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2025年10月16日 木曜日

第266回(2025年10月) 難治性のSIBO、胃薬の見直しと運動で大部分が改善

 SIBO(=Small Intestinal Bacterial Overgrowth=小腸内細菌異常増殖症)についての問い合せが増え始めたのは、ちょうど新型コロナウイルスの流行が始まりかけた頃だったと記憶しています。SIBOは2000年代後半頃より医療者の間ではしばしば話題に上るようになった疾患で、確実に患者数は増えているのですが、検査法も治療法もはっきりしていないためになかなかとっつきにくい病気だと言えます。今年(2025年)になり、このSIBOに対する問い合わせがなぜか加速度的に増えていますので「はやりの病気」で取り上げることにしました。

 SIBO(通称「シーボ」と呼ばれます)は、病名が物語っているように「小腸内で」「細菌が異常増殖する」疾患です。ときどき「腸内にはたくさんの細菌がいて……」と考えている人がいますが、細菌が生息しているのは小腸ではなく大腸です。基本的に小腸には細菌はあまりいません。無菌ではありませんがあまり多くはないわけです。その小腸内で細菌が異常増殖すると、様々な不快な症状が出現します。

 まず「下痢」と「腹部膨満感」は必発です。腹部膨満感がさらに悪化して「膨隆」(自覚だけではなく我々が診察してもおなかが膨れている状態)を起こしていることもあります。患者さんによっては「おならが出すぎる」あるいは「げっぷが止まらない」と訴える場合もあります。さらに、下痢が続いた結果、体重が減っていることもあります。

 医学に詳しい人、あるいはすでに過敏性腸症候群の診断がついている人は「それって下痢型の過敏性腸症候群とどう違うの?」と思うかもしれません。たしかに、これらは似ていますし、SIBOに下痢は必発ですが、下痢と便秘を繰り返す人もいます。そして、過敏性腸症候群(=Irritable bowel syndrome 、以下「IBS」)も下痢と便秘を交互に繰り返すことがあります。

 ではどのように区別するのか。症状でいえば、まず「食後と排便で症状が増悪するか改善するか」を確認します。どちらかと言えばSIBOは食後に悪化し、IBSは排便で改善します。しかし例外も多々あり、これだけで診断できるわけではありません。げっぷが多ければSIBOの可能性が高くなりますが、SIBOの全例でげっぷがひどいわけではありません。腹部膨満感の苦痛が強ければSIBOを先に疑いますが、IBSで腹部膨満を訴える人もいます。結局のところ、自覚症状だけでSIBOかIBSかの鑑別をつけることはできないのです。さらに、診断する側としては非常に厄介なことに、IBSとSIBOを合併することも珍しくなく、一説では過半数は合併しているのではないかと言われています。

 では診断をつけるためにどうすればいいか。当院では腹部レントゲンを参考にしています。通常、典型的な(SIBOの伴わない)IBSであれば、小腸に異常はなく、大腸にガスが貯まっている像が得られます。他方、SIBOの場合はその反対に小腸ガスや小腸の拡張像が目立ちます。ただし、これらも決定的な所見となるわけではありません。

 SIBOの確定診断をつけるには小腸に細菌が異常増殖していることを確認するしかありません。そのためには内視鏡(胃カメラ)を挿入して小腸液を採取して、その液に細菌がどれだけ棲息しているかを調べなければなりません。他には「呼気テスト」と呼ばれる方法もあって、小腸内で異常増殖した細菌が発生するガス(水素やメタン)を呼気を採取して調べます。ただ、保険適用がなく日本では一部のクリニックが実施しているという噂を聞いたことがありますが、恐ろしいほど高額で(噂では10万円もするとか……)、また精度への疑問も指摘されています。大腸に存在する細菌が発生させるガスを拾ってしまいSIBOでないのにSIBOと判定されること(=偽陽性)が多く、その一方で、SIBOであってもガスが適切に検出されない例も多い(=偽陰性)という声もあります。結局のところ、SIBOに対して適切な検査があるとは言えないのが現状なのです。

 他の疾患においても、確定診断がつかなくても治療を開始する、という手があります。ではSIBOに対してはどのような治療があるのでしょうか。

 よく言われるのが、2019年のコラム「過敏性腸症候群に『低FODMAP食』は本当に有効なのか」で紹介した低FODMAP食です。このコラムではSIBOに対してではなく、IBSに対しての低FODMAP食についての報告や当院での経験を紹介しました。結論から言えば、当院での低FODMAP食によるIBSの治療成績はあまりよくありません。興味深いことに、低FODMAP食を開始した当初は症状が改善することが多いのですが、そのうちに効果がなくなっていきます。患者さんのなかには「低FODMAP食を続けるのはしんどいので、ときどき普通の食事を摂ってしまう。それが良くないのだと思います」と言う人もいます。しかし、これまで低FODMAP食を試みてきた患者さんたちをトータルで考えてみると、(あくまでも当院での事例のまとめに過ぎませんが)「低FODMAP食はIBSに長期的には有効でない」が結論です。

 それに、有効な人もいるのだとしても、先述した患者さんが実感したように、この食事療法を長期間に渡り継続するのは事実上不可能です。ヨーグルトや食物繊維が豊富な野菜(アスパラガス、キャベツ、タマネギ、ニンニクなど)、それにフルーツを生涯食べるな、と言われて納得できる人がどれほどいるのか、我々には極めて疑問です。コムギ製品や甘いものはいろんな観点からも避けた方がいいわけですが、これらも生涯食べるなと言われて同意できる人がどれだけいるでしょう。

 SIBOは小腸内に細菌が異常増殖しているわけですから「抗菌薬を使えばいい」という考えがあります。ただ、世界中でこれまでいろんな抗菌薬が試験されていますが、いい成績が出ているものはほとんどありません。唯一、リファキシミン(Rifaximin)(商品名は 「リフキシマ錠200mg」)という抗菌薬が有効とする話もありますが、日本ではこの薬剤は抗アンモニア血症に対してしか保険適応がなく、SIBOに使用するなら自費診療になります。薬価は1錠235.1円ですから、1日6錠が必要であることを考えると高すぎます。それに、診察や検査(レントゲンなど)を保険診療で、薬剤を自費診療で、というのは混合診療となってしまいますから、この薬を自費で処方するならそれまでの診察代や検査代が遡ってすべて自費請求されてしまいます。

 結局のところ、SIBOについては検査も治療も実施が困難か高額かのいずれかであり、医療者としてみればなんともとっつきにくい疾患なのです。しかし、医療者側が苦手な疾患なのだとしても、実際に困っている患者さんはいるわけです。

 ではどうすればいいか。まず、上述したように症状と腹部レントゲンからSIBOである可能性を疑います(ちなみに、SIBOを疑う患者さんに対しこれまで何度か超音波検査を試みましたが、有意な所見は得られませんでした。小腸ガスが見つかることはありますが、腹部レントゲンの方がはるかに有意な所見が得られます)。

 治療については、低FODMAP食は推薦せず(関心がある人には説明はします)、リファキシミン投与の話もせず(そもそも抗菌薬には様々なリスクが伴います)、別のアプローチをとります。まず初めにすべきは「胃薬の見直し」です。特に、PPI(プロトンポンプ阻害薬)と呼ばれる胃薬を使用している人に対してはできるだけ中止できるような対策を考えます。PPIについては本サイトでそのリスクを繰り返し指摘してきましたが、当院の経験でいえばおそらくPPIはSIBOのリスクにもなります。

 これは理論的にも理解しやすいことです。そもそも口から入る細菌はそのほとんどが胃酸により死滅します。にもかかわらず小腸で異常増殖するのはなぜか。それは「胃酸の量がふじゅうぶんで細菌が生き延びるから」に他なりません。そしてPPIはすべての胃薬のなかで最も胃酸分泌を減らす強力な薬剤です。エビデンスはありませんが、当院の経験上「PPIがSIBOの主要因ではないか」と思えるのです。

 次にすべきことは運動です。そもそも食べたものがなかなか大腸までたどり着かないから食事に混入している細菌が小腸で異常増殖してしまうわけです。ならば、腸管を速やかに動かして食べたものはさっさと大腸に送り込んでしまえばいいのです。小腸の”仕事”は膵液(膵臓から分泌)と胆汁(胆嚢から排出)に加え、小腸自身もアミラーゼ、ペプチダーゼ、リパーゼといった消化酵素を分泌して食べたものを大腸に送り込むことです。SIBOはこの動きがスムーズでなくなったことが原因で生じると考えられるわけです。ならば運動、とりわけジョギングが有効です。リズミカルに腸管に届けられる着地時の振動が腸管の動きを促すからです。

 SIBOで悩んでいる人は少なくなく、それ以前にきちんと診断がつけられていない人も大勢います。しかし、診断を待つまでもなく、まず(使用していれば)胃薬を見直し、そして運動を継続すれば、かなりの患者さんが改善するのは当院の経験上間違いありません。 

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2025年10月16日 木曜日

2025年10月17日 カリフォルニアでは「超加工食品」が学校給食禁止に

 超加工食品の危険性(と”魅力”)を詳しく紹介したのは「はやりの病気」2025年1月の「『超加工食品』」はこんなにも危険」でした。このコラムでは、超加工食品が、体重を増やし、寿命を縮め、不眠やうつを加速させ、認知症のリスクを上げることなどについて、エビデンスを示しました。また、コロンビア、ブラジル、カナダ、ペルーなどでは国を挙げて超加工食品を制限するよう取り組んでいることも紹介しました。

 他国をみてみても、例えば英国にはいわゆる「砂糖税」があります(超加工食品の多くに砂糖が使われています)。仏国では「ニュートリ・スコア(Nutri-Score)」と呼ばれる食品へのラベル貼付がおこなわれています。有害な超加工食品には赤のラベルが、加工されていない栄養に富んだ優秀な食品には緑のラベルが貼られているのです。仏国でこの制度が導入されたのは2017年、現在はベルギー、スペイン、ドイツなどにも広がっていると聞きます。

 この流れは世界で加速しています。報道によると、カリフォルニアのGavin Newsom州知事が「2035年までにすべての学校で超加工食品の給食での提供を段階的に廃止することを義務付ける」法案に署名しました。ガイダンスが各学校に配布され、2029年から段階的に廃止される予定です。

 また、同州ではすでに昨年、合成着色料6種類(赤色40号、黄色5号、黄色6号、青色1号、青色2号、緑色3号)を学校給食から禁止する法律が生まれ、2027年から施行されます。これら着色料は児童の神経疾患の原因になるとされています。これら6種の着色料のなかで最も有名なのはおそらく赤色40号でしょう。ドリトス、ゲータレード、スキットルズなどに含まれると聞いています。そして、赤色40号は児童や十代の若者の活動過多やイライラを悪化させる可能性があることが示されています。ちなみに日本では黄色6号は未認可ですが、他の着色料は量的制限はあるものの日常の食品で使われています。

 尚、The Telegraphによると、カリフォルニアの超加工食品の給食禁止は政治的な背景があるようです。いわゆる「MAHA運動」を推奨するロバート・F・ケネディ・ジュニア保健長官は今年8月までに超加工食品対策を講じると約束していましたが、先月発表された最新の報告書には超加工食品対策がはっきりと示されていませんでした。そこで、民主党に所属するGavin Newsom州知事は「カリフォルニアでは、以前から子供たちの健康を守るための対策に取り組んできた」と強調したかったようです。

 

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2025年10月16日 木曜日

2025年10月16日 その後のNDM-1とグラム染色の必要性

 最近は「昔から谷口医院のコラム、欠かさず読んでいます」と言われることが増えているのですが、では「NDM-1」を覚えている人はどれくらいいるでしょうか。NDM-1を取り上げたのは今から15年前の2010年9月。今から15年以上前の「はやりの病気」の「NDM-1とアシネトバクター」で、紹介したのはその一度きりです。今回はそのNDM-1が大変なことになっている、というニュースです。

 NDM-1の正式名は「New Delhi metallo-β-lactamase 1」で、NDM-1とは酵素の1種です。名前に地名が入っているのは最初に発見されたのがニューデリーだからです。この酵素はカルバペネムを含む強力な抗菌薬を分解します。つまり「強力な抗菌薬でも死滅しない酵素及びこの酵素をもつ細菌」がNDM-1と呼ばれるようになったのです。ただし、細菌は「-1」を付けないことが多く、単に「NDM」と呼ばれることが増えてきました。よって、ここでもNDMとします。

 NDMはときどき論文や海外のメディアでは取り上げられているのですが、これまではそれほど目立っていませんでした。しかし、2025年9月23日、米国CDCが驚くべき報告をおこないました。

 「米国ではNDM産生カルバペネム耐性腸内細菌(NDM-producing carbapenem-resistant Enterobacterales )が2019年から2023年の間に460%以上も増加している」というのです。

 「NDM産生カルバペネム耐性腸内細菌」とは、「NDMを産生して、カルバペネム系抗菌薬が効かない、腸内に棲息する細菌」のことを指します。この条件を満たせばいいわけですから、その細菌が大腸菌であってもクレブシエラであっても、あるいはサルモネラであっても当てはまります。

 カルバペネム系抗菌薬(注射薬ならイミペネム、メロペネム、ドリペネム。内服ならオラペネム)は極めて強力な抗菌薬で、ペニシリンやセフェムなどのよく使われる抗菌薬が無効な細菌にも効く、いわば「最後の砦」とも呼べる抗菌薬です。近年カルバペネムが効かない細菌が問題になっているのですが、そのなかでも「NDM産生カルバペネム耐性腸内細菌」の急増が深刻化しているのです。

 15年前のコラムでは、この細菌が「スーパー細菌(superbug)」と呼ばれていることを紹介しました。現在は、むしろ「悪夢の細菌(nightmare bacteria)」という別名が広がっています。

 「カルバペネム耐性菌」の定義は「カルバペネムに耐性のある細菌」ですから「NDMを持たないカルバペネムに耐性のある細菌」も含みます。2023年には米国23州で4,341件のカルバペネム耐性菌が発生し、そのうち1,831件が「NDM産生型」でした。研究者らは感染者の死亡者数を明らかにしておらず、これを報告した論文からは死亡率が分からないのですが、有効な抗菌薬が存在しないわけですから極めて高いことが予想されます。

 NDM産生型カルバペネム耐性腸内細菌は誰にでも感染し重症化する可能性があります。例えば、15年前のコラムでも紹介したアシネトバクターであれば、免疫能が正常であれば通常は自然に治ります。よって「薬剤耐性のアシネトバクター」と言われてもそもそも健常人がアシネトバクターで重症化することはまずありません。一方、NDM産生型カルバペネム耐性腸内細菌はときに健常人も重症化することのある大腸菌やサルモネラでも起こり得ます。例えば、病原性の高い大腸菌(O-157など)がNDMを持ったとすれば健常人でも助からない可能性があります。米国では4年間で460%も増加したのなら、日本でもこれから問題になっていくでしょう。

 薬剤耐性菌は今に始まった問題ではありません。医療プレミア「「あなたと家族と人類」を耐性菌から守る方法」で紹介したように、2014年の時点で「2050年には薬剤耐性菌関連死亡が年間1000万人に膨れ上がり、がんによる死者数を超えて、世界の死因第1位になる」と予測されていたのです。

 2025年10月13日、WHOがショッキングな報告を発表しました。世界中の細菌感染症の6分の1が一般的な抗生物質に耐性を示している、つまり「細菌感染の6分の1は抗菌薬を用いた通常の治療では治癒しない」と警告したのです。「通常の抗菌薬が効かない」というレベルですから、カルバペネムを代表とする「強力な抗菌薬」を使用すれば治癒するかもしれませんが、このような細菌感染が増加すれば「強力な抗菌薬」が効かずに、NDM産生型カルバペネム耐性腸内細菌のような「悪夢の細菌」が増加することになるでしょう。

 なぜ薬剤耐性菌がこんなにも増えるのか。よく指摘されるように「不要な抗菌薬の使用」です。通常、抗菌薬を処方するのであればグラム染色をおこない、その細菌がグラム陽性菌か陰性菌であるかを確定しなければなりません。上記WHOの報告でも言及されているように、現在耐性菌がより深刻なのはグラム陽性菌ではなくグラム陰性菌の方です。よって、抗菌薬を投与するなら、最低でもターゲットとするその細菌はグラム陽性菌なのか陰性菌なのかを確定しなければならないはずです。こんなこと、医師であれば誰でも学んでいるはずなのですが、なぜか他院から谷口医院に移ってくる患者さんたちは「前の医者ではグラム染色などされたことがなく、いつも〇〇が出されます」などと言います。そして、驚くべきことに、その〇〇がアベロックス、グレースビット、ラスビック、ジェニナック、スオードなど、谷口医院では年に1~2回程度しか処方しない極めて強力な抗菌薬であることが多いのです。

 これでは薬剤耐性菌が増え続けるのも無理はありません。他の医者の悪口は言いたくありませんが、こと抗菌薬の処方に関しては首をかしげざるを得ません……。

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2025年10月5日 日曜日

2025年10月 私が安楽死に反対するようになった理由(前編)

 前回述べたように、私は以前から自殺を奨励こそしないものの、人間には「自殺の自由」があって然るべきだ、と考えていました。医師になってから、というより2007年に谷口医院を開院してからは、多くの若者から、そのうちに若者だけでなく中年男女から、そして最近は高齢者からも自殺の相談をされるようになってきました。

 他方、親や子供、あるいはパートナーなど身近な人に自殺をされた、という患者さんも少なくありません。「ある日家に帰ると、風呂場で母親が首を吊って死んでいた」、「喧嘩別れしたカレシがそのまま勢いでビルから飛び降りた」、「娘が海外で自殺したことを現地の警察から知らされた。自殺の理由は今も分からない」など、身近で大切な人を失った悲しみを聞く経験も積み重なってきました。

 残された人は「大切な人が自殺した」という事実を受け入れなければならないものの、この悲しみはとても背負いきれるものではありません。もちろん「愛する人が病気や事故で他界した」ときの辛さも絶筆に尽くしがたいものですし、比較することに意味はないわけですが、それでも「大切な人が自殺した」悲しみは生涯消えることはありません。

 数年前から、少しずつ「安楽死」に関する相談を、それは世間話的な軽いノリのものから深刻な相談まで、聞く機会が増えてきました。患者さんがそのような話をするきっかけは様々ですが、最終的には「安楽死を希望している。先生(私のこと)に力になってほしい」という内容に収斂していきます。

 話を進める前に、ここで似た言葉の「尊厳死」と「安楽死」の違いを整理しておきましょう。

 尊厳死を英語にすれば「death with dignity」(他にも様々な表現がありますがこの表現が代表的だと思います)。「尊厳」という日本語が分かりにくいならdignityを「品格」と訳せばいいかもしれません。つまり、尊厳死とは「品格ある死」のことです。イメージとしては、「人工呼吸をつけない」「点滴をしない」など「延命治療を中止し、自然な死を迎えることを選択する行為」です。

 他方、安楽死の英語は「mercy killing」つまり「慈悲的な(mercy)」という形容詞はついていますが列記とした「殺人(killing)」です。「品格ある死」と「殺人」がまったく異なる概念であるのは明らかでしょう。人の殺し方には様々な方法がありますが、銃殺や絞殺などによる安楽死はもちろんありません。基本的には心臓が止まる薬を投与して、痛みの伴わない方法でその人を「死に導く」方法がとられます。

 安楽死が認められている国として最も有名なのはスイスでしょう。なにしろ合法化されたのが1942年と”歴史”があります。ただし、スイスでも医師が毒薬を投与するのは違法であり、希望者が致死薬を服用するのを見守るのが医師の役割です。言い換えれば「自殺ほう助」です。具体的には「毒薬が入ったドリンクを患者自身が飲み干すのを見守る」「毒薬が入った点滴のクレンメ(スイッチのようなもの)を患者自身が動かすのを見守る」といった感じで、目の前の患者が自ら体内に毒を注入するのを見届けるのが医師の役割です。

 これに対し、医師自らが致死薬を投与する方法は「積極的安楽死」と呼ばれ、実施している国ではおそらくカナダが最も有名だと思います。欧州ではオランダとベルギーで積極的安楽死がおこなわれています。最近はスペインでも一部実施されていると聞きます。他にはニュージーランド、コロンビアでも報告があります。カナダで積極的安楽死が合法化されたのは2016年とまだ10年も経っていないのにもかかわらず、全死因に対する積極的安楽死の割合が4.7%にも上昇しています。従来、安楽死の適応となるのは死期が短い不治の病に苦しめられている人だけですが、カナダではそういった終末期でなくても積極的安楽死が認められていることは特筆に値します。

 オランダでは2024年に約1万人が安楽死で命を落とし、これは前年比10%の増加、国内総死亡者数のなんと5.8%を占めます。しかも、16歳から18歳のうつ病を患う自閉症の少年も含まれていて、これはさすがに国内外から批判の声も集まっています。

 安楽死で必ず出てくる議論が「終末期以外の人にも認められるか」で、誰もが納得する答えがないのにもかかわらず、カナダやオランダではすでに実行されているのです。

 この議論でよく引き合いに出されるのが、仏国の映画監督リュック・ゴダール氏の安楽死です。ゴダール氏は2022年9月、スイスで安楽死を遂げました。当初ゴダール氏の安楽死は「特に病気がないけれど人生に疲れたから」あるいは「人生でやり残したことがないから」などと報道されましたが、実際にはこれは誤りで「multiple invalidating illnesses(複数の障害を伴う病気)に罹患していた」と、本人の弁護士により発表されました。

 さて、実際の問題として、私の立場で谷口医院の患者さんから「安楽死に協力してください」と言われればどうすべきでしょうか。日本では違法ですし、カナダやオランダでは外国人は現時点では対象外です。スイスでは外国人も可能ですが「治癒する見込みのない疾患に罹患していること」が条件ですから、単に「生きることに疲れたから」では安楽死の対象となりません。ですが、この先法律が変わる可能性もあるでしょうから、ここでは「希望すれば外国籍であっても、そしてどんな理由であっても安楽死ができる国がある」と仮定しましょう。

 以前私は、自身が引退した後に「安楽死希望の人の海外渡航にアテンドするボランティア」をしようと考えていました。その人の片道の飛行機代と現地のホテル代は自分で出してもらって、私自身の往復の飛行機代とホテル代は私自身が出して、書類作成や現地でのアテンドや通訳は私自身が無償でおこなうことを考えていたのです。引退前に安楽死を希望する人からの申し入れがあった場合は、私自身が無償で書類作成や現地の安楽死を担当する医師とのやり取りをして、一人で渡航できる人には一人で行ってもらい、一人では自信がないという人には通訳のアルバイトを探して安楽死目的の渡航に付いていってもらうことも考えていました。

 そして、実際そのようなリクエストをする人たちがチラホラと出てきました。もっとも、彼(女)らは現時点では差し迫って「一刻も早く安楽死を遂げたい」と考えているわけではありません。「いずれそのときが来れば、先生(私のこと)お願いしますね」という感じで話をされるのです。

 元々「自殺の自由」が認められるべきだと私は長い間考えていました。自殺の自由を認める立場でありながら安楽死に反対するのは、理論的に一貫性を欠いています。安楽死も広義には自殺の一種だからです。厳密には安楽死(=mercy killing)は狭義の自殺とは呼べず、広義には殺人になるかもしれませんが、死にたい意思を遂行する、という意味で同じ類のはずです。ですから、「あなたは安楽死に賛成ですか反対ですか」と問われれば、私はこれまで何のためらいもなく「賛成」の立場を表明していました。

 では、いよいよ谷口医院の患者さんから「先生、そろそろXデイが近づいてきました。準備に入りましょう」と言われれば、具体的にはどのようなことから始めればいいのでしょうか。それを考え始めると、まず脳裏をよぎるのは、その患者さんが自身の家族に、もし家族がいなければ友人に対して、「どのように別れを告げるか」です。安楽死を実行するなら先に「お別れの挨拶」をしなければなりません。ですが、「わたし、そろそろ安楽死しますね。谷口先生に現地に連れていってもらいます。今まであなたには本当にお世話になりました。ほな、さいなら」と言われて、「いってらっしゃい!」と笑顔で送り出せる人がいるとは思えません。早くも私の”計画”は挫折してしまいました。

 では、安楽死はまったく身寄りのない人に限定すればいいのでしょうか。

 次回に続きます。

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2025年9月21日 日曜日

2025年9月21日 カンジドザイマ(カンジダ)・アウリスの恐怖

 幸い日本ではまだアウトブレイクは起こっていませんが、入院患者にとってはかなり恐ろしい感染症の流行が欧州で始まっています。その名は「カンジドザイマ・アウリス(Candidozyma auris)」、以前は「カンジダ・アウリス(Candida auris )」と呼ばれていた真菌症(カビの仲間)です。

 この感染症の何が怖いか。まず1つ目にその致死率の高さが挙げられます。感染者の約6割が90日以内に死亡するのです。そして、この感染症が怖い2つ目の理由は、現在流行しているのが欧州諸国であることです。過去10年間で少なくとも欧州18ヵ国で報告されています。

 例えば、エボラ出血熱はそのときの流行株の種類によりますが致死率は軒並み50%を超えます。よって、恐ろしい感染症だと言えるのですが、アフリカ大陸に渡航しない限りは恐れる必要はありませんし、仮に渡航したとしても現地の人たちと同じように過ごさない限りはさほど心配する必要はありません。他方、カンジドザイマ・アウリスは現在先進国の欧州で流行しており、感染者の6割は3ヶ月以内に死亡するというのです。

 この感染症の歴史はさほど古くありません。世界第一号は我が国です。国立健康危機管理研究機構(JIHS)によると、カンジドザイマ・アウリスは2009年に日本で初めて報告されました。2005年に慢性中耳炎を患った患者の耳漏から検出されたのです(尚、現在欧州疾病予防管理センターを含む世界の公的機関やメディアでは「カンジダ」ではなく「カンジドザイマ」と呼んでいますが、日本の官公庁は依然「カンジダ」としています)。その後、6大陸40ヵ国以上から報告されています。

 薬が効きにくいことから、2022年にはWHO(世界保健機関) が「病原性の高い真菌リスト(Fungal Priority Pathogens List, 2022)」で最も優先度の高いグループに指定しました。そのグループにはカンジドザイマ・アウリスを含め下記の4つの真菌症が指定されています(尚、この時点ではWHOも「カンジドザイマ」ではなく「カンジダ」としています)。

・Cryptococcus neoformans(クリプトコッカス・ネオフォルマンス)
・Candida auris(カンジダ・アウリス)
・Aspergillus fumigatus(アスペルギルス・フミガタス)
・Candida albicans(カンジダ・アルビカンス)

 欧州疾病予防管理センター(ECDC)によると、2013年から2023年の間に、欧州では4,012人がカンジドザイマ・アウリスに感染しました。2023年だけで1,346件の症例が報告され、前年比で67%の増加となります。

 感染する場所は「医療機関」、つまりこの感染症は院内感染で広がります。健常者に感染しても通常は重症化しませんが、がんや糖尿病といった基礎疾患があれば一気に悪化することがあります。カンジドザイマ・アウリスが広がるのは血液、脳、脊髄、骨、耳、肺、腎臓など多臓器に渡ります。薬はほとんど効きません。

 また、医療機器を含むいろんな物の表面で長期間生存し、ほとんどの消毒剤にも耐性があります。英国の調査では、院内のラジエーター、窓枠、シンク、体温計、血圧計、聴診器などの医療機器の表面にも棲息していたことが分かりました。

 EU諸国で初めてカンジドザイマ・アウリスが報告されたのは2016年のスペインです。バレンシアの病院のICUで治療を受けていた4人から検出され、その後数ヶ月間に院内の感染者数は140人にまで増加しました。同じ年、ロンドンのRoyal Brompton病院では、カンジドザイマ・アウリスにより3人が死亡し、さらに50人が感染し、ICUを閉鎖せざるを得ませんでした。その後、少なくとも欧州18ヵ国で報告があり、スペイン、英国以外では、ギリシャ、イタリア、ルーマニア、ドイツで感染者数が増加しています。最近では、キプロスとフランスでも感染拡大が報告されています。

 カンジドザイマ・アウリスはなぜこんなにも広がりやすいのでしょうか。まず、検査は簡単にはできず診断が極めて困難です。上述したように、医療機器、窓枠、シンクなどほとんどどこででも棲息できて、消毒薬が効かないことも理由のひとつです。また、気温上昇により、繁殖しやすくなっていることも原因となっているのでしょう。

 今後、カンジドザイマ・アウリスによく効く抗真菌薬は開発されないのでしょうか。実は、抗真菌薬というものは抗菌薬よりもさらに開発が困難であり、欧州当局で承認された新しい抗真菌薬は過去10年間で4種類しかありません。日本で報告された事例では、幸いなことにミカファンギン、カスポファンギン、アムホテリシンBといった従来からよく使われる抗真菌薬が有効であったようですが、欧州のように、今後これらが効かないタイプのカンジドザイマ・アウリスが登場するのも時間の問題だと私は考えています。

 

2025年9月11日The Telegraph 「Drug-resistant fungus spreading rapidly in European hospitals」より

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2025年9月18日 木曜日

第265回(2025年9月) 「砂糖依存症」の恐怖と真実

 週刊誌などのメディア媒体やテレビ局からの取材依頼が来たとき、私は断ることが多いのですが(自分が言ったことが曲解して報道されることがあるからです)、例外的に長期連載を引き受けているのが、毎日新聞の「毎日メディカル(旧・医療プレミア)」と「日経メディカル」の連載です。毎日新聞は連載開始から10年を超え、日経メディカルの方も7年以上になります。

 記事を書くときに気になるのが、製薬会社や食品メーカーに対する否定的コメント(要するに「悪口」)をどこまで書いていいか、あるいは名指しにしていいか(「某○○社」などの表現にしなくていいか)ということです。もちろん、悪口自体は言う方も気持ちのいいものではありませんから、できればそのような内容のコラムは書きたくないわけですが、放っておいてはマズイもの、つまり真実を知ってもらわねば困るような内容については書かざるを得ません(「書かなければならない」という衝動を抑えきれなくなってきます)。

 毎日新聞と日経メディカルを比較したとき、以前はどちらかといえば日経メディカルの方が思い切った表現を許してくれるかな、と感じていたのですが、最近はそうでもなくて、毎日新聞から意外な対応(これは「いい意味」です)をされることもあります。

 印象的だったのが2025年8月18日に公開した「夏になると、血糖値が急上昇? 原因は『健康によいから』『夏バテ防止に』と飲み続けていた〇〇〇だった!」で(「毎日メディカル」の記事は無料です)、大塚製薬と大正製薬を名指しで非難しました。脱稿し提出するときには「この原稿はこのままでは使えないだろう」と考えていたのですが、意外なことに「まったく問題なし」でした。それどころか、悪口を言っている商品「ポカリスエット」と「リポビタンD」については編集者がわざわざ写真撮影をしてそのページに掲載してくれたのです。この記事、たぶんいずれかのメーカーから(あるいは両社から)毎日新聞にクレームが来ていると思うのですが、私のところには知らされていませんから毎日新聞社がうまく対応してくれたのでしょう(スポンサーから外れなければいいのですが……)。

 対照的なのが日経メディカルで、該当記事は9月17日に公開された「HbA1cを12.8%へ押し上げた『健康ドリンク』」です(日経メディカルを閲覧できるのは医療者限定)。短期間で糖尿病がものすごく悪化した男性患者さんの事例を取り上げています。先に毎日新聞の記事が公開されていたこともあり、今回も製品の実名を載せてもらえるだろうと”犯人”のドリンクをそのまま商品名で記載した原稿を送ったところ、結果はNG。コラムは採用されたものの商品名は隠すことになりました。

 ここで簡単に、短期間で重症の糖尿病をもたらせたそのドリンクについて紹介しておきましょう。一応先に断っておくと、この男性はこの1本555mLの健康ドリンクを毎日4~5本飲んでいました(少量摂取なら糖尿病を起こさなかった可能性もあります)。ドリンクに含まれる有害と思われる物質は「砂糖類(果糖ぶどう糖液糖(国内製造)、砂糖)」、「甘味料(アセスルファムK、スクラロース、ステビア)」、「カラメル色素」の3種で、これら3種は成分表の「炭水化物」に相当します。「炭水化物」の正体がこれら3種の甘いものであることを見抜くのは困難だと思われますが、わざとそのように分かりにくい表記にしているのでしょう。「炭水化物」(=これら3種の甘いもの)が100mLあたり4g含有されていると書かれていますから、555mLだと22.2グラム。仮にこれがすべて砂糖だとすると、1本あたり7.4個の角砂糖が入っている計算になります。このドリンク、「低カロリー」と謳われていますが、はたして角砂糖7.4個が低カロリーと呼べるでしょうか。

 尚、「砂糖換算はおかしいのでは? 人工甘味料も含まれるじゃないか」という反論に答えておくと、人工甘味料も砂糖と同様、糖尿病や肥満をもたらせることを示した研究は多数あります。詳しくは「毎日メディカル」「カロリーゼロでも太る? やせたいなら、食べてはいけない『人工甘味料』」を参照ください。

 さて、この男性の場合、このいかにも健康的な商品名の健康ドリンクを箱ごと購入して毎日4~5本飲んでいました。1本あたり7.4個の角砂糖と考えれば、5本では毎日37個の角砂糖を食べていた計算になります。短期間で糖尿病が劇的に悪化したのも無理もありません。

 気の毒なことに、この男性、この健康ドリンクを「夏バテ防止の目的」で飲んでいました。ウェブサイトには「(前略)「体内効率設計」に基づき、「アルギニン」「シトルリン」の2つのアミノ酸と、「ビタミンC」「クエン酸」を配合。レモン&アセロラ味の甘酸っぱいおいしさ。(無果汁)低カロリー」と書かれているわけですから、そう考えるのも無理もありません。

 しかし、おそらくこの男性も飲み続けているうちに、(私や看護師には話していませんが)「ちょっとおかしいぞ……」と感じていたのではないかと私は疑っています。なぜなら、この男性、「最近のどが渇いて仕方がない。いくら水分を摂っても夜中に何度もトイレに行かねばならない」と言っていたからです。口渇や頻尿は糖尿病の症状そのものですが、体重はむしろ減ってきていました。だから、「糖尿病なんかであるわけがない」と考えただけでなく、最初のうちはまさか健康目的で飲んでいるドリンクが”犯人”などとは思いつかなかったのでしょう。

 この体重減少は危険な兆候です。尿検査をすればケトン体が強陽性。これはインスリンの働きが低下して、体内の脂肪を分解してエネルギーを取り出していることを示しています。もう少し進行すると命に関わる状態にもなるはずです。男性は元気だと言っていましたが、おそらく間一髪のところで間に合ったのでしょう。このライフスタイルを続けていれば命も危なかったと予想されます。

 さて、では、男性は「この健康ドリンクは危ない」と薄々気付いていたのにも関わらず、なぜやめることができなかったのか。それはおそらく砂糖の「依存性」です。実は砂糖には強烈な依存性があり、やめようと思ってもやめられないのです。精神疾患の診断と分類に使われる国際的基準「DSM-5」で定められる「薬物乱用基準」というものがあって、下記11の基準をいくつ満たすかで重症度が判定されます。6つ以上で「重度の物質使用」とみなされます。

#1 適切な量または期間を超えて物質を摂取する
#2 物質の使用を減らしたい、またはやめたいと思っても、それができない
#3 物質の入手、使用、または回復に多くの時間を費やす
#4 物質を使用したいという渇望と衝動がある
#5 物質使用のために、職場、家庭、または学校ですべきことを行えない
#6 人間関係に問題が生じても、使用を続ける
#7 物質使用のために、重要な社会活動、職業活動、または娯楽活動を断念する
#8 危険にさらされても、物質を繰り返し使用する
#9 物質によって引き起こされた、あるいは悪化した可能性のある身体的または心理的問題があることを認識しているにもかかわらず、使用を続けること。
#10 望む効果を得るために、より多くの物質を必要とする(耐性がつく)
#11 離脱症状が現れる

 英紙The Telegraphによると、砂糖はこれら11のすべての基準を満たすといいます。#5、#6、#7あたりはちょっと言い過ぎかな、という気がしますが、他の項目はのきなみ砂糖の依存性を表していると言えるのではないでしょうか。

 毎日メディカルに(無料ですから)近々、「砂糖の有害性はなぜ何十年も隠蔽されてきたのか」、「砂糖が心疾患、がん(特に乳がん)、認知症などのリスクになること」などについてのコラムを掲載する予定なので、そういったことに興味がある方はそちらを読んでもらうとして、ここでは「砂糖はやめたくてもそう簡単にはやめられない依存性の強い物質」であることを強調しておきたいと思います。

 しかし、砂糖は完全に止める必要はないにせよ、控えていかなければ残りの人生を台無しにしてしまうかもしれません。ではどうすればいいか。いずれ本サイト、毎日メディカル、日経メディカル、あるいはメルマガのいずれかで秘策を紹介したいと思います。

 

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2025年9月15日 月曜日

2025年9月15日 猛暑は「老化」「早産」「暴力」「犯罪」「成績低下」などの原因

 熱中症に罹患したことがある人のなかには「えっ、この程度の暑さで熱中症?」と感じたことがある人も多いのではないでしょうか。「外出していないのに」「外は曇っていたのに」「そんなに短時間で……」など、まさかその程度で熱中症で倒れるなどとはまったく考えていなかったという人は少なくありません。

 そして、猛暑がやっかいなのは、頭痛、倦怠感などの狭義の熱中症をもたらすからだけではありません。他にも多くの疾患や症状のリスクがあります。しかも、それらも「えっ、その程度で?」というケースが思いのほか多いのです。ざっと挙げてみましょう。以下はすべて猛暑が原因となる症状です。

・イライラして気が短くなる。怒りっぽくなる

・認知機能が低下し、成績が低下する

・暴力が起こりやすくなり、犯罪が増える
(スパイク・リー監督『Do The Right Thing』は猛暑で人々が次第におかしくなっていく様子が描かれています)

・デッドボールが増える

・老化が促進され寿命が短くなる

 これらはすでに下記のメディアで紹介しました(双方とも無料で読めます)。

〇「毎日メディカル」2025年9月1日「怖いのは熱中症だけじゃない! 猛暑は老化を加速する」

〇「医療プレミア」2024年7月29日「炎熱の地球を生き延びる知恵~その3・暑さで低下する脳機能 試験の成績は落ち、犯罪も増える?~」

 今回は、これら2つのコラムで取り上げなかった論文を紹介したいと思います。

 1つは「猛暑が老化を加速する」ことを支持する台湾の研究です。上記「毎日メディカル」のコラムでも台湾の研究を紹介しているのですが、それは2024年に発表された、対象者は2,084人と比較的小規模のものでした。最近、より規模の大きな研究が発表されました。

 医学誌「Nature Climate Change」2025年8月25日号に「熱波による加速老化への長期的影響(Long-term impacts of heatwaves on accelerated ageing)」という論文が掲載されました。研究には台湾の24,922人のデータベースが用いられました。結果、猛暑下では年間0.023~0.031年、生物学的年齢が実際の暦よりも老化していたのです。

 「年間0.023~0.031年」といわれてもピンときませんし、「その程度ならいいんじゃないの?」と感じられますが、この数字、論文によると、喫煙、飲酒、運動不足などの健康阻害リスクと同じだといいます。

 では、どのような人がリスクになるのか。これは予想通り、肉体労働者や農作業従事者、そしてエアコンの少ない地域に住む人です。要するに、「年を取りたくなければ外出を控えてエアコンの効いた部屋で休んでおきなさい」ということです。しかし、上記「毎日メディカル」でも述べたように、そうすれば運動不足が促進され、どちらにしても老化が加速されてしまいます……。

 もう1つ紹介したい研究は「猛暑が早産の原因になる」とするものです。医学誌「Nature Medicine」2024年11月5日号に論文「熱中症が母体、胎児、新生児の健康に及ぼす影響に関する系統的レビューとメタアナリシス(A systematic review and meta-analysis of heat exposure impacts on maternal, fetal and neonatal health)」が掲載されました。

 この論文は、これまで66か国で発表された198件の研究を対象としたメタアナリシス(総合的に分析したもの)です。結果、出産前の1か月間に女性がさらされる平均気温が1℃上昇するごとに早産の確率が約4%増加することが分かりました。熱波に晒されれば早産の可能性は25%以上増加、さらに、高温への曝露は、死産のリスクを13%、先天異常のリスクを48%、妊娠糖尿病のリスクを28%増加させるといいます。

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 現在の夏はもはや昔のように「待ち遠しくてワクワクするシーズン」ではありません。真夏日には日中は自宅で過ごし、仕事を含め活動は夜間にシフトしていくような社会にすべきではないでしょうか。仕事のみならず、運動も日が暮れてからおこなえば運動不足にならずに済みます。日中の肉体労働や農作業に従事しなければならない場合は、「ひとりあたり1日〇時間まで、かつ年間△日まで」というようなルールを設け、リスクを社会全体で分けあうようにしていく政策が必要ではないかと思えます。

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2025年9月9日 火曜日

2025年9月 人間に「自殺する自由」はあるか

 本サイトで初めて「自殺」を取り上げたのは、まだ谷口医院を開院する前の2005年でした。「メディカルエッセイ」に3回連続で「自殺」をテーマとしたコラム(「なぜ日本人の自殺率は高いのか①」、「なぜ日本人の自殺率は高いのか②」「なぜ日本人の自殺率は高いのか③(最終回)」)を公開しました。社会学者デュルケームの『自殺論』を引き合いに出し、日本で自殺者が多い理由を自殺が少ないタイと比較し、「階級社会」、「死体のタブー視」、「輪廻転生」などをキーワードにして、日本人の死生観や人生観についての私見を述べました。

 20年前のこれらコラムでははっきりと言及していませんが、私は「日本人の自殺者は多すぎる。社会全体で減らしていくべきだ」という見解を述べてはいるものの、自殺を「否定」はしていません。つまり、私自身は「自殺否定者」ではないということです。

 「自殺が罪」という視点は私にはなく、もちろん推奨したことはありませんが、「死者を悪く言ってはいけない」という価値観以上のもの、言葉にするなら「自殺はひとつの選択肢であり、自殺の自由は認められねばならない」という考えを持っていました。その根底にあるのが「他者に迷惑をかけるのでなければ個の自由は尊重されなければならない」という、いわばジョン・ロックにも通ずる自由論なようなものです。そして、この考えは私特有のものではなく、社会全体にこのようなコンセンサスがあったように感じていました。

 実際、私が若き日々を過ごした80年代、90年代には自殺した人たちを悪く言うような意見はほとんど聞かれず(これは今でも同じではないでしょうか)、特に有名人の自殺の場合は神格化する風潮さえありました。もっとも、自殺した有名人の話で盛り上がるなどという悪趣味を有している人はそうおらず、自殺について積極的に話題にする人はあまりいないわけですが。

 ただ、どういうわけか、私は「自殺」という現象に非常に興味があり、また「仲間を殺す」という事件にも強く惹きつけられました。「仲間を殺す」事件として、昔から私が最も関心を持っているのが1972年の「あさま山荘事件」です。連合赤軍の内部で「総括」と呼ばれる自己批判の名のもとに合計12人もの仲間が殺害されたこの事件について、私が概要をきちんと知ったのは1つ目の大学に入学した直後、1987年でした。わずか15年前に、社会をよくしようと立ち上がった若者らが、やがて憎しみ合うようになり「内ゲバ」の末、殺し合ったという現実。これ、かなり衝撃的な事件だと思うのですが、この事件をきちんと”総括”して教えてくれた大人たちは私が大学に入学するまでいませんでした。

 入学して少したったときに、大学の先輩からあさま山荘事件という恐ろしい事件があったという話を聞いたのですが、その先輩もさほど詳しいわけではなく、当時はインターネットも登場しておらず、例えば大学の先生に聞けばよかったのかもしれませんが、80年代後半のあの当時は日本全体が浮かれていた時代で、そういう話を口にすることが野暮ったいというか、おかしな奴だと思われますから、結局、私も興味を封印することにしました(尚、その後も興味がなくならなかった私はこの事件を追い続けています。2022年のマンスリーレポート「『社会のため』なんてほとんどが偽善では?」でも一部述べています)。

 しかし、「封印する」といっても、仲間が仲間を殺し合う、社会に絶望して自らの命を絶つ、といった現象への興味は捨てられません。情報収集に苦労しつつも(といってもインターネットの登場など夢にも思わず、当時は情報収集が骨の折れる作業が当然であり「苦労」とは感じていなかったのですが)、少しずつ、60年代から70年代にかけての学生運動や欧米での反戦運動などに関する知識が増えていきました。

 『フランシーヌの場合』という歌を知っている人はどれだけいるでしょう。発売は1969年で歌い手は新谷のり子。当時は80万枚を売り上げ、学生運動に熱を入れる若者たちの間で相当盛り上がっていたそうです。フランシーヌのフルネームはフランシーヌ・ルコント、30歳のフランス人女性です。1969年3月30日、パリで焼身自殺を遂げました。ベトナム戦争などの世界の悲劇に対する抗議からの行動だったのです。私はこの話を過去にいろんな世代の人にふってみたことがあるのですが、興味を示した人はほとんどいません。当時、学生運動のど真ん中にいたはずの世代の人たちも「その話は、あまりしたくない……」という態度になります。たいていはその場の”空気”を読んで話をやめることになります。

 「高野悦子」という名前に聞き覚えのある人はどれだけいるでしょうか。パリでフランシーヌが焼身自殺を遂げた約3ヶ月後、高野悦子は京都の山陰本線の二条駅から花園駅の間の貨物列車が走る線路に身を投げ自殺を遂げました。1949年に栃木県で生まれた彼女は立命館大学文学部に在学中でした。彼女が亡くなる直前まで綴っていた日記は、死後『二十歳の原点』として出版され、さらに映画化までされました。加えて、過去の日記が『二十歳の原点ノート』、『二十歳の原点序章』として出版されました。

 私が高野悦子の存在を知ったのは、たしか1つ目の大学の4回生の頃でした。就職活動をしているときに、いろんな企業の人に会いに行き、もうそれはどの会社の誰だったかの記憶も曖昧なのですが、学生運動のなかで生じた葛藤や疑問から自殺した立命館の女子大生(当時は女子大学生/女性大学生がそう呼ばれていました)がいたという話を聞いたのです。その話だけでも当時のバブル経済真っただ中の平和な時代を過ごしていた私には衝撃的でしたが、その女子大生の日記がベストセラーとなり映画化までされたという事実に驚きました。

 しかし、それ以来、私は様々な世代の人に「高野悦子って知ってる?」と尋ねてきましたが、「知っている」と答えた人はほとんどいません。さすがに立命館大学出身者なら知っているだろうと思って同大学の卒業生数人にも聞いてみましたが、誰も「知らない」と言います。もしかすると、知っていても「ただでさえ学生運動の暗いイメージがつきまとう立命館の印象を損ないたくない」と考えて嘘をついたのかもしれませんが……。尚、これは余談ですが、当時学生運動のメッカだった立命館大学の現在の姿には、もやはその面影は微塵もなく、関西でもっともファッショナブル、そして高偏差値大学へと変貌しました(対照的なのが私の出身の関西学院大学です……)。

 フランシーヌも高野悦子も、英雄視しているわけではありませんが、彼女らの意思を毀損する気持ちは私には毛頭ありません。そして、社会に強い印象を残して命を絶ったのは彼女たちだけではありません。

 「みんなちがって、みんないい」のフレーズが有名な詩人の金子みすゞはブロムワレリル尿素(ブロモバレリル尿素)を含む市販の鎮痛剤で死を遂げました。文字通り「みんなちがって、みんないい」を実践したと言えば不謹慎でしょうか。三島由紀夫、太宰治、川端康成、芥川龍之介など、自殺で人生を終えた文学者は少なくありません。「自殺の自由」という言葉を使うとき、私の脳裏にはまずフランシーヌと高野悦子の姿が浮かび、次いで数々の文学者の残像が脳内を駆け巡ります。彼(女)らを誹謗することなどできるはずがなく、その逆にどこか厳かな感情が芽生えるような気すらします。だから、自殺に賛成することはないにせよ、人間には最終的には「自殺する自由」はあって然るべきだ、と考えていたのです。

 そして2007年、私は大阪市北区に谷口医院をオープンさせました。総合診療の谷口医院には心の悩みをもった若い男女も大勢訪れます。なかには死をほのめかしたり、自殺未遂の体験を話したりする人もいます。もちろん、「人間には自殺の自由がありますから、どうぞあなたの意思を尊重してください」などとは言いませんが、「この社会から消えてしまいたくなるのですね……」と共感することはあります。自殺企図(自殺願望)がある場合は精神科受診を促すこともあります。ただし、精神科を受診して解決するわけではなく、結局また戻ってくることが多いのですが。

 そのうち、死の相談をする患者さんの年齢が次第に高くなってきました。2年前に新しい場所に移転してからはその勢いが加速しています。

 そして「安楽死」という問題が浮上してきました。

 次回に続きます。

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2025年8月31日 日曜日

2025年8月31日 インフルエンザワクチンで認知症を予防する

 本サイトでは2025年4月の医療ニュース「認知症予防目的に帯状疱疹ワクチン」で取り上げた「帯状疱疹ワクチンが認知症のリスクを下げる」という話は過去数か月でいろんなところで取り上げられている気がします。

 なぜ帯状疱疹ワクチンが認知症を予防するのかについて、HSV(単純ヘルペスウイルス1型)が関与しているのではないかという話は、「はやりの病気」第262回(2025年6月)「 アルツハイマー病への理解は完全に間違っていたのかもしれない(後編)」ですでに述べました。

 今回、改めて検討したいのは「インフルエンザワクチンが認知症のリスクを下げる」とした研究です。3つの論文を紹介しましょう。

 1つはすでに、「はやりの病気」第258回(2025年2月)「認知症のリスクを下げる薬」で紹介済です。2022年6月に医学誌「Journal of Alzheimer’s Disease」に掲載された論文「インフルエンザワクチン接種後のアルツハイマー病発症リスク:傾向スコアマッチングを用いたクレームベースコホート研究(Risk of Alzheimer’s Disease Following Influenza Vaccination: A Claims-Based Cohort Study Using Propensity Score Matching)」です。この研究ではインフルエンザのワクチン接種で認知症発症リスクが、なんと40%も低減するとされています。研究の対象者は米国の65歳以上。インフルエンザワクチンを接種した935,887人と、未接種の同じ人数が比較されました。平均年齢73.7歳、追跡期間は46ヶ月です。この間にワクチン接種者では5.1%(47,889人)が、未接種者では8.5%(79,630人)が認知症を発症しました。この研究では「匿名化された保険請求データ」が用いられました。

 メタアナリシス(これまで発表された質の高い研究をまとめなおして総合的に解析する方法)もあります。医学誌「Ageing Research Reviews」に2022年1月に掲載された「インフルエンザワクチン接種は認知症リスクを低下させる:システマティックレビューとメタアナリシス(Influenza vaccination reduces dementia risk: A systematic review and meta-analysis)」です。評価された論文は273件で、ベースライン時点で認知症のない高齢者292,157人(平均年齢75.5歳、女性46.8%)が対象とされました。平均9年間の追跡調査で、インフルエンザワクチン接種は認知症の相対リスクを29%低下させました。

 そして、インフルエンザワクチンが認知症のリスクを下げるとした3つ目の論文は医学誌「Age and Aging」2025年7月号に掲載された「インフルエンザワクチン接種と認知症リスク:系統的レビューとメタアナリシス(Influenza vaccination and risk of dementia: a systematic review and meta-analysis)」で、こちらもメタアナリシスです。8件の質の高い研究がピックアップされ、対象者の合計は9,938,696人です。結果、対象者を「全人口」とすると、インフルエンザワクチンと認知症との間に関連性は認められなかったものの、認知症に「高リスク患者」に限定すると、インフルエンザワクチンが認知症リスクを低減することが分かりました。

 興味深いことに、2~3回接種ではリスクが16%低下するのに対し、4回以上の接種では57%も下がるという結果がでています。

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 では、なぜインフルエンザワクチンが認知症のリスクを下げるのか。これについてはどの論文も触れていません。

 ならば自分で推測するしかありません。

 おそらく、インフルエンザがもたらす、高熱、頭痛、倦怠感などで各臓器に炎症が生じ、結果、炎症性サイトカインが分泌されます。これらサイトカインが脳に作用をもたらし、結果として認知機能を損なうのでしょう。そして、(これは私の仮説に過ぎませんが)脳が炎症を起こしたときにHSVが関与して、その結果、アミロイドβやタウ蛋白が異常蓄積するのではないかと私は考えています。

 上述のコラム「アルツハイマー病への理解は完全に間違っていたのかもしれない(後編)」でも述べたように、脳の外傷で認知症が起こるときにもHSVが絡んでいることが指摘されています。

 ということは、認知症予防の目的で「脳のHSVを大人しくさせておく」、そのためには「あらゆる炎症を防ぐ」、さらに「感染症はできる限り防ぐ」が重要となります。

 

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2025年8月28日 木曜日

2025年8月28日 悪玉コレステロール(LDL)を上昇させる真犯人

 卵を食べるとコレステロールが上がるから控えるように言われています……。

 谷口医院をオープンしてから、何人の患者さんにこのセリフを言われたか、たぶん千回は超えているでしょう。その度に私は「そんな必要ありません」と答えてきました。なぜか。私のそれまでの臨床経験から判断して「たしかに卵をたくさん食べてLDLコレステロールが上昇する人がいるが、上がらない人もいる。むしろ他の”犯人”が重要」だからです。

 この私の考えに自信ができたのは2015年の米国のガイドラインでした。食事性コレステロールが「懸念される栄養素」から削除されたのです。このガイドラインにははっきりと「卵を食べてもいい」とは書かれていませんが、「食事性コレステロール」の代表が卵です。つまり、このガイドラインは「卵には健康上有害性がない」と断言したのです。

 しかしながら、一方では、卵が血中コレステロールを上昇させ心血管系疾患のリスクになることを示唆する研究もあります。いったい、どちらが正しいのか。その答えは「個人差が大きく試してみるまで分からない」となります。ただし、私の個人的な臨床経験で言えば「卵を制限する必要はほとんどない」です。

 医学誌「The American Journal of Clinical Nutrition」の2025年7月号に掲載された論文「卵と飽和脂肪酸由来の食事性コレステロールがLDLコレステロール値に与える影響:ランダム化クロスオーバー研究(Impact of dietary cholesterol from eggs and saturated fat on LDL cholesterol levels: a randomized cross-over study)」によると、飽和脂肪酸の摂取量を減らせば、むしろ卵を2個食べた方が卵を食べないときよりもLDLコレステロールが低下することが分かりました。

 では、いったい何がLDLコレステロールを上昇させるのか。その「答え」はこの論文に書かれているように「飽和脂肪酸」です。当院の経験でいえば、飽和脂肪酸を多く含む食品のなかでも最もLDLコレステロールが上昇しやすいのは次の3つです。

・ポテトチップスを代表とするスナック菓子
・ケーキやシュークリーム
・揚げ物(フライドポテトやから揚げなど)

 上記論文にも述べられているように、卵は「食物コレステロールは豊富で飽和脂肪が少ないユニークな食品」です。卵も極端に大量に食べればLDLが上昇するかもしれませんが、論文では「1日2個の摂取でLDLコレステロールが低下する」としているわけです。そして、卵は良質な蛋白質やアミノ酸がたくさん摂れます。一方、飽和脂肪酸は”諸悪の根源”なのです。

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 診察室で患者さんから話を聞いていると、「卵を控えてこれまでの人生、随分損をしてきましたね」と言いたくなることがあります。もしも今も控えている人がいるなら、そんなルールは直ちに撤廃して卵料理を楽しみましょう。

 しかし、なかには卵を増やして上昇する人がいるのは事実です。たとえば、卵が入ったお菓子を増やせばLDLコレステロールは上昇します。私の場合、夜中に大量の脂っこい料理の外食を続けた結果、LDLコレステロールが一気に上昇したことがあります(参考:はやりの病気第65回(2009年1月)「突然やってきた脂質異常症」)。

 また、どのように食事を変更しても一向にLDLコレステロールが改善しない人もなかにはいます。卵をどのように増やしていけばいいのか、現在の食事内容に問題はないのか、などについて疑問がある人はかかりつけ医に相談しましょう。

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