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2016年7月21日 木曜日
第162回(2016年7月) 医療批判記事からみえてくる医師の2つの過ち
医療不信というのは古今東西どこにでもあり、それを煽る週刊誌の記事というのも「聞き飽きた」とう感じがしないでもないのですが、最近「週刊現代」がおこなった医療批判の特集は大きな波紋を読んでいるようです。
腹腔鏡での手術全体を否定するような文章が物議をかもし、これがネット上で話題となりました。取材を受けた医師やNPOなどは、発言した内容と異なることを書かれたと、「週刊現代」に抗議をおこない、こういった一連の流れを他の週刊誌が報道しています。なかでも「週刊文春」2016年7月21日号は、「『週刊現代』医療記事はねつ造だ!」というタイトルで「週刊現代」の偏った記事を大きく批判しています。
取材時に話した内容と異なる記事を書かれたという医師が必ず言うのは、「週刊誌に掲載された自分のコメントを信じて手術(服薬)を中止して、死期を早めたり、病状が悪化したりすれば誰が責任をとるんだ!」というものです。これは一見、まともな意見であり、このように言われると「そうだそうだ! 読者の興味を引くためにわざと極端な言い方をしたり奇をてらったような表現を使う週刊誌が悪い! 週刊誌はいくら売れるかという数字のことしか考えておらず、病気で困っている人たちのことは考えず、不安を煽っているだけだ!」と週刊誌(週刊現代)を糾弾したくなります。
しかし、私はこういう意見を聞いたとき、「ちょっと待って! 医師には責任はないの?」と言いたくなります。というのは、もともとマスコミとはそういうものだからです。これは皮肉をこめて言っているわけではありません。マスコミは医学の教科書に書いてあることをそのまま記事にしても売り上げは上がらないわけで「従来とは異なる意表を突いた考えや奇をてらった意見」を紹介する方が売り上げにつながるのはしごく当然のことです。
私は研修医の頃に、何度となく先輩医師から「マスコミの取材は安易に受けるべきでない。曲解して記事にされるのがオチだ」という話を聞いていました。ですから、私自身は電話取材は100%お断りしていますし、メールで質問されたときも、「発表するまでに必ず原稿を見せてほしい。その約束ができないなら初めから受けない」と答えています。ちなみに、マスコミの取材に答える医師というのはそう多くなく、どこのマスコミも協力してくれる医師を必死で探しています。病院やクリニックには当然そのような電話がたくさんかかってきますから、太融寺町谷口医院では、まずウェブサイトの該当ページを読むよう伝えています。このページを作成してから、依頼をしてくるマスコミは激減しました。こんなに面倒くさいならやめておこうと思うのでしょう。
興味深いことに「必ず原稿を見せてほしい」というと、その段階で引き下がるマスコミが少なくありません。おそらく、「初めから結論ありき」の記事を書くつもりで、信頼性を高めるために医師の名前を引き合いに出したいだけなのでしょう。
一方で、こちらの意図を理解してくれて、記事を発表する前にきちんと原稿を見せてくれるジャーナリストもいます。こういう人たちは、ほとんど例外なく勉強熱心で、我々からも学ぼうとしてくれています。読者の関心を引く内容にしなければならないことを考えつつも、最終的に読者を困惑させるのではなく読者に正しい知識を持ってもらうように努めようとしている姿勢が伺えます。
ただ、私は週刊誌の取材に安易に答えた医師たちを非難したいだけではありません。忙しい中、マスコミの取材に答えたのは、「本当のことを世の中に伝えて患者さんを救いたい」という思いが強いからです。そういう意味で、取材に答えるのは「一直線で純粋な医師」という見方もできるでしょう。それに、緊急を要するような状況のなかでは、ジャーナリストと事前にじっくりと話をして、文章を何度も校正して・・・、という作業はおこなえません。例えば、震災や原発事故などがおこれば、詳細はともかく一刻も早く伝えなければならない情報もあるわけです。そういう場合は、求められれば医師は「自分の発言が曲解されないだろうか」と考える前に、医学的に正しい情報を供給すべきです。
しかし、今回「週刊現代」がおこなった医療批判の特集は、そのような緊急性を要する内容ではありません。ですから私としては、取材に答えた医師たちに、なぜ、発売されるまでに、「自分の発言に関する箇所だけでも原稿のチェックをさせてほしい」と言わなかったのか、と言いたくなるのです。今回、自分の発言と異なる内容のコメントを載せられた医師たちは今後同じような取材を受けることはないでしょうが、(私が研修医の頃よく聞いたように)若い医師たちに「マスコミの狡猾さ」を伝えてほしいと思います。
さて、私が今回の騒動で言いたいのは医師側の問題が少なくとも2つあるということです。ひとつは、今述べた、自分の発言が記事になるまでに内容に不備はないか確認しておくべきであったということ。もうひとつは、そもそもなぜこのような医療批判特集が好まれるのか、その原因が医師側にあるのではないか、ということです。
医療批判特集がよく読まれて話題になる・・・。これはすなわち、裏を返せば、それだけ「読者の主治医が信頼されていない」ということに他なりません。「週刊誌がいい加減な記事を書いて勝手に薬をやめる患者がでてくればどうするのか」と言う医師は「自分自身が週刊誌よりも信頼されていない」とういことを堂々と認めているわけです。週刊誌を批判する前に、自分自身のふがいなさを嘆くべき、と言えば言い過ぎでしょうか。
実は私も患者さんから「テレビでコレステロールはいくら高くても問題ないって聞いたから先生に処方してもらった薬やめてるんです」と言われたことがあります。つまりその患者さんの私に対する信頼度はテレビ番組以下ということです。これは嘆かわしいことではあるのですが、信頼度を取り戻して、なぜ今の状態でコレステロールの薬が必要かを一から説明し直すしかありません。
私が医学部の学生時代、大学病院で実習を受けていた頃、ある先生から「自分は<近所のおばちゃん>や<MM>(ワイドショーのパーソナリティ)にはかなわないんや・・・」という話を聞いたことがあります。医師である自分の話は聞かないし、薬の飲み忘れも多い一方で、「<近所のおばちゃん>がええよって言うてたからグルコサミン始めたんですわ・・」、「MMさんがテレビで薬減らしたほうがええ言うてたから先生の薬やめましたわ」と平気で言う患者が多いと言います。「まあ、自分はその程度にしか思われてないということや」とその先生は自虐的に言っていましたが、おそらくほとんどの医師が同じような経験をしているはずです。
しかしここで、「患者は分かっていない」などと考えれば何も解決しません。患者さんの多くは、週刊誌やテレビ、インターネットなどを駆使していろんな医療情報を探し求めています。もちろん、患者さんが知識を増やすことはいいことですし、それを次回の診察時に持ってきてくれて「こういう情報を聞いたんですけど実際はどうなのでしょう」と質問してくれれば、これは良好な医師患者関係です。しかし、いかがわしい医療情報をうのみにして、高価なサプリメントに手を出したり、医療機関通院をやめてしまったりすれば問題です。
私が医師の経験が増えれば増えるほど感じていることのひとつがまさにこの点で、特に慢性疾患の場合は、教科書通りの処方や検査を「すること」ではなく、なぜその処方や検査が必要であるかを「理解してもらう」ことの方がはるかに重要なのです。そして患者さんに「理解してもらう」には、患者さんを「理解する」が先です。そうなのです。一般の人間関係と同じで「理解してから理解する」が医師患者関係の基本なのです。
と言えば、聞こえがいいですが、私自身がすべての患者さんをどこまで理解できているかと問われれば、ほとんど自信がなく、「限られた診療時間」という言葉を言い訳にして中途半端な診察しかできていないというのが正直なところです・・・。
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|2016年7月13日 水曜日
2016年7月13日 韓国全土に日本脳炎警報
朝鮮日報日本語版(注1)によりますと、2016年7月11日、韓国保健福祉部は、韓国全土に「日本脳炎警報」を発令しました。
報道によれば、韓国保健福祉部疾病管理本部(The Korea Centers for Disease Control and Prevention)の調査で、2016年7月7日に釜山で採取された蚊の64.2%がコガタアカイエカで500匹以上になるそうです。この結果を受けて「警報」が発令されたもようです。韓国の規定では、採取した蚊の半分以上かつ500匹以上がコガタアカイエカであった場合に「警報」が発令されるそうです。
尚、韓国では昨年(2015年)に40人が日本脳炎を発症しており、これは2001年以降では最多となるそうです(注2)。
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日本脳炎ウイルスは、豚の体内に生息しており、コガタアカイエカが豚を吸血したときにウイルスが蚊の体内に侵入し、次にヒトを刺したときにウイルスがヒトの体内に侵入することによって感染します。したがって、釜山でコガタアカイエカが大量に確保されたとしても、蚊の体内にウイルスがいなければリスクはありません。
例えば、釜山の豚の血液から日本脳炎ウイルスそのものか抗体が検出される割合が高いのであれば、たしかにヒトが感染するリスクは高いと言えるのですが、朝鮮日報日本語版の報道では、そのあたりの記載がなくわかりません。(私はハングルが読めないので原文を理解できません)
しかし、はっきりと「韓国全土で警報」と書かれていますから、韓国の当局がハイリスクと判断したのは間違いないでしょう。韓国渡航を考えている人はワクチン接種をした方がいいかもしれません。
尚、これまでは私は韓国渡航者に対して「豚を飼っているような地方にいかない限りは日本脳炎のワクチンは不要」と伝えてきました。今回の調査が釜山でおこなわれたこと、当局は「全土」に警報を発令したことから考えると、渡航先に関係なくワクチンを接種した方がいいのかもしれません。
注1:下記URLを参照ください。
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2016/07/12/2016071200668.html
注2:朝鮮日報には英語版もあり、この情報はなぜか英語版にはあり日本語版にはありません。
http://english.chosun.com/site/data/html_dir/2016/07/12/2016071201405.html
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|2016年7月11日 月曜日
2016年7月 その医学部受験、後悔しませんか?
医学部の人気が上昇し、偏差値がかつてないほど上昇しているそうです。『週刊ダイヤモンド』2016年6月18日号の特集は「医学部&医者」で、医学部受験の実態を詳しく紹介していました。倍率が最も高い東海大学医学部ではなんと85.7倍。63人の枠に5,398人が押し寄せたそうです。
しかし、そこまでして医師になりたいという人は本当にそんなに多いのでしょうか。私は医学部入学前に文系(社会学部)の大学を卒業しており、その後4年間の会社員生活をしていましたから、医師以外の友達や先輩と話す機会は今もあります。そういう友達たちに医師の生活の話をすると、ほとんどの人が「自分は医師にはなれない。いや、なりたくない」と言います。例を挙げましょう。
以前私が勤務していた病院のある女性医師の話です。彼女には結婚まで考えているパートナーがいました。ところが医師になってから「すれ違い」が増え、医師の世界のことを理解してもらえないと言います。次のような感じです。
(22時頃、久しぶりのデート。レストランを出てこれからどうしようかと迷っているところに病院からの電話をとった女性医師。その後の展開は・・・)
女性医師:「緊急内視鏡の患者さんが来たから病院に戻らないといけなくなったの」
パートナー:「えっ、今から? この前もそれで一緒に行った映画の試写会、途中で抜けて出て行ったじゃないか。それに、こうやって突然呼び出されても手当がついたり代休がもらえたりするわけじゃないんだろ。そんなの労働法違反だよ」
女性医師:「労働法なんて言ってたら医師の仕事は務まらないの」
パートナー:「先週の日曜も学会発表だとか言って、東京に出張に行ってたよね。あれもお金がでないのか」
女性医師:「当たり前よ。そんなの出るわけないでしょ。医者とはそういう職業なの。うちの病院なんか交通費を出してくれるからまだましよ。交通費も宿泊費も自腹で、という病院も少なくないのよ。患者さんを待たせるわけにはいかないからもう行くね・・・」
このパートナーの男性は、彼女を束縛しているわけでも無茶なことを言っているわけでもありません。やはり”おかしい”のは医師の方だと私も思います。しかし、これが現実なのです。タイムカードは病院によってあることもないこともありますが、医師の残業代というのは非常に曖昧で、収入が労働時間を反映しているわけではありません。ほとんどの医師は早朝から深夜まで働き尽くしで、休日も入院患者さんを診に行ったり、学会や研究会に参加したりします。1日中家にいるという休日はめったになく、あったとしても自宅で論文や教科書を読んでいる医師がほとんどでしょう。
私は産業医の仕事もしていますから、過重労働がある労働者と面談をする機会があります。現行の労働安全衛生法では、月平均の過重労働(平日の残業時間+休日の労働時間)が80時間を超えるか、ひと月でも100時間を超えると、産業医との面談をおこなわなければなりません。そこで私は、「80時間を超えると心身ともに異常が出現する可能性が増え、仕事ができなくなって、最悪の場合は「過労死」も考えないといけなくなる」、といったことを話します。しかし、自分自身のことを振り返ってみると、月の過重労働は「労働時間」の解釈の仕方によっては軽く150時間(全労働時間でいえば310時間)を超えます。それが何年も続いているというか、医師になってからずっとこの調子です。現在は夜中に起こされることがないだけましです。
ただ、これは「労働時間」を、教科書や論文を読む時間、患者さんの問い合わせにメールで回答したり、わからないことを他の医師に質問したりする時間も入れ、さらに、学会や研究会の参加時間も含めてのことです。論文を読んだり学会に参加したりするのは、「自分の勉強のため」であり「仕事ではない」という解釈をすれば、労働時間は大きく減少します。(それでも、診察時間とカルテやその他必要書類を書く時間だけを労働時間としたとしても過重労働は月100時間を超えますが・・・)
では、なぜこんなにも医師の労働時間は長いのでしょうか。答えは自明であり、それは医師不足だからです。勤務医であれば、夜間の当直業務から逃れることはできません。絶え間なく救急車が入ってきて一睡もできないことだってあるのです。それで翌朝は通常通りの仕事が待っています。開業医であったとしても在宅や往診をおこなっている医師は24時間365日、患者さんからの電話に待機しなければなりません。現在の私は夜間の当直業務はしていませんし、夜中の電話はとらないようにしています。(クリニックを開始した初期は電話を取っていたのですが、緊急性のない電話があまりにも多く、現在は夜間は電話を取らないことにさせてもらっています) それでも労働時間は先に述べた通りです。
ならば医師の数を大幅に増やせばいいではないか、となるわけで、私は昔からそう思っています。拙書でも述べたことがありますが、私は医師の数を現在の倍にして労働時間と収入を半分にすべきと考えています。医師の年収の調査はときどきおこなわれており、冒頭で紹介した『週刊ダイヤモンド』の記事によれば、職業別平均年収ランキングで医師は2位で1098.2万円もあるのです! ちなみに1位は航空機操縦士で1531.5万円、3位は弁護士の1095.4万円です。
年収1千万円もいらないから、休みが欲しい、家族と過ごす時間を大切にしたい、と考えるのが”普通の”感性だと私は思いますが、現実は先に述べたような状況です。では、そんな非人間的な生活を強いられているなら、医師が一致団結して医師数を増やしてもらえるように厚労省に訴えればいいではないか、と考えたくなります。しかし、不思議なことに、医師数を増やしてほしいと考えている医師はなぜかそう多くないのです。
医師不足問題にいち早く取り組み市民活動もされている本田宏医師の著書などによると、「医師は増やすべき」という本田氏の主張に反論する医師も多いそうです。もうひとつ例を挙げましょう。医師の総合医療情報サイト「m3.com」が2016年4月に全国81医学部の学長を対象としたアンケートを実施しています。そのアンケートの項目のひとつに「医学部の定員を増やすべきか、減らすべきか」というものがあります。結果は、「減らすべき」が64%、「現状維持」が36%で、「増やすべき」という回答は皆無だったのです。
つまり、本田宏医師や私のように「医師を増やすべき」と考えている医師は少数派であり、多くの医師は医師増員に反対、つまり「現在の労働時間に不満はない」と考えているということになります。あるいは、「現在の収入を維持したいから長時間勤務は辛いけれど頑張り続ける」と考えているのかもしれません。たしかに、医師不足が続いている限り、医師は高収入を維持できます。私を例にとってみてみましょう。
私がこれまでに最も年収が多かったのは、クリニックをオープンする前の年です。実はもう少し早くオープンさせる予定でいたのですが、予定していたビルに直前で入れなくなり計画が狂ってしまいました(注1)。そのため、クリニックのオープンは延期とし、当時立ち上げたばかりのNPO法人GINAの活動に力を入れ、2ヶ月に一度程度のペースでタイに渡航していました。そして、日本に滞在している間に複数の病院や診療所でアルバイトをすることにしたのです。どこの医療機関も医師不足ですから、医師のアルバイトというのは、単発のものでも週に一度のものでも簡単にみつけられますし、アルバイト代は「破格」です。救急車がひっきりなしに入ってくるような病院であれば一晩10万円以上なんてこともあります。このようなアルバイトを続けていると収入は驚くほど高くなり、この年の私の年収はなんと1500万円を超えました! これがこれまでの私の年収の最高額で、今後これを超える年は、再び同じような生活をしない限りは起こりえません。もっともこの年に稼いだ収入は、半分は税金で持っていかれましたし、GINAの関連で寄付などに大半を使い、手元にはほとんど残りませんでしたが・・・。
現在の私はこの逆の立場です。つまり診療所をオープンさせていますから、自分が休みたければ、他の医師を雇うということが理屈の上では可能です。しかし、医師不足の中、私が以前もらっていたようなお金を今度は支払わなければなりません。そうすると、当院のように一人当たりの診察にそれなりに時間をとる診療スタイルであれば、一気に赤字になり、診療を続ければ続けるほど赤字が膨らんでいくことになります。もちろんそんなことはできませんから、結局のところ、「自分の勉強のため」という大義名分を思い出しながら、これまで通り長時間労働に勤しむしかない、ということになります。
ただ、私自身はそれでいいと思うようになってきました。残された人生、自分の最大のミッションのひとつは「医療に貢献すること」です。しかも、私にとっては教科書や論文を読んだり、学会や研究会に参加したり、他の医師たちとメールで症例の検討をおこなったりするのは楽しいことであり、その楽しさが単に楽しいとうだけでなく医療への貢献にもつながるのです。楽しくて貢献できるなら、長時間労働も厭うべきでないというのは「自然で当然」なことなのかもしれません。
しかし、これから医学部を目指すという人は、本当にそのような生活でいいのかどうか再度考えてみた方がいいでしょう。最初に紹介した女性医師はその婚約者とその後どうなったのか。今度どこかで会えば聞いてみようと思いますが、苗字は今も変わっていないようです・・・。
注1:詳しくは下記を参照ください
マンスリーレポート2006年3月号「天国から地獄へ」
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|2016年7月11日 月曜日
2016年7月11日 ザガーロはプロペシアに取って代わるか
男性を対象とした雑誌などではすでに話題になっているようですが、AGA(男性型脱毛症)の新しい治療薬が登場しました。「ザガーロ」という名称で、以前からあった「プロペシア(フィナステリド)」をもっと強力にした薬とされており、だいたいそのような理解で間違ってはいません。実際、プロペシアで効果が不十分だったけれど、ザガーロに変更して発毛効果が認められたとする研究もあります。
医学誌『International Journal of Dermatology』2014年6月5日号(オンライン版)(注1)によりますと、プロペシア(フィナステリド)で効果が認められなかった症例の8割近くでザガーロの有効性が認められています。
研究の対象者は韓国人男性です。プロペシアで効果なくザガーロを半年間内服した31人のうち、24人に有効性が認められたそうです。(17例はやや改善(slightly)、6例は中等度改善(moderately)、1例は大きく改善(markedly)とされています) 残りの7人は著変なく、悪化した症例はゼロのようです。発毛の評価はカメラを用いた客観性を担保した方法が採用されています。毛髪の密度は10.3%、太さは18.9%の改善が認められています。副作用は、一過性の性機能不全が6人(17.1%)に生じています。
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過去に、プロペシアとザガーロ(アボルブ)の比較研究を紹介しました(注2)。その結果もザガーロの方が有効とされていました。ということは、新たにAGA治療を開始するときにはザガーロを選択したいと誰もが考えるでしょう。
しかしそうはならないのではないかと私はみています。現在プロペシアには後発品(ジェネリック薬品)があり、価格は1箱(28日分)でだいたい6千円くらいです。ところがザガーロには後発品がなく、価格は1箱(30日分)で9千円近くもします。1日あたりでみれば80円程度の差ですが、これが何か月も何年もとなると馬鹿になりません。また、ザガーロとまったく同じアボルブという前立腺肥大症の薬があり、これはザガーロよりは安いのですが、AGAには承認されておらず、自己判断で内服すると大きな副作用が出たときに保障されないという問題があります。
どちらを選択するかは、個人の考えということになります。それ以前にAGAは病気ではありませんから、それだけ高いお金を払ってまで治療をすべきかという根本的な問題もあります。さらに軽度とはいえ副作用もありますから、治療開始には充分に慎重になるべきです。
注1:この論文のタイトルは「Effect of dutasteride 0.5 mg/d in men with androgenetic alopecia recalcitrant to finasteride」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ijd.12060/abstract
注2:下記「医療ニュース」のなかで取り上げています。
医療ニュース2014年3月17日「AGAにはプロペシアよりアボルブが有効?」
参考:トップページ「薄毛・抜け毛を治そう」
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|2016年7月4日 月曜日
2016年7月4日 肥満+うつ(鬱)があれば食事前の悲しい話はNG
ストレスがあるときは食事が喉を通らない、という人がいる一方で、ストレスがあれば食欲が亢進する、という人もいます。そして、皮肉なことに、日ごろから肥満を気にしている人に限って「食欲亢進」と言うような印象があります。この私の印象は正しいのでしょうか・・・。
肥満とうつ(鬱)があると、悲しい話を聞いたときにエネルギー摂取量が有意に多くなる・・・。
これは医学誌『Journal of health psychology』2016年5月20日号(オンライン版)に掲載された論文(注1)が主張していることです。
研究は米国ニューヨークのセント・ボナベンチャー大学の心理学者Gregory J Privitera氏によるもので、154人が研究に参加しています。参加者を肥満、うつ病のカテゴリーに分類し、悲しい話を読んでもらったときと、幸せな話を読んでもらったときで、食事量や食事の内容がどれくれい変化するかが調べられています。被験者には、好きなものを好きなだけ食べられるビュッフェスタイルで食事が供給されました。
結果、肥満とうつ(鬱)がある被検者は、悲しい話を読んだときに、エネルギー摂取量が有意に多くなり、また高カロリー食品を多く摂取することが分かったそうです。
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研究の規模がさほど大きくないため、信ぴょう性はさほど高くないかもしれませんが、経験的にも合致することであり、参考になる研究だと思います。体重を気にしている人は、気分がすぐれないときには、意識して楽しい本を読んだり楽しい会話を心がける、ということが有効かもしれません。または、そのようなときには意識して食事量を減らし、高カロリーのものを避けるようにすべきでしょう。
以前私は、フランス人は高カロリー食をたくさん食べるのに肥満が少ないのは「ゆっくり食べる」ことが原因ではないか、という自説を述べました(注2)。フランス人は家族との食事の時間を大切にし、ゆっくりと時間をかけて会話を楽しみながら食事をします。もしかすると肥満になりにくいのは、単に時間をかけて「ゆっくり食べる」からだけではなく、家族との会話を「楽しんで食べる」からかもしれません。
いずれにしても、ストレスがありうつ状態になっているときに、そのストレスを”孤食”で解消することは止めておいた方がいいでしょう。
注1:この論文のタイトルは「Differential food intake and food choice by depression and body mass index levels following a mood manipulation in a buffet-style setting」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://hpq.sagepub.com/content/early/2016/05/19/1359105316650508.abstract
注2:メディカルエッセイ第142回(2015年11月)「速く歩いてゆっくり食べる(後編)」
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|2016年6月30日 木曜日
2016年6月30日 酒さが認知症のリスク
よくある疾患なのにも関わらず、一般の人があまり病名に馴染みのないものに「酒さ(しゅさ)」があります。顔面に生じる非感染性の慢性の炎症性疾患で、赤くなったり、一見ニキビのようなブツブツができたりします。痛みはなくかゆみもほとんどありません。酒さは男女ともに起こりますが、医療機関を受診する患者さんは圧倒的に女性の方が多く、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)で言えば9割は女性です。
なぜ男性は医療機関を受診しないかというと、女性ほどは「見た目」が気にならないのでしょう。実際、谷口医院では、別のことで受診した男性の患者さんに、「その顔面の赤みは酒さによるものですけれど治療はしなくてもいいのですか」と尋ねると、「気にしていません」と答える人が多く、なかには「放っておいてくれ」と言わんばかりの人もいます。一方、女性の場合は、気になる人が多いようで、酒さで受診する患者さんの多くは谷口医院を受診するまでにいくつかの医療機関をすでに受診しています。
酒さが気にならないという男性は、おそらく「見た目の問題だけで別に寿命が短くなるわけでもないし・・・」ときっと思っているはずです。しかし、酒さがあれば認知症になりやすい、となればどうでしょう。
酒さがあればアルツハイマー病になるリスクが2倍近くになる・・・
これは医学誌『Annals of neurology』2016年6月号(オンライン版)に掲載された論文(注1)が言っていることです。研究の対象者は、18歳以上のデンマークの住民5,591,718人で、調査期間は1997年1月1日から2012年12月31日です。行政に提出されているデータを分析することにより検討が加えられています。
調査期間中に何らかの認知症を発症した人は99,040人で、そのなかでアルツハイマー病は29,193人です。皮膚科医が「酒さ」の診断をつけた患者で解析をおこなうと、酒さがあれば何らかの認知症になるリスクが1.42倍、アルツハイマー病に限って言えば1.92倍にもなるそうです(注2)。ただ、リスク上昇が有意に認められたのは60歳以上の高齢者のみだったようです。
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アルツハイマー病のリスクが1.92倍と聞けば、現在自分の酒さに無関心な男性も治療をおこなう気になるかもしれません。しかし、酒さの治療はそう簡単ではありません。先に述べたように谷口医院を受診する(女性の)酒さの患者さんは、すでにいくつもの医療機関を受診しています。これは、満足いく治療効果がでなかったために自身の判断で医療機関を変更しているということです。
また、いったんよくなっても再び悪化する例が多く、それを繰り返しているうちに外出が億劫になったり、精神的にしんどくなったりする女性もいます。しかし、治療がないわけではありませんし、「完治」が困難だったとしても、最初の状態よりは大幅に改善させることは可能ですし、治療をあきらめなければならないような疾患ではありません。
これまで治療に関心がなかったという男性も、よくなることを諦めてしまっているという女性も、将来の認知症のリスクを挙げないようにするためにも治療を考えてみればどうでしょうか。
注1:この論文のタイトルは「Patients with rosacea have increased risk of dementia」で、下記URLで概要を読むことができます。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ana.24645/abstract
注2:ただし、この調査はデンマーク人を対象としたものであり、日本人に同じことが当てはまるかどうかは不明です。
参考:
トップページ:ニキビ・酒さ(しゅさ)を治そう
医療ニュース
2015年10月6日「「酒さ」の原因は生活習慣と遺伝」
2015年11月28日「酒さは生活習慣病や心疾患のリスク」酒さが認知症のリスク
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|2016年6月27日 月曜日
2016年6月28日 ポテト食べすぎで高血圧
以前、この「医療ニュース」でじゃがいもをたくさん食べると糖尿病のリスクが上昇するという報告(注1)をおこないました。今回はじゃがいもが高血圧のリスクになるという話です。
じゃがいもは血圧を上昇させ、なかでもフライドポテトが最も危険である・・・
医学誌『British Medical Journal』2016年5月17日号(オンライン版)(注2)にこのような論文が掲載されました。
この研究はこれまでに米国で実施された3つの大規模調査の結果を分析することによっておこなわれています。これら大規模調査の対象者は、「NHS(Nurses’Health Study)」と呼ばれる調査に協力した女性看護師88,475人、「NHS Ⅱ」と呼ばれるやはり女性看護師を対象とした調査に協力した88,475人、③HPFS(Health Professionals Follow-up Study)と呼ばれる医療者を対象とした調査に協力した男性の医療者36,803人です。
ジャガイモは、①焼き(baked)/ゆで(boiled)/すりつぶし(mashed)、②フライドポテト(French fries)、③ポテトチップス(potato chips)の3つに分類し、高血圧のリスクが検討されています。結果、焼き/ゆで/すりつぶしで11%、フライドポテトで17%のリスク上昇が認められています。(ポテトチップスでは有意なリスク上昇はなかったようです)
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この研究から言えることは「じゃがいもは野菜ではない」ということです。じゃがいもには食物繊維と多量のカリウムが含まれていることから、むしろ高血圧に有用な食べ物ではないかと言われることもありますが、この研究でそれが否定されたことになります。
ちなみにWHOは以前よりじゃがいもを野菜と認めていません。ポテト料理を食べ過ぎて体重増加を経験した人も少なくないのではないでしょうか。糖尿病と高血圧のリスクを上昇させるじゃがいも。我々はじゃがいもとの付き合い方を見直すべきなのかもしれません。
注1:医療ニュース「ポテト食べすぎで糖尿病」(2016年1月29日)
注2:この論文のタイトルは「Potato intake and incidence of hypertension: results from three prospective US cohort studies」で、下記URLで概要を読むことができます。
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|2016年6月27日 月曜日
2016年6月27日 米国の減塩対策と日本の減塩食品
塩分を減らしましょう、というのはほとんどの診察室で医師が毎日何度も言うセリフで、太融寺町谷口医院も例外ではありません。しかし、この塩分対策というのは容易ではなく、定期的な運動や体重コントロールがきちんとできている人でもなかなかうまくいきません。
米国でもそれは同様で、FDA(アメリカ食品医薬品局)のレポート(注1)によれば、アメリカ人が摂取している塩分は1日8.6g(原文ではナトリウム量の表記で3,400mg)(注2)、米国の推奨値は5.8g(ナトリウム2,300mg)です。(ちなみに、日本人の塩分摂取量は2013年の厚労省の調査では男性11.1g、女性9.4g、2015年版の推奨値は男性8g未満、女性7g未満です)
米国では、摂取する塩分の7割は加工食品や飲食店での食事と言われています。そこで、FDAは食品メーカーやレストランなどに対し、自主的に塩分含有量を減らすことを求めた指針を発表しました。チーズやパン、ドレッシング、お菓子、加工肉など150の食品カテゴリーごとに2年後と10年後のナトリウム含有量の目標値が示されています(注3)。例えば、プロセスチーズなら現在1,358mgで、2年後には1,210mg、10年後には1,000mgが目標とされています。
日本では、このような具体的な指針の発表はありませんが、日本高血圧学会の減塩委員会は減塩にふさわしい食品の検討をおこない、昨年(2015年)から「減塩アワード」というコンテストをおこなっています。下記は第1回と第2回の受賞製品です(注4)。
〇第1回受賞製品(2015年5月発表)
味の素(株) やさしお
ヤマキ(株) 減塩だしつゆ
ユニー(株) スタイルワン素材のうまみ引き立つよせ鍋つゆ
スタイルワン素材のうまみ引き立つちゃんこ鍋つゆ
ヤマモリ(株) 減塩でおいしいとり釜めしの素
減塩でおいしいごぼう釜めしの素
キッコーマン食品(株) 味わいリッチ減塩しょうゆ
一正蒲鉾(株) サラダスティック
鯛入りまめかま赤
鯛入りまめかま白
シマダヤ(株) 「流水麺」うどん
食塩ゼロ本うどん
東京「恵比寿」ラーメンやさしい醤油味
東京「恵比寿」ラーメンやさしい味噌味
サンヨー食品(株) サッポロ一番大人のミニカップきつねうどん
サッポロ一番大人のミニカップきつねそば
(株)マルタイ マルタイラーメン
寿がきや食品(株) 小さなおうどんお吸いもの
〇第2回受賞遺品(2016年5月発表)
味の素(株) お塩控えめの・ほんだし
ヤマモリ(株) 地鶏釜めしの素
山菜五目釜めしの素
(株)マルタイ 屋台とんこつ味棒ラーメン
一正蒲鉾(株) SHさつま揚
中田食品(株) 梅干し おいしく減塩うす塩味塩分3%
梅干し おいしく減塩しそ風味塩分3%
梅干し おいしく減塩はちみつ塩分3%
(株)新進 国産野菜 カレー福神漬 減塩
ユニー(株) スタイルワンだしのうまみ引き立つしょうゆラーメン
スタイルワンだしのうまみ引き立つシーフードラーメン
************
注1:下記URLでFDAのレポートが参照できます。
http://www.fda.gov/food/ingredientspackaginglabeling/labelingnutrition/ucm315393.htm
注2:ナトリウムと食塩の換算式は、「食塩(g)=ナトリウム(mg)x2.54÷1,000」です。
注3:下記のサイトで150項目の詳細がわかります。
http://www.fda.gov/downloads/food/guidanceregulation/guidancedocumentsregulatoryinformation/ucm504014.pdf
注4:高血圧学会減塩委員会が推奨する減塩食品のリストは下記URLを参照ください。
http://www.jpnsh.jp/data/salt_foodlist.pdf
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|2016年6月20日 月曜日
第154回(2016年6月) 誰が薬剤耐性菌を生みだしたか
薬剤耐性菌という言葉、誰もが聞いたことがあり、言葉の意味も、なぜ薬剤耐性菌が生じるかについてもほとんどの人が知っています。我々医療現場にいる者からすると、この薬剤耐性菌というものに対する恐怖は並大抵のものではないのですが、マスコミも一般の人たちも、そして(腹立たしいことに)行政も今ひとつその危機感を持っていないように思えてなりません。
今回は、薬剤耐性菌の問題に対してきちんとした対策をとっていない人たち、主に行政を批判するコラムになります。批判の前に、現在の薬剤耐性菌についてまとめておきます。
抗菌薬を多用しすぎると、遺伝子に変異をおこしその抗菌薬で死なない細菌だけが生き残るようになり、これを「薬剤耐性菌」と呼びます。薬剤耐性菌が出現すると、今度はその耐性菌を退治できる抗菌薬の開発がおこなわれることになります。するとその新しい薬に対して耐性を獲得した菌が出現し、再び新しい薬剤が・・・、とイタチごっこのような「細菌vs人類」の対決が繰り広げられているわけです。
で、現在の”戦況”はどうかというと、人類に分が悪いというか、耐性菌の恐怖は次第に大きくなってきています。例えば、米国CDC(疾病管理局)は2014年に「CRITICAL – 2014 Year in Review」というタイトルの発表をおこない、そこで「新しい4つの感染症」を驚異として取り上げています(注1)。その4つのうち1つが薬剤耐性菌です。(あとの3つは、エボラ出血熱ウイルス、エンテロウイルスD68(注2)、MERSウイルスです)
実際にアメリカでは薬剤耐性菌の被害が深刻で、最近よく取り上げられるのが通称CREと呼ばれるカルバペネム耐性菌(正確には「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌」)です。カルバペネムという名の従来は「最後の切り札」として使われていた抗菌薬が効かない菌のことで、特定の菌種を指すのではなく、カルバペネムが効かない菌を総称して呼びます。
カルバペネム耐性菌に対して唯一有効なコリスチン(注3)という薬があるのですが、細菌vs人類の歴史は細菌側に有利な展開となります。2015年11月、コルヒチンが効かない細菌が中国の養豚場で見つかったのです。そして2016年5月、米国でコリスチンが効かないカルバペネム耐性菌に罹患した患者がみつかりました。この患者は49歳の女性で、尿路感染症がなかなか治らず、やむを得ずコリスチンが使われたものの効かなかったと報じられています。(その後この女性がどのようにして治療されたのか、現在も感染症が治癒せず続いているのかどうかについては報道がなく不明)
日本でもカルバペネム耐性菌は深刻な問題ですがそれ以外にもあります。ここ数年でよく取り上げられる薬剤耐性菌に「ESBL産生菌」と呼ばれる細菌(正確には「基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生菌」)があります。2016年6月16日の日経新聞によりますと、これまでに少なくとも66人の子供(うち9人は生後3日以内)がこの細菌による敗血症を発症し、うち2人が死亡しているそうです。ESBL産生菌は現在のところ先に述べたカルバペネム系が有効とされていますが、すべての患者に使えるわけではありません。
他には通称「KPC」と呼ばれる「カルバペネム耐性クレブシエラ」、ニューデリーで最初に発見されたことから命名されたNDM-1あたりが注目されています。NDM-1については過去のコラム(注4)で紹介したこともあります。
2016年5月26~27日に開催された伊勢志摩サミットで、薬剤耐性菌に対して世界各国で協調して取り組んでいくことが首脳宣言に盛り込まれました。評価されるべきなのは「畜産業で成長促進のために抗菌剤を使用することを段階的に廃止する」(注5)という合意が得られたことです。先に述べたコリスチン耐性の報告があった中国でも発見されたのは養豚場で、つまり家畜のエサに大量に抗菌薬が入れられていることが原因です。家畜に対する抗菌薬の使用については米国もおそらく中国とそう変わらないはずです。あまりマスコミは取り上げませんが、オバマ大統領が米国での畜産業から抗菌薬を廃止することに同意したのは画期的なことです。
伊勢志摩サミットで検討された薬剤耐性菌対策は、基本的には2015年の(ドイツの)エルマウサミットでの決定事項の流れを汲んだものです。ただエルマウサミットでは「抗生物質の適正使用を促進し」という表現にとどまっており具体性がありあません。そこで、日本政府は、伊勢志摩サミットの開催に先駆けて、2016年4月1日の閣議で「抗菌薬の使用量を2020年までに現状の3分の2に減らす」とする行動計画案を発表しました。マスコミの報道によれば、「医療機関向けに抗菌薬使用の指針などをつくる」としているそうです。
それから約2ヶ月が経過しましたが、医療機関向けの政府のこのような指針の発表はありません。私は新聞報道でこの政府の発表を聞いたとき、「医療機関への指針の前にすることがあるだろう」と感じました。
日本政府がまずすべきなのはアジア諸国に対する注意勧告です。タイやインドでは屋台で抗菌薬が売られている光景を目にすることがあります(本物かどうか疑わしいのもありますが・・・)。また、医師の処方箋がなくても薬局で抗菌薬が誰でも買える国は多数あります。例えばフィリピンの薬局では「ペニシリン1錠ください」と言えば、実際に1錠だけ買うこともできます。このような使用はもちろん「完全な誤り」であり、医師は抗菌薬を処方するときに量を適当に決めているわけではありません。ときには3日分、ときには7日分となるのは菌の種類と重症度、その患者さんの免疫能などを考えて総合的に判断しているからです。先に述べたNDM-1は、インドでは不適切な抗菌薬の使用が横行していることが原因で生まれたと言われています。日本政府がまずおこなうべきなのはアジア諸国への注意勧告に他なりません。
次に自国に目を向けてみましょう。私が日ごろ感じている日本での抗菌薬に関する最大の問題は「個人輸入」です。薬物の個人輸入は麻薬や覚せい剤でない限りは合法だそうですが、私は抗菌薬を禁止にすべきと考えています。いくつかある薬剤の個人輸入代行のホームページをみてみると、多くの抗菌薬がごく簡単に買えることが分かります。しかも、よほどの重症例でない限り処方しないような貴重な抗菌薬までもがクリック1つで購入できるのです。
例えば、ニューキノロン系の抗菌薬というのは重症例にしか処方すべきでないもので、そのニューキノロン系のなかでも極めて強力なグレースビットやアベロックスといった薬剤が必要な症例というのはごくわずかです。太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の例でいえば、こういった強力なニューキノロンを処方するのは年に一度あるかないかです。それくらい重症例にしか使うべきでない抗菌薬がネット上で誰でも簡単に買えるのです。以前、谷口医院を初めて受診した患者さんから「ネットで買った抗菌薬が効かないんです」と言われたことがありました。このような言葉を聞くと絶望的な気持ちになります。私個人としては、「抗菌薬取締法」を制定し、抗菌薬は麻薬と同じように医師でないと処方できないようにするべきと考えています。
医療機関で抗菌薬を処方しすぎている、という声があります。この声は正しいのでしょうか。医師は、必要な症例に必要な日数分しか抗菌薬を処方していません。そして、なぜ抗菌薬が必要なのかを可能な限り説明しています。例えば風邪症状で受診した場合、喀痰や咽頭スワブ(喉を綿棒でぬぐったもの)を用いて、グラム染色をおこない、細菌感染の像が顕微鏡で観察されたから抗菌薬が必要といった説明をするわけです(注6)。グラム染色で細菌感染が疑えなければ抗菌薬は処方しませんし、ときには一切の薬を処方しないことも谷口医院ではよくあります。
ほとんどの医師は(グラム染色をおこなうかどうかは別にして)処方するときには患者さんに抗菌薬が必要な理由を話しているはずです。しかし、全員がかと問われるとそうでない可能性もあります。というのは、谷口医院を受診する人で、「前の病院では”とりあえず”抗生物質を飲むように言われた」と言う人がいるからです。抗菌薬は”とりあえず”飲むものではありません。喉が痛い、熱がある、といった理由だけで抗菌薬を飲んではいけません。飲むことによって余計に悪くなることだってあるのです(注7)。
こういうケースでは、実際には前の病院の医師も”とりあえず”などという言葉を使わずきちんと説明していることも多いと思うのですが、なかには、このケースは前の医療機関で説明不足かもしれない・・、と私自身が感じることがあるのも事実です。
しかしながら、抗菌薬の過剰使用の問題を世界全体でみたときに、日本の医師の過剰使用はあったとしてもごくわずかだと思います。まずはアジア諸国の無秩序で無法状態の抗菌薬の氾濫を食い止める政策をおこなうこと、次いで個人輸入での抗菌薬の購入を禁止することが重要です。最後に、個人レベルでおこなえる抗菌薬対策を挙げておきます。
・抗菌薬は必ず医師に処方してもらう(個人輸入はおこなわない!)
・処方された抗菌薬は大きな副作用が出ない限りは最後まで飲み切る。(ときどき、「自宅にあった抗菌薬を飲みました」、という人がいますが、抗菌薬が自宅にあること自体がおかしいのです)
・診察時に「抗菌薬が必要か」を尋ねるのはOK。「抗菌薬をください」はNG。(ときどき「お金を払うって言ってるでしょ!」と怒り出す人がいますが、抗菌薬の処方はそういう問題ではありません)
・抗菌薬を処方してもらうときは必要な理由を尋ねる。(抗菌薬を過剰に処方している医師が本当にいるなら、患者さんが毎回尋ねるようにすれば解決するでしょう)
注1:CDCのこの報告は下記URLを参照ください。
http://www.cdc.gov/media/dpk/2014/dpk-eoy.html
注2: エンテロウイルスD68の脅威については下記を参照ください。
はやりの病気第150回(2016年2月) エンテロウイルスの脅威
注3:カルバペネム耐性菌にも有効なコリスチンという抗菌薬は日本人が1950年代に開発しました。そんな優れた抗菌薬が、しかも日本人が開発したものがなぜこれまではそれほど使われていなかったかというと、副作用の頻度が高くまた重篤化することもあること、そして開発された当時はもっと安全で有効なものがあったことが理由です。尚、コリスチンの耐性菌は最近日本でも報告されました。
注4:はやりの病気第85回(2010年9月号)「NDM-1とアシネトバクター」
注5:外務省の下記ページを参照ください。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000160313.pdf
注6:これについては、毎日新聞ウェブサイト版「医療プレミア」にコラムを書いたことがあります。
実践!感染症講義 -命を救う5分の知識-「その風邪、細菌性? それともウイルス性?」
注7:例えば、伝染性単核球症(キス病)に抗菌薬を使えば大変なことになります。詳しくは下記を参照ください。
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|2016年6月20日 月曜日
第161回(2016年6月) 超高額の「夢の薬」に対処する2つの方法(後編)
超高額の薬を使い続けると国家財政が破綻するのは火を見るより明らかです。いずれどこかで一定の「線引き」をする必要があります。つまり、患者Aさんには保険で診療ができるけれど、患者Bさんには適用されません、としなければ医療費はもちません。当然この「線引き」は容易でありません。
年齢を基準にすればいいではないか、という考えがありますが、そう単純な話ではありません。実際にオプジーボが100歳の症例に使われた例があるらしく、「100歳を101歳にするのに3,500万円を使うのはおかしいのでは?」、という意見は賛同が得られやすいでしょう。しかし、この例でも、元来とても健康な100歳であり、日本最高齢の記録を塗り替えるのではないか、と言われているような人であったとしたらどうでしょう。
もっと分かりやすい例を挙げましょう。例えば、オプジーボを使用する年齢基準を80歳未満と決めたとしましょう。80歳の誕生日を迎えればもう保険診療はできない、とするのです。78歳からオプジーボを使い続けてがんがほとんど消失している、という人がいたとして、「はい。80歳の誕生日が来ましたから治療は終わりです。またがんが大きくなるでしょうができることはありません」と言うことが許されるでしょうか。
「80歳未満」というのを使用時の年齢でなく「使用開始」の年齢にすれば?という意見もあるでしょう。では次の2つのケースではどうでしょうか。
患者Xは、地域医療を担う医師。その地域には医師がひとりしかおらず住民は24時間365日その医師を頼っています。引き継いでくれる医師を探していますが見つかっておらず、引退したくてもできません。そんななか自分自身に肺がんが見つかりました。しかし先月80歳の誕生日を迎えたためにオプジーボは保険適用がありません・・・。
患者Yは、強姦事件で何度も逮捕され、少なくともあと10年は刑務所を出られません。おまけに刑務所内で脳梗塞を起こし、ひとりでなんとかトイレに行ける程度の活動度です。最近は軽度の認知症もでてきました。そんななか、定期検診で肺がんが見つかりました。患者Yは現在77歳です・・・。
さて、患者Xと患者Y、あなたが医師ならオプジーボを使いたくなるのはどちらでしょうか。ここで、犯罪歴のある人には高額医療を受けられないようにすればいいではないか、ということを考えた人がいるかもしれませんが、その理屈はおそらく受け入れられないでしょう。強姦で何度も逮捕と聞くと、「そんなやつに貴重な医療費を・・・」という気持ちになる人もいるでしょうが、犯罪歴があるというだけで医療を受ける機会を奪われるのは問題です。また、認知症があればオプジーボを使えなくする、というアイデアを思いついた人がいるかもしれません。しかし、認知症かそうでないかというのは境界が非常に曖昧ですし、オプジーボを使い出してから認知症を発症すればどうすればいいのか、という問題もでてきます。
つまり、年齢でオプジーボの適応を決める、というのはそう簡単なことではないのです。
では、お金で線を引く、というのはどうでしょう。オプジーボについては高額養費制度が適応されないようにして保険適応で3割負担とするのです。この方法でも年間3,500万円の3割、すなわち1,050万円を払えるという家庭はほとんどないでしょうし、差額の2,450万円は保険が負担することになります。現在の高額療養制度はその人の収入にもよりますが、最高でも月の上限が14万円ほどです。オプジーボに限りこの上限を50万円程度にするというのもひとつの方法です。別の方法としては、これは公的保険のオプションとしてでもいいですし、民間保険でもかまいませんが「オプジーボ保険」というのをつくるというのもひとつです。
このような方法をもし採用すれば「医療はいかなる人にも平等におこなわれなければならないものであり、金持ちのみがいい治療が受けられるなどという制度は言語道断である」という意見が必ずでてきます。というより医師の大半はそう言うでしょう。私自身もそう言いたいです。ただし、国に潤沢なお金があれば、です。
多くの医師は、このような議論になったときに「国民皆保険制」がある日本の医療システムは世界一だと言います。それはその通りかもしれません。しかし、です。このような制度は日本の伝統とまでは言いがたいものです。そもそも国民皆保険制が国民健康保険法の改正により成立したのは1961年ですからまだ55年しかたっていないのです。わずか55年間しか維持していない制度を、当然のように主張するには無理があるのではないか、というのが私が感じることです。
では、なぜ国民皆保険制度がこれまで維持できたのか。これはいろんなところで議論されていますからここでは多くは語りませんが、一番のポイントは「これまではそんな高い薬が存在しなかった」ということです。(高齢化社会以前の社会では働く若い世代が多く充分な保険料と税金が集まった、というのも大きな理由です)
21世紀に入るまでに最もお金がかかっていた医療行為はおそらく「人工透析」でしょう。ひとりあたり年間約500万の医療費がかかります。これまでの日本の国民皆保険制度の歴史を振り返ってみれば、この金額くらいがおそらく限界になるでしょう。その人工透析も高齢化社会で実施すべき人が増えていますからいずれ国の財政がもたなくなるという声もあります。
人工透析が誕生した当初は、極めて高額なものでありごく一部の人しか使用できなかったはずです。米国でもそれは同様で「生と死の委員会」または「神の委員会」と揶揄された会議があります。人工透析の実用化に成功したスクリブナーという米国の医師は「医療は非営利であるべき」と唱え、人工透析の適用はお金で決めてはいけないと主張しました。そこで、どの患者に透析をおこない、どの患者を(言わば)見殺しにするか、ということを決める委員会が1961年に開かれたのです。「3人の子どもの母親と、子どものいない偉大な芸術家、どちらが透析を受けるべきか」といった問題にきちんと答えられる人はいないわけで、この委員会は今でも医療倫理を語るときによく引き合いに出されます。
それで、現在のアメリカはどうかというと、オバマ・ケアで改善されたとは言え、今も保険に加入しておらず腎臓が悪化しても人工透析を受けられない人が大勢いると聞きます。(ただし、米国の場合、低所得者はメディケアと呼ばれる保険があり、無保険者は中所得者に多いと言われています)
世界に目を広げてみると、お金がなければ治療を受けられないのはむしろ当然のことです。日本では、心臓疾患の子供が米国で移植を受けるための募金が行われますが(親御さんの気持ちを考えると理解できることではあります)、米国でお金がないが故に心臓移植を受けられない子供がいるのも事実です。もっと言えば、例えばカンボジアやラオスで同じ心臓疾患の子供がいたとして、米国渡航を考える両親はほぼ皆無なわけです。
フィリピンでは、低から中所得者の大半は無保険です。私の知人のフィリピン人は、妹が呼吸困難で食事も摂れない状態だけどお金がなくて病院に行けないと言っていました。そのうち死ぬだろうがこれがこの国では当然だと言います。タイは2001年に「30バーツ医療」という政策がおこなわれ、30バーツ(約90円)支払えばどんな医療も受けられる制度になり、現在は実質無料で治療が受けられます。しかし、この医療でできることは、基本的な治療だけで高額な検査や薬は対象になりません。(抗HIV薬は安いものは無料でもらえますが、それが効かなかったり副作用が出て使えなくなったりした場合は手がうてないのが現状です)
私が興味深いと感じるのは、フィリピンやタイでは多くの人が、庶民が高額医療を受けられないのは当然と考えていることです。おそらくオプジーボのことをフィリピン人やタイ人に話すと、彼(女)らはたとえ自分自身が肺がんを患っていても笑い飛ばすでしょう。そして「生まれ変わったら日本に生まれてそんな治療を受けてみてもいいかも」と言うかもしれません。日本人を羨ましがるどころか、そこまでして生に固執する日本人を笑う人もいるに違いありません。
さて、不気味なのは日本の厚労省です。これだけ高価な薬を承認しているわけですから、将来の医療費について何らかの説明があってもいいと思うのですが、私の知る限り何も発表していません。マスコミや有識者が、このままでは国が滅びる、と言っているのに、です。「高い薬剤を保険で認めるな」、という世論の声を待っているのでしょうか。そして、そのような声がある程度大きくなった時点で、保険診療の医療行為をバッサリと削減するつもりなのではないか。そのような穿った見方をしたくなります・・・。
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