はやりの病気

2017年9月25日 月曜日

第169回(2017年9月) 治らない依存症~痴漢・盗撮・小児愛~

 医師のとんでもないわいせつ事件が立て続けに起こりました。

 1つめの事件を起こしたのは大阪の40代の男性医師です。この医師は、2016年10月から2017年6月にかけ、乳がん検診や健康診断で触診をおこなう際に、カバンに仕込んだスマホで女性の裸の盗撮をおこないました。さらに、泥酔状態で搬送された30代女性の服を脱がせて胸を触り盗撮したことも発覚しました。大阪府警岸和田署はこの医師を逮捕し2017年9月6日に送検し、報道によれば男性医師は容疑を認めているそうです。

 もうひとつの事件は香川県の30代の男性医師です。2016年夏頃、小児科医として勤務していた同県の病院で、個室に入院中の小学生の女児の服を脱がせ、スマートフォンで体を撮影しました。さらに、2017年7月24日には、やはり個室に入院中の5歳の女児の体をなめたことが発覚し逮捕されました。報道によれば、この男性医師は「同じようなことを今までもしている」と供述しています。

 これらは一般市民を裏切る許せない犯罪であり、もちろんこのような医師達に同情する医療者はおらず、医師の掲示板を見てみてもこの医師達を擁護する意見は(当然ですが)皆無です。

 私自身もこういう医師は二度と医療の現場に戻ってはいけないと考えています。その理由は「おそらく同じことを繰り返すから」です。これは私の個人的見解ですが、盗撮や小児愛もこのレベルまでいけば「病気」と考えるべきです。そしてこの「病気」は治りません。

 一般に、実際に人物を診ることなくマスコミなどの報道だけでその病名を推測する行為は慎むべきですが、このレベルの盗撮や小児愛は「依存症」と診断してまず間違いありません。
 
 依存症の治療は極めて困難です。そもそも治療以前に、本人が病気であるという自覚がない場合が少なくありません。したがって自ら医療機関を受診することはほとんど期待できません。同じ依存症でも、ニコチン依存症、アルコール依存症、覚醒剤依存症といった薬物依存の場合は、本人も周囲も病気であるという自覚がある場合が多いですが(それでも「無自覚」の場合も多々あります)、ギャンブル依存、買い物依存、万引き依存、性依存などは、「これば病気だ」と自覚している人の方が少ないのです。

 そして、性に関する依存症のなかでも、盗撮、痴漢、さらに小児愛といった依存症は「治ることはほとんどない」と私はみています。

 これらの依存症を細かく見ていく前に、そもそも依存症は治さなければならないのか、という根本的な問題を考えてみましょう。例えば、ニコチン依存症の人のなかに、「愛煙家にも権利がある。タバコのせいで早死にしてもそれは自分の責任。誰にも迷惑かけないのなら何か文句ある?」と言う人がいます。私は個人的には、この意見が間違っているとは考えていません。非喫煙者の前で吸わないようにしていれば、「喫煙する権利」はあっていいと思います。タバコが原因で病気になったときに必要になる医療費は税金なんだから社会に迷惑、という意見もあるようですが、そこまで冷たい社会はひどすぎる、と私は思います。この意見が通るなら、暴飲暴食をして糖尿病になった人に対しても税金を使うな、という理屈がまかり通ることになります。

 では、治さなくてもいい依存症とそうでない依存症の区別はどこにあるのでしょうか。それは「他人に危害を加えるかどうか」です。ギャンブル依存で借金を背負うと家族や友達に迷惑がかかりますが、これは貸さなければ済む話です。性依存は買春行為のみにとどめておくなら、(本人がHIVやB型肝炎などの感染症を持っていないなら)誰も傷つけることはないでしょう。

 一方、痴漢や盗撮、小児愛(買春であったとしても小児愛は禁止しなければなりません)は明らかに被害者がいます。もちろん強姦もそうです。イザベル・ユペール主演でカンヌ国際映画祭を含めいくつもの賞にノミネートされたフランス映画『エル ELLE』は、レイプでしか性的興奮を得られない男性がキーパーソンとなっています。この映画についてのみ言えば、この男性は必ずしも「悪」ではないかもしれませんが、レイプをやめることができない人物を娑婆に置いておくわけにはいきません。

 ところで、医療者のなかにはこういった「社会に存在してはいけない依存症をもつ者」がどれくらいいるのでしょうか。最近報道された事件を振り返ってみましょう。

 2017年9月3日、山形署は10代女性のスカート内を盗撮した疑いで山形県立中央病院に勤務する20代の男性医師を逮捕しました。(9月4日の共同通信)

 2017年5月25日、広島、静岡、鳥取、群馬各県警の共同捜査本部は、児童買春・ポルノ禁止法違反容疑で、大阪の30代の歯科医師、名古屋の看護師(男性)ら合計4人を逮捕しました。彼らは男児のわいせつ画像を交換していたそうです。(5月25日の時事通信)

 2017年9月4日、京都府警は施術を装い10代の少女にわいせつ行為をおこなった40代の鍼灸院院長を逮捕しました。(9月5日の共同通信)

 2016年7月24日、栃木県警は小学1年生の男児にショッピングモール内のトイレでわいせつ行為をおこなった佐野市の20代の介護福祉士を逮捕しました。(http://www.caretomo.com/carenews/18876)

 2016年4月1日、兵庫県警は障害をもつ小学4年生の男児にわいせつ行為をおこなった神戸市の30代男性の介護福祉士を逮捕しました。(2016年4月1日の産経WEST)

 医療者ばかりではありません。教育者にも小児愛者は少なくないようです。

 2017年9月7日、仙台の20代男性保育士に対し仙台地裁は懲役15年の実刑判決を下しました。この保育士は2015年10月からおよそ1年間にわたり、勤務先の保育園の女児10人にわいせつ行為をおこない動画を撮影したのです。

 ひとつひとつの報道を読んでいるときりがありません。文部科学省がウェブサイトで公開している「平成27年度公立学校教職員の人事行政状況調査について」によれば、同年度にわいせつ行為等により懲戒処分等を受けた者は224人で、過去最多を記録しているそうです。この調査は「公立学校教職員」ですから、私立は除かれていますし、先述した仙台の保育園もおそらく含まれていないでしょう。とすると、被害にあっている子供たちはまだまだ大勢いると考えるべきです。

 困ったことがあれば何でも相談してください、と10年以上言い続けている太融寺町谷口医院には、様々な依存症の悩みを話す患者さんが大勢いますし、本人に自覚がないので何とかしてほしい、と言って相談される家族やパートナーの方も少なくありません。

 ですが「依存症」の治療は本当に困難です。先述したようにニコチン依存なら薬がありますし、覚醒剤は極めて困難ですが、「覚醒剤を絶つことをその日の目標にする」ということを日々実践してもらえればなんとか断っているという人もいます。依存症の治療の基本は「初めから手を出さない」。そして、いったん依存症になると「対象から完全に離れる」ということです。そういう意味で薬物依存は治療方針が立てやすいのです。

 ですが、買い物依存の人にクレジットカードを持たないように助言したところで、現金があれば買ってしまいます。痴漢がやめられない人には「電車に乗らない」が最適ですが、これも実際には困難でしょう。

 医師であれば(医師でなくても)スマホは必携品ですし、ほとんどの科では小児も診察することになります。教師や保育士は毎日子供たちのケアをしています。ということは、医療者や教育者は、その仕事を辞めるしか方法はない、ということになります。残念ながら有効な治療法がなく、再発の可能性があり、その依存症が「犠牲者」を生み出すかもしれない場合は「退職」、さらに場合によっては「社会との交流を絶つ」以外に道はないと私は考えています。

 ではそういう人たちはどうすればいいのか。数は多くありませんが、依存症患者を積極的に診ている医療機関を探すか、自助グループ(注1)に参加することを私は勧めています。

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注1:私は一度自助グループの公開セッションに参加したことがあります。詳しくは下記を参照ください。

GINAと共に第108回(2015年6月)「依存症の治療(後編)」

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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