかばんの中から小さな箱を取り出したTさんはそれを私に手渡します。それがプレゼントだと気づいた私は、シェイシェイと言いながら箱を開けると、そこにはきれいなデザインでいかにも高級そうなネクタイが入っていました。私が嬉しそうな顔をするとTさんは本日一番の笑顔になりました。シェイシェイと何度も言い私はTさんの部屋を去りました。

 後日、私の発音ではシェイシェイが通じないと中国語に詳しい上司に教えてもらいましたが、このときは通じたのではないかと思っています。話す言葉のコミュニケーションがまるでなかったとはいえ、筆談で3割くらいは通じましたし、丸一日一緒に過ごしたおかげでそれなりの意思表示ができるようになっていたからです。ちなみに、それから25年たった今も私はそのネクタイを使っています。

 この出来事があって数ヶ月後、会社に香港人の若い女性が入職してきました。当時香港はイギリス領でしたから香港人と中国人はライフスタイルが大きく異なっていたはずです。実際、この女性(Cさんとします)もオーストラリアの大学を卒業してから来日しています。英語は堪能で発音は恐ろしいほどきれいです。おまけに日本語も上手とは言えないまでも、それなりに会話はできます。しかも日に日に上達していくのが分かります。英語と中国語を話す外国人が、日本語を、間違えながらも一生懸命に話そうとする姿は大変微笑ましいものです。これは日本語を外国人に教えた経験がある人ならよく分かると思います。
 
 英語が堪能なことをひけらかすこともなく、謙虚な態度で日本語を使って仕事を覚えようとするCさんに否定的な気持ちを持つ社員など誰もいません。それどころか社員全員がCさんをフォローしようという気持ちになっていました。結局Cさんはたしか1年ほどで香港に帰っていきましたがその間Cさんの悪口を言う者は皆無でした。

 筆談で会話をした役人のTさんとオーストラリアの大学を卒業している香港人のCさん。私が初めてコミュニケーションをとった中国人がこの二人だったおかげで、私は中国という国に対して好印象をもっています。もちろんすべての中国人と上手くやっていけるとはまったく思っていませんが。

 香港は私が最も好きな国(地域)のひとつですが、初めて訪れたとき、英語があまりにも通じないことに驚きました。Cさんのような海外の大学を出ている人はごくわずかで、大半の人は英語とは縁の無い生活をしています(注1)。タクシードライバーもほとんど英語ができず香港でタクシーに乗るのは一苦労です。

 私は中国本土に行ったことがないのですが、中国が好きで何度も訪れている人に聞いても、最近は少しましになったとはいえ、日本人との違いに辟易とすると言います。店員はどこも無愛想で、ゲストハウスは明らかに空室があるのに「メイヨー」(無い)と言われるし、列をつくらない中国人に紛れて駅で切符を買うのは本当に苦労する、といった話は何度も聞きました。

 太融寺町谷口医院にも中国人の患者さんは少なくありませんが、「値引きしろ」、とか、「保険証がないから知人の保険証で診てくれ」、などと平気で言う人がいます。なかには、「薬は不要です。安心してください」と伝えると「それなら今日は無料だネ」と言って診察代を払わない人や、(客観的には改善しているのに)「治るのに時間がかかりすぎるから今日はお金を払わない」と言ってクリニックを飛び出していくような人もいます。このような人ばかりをみていると、「中国人は~」と言いたくなることもあります・・・。しかし、もちろんこのような人たちばかりではありません。

 次回は、私が海外で被害に遭った「詐欺」について、そして外国人との話の「タブー」について話したいと思います。
 

注1:世界で最も信頼できるといわれている「英語能力指数(EF EPI 2015)」によりますと、英語を母国語としない国のなかで英語能力のランキングは、香港は33位で日本は30位です。やはり私の実感としてだけでなく香港人は英語があまりできないようです。ちなみに他のアジア諸国をみてみると、韓国27位、台湾31位、タイは62位です。


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2016年3月7日 月曜日

2016年3月8日 コーヒーを毎日飲めば膀胱がんのリスクが低下

 このサイトでは過去10年以上にわたり、コーヒーがいかに健康に良いかということを繰り返し伝えています。これは私がコーヒー好きだからではなく(それもあるかもしれませんが)、一流の医学誌に掲載されたきちんとした研究を紹介している結果です。もちろん否定的な研究が報告されればそれも伝えていますが、おしなべて言えば、コーヒーは多くのがんや生活習慣病の予防に有効であることを、いくつもの大規模調査が示しています。今回紹介するのは「コーヒーが膀胱がんのリスクを低下させる」というものです。

 研究は日本の学者によりおこなわれています。宮城県の住民を対象とした2つの大規模調査のデータを解析しコーヒーが膀胱がんのリスクを低下させるという結論が導かれています。論文は医学誌『European journal of cancer prevention』2016年2月12日号(オンライン版)に掲載されています(注1)。

 2つの大規模調査とは「宮城コホート研究」と「大崎コホート研究」で、それぞれの追跡期間は17.6年、13.3年です。対象者は合計73,346人、調査期間中に膀胱がんを発症したのは274人です。

 コーヒーを時々飲む人、1日1~2杯飲む人、1日3杯以上飲む人は、まったく飲まない人に比べて、膀胱がんの発症リスクが、1.22、0.88、0.56という結果です。これは、コーヒーを時々飲めば22%リスクが上昇するものの、毎日1~2杯飲めば12%低下し、3杯以上飲めば44%も低下するということを意味します。

 尚、膀胱がんの最大のリスクのひとつに「喫煙」がありますが、この調査は喫煙の有無を考慮して解析しても同様の結果となっているようです。

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 研究ではコーヒーをときどき飲めば逆にリスクが高くなっています。この理由は分かりませんが、3杯以上で44%もリスクが下がっていたというのは注目に値します。コーヒー好き(私も含めて)には嬉しい結果です。紅茶や日本茶との関係も気になるところであり、今後そういった研究も待ちたいと思います。

注1:この論文のタイトルは「The association between coffee consumption and bladder cancer incidence in a pooled analysis of the Miyagi Cohort Study and Ohsaki Cohort Study.」であり、下記URLで概要を読むことができます・

http://journals.lww.com/eurjcancerprev/pages/results.aspx?txtkeywords=The+association+between+coffee+consumption+and+bladder+cancer+incidence+in+a+pooled+analysis+of+the+Miyagi+Cohort+Study+and+Ohsaki+Cohort+Study.

参考:
はやりの病気
第22回(2005年12月)「癌・糖尿病・高血圧の予防にコーヒーを!」
第30回(2006年4月)「コーヒー摂取で心筋梗塞!? 」

メディカルエッセイ
第105回(2011年10月)「お茶とコーヒーとチョコレート」

医療ニュース
2015年8月28日「コーヒーが悪性黒色腫を予防」
2014年8月22日「コーヒーで顔のシミも減少」
2014年6月30日「コーヒーで基底細胞癌のリスクが43%も減少」
2013年9月2日「コーヒーの飲み過ぎで死亡リスク増加?」
2013年4月18日「コーヒーでも緑茶でも脳卒中のリスク低減」
2013年1月8日「コーヒーで口腔ガン・咽頭ガンの死亡リスク低下」

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2016年3月7日 月曜日

2016年3月7日 「睡眠12箇条」の指導手引きが公開

 不眠を訴えて受診される患者さんは少なくありません。そのなかの、全員とは言いませんが多くの方は、「不眠の対処法」について誤った考えを持っています。その代表は「眠くならなくても同じ時間にベッドに入るべき。眠れなくても横になっているだけで健康に良い」というもので、これは間違いです。

「健康日本21推進全国連絡協議会」という民間の団体をご存知でしょうか。この協議会は、2000年に国が開始した「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」の趣旨に賛同した民間団体が集合した協議会です。この協議会が2016年2月2日、「健康づくりのための睡眠指針2014 ~睡眠12箇条~ に基づいた保健指導ハンドブック」というものをウェブ上で公開しました(注1)。

 このハンドブックは、2014年3月に厚労省が「健康づくりのための睡眠指針2014」というタイトルで公表していた睡眠の指針をイラストやグラフをふんだんに取り入れて分かりやすく解説したものです。序文に、「この手引きは、 保健師等、睡眠の保健指導に携わる方々が、健康相談や健康教育などの機会に活用することを想定して作成されている」と書かれていますが、かなり分かりやすく編集されているので、指導に携わる人でなく、指導を受ける人、つまり不眠に悩んでいる人が直接読んでも充分に役立つものです。

 手引きのメインは「睡眠12箇条」で、下記のとおりです。

第1条 良い睡眠で,からだも心も健康に
第2条 適度な運動,しっかり朝食,ねむりとめざめのメリハリを
第3条 良い睡眠は,生活習慣病予防につながります
第4条 睡眠による休養感は,こころの健康に重要です
第5条 年齢や季節に応じて,ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を
第6条 良い睡眠のためには,環境づくりも重要です
第7条 若年世代は夜更かしを避けて,体内時計のリズムを保つ
第8条 勤労世代の疲労回復・能率アップに,毎日十分な睡眠を
第9条 熟年世代を朝晩メリハリ,昼間に適度な運動で良い睡眠
第10条 眠たくなってからふとんに入り,起きる時刻は遅らせない
第11条 いつもと違う睡眠には,要注意
第12条 眠れない,その苦しみをかかえずに,専門家に相談を

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 12箇条は「当たり前じゃないの?」と言いたくなるような内容のものもありますが、最後の3つは重要です。特に第10条は注目に値します。冒頭で述べたように、眠れないのにベッドに入り不眠と戦っている人は少なくありません。眠れないときはベッドから起き上がり、好きなことをするべきです。そして眠くなってから眠り、睡眠時間がかなり短くなったとしても翌朝は同じ時間に起きるのが基本です。

 第11条も要注意です。以前にはみられなかった激しいいびきや呼吸停止、手足のぴくつき、足のむずむず感、また眠れているはずなのに日中に眠気や倦怠感が継続する場合は早めに受診した方がいいでしょう。

 最後に、睡眠薬の不適切な使い方をしている人が少なくない、ということを強調しておきたいと思います。多くの睡眠薬は「依存性」と「反跳性不眠」(睡眠薬を飲むことによって飲み始める前よりも不眠の程度が悪化すること)があります。

注1:このハンドブックは下記URLを参照ください。

http://www.kenkounippon21.gr.jp/kyogikai/4_info/pdf/suiminshishin_handbook.pdf

参考:
はやりの病気第148回(2015年12月)「不眠治療の歴史が変わるか」
トップページ 「不眠を治そう」

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2016年3月1日 火曜日

2016年2月29日 水道水には多数の「良い細菌」

 水道水には多数の細菌が存在している、と言われればどう感じるでしょうか。意外ですが、これはどうも事実のようです。

 水道水には1mLあたり8万もの細菌が存在している・・・

 このような衝撃的な知見が発表されました。スウェーデンの名門大学ルンド大学が2015年12月16日付けのプレスリリース(注1)で公表しました。

 従来、細菌の観察は顕微鏡を用いておこなう方法が主流でしたが、現在は「DNAシーケンシング」(DNA sequencing)といって遺伝子レベルで細菌を検出する方法や、フローサイトメトリー(flow cytometry)と呼ばれるレーザー光を流体に当てることにより生じる蛍光を検出する方法などが用いられるようになってきました。同大学では、これら最新の器機を用いて水道水及び水道管の内側にできる”膜”(「バイオフィルム」と呼ばれます)を分析しました。その結果、多数の「良い細菌(good bacteria)」が存在していることが判ったのです。

 この見解は、大学のプレスリリースだけでなく医学誌『Microbes and Environments』2015年2月21日号(オンライン版)(注2)に掲載され、研究の詳しい手順も紹介されています。

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 水道水は無菌とは言えないけれど飲めるくらいには菌の量が少ない、と従来は考えられていました。実際、厚労省の「水質基準項目と基準値」(注3)には、水道水は「1mlの検水で形成される集落数が100以下」にしなければならないと規定されています。ここでいう「集落数」とは「細菌の塊」で、顕微鏡で観察されるレベルのものです。

 ところで、この研究で見落としてはならないことは、これはスウェーデンの水道水を対象としているということです。世界で水道水を飲める国というのはごくわずかしかありません。この研究では「良い細菌」が水道水に多数存在していることが明らかになりましたが、同じ研究を世界の大半の国でおこなえば違った結果になるはずです。日本もスウェーデンと同様、水道水が飲める稀な国ですから、おそらく今回の研究と似たものになると予想されます。

「良い細菌」がいてくれるおかげで「悪い細菌」が存在しづらくなり水道水がきれいな状態を保てているのでしょう。似たようなことは我々の腸内細菌についても言えます。どうやら我々は「良い細菌」に感謝しなければならないようです。

注1:このニュースリリースのタイトルは「WATCH: Our water pipes crawl with millions of bacteria(注目:水道管には大量の細菌)」で、下記URLで全文を読むことができます。

http://www.lunduniversity.lu.se/article/our-water-pipes-crawl-with-millions-of-bacteria

注2:この論文のタイトルは「Bacterial Community Analysis of Drinking Water Biofilms in Southern Sweden」で、下記URLで概要を読むことができます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsme2/30/1/30_ME14123/_article

注3:下記URLを参照ください。

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html

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2016年2月27日 土曜日

2016年2月27日 「座りっぱなし」はやはり危険

「座りっぱなし」が糖尿病や生活習慣病のリスクになるということをこのサイトでは2013年頃から繰り返し伝えています。世界中で様々な研究がおこなわれ論文が発表され、いまや「座りっぱなし」は生活習慣病の最もホットなトピックスのひとつといってもいいと思います。

「座りっぱなし」のリスクが注目に値するのは、「運動してもリスクは軽減しない」と考えられているからです。これに反対する研究、つまり運動や歩行を適度におこなうことでリスクは軽減すると結論づけた論文(下記注参照)もありますが、最近、新たに発表された論文では、やはり運動とは関係なく「座りっぱなし」そのものがリスクとされています。

 1日あたりの座りっぱなしの時間が1時間増えるごとに、2型糖尿病の発症リスクが22%、メタボリックシンドロームのリスクが39%上昇する・・・

 これは医学誌『Diabetologia』2016年2月2日(オンライン版)に掲載された論文(注1)の研究結果です。

 研究の対象者はオランダ在住の成人男女約2,497人(平均60歳)です。対象者に加速度計(accelerometer)を24時間、8日間装着してもらい、座って過ごした時間の長さ、立ち上がった回数などを計測し、血糖値が測定されています。

 対象者の55.9%が血糖値正常で、15.5%は耐糖能異常(糖尿病予備群)を示し、残りの28.6%が2型糖尿病でした。採血データと加速度計の計測結果を分析した結果、立ち上がった回数や座っていなかった時間の長さと糖尿病との間に関連性は認められませんでしたが、座りっぱなしの時間が1時間増えるごとに、2型糖尿病、メタボリックシンドロームの発症リスクがそれぞれ22%、39%上昇していたことが判ったそうです。

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 研究者は、さらなる研究が必要とコメントしていますが、やはりこの結果は注目に値します。運動してもリスクが減らない「座りっぱなし」。今後新たな知見が発表されることになるかもしれませんが、現在のところ、運動で帳消しできないほどハイリスクと認識しておくべきでしょう。

 ところで、私が「座りっぱなし」と訳しているのは「sedentary」という単語です。この言葉、私は数年前まで使ったことがなく、また今も日本人からはほとんど聞いたことがないのですが、最近外国人から日常会話のなかでよく聞きます。どうやら医学的な用語ではなく一般的な単語になっているようです。

注1:この論文のタイトルは「Associations of total amount and patterns of sedentary behaviour with type 2 diabetes and the metabolic syndrome: The Maastricht Study」で、下記のURLで概要を読むことができます。

http://link.springer.com/article/10.1007/s00125-015-3861-8

参考:
メディカルエッセイ第129回(2013年10月)「危険な「座りっぱなし」」
医療ニュース
2015年5月29日「座りっぱなしの危険性は1時間に2分の歩行で解消?」
2014年8月22日「運動で「座りっぱなし」のリスクが減少する可能性」
2014年2月28日「高齢女性の座りっぱなし、死亡リスクが上昇」
2013年4月2日「座りっぱなしの生活がガンや糖尿病のリスク」
2015年9月5日「立ちっぱなしも健康にNG?」

 

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2016年2月19日 金曜日

第157回(2016年2月) 世にも奇妙な医療機関

 最近、医学部教授に対する否定的な報道が増えてきているように思います。

 最も目立つのが、東大医学部教授で附属病院救急部部長の矢作直樹教授でしょうか。矢作教授は著書『人は死なない』がベストセラーになり、その後「手かざし治療」や「霊感セミナー」をおこない、さらに「ヘッドギア」を販売しているとし、週刊誌から否定的な報道がおこなわれています。しかし、現在も東大大学院及び東大附属病院のウェブサイトに矢作教授の名前や写真が載っています。もしも報道が事実なのだとしたら、当然大学や大学病院から処分を受けるはずですから、報道がすべて正しいわけではなさそうです。

 2014年には、岩手医大のW教授(当時)が、外国人のホステスと一緒に覚醒剤を使用していたことが『週刊文春』により報道されました。同紙の違法薬物の徹底した取材は有名で、最近では元プロ野球選手のK氏の逮捕のきっかけが同紙の報道と言われていますし、2014年に逮捕された大物デュオA氏も同紙の報道が始まりだったとされています。その『週刊文春』がスクープしたわけですからW教授も事実なのか、と思われましたが、こちらはその後の報道がありませんし、同大学のウェブサイトによれば、2015年8月に新しい教授が就任するまでは教授職にとどまっていたようですから、少なくとも大学側は週刊文春の報道を事実とはみていないということになります。

 2015年12月、兵庫医大が当時医学部教授の西崎知之氏を懲戒解雇にしました。理由は、西崎氏の著書『認知症はもう怖くない』で、自身の研究を「2008年に兵庫医科大学倫理委員会の承認を得た」としていることです。実際には、大学はこの研究に何ら関与しておらず虚偽記載であることから懲戒解雇という判断が下されました。

 これに対し、西崎(元)教授もウェブサイト上で反論しています。しかしその内容は「ライターが誤って書いた」とするもので説得力がありません。ライターが書いたのだとしても、自分の名前で出版する以上はきちんと校正し言葉のひとつひとつに責任を持たねばなりません。このような反論なら逆効果になるだけです。

 報道というのはときに過剰になっていくものです。噂が噂を呼び大きくなっていくこともよくあります。ですから否定的な報道をされた人物に対しては、その人物の立場に立って物事を見ていく必要があります。しかし、いくらひいき目にみてもこの元教授のしていることには共感できません。効果がはっきりしないサプリメントを高額で販売する会社に与しているようであり、また件の研究に自信があるなら再度研究をやり直す、あるいは一流紙に掲載されるよう努力をする、といったことをされればいいと思うのですが、そういう記載はありません。

 そして、私が最も不審に思ったのは、この元教授が関係している「世にも奇妙な医療機関」です。その医療機関の名称は「新大阪キリシタン病院大隈研究所」。ウェブサイトをみると、トップページに「兵庫医科大学西崎研究所と共に認知症の患者がより世の中で過ごしやすく、以前と変わらぬ暮らしができるように日々研究を積極的に取り組んでいます」と記載されています。つまり、認知症の治療を主目的とした、元教授が深く関わっている医療機関ということになります。

 トップページの写真は明らかに医療機関の受付と待合室であり「初診」という文字も読み取れます。ページ左の目次には「看護部案内」というものもありますから、やはり医療機関なのでしょうか。(しかしこの「看護部案内」はクリックしても開きません)

 所長挨拶のところには、「1902年に設立された新大阪キリシタン病院を前身とする医療施設です。理念としては、地域に愛される「良心」を基調に(中略)「良心をもって高齢者の医療を充実させ地域に愛される病院施設」を揚げ活動を行っています」と書かれています。しかし奇妙なことに、その所長の名前が記されていません。文脈からは西崎元教授が所長なのかと考えられますが、その記載はありません。また、アクセスが不明で、このサイトを隅から隅まで読んでも、この医療機関がどこにあるのかが分からず、どうやって行けばいいのかがまったく不明なのです。

 さらに奇妙なのはここからです。ウェブサイトの左下に「研究員名簿」という欄があります。この「研究員」が不可解なのです。たとえば、上から三番目の「西マサミ」という名前をクリックすると「1998年1月 山口県生まれ、山口県立山梨高等学校を首席で卒業、卒業後は北九州民族大学医学部にて救命救急医として研修医生活を行う」とあります。

 この時点で疑問だらけです。まず1998年生まれなら2016年現在18歳ということになります。18歳で医学部を卒業し研修医生活をおこなうことは絶対にできません。それに「北九州民族大学医学部」などというものは実在しません。まだあります。「経歴」に「2012年11月 院内ベストオブ2012を受賞」とあります。1998年生まれで2012年ということは14歳ということです。14歳で「院内ベスト」とは何を指しているのでしょう。2012年12月には、「地方雑誌「淀川サタン」に研究レポートの抜粋が転載されると予想」とあります。そのような雑誌の存在自体が疑問ですが、自身のレポートが転載されると”予想”というのはどういうことなのでしょう。また、「2013年04月 実家へ帰省」とあります。なぜ実家へ帰省することが「経歴」なのでしょう??? 分からないことだらけです。

 西マサミ氏の写真も不自然です。このような疑問を感じたのは私だけではないようで、ある医師のポータルサイトに、この奇妙な医療機関についての投稿があり、そこでこの西マサミ氏の写真は「恋愛jp」というウェブサイトから転載されていることが暴かれていました。

 他の「研究員」も見てみると、「安倍美織」のページには、プロフィールに「それなりの成果を上げ仲間からも認められる医師」と書かれています。それなりのってどういうことか、と言いたくなりますが、それはさておき、写真が明らかに不自然というか、ナースキャップを被った写真なのです。今どき看護師でさえナースキャップは使用しません。これが医師の写真とは到底思えません。

 研究員「市川杏奈」のプロフィールには「北九州大学医学部にて精神科医の資格を習得」とありますが、そもそも北九州大学(北九州市立大学)には医学部はありません。研究員「磐田奈菜」の経歴は「私立神戸学院大学医学部に入学」とありますが、神戸学院大学にも医学部はありません。1984年生まれとされており「奈菜」という名前は女性を思わせますが、掲載されている写真は30代の女性ではなく、どうみても50代のおじさんです。

 まだまだありますがこれくらいでやめておきましょう。こんなサイト、野放しにしておいていいのでしょうか。この医療機関が実際に存在しているならまともな診療をしているとは到底思えません。

 あるいは、このサイトは何かの「テスト」のようなものなのでしょうか。この”医療機関”は認知症を専門にしていると書かれています。このサイトをみて、「ここで認知症を治してもらおう」と思って連絡する人は「進行した認知症」、「なんだこのサイト、うさんくさいな・・、こんなサイト相手にすべきじゃないな」と判断し、連絡をしなければ「正常」。そのような「テスト」として機能させているサイトなのでしょうか。しかし、この”医療機関”には連絡先が書いてありません・・・。

 兵庫医大を懲戒免職になった西崎元教授には、自身の研究をやり直す前に、この「新大阪キリシタン病院大隈研究所」という世にも奇妙な医療機関の説明をしてもらいたいと私は思います。

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2016年2月14日 日曜日

第150回(2016年2月) エンテロウイルスの脅威

 2016年2月現在、世界で最も関心の高い感染症はジカ熱をきたすジカウイルス感染症だと思います。WHOが「緊急事態宣言」をおこない、単に発熱をきたすだけでなく、感染するとギラン・バレー症候群や小頭症をきたす可能性が指摘されているわけですから、それは当然でしょう。

 では、現在日本で最も注目されている感染症は何かというと、おそらくエンテロウイルスだと思われます。昨年(2015年)の秋頃から、急性弛緩性麻痺といって突然手足が動かなくなる病気が急増し、その原因が「エンテロウイルスD68」であることが指摘されているのです。今回は、このウイルスと麻痺について述べていきたいと思います。

「エンテロウイルス」は「属」「種」といった生物の分類の知識がないと混乱しやすいので、まずは言葉の整理から始めたいと思います。

 ウイルスは遺伝子をDNAで持つかRNAで持つかによって2つに分類できます。RNA型ウイルスにピコルナウイルス科と呼ばれる「科」があり、これは6つの「属」に分かれます。エンテロウイルス属、ライノウイルス属(風邪のウイルスとして有名です)、ヘパトウイルス属(A型肝炎ウイルスはここに含まれます)、カルジオウイルス属、アフトウイルス属、パレコウイルス属です。

 エンテロウイルス属には、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、エンテロウイルス、また動物に感染するタイプのものも多数あり、多くの種類があります。生物の分類は、このように「科」「属」「種」の順番に細かくなっていきます。新聞報道などで、エンテロウイルスとライノウイルスが似たようなものとされていることがあるのは、同じ「ピコルナウイルス科に所属」するからであり、エンテロウイルスとポリオウイルスが同じ仲間と言われるのは同じ「エンテロウイルス属に所属」するからです。図示すると次のようになります。

 ピコルナウイルス科 —-  ライノウイルス属  —- ライノウイルスなど
                ヘパトウイルス属 —- A型肝炎ウイルスなど
                     カルジオウイルス属
                     アフトウイルス属
                     パレコウイルス属
                     エンテロウイルス属 —-  ポリオウイルス(Ⅰ~Ⅲ型)
                                        —- コクサッキーウイルス(A10,16など複数種)
                                        —- エコーウイルス(1~34まで)
                                        —- エンテロウイルス(D68、71など複数種)
                                        —- 動物エンテロウイルス
                                        —-    ・
                                        —-    ・

 英語が得意な人は「エンテロ(entero)」と聞くと「腸」を思いだすかもしれません。それは正しく、実際エンテロウイルス属のポリオウイルスは不衛生な水や食べ物から感染します。しかし「腸」にこだわるとエンテロウイルスの理解を複雑にしてしまうことがあります。

 手足口病は過去数年間に何度か流行しています。文字通り、手と足と口に水疱ができる感染症で、感冒症状が伴うのが普通です。小児の感染症として有名ですが、近年は成人が発症することも珍しくありません。成人の手足口病は子供に比べて皮膚症状が重症化することがあり、なかには爪の変形が伴う場合もあります。爪がとれてしまうこともあります。

 手足口病の原因ウイルスは複数種あり、コクサッキーウイルスA10、A16 やエンテロウイルス71などが有名です。上の図でいえばエンテロウイルス属に入るウイルスです。しかし、いつも「腸」から感染して手足口病を発症するわけではありません。経口感染が多いのは事実ですが、他人の咳やくしゃみから感染する、いわゆる「飛沫感染」もあります。発熱を伴うことがありますし、そもそも手足口病は「夏風邪」の代表のひとつです。(夏だけに生じるわけではありませんが)

 原因が複数種あるなかでエンテロウイルス71の手足口病が最も重症化する傾向にあります。また、このウイルスは数年前から注目されており、特に2012年4月から7月にカンボジアで生じた流行では、78人の小児が感染し、なんとそのうちの54人が死亡しています(注1)。

 2013年にはシドニーでもエンテロウイルス71がアウトブレイクし100人以上の小児が入院しました。やはり死亡例を認め、1年以上が経過した時点でも重篤な後遺症に苦しめられている小児もいました。最近、このときの流行で、死亡を含む神経症状を有した患者61人を1年間にわたり調査した論文(注2)が発表されました。61人のうち4人(7%)は病院に到着した点で心肺停止状態にあり数時間以内に死亡が確認されています。生存した57人には重篤な神経症状が出現し、12ヶ月後に51人は回復しましたが、残りの6人は依然神経症状に苦しめられていたそうです。

 2014年には米国ミズーリ州とイリノイ州でエンテロウイルスD68(71ではない)がアウトブレイクし全米に広がりました。エンテロウイルスD68は1962年に米国カリフォルニア州で検出されたのが世界初とされていますが、その後世界的にもほとんど流行していません。ところが、2014年の夏頃より突如としてエンテロウイルスD68による重症呼吸器疾患の報告が相次ぎ、特に喘息を有する小児の間で広がりました。神経症状が生じた例も少なくなく、特に急性弛緩性脊髄炎(AFM)や急性弛緩性麻痺(AFP)と呼ばれる重篤な神経疾患が目立ち、長期間脱力などの神経症状が残存したケースもありました(注3)。最終的には2015年1月15日までに、呼吸器疾患を発症してエンテロウイルスD68が検出された患者は49州で1,153人となり、うち14人が死亡しています。

 米国CDC(疾病管理センター)は2014年12月、「新たな感染症の脅威(New Infectious Disease Threats)」というタイトルで4つの感染症を挙げ、そのうちのひとつがこのエンテロウイルスD68です(注4)。ちなみに他の3つは、エボラウイルス、MERS(中東呼吸器症候群)、薬剤耐性菌です。

 そして日本です。国立感染症研究所によりますと、2005~2014年9月までに日本国内で31都府県の272人からエンテロウイルスD68が検出されていて、夏から秋にかけて感染者が増加する傾向があります。2010年と2013年には感染者数が100人を超えていました。しかし、重症化するケースはまれであり、あまり大きな問題にはなっていませんでした。

 ところが、2015年8月以降、エンテロウイルスD68の報告が突然急増しだし、同時に急性弛緩性麻痺の症例の報告が相次ぎ、一部の患者からエンテロウイルスD68が検出されたのです。エンテロウイルスD68による急性弛緩性麻痺が増加していることを強く示唆しています。そのため、厚生労働省は、2015年10月21日、「急性弛緩性麻痺(AFP)を認める症例の実態把握について(協力依頼)」という事務連絡を発令し、全国の小児科医療機関に依頼をおこないました。

 現時点では、急性弛緩性麻痺を発症した全例からウイルスが検出されているわけではなく、未解明の点もあるのですが、米国の状況と合わせて考えると、エンテロウイルスの今後の動向には充分な注意を払うべきでしょう。

 エンテロウイルスが注目されている理由はまだあります。感染すると1型糖尿病(生活習慣が原因でない小児にも起こる糖尿病)のリスクが上昇するという研究があるのです。医学誌『Diabetologia』2014年10月17日号(オンライン版)に掲載された論文(注5)によりますと、台湾の健康保険請求データに基づいた解析から、エンテロウイルス感染歴のある小児は、感染歴のない小児に比べ1型糖尿病発症リスクが48%高くなることが判りました。

 死亡例や重篤な神経の後遺症を残すことがあり、さらに1型糖尿病のリスクも挙げるエンテロウイルス。従来は、単なる夏風邪の代表の手足口病の原因であったエンテロウイルス71がカンボジアやオーストラリアで猛威を振るい、1962年に発見されて以来特に問題のなかったエンテロウイルスD68が突如としてアメリカ、そして日本で脅威となっています。

 なぜ、このような事が起こるのでしょうか。鍵のひとつは遺伝子の「かたち」です。エンテロウイルスは遺伝子をRNA型の1本鎖で持っています。ウイルスの遺伝子の「かたち」には、DNA2本鎖、RNA2本鎖、DNA1本鎖、RNA1本鎖の4種があります。そして、遺伝子は時と共に変異をします。一般にRNA型の遺伝子はDNA型の遺伝子より不安定であり、RNAの変異のスピードはDNAの100万倍以上と言われています。また、遺伝子というのはらせん状の長い分子になっていますから共にらせんを形成する2本鎖の方が1本鎖よりはるかに安定しています。つまり遺伝子をRNA1本鎖でもつ生物は、動物などのDNA2本鎖の生物よりも、何百万倍、何千万倍、あるいはそれ以上のスピードで変異を起こすのです。ちなみに、新型が次々と現れるインフルエンザの遺伝子もRNA1本鎖です。

 つまり、インフルエンザウイルスが突然変異を起こし、かつて人類が経験したことのないような脅威となるのと同じように、エンテロウイルスもいきなり変異を起こし、ある日突然猛威をふるう可能性があったのです。手足口病が「子供に起こる軽症の夏風邪」だったのは変異が起こる前の話というわけです。

 感染症で頼りになるのはワクチンです。エンテロウイルス属の代表であるポリオウイルスはかつての日本で驚異の感染症であり、ワクチンが導入される前は大勢の子供が感染し、生涯消えることのない「麻痺」を残し、成人となった今も苦しまれています。1960年には北海道を中心に5,000名以上の患者が発生し、日本政府はソ連から1961年に生ワクチンを緊急輸入しました。これにより日本のポリオ患者は激減し、1980年を最後にその後1例も発症していません。

 エンテロウイルスのワクチンは世界中で開発がすすめられていますが、まだ実用化には至っていません。医学誌『Lancet』2013年1月24日号(オンライン版)に掲載された論文(注6)によりますと、中国でエンテロウイルス71のワクチン開発が進んでおり、効果と安全性が確認されているようです。しかし、その後実用化にいたったという話は聞きません。しかもこれは、すべてのエンテロウイルスに有効なわけではなく71のみを対象としたものです。米国が脅威の感染症と認定し、現在日本で流行し重篤な神経症状をきたすと考えられているエンテロウイルスD68のワクチンは目下のところ開発の目処がたっていません。

 当分の間、この脅威のウイルスの動向から目が離せません。

注1:WHOの報告は下記にあります。

http://www.who.int/csr/don/2012_07_13/en/

注2:この論文は医学誌『JAMA Neurology』2016年1月19日(オンライン版)に掲載されており、タイトルは「Clinical Characteristics and Functional Motor Outcomes of Enterovirus 71 Neurological Disease in Children」で、下記URLで概要を読むことができます。
 
http://archneur.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2482645
 
注3:この論文は医学誌『THE LANCET』2015年1月28日号(オンライン版)に掲載されており、タイトルは「A cluster of acute flaccid paralysis and cranial nerve dysfunction temporally associated with an outbreak of enterovirus D68 in children in Colorado, USA」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2814%2962457-0/abstract

注4:CDCの報告は下記URLを参照ください。

http://www.cdc.gov/media/dpk/2014/dpk-eoy.html

注5:この論文のタイトルは「Enterovirus infection is associated with an increased risk of childhood type 1 diabetes in Taiwan: a nationwide population-based cohort study」で下記URLで全文を読むことができます。

http://www.diabetologia-journal.org/files/Lin.pdf

注6:この論文のタイトルは「Immunogenicity and safety of an enterovirus 71 vaccine in healthy Chinese children and infants: a randomised, double-blind, placebo-controlled phase 2 clinical trial」で、下記URLで概要が読めます。

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2812%2961764-4/abstract

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2016年2月11日 木曜日

2016年2月 外国を嫌いにならない方法~韓国人との思い出~

 前々回(2015年12月)の「マンスリー・レポート」でイスラムの問題を取り上げたところ、予想以上に多くのコメントをいただきました。ほとんどは「自分もそのように感じていた」と私の考えに同意してくれるものであり、こういう問題を取り上げてよかったと安心しました。もっとも、これまでも、医学以外のことを取り上げたときの方が寄せられる感想が多く、意外なのですが・・・。

 そのような経緯もあって、今回も「国際関係」についてです。国際関係と言っても何もむつかしい話をするのではなく、外国を嫌いにならずに外国人と上手につきあう方法の紹介をしたいと思います。

 ネット右翼(ネトウヨ)という言葉が一般化して随分時間がたちます。ここで私は思想に立ち入るつもりはなく、彼(女)らの主張の善し悪しを検討したいとは思いません。ここでは、海外(特に近隣諸国)を敵対視している日本人が(本当にインターネットばかりしている人たちなのかどうか分かりませんが)存在している、という事実を確認しておきたいと思います。

 ここからは私個人の思い出を語ってみたいと思います。

 私が韓国人と初めてじっくりと話をしたのは1991年の秋、大阪の中堅商社の新入社員だった頃です。日本にやって来たのは取引先の韓国企業の女性社員。ソウルの一流大学を卒業しており、英語も日本語も堪能でまだ入社数年だというのに重要な仕事を任せられているキャリアウーマンです。新入社員の私に重要な商談などできるはずがありません。私に当てられた任務は、半日間で大阪を案内(アテンド)せよ、というものでした。

 高いヒールと高級ブランドのスーツに身をまとい、オフィス街を颯爽(さっそう)と歩いているようなタイプの女性を想像していた私は随分と緊張していたのですが、現れた女性はこちらが拍子抜けするほど大人しい感じの「少女」と形容した方がいいような女性(ここからは「Kさん」とします)でした。日本語が驚くほど上手で、当時英語にまったく自信がなかった私はほっと胸を撫で下ろしました。

 25年前の記憶で、Kさんをどこに案内したのかは覚えていないのですが、私は彼女の怯えたような表情、振る舞い、そして話してくれた言葉を今も鮮明に覚えています。少しはにかんだような笑顔は見せてくれるものの、まるで誰かから追われているかのようにビクビクしています。会社で少し話をし、地下鉄に乗り、ランチをする頃になり、ようやく緊張がほぐれてきました。

 Kさんは、私を「安全な」男と認めてくれたのか、次第に饒舌になってきました。私は事前に上司から「韓国の若い女性が日本にひとりで出張に来るというのはめったにないこと」と聞いていましたから、Kさんはエリート中のエリートで、日本出張は”名誉”なことだと思い込んでいました。しかしKさんは、日本出張を命じられて何度も断った、と言います。日本に行け!だなんてひどい会社だ、と感じ、こんな会社でやってられない、と退職まで考えたそうです。

 私は混乱しました。この話の前に、Kさんは日本文化に興味があり、大学では日本語を学び、日本語の書籍を必死で求めていたという話を聞いていたからです。当時、韓国では日本の書籍は販売禁止でした。日本文化に触れることが禁じられていたのです。もっとも、Kさんのように一部の大学では日本語を学ぶことができていたわけですから、このあたりはダブルスタンダードになっていたのでしょう。

 しかし日本語堪能なKさんも、日本文化を知るための情報源は図書館に置かれている一部の書籍に限られます。テレビで日本の番組を見ることはできませんし、日本映画や日本の歌謡曲は禁止されています。もちろん1991年当時はインターネットもありません。それに日本がいかに凶悪な国かというのを子供の頃からさんざん聞かされているのです。Kさんが言うには、大阪や東京というのは、ヤクザが跋扈(ばっこ)した街で、若い女性は決してひとりで歩いてはいけない、男性から声をかけられるようなことがあれば直ちに逃げないといけない、と聞いていたというのです。たしかに、それならば、日本出張を命じる会社が理解できない、と感じる気持ちが分からなくもありません・・・。

 Kさんは私と一緒に地下鉄に乗ったとき「大(だい)の大人が漫画を読んでいることに衝撃を受けた」と話しました。そして「本当に驚いた・・」と何度も繰り返していたことを覚えています。”暴力的な”日本人が漫画を読むなどということをKさんはそれまで考えたことすらなかったそうです。しかも、地下鉄の中の男性は緊張感がまるでない・・・。「韓国の男性の方がずっと男らしい・・・」、Kさんはそう話していました。

 観光案内も終盤を迎えた頃、私は思いきってKさんに尋ねてみました。Kさんは日本が好きなのか、日本人をどう思っているのか、そして韓国人は全員が日本を嫌っているのか・・・。実は、私はKさんに会う前に、できればこのようなことを聞いてみたいと思っていたのです。韓国人に直接聞くのは「タブー」だとは思っていたのですが、あわゆくば聞いてみたい・・、という好奇心を抑えられなくなってきたのです。

 Kさんの答えは少し複雑なものでした。日本の文化にはとても興味があり、可能なら日本の漫画も読んでみたいと話しました。日本人が怖いというイメージはなくなったと言います。しかし、日本で短期間働くことはあったとしても、日本に住み着くとか、日本で家庭を持つとかいったことは考えられない。そして何よりも、韓国で「日本が好き」などとは絶対に言えない、と小さいながらもしっかりとした口調で話してくれました・・。

 7年後の1998年。韓国で日本文化が解放され、日本の映画や歌謡曲、漫画などに触れることができるようになりました。この頃私はすでにその会社を退職し、医学部の学生になっており、会社員時代の記憶は次第に薄れてきていました。しかしこのニュースを聞いたとき、Kさんのことを思い出しました。仕事は好きだけど近いうちに結婚して家庭を持ちたいと言っていたKさんはおそらくすでに子供の世話に追われる毎日を過ごしていることでしょう。忙しい家事のなか、ちょっとした休憩時間に日本の漫画を手にしているKさんの姿が私の脳裏に浮かびました。

 ちょうどこの頃、医学部生の私が借りていたアパートに韓国人の男子留学生も住んでいて、ときどきコインランドリーで会いました。彼は日本語を一生懸命に話そうとするのですが、ハングル(韓国語)にない音が上手く言えません。初対面のとき、彼は私に「ミジュ、ミジュ、ナイ」と訴えてきたのですが、それが「水が出ない」ということが分かるまでに随分と時間がかかりました。ハングルには「ズ」という音がなく、よほど訓練しないと「ジュ」となってしまうことをその後知りました。

 日韓共同開催ワールドカップの2002年、大阪ミナミのオープンカフェで知人と話しているとき、ふたりの好青年が「相席してもいいか」ときれいない英語で話しかけてきました。「もちろん」と答えた我々は彼らとしばらくサッカーの話で盛り上がりました。彼らは韓国の大学生で、休暇を利用して日本に観光に来ているとのことでした。二人とも英語が(私とは比較にならないくらい)流暢で、話題も豊富。韓国経済の未来について熱く語っていたのが印象に残っています。

 さて、このような私の経験があれば、韓国という国そのものはさておき、韓国人、少なくとも日本文化に関心があり来日している韓国人に対する否定的な感情は沸いてこないのではないでしょうか。もちろん、どこの国にもおかしな人はいますし、個人の相性もあります。このコラムでは追って「外国を嫌いにならない方法」を述べていくつもりですが、今回は「私の知り合った韓国人」について思い出を語ってみました。次回は中国人の話をしたいと思います。

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2016年2月8日 月曜日

2016年2月8日 ジカウイルスでギラン・バレー症候群

 2015年12月25日の「医療ニュース」で、ブラジルでジカ熱がアウトブレイクしていること、ジカウイルスに妊娠中の女性が感染すると、生まれてくる赤ちゃんが「小頭症」といって成長障害や知的障害を伴う状態になる可能性があることをお伝えしました。

 今回はその続編です。2016年2月1日、WHO(世界保健機関)は、ジカウイルス感染症に対し、いわゆる「緊急事態宣言」を発表しました。日本政府も、この発表を受けてなのか、2月5日、ジカ熱を感染症法の「4類感染症」に指定することを決めました。医師がジカウイルスに感染している患者を診察すれば、保健所に届け出ることが義務付けられます。

 ジカ熱自体は、発症してもたいした症状がでずに、日頃健康な人であれば何もしなくても自然に治ることがほとんどです。問題はジカウイルスに感染したときに生じるかもしれない「小頭症」、そして現在もうひとつ指摘されているのが「ギラン・バレー症候群」です。

 ギランバレー症候群は、「はやりの病気第73回(2009年9月)」で紹介しましたから、ここでは詳しく取り上げませんが、女優の大原麗子さんが長年患っていた全身の神経が障害される死亡することもある疾患です。

 現時点では、小頭症もギランバレー症候群も100%ジカウイルスが原因と断定されたわけではありません。しかし、その可能性は極めて強く、リオデジャネイロ五輪観戦を楽しみにしている人は注意が必要です。

 ワクチンも予防薬も治療薬もありません。蚊対策(注1)が唯一の対策です。

******************

 ジカ熱及びジカウイルス感染症については、毎日新聞ウェブサイト版「医療プレミア」の私が書いているコラムでも取り上げます。2月10日11日に公開予定です。

注1:下記を参照ください。

トップページ→旅行医学・英文診断書など→〇海外で感染しやすい感染症について
→3) その他蚊対策など

参考:
医療ニュース2015年12月25日「ブラジルで小頭症をきたすジカ熱がアウトブレイク」
はやりの病気第73回(2009年9月)「ギラン・バレー症候群」

 

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