はやりの病気

第278回(2026年10月) 早い閉経は認知症のリスク、ホルモン補充療法が有効

 2026年4月の「はやりの病気」(「『ホルモン補充療法(HRT)は安全』が世界の見解に」)で取り上げたこともあり、更年期前後、あるいはそれ以上の年代の女性から、ホルモン補充療法(以下「HRT」)についての相談・質問が増えています。

 なかでも「ホルモン補充療法は危険だと思っていたけれどそんなに安全なのでしょうか」というコメントがよく聞かれます。もっとも、これは当然だと思います。上記のコラムでも述べたように、私自身が以前はHRTに反対していたのですから。

 最近、ますますHRTの有効性と安全性に注目が集まっています。まず、2026年8月に医学誌「Alzheimer’s & Dementia」に掲載された「閉経後女性におけるホルモン補充療法と認知症リスク:UK Biobankにおける反応性の高いサブグループの特定(Hormone replacement therapy and dementia risk among postmenopausal women: Identifying responsive subgroups in the UK Biobank )」の要点を紹介しましょう。研究の対象者は「UK Biobank」というデータベースに登録された閉経後女性183,450人で、平均追跡期間は13.3年です。

・HRTはあらゆる原因による認知症リスクを1割下げる

・外科的閉経(手術で卵巣の両側または片側を摘出)の場合、HRTは認知症のリスクを26%低下させる

・ApoEをε4保有者で保有する場合、HRTは認知症のリスクを13%低下させる

・生涯を通してエストロゲンの分泌量が少ない場合、HRTは認知症のリスクを16%低下させる

・46~56歳の間にHRTを開始した場合に、最大の恩恵が得られる

 閉経が早ければ、全般的認知機能とエピソード記憶の低下が速く、アルツハイマー病のリスクが上昇することは最近では周知の事実となってきています。最近の論文を紹介しましょう。同じく2026年8月に医学誌「JAMA Network Open」に掲載された「高齢女性における閉経年齢と脳萎縮(Age at Menopause and Brain Atrophy Among Older Women)」です。

 研究の対象者は「Religious Orders Study」および「Rush Memory and Aging Project」という2つのデータベースの登録された女性で、最長18年間追跡されています。解析対象は、認知機能データが得られた女性2,603名です。閉経年齢が早ければ、全般的な認知機能低下の進行が早く、エピソード記憶の低下が早く、アルツハイマー病の診断時期が早いことが分かりました。自然に閉経した場合よりも外科的閉経(手術で卵巣を摘出したことで起こる閉経)の場合に、より顕著であることも分かりました。

 似たような研究は他にもあります。2019年に医学誌「Neurology」に掲載された論文「医療従事者から成る多様なコホートにおける生殖可能期間と認知症リスク(Reproductive period and risk of dementia in a diverse cohort of health care members)」によると、初経年齢が13.0歳の場合と比較して、初経年齢が16歳以上であった場合は認知症発症リスクが23%、47.4歳未満で自然閉経した場合は19%、子宮を摘出していれば8%上昇していたことが分かりました。

 閉経前の卵巣摘出(両側の場合だけでなく片側摘出も)は、認知症のリスクを高め、摘出時の年齢が若いほど、また術後にホルモンを使用しなかった場合ほど、リスクが大きくなるとする報告もあります。閉経前に卵巣を摘出した全人数でみると認知障害または認知症のリスクが46%も増すとされています。

 次に、HRTの「限界」もみておきましょう。閉経前後にHRTを開始した場合、心血管疾患の予防になることが指摘されています。ところが、International Menopause Society (=IMS=国際更年期学会)によると、「閉経から10年以上経過した後に開始した場合には心血管系疾患に対する効果は認められない」とされています。

 「危険性」も確認しておきましょう。まずは「血栓症」について。2019年に医学誌「BMJ」に掲載された有名な論文「HRTの使用と静脈血栓塞栓症のリスク:QResearchおよびCPRDデータベースを用いた研究(Use of hormone replacement therapy and risk of venous thromboembolism: nested case-control studies using the QResearch and CPRD databases)」をみてみましょう。

 研究の対象者は1998年から2017年の間に静脈血栓塞栓症と診断された40~79歳の女性80,396人です。対照グループは年齢などの条件を合わせた391,494人の女性です。HRTの内服(経口投与)の場合、HRTを実施すると、実施していないグループと比較して、静脈血栓塞栓症のリスクが58%増加することが分かりました。

 他方、貼付薬(経皮製剤)の場合、リスクとは関連していませんでした。

 血栓とならぶもう1つのリスク「乳がん」をみてみましょう。英国の女性向け健康情報提供団体「Women’s Health Concern」(=WHC)は、2024年11月に公開されたNICE(=National Institute for Health and Care Excellence=英国国立医療技術評価機構)のガイドライン(NG23)「更年期:特定と管理(Menopause: identification and management)」の改訂版を受け、50~59歳の乳がん発症リスクを比較しています。各リスクが、女性1,000人あたりどれだけ発生率に差を及ぼすかを分かりやすくグラフにまとめています。今後5年間で乳がんを発症する女性の推定人数の比較です。

 HRTの使用や低用量ピルの使用はたしかに乳がんのリスクを上昇させますが、BMI30以上の肥満に比べればかなり小さいと言えるでしょう。飲酒がHRTよりもハイリスクであることも分かります。運動による乳がんリスクの減少率はHRTを上回るようにみえますから、「HRTでリスクがやや上昇するけれど運動でカバーする」という考えは理に適っています。

 他方、HRTの危険性が気になる研究もあります。2019年に「The Lancet」に掲載された「閉経後HRTの種類・開始時期と乳がんリスク(Type and timing of menopausal hormone therapy and breast cancer risk: individual participant meta-analysis of the worldwide epidemiological evidence)」です。

 調査対象は1992年1月1日から2018年1月1日までの期間中に公表されている情報源から抽出した、閉経後に乳がんを発症した108,647人です。このうち55,575人(51%)がHRTを使用した経験がありました。発症時の平均年齢は65歳で、膣錠以外のすべてのHRT(内服、貼付薬、ジェルなど)において、乳がんリスクの上昇が認められました。このリスクは使用期間が長くなるほど増加し、エストロゲン単独製剤よりも、エストロゲン・プロゲストゲン併用製剤の方がリスクが大きいことが分かりました。

 「エストロゲン単独製剤よりも、エストロゲン・プロゲストゲン併用製剤の方が乳がんのリスクが大きい」と言われても、子宮がある女性がエストロゲン単独製剤を使うと子宮体癌のリスクが大きく増加します。よって、原則としてエストロゲン・プロゲストゲン併用製剤を使用すべきです。

 冒頭で述べたコラムで紹介した米国FDAが2026年2月に公表したページでは、乳がんに関するリスクが、FDAが定める最重要警告「boxed warning」から削除されていますが、家族歴がある場合、肥満や飲酒など他の乳がんのリスクがある場合などには、HRTには慎重になった方がいいでしょう。

 他方、血栓のリスクは内服を避けて貼付薬にすることで避けられそうです。そのあたりも含めて総合的な判断が必要になります。

 

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