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2025年12月27日 土曜日
2025年12月28日 やはりベンゾジアゼピンは認知症のリスクを上げる
ベンゾジアゼピンが認知症のリスクを上げるのか上げないのか。この問題については本サイトでも繰り返し取り上げています。2024年7月の医療ニュース「べンゾジアゼピンは脳を萎縮させる」では、認知症のリスクはともかく、ベンゾジアゼピンが脳を萎縮させるとした研究を紹介しました。
この度、カナダから「ベンゾジアゼピンはやはり認知症のリスクを上げる」とした論文が医学誌「Journal of the Neurological Sciences」2025年12月15日号に「ベンゾジアゼピンと認知症の関連性:カナダの健康調査と医療行政データベースを用いた症例対照研究(Association between benzodiazepines and dementia: A case-control study from Canadian health surveys and medico-administrative databases)」というタイトルで掲載されました。
研究の対象者はカナダのデータベース「Canadian Community Health Survey」から抽出されています。結果は以下のとおりです。
・50歳以上の認知症の患者1,082人と認知症を発症していない人4,262人を比較すると、ベンゾジアゼピンの使用が認知症に関連していることがわかった。ベンゾジアゼピンの使用で認知症の発症リスクは1.65倍(オッズ比1.65)となっていた。
・認知症のリスクは、作用時間が長い(半減期が長い)ベンゾジアゼピンでより高かった(作用時間が長いベンゾジアゼピンでのリスクは2.81倍、中程度のベンゾジアゼピンでのリスクは1.57倍)
・使用期間が短期であっても、長期であっても認知症のリスクは上昇していた
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過去のコラム「認知症のリスクになると言われる3種の薬」で紹介した研究のように、「ベンゾジアゼピンは必ずしも認知症のリスクを上げない」とするものもたしかにあります。ですが、おしなべて言えば「リスクだ」とする研究の方が優勢なような気がします。
谷口医院の経験でいっても、高齢者のベンゾジアゼピンの使用は認知機能を低下させ、生活の質を落としているようにみえます。やめればとたんに眠れなくなりますから、患者さんは最初は抵抗を示すことが多いのですが、それでもまずはリスクを知ってもらい、ついで他の安全な睡眠薬に置き換えていく治療をする必要があります。
谷口医院の過去19年の歴史からいえば、たいていはうまくいきます。
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2025年12月18日 木曜日
第268回(2025年12月) 「イライラ」のメカニズムと特効薬
うつ病や不安症に比べると「イライラ」はさほど病気として認識されていないかもしれません。また、そのような症状で医療機関を受診すべきでないと考えている人もいるようです。しかし、谷口医院でいえば、「イライラ」で受診する人は決して少なくありません。「イライラ病」という表現は一般的でなく、医学用語では「易刺激性」と呼ぶのですが、言葉の問題はどうでもよいので本コラムでも「イライラ」で統一します。今回はイライラの原因、そして私が考える“特効薬”を紹介します。
イライラの原因でまず除外しなければならないのは別の疾患が原因のイライラです。
頻度は少ないものの忘れてはならないのが「トキソプラズマ」です。トキソプラズマは「トキソプラズマ原虫 (Toxoplasma gondii)」と呼ばれる微生物による感染症で主にネコや非加熱の肉から感染します。国立健康危機管理研究機構によると、世界では3人に1人がトキソプラズマに感染していて、ブラジル、ドイツ、フランス、インドネシアなどで感染率が高く、日本では約1割が感染しています。10人に1人が感染しているならこの感染症で悩んでいる人は多そうですが、実際にはそういません。なぜなら健常者は感染してもたいてい発症しないからです。脳炎や網脈絡膜炎などから診断がつくのですが、私の経験でいえばそういう事態になるのはたいていHIV陽性で未治療の人です。しかし、HIVが陰性であれば心配ないのかというとそういうわけでもなく、妊娠中に感染すると胎児は正常に育ちません。妊娠中にネコに触れてはいけないと言われるのはそのためです。
そのトキソプラズマがイライラを起こすという研究があります。2016年に医学誌「The Journal of Clinical Psychiatry」に掲載された「トキソプラズマ感染症:精神疾患患者における攻撃性との関連(Toxoplasma gondii Infection: Relationship With Aggression in Psychiatric Subjects)」です。間欠性爆発性障害(=intermittent explosive disorder)と呼ばれる、いわば「突然キレる」病気があって、この障害を有している人はトキソプラズマに感染していることが多いことが示されたのです。
尚、トキソプラズマについてはこの話も含めて、2018年の「医療プレミア」に計3回にわたりコラムを書いたことがあるので興味のある方はそちらを参照ください(すべて無料です)。
実際に「イライラする原因がトキソプラズマだった」と展開していく事例はさほど多くないのですが、比較的頻度の高い疾患もあります。その代表は甲状腺機能亢進症です。私の経験でいえば、「大好きなはずの飼い犬の鳴き声にイライラさせられる」という訴えで受診した30代の男性が甲状腺機能亢進症によるものだったことがあります。
甲状腺機能亢進症よりも罹患者がはるかに多いのが甲状腺機能低下症です。橋本病がもたらすことで有名なこの疾患は女性の方が圧倒的に多く、ときにうつ病と誤診されていることがあります。甲状腺機能低下症の患者さんに治療(=甲状腺ホルモン内服)をすると、突然元気になることがよくあります。体重が減り、便秘が治り、性格が明るく活発になり行動に変化が現れます。若い女性は治療で体重が減少したことを喜び、さらに薬を増やしたいと希望することもあります。しかし危険が待っています。甲状腺ホルモンを増やし過ぎたとき、あるいは増やさなくても自然に機能低下が回復した場合には甲状腺ホルモンの値が上がりすぎてイライラし始めるのです。
PMS(月経前症候群)や(女性の)更年期障害といった女性ホルモンの低下、あるいはアンバランスが生じたときにもイライラが起こり得ます。これは男性からは理解されにくいことが多く、ときに上司や顧客への暴言やパートナーとの破局、あるいは家庭崩壊につながることもあります。イライラは抑えがたく、本来理性的でこれまでの人生で不平不満などほとんど口にしたことがないような女性が、突然理不尽な怒りを大切な人にぶつけてしまうのです。PMSや更年期障害の治療には様々なものがありますが、イライラが出現した場合は(ピルやLEPと呼ばれるものも含めて)エストロゲン(女性ホルモン)の内服や貼付が最も有効です。文献的にははSSRIと呼ばれる抗うつ薬も効果があるとされていますが、谷口医院の過去19年の歴史でいえば、SSRIが有効だった事例はさほど多くなく全体の1割程度です。
薬剤性のイライラも疑わねばなりません。谷口医院の経験でいえば、SSRIやSNRIでイライラが生じていた事例がありました(これらはイライラに有効とされていますが、その逆にイライラを悪化させたり促したりすることもあるのです)。他にはADHDで用いるアトモキセチンも起こり得ます。以前ADHDの治療によく使われていたコンサータなどの覚せい剤類似物質はもっと高頻度に起こします。もちろん違法薬物としての覚せい剤でもイライラが起こります。ステロイドにも注意しなければなりません。最近は生物学的製剤の普及で、関節リウマチやその他膠原病でステロイドを使う機会は減りましたが、それでもステロイド長期使用が原因のイライラは珍しくありません。低血糖が生じたときにもイライラすることがあります。糖尿病の薬が効き過ぎているときや、インスリノーマなど低血糖を起こす疾患にも注意が必要です。
さて、こういった他の疾患や薬剤からのイライラが否定された場合にはどういった原因を考えればいいのでしょうか。まずはすべてのイライラが異常ではないことを認識しましょう。おそらくイライラは人類が、あるいは少なくとも哺乳類が進化を遂げる上で必要な脳の活動だったはずです。実際、レバーを押すと報酬がもらえるように訓練したマウスに報酬を与えないことでイライラを起こすことができ、それを続けるとレバーをより強く長く押すことを示した研究があります。この現象、まるでなかなか来ないエレベーターのボタンをイライラしながら何度も押す大阪人のようです(この現象は大阪特有だと聞いたことがあります。真相は定かではありませんが)。
このマウスや大阪人が異常かというと、おそらくそうではないでしょう。したがって治療の対象にはなりません(周囲の人たちからは「治療を受けろ」と言われているかもしれませんが)。この程度のイライラは日常生活で多くの人が自覚しているのではないでしょうか。2024年に米国の成人42,739人を対象に実施された調査では、参加者の平均イライラ度は5(全くイライラしない)から30(常に非常にイライラしている)までの尺度で13.6でした。女性、若年、低学歴、低収入でイライラ度が高いという結果が出ています。しかし、この調査では無視できない結果が導かれています。イライラのスコアが高いと自殺のリスクが上昇することが示されているのです。尚、イライラが自殺のリスクになるとする論文は2020年に医学誌Neuropsychopharmacologyにも掲載されています。
イライラしたとき、脳内ではどのような変化が起こっているのでしょうか。それを検証した論文によると、イライラしやすい子供では報酬処理の領域である線条体が活性化していました。また、課題遂行に重要な神経領域で異常な反応が見られることが分かりました。イライラすれば集中力が低下することが脳科学的に証明されたことになります。さらに別の論文では、イライラしやすい子供は扁桃体に異常な活動が見られることが示されています。これらの研究から、子供がイライラしたとき、その責任は本人にあるのではなく、脳が反応するからやむを得ないのだと考えるべきではないでしょうか。そして、成人を対象とした研究は見当たりませんが、おそらく成人の脳にも同様なことが起こっているでしょう。とすると、脳内の神経活動は理性ではコントロールできませんから、イライラしている人がいればその人を責めるのではなく、他の臓器疾患を気遣うように、その人の脳内の神経活動を慮るべきではないでしょうか。
冒頭で、イライラはうつ病や不安症に対して軽視されているのではないかという問題提起をしましたが、実際にはイライラはうつ病や不安症がある人がよく苦しめられています。おそらくこの3つには密接なつながりがあり、さらにはADHDなどの神経発達症や他の精神疾患とも関連している場合が多いと言えます。また、谷口医院の経験でいえば、イライラはおそらくPTSD(やPTSDの診断がつかなくても過去の凄惨な体験)にも関連しています。結局のところ、うつ、不安、イライラ、その他あらゆる精神症状は同時に診ていかねばならないのです。これが谷口医院で様々な精神疾患をみてきた現在の私の考えです。
では治療はどうすればいいのでしょうか。すでに述べたようにSSRIやSNRIが有効な事例はそんなに多くありません。女性の場合はホルモン剤が奏功することが多いのですが、血栓症の既往などで使用できないこともあります。ベンゾジアゼピンやメジャートランキライザーはベネフィットよりもリスクの方が大きい場合が多すぎます。結局のところ、これら薬剤を少量使ったり、漢方薬、あるいはスルピリドという古典的な抗うつ薬をいろいろと試しながらその人にあった治療法を探していくことになります。ただし、谷口医院の経験でいえば薬よりも「人」の方がはるかに有効です。最も分かりやすい例は理想的なパートナーと巡り合ったことで精神症状が大きく改善するケースです。
登場が望まれている薬が「オキシトシンの点鼻薬」です。オキシトシンは愛情ホルモンと呼ばれることもある、人を穏やかな気持ちにさせるホルモンで、海外では授乳分泌薬として使われることもありますが、イライラ薬としては承認されていません。日本で研究が進んでいるとされていますが現時点では実用化の目途はたっていないようです。
ならば天然のオキシトシンを自ら”製造”すればいいわけです。どうすればいいか。オキシトシンはロマンスが進行すれば分泌量が増えることが分かっています。ロマンスが始まったときには興奮系のホルモンが大量に放出され、ドキドキ・ワクワクがしばらく続き、その次のフェーズに入るとオキシトシンに置き換わり長期にわたり分泌量が増えるとされています。ですから、イライラを防ぎたければ、信頼できて一緒にいるだけで平和的な気持ちになれるパートナーを見つけるのが最善です。パートナー以外でも、例えば、友情や親子の愛情、あるいはペットとの絆でもオキシトシンは分泌されるはずです。
と考えると、イライラの最大のリスクは孤独や孤立なのかもしれません。
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2025年12月14日 日曜日
2025年12月14日 胃薬PPIは高血圧のリスクにもなる
他の医師からは絶賛され、極めて多くの人が内服していて、しかも効果を実感しているのだけれど、私が以前から危険性を主張しているのがいわゆる「PPI」(=プロトンポンプインヒビター)と呼ばれる胃薬です。本サイトではこれまでも、PPIが認知症、脳梗塞、骨粗しょう症、糖尿病、腸炎、新型コロナウイルスなどのリスクになるとする研究について紹介してきました。今回は、そのPPIが高血圧のリスクにもなるという論文を紹介します。
論文は医学誌「BMJ Open」2025年11月27日号に掲載された「PPIと高血圧の関連性:VigiBaseを用いた記述的および不均衡性解析(Association between exposure to proton pump inhibitors and hypertension: a descriptive and disproportionality analysis of VigiBase)」です。
結論は「ランソプラゾール以外のPPIは高血圧を発症するリスクがあり、服薬量が多ければ多いほどリスクが高い」となります。研究の方法はデータベースの解析です。論文著者らはWHOの薬物関連のデータベース「VigiBase」を用いてPPI使用と高血圧の関連性を調べました。具体的な数値は以下の通りです。
・PPIが原因となったと考えられる高血圧は26,587人
・オメプラゾール、エソメプラゾール、ラベプラゾール、pantoprazole(日本未発売)、dexlansoprazole(日本未発売)は高血圧のリスクとなっていた
・ランソプラゾールのみは高血圧との関連がなかった
・PPIの薬剤服用量が多いほど、また服薬期間が長いほど高血圧のリスクが上昇していた
・ただし、これらは統計学的有意性は認められなかった
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過去に繰り返し述べているように、他院から当院にうつってくる患者さんでPPIを内服している人にこういったリスクの説明をした上で他の胃薬に変更してもらうことがあります。ほとんどの場合、その変更した薬で胃症状のコントロールができています。一部には再びPPIに戻さざるを得ない事例もありますが少数です。
医療ニュース
2020年10月31日 胃薬PPIは糖尿病のリスクにもなる
2020年8月6日 胃薬PPIは新型コロナのリスクになる
2019年12月28日 やはり胃薬PPIは認知症のリスクを増やすのか
2017年1月25日 胃薬PPIは細菌性腸炎のリスクも上げる
2016年8月29日 胃薬PPIが血管の老化を早める可能性
2016年12月8日 胃薬PPI大量使用は脳梗塞のリスク
2018年4月6日 胃薬PPIは短期使用でも骨粗しょう症のリスクに
2017年4月28日 胃薬PPIは認知症患者の肺炎のリスク
2017年1月23日 胃薬PPIは精子の数を減らす
2017年11月15日 ピロリ菌除菌後の胃薬PPI使用で胃がんリスク上昇
はやりの病気
第151回(2016年3月) 認知症のリスクになると言われる3種の薬
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2025年12月11日 木曜日
2025年12月 「振動裁判」は谷口医院の全面敗訴
すでに「日経メディカル」の連載コラム「階上ジム振動裁判は控訴審でも全面敗訴、『医療機関が勝手に出ていけ』が司法の判断」で報告したように、移転前の谷口医院の階上キックボクシングジムによる振動で、谷口医院の患者さんと我々スタッフが針刺し事故のリスクに晒されていたことに対する訴訟は谷口医院の全面敗訴に終わりました。「振動で針刺し事故が起こったのならそれは谷口医院の責任。振動は起こしても問題ない」が司法の最終判断だったのです。
もちろんこの大阪高裁の判決に対し、「最高裁に上告すべきだ」という患者さんからの声は多数届いています。しかし、我々としてはこれ以上司法に時間とお金をかけるべきでない、という結論に達しました。振動のせいで悲鳴を上げたり、恐怖のあまりしゃがみ込んで動けなくなってしまった患者さんたちのことを思うと「なんとか無念を晴らさねば……」という気持ちは消えないのですが、司法とはそういうものだ、と認識するようになりました。その経緯は冒頭で示したコラムやメルマガにもある程度は書いたのですが、日経メディカルは医療者しか読めないこともあり、ここで深く取り上げてみたいと思います。
まず地方裁(一審)の判決で我々が納得できなかったのは、判決文には「針刺し事故」の「は」の字も見当たらなかったからです。また、振動のなかで医療行為ができないことを証明するために神経内科の大家である池田正行先生に法廷で「振動下では医療ができない」ことを証言してもらったのに、判決文には池田先生の「い」の字も出てきませんでした。これではとうていきちんと検討してもらえたとは思えません。そこで、「一審では本当に振動下での医療行為の危険性について考えてもらえたのでしょうか」と訴えて控訴審に臨んだわけです。
すると、裁判官から「和解」の申し入れがありました。我々としては「大切な患者さんやスタッフを針刺し事故の恐怖に陥れたキックボクシングジム『リフィナス』と『すてらめいとビル』を許せない」と考えていたわけですが、ジムとビルに直接話をできるのはまたとないチャンスです。なぜ、あれだけひどいことが平然とできたのかを聞きたかったのです。そもそも、「壁にヒビが入るほどの振動(計測では64.4dB)のなかで患者として診察を受けろ」と言われて誰ができるでしょう。もしも、自分や自分の家族が被害者になればどう思うのかを聞いてみたかったのです。
ところが、和解というのは原告(我々)と被告(ジムとビル)のそれぞれが裁判所に出向いて裁判官の立ち合いのもとで話し合いをするのではなく、裁判官と原告、裁判官と被告が別々に話をするだけだったのです。このことを後から司法に詳しい知人数人に聞いてみると、「そりゃそうだ」と言われたのですが、私はてっきりジムとビルの社長及び彼らの弁護士と話ができると思い込んでいたのです。なにしろ、ビルの社長は振動問題が起こってからどこかに雲隠れし、ジムの社長もいつのまにか見かけなくなっていたのです。
ただ、すてらめいとビルの社長は谷口医院がビルから退去する直前に偶然に会いました。そのとき私は「どういうことですか?!」と詰め寄ったのですが、社長は何のことか分かっていない様子で、何を聞いても何を言っても「暖簾に腕押し」という感じでまったく要領を得ませんでした。おそらくこの”事情”が、すてらめいとビルが社長を我々に合わせなかった理由でしょう。
ジムの社長は何度か話し合いの機会を持ちましたが、目を合わせることすらできない人物で、まるで話がかみ合わず、まともにコミュニケーションが取れたことが一度もありません。裁判官がいればきちんと話ができるかも、と期待したのですが結局最後まで実現しませんでした。振動問題が苦痛だった最大の理由は針刺し事故のリスクですが、この「ビルの社長ともジムの社長ともまともなコミュニケーションが取れない」というのも大きなフラストレーションになっていました。
話を戻すと、その和解では「進展」もありました。一審の判決文には針刺し事故のリスクが一切触れられていませんでしたが、和解の場では、その裁判官は「針刺し事故のリスクを理解できる」と言ったのです。しかも、その裁判官自身が過去に医療裁判に関わっていて、針刺し事故の被害者の証言を聞いていると言うのです。針刺し事故というのは、もちろんそのときに単に「痛い」という話ではありません。まず感染症のリスクがあります。B型肝炎については我々はワクチン接種をし抗体形成を確認していますし、HIVについては暴露後予防(PEP)という方法があります。ですが、C型肝炎やHTLV-1については針刺しをしてしまえば「感染していませんように」と祈るしかないのです。C型肝炎は現在ほぼ治癒する疾患となりましたが治療費には700万円ほどかかります。HTLV-1については感染してしまえば生涯にわたり複数の難治性疾患のリスクに怯えなければならなくなります。
針刺し事故のリスクは感染症だけではありません。CRPS(Complex Regional Pain Syndrome=複合性局所疼痛症候群)と呼ばれる、疼痛が長期間残る疾患のリスクもあります。この疾患を発症すると数年、ときには数十年間にわたり、耐えがたい疼痛に苦しめられることになり、社会復帰できなくなる場合もあります。
裁判官は、針刺し事故のリスクを認識し、実際にCRPSの被害者の声も聞いているのです。これは我々に有利になるはずです。実際「針刺し事故がいつ起こるか分からないような状況で医療行為が続けられるはずがない」ことには同意してくれました。しかし、ここまでくれば我々の逆転勝利が約束されたようなものでは……、と考え始めた次の瞬間、地獄に突き落とされるような言葉が待っていました。「ただし、司法の判断はまた別のところにあります」……。
控訴審の判決文を一部抜粋すると「本件診療所で(針刺し事故を起こすかもしれないという)心理的不安を抱えながら診療を継続すると、実際に針刺し事故が生じてしまう可能性を否定できず、一度でもそのような事故が発生したら取り返しがつかないと考え、安全性の確保を最優先にして本件建物から移転するという控訴人の判断は、医療機関として正当な判断であると考えられる」とされています。しかしその後には「被控訴人が賃貸人の義務として(移転にかかる費用などを)負担すべき立場にあったということはできない」と書かれていました。
要するに、「振動のなかでは医療行為が続けられず移転を余儀なくされたことは認めるが、だからといってその費用を振動を起こし続けた『リフィナス』や『すてらめいとビル』が負担する必要はない」、もっと端的に言えば「針刺し事故を防ぎたいなら勝手に出ていけば?」が司法の判断だというわけです。
上告して最高裁判所で戦ってください、と訴えられる患者さんには大変申し訳ないのですが、本音をいえば、我々はこの大阪高裁の判断ですっきりしました。そもそも、司法が絶対的に正しいものでないことは初めから分かっていたことです。私自身、本サイトを含めこれまでいろんなところで述べているように、人間にとって大切なのは法律よりも「掟」です。どれだけ人道に悖る行為に手を染めても、それを裁く法律がなければその輩は無罪です。ですが、人の掟に背いた者は許されることはありません。病気で医療機関を受診した患者さんを振動で恐怖に陥れる行為が掟に背いているのは明らかでしょう。それが理解できない者とは関わらないのが一番です。
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2025年11月30日 日曜日
2025年11月30日 運転時のカフェイン多量摂取は危険
車の運転時に眠くなれば濃いコーヒーなどカフェインがたっぷりと入った飲み物で目を覚ます、という人は多いのではないでしょうか。しかし、この方法は行き過ぎると危険です。
カフェインは適量であれば頭がすっきりとして運転しやすくなります。眠気を吹き飛ばし、眠気は事故のリスクを2倍にすると言われていますから、運転中のカフェイン摂取は理にかなっているのです。しかし、摂り過ぎは危険です。
少し古い研究ですが医学誌「Safety Science」2020年6月号に掲載された「トラック運転手におけるカフェインの大量摂取、運転安全指標、睡眠および健康行動との関連性(Associations between high caffeine consumption, driving safety indicators, sleep and health behaviours in truck drivers)」を紹介しましょう。
研究の対象者は、カフェインを少量摂取(1日1杯のカフェイン入り飲料)しているトラック運転手1,653名と高摂取量(1日5杯以上のカフェイン入り飲料)のトラック運転手1,354名で、運転安全指標、健康状態、睡眠に関する様々な変数が比較されました。結果、次のことが分かりました。
・カフェインを大量に摂取する人は、睡眠の質が悪く、平均睡眠時間が短い。また、日中に眠気を自覚しやすい
・カフェインを大量に摂取する人は、睡眠時無呼吸のハイリスク者が多い傾向にある
・カフェインを大量に摂取する人は、喫煙、アルコール摂取、不健康な食生活、運動不足といった健康に悪影響を与える行動が多い
・カフェインを大量に摂取する人は、ネガティブな感情や攻撃的な運転といった運転安全指標の悪化、さらに過去の事故歴も多い
カフェインがこういったよくないことの原因になっているのか、これらよくない要因がある人がより多くのカフェインを摂りやすいのかは分かりませんが、いずれにせよカフェイン摂取量の多い人は運転時に注意した方がいいでしょう。
次に、ロンドンの自動車購入者に対する金融会社「Carmoola」の調査を報告しましょう。
調査の対象は16歳以上の英国在住者2,000人で、調査期間は2025年8月1日から5日まで。カフェイン摂取習慣、日常の運転行動について、カフェインと交通安全に関する意識などが調査されました。下記の結果が導かれました。
・調査から、英国のドライバーおよそ1100万人が1日の安全なカフェイン摂取量(400mg)を超えていることが分かった
・ドライバーの4人に1人が、カフェイン摂取により運転中に落ち着きがなくなる、不安になる、注意散漫になるといった経験がある。17~24歳のドライバーでみれば48%に上昇していた。このような自覚のある男性は女性の2倍
・カフェインなしでは「まともに運転できない」と考えるドライバーが20人に1人(5%)で、25~34歳ではその割合は9%に上昇していた。また、ロンドンでは約3倍の14%に上っていた。
厚労省によると、成人のカフェイン上限は1日400mgです。コーヒー1杯で約100mgですから、1日4杯程度なら問題ないことになります。ただし、カフェインは紅茶にも日本茶にも含まれていますからこれらを合算しなければなりません。
最近、トラブルが多いのがいわゆるエナジードリンクです。大量のカフェインに加え、大量の砂糖が加えられていますから危険なことこの上ありません。絶対に飲んではいけないとまでは言えませんが、様々な健康被害のリスクを承知しておかねばなりません。
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2025年11月27日 木曜日
2025年11月27日 「コーラ1本で寿命が12分縮まる」は本当か
コーラを代表とする加糖飲料が非常に危険であることが次第にクローズアップされるようになってきました。もっとも、1970年頃には虫歯を起こしやすいことや、1980年代には骨が脆くなることも繰り返し指摘されてきました。しかし、そのような警告にも関わらず甘い飲み物は若い世代のみならず、高齢者の一部の人たちにも支持されてきました。
ところが数年前から、加糖飲料の危険性を指摘する声が次第に大きくなってきています。これはおそらくコカ・コーラ社が多大な金額を投資して、コーラは有害であることを隠蔽していたことが明るみに出たことと関係しています。同社はお抱え学者に巨額の資金を渡し、同社にとって都合のよい研究報告をさせ、甘い飲み物の有害性を隠すための学術団体もつくっていたことが発覚したのです。
(このあたりについては毎日メディカルのコラム「がん、認知症、心血管疾患のリスクが上がる!? 虫歯、肥満だけじゃない砂糖の有害性」にまとめました)
最近、「コーラ1本で寿命が12分縮まる」という噂がまことしやかに広がっているようです。これが事実かどうかを調べてみると、エビデンスと呼べるようなものはありませんでした。しかし、有害性を指摘する調査は複数存在します。
医学誌「nature medicine」2025年1月6日号に掲載された論文「184か国における加糖飲料に起因する2型糖尿病および心血管疾患の負担(Burdens of type 2 diabetes and cardiovascular disease attributable to sugar-sweetened beverages in 184 countries)」を紹介しましょう。
2020年には、世界中で新たに2型糖尿病を発症した220万人、新たに心血管疾患を発症した120万人は加糖飲料が原因であることがわかりました。これは全発症例の、それぞれ9.8%、3.1%に相当します。加糖飲料でこれら疾患を発症するのは、女性より男性、高齢者よりも若年者、低学歴者よりも高学歴者、地方在住者よりも都心部居住者に多いことがわかりました。特に「低学歴者よりも高学歴者」は注目に値します。一般に、高学歴者の方が健康に関する知識量が多いと考えられているからです。
次に、AAAS(American Association for the Advancement of Science=米国科学振興協会)が発信するニュースサイト「EurekAlert!」に掲載された記事「人工甘味料入り飲料と加糖飲料は、いずれも肝疾患のリスク増加と関連していることが研究で明らかに( Artificially sweetened and sugary drinks are both associated with an increased risk of liver disease, study finds)」をみてみましょう。
研究の対象者は英国のデータベース「バイオバンク」に登録された123,788人で、食事質問票を用いて人工甘味料いり飲料と加糖飲料の摂取量が評価され、脂肪肝や肝疾患での死亡リスクが検証されました。結果、人工甘味料いり飲料と加糖飲料の摂取量が多い場合(1日250g以上)、脂肪肝(正確にはMASLD=Metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease=代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)の発症リスクがそれぞれ60%、50%上昇していました。中央値10.3年間の追跡調査期間中、1,178人が脂肪肝を発症し、108人が肝臓関連の原因で死亡しました。
では、加糖飲料の何が問題なのでしょうか。まずカロリーはさほど高くありません。
350mL1本のカロリーは150キロカロリー程度です。例えば、カフェ・オ・レ1杯(150mL)で100キロカロリー以上あることを考えると、単純計算でコーラはカフェ・オ・レの同量の4割程度しかありません。人工甘味料飲料ならカロリーはほぼゼロです。ですから、カロリーが問題ではありません。
加糖飲料の問題はカロリーではなく砂糖です。350mLのコーラ1本に含まれる砂糖は約40グラム、角砂糖13.5個に相当します(角砂糖1個は約3g)。尚、英国NHS(National Health Service)は、成人の1日の砂糖許容量を30g(NHSは角砂糖7個としていますが、これは日本とサイズが異なるからでしょう)。
日中に身体がだるくなる人は加糖飲料が原因かもしれません。これだけ大量の砂糖を一気に摂取すると、血糖値が急上昇し、このときには気分がよくなりますが、その後急降下します。このときにだるさや眠気、あるいはイライラや不安感が生じるのです。そして、一気に大量に吸収された砂糖は肝臓に運ばれ、脂肪肝を形成することになります。
コーラに依存性があるのはその過剰な糖分だけではありません。カフェインが急激に吸収されることも原因です。過剰な糖分+カフェインのコンビネーションが脳の報酬系、あるいは「快楽中枢」とも呼ばれる側坐核を活性化させます。これが、単なる砂糖水にはないコーラに強い依存性がある理由です。カフェインといえばコーヒーを思い出す人が多いでしょうが、たいていコーヒーはゆっくりと飲まれます。コーラとの大きな違いです。
人工甘味料には砂糖は使用されていませんが、上述したように、脂肪肝のリスクは加糖飲料よりも高くなります。砂糖であろうが、人工甘味料であろうが、甘い飲み物は可能な限り控えるべきであることが分かります。どうしても飲みたいときには食事と共にゆっくりと味わうのがいいでしょう。
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2025年11月21日 金曜日
第267回(2025年11月) 子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症
私が総合診療医になることを決意したのは研修医1年目の夏休み、タイのエイズ施設にボランティアに赴いたときでした。その施設を訪れた目的は「エイズについて学びたい」と「エイズを患った人たちになんらかの貢献をしたい」でした。当時のタイではまだ抗HIV薬が使われておらず、「感染=死へのモラトリウム」だったのです。1週間足らずの滞在はその後の私の人生に大きな影響を与えたわけですが、それはエイズという病を知ったことだけでありません。ベルギーから来ていた総合診療医から総合診療の真髄を学ぶことができたのは私にとって大きな収穫でした。
日本の医療について、私が医学生の頃から気になっていたのは「医師から(病院から)見放される患者さんが少なくない」ということでした。「専門外だから」「それはうちの科ではありませんから」などの言葉で体よく診察を断られることが少なくなく、「どこの科を受診していいか分からない」という声を多数聞いていました。また、「科ごとに主治医を持たねばならない」「財布のなかの診察券がどんどん増えてくる」といった苦情もしばしば聞いていました。
ところが私がタイで指導を受けたベルギーの総合診療医は「欧州では総合診療医がまずはすべてに対応する。自分で診られない特殊な事例や重症例だけを専門医に紹介する」と言います。これは、当時の私にとってかなり衝撃的なコメントで、まだ総合診療という言葉がほとんど知られていなかった2000年代前半の日本ではこのような姿勢で診療をしていた医師はほとんどいませんでした。少なくとも私自身はその当時日本の総合診療医を一人も知りませんでした。
そのエイズ施設に入所していたのは若い男女が大半で小児も少なくありませんでした。日本の内科医は「小児は診ない、女性疾患も診ない」というタイプの医師も少なくないのですが、そのベルギーの総合診療医はそんな区別は一切しません。その施設では診察に使える機器がさほどそろっていませんでしたが、それでも可能な限り自身の力で診察をおこなっていました。
そのベルギーの総合診療医から多大なる影響を受け、帰国前にはすでに総合診療医を目指すことを決意していた私は、その後、小児科、婦人科を含む多くの科で研修を受けました。女性は男性よりも、おそらく中年期頃までは医療機関を受診し治療が必要となるケースが多く、男性しか診ない診療スタイルではふじゅうぶんだと考えるようになりました。そこで、なんらかのかたちで婦人科での研修は研修医終了後も続けていました。この考えは今も変わっておらず、「総合診療に興味があるなら、初期研修の間に婦人科の基本的な知識と技術はマスターすべきだ。特に内診と経腟超音波は絶対に履修しておくように」と言い続けています。実際に実行する若い医師は残念ながらあまりいないのですが……。
例えば「若年から中年にかけて、男性の8割が患っている病気」は存在するでしょうか。おそらくないでしょう。ですが、子宮筋腫は小さいものも含めれば(文献によっては)女性の8割が有していると言われています。子宮内膜症もおそらく1割以上の女性が持っています。子宮腺筋症も、超音波所見でどこまでを腺筋症とみなすかによりますが、軽症も含めれば3割くらいはあります。これら3種は合併していることもあります。よって、若年から中年期の大半の女性がこれら3種の疾患のいずれか、または複数を有していることになります。また、これら3種のいずれかがあれば、月経に関連して月経痛、月経過多、精神症状などなんらかの症状が出現し、頭痛、めまい、便秘、むくみ、肌荒れ、……、といった持病が悪化することもあります。つまり、これら3種について、さらに月経に関連する症状や疾患についても理解し、研修を積み重ね、そしてある程度の経験がなければ若年から中年期の女性の診察はできないと考えるべきです。
そういうわけで、谷口医院では開院以来、積極的にこれら3つの疾患や月経関連疾患について治療してきているわけですが、経験を積めば積むほど「女性と男性はまったく異なる」ことを認識するようになってきます。複雑なことに、人間は女性と男性の2つにクリアカットに分類できるわけではありません。性分化異常があれば、染色体がXYの女性となることもありますし、その反対の染色体がXXの男性となることもあります。私はその後タイに繰り返し渡航し、エイズに関する諸問題に関わり、セクシャルマイノリティが抱える苦悩を次第に深く知ることになっていきました。日本のマイノリティの知人も増えていきました。男性、女性のステレオタイプがいかに馬鹿げているか、何度も痛感しています。
しかし、(染色体がXXで子宮も卵巣も正常に発育している「男性」がいることも理解していますし、そのような知人もいますが)「男性」と呼ぶか「女性」と呼ぶかは別にして、子宮や卵巣があれば病気や辛い症状に苛まれる機会が増えることは間違いありません。
子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症の3つの疾患の特徴を簡単にまとめてみましょう。まず、3種とも症状は似ています。月経痛、月経過多、腹部膨満、嘔気、頭痛などです。経腟超音波を実施すれば診断をつけられますが、ときに困難なこともあります。どうしても診断をつけたい場合はMRIを撮影します。ただし、経腟超音波は決して気持ちのいいものではありませんし、MRIは費用が高くつきます。そこで、谷口医院では、まず腹部超音波検査を実施することもあります。経腟超音波に比べると精度は下がりますが、典型的な子宮筋腫ならすぐに分かります。
治療はいずれの場合も重症化すれば手術です。教科書的にはGnRHアゴニストと呼ばれるエストロゲンの分泌を低下させるような治療も有効で、実際に受けてもらうこともあるのですが、更年期障害のような症状がでたり、いわゆる「女性らしさ」が失われていくこともあって、谷口医院ではあまり人気がありません(尚、「女性らしさ」という表現はほとんど死語ですし、フェミニズムの視点からは許されない言葉であるのは承知しているのですが、例えば「エストロゲン起因の雰囲気」などと言えば、分かりにくい上に、かえって偏見に満ちたニュアンスを含むような気がしますので、ここでは「女性らしさ」とします)。
これら3種の疾患の治療として谷口医院で最もよく使うのがLEP(Low dose Estrogen Progestin)と呼ばれるいわば「保険適用のピル」です。正確にはLEPは内膜症のみに適用があり、筋腫や腺筋症は保険適用外となりますが、月経痛や月経過多などの「月経困難症」があれば保険適用となります。LEPを投与しても筋腫や腺筋症自体が小さくなるわけではありませんが、月経に伴う不快感が大きく改善することが多く、患者さんの満足度は高いと言えます。尚、LEPという表現はおそらく日本だけのもので、英語ネイティブの外国人にもまず通じません。
ただし、LEPを使っても症状が変わらない場合や、出血量がかえって増加する場合もあります。その場合は、エストロゲンを含まない黄体ホルモン単独の薬剤を使います。エストロゲンが供給されないことになり、やはり「女性らしさ」が低下することもあるので、そのあたりは個別に検討しますが、谷口医院の例でいえば「手術はイヤだし、これで症状が取れるから続けたい」という人も少なくありません。
重症化すると手術を検討することになります。例えば、筋腫があまりにも大きくなりすぎて腸管を圧迫し便秘が起こったり、膀胱を圧迫して頻尿になったりしている場合は、一度は手術を考えます。また、LEPや黄体ホルモンを使っても出血が減らない場合はやはり手術を検討します。これら3種の疾患は悪性疾患ではありませんから、できるだけ手術は避けたいという人も少なくないのですが、やはりこの時点までくれば手術が選択肢となります。そして、総合診療医の”役割”はここまでです。
「手術を検討した方がいいかも」と思える事例には紹介状を渡して大きな病院の婦人科を受診してもらいます。そこで手術が決まることもあれば、「見合わせましょう」とされることもあります。なかには患者さんが手術を嫌がって戻って来て、そこで別の病院を受診してもらうと「手術しなくてもいい」と言われたり、あるいはその逆に、1つ目の病院で「手術不要」と言われ、2つ目を紹介して手術に至ることもあります。そのあたりは手術をおこなう婦人科医によって考えが変わるのでしょう。
谷口医院を開院して、さらに開院までに複数の病院での婦人科研修の経験も踏まえて、現時点で思うのは「子宮・卵巣の有無でヒトの身体は大きく異なる」ということです。フェミニストからはお叱りを受けるでしょうが、「子宮・卵巣の有無の違い」はヒトの身体症状や精神症状に大きな影響を与えます。有る・無いでどちらがいいとかよくないとかそういう話ではないのですが、子宮・卵巣の有無の違いを理解しないことには、少なくとも医療行為はできません。
日本ではあまり話題になりませんでしたが、「月経のある人(people who menstruate)」という表現に対し、『ハリーポッター』の作者J・K・ローリング氏が異論を述べてこれが大きな論争になり、私はコラム(「トランス女性を巡る複雑な事情~後編~」)を書いたことがあります。このなかで私はローリング氏を擁護するようなニュアンスのコメントをしていますが、医師としてその人を診るときには、性自認や性指向よりもむしろ「月経の有無」や「子宮・卵巣の有無」をまずは前提としています。
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2025年11月9日 日曜日
2025年11月 私が安楽死に反対するようになった理由(後編)
前回は、「私自身は安楽死に賛成の立場であるものの、それは周囲の誰からもその選択を受け入れられた場合に限る」という考えを述べました。例えば、家族やパートナーが「死なないでほしい」と言っている状況での安楽死は認められない、というのが私の考えです。医師になるまでは、人には「自殺する自由」があると固く信じ、たとえ誰に反対されようが個には自殺する”権利”があるのだ、とまで思っていました。
ところが、医師になってから「大切な人が自殺した」という話を患者さんから繰り返し聞くようになり、残された者の悲しみは決して癒されないことを知るようになりました。また、私自身のプライベートでも、自殺、あるいは自殺に近い死に方をした友人知人がひとりふたりと増えていきました。
前回も述べたように、大切な人が他界すれば、その死因が長年患っていた病気であっても、突然の事故であっても、そして自殺であっても、その辛さや悲しみは容易に言葉では表せず、まさに筆舌に尽くしがたいものです。どの「死なれ方」が最も辛いか、といった議論には意味がありません。「自殺しないでほしい」あるいは「安楽死しないでほしい」と考える人があなたの周りに「たったひとり」でもいるのなら、あなたは自殺してはいけないのではないかと考えるようになったのです。
しかし、ここで非常に難解な「命題」が生まれます。そもそも自殺、あるいは安楽死を考えている人は、すでに人生に絶望しているわけです。もはやこの人生に希望がもてないがゆえに自殺や安楽死を考えるようになったのです。彼(女)らのそばにいるあなたが「死なないで」と言うのなら、彼(女)らからその絶望を取り除き、希望を与えなければならない、ということにならないでしょうか。
もっとプラクティカルな話をしましょう。自殺を考える人の多く(または安楽死を考える人のいくらか)は貧困な状態にあることが予想されます。「もうやっていける見込みがないから……」と彼(女)らに言われたとして、あなたは「じゃああたしがあなたの面倒をみるね」と常に言えるわけではないでしょう。そして、「あんたなあ、『自殺(安楽死)はいけない』なんてことを言うけど、もうカネもないし生きていかれへんねや。あんたが食わしてくれるんやったら別やけど、あんたにもオレの面倒みられへんやろ」と言われればどのように返答すればいいのでしょうか。
私はこの「問題」を長年考えてきました。私ならどのようにするかはその相手とその状況によります。これまでの経験を述べれば、ダイレクトにお金を渡したこともありますし、一緒に仕事を探したこともあります。カウンセリングや精神科受診を勧めたこともあります。ですが、差し出すお金がなく、仕事を探せるような状態ではなく(例えば、身体的に、あるいは精神的に行き詰っていて)、カウンセリングや精神科はすでに試みたけれどまるで役に立たなかったときにはどうすればいいのでしょう。私のこれまでの経験では、実際にはなんとかなったことがほとんどですが、この問題を突き詰めて考えるとどうしても壁にぶちあたります。
しかし、あるときこの「問題」に対する「答え」がふとみつかりました。これまで私は長年、冒頭で述べたように、「人間には自殺する権利がある」と信じていたのですが、実は「人間には自殺する権利がない」ことに気付いたのです。権利なんて人間が社会で生み出した単なるルールに過ぎず絶対的な真実ではありませんが、「人間には自殺する権利がない」を絶対的なものではなく、「この社会での掟」とみなせば腑に落ちるようになったのです。なぜ、私の考えは180度変わったのか。説明しましょう。
「人間には自殺する権利がない」が腑に落ちるようになったのは、私にはある「前提」があったからです。その「前提」に気付いたのはいつだったか覚えていないのですが、それはコロンブスの卵のような、「なんでそんなことに今まで気づかなかったのだろう」というようなものです。それは「人間には生まれない自由はない」という真実です。これは「絶対に正しい真実」と呼んでもいいのではないかと今では考えています。
過去のコラム「「人は必ず死ぬ」以外の真実はあるか」で、私は「絶対に正しい真実」は「人は必ず死ぬ」「地球は必ず滅びる」の2つしかないことを指摘しました。今は3つ目として「人間には生まれない自由はない」を入れてもいいだろうと考えています。実際、これを科学的に、あるいは論理的に反論することはできないのではないでしょうか。
話を進めましょう。「人間には生まれない自由はない」のなら、「自殺する自由もない」とは言えないでしょうか。あなたには生まれてこないという選択肢はありませんでした。たとえ生まれてこない方がよかったのだとしても、強制的に生まれさせられたのです。そして今も生きているということは、母親であったり、父親であったり、あなたが捨てられているところをたまたまみつけた人であったり、あるいは赤ちゃんポストを覗きにいったその日の当番であったり、があなたを生かそうと考えていろいろとケアをしたからこそ今あなたは生きているわけです。つまりあなたは自分の意思とは関係なく生かされてしまったのです。
人間には自由を求める権利があり、そして自由とは絶対的に正しいものだ、とついつい我々は考えてしまいがちです。ですが、実はあなたが成長したのはあなたに自由があったからではなく、強制的に生かされたからこそ今のあなたが存在しているのです。ならば、あなたは自らの意思で他人の反対を押し切って自殺してもいいのでしょうか。あるいは安楽死する自由があるのでしょうか。
「ゾーン・ポリティコン」はアリストテレスが提唱した人間の概念のことを指します。アリストテレスが本当は何を言ったかを知るには原書にあたるのが一番ですが、残念ながら私には古代ギリシャ語が読めません。よって、他者が書いたものを解読していくしかなく、その識者の恣意性が多少なりとも入ることは避けられないでしょうから、アリストテレス自身がどのように考えたのかは正確には分かりませんが、人間はポリス的な生き物、つまり他者との関わりのなかでしか生きていけない、ということかと私は解釈しています。「誰もひとりでは生きていけない」といったフレーズはしばしば流行歌などで使われますが、本当の意味において「ひとりでは生きていけない」は生まれてから数年の間です。
あなたにとって、あなたをケアしてきた人たちはあなたにとっては余計なお世話だったのだとしても、現にあなたが今も生きているということはいわば「借り」があるわけです。だから社会貢献して借りを返しましょう、などと言うつもりはありません。ですが、あなたを死なせてはいけないと考えてケアした人たちが存在した以上、つまりこの社会で生かされた以上、世界中のすべての人から全員一致で「死んでもいいよ」と言われない限りは、つまり「あなたに死んでほしくない」と思う人が「たったひとり」でもいるのなら、あなたには死ぬ権利はないと思うのです。
では、その「たったひとり」がいない場合はどうでしょう。家族もパートナーも友人もいない、どころか、あなたの顔と名前を知っている人がひとりもいないとしましょう。さらに、あなたにはペットもおらず、エサをあげる動物や鳥も存在しないと仮定しましょう。
もしもこのような人が谷口医院を受診して「病気は治してくれなくてもいいんです。〇〇国に連れていって安楽死させてください」と言われれば私はどうすればいいのでしょうか。実は、似たようなことをある患者さんから言われたことがあります。そのとき私は直接的な言葉は避けたものの「いずれ安楽死ができる国ができれば考えましょうか」と返答しました(前回述べたように、カナダやオランダなど大きな病気がなくても安楽死できる国は日本人は対象外で、スイスなら日本人も可能ですが不治の病に罹患している必要があります)。
その後、この患者さんと共に〇〇国に渡航するシーンを繰り返しイメージしました。すでに数回の診察でこの患者さんのこれまでの過去の話はある程度聞いています。〇〇国がどこに位置しているのかにもよりますが、機内では横に座るでしょうからそのときに数時間かけて話をすることになり、それだけ時間があれば話はいろんなところに及び、その人の人生について深く知ることになるでしょう。生まれて初めての記憶、最後に笑ったのはいつだったのか、人生最大のドラマはいつ起こったのか、などにも話が広がり、話題が尽きないような気がします。
そして私は気付きました。私自身がその人に対する「たったひとり」となることに。
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2025年10月16日 木曜日
第266回(2025年10月) 難治性のSIBO、胃薬の見直しと運動で大部分が改善
SIBO(=Small Intestinal Bacterial Overgrowth=小腸内細菌異常増殖症)についての問い合せが増え始めたのは、ちょうど新型コロナウイルスの流行が始まりかけた頃だったと記憶しています。SIBOは2000年代後半頃より医療者の間ではしばしば話題に上るようになった疾患で、確実に患者数は増えているのですが、検査法も治療法もはっきりしていないためになかなかとっつきにくい病気だと言えます。今年(2025年)になり、このSIBOに対する問い合わせがなぜか加速度的に増えていますので「はやりの病気」で取り上げることにしました。
SIBO(通称「シーボ」と呼ばれます)は、病名が物語っているように「小腸内で」「細菌が異常増殖する」疾患です。ときどき「腸内にはたくさんの細菌がいて……」と考えている人がいますが、細菌が生息しているのは小腸ではなく大腸です。基本的に小腸には細菌はあまりいません。無菌ではありませんがあまり多くはないわけです。その小腸内で細菌が異常増殖すると、様々な不快な症状が出現します。
まず「下痢」と「腹部膨満感」は必発です。腹部膨満感がさらに悪化して「膨隆」(自覚だけではなく我々が診察してもおなかが膨れている状態)を起こしていることもあります。患者さんによっては「おならが出すぎる」あるいは「げっぷが止まらない」と訴える場合もあります。さらに、下痢が続いた結果、体重が減っていることもあります。
医学に詳しい人、あるいはすでに過敏性腸症候群の診断がついている人は「それって下痢型の過敏性腸症候群とどう違うの?」と思うかもしれません。たしかに、これらは似ていますし、SIBOに下痢は必発ですが、下痢と便秘を繰り返す人もいます。そして、過敏性腸症候群(=Irritable bowel syndrome 、以下「IBS」)も下痢と便秘を交互に繰り返すことがあります。
ではどのように区別するのか。症状でいえば、まず「食後と排便で症状が増悪するか改善するか」を確認します。どちらかと言えばSIBOは食後に悪化し、IBSは排便で改善します。しかし例外も多々あり、これだけで診断できるわけではありません。げっぷが多ければSIBOの可能性が高くなりますが、SIBOの全例でげっぷがひどいわけではありません。腹部膨満感の苦痛が強ければSIBOを先に疑いますが、IBSで腹部膨満を訴える人もいます。結局のところ、自覚症状だけでSIBOかIBSかの鑑別をつけることはできないのです。さらに、診断する側としては非常に厄介なことに、IBSとSIBOを合併することも珍しくなく、一説では過半数は合併しているのではないかと言われています。
では診断をつけるためにどうすればいいか。当院では腹部レントゲンを参考にしています。通常、典型的な(SIBOの伴わない)IBSであれば、小腸に異常はなく、大腸にガスが貯まっている像が得られます。他方、SIBOの場合はその反対に小腸ガスや小腸の拡張像が目立ちます。ただし、これらも決定的な所見となるわけではありません。
SIBOの確定診断をつけるには小腸に細菌が異常増殖していることを確認するしかありません。そのためには内視鏡(胃カメラ)を挿入して小腸液を採取して、その液に細菌がどれだけ棲息しているかを調べなければなりません。他には「呼気テスト」と呼ばれる方法もあって、小腸内で異常増殖した細菌が発生するガス(水素やメタン)を呼気を採取して調べます。ただ、保険適用がなく日本では一部のクリニックが実施しているという噂を聞いたことがありますが、恐ろしいほど高額で(噂では10万円もするとか……)、また精度への疑問も指摘されています。大腸に存在する細菌が発生させるガスを拾ってしまいSIBOでないのにSIBOと判定されること(=偽陽性)が多く、その一方で、SIBOであってもガスが適切に検出されない例も多い(=偽陰性)という声もあります。結局のところ、SIBOに対して適切な検査があるとは言えないのが現状なのです。
他の疾患においても、確定診断がつかなくても治療を開始する、という手があります。ではSIBOに対してはどのような治療があるのでしょうか。
よく言われるのが、2019年のコラム「過敏性腸症候群に『低FODMAP食』は本当に有効なのか」で紹介した低FODMAP食です。このコラムではSIBOに対してではなく、IBSに対しての低FODMAP食についての報告や当院での経験を紹介しました。結論から言えば、当院での低FODMAP食によるIBSの治療成績はあまりよくありません。興味深いことに、低FODMAP食を開始した当初は症状が改善することが多いのですが、そのうちに効果がなくなっていきます。患者さんのなかには「低FODMAP食を続けるのはしんどいので、ときどき普通の食事を摂ってしまう。それが良くないのだと思います」と言う人もいます。しかし、これまで低FODMAP食を試みてきた患者さんたちをトータルで考えてみると、(あくまでも当院での事例のまとめに過ぎませんが)「低FODMAP食はIBSに長期的には有効でない」が結論です。
それに、有効な人もいるのだとしても、先述した患者さんが実感したように、この食事療法を長期間に渡り継続するのは事実上不可能です。ヨーグルトや食物繊維が豊富な野菜(アスパラガス、キャベツ、タマネギ、ニンニクなど)、それにフルーツを生涯食べるな、と言われて納得できる人がどれほどいるのか、我々には極めて疑問です。コムギ製品や甘いものはいろんな観点からも避けた方がいいわけですが、これらも生涯食べるなと言われて同意できる人がどれだけいるでしょう。
SIBOは小腸内に細菌が異常増殖しているわけですから「抗菌薬を使えばいい」という考えがあります。ただ、世界中でこれまでいろんな抗菌薬が試験されていますが、いい成績が出ているものはほとんどありません。唯一、リファキシミン(Rifaximin)(商品名は 「リフキシマ錠200mg」)という抗菌薬が有効とする話もありますが、日本ではこの薬剤は抗アンモニア血症に対してしか保険適応がなく、SIBOに使用するなら自費診療になります。薬価は1錠235.1円ですから、1日6錠が必要であることを考えると高すぎます。それに、診察や検査(レントゲンなど)を保険診療で、薬剤を自費診療で、というのは混合診療となってしまいますから、この薬を自費で処方するならそれまでの診察代や検査代が遡ってすべて自費請求されてしまいます。
結局のところ、SIBOについては検査も治療も実施が困難か高額かのいずれかであり、医療者としてみればなんともとっつきにくい疾患なのです。しかし、医療者側が苦手な疾患なのだとしても、実際に困っている患者さんはいるわけです。
ではどうすればいいか。まず、上述したように症状と腹部レントゲンからSIBOである可能性を疑います(ちなみに、SIBOを疑う患者さんに対しこれまで何度か超音波検査を試みましたが、有意な所見は得られませんでした。小腸ガスが見つかることはありますが、腹部レントゲンの方がはるかに有意な所見が得られます)。
治療については、低FODMAP食は推薦せず(関心がある人には説明はします)、リファキシミン投与の話もせず(そもそも抗菌薬には様々なリスクが伴います)、別のアプローチをとります。まず初めにすべきは「胃薬の見直し」です。特に、PPI(プロトンポンプ阻害薬)と呼ばれる胃薬を使用している人に対してはできるだけ中止できるような対策を考えます。PPIについては本サイトでそのリスクを繰り返し指摘してきましたが、当院の経験でいえばおそらくPPIはSIBOのリスクにもなります。
これは理論的にも理解しやすいことです。そもそも口から入る細菌はそのほとんどが胃酸により死滅します。にもかかわらず小腸で異常増殖するのはなぜか。それは「胃酸の量がふじゅうぶんで細菌が生き延びるから」に他なりません。そしてPPIはすべての胃薬のなかで最も胃酸分泌を減らす強力な薬剤です。エビデンスはありませんが、当院の経験上「PPIがSIBOの主要因ではないか」と思えるのです。
次にすべきことは運動です。そもそも食べたものがなかなか大腸までたどり着かないから食事に混入している細菌が小腸で異常増殖してしまうわけです。ならば、腸管を速やかに動かして食べたものはさっさと大腸に送り込んでしまえばいいのです。小腸の”仕事”は膵液(膵臓から分泌)と胆汁(胆嚢から排出)に加え、小腸自身もアミラーゼ、ペプチダーゼ、リパーゼといった消化酵素を分泌して食べたものを大腸に送り込むことです。SIBOはこの動きがスムーズでなくなったことが原因で生じると考えられるわけです。ならば運動、とりわけジョギングが有効です。リズミカルに腸管に届けられる着地時の振動が腸管の動きを促すからです。
SIBOで悩んでいる人は少なくなく、それ以前にきちんと診断がつけられていない人も大勢います。しかし、診断を待つまでもなく、まず(使用していれば)胃薬を見直し、そして運動を継続すれば、かなりの患者さんが改善するのは当院の経験上間違いありません。
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2025年10月16日 木曜日
2025年10月17日 カリフォルニアでは「超加工食品」が学校給食禁止に
超加工食品の危険性(と”魅力”)を詳しく紹介したのは「はやりの病気」2025年1月の「『超加工食品』」はこんなにも危険」でした。このコラムでは、超加工食品が、体重を増やし、寿命を縮め、不眠やうつを加速させ、認知症のリスクを上げることなどについて、エビデンスを示しました。また、コロンビア、ブラジル、カナダ、ペルーなどでは国を挙げて超加工食品を制限するよう取り組んでいることも紹介しました。
他国をみてみても、例えば英国にはいわゆる「砂糖税」があります(超加工食品の多くに砂糖が使われています)。仏国では「ニュートリ・スコア(Nutri-Score)」と呼ばれる食品へのラベル貼付がおこなわれています。有害な超加工食品には赤のラベルが、加工されていない栄養に富んだ優秀な食品には緑のラベルが貼られているのです。仏国でこの制度が導入されたのは2017年、現在はベルギー、スペイン、ドイツなどにも広がっていると聞きます。
この流れは世界で加速しています。報道によると、カリフォルニアのGavin Newsom州知事が「2035年までにすべての学校で超加工食品の給食での提供を段階的に廃止することを義務付ける」法案に署名しました。ガイダンスが各学校に配布され、2029年から段階的に廃止される予定です。
また、同州ではすでに昨年、合成着色料6種類(赤色40号、黄色5号、黄色6号、青色1号、青色2号、緑色3号)を学校給食から禁止する法律が生まれ、2027年から施行されます。これら着色料は児童の神経疾患の原因になるとされています。これら6種の着色料のなかで最も有名なのはおそらく赤色40号でしょう。ドリトス、ゲータレード、スキットルズなどに含まれると聞いています。そして、赤色40号は児童や十代の若者の活動過多やイライラを悪化させる可能性があることが示されています。ちなみに日本では黄色6号は未認可ですが、他の着色料は量的制限はあるものの日常の食品で使われています。
尚、The Telegraphによると、カリフォルニアの超加工食品の給食禁止は政治的な背景があるようです。いわゆる「MAHA運動」を推奨するロバート・F・ケネディ・ジュニア保健長官は今年8月までに超加工食品対策を講じると約束していましたが、先月発表された最新の報告書には超加工食品対策がはっきりと示されていませんでした。そこで、民主党に所属するGavin Newsom州知事は「カリフォルニアでは、以前から子供たちの健康を守るための対策に取り組んできた」と強調したかったようです。
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