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2019年5月22日 水曜日
第189回(2019年5月) 麻薬中毒者が急増する!
ここ数年、私はことあるごとに「日本で麻薬中毒患者が急増する」と言い続けています。今のところ、私に賛同してくれる人は(医療者も含めて)ほとんどいませんし、私自身も自分の予想が外れてほしいと思っていますが、年々不安の程度が強くなってきています。
まずは症例を紹介しましょう。初診の患者さんと私の会話で、最近こういう展開になることが増えてきています(似たような症例が多数あります)。
医師(私):他の医療機関でかかっていますか?
患者さん:はい。腰痛(首の痛み、膝の痛み、関節痛、頭痛なども)で近所のクリニック(病院)にかかっています。
医師(私):そちらで処方されている薬はありますか?
患者さん:あります。トラマール(ワントラム/トラムセット)です。
医師(私):どれくらい長いこと飲んでいるのですか?
患者さん:もうすぐ半年になります。
医師(私):そんなに長いこと飲んでもいいと言われているんですか?
患者さん:はい。特に期間についての説明は受けていません。
医師(私):副作用やその他注意点については何か聞いていますか。
患者さん:「よく効く薬だ」とは効いていますが、特に注意することは聞いていなかったと思います。
トラマール・ワントラム・トラムセットという商品名の鎮痛薬はオピオイド系の麻薬であり、ヘロインやモルヒネと同じようなものです。副作用のみならず、依存性があることはしっかりと理解しなければならないのですが、その説明をきちんと聞かれていない患者さんが非常に多いのです。
先に誤解を避けるために言っておくと、私は麻薬の鎮痛薬を全否定しているわけではありません。がんの末期にはなくてはならない薬剤であり、私自身も在宅医療の研修を受けているときには麻薬の高い効果を実感し、適切に使えば副作用や依存性を恐れる必要がないことがよく分かりました。しかし、末期がんの患者さんはそう遠くない時期に亡くなられます。
一方、「症例」の患者さんのように腰痛や関節痛、頭痛の患者さんはそういうわけではなく、最近は20代の患者さんが飲んでいることも珍しくなくなってきました。こういう若い患者さんたちはいつまでこれらを飲み続けるのでしょう。
ここで添付文書を見てみましょう。これら3つの薬(トラマール・ワントラム・トラムセット)の添付文書をみると、ほとんど一字一句違いなく次の文言が記載されています。順番にみていきましょう。
連用により薬物依存を生じることがあるので、観察を十分に行い、慎重に投与すること。
長期使用時に、耐性、精神的依存及び身体的依存が生じることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には本剤の投与を中止すること。
驚くべきことに、最も重要なこの「依存性」について、きちんと説明を受けてから処方されたという患者さんを私はほとんど知りません。添付文書を続けます。
薬物乱用又は薬物依存傾向のある患者では、厳重な医師の管理下に、短期間に限って投与すること。
「薬物依存傾向のある患者」はどうやって判断するのでしょう。例えば喫煙者はこれに該当するのでしょうか。私の知る限りで言うと、喫煙がやめられないと言いながらこれら麻薬を内服し続けている患者さんは少なくありません。
では「長期使用時」の「長期」とはどれくらいを指すのでしょうか。添付文書には次のように書かれています。
慢性疼痛患者において、本剤投与開始後4週間を経過してもなお期待する効果が得られない場合は、他の適切な治療への変更を検討すること。また、定期的に症状及び効果を確認し、投与の継続の必要性について検討すること。
ようするに、4週間で効果判定をおこない、効果がある場合も「定期的に必要性について検討すること」を添付文書は命じているわけです。これにより、依存性が生じて問題が起こった時、製薬会社としては「そういうことがあるかもしれないから、ちゃんと添付文書で注意してるでしょ。我々の責任じゃないですよ」という「言い訳」ができます。ただ、ここで私が言いたいのは、製薬会社が医師に責任を押し付けているということではなく、処方が必要ならこの点を処方前に患者さんに理解してもらう義務が医師にあるということです(注2)。
では麻薬依存になってしまうとどうなるのでしょうか。麻薬には「耐性」があります。つまり、次第に多くの量が必要になってくるのです。その結果何が起こるか。実は10年ほど前から米国ではこういった医薬品としての麻薬の消費量が急激に増え、そして実際に様々な問題が生じています。それも国を挙げて取り組まなければならないような大きな問題です。「犯罪」「静脈注射」「HIV感染」「C型肝炎」「平均寿命の低下」などです。
「犯罪」とは麻薬の違法入手です。日本でも米国でも薬の処方量には制限があり、希望しただけの量を処方してもらえるわけではありません。そこで闇ルートで入手することを考える患者さんが出てくるのです。そして麻薬は内服よりも静脈注射の方が強い効果が得られます。麻薬の入手は違法ですが、針もそう簡単には手に入りません。すると、針の使いまわしが始まります。これによりHIV感染やC型肝炎ウイルスへの感染が起こるのです。そして命が失われていきます。
CDC(米国疾病管理局)の報告によれば、2017年の一年間で薬物の過剰摂取で死亡した米国人は72,000人以上で、2016年から10%も上昇しています。そのうち68%(約48,000人)はオピオイドが原因です。2002年から比較するとオピオイドによる死亡者はおよそ4倍にもなっています。米国の平均寿命は3年連続で減少しており、その原因がオピオイドであることが指摘されています(注1)。
現在「薬物」の世界的な流れは”合法化”です。ウルグアイに続き、カナダで大麻が合法化されたことが昨年話題になりましたし、ついに日本でも大麻解禁か、という声も一部には出てきています。一部の疾患に向けて開発された医療大麻は日本でも異例の速さで事実上使用可能になりつつあります。
元号が変わったばかりで浮かれている日本では(私の知る限り)どこのメディアも報じていませんが、2019年5月8日、米国デンバーではなんとマジックマッシュルームが合法化されることが決まりました。Reuterは前日まで住民投票の結果は反対派が勝利すると報道していましたから私はこの結果に心底驚きました。もはや米国の薬物合法化の動きを止めることはできないようです。
日本の未来がどうなるかは我々ひとりひとりが考えなければなりません。ちなみに、私自身は慢性疼痛(末期がんを除く)で困っている患者さんに麻薬を処方することはありません。一方で、他院でこれまで麻薬を処方してもらっていたが中止したい(依存を断ち切りたい)という患者さんに協力することはしばしばあります。ですが、減薬がむつかしいのも麻薬のやっかいな点です。添付文書には次のように記載されています。
本剤の中止又は減量時において、激越、不安、神経過敏、不眠症、運動過多、振戦、胃腸症状、パニック発作、幻覚、錯感覚、耳鳴等の退薬症候が生じることがあるので、適切な処置を行うこと。
「適切な処置を行うこと」で済ませないでほしい!というのがこの文章を初めて読んだときに私が感じたことです。麻薬を断ち切ることを決意したものの、この添付文書にあるようなパニック発作や幻覚で苦しんだ人を診てきた私の経験から言えば、薬を売ったり処方したりする前に危険性を充分に周知させるべきなのです。
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注1:詳しくはNPO法人GINAウェブサイト「GINAと共に」(第151回(2019年1月)本当に危険な麻薬(オピオイド))を参照ください。
注2:本文で述べたようにこれら麻薬の添付文書には「4週間で効果判定」としていますが、医学誌『New England Journal of Medicine』に掲載された論文「Prevention of Opioid Overdose」によれば、使用歴のない人が高用量の麻薬を摂取するとわずか5日で依存症になります。
参考:医療ニュース2019年1月31日「慢性の痛みへのオピオイドの効果はわずか」
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|2019年5月16日 木曜日
2019年5月 「教科書を読めない人」はそんなに多いのか
前回のマンスリーレポートでお伝えしたように、2019年1月31日をもって太融寺町谷口医院のスマホサイトを閉鎖したところ、その影響は予想以上に大きいものとなりました。スマホサイト閉鎖で変わったこととして次のようなものが挙げられます。
#1 「なんで閉鎖したんですか」という意見(クレーム?)が予想以上に多く寄せられた。
#2 スマホサイトからの「メール問い合わせ」がなくなったことにより、相談メールが激減(半分から3分の1に)した。
#3 新患患者数も同様に大きく減少した。当然のことながら、スマホサイト閉鎖以降の初診の患者さんは、谷口医院に通院している人の家族か知り合い、またはPCサイトを初めから読んでくれている人がほとんどとなった。
これらで意外だったのは#1です。なかには「私の会社で前のよりももっときれいなのを作りますよ」と言ってくれたウェブ作成会社に勤めている人や、「知り合いのウェブデザイナーにお願いしますよ」と申し出てくれる人もいました。もちろん、単に「自分はPCを見ないんでスマホサイトを復活させてください」という人もいました。当初我々は「スマホでPCサイトを見ればそれでいいのでは?」と考えていたのですが、谷口医院のPCサイト(このサイト)は古いタイプの形式のようで、(何でも率直に物を言ってくれる)ある患者さんに言わせれば「読みにくい。どうしても知りたい情報がある人はそれでも読むだろうけど、気軽に情報収集したい人からは避けられる」そうです。
この意見に対し「谷口医院のPCサイトは読みたい人だけ読めばいい」と言ってしまうのは「上からの目線」だと思います。3ヶ月ほどかけて私の友人知人に”リサーチ”をしてみました。その結果、大半の人は「いまどき旧式のPCサイトだけなんて、時代遅れも甚だしい」という意見で、逆に「PCサイトだけでもいい」と答えた人はゼロでした。
どうやら私の「ITリテラシー」は相当遅れているようです。私自身もスマホは持ち歩いていますが、例えば国内外のニュースや医療情報などをスマホで調べた経験はほとんどなく、こういった情報は、移動中にはiPAD、自宅か職場にいるときはPCを使っています。ちなみに、私はツイッターやフェイスブックなどのSNSもほとんど利用した経験がありません。
SNSやスマホが今ほど普及していなかった頃、おそらく2010年代前半頃までは、全員ではないにせよ多くの人がPCを見ていたのではないでしょうか。スマホが急速に使いやすくなったことで、大半の人が「PCはなくてもやっていける」ことに気付いたのではないかと思うのです。我々のように物を書く機会の多い職業に従事していればPCなしの生活は考えられませんが、一般企業勤務のホワイトカラーの人たちでも「報告書は自宅で書く」という人を除けば(最近はこういうことも禁じられていると聞きます)、スマホだけで事足りるのかもしれません。意外だったのは、ある企業のCEOでかつては会社のPCサイトにブログを書いていた人までもが「今はスマホしか見ない」と言っていたことでした。
私の知人へのリサーチを通してもうひとつ学んだことがあります。それは、「文章を読めない人が増えていることがPC離れを加速させている」ということです。最初にこの話を聞いたときに「この人は何を言っているの?」と思ったのですが、ある会社で人事をしている人に聞くと、入職時の試験で小論文を書かせると、学歴は高いのにほとんど文章が書けない若者が少なくなく、さらに新聞を読めない者も増えているというのです。
そんなとき、ある書評で高評価を得ていた数学者新井紀子氏の『AI vs.教科書が読めない子どもたち』を読んでみました。この本には興味深いことがいくつも書かれているのですが、特に衝撃的なのは「多くの中高生たちが教科書を理解できない」ことを証明していることです。ここでいう「教科書の理解」というのは国語の難問である「作者はどのようなことが言いたかったのか」が解けるかという意味ではなく、単に各教科の教科書に書かれている平易な記述を理解できない子供たちが多いということです。著書には理解度を問う設問の例が挙げられています。素直に日本語を読めば分かるだろうという設問に、中学生の4割、高校生(しかも対象は進学率が100%の高校)の3割が正解できていないのです。ちなみにこの問題は作者らが開発した試験問題を解くロボット「東ロボくん」は正解しています。著者の新井氏は「中学生の半数は、中学校の教科書が読めていない状況」と断言されています。
さて、教科書レベルの日本語が読めないのは中高生だけでしょうか。同書では大学生や社会人でさえも簡単な日本語が理解できていないことを独自の調査で明らかにしています。本当に教科書が読めない中学生が増えているならこれは当然のことで、日本の中学生がある時突然読めなくなったわけではないでしょう。おそらく少しずつ日本人の読解力(中学の教科書を読むレベルの読解力)が低下してきているのでしょう。
だとすると、教科書を読めない人は自分の健康のことで困ったことがあったとしても、わざわざ文字数が多く読みにくいPCサイトを探さないことが予想できます。前回のコラムで、スマホサイトを見ての電話問い合わせで苦労するエピソードを紹介しましたが、おそらく「長い文章は読みたくない。文字が必要ならSNSでやり取りされる程度の簡単なものがいい」と考えている人は少なくないのでしょう。
興味深いことに、太融寺町谷口医院にはその正反対というか、例えば大量の論文のコピーを持参するような患者さんもいます。彼(女)らは日本語のみならず英語で難度の高い文章をインターネットで入手して読みこなしているのです。「格差社会」という言葉はすっかり人口に膾炙していますが、たいていは収入や資産のことを指しています。ですが、この「文章を読む力」の格差も相当大きく、もしかすると収入や資産以上に広がっているかもしれません。
ただ、私自身はそういう社会を必ずしも是正しなければならないとは考えていません。「いろんな人がいる」のが社会です。収入や資産の格差社会がいいとは言いませんが、海外に比べると日本の格差などたかがしれています。読解力にしても格差が少ないのが理想かもしれませんが、よく考えてみると日本人の識字率はほぼ100%であり、世界的にみれば最優秀のレベルです。私がタイでボランティアをしていたとき、母国語のタイ語がほとんど読めない患者さんもそれなりにいましたし、小学校にすら行かせてもらっていない子供たちも珍しくありませんでした。新井紀子氏がされている日本人の読解力を向上させる活動に私は賛同しますが、同時に「文章が読めない人もいての社会」を受け入れるべきだとも考えています。
ロヒンギャ難民が深刻な状態にあることを毎日新聞「医療プレミア」で紹介しました(「少数民族ロヒンギャの命を奪うジフテリア」)。そのコラムでは難民を受け入れない日本を非難し、ロヒンギャからの難民は館林市にしかいないことを指摘しましたが、最近神戸にもやってくるようになりました。彼(女)らを支援している人に話を聞くと「無文字社会のロヒンギャとどうやってコミュニケーションをすればいいかが問題」とのことでした。
結論を述べます。前回も述べたように、そもそも私が「病院勤務ではなく自分でクリニックを立ち上げなければ」と考えたのは、他の医療機関でイヤな思いをした人や、どこに相談していいか分からないと考えている人たちの力になりたかったからであり、そういう人のなかには「効率よく情報収集できない人」、つまり「スマホは見るがPCはほとんど見ない人」も少なくないでしょう。それから、これも過去に述べたように(「身体の底から湧き出てくる抑えがたい感情」)医療機関を受診できないと考えている外国人がますます増えています。彼(女)らは短期から長期の旅行者が多く、情報収集はPCでなくスマホでおこないます。
ならばスマホサイトを持つべきなのではないか。結局、そのような考えにたどり着きました。現在、スマホサイト復活の準備を開始し、さらにもっと見やすくて誰もが気軽にメール相談しやすいような工夫を検討しているところです。
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|2019年4月25日 木曜日
2019年4月25日 カルシウムサプリでがん死亡率1.5倍
ほとんどのサプリメントや健康食品は摂取すべきでない、というのは太融寺町谷口医院のオープン以来、もう12年以上言い続けていることであり、先日はビタミンDについて述べました(はやりの病気第188回(2019年4月)「ビタミンDが混乱を招く2つの理由」)。
今回はカルシウムのサプリメントが不要であるどころか有害性があることを述べたいと思います。とはいえ、カルシウムサプリの有害性は過去のコラム(メディカルエッセイ
第123回「カルシウムのサプリメントは危険か」)ですでに紹介しています。
今回は医学誌『Annals of Internal Medicine』2019年4月9日オンライン版に掲載された「米国成人におけるサプリメントや健康食品と死亡率の関係(Association Among Dietary Supplement Use, Nutrient Intake, and Mortality Among U.S. Adults: A Cohort Study)」から紹介します。
研究の対象者は、米国民保健栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey)に参加した20歳以上の米国人合計30,899人で、1999年から2010年まで追跡調査がおこなわれています。
平均(正確には「中央値」)6.1年の追跡期間中、死亡は3,613例。うち新血管系疾患での死亡が945例、がん死亡が805例。摂取栄養素別にみると、ビタミンA、ビタミンK、マグネシウム、亜鉛、銅の適量摂取例では、全死亡およびCVD死亡の減少が認められていますが、これは食事からの摂取に限られています。
注目すべきはカルシウムです。カルシウムのサプリを摂取していると摂取していないグループに比べ、がん死亡率がなんと1.53倍にもなっていたのです。
尚、この論文の結論としては「サプリメント摂取で死亡減少はない」とされています。
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このような大規模調査がおこなわれると、最近ではほとんど例外がなくサプリメントが有益とする結果は出ていません。にもかかわらずサプリメントの市場は好況のようです。有益性がないだけならまだしも、有害性があるのであるわけですから、太融寺町谷口医院ではこれからも、これまで通りサプリメントの危険性を警告していきたいと考えています。
医療ニュース2014年1月28日「やはりビタミン・ミネラルのサプリメントは利益なく有害」
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|2019年4月25日 木曜日
2019年4月25日 ネコ好き女子は肺がんで死にやすい?!
驚くべき論文が発表されました。
医学誌『Environmental Research』2019年2月25日で発表された論文「米国の18年間の追跡調査からみるペット飼育と肺がんのリスク(Pet ownership and the risk of dying from lung cancer, findings from an 18 year follow-up of a US national cohort)」によると、ネコ好きの女性は、ネコを飼っていない女性に比べて肺がん死亡率が2.85倍にもなるというのです。
この研究の対象者は、1988~94年に実施された第3回米国国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey)に協力した19歳以上の13,725人で、2010年12月31日まで追跡調査が行われています。
対象者の43%がペットを飼育しており、20.4%がネコ、4.6%が鳥を飼っていました。追跡期間中、肺がんで213人が死亡しています。女性でみると、ペット飼育者の肺がん死亡率は2.31倍。なかでもネコを飼育していると2.85倍と最も高くなっています。ちなみに鳥も2.67倍と有意差を持って高く、一方、イヌは1.01倍と関連がありません。
男性ではペット飼育と死亡率に有意な関係は認められていません。
尚、この分析では対象者の喫煙、飲酒、身体活動、体重、アトピー性疾患(喘息を含む)などの影響を調節した上で算出されています。
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この論文では数値を算出しているだけであり、なぜネコを飼育する女性が肺がん死亡率が高くなるのかは分かりません。太融寺町谷口医院の患者さんにもネコ好きの女性患者さんは非常に多く、なかにはネコのせいで喘息発作を起こしているのにネコと離れられないという人もいます。そういう場合は、生活に工夫をすることでネコと”共存”することが可能となりますが、そこまで進むのに時間がかかることもしばしばあります。
私がこの論文を読みかけたとき、きっと喘息発作を繰り返している人が死亡率を上げているのでは、と思っていました(とはいえ喘息と肺がんに関連があるわけではありませんが)。しかし、喘息やアトピーの因子も除外した上で統計処理がおこなわれていました。また、以前紹介したトキソプラズマとも無関係のようです。
今後物議を醸しそうな論文と言えるでしょう。
(参考)はやりの病気
第174回(2018年2月)「トキソプラズマ・前編~猫と妊娠とエイズ~」
医療ニュース2019年2月23日「乳児期に動物に接するとアレルギーを起こしにくい?!」
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|2019年4月21日 日曜日
第188回(2019年4月) ビタミンDが混乱を招く2つの理由
2007年の開院以来、太融寺町谷口医院に寄せられる質問で最も多いもののひとつが「サプリメントの相談」です。これは、診察室で尋ねられるだけでなく、一度も受診したことがない人からメールで相談を受けることもあります。コンスタントに届くサプリメントの相談にも時代と共に”傾向”があります。
2007年から数年間の間は「抗酸化」がひとつのキーワードであったようで、具体的にはビタミンCやビタミンE、あるいはβカロテン(カロチン)に関する質問が多かったのですが、2010年代に入ってからはビタミンDに関するものが増加し、ここ2~3年で言えば、サプリメントに関する質問の7割以上がビタミンD関連です。
患者さんによって言うことは様々で、「長生きホルモン」「最強の抗がん剤」「うつ病が治る」「花粉症に有効」などという言葉を聞くこともあります。特に最近は、複数の人から「ビタミンDは栄養素というよりもホルモンなんですよね」と言われて、いつからそのように”格上げ”されたのかが不思議です。
科学的に実証されていない治療をやっていけないわけではありません。エビデンス(科学的確証)は重要ですが、エビデンスに縛られすぎるのもまた問題です。ですが、ビタミンDについてはこれまで何度も大規模調査がおこなわれてきており、世間一般の人が期待するような結果は得られていません。
ですが、その一方で、ビタミンDは毎日必要量を摂取することはとても重要であり、不足するといくつもの疾患のリスクが上昇します。では、果たして日本人は食品から適正量のビタミンDを摂取できているのでしょうか。このあたりの議論が最近”脆く”なってきています。今回は、適切なビタミンD確保を確証するにはどうすればいいか。そして、場合によっては一時的にでもビタミンDのサプリメントを摂取すべきかどうかについて考えていきたいと思います。
私が医師国家試験の勉強をしていた頃、日本人の栄養素の摂取については、カルシウム以外はほとんどが基準量を摂取できているとされていました。改めてこの頃のデータをみてみてもその通りで、ビタミンDについては2001年のデータで次のようになっています。
基準値(必要な摂取量):男女とも5.5ug
実際の摂取量(男性):7.5ug
実際の摂取量(女性):6.9ug
これをみると、サプリメントでの補強が不要なのは言うまでもなく、特に食事の内容に気を付ける必要もなさそうです。
ところが、です。2019年3月22日、厚生労働省が公表した「日本人の食事摂取基準(2020版)」には非常に複雑なことが書かれています。同書の180から10ページに渡りビタミンDの必要量が長々と考察されているのですが、結論から言えば、いったいどれくらいのビタミンDが必要で、日本人がどれだけ摂取しているのかがよく分からないのです。
同書が引き合いに出している日本内分泌学会・日本骨代謝学会が発表した「ビタミンD不足・欠乏の判定指針(案)」では、30ng/ml(上記のugとは単位が異なることに注意)以上でビタミンD充足としています。しかし、厚労省によると、この数値を採用すると、最近の疫学調査結果では欠乏/不足者の割合が男性72.5%、女性88.0%にも達することになり、現実を反映しているとは思えません。男性の7割以上、女性の9割近くがビタミンD欠乏で身体症状を発症しているはずがないからです。
この報告書では同省は全国4地域での食事記録法の調査などから8.5ugというのを暫定的な基準としています。上記2001年のデータからは3ugも基準があげられたことになりますし、こうなると男女とも基準を満たしていない、つまりビタミンD不足ということになります。
ビタミンDが語られるときに複雑になる理由はいくつもあります。ここでは私が考える「ビタミンDが混乱を招く2つの理由」を紹介したいと思います。
ひとつめは「ビタミンDは紫外線からもつくられる」ということです。皮膚が紫外線を吸収すると体内でビタミンDが合成されるのです。ですから、例えば北欧やカナダのような冬にはほとんど日があたらない国であればサプリメントなどでの摂取も検討すべきという意見がでてきます。
一方、日本では真冬でもそれなりに日照時間が長いですから、そういった高緯度の地域と同じように考える必要はありません。しかし、日本は南北に長い国であり、当然地域差があります。同書には興味深いデータが掲載されています。5.5ugのビタミンDを産生するために必要な日照曝露時間(分)が地域と月で算出されています。このデータによれば、「顔と両手を露出した状況」で7月の12時の那覇であればわずか2.9分で基準に達するのに対し、12月の15時の札幌では2741.7分も必要となります。これでは日本の統一した基準をつくることができません。
それに、データの出し方が「顔と両手を露出した状況」としている点も気になります。光線過敏症などのない男性であればいいですが、女性に対しては現実的ではありません。太融寺町谷口医院では皮膚疾患を有する患者さんが多く、私は多くの人に「(少なくとも顔や首には)紫外線は一生浴びないくらいのつもりでいてください」と助言することもあります。紫外線には決して小さくない有害性があるのです。
もうひとつのビタミンDが混乱を招く理由は、摂取できる食事が非常に限られている、ということです。つまり「バランスよく食べましょう」だけでは不十分な場合があるのです。具体的に、そして端的に言えば、ビタミンDを摂取できる食品は魚介類とキノコくらいしかありません。牛乳や肉のレバーなどにも含まれていますが、効率よく摂取しようと思えば魚介類とキノコを積極的に食べるしかないのです。ただ、この点は日本人には有利であり、魚介類もキノコも和食を中心とするならば十分な量がとれます。
患者さんから「どんな魚介類を摂ればいいですか」と尋ねられたとき、私は「ひとつ挙げるなら鮭(サーモン)がいい」と勧めています。もちろん他にもビタミンDが豊富な魚介類はたくさんありますが、サーモンは比較的ビタミンDの含有量が多い上に、刺身、塩焼き、ホイル焼き、ムニエル、クリーム煮、シチュー、フライといろんな調理法があり(最近では)比較的安い(私が子供の頃はめったに食べられず鮭の代わりに鱒(マス)が食卓に上がっていました)という長所もあります。
さて、冒頭で述べたサプリメントの是非の話をしましょう。結論から言えば、特別な病気(副甲状腺の異常や骨粗しょう症)を有している人やビーガン(最も厳しい食事制限をするベジタリアン)の人以外には私がビタミンDのサプリメントを勧めることはありません。ビーガンについては過去のコラム(「サプリメントや健康食品はなぜ跋扈するのか」)でも述べました。
そのコラムでも述べたようにビタミンDの質問をする人は、健康のことに詳しく、積極的に情報を得ている傾向があります。ですが、そのような人たちもエビデンスという観点からはあまり検討されていません。医学誌『Lancet Diabetes & Endocrinology』2014年1月24日号(オンライン版)に掲載された論文(下記「医療ニュース」参照)でビタミンDのサプリメントの大規模調査がまとめられています。サプリメントの有益性がほとんどないことがこの調査から明らかです。
ビタミンDのサプリメントを購入するのはもうやめにして、そのお金でサーモンとキノコを食べませんか……。どうしても気になるという人は25-ヒドロキシビタミンDの血中濃度を測定してみてください。
参考:医療ニュース
2014年2月28日「ビタミンDのサプリメントに有益性なし」
2019年1月31日「ビタミンDで心血管疾患のリスクは低下しない」
2017年10月23日「骨折予防にビタミンDやカルシウムは無効」
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|2019年4月4日 木曜日
2019年4月 当院がスマホサイトを閉鎖した理由
太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)を開院した2007年当時は、まだウェブサイトを持たないクリニックもそれなりにありました。谷口医院をオープンするとき、ある医療者から「ウェブサイトを見て受診する患者は時間のかかることが多いからつくらない方がいいよ」というアドバイスをもらったこともあります。
それを聞いた私は「だからこそつくるんです!」と言いました。これまでいろんなところで述べているように、私が開業を早くしたかったのは、まさにそんな人たち、つまり、「他院でイヤな思いをした」「どこの医療機関を受診したらいいか分からない」「それはうちじゃないから他に行ってくれ、と言われた」「複数の症状がありいくつもの医療機関を受診するのは面倒」「日本語ができず断られた」「セクシャルマイノリティが理由で差別を受けた」「HIV陽性者は診られない、と言われた」…、といった人たちに「ちょっと待って! 病院嫌いになる前にうちに来て!」と言いたかったからです。そのメッセージを伝えるためにウェブサイトが絶対に必要だと考えたのです。
そして、「健康のことで悩みがあるけど医療機関受診は敷居が高いし、過去に受診したときはイヤな思いをしたし……」という人が少なくないことを知っていたが故に、「無料メール相談」を開始しました。
「未受診の人からの相談にも答えるのは大変じゃないの?」というのはよくある質問です。たしかに、毎日毎日、回答にはそれなりに時間を費やしますから負担がないわけではないのですが、それで患者さんの不安がとれたり元気になってくれたりするのであればお安い御用です。メール相談をされる人で実際に谷口医院を受診するのは全体の5%未満ですから、医療機関を経済(経営)的にみると「不効率極まりない」あるいは「費用対効果が悪すぎる」となるのでしょうが、そもそも医療機関は営利団体ではありません。相談に対する回答についても、私が長年言い続けているように「検査や薬は最小限」が基本です。
それは2013年でした。ウェブサイトを私自身が編集しやすくするために、ある会社の申し入れによりホームページをリニューアルしました。その際に(同社の推薦もあって)スマホサイトを作成しました。同社によると、「最近はスマホで何でも済ませる人が多くて従来のPCサイトはあまり見られない」とのことでした。そのときは、そんなものかぁ、と考え、当院を知るきっかけがスマホサイトでもいいか、と思ったのですが、年を重ねるにつれて、PC派とスマホ派に「違い」があることに気が付きました。
それは、一言で言えば、スマホサイトから電話をしてくる人は当院のPCサイトを読まれておらず(当然と言えば当然ですが)、「誤解」があるのです。例えば、こんな感じです。
患者さん:「アレルギー検査っていくらですか?」
当院:「検査には様々なものがあり、診察を受けられていない状態でお答えすることは難しいんです」
患者さん:「なんか、セットになった検査があるって聞いたんですけど……」
当院:「そもそも検査が必要かどうかは診察時に検討されることになりますから、この時点ではなんとも言えないんです」
患者さん:(このあたりから気分を害され)「値段だけでも教えてくれてもいいでしょ!」
当院:「と言われましても……」
これが、当院のPCサイトを詳しく読まれている方なら「検査は必要最小限にすべき」「セット検査は精度が劣る」「検査はあくまでも参考であり問診の方が重要」と言ったことを事前に理解してくれていることが多く、診察もすごくスムースに進みます。
ですが、私はスマホサイトを見て電話をしてきた患者さんを非難しているわけでは決してありません。むしろ気持ちはよく分かります。おそらくこの患者さんは、どこかで「検査をすれば何にアレルギーがあるかが分かる。だからそれを避けるような生活をすればいい」と聞かれたのでしょう。「原因となるものを避ける」というのは基本的な予防のコンセプトですから、このように考えられたことはまったく間違っていません。
ですが、「どのような検査が必要になるか(あるいはまったく不要か)は診察時に検討されるべき」ということを電話で伝えることはときに非常に困難なのです。
一方、あらかじめPCサイトを見られた人たちは、電話にしてもメールにしてもスムースに事が運びます。軽症の方もおられますが、ちょうど先に述べた私が早く開業して診たいと考えていたような患者さん、すなわち「他院で診断がつかなかった」「うちには来ないでくれ、と言われた」というような内容のものもあります。「複数の医療機関でたくさんの薬が処方されているが減らしてもらえないでしょうか」「前医で長年にわたりデパスを処方されているが減らしたい」といった、おそらく私が書いたコラムを読んで相談してくる人も少なくありません。
スマホサイトのトップページには「詳しくはPCサイトを参照してください」と書いてあるのですが、それならば初めからスマホサイトがなければこういった問題は起こらないわけです。それに、患者数をもう少し減らしたいというのもありました。これは私を含めたスタッフがしんどいというよりも(それもありますが)、患者さんの待ち時間を減らしたいというのも理由のひとつです。「医療機関なんだから2時間くらいは待ってください」というのはこちら側の理屈であり、症状を訴えやって来た患者さんを長時間待たすのは我々も辛いのです。
そして、2019年1月31日をもって谷口医院のスマホサイトを閉鎖しました。やはり効果はあるようで、谷口医院を受診したことがない人からのメールでの問い合わせが大きく減り、新患の人数も減りました。これまでは新患(当院を初めて受診する患者さん)がだいたい日に10人くらいいましたが、最近は少ない日は2人ということもあります。しかも、新患の大半の人は、元々谷口医院にかかっている人の家族や知り合いか、PCサイトから相談してきた人の一部です。
何人かの患者さんからは「スマホサイトなくなったんですね」と言われました。そういう人たちは、スマホサイトに表示される待ち時間を見て受診するかどうかを決めているとのことでした。また、「(谷口医院に)何かあったのですか?」と心配してくれる人もいました。PCサイトにも待ち時間情報を載せていることを伝え、これまで通り(これまで以上にしっかりと)診察をおこなうことを約束し安心してもらいました。
ただ、スマホサイトを閉鎖した弊害がないわけではありません。「日ごろの情報収集のツールはスマホのみでパソコンを見ない」という人は、谷口医院の情報に触れる機会がほとんどなくなったわけです。我々にできることは限られていますし、必ずしも満足してもらえるわけではありませんが、それでも「他で診てもらえなかった」という人たちにできることを考えていきたいと思っています。
そういう意味で、スマホサイトを復活させるべきなのかもしれない……。実は現在も悩んでいます。
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|2019年3月31日 日曜日
2019年3月31日 ホルモン補充療法はアルツハイマーのリスク
一般に閉経前後の更年期障害で用いる「ホルモン補充療法(HRT)」は乳がんや卵巣がんのリスク、さらに心血管系のリスクがあるものの、抑うつ感や不安感などの精神症状の緩和には有効とされています。早期閉経がアルツハイマーのリスクになるという考えもあり、ホルモン補充療法は認知症の予防にもなるのでは、という意見もあります。ですが、その反対にリスクを上げるという報告もあり現在決着がついていません。
先日論文が発表されたフィンランドの大規模研究では「ホルモン補充療法にはアルツハイマーのリスクがある」という結論が導かれています。
医学誌『The British Medical Journal』2019年3月6日号(オンライン版)に掲載された「フィンランドにおけるホルモン補充療法とアルツハイマー病(Use of postmenopausal hormone therapy and risk of Alzheimer’s disease in Finland: nationwide case-control study)」を紹介します。
研究の対照者は1999~2013年にアルツハイマー病と診断された閉経女性84,739人と、他の条件を合致させた同数の対照者です。
アルツハイマー病患者のうち15,768人(18.6%)が全身性(内服及びジェル・貼付薬)の補充療法を実施しており(論文のTable 1)、10,785人(12.7%)が腟剤のみ使用していました。対称者では、14,394人(17.0%)が内服を、11,170人(13.2%)が腟剤のみを使用していました。これらを解析すると、全身性の補充療法の使用率はアルツハイマー患者で有意に高く(これを数字で見ると大して「差」はなさそうなのですが、論文に掲載されたfig.2を見れば一目瞭然です)、逆に腟剤の使用率はアルツハイマー患者で有意に低くなっています。
ホルモン補充療法にはエストロゲン(卵胞ホルモン)単体とエストロゲンとプロゲステロン(黄体ホルモン)複合剤があります。それぞれのアルツハイマーのリスク上昇は前者で1.09倍、後者は1.17倍となりました。
************
いくつか補足しておきます。
まず、日本でもフィンランドでも全身性のホルモン補充療法には内服以外にジェルや貼付剤などの皮膚から吸収されるものがあります。この論文ではそれらの比較ができておらず、どちらがよりアルツハイマー病のリスクとなるかは分かりません。
次に、エストロゲン単体とエストロゲン・プロゲステロン複合剤では、複合剤の方がアルツハイマー病のリスクが高くなっていますが、エストロゲン単体だと子宮内膜が増殖し子宮体がんのリスクが上がる可能性があります。
最後に、この論文を読む限り全身性(内服やジェル・貼付剤)はアルツハイマー病のリスクを上昇させるが、膣錠なら安心と解釈できますが、日本ではエストロゲンの膣錠は更年期障害に保険適用がありません。
いずれにしても、ホルモン補充療法は多くのことが期待できる一方で、乳がんや卵巣がん、心疾患系疾患、さらにアルツハイマー病のリスクがあるというわけです。
参考:医療ニュース
2007年4月30日「ホルモン補充療法の危険性」
2008年3月18日「ホルモン補充療法は中止後も乳がんのリスクが残存」
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|2019年3月31日 日曜日
2019年3月31日 親戚・身内にアルツハイマー、自身も高リスク
アルツハイマー病のリスクとしてよく取り上げられるのは、運動、食事、体重、喫煙、飲酒、社会活動、…、など多数ありますが、率直に言ってこれらのなかに”決定的”なものはありません。多少効果があるかもしれない、というものはありますが、これをすれば高確率で認知症を「防げる」あるいは「防げない」というものは見当たりません。喫煙がリスクを下げるとする研究もあるほどです。
ですが、決定的なリスク増加要因はあります。それは「家族歴」です。血縁者に認知症の人がいれば自身もいずれ認知症になりやすいというわけです。以前からこのことは指摘されており、遺伝子での解析もそれを実証していますが(後述)、大きな疫学研究は(私の知る限り)ありませんでした。
今回、これを証明するような研究が発表されたので紹介したいと思います。医学誌『Neurology』2019年3月13日号(オンライン版)に「Relative risk for Alzheimer disease based on complete family history(家族歴におけるアルツハイマー病の相対リスク)」という論文(全文が無料で読めます)が発表されました(注1)。
この論文を理解するために、まずは「血縁者の表現」を確認しておきましょう。日本では一親等、二親等、…と呼ばれる血縁者の表現は言語ごとに異なり、英語では次のように表現します。
・第一度近親者(first-degree relative):両親、きょうだい(兄弟・姉妹)、子供
・第二度近親者(second-degree relative):祖父母、孫、おじ・おば、甥・姪、片方の親が異なるきょうだい
・第三度近親者(third-degree relative):いとこ(first-cousin)(注2)、曽祖父母、ひ孫
この研究の対象者は1800年代のユタ州の開拓者及びその親族です。解析されたのは合計270,818人、うち4,436人が死亡時にアルツハイマー病の診断がついていました。
解析の結果、第一度近親者にアルツハイマー病患者が1人以上いると、自身も発症するリスクが1.73倍、2人以上なら3.98倍、4人以上ならなんと14倍にも上っていました。
また、第一度近親者と第二度近親者のいずれにもアルツハイマー病患者が1人いると、自身の発症リスクは2.04倍であり、第一度近親者に1人、第二度近親者に2人の場合は、自身の発症リスクは21.29倍まで上昇していました。
第一度近親者にアルツハイマー病患者がいない場合も、第二度近親者に2人以上の患者がいると発症リスクは1.25倍。第一度、第二度がゼロであっても、第三度近親者に2人以上の患者がいればリスクが1.17倍です。4人以上になると1.44倍となり、これは遠い関係であっても血縁者に患者が多ければ多いほど、自身のリスクも上昇することを示しています。
************
この研究結果は当然といえば当然で、現在ではリスクを遺伝子で調べることができます。ApoE遺伝子の「ε4」の数が0か1か2かでリスクが大きく変わるのです。「ε4」を2つ(つまりホモで)持っているとリスクが11.6倍にもなることが分かっています(参照:メディカルエッセイ第179回(2017年12月)「これから普及する次世代検査」)。
お金をかけてApoE遺伝子を調べなくても、血縁者にアルツハイマー病罹患者がいれば、それだけでハイリスクと言えそうです。該当する人は、たとえ大きな効果がないとしても、運動や食事などの生活習慣を見直した方がいいかもしれません。
注1:論文そのものよりも、この論文を分かりやすく解説した米国の医療サイト「HealthDay」に掲載されたレポート「遠い親戚もアルツハイマーのリスクを上げる(Even Distant Relatives’ History Could Up Your Alzheimer’s Risk)」の方が読みやすいと思います。
注2:first-cousinを英語で説明するとa child of your aunt or uncleとなり日本語の「いとこ」と同じです。通常cousinと言えばfirst-cousinのことを指します。second-cousinは日本語でいうところの「またいとこ」または「はとこ」(a child of a cousin of your mother or father)です。third-cousinはWikipediaによると、Third cousins share at least one set of great-great-grandparents(曽祖父母の親が共通)となり、これは「みいとこ」(曽祖父・曽祖母の兄弟姉妹の曽孫)と同じになると思います。
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|2019年3月24日 日曜日
第187回(2019年3月) 誤解に満ちた花粉症情報
過去の「はやりの病気」で最後に花粉症を取り上げたのは第53回の2008年1月ですから、それからはや11年が経過したことになります。改めて当時の文章を読んでみると、自分が書いたものなのに、今患者さんに伝えていることと比べて大きな差があることに気づきます。
2008年当時、私が書いた要点をまとめてみたいと思います。
・予防は重要だが限度がある。「帰宅後すぐにシャワー」は実際には困難
・免疫療法はいい方法だが危険性があり安易に勧められない
・中心となる薬は抗ヒスタミン薬とステロイド点鼻薬
現在の私が患者さんに説明していることを上記と対比して述べてみます。
・予防が一番重要。面倒くさくても「帰宅後すぐにシャワー」を勧める
・免疫療法は最強の治療法。舌下免疫療法は危険性が極めて少ない
・抗ヒスタミン薬、点鼻ステロイドに加え、抗ロイコトリエン拮抗薬を積極的に使用
花粉症に限らず、太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)では開院以来治療方針を変えたことはなく、どのような疾患も「予防」が重要であることを繰り返し述べてきています。花粉症に対しても方針は同じなのですが、年々予防の重要性を強調するようになってきました。
その最大の理由は「多くの重症例に遭遇してきたから」です。前回コラムを書いてからの11年間で多くの重症の患者さんが受診されました。ガイドラインに従い治療をおこなっても限度があり、次は内服ステロイドを使うしかない…、というところまで進んだ患者さんも過去に何人かいました。
ですが、ここで内服ステロイドを用いるのではなく、もう一度原点に戻って「花粉対策」をしてもらうと劇的に改善することが何度もあったのです。特に、「帰宅後すぐにシャワー」は、11年前には「現実的でない」と書きましたが、やはりこの効果は絶大です。少し外出しただけで髪を湯で洗うというのは、特に髪の長い女性だと本当に大変です。もっと困るのが、例えば4人家族で自分だけが花粉症という場合です。他の3人が花粉を部屋に持ち込むことを避けねばなりませんから、3人にも「帰宅後すぐにシャワー」をお願いせねばなりません。ですが、これを実践できれば症状が劇的に改善することもよくあるのです。
シャワーの際には「鼻うがい」も勧めています。専用の器材を買ったり生理食塩水をその都度用意したりするのは大変ですから、私は「シリンジでぬるま湯」を勧めています。シリンジとはプラスティック製の注射筒のことで、薬局には売っていないようですが、Amazonなどネット通販で購入できます。これでシャワーのお湯を吸い取って、片方の鼻を指でおさえてもう一方の鼻腔に一気に注入するのです。鼻腔に侵入した花粉を洗い流せるだけでなく、風邪の予防にもなります(ちなみに、私はこの鼻うがいを2012年の12月に始めてから一度も風邪を引いていません)。
シャワーや鼻うがい以前に空気清浄機は必需品ですが、意外なことに、それなりに重症の人でも「置いていない」と言われることがあります。そして、実際、「どんな薬でもよくならない」と言っていた人が「空気清浄機を置いただけで激変しました!」と報告しに来られたことも何度かあります。
次に「免疫療法」の話をしましょう。2008年の時点では「舌下免疫療法」はまだ研究レベルでしたが、2014年から保険診療が開始されました。注射に比べて安全性が高いことは論を待たないのですが、「本当に効くのか」という声がありました。しかし、谷口医院の患者さんでいえば開始してから3年以上経過した半数以上の人が「今年は症状がほぼゼロ」と言っています。当初の予想よりもかなり成績がよさそうです(一方、ダニの舌下免疫療法では「劇的に改善した」と言う人は現時点では少数です)。
免疫療法は注射でも可能ですが、少なくともスギに関しては舌下でこれだけ効果が出ているわけですから、注射による免疫療法はますます下火になっていくでしょう。
注射と言えば、今年は「注射で花粉症を治したい」という声が、例年の数倍はあります。なかでも、「ステロイドを打ってほしい」という声が次から次へと寄せられます。ケナコルトなどのステロイドを1回注射すると1ヶ月程度は花粉症の症状がほぼ消失することから90年代にはしばしばおこなわれていましたが、危険性が高すぎてこれは「絶対にやってはいけない治療」と認識すべきです。過去には強い副作用で生活に支障をきたし、裁判になった例もあります。この場合、患者さんが注射した医師を訴えればほぼ確実に医師が敗訴します。にもかかわらず、これだけ要望が多いのはなぜなのでしょう。しかも、例年このリクエストをされるのは、水商売の仕事をしている人が多いのですが、今年は、一般企業で働く人や学生、専業主婦などからの要望が目立ちます。これはおそらくSNSでそういった情報が広がっているからなのでしょう。
花粉症の注射で年々リクエストが増えているのが「ヒスタグロビン+ノイロトロピン」の皮下注射です。これは、たしかに危険性はほとんどなく、保険診療が認められ費用も安く(1回300円程度)、やはりSNSなどで評判がいいようで、谷口医院にも頻繁に問い合わせがあります。保険診療が認められている安全性の高い治療ですから、要望があればそれに応えるようにはしていますが、この治療はガイドラインに掲載されていないものです。つまり安全性が高いのは事実ですが、有効であるとする高いエビデンス(科学的確証)がないのです。ですから、谷口医院ではこの注射を実施するにしても、ガイドラインどおりの治療と並行しておこなうよう助言しています。
ガイドラインで推奨されている内服薬の抗ロイコトリエン拮抗薬は非常にすぐれた薬剤ですが、2008年当時は花粉症に対してまだ保険適用がなく使えませんでした。当時から気管支喘息には適用があったために、喘息と花粉症の双方がある人にはとてもいい薬剤でした。この薬が花粉症にも使えるようになってからは治療がぐっとおこないやすくなりました。特に1日1回寝る前に飲むタイプの「モンテルカスト」は、眠気などの副作用もほとんどなく(ただし一部の薬とは飲み合わせが悪く注意が必要)、即効性はありませんが、継続して使用すると安定した効果が期待できます。
最後に谷口医院を受診されている患者さんの特徴を紹介しておきます。もともと谷口医院でアレルギー疾患を積極的に診ようと思ったのは、開院前の私の経験がきっかけです。まだ「総合診療」という言葉が一般的でなかった頃から、私は多くの病院・診療所、そして多くの「科」で研修を受けていました。そこで感じたのが「縦割り医療」(「科」ごとの医療)の欠点です。例えば、耳鼻科に花粉症で受診した人は、鼻症状(と結膜炎症状くらい)は診てもらえますが、皮膚は診てもらえない(花粉で顔面に湿疹が起こることは珍しくない)のです。一方、花粉で湿疹が起こる人が皮膚科を受診すると、もちろん皮膚は診てもらえますが同時に生じている咳は相談できないのです(花粉が原因で咳や咽頭痛が生じることはよくある)。
忙しい患者さんがいろんな診療科を受診しなければならないのは現実的ではありません。特に花粉症は多彩な症状を呈しますから、もしも臓器別に診療科を受診するとなると、眼科、耳鼻科、皮膚科、呼吸器内科のそれぞれに行かなければならなくなります。花粉が原因で微熱、倦怠感が生じることもあります。花粉が原因と断定できないけど不眠で悩まされる、といったこともあるでしょう。これらをすべて相談できる医療機関が絶対に必要と考えたために、開院前からアレルギーを総合的に捉える癖をつけていたのです。
谷口医院に研修・見学に来る研修医や医学生に「GP(総合診療医)はアレルギーをトータルで診なければならない」と口うるさく言っているのはこのような理由からなのです。
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|2019年3月11日 月曜日
2019年3月 そんなに医者が憎いのか・続編
本サイトの過去のコラム(メディカルエッセイ第164回(2016年9月)「そんなに医者が憎いのか」)で紹介した「事件」は当初の私の予想を大きく外れる展開となっています。まずは事件の経過を振り返ってみましょう。
2016年5月、東京のある病院。胸部の手術直後の30代の女性が病室で40歳の執刀医からわいせつ行為を受けたとして、この医師が警視庁に逮捕されました。わいせつ行為の内容は、「術後病室に戻された患者に対し、二度にわたり着衣をめくり、手術していない左乳房の乳首をなめ、自慰行為に及んだ」そうです。女性患者の病室は4人部屋で他にも3人の患者がいました。
先述のコラムで述べたように、この女性は”真実”を述べていると思われますが「術後せん妄」と呼ばれる状態にあり幻覚が生じていたことは自明であり、まさか本当に起訴されるなどとは私は微塵も思っていませんでした。しかし、実際に裁判がおこなわれたのです。
2016年11月30日、第1回の公判で検察は「手術後で抗拒不能状態にあり、ベッドに横たわる女性患者A氏に対して、診察の一環として誤信させ、着衣をめくって左乳房を露出させた上で、その左乳首を舐めるなどのわいせつ行為をした」と述べました(参考:m3.com「乳腺外科医裁判、2月20日の判決迫る」)。
2018年9月11日、第3回公判でA氏は「男性外科医は左胸の衣服をめくった。頭の上から変な息遣いが聞こえた。左手で衣服をめくり、右手をズボンの中に入れて出口を見ながら自慰行為をしていた」と証言しました(先述の参考記事参照)。
検察に有利な証言をする医療者が出てくることはあり得ないと考えられていましたが、予期せぬことが起こりました。
2018年9月27日、第7回公判で(なんと)A氏を擁護する精神科医が登場したのです!この医師は「術後せん妄でなく事実があった」と証言しました。しかし、この医師はせん妄に詳しくないことが判り、2019年1月におこなわれた検察側の論告求刑ではこの医師の証言は引用されていません(これは「異例の扱い」だそうです)。
意外なことに、A氏を擁護する医師がもう一人現れました。2018年10月30日、第10回公判で検察側・弁護側の双方が麻酔科医を証人とし、検察側の麻酔科医が「術後せん妄の可能性は低い」と述べたのです(参考:m3.com『精神科医「術後せん妄で説明する必要はない」』)。
2018年11月1日の第11回公判ではA氏の胸に付着したという唾液に関するDNAやアミラーゼ反応について尋問が行われました。この尋問で、科捜研(警視庁科学捜査研究所)の職員が試料を残しておらず、検査自体がかなりずさんであったことが明らかとなりました。我々医療者(というよりすべての科学者)のルールに則れば、試料が残っておらず再現性が担保できないのであれば、こんなものはもはや「科学」ではありません。司法の世界でも、このような信ぴょう性のない「捜査」に説得力はないでしょう。
ところが、2019年1月8日の第13回公判で、検察側は「徹底した矯正教育を施すことが必要不可欠」として被告の医師に懲役3年を求刑したのです。
そして多くの医療者が注目するなか、2019年2月20日、東京地裁の判決が言い渡されました。もちろん「無罪」です。
しかしながら、東京地裁のまともな判断に安堵したのも束の間、2019年3月5日、東京地検は東京地裁判決を不服として控訴しました。
もう一度、「事件」のあった状況を考えてみましょう。場所は4人部屋。一応カーテンはありますが、他に3人の患者がいて、看護師など他の医療者や入院患者の家族がいつ入ってくるか分からない状況です。そんななか、自分が手術をした患者さんの胸を舐めて自慰行為をすることができるでしょうか。
現在の私は手術(執刀)をしていませんが、研修医の頃からクリニックを開業して1年くらいまでは皮膚の手術はおこなっていて、自分が執刀したのは約100件、研修医の頃に助手として手術に関わった症例も加えれば数百件になります。手術の後、患者さんを診に行くときはいつも緊張します。縫合が上手くいったかどうか、出血や腫脹、感染徴候がないかなどに注意しなければならないからです。そんな状況で患者さんの胸を舐めて自慰行為などできるはずがありません。
ただし、残念なことに世の中にはわいせつ行為をする医師はいます。定期的に新聞や週刊誌に恥ずべき事件が報道されていることからもそれが分かります。入院中の女児にいたずらをした香川の小児科医、乳癌検診を受けにきた女性の裸をスマホで撮影した大阪の医師、患者や看護師のスカートの中を院内で盗撮した福島の内科医。最近では、女性に睡眠作用のある薬を飲ませて自宅に連れ込み性的暴行をはたらいた東京の二人の男性医師が逮捕されました。15歳の女子中学生にわいせつ行為をした北九州の50代医師も逮捕されました。
ですから、私はこの乳腺外科医の事件に対して「高い人格を持つ医師がそんなことをするはずがない」と言っているわけではありません。また「悪意で虚言を吐く患者を許すな」と言いたいわけでもありません。この事件で重要なのは「術後せん妄でそういったことがあり得る」ということをまず関係者全員が認識し、そして社会に伝えることです。
報道によるとA氏は次のような発言をしています。
「(事件のあった)病院は私に対してセカンドレイプをした。病院が守るべきは医師ではなく、患者ではないか。(男性医師の名字)さん、あなたは性犯罪者です。今まであなたが楽しんだ分の長い長い実刑を望みます」(参照:m3.com「被害女性「医師免許剥奪、長い長い実刑を」)
私は2014年に患者として手術を受けたことがあります。そのときにメインに使われていた麻酔薬はA氏と同じプロポフォールでした。術後の記憶はあいまいで、後から聞いた話では、一応辻褄の合う会話をしていたそうですが、その会話の内容を覚えておらず、夢と現実をいったりきたりしていた感じでした。
A氏が”嘘”を言っていないのは事実だと思います。医療者から「術後せん妄だ」と言われても、警察や検察、そして自身の弁護士らからは「事件はあった。医師を許してはいけない」と言われ続け、無罪判決が出た後も東京地検はすぐに控訴したわけですから、おそらくA氏は自分が”真実”を述べていると確信しているでしょう。ここまでくると、「もはや自分のためだけではない。”正義”のためにも戦わなくては!」とさえ感じているのではないでしょうか。
検察が控訴しても東京高裁は無罪判決を出すでしょうし、検察が上告することはないと思います。しかし、すでに”一線”を超えてしまっています。A氏が「やっぱり術後せん妄だったんですね」と思い直す可能性はほとんどないでしょうし、先述したように医師のなかにさえ「事件はあった」と証言する者がいるのですから。
ちなみに、私はこの事件の話をこれまで医療者以外の知人何十人かに話してみました。誰一人「事件はあったのでは?」と答えず、全員が「あるはずがない。お前(私のこと)の言う通りだ」と言います。もちろん、私の周りの医療者は一人の例外もなく全員が「冤罪であり起訴などあり得ない」と言っています。
「常識」とはとても脆いものではありますが、それでもこの「事件」に関しては、常識的に考えて冤罪以外の何ものでもないのです。
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