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2021年9月23日 木曜日
2021年9月23日 米国で鉄欠乏性貧血が増加している意外な理由
きちんとデータをとったわけではありませんが、太融寺町谷口医院を開業した15年前に比べて、男女とも鉄欠乏性貧血を起こす患者さんが増えているように感じています。今回紹介する研究は米国のものですが、日本でも同じことが言えるかもしれません。
医学誌「The Journal of Nutrition」2021年7月号に掲載された論文「鉄摂取量の減少が米国人の鉄欠乏性貧血および関連死亡率の上昇と類似 (Decreased Iron Intake Parallels Rising Iron Deficiency Anemia and Related Mortality Rates in the US Population )」を紹介します。
この研究は米国人を対象としたデータベースを解析することによっておこなわれています。米国人の食品摂取と鉄欠乏性貧血の関係を調べた結果、「食品に含まれる鉄の摂取量減少が原因で鉄欠乏性貧血の有病率が上昇している」ことが分かりました。
具体的な数字をみていきましょう。まず、全体的に食事から摂取できる鉄分の量が減っています。分析されている1,000以上の食品のうち62.4%が1999年から2018年を比べると鉄の濃度が低くなっています。
米国人の食事内容としては、牛肉の摂取が15.3%減少し、他方鶏肉は21.5%増加しています。食事からの鉄摂取量は男性で6.6%、女性で9.5%減少しています。
米国人の鉄欠乏性貧血の有病率は年齢と性別により20年の間に10.5~106%増加していました。鉄欠乏性貧血に関連する年齢調整死亡率は、20年間で10万人あたり約0.04人から約0.08人に上昇していました。一方、鉄欠乏性貧血以外の貧血(例えば再生不良性貧血)を含む全貧血による死亡は25%以上低下していました。
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要するに、貧血で亡くなる人は減っているのに鉄欠乏性貧血だけは例外。そして米国人が鉄を摂らなくなった原因は2つあって、1つは食品に含まれる鉄分が減少していること、もうひとつが牛肉を食べなくなったこと、というわけです。
私が鉄欠乏性貧血の患者さんによく言うのが「血のしたたるステーキを食べましょう」です。正確にはあの赤い「血のようなもの」は血液ではなく、牛の筋肉を構成するミオグロビンと呼ばれる蛋白質なのですが、この蛋白質にたっぷりの鉄分が含まれているのです。
一方、米国人の間でも摂取量が増えている鶏肉はあまりミオグロビンを含まず、結果として鉄分があまり取れません。ダイエット目的で牛肉より鶏肉と考える人が少なくないようですが、貧血予防には「血のしたたるステーキ」が一番です。
参照:HealthyDayNews 2021年8月4日「食生活の変化は大勢のアメリカ人の貧血を意味する (Changing Diets Mean More Americans Are Anemic Now)」
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|2021年9月17日 金曜日
第217回(2021年9月) コロナにはカロナールよりロキソニン
今回述べるのは完全に「私見」でありエビデンスがあるわけではありません。「私ならこうする」という程度の話であって、何年後かに「間違っていました。すみません」と言うことになるかもしれません。ですが、困っている患者さんを何とかしたいという気持ちが拭えずに、私見ながら自説を述べることにしました。
「困っている患者さん」とはポストコロナ症候群に苦しんでいる人で、勧めたいことは「コロナ(かもしれない)を疑う症状が出現すれば、アセトアミノフェンでなくNSAIDsを使いましょう」ということです。尚、本コラムで「コロナ」と言えば、新型コロナ(ウイルス)のことを指すこととします。
解説しましょう。アセトアミノフェンとは解熱鎮痛剤の一種で、最も有名な商品名は日本では「カロナール」でしょう。多くの風邪薬や鎮痛剤の主成分としても使われています。例えば「バファリンルナ」「小児用バファリン」はアセトアミノフェンからできています。海外では、アセトアミノフェンよりもパラセタモールという言い方が一般的です。例えば、タイではアセトアミノフェンと言ってもあまり通じませんが、パラセタモールと言えば誰でも分かります。北米や南米では、タイレノールという製品で有名です。ちなみに、日本にもタイレノールはありますが使用できる量が少なすぎてあまり実用的ではありません(と個人的には思っています)。
過去のコラム(メディカルエッセイ第97回(2011年2月)「鎮痛剤を上手に使う方法」)で、鎮痛剤を最初に飲むなら「ロキソニンなどのNSAIDsよりもアセトアミノフェン」という内容のことを書きました。今も、その考えに大部分で変わりはないのですが「例外」が出てきました。それがコロナです。「コロナに感染した(かもしれない)ときはアセトアミノフェンでなくNSAIDsを使うべきだ」、というのが現在の私の考えです。
コロナワクチン接種後の頭痛や発熱に対し(NSAIDsでなく)アセトアミノフェンを使うべきだという噂がまことしやかに出回っているようですが、私ならアセトアミノフェンでなくNSAIDsを使います。解説しましょう。
まずは「NSAIDsとは何か」について確認しておきましょう。NSAIDs(たいていの人は「エヌセッズ」と発音します)とは「Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs」の略で、日本語にすれば「非ステロイド性抗炎症薬」となります。私は、医療者でない一般の人から、NSAIDsという言葉を聞いたことはありますが「非ステロイド性抗炎症薬」という表現を聞いたことは一度もありません。よって、この言葉に馴染みのある人はあまりいないと思いますので説明しておきます。
非ステロイド性抗炎症薬とは「ステロイドでない」「炎症を抑える薬」です。なぜ、わざわざ「ステロイドでない」と断りを入れているのかというと、ステロイドが炎症を抑える薬の代表だからです。ですから、NSAIDsというのは、「ステロイドじゃないんだけれど炎症をおさえてくれる(ありがたい)薬」のことです。
ただし、実際には医療者も含めてNSAIDsのことを「炎症を抑える薬」とはあまり表現しません。「解熱鎮痛剤」「痛み止め」「熱を下げる薬」という言い方をすることの方がずっと多いと思います。そして、これも医療者も含めて「解熱鎮痛剤」を次のように3つのカテゴリーに分類している人が多いと言えます。
・アセトアミノフェン
・NSAIDs
・麻薬(や麻薬に似た物質)
痛みのことだけを考えるとこの分類は間違っていません。では、アセトアミノフェンとNSAIDsの違いはどこにあるのでしょうか。これも医療者も含めて多くの人は「アセトアミノフェンは胃にやさしい」「アセトアミノフェンは腎臓にやさしい」「アセトアミノフェンは妊娠中の女性や小児も飲める」と言います。まとめると、「アセトアミノフェンはNSAIDsより解熱鎮痛のパワーは弱いけれども安全な薬」と考えられているわけです。
コロナが流行しだした2020年の春、「コロナはイブプロフェン(NSAIDsのひとつ)で悪化する」という噂が世界中に広がりました。これは医学誌「The Lancet Respiratory Medicine」2020年3月11日号に掲載された論文「高血圧と糖尿病でCOVID-19感染のリスクが高くなるか(Are patients with hypertension and diabetes mellitus at increased risk for COVID-19 infection?)」がきっかけです。生活習慣病で使うACE2阻害薬がコロナを悪化させる可能性が指摘され、ACE2(アンジオテンシン変換酵素2型)に影響を与えるイブプロフェンもコロナ重症化に関係するのではないか、と考えられたのです。
現在はこの説を支持する人はおそらく(ほとんど)いないと思いますが、当時は「コロナかもしれないときはアセトアミノフェン」と言われていましたし、私自身もその意見に賛成していました。実際、私は毎日新聞の自分の連載コラム「新型コロナ 医師が勧める解熱剤は?」でそう書きました。
ちなみに、デング熱に感染したときにNSAIDsを内服すると重症化する可能性があります。しかしアセトアミノフェンなら安心です。また、インフルエンザでも(特に小児では)インフルエンザ脳炎・脳症を発症した場合NSAIDsで悪化することがあり、アセトアミノフェンにしておくのが無難です。改めて考えてみても「NSAIDsをアセトアミノフェンよりも優先すべきだ」という事態になることは(コロナ前までは)あまりなかったことが分かります。
NSAIDsでイブプロフェン以外に有名なのはロキソプロフェン(先発の商品名はロキソニン)、ジクロフェナク(ボルタレン)、アスピリン(バファリン)、インドメタシン(インダシン)、メフェナム酸(ポンタール)、セレコキシブ(セレコックス)などです。
さて、ここからが本題です。これまでの自分の見解を撤回して正反対の自説「コロナを疑ったときはアセトアミノフェンではなくNSAIDsを」と主張するのは、NSAIDsには先に述べた「抗炎症作用」があるからです。他方、アセトアミノフェンには抗炎症作用がほとんどありません。
では、NSAIDsの抗炎症作用で何が期待できるのか。それは「脳内に生じた炎症を取り除き予防すること」です。頭痛にイブプロフェンやロキソプロフェンなどのNSAIDsが効く理由のひとつが抗炎症作用です。「アセトアミノフェンは効かずに、ロキソニンやボルタレンなら効く」という人は、脳の一部に強い炎症が生じていることが理由なのかもしれません。
では、なぜ脳内の炎症を取り除かねばならないのか。その理由が「ポストコロナ症候群を予防するため」です。過去のコラム「はやりの病気第213回(2021年5月)「分かり始めた「ポストコロナ症候群」」で、私は、ポストコロナ症候群のメカニズムは、「肺炎→酸素が取り込めない→低酸素血症→脳(のミクログリア)に炎症」だと述べました。ということは、炎症を最小限に抑えることができれば、ポストコロナ症候群が起こらない、あるいは起こっても軽症で済ませられる可能性がでてきます。
そもそも「ACE2関連イブプロフェンコロナ悪化説」が(ほぼ)否定された現在、優先してアセトアミノフェンを使用しなければならない理由は見当たりません。ならば、少しでもコロナの疑いがあれば初めからNSAIDsを使う方がいいわけです。ただ、この意見を支持してくれる研究は私の知る限り国内外にありませんから、例えば初診の患者さんに「コロナに感染したかもしれないときやワクチン接種後の解熱鎮痛剤は何がいいですか」と聞かれると「何でもいいと思います」と答えています。
これからは、当院を昔から受診していて信頼関係のある(と、私が思い込んでいるだけかもしれませんが)患者さんには、(こっそりと)「NSAIDsをお勧めします」と伝えようと思っています。
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|2021年9月10日 金曜日
2021年9月 雨の中を走ろう(Running in the rain)
私の古い記憶をたどると「規則正しい生活をしましょう」と初めて言われたのは、何年生だったかは忘れましたが小学校の夏休み前。要するに、夏休みに入ってもこれまでどおり早く起きなさい、夜更かしはいけません、と担任の先生は言いたかったわけです。
一方、小学生時代の私の最大の楽しみは「朝寝坊」でした。日曜日の朝、いったん目覚まし時計に起こされても、「今日は日曜日、あと1時間は眠れる」ということに気付いて、二度寝に落ちるあの瞬間が幸せなひとときだったのです。ちなみに、小学校低学年の頃は「ムーミン」が始まる9時まで布団から出られず、パルナス提供のアニメで私の日曜日が始まりました。今でも「日曜の朝」というキーワードを耳にすると、反射的に頭のなかにパルナスのCMソングが流れてきます。
話を進めましょう。「規則正しい生活を……」と言われても初めから従う気持ちのない私は、夏休みの間も地域社会のラジオ体操や野球やサッカーなどのイベントがなければ毎日のように朝寝坊を楽しんでいました。
小学6年生になった頃にはラジオの深夜放送にはまりだし、布団に入ってからもイヤホンでラジオを深夜まで聞くようになりました。深夜放送を聞き出したことから、世の中には深夜にも起きている人たちが大勢いて、都会にはなにやらワクワクするエキサイティングな世界がありそうだ、ということが分かり始めました。
中学に入ってからも深夜放送好きは変わらず、この頃の私の将来の夢は「ラジオのDJになりたい」というものでした。気の利いた話をして、リスナーからのハガキを読んでときには身の上相談に乗って、適度なタイミングで洒落た音楽を紹介する……、と、そういうスタイルのDJに憧れたのです。
今の私は大勢の人たちから医療に関する質問メールをもらって、返信するのに毎日それなりの時間を費やしています。当院をかかりつけ医にしている患者さんだけでなく、全国から相談メールが寄せられます。医療に関係のない人生相談のようなものも届きます。考え方によっては今の私がやっていることは、中学の頃に憧れていた深夜放送のDJに似ているかもしれません。
話を進めます。大学(医学部でなくひとつめの大学)に進んだ私は「自由」を手に入れました。規則正しい生活などつまらない人間のすることだ、と考え、ショートスリーパーであることを自負し、毎晩のように街に繰り出していました。社会人になってからも、睡眠は時間の無駄遣いと嘯き、仕事を終えた金曜の夜は、いったん帰宅しドレストアップ、とまではいかないにせよ、仕事時とはまったく異なるファッションに身を纏い街に出ました。朝まで騒ぎあかし、土曜日の夕方に目を覚まし、そして再び夜の街に……、といった生活を続けていました。
医学部受験を決意したときからそのような生活とは縁を切って、早朝に起床して勉強するようになりましたが、医学部入学後は、勉強が中心とはいえ、規則正しい生活からはほど遠いものでした。自宅での勉強が集中モードに入ると、深夜、ときには明け方までそのまま勉強を続けていました。医師になってからは、当直業務が多くなり、生活のリズムは滅茶苦茶になり、わずか15分でも眠れる時間があれば眠るという「細切れ睡眠」の生活になりました。太融寺町谷口医院を開業してからも、最初のうちは夜間の救急病院にもアルバイトに行っていましたから、やはり細切れ睡眠を続けていました。
しかし、そのような生活スタイルに終止符を打ち、毎日同じ時刻に起きる規則正しい生活を開始しました。その理由は2つあります。1つは、患者さんに「規則正しい生活をしましょう」と言わねばならなくなったことです。
このサイトで何度も紹介し、当院をかかりつけ医にしている患者さんには嫌がられるほど繰り返し話をしているように、規則正しい生活をするだけで大きく改善する疾患はたくさんあります。片頭痛や不眠症がその代表ですが、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、不安感や抑うつ感といった精神症状、月経痛や月経不順などの婦人科疾患、胃炎や過敏性腸症候群などの消化器疾患なども相当します。おそらく規則正しい生活を続けることによって、バイオリズムが安定化し、自律神経のバランスが整うのでしょう。
規則正しい生活によって大きく改善する患者さんを診るにつれ、他の患者さんにも積極的に勧めるようになり、そうなると自分自身が実践しないわけにはいきません。ちなみに、私が禁煙に成功できたのも、患者さんに禁煙指導をするうちに「自分が喫煙するのは”詐欺”のようなものだ」と考えて禁煙に取り組んだからです。
私が規則正しい生活を始めた理由はもう1つあります。ある時、知人のひとりが「毎日同じ時間に同じことを繰り返すのが気持ちいい」と言いだしたことです。人生は何が起こるか分からないから楽しいのではないか、初めから決まっている予定通りの人生など何が面白いのか、と考えていた私は、この人が言うこの意見を最初は理解することができませんでした。しかし、この言葉が心のどこかにひっかかっていたのか、ときおり思い出すようになっていました。
今も私は「毎日同じ時間に同じことを繰り返すのが気持ちいい」という境地には達していません。むしろ今でも「この世にはハレとケ、日常と非日常の双方が必要だ」という考えを持っていて、「同じことを繰り返すだけのハレのない生活」ほどつまらないものはない、という気持ちがあります。
ですが、「毎日同じ時間に同じことをするのが幸せ」と考える人は案外多いようです。最近、この幸せを世界一実感しているのではないかと思える人の記事を読みました。
記事は英国紙「The Guardian」2021年4月16日に掲載された「私の経験~私は10年間同じ夕食を食べています(Experience: I’ve had the same supper for 10 years)」で、取り上げられているのはウエールズの羊飼い、72歳の男性です。ロンドンなど都会に出たことはほとんどなく、毎日71頭の羊の世話をするのが仕事、食事は10年間同じものを食べていると言います。クリスマスでも特別な食事は摂らず、昼食は洋ナシ、オレンジ、ペースト入りサンドイッチ、夕食は魚2キレ、タマネギ1個、卵、ベイクドビーンズ、ビスケット数枚だそうです。毎日同じ時間に羊にエサをやり、予定通りに買い物に行き、毎回同じものを買うと言います。男性は「自然と同じように、私は決まった生活をしている(I have a routine, just like nature.)」とコメントしています。
私の場合、居住区から出たくないと考えるこの男性とは正反対で、旅が好きで、新たな出会いにワクワクし、旅先のハプニングも楽しもうとします。ですが、現実にはここ10年くらいは国内外どこに行っても起きる時刻は同じですし、起床後最初にするのは同じメニューの運動です。週に4回ジョギングをし、残りの3回は室内でワークアウト(筋トレ)をしています。
過去20年で私が最も多く訪れている海外の都市はバンコクです。スクンビットの定宿を利用し、ジョギングはベンジャキティ公園を3周というのがいつものパターンです。ちなみに、以前はバンコク滞在時には様々な道を走っていて、2015年8月17日の朝6時半ごろにはラチャプラソン交差点を通りました。その約12時間後の午後7時前、その交差点で爆発テロ事件が発生し20人が死亡しました。
4時45分に起床、最初にするのはランニングかワークアウト、という生活がいつの間にかパターンとなりもう7年になります。ランナーのなかには、雨の日はランニングを休むという人がいますが、私の場合、怪我をしているときを除けば、7年間のうち予定を変更して休んだのは台風で警報が出ていた1日だけです。帰宅後は、シャワー、出勤、だいたい同じ時間に帰宅、シャワー、読書、就寝という生活をずっと続けています。
あれほど単調な日常生活を嫌っていた私が、いつのまにか毎日同じことを繰り返す魅力を知ってしまったのかもしれません。雨が降っても走る、と他人に話せば、そこまでしなくてもいいのでは、とたいていは呆れられます。そんなとき私は次のように答えています。
雨が降る中いつものようにランニングをして後悔したことは一度もないんです……。
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|2021年9月2日 木曜日
2021年9月2日 コロナワクチン、心筋炎のリスクにはなるけれど……
最近、コロナワクチンの副作用の質問で多いのが「心筋炎」です。
日本では中日ドラゴンズの木下雄介投手が7月上旬にコロナワクチン接種後(メーカーは不明)にハードなトレーニング中に倒れ意識を失い大学病院に搬送されたものの8月3日に死亡したと報じられています。
香港の英字新聞「South China Morning Post」2021年7月5日号によると、シンガポールの16歳の男子が、ファイザー製のワクチン接種6日後にジムで激しいトレーニングをした直後に心停止を起こしました。
報道からは2人とも死因ははっきりしませんが、若くて健康な男性が激しいトレーニングのさなかに倒れたわけですから、まずは心疾患が疑われます。一般に、心臓の疾患は、中年以降であれば心筋梗塞、心不全、心筋症などが考えられますが、健康な若者が突然倒れた場合は不整脈か心筋炎、心膜炎などが疑われます。
そして実際、ファイザー製のコロナワクチン接種後の心筋炎のリスクは確実にありそうです。
医学誌「The New England Journal of Medicine」2021年8月25日号に掲載された論文「ファイザー社製コロナワクチンの安全性に関する全国調査(Safety of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Setting)」によると、イスラエルでの全国規模の調査では、(ファイザー製)ワクチン接種による心筋炎のリスクが3.24倍に上昇し、これは人口10万人につき2.7人が発症することになります。
ただし、この論文によると、ワクチンをうたずに新型コロナに感染すると、心筋炎を発症するリスクは18倍以上、10万人あたり11人が発症します。よって、ワクチンをうって起こり得る心筋炎のリスクよりも、感染して心筋炎を発症するリスクの方がずっと高いということになります。
もちろん、一番いいのはワクチンもうたずに新型コロナにもかからずに、そして心筋炎も発症しないことです。心筋炎の原因として圧倒的に多いのはウイルス性です。様々なウイルスが心筋炎の原因となりますが、最も多いのはコクサッキーウイルスのB群と呼ばれるグループです。他には、コクサッキーウイルスのA群、インフルエンザウイルス、HIV、エコーウイルスなども原因となります。そして、おそらく来年あたりの教科書には心筋炎の原因ウイルスのひとつに新型コロナウイルスも付記されるでしょう。
心筋炎の観点からワクチンをうつべきか否かを考えてみましょう。もしも新型コロナにかかれば、かかっていない人に比べて心筋炎を発症するリスクが18倍にもなります。とはいえ、10万人あたり11人ですからさほど多いわけではありません。新型コロナに罹患した人10万人を集めて11人(≒1万人に1人)ですから、気にしないという人もいるでしょう。
一方、ワクチンでのリスクは10万人あたり2.7人で、1万人あたり0.3人と考えるとやはりそんなに多いわけではありません。大切なのは、接種直後に激しい運動をすればリスクが上がるということです。木下投手の報道からは何日後に発症したのかよく分かりませんが、シンガポールの男子は6日後と報道されています。ということは、やはりワクチン接種後1週間はジム(フィットネスクラブ)での激しい運動は避けるべきだ、ということになります。
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