はやりの病気
第121回 肌が白くなる病気のいろいろ 2013/9/20
カネボウなどの一部の化粧品メーカーがスキンケア製品に配合していたロドデノールが肌を白くすることが判り現在大変な問題になっています。一部のマスコミがこの副作用を過剰に報道していることもあり、不安を抱えている人も少なくないようです。(詳しくは下記医療ニュースを参照ください)
一般に肌が白く抜ける現象を「白斑」と呼びます。白斑には様々な原因があり、そのひとつが今回のロドデノールのように、何か物質に触れることによって生じるタイプの白斑です。きちんとした病名があるわけではありませんが、病名をつけるとすると「化学物質性白斑」くらいになるかと思います。
さて、今回は「肌が白くなる疾患」についてまとめてみたいと思います。肌が白くなる疾患には様々なものがあり、簡単に治るものから、生涯つきあっていかなければならないものまで様々です。また白さの程度も様々で、周囲の皮膚と比べると少し白いかな、というものから、明らかに白くて目立って外出もためらわれる、というものまであります。
まずは軽症のものから紹介していきましょう。夏になると増える疾患に「癜風(でんぷう)」と呼ばれるものがあります。これはマラセチアという真菌(カビ)による感染症です。マラセチアは誰の皮膚にも存在しているいわゆる常在(真)菌なのですが、汗をかいて真菌が増殖しやすい環境になると一気に仲間を増やして皮膚の色を変色させます。
通常、癜風は痛みも痒みも伴いません。そして発症部位は、手足など自分で見つけやすいところではなく、胸や背中、首のうしろなど、改めて鏡をみないとわかりにくいところですから、医療機関を受診するのはそれなりに進行してからであることが多いと言えます。
癜風は、色が白く抜けるタイプ以外にも、赤くなるタイプや黒っぽくなるタイプのものもあります。一度発症すると、汗をかく季節になると必ず出るという人もいます。(実は私も20年以上ほぼ毎年この癜風が出現します。しかしこの後述べるようにすぐに治ります)
癜風は診断も治療も簡単です。疑えばその部分をピンセットやセロテープを使って検体を採取し(痛くありません)、顕微鏡で癜風そのものを確認すれば確定診断がつきます。薬は軽症であれば外用薬だけ、やや重症化していれば飲み薬を1週間程度併用すればまず間違いなく治ります。その後は再発を防ぐために、マメにシャワーをするようにしてもらいます。
癜風は夏に患者さんが増えますが、一年を通してときどき相談されるのが「老人性白斑」と呼ばれる治療の必要のないタイプの白斑です。「老人性」という名前がついていますが、実際は早ければ30代から生じます。大きくてもせいぜい1センチ未満で痛くもかゆくもありません。境界は不鮮明でよく見ないとそれほど目立ちません。相談されるのは男性よりも圧倒的に女性に多いのですが、これは女性に多いからではなくおそらく女性の方が気になるからでしょう。治療は不要です。気になる人にはコンシーラーなどでメイクするよう助言しています。
子供の顔が部分的に白くなれば単純性粃糠疹を疑うことになります。これは別名「はたけ」と呼ばれるもので頬部にできることが多いと言えます。通常かゆみはないかあっても軽度ですし、境界不鮮明でそれほどくっきりと目立つわけではありませんので放置しておくことが多いと言えます。アトピー性皮膚炎があると生じやすいと言われています。アトピーがあると鱗屑(りんせつ)と呼ばれる粉がふいたような状態になりやすく、ここを強くこすると余計に色が薄くなりますから、触りすぎるのはよくありません。
日常の診療で比較的よく遭遇して難治性の肌が白くなる病気は「尋常性白斑(じんじょうせいはくはん)」と呼ばれるものです。別名「しろなまず」とも呼ばれます。尋常性白斑は日本人の1~2%に生じると言われており決して珍しい病気ではありません。マイケル・ジャクソンもこの病気に罹患していました。
尋常性白斑の原因は免疫異常であると言われています。また他の疾患を合併していることもあり、実際に尋常性白斑から甲状腺異常や膠原病が見つかることもあります。また円形脱毛症を合併することは少なくないような印象があります。治療は、ステロイド外用のみで治ることもありますが、重症化していくこともしばしばあります。
急速に進行していくような場合にはステロイド内服を使うこともないわけではありませんが、ステロイドは長期で内服すべきではありませんし、使用量が増えていくことも避けなければなりませんから、多くの場合においてあまり現実的な治療ではありません。
ここ数年で普及してきているのは「ナローバンドUVB」と呼ばれる紫外線を当てる治療法です。大病院の皮膚科であればこの治療がおこなえる機械を置いてあるのが普通ですが、最近はクリニックでも置いているところが増えてきています。(当院には置いていませんが・・)
では、ナローバンドUVBで尋常性白斑が何事もなかったかのように完全に治るかというとそういうわけではありません。治療には長期間を要しますし、症状が改善したとしても患者さんが満足のいくレベルまでは届かない場合もあります。では、そのような場合どうするのかと言うと「化粧品」を使います。カモフラージュメイクと呼ばれるメイクが有効で、一部の化粧品メーカーが積極的に開発しています(注1)。
日常よく診る「肌が白くなる病気」でもうひとつおさえておきたいものがあります。それはきちんとした病名があるわけではありませんが、「炎症後の色素脱失」とでも呼ぶべきものです。アトピー性皮膚炎などで慢性の皮膚の炎症があると、ときに一部が白くなることがあります。また、何らかの物質で「かぶれ」を起こすと、その治癒後に肌の一部が白くなることもあります。「炎症後色素沈着」と呼ばれる炎症の後に色素沈着が残ることはよく知られていますが、その逆に色が白くなることもときどきあるのです。
何か物質に触れることによって起こる白斑をまとめてみたいと思います。ロドデノールが一躍有名になりましたが、このいわば「化学物質性白斑」とでも呼ぶべき原因物質で比較的多いのがハイドロキノンです。ハイドロキノンは美白剤として有名で一般の化粧品にも低濃度で含まれていることもあります。医療機関で処方するのは化粧品よりも高濃度であり、たしかに高い効果は期待できるのですが、色が白くなり過ぎてトラブルになることもあるのです。
また、ステロイドの副作用としての色素脱失もあります。ステロイドの副作用に色素沈着がある、と世間では”噂”されているようですが、これは間違いです。(ちなみに、このような”噂”があるのは世界広しといえども日本だけだそうです) ステロイドを外用して色素沈着が起こるのは、ステロイドによるものではなく皮膚の炎症の後の色素沈着です。しかし、ステロイドの副作用で色素脱失があるのは事実です。
産業医学の分野では、フェノール化合物による色素脱失(白斑)が有名です。特にp-t-ブチルフェノール(PTBT)と呼ばれる物質はよく知られており、過去には多くの労働者が白斑の被害に合っています。以前は粘着テープなどの原料として用いられていたそうです。
肌が白くなる病気は教科書的には今回述べた以外にも複数あります。例えば先天性の「眼皮膚白皮症」や、眼症状を伴うことの多い「Vogt-小柳-原田病」などは、医師であれば知っておかなければならない(医師国家試験対策には必須です)疾患です。しかし、日常の診療で目にする機会はあまりありません。
さて、ロドデノールに話を戻したいと思います。現時点ではロドデノールは「化学物質性白斑」とでも呼ぶべき白斑でありメカニズムは不明です。(PTBTは色素細胞に対する毒性作用が指摘されていますがロドデノールでははっきりしていません)。もしもロドデノールの白斑が、上に述べた炎症の後の一次的な色素脱失であるならばロドデノールの使用をやめれば何もしなくても治っていくはずです。色素細胞に毒性があるなら、何もしなければ治らない可能性もあります。その場合、ナローバンドUVBは治療の選択肢となるでしょうが、有効性は現時点では不明です。
白斑はロドデノールで有名になりましたが、実際の臨床の現場では「色が白くなりました」と言われて受診される原因は様々です。気になることがあればかかりつけ医に相談してみてください。
注1:カモフラージュメイクに積極的に取り組んでいる代表的なメーカーは
GRAFA(http://www.grafa.jp/individual/)
資生堂(パーフェクトカバー)(http://www.shiseido.co.jp/pc/)
マーシュフィールド(http://www.marsh-f.co.jp/)
などです。
一部の大学病院の皮膚科外来では、白斑の患者さんのためのメイクアップ外来をおこなっています。またリハビリメイクという言葉が有名になったかづきれいこさん(http://www.kazki.co.jp/rehabilimake/)は白斑のメイクにも積極的に取り組んでおられます。
参考:
トップページ:ロドデノール含有化粧品が原因の白斑
医療ニュース:2013年9月13日「ロドデノールの被害に対する”誤報”」
はやりの病気第58回(2008年6月)「カビの病気1(癜風・水虫)」
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