はやりの病気

2025年9月18日 木曜日

第265回(2025年9月) 「砂糖依存症」の恐怖と真実

 週刊誌などのメディア媒体やテレビ局からの取材依頼が来たとき、私は断ることが多いのですが(自分が言ったことが曲解して報道されることがあるからです)、例外的に長期連載を引き受けているのが、毎日新聞の「毎日メディカル(旧・医療プレミア)」と「日経メディカル」の連載です。毎日新聞は連載開始から10年を超え、日経メディカルの方も7年以上になります。

 記事を書くときに気になるのが、製薬会社や食品メーカーに対する否定的コメント(要するに「悪口」)をどこまで書いていいか、あるいは名指しにしていいか(「某○○社」などの表現にしなくていいか)ということです。もちろん、悪口自体は言う方も気持ちのいいものではありませんから、できればそのような内容のコラムは書きたくないわけですが、放っておいてはマズイもの、つまり真実を知ってもらわねば困るような内容については書かざるを得ません(「書かなければならない」という衝動を抑えきれなくなってきます)。

 毎日新聞と日経メディカルを比較したとき、以前はどちらかといえば日経メディカルの方が思い切った表現を許してくれるかな、と感じていたのですが、最近はそうでもなくて、毎日新聞から意外な対応(これは「いい意味」です)をされることもあります。

 印象的だったのが2025年8月18日に公開した「夏になると、血糖値が急上昇? 原因は『健康によいから』『夏バテ防止に』と飲み続けていた〇〇〇だった!」で(「毎日メディカル」の記事は無料です)、大塚製薬と大正製薬を名指しで非難しました。脱稿し提出するときには「この原稿はこのままでは使えないだろう」と考えていたのですが、意外なことに「まったく問題なし」でした。それどころか、悪口を言っている商品「ポカリスエット」と「リポビタンD」については編集者がわざわざ写真撮影をしてそのページに掲載してくれたのです。この記事、たぶんいずれかのメーカーから(あるいは両社から)毎日新聞にクレームが来ていると思うのですが、私のところには知らされていませんから毎日新聞社がうまく対応してくれたのでしょう(スポンサーから外れなければいいのですが……)。

 対照的なのが日経メディカルで、該当記事は9月17日に公開された「HbA1cを12.8%へ押し上げた『健康ドリンク』」です(日経メディカルを閲覧できるのは医療者限定)。短期間で糖尿病がものすごく悪化した男性患者さんの事例を取り上げています。先に毎日新聞の記事が公開されていたこともあり、今回も製品の実名を載せてもらえるだろうと”犯人”のドリンクをそのまま商品名で記載した原稿を送ったところ、結果はNG。コラムは採用されたものの商品名は隠すことになりました。

 ここで簡単に、短期間で重症の糖尿病をもたらせたそのドリンクについて紹介しておきましょう。一応先に断っておくと、この男性はこの1本555mLの健康ドリンクを毎日4~5本飲んでいました(少量摂取なら糖尿病を起こさなかった可能性もあります)。ドリンクに含まれる有害と思われる物質は「砂糖類(果糖ぶどう糖液糖(国内製造)、砂糖)」、「甘味料(アセスルファムK、スクラロース、ステビア)」、「カラメル色素」の3種で、これら3種は成分表の「炭水化物」に相当します。「炭水化物」の正体がこれら3種の甘いものであることを見抜くのは困難だと思われますが、わざとそのように分かりにくい表記にしているのでしょう。「炭水化物」(=これら3種の甘いもの)が100mLあたり4g含有されていると書かれていますから、555mLだと22.2グラム。仮にこれがすべて砂糖だとすると、1本あたり7.4個の角砂糖が入っている計算になります。このドリンク、「低カロリー」と謳われていますが、はたして角砂糖7.4個が低カロリーと呼べるでしょうか。

 尚、「砂糖換算はおかしいのでは? 人工甘味料も含まれるじゃないか」という反論に答えておくと、人工甘味料も砂糖と同様、糖尿病や肥満をもたらせることを示した研究は多数あります。詳しくは「毎日メディカル」「カロリーゼロでも太る? やせたいなら、食べてはいけない『人工甘味料』」を参照ください。

 さて、この男性の場合、このいかにも健康的な商品名の健康ドリンクを箱ごと購入して毎日4~5本飲んでいました。1本あたり7.4個の角砂糖と考えれば、5本では毎日37個の角砂糖を食べていた計算になります。短期間で糖尿病が劇的に悪化したのも無理もありません。

 気の毒なことに、この男性、この健康ドリンクを「夏バテ防止の目的」で飲んでいました。ウェブサイトには「(前略)「体内効率設計」に基づき、「アルギニン」「シトルリン」の2つのアミノ酸と、「ビタミンC」「クエン酸」を配合。レモン&アセロラ味の甘酸っぱいおいしさ。(無果汁)低カロリー」と書かれているわけですから、そう考えるのも無理もありません。

 しかし、おそらくこの男性も飲み続けているうちに、(私や看護師には話していませんが)「ちょっとおかしいぞ……」と感じていたのではないかと私は疑っています。なぜなら、この男性、「最近のどが渇いて仕方がない。いくら水分を摂っても夜中に何度もトイレに行かねばならない」と言っていたからです。口渇や頻尿は糖尿病の症状そのものですが、体重はむしろ減ってきていました。だから、「糖尿病なんかであるわけがない」と考えただけでなく、最初のうちはまさか健康目的で飲んでいるドリンクが”犯人”などとは思いつかなかったのでしょう。

 この体重減少は危険な兆候です。尿検査をすればケトン体が強陽性。これはインスリンの働きが低下して、体内の脂肪を分解してエネルギーを取り出していることを示しています。もう少し進行すると命に関わる状態にもなるはずです。男性は元気だと言っていましたが、おそらく間一髪のところで間に合ったのでしょう。このライフスタイルを続けていれば命も危なかったと予想されます。

 さて、では、男性は「この健康ドリンクは危ない」と薄々気付いていたのにも関わらず、なぜやめることができなかったのか。それはおそらく砂糖の「依存性」です。実は砂糖には強烈な依存性があり、やめようと思ってもやめられないのです。精神疾患の診断と分類に使われる国際的基準「DSM-5」で定められる「薬物乱用基準」というものがあって、下記11の基準をいくつ満たすかで重症度が判定されます。6つ以上で「重度の物質使用」とみなされます。

#1 適切な量または期間を超えて物質を摂取する
#2 物質の使用を減らしたい、またはやめたいと思っても、それができない
#3 物質の入手、使用、または回復に多くの時間を費やす
#4 物質を使用したいという渇望と衝動がある
#5 物質使用のために、職場、家庭、または学校ですべきことを行えない
#6 人間関係に問題が生じても、使用を続ける
#7 物質使用のために、重要な社会活動、職業活動、または娯楽活動を断念する
#8 危険にさらされても、物質を繰り返し使用する
#9 物質によって引き起こされた、あるいは悪化した可能性のある身体的または心理的問題があることを認識しているにもかかわらず、使用を続けること。
#10 望む効果を得るために、より多くの物質を必要とする(耐性がつく)
#11 離脱症状が現れる

 英紙The Telegraphによると、砂糖はこれら11のすべての基準を満たすといいます。#5、#6、#7あたりはちょっと言い過ぎかな、という気がしますが、他の項目はのきなみ砂糖の依存性を表していると言えるのではないでしょうか。

 毎日メディカルに(無料ですから)近々、「砂糖の有害性はなぜ何十年も隠蔽されてきたのか」、「砂糖が心疾患、がん(特に乳がん)、認知症などのリスクになること」などについてのコラムを掲載する予定なので、そういったことに興味がある方はそちらを読んでもらうとして、ここでは「砂糖はやめたくてもそう簡単にはやめられない依存性の強い物質」であることを強調しておきたいと思います。

 しかし、砂糖は完全に止める必要はないにせよ、控えていかなければ残りの人生を台無しにしてしまうかもしれません。ではどうすればいいか。いずれ本サイト、毎日メディカル、日経メディカル、あるいはメルマガのいずれかで秘策を紹介したいと思います。

 

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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