はやりの病気

2020年7月26日 日曜日

第203回(2020年7月) コロナ時代の風邪対策

 医療崩壊が確実に進行しています。今年(2020年)3月以降、発熱や咳のある患者さんには通常の診察時間に来てもらえなくなりましたから、当院では午前と午後の一般の外来が終わってから「発熱外来」の枠を設けています。午前も午後も1名のみの枠です。

 4月には「もう限界!」という状態になりました。なにしろ1日2人までしか診られないわけですから、希望されても当日には診ることができず、翌日まで待ってもらうこともしばしばありました。当然、当院をかかりつけ医にしている人が優先となりますから、一度も受診したことのない人はいくら希望されてもなかなか診ることができません。

 5月に入り、風邪症状の患者さんが減少し、穏やかな日常に戻っていくかと思われましたが、6月末から再び増加し始めました。しかし、1日2人の枠をこれ以上増やすことはできません。今後、「風邪症状があるから診てほしい」というすべての要望に応えられなくなることが予想されます。

 そこで今回は「コロナ時代の今、風邪をひけばどうすればいいか」を考えていきたいと思います。

 まずは、当然のことながら「風邪をひかないように日ごろから予防に努める」ことが大切ですが、これについては過去のコラム「医師が勧める風邪のセルフケア6カ条」などを参照いただくこととし、ここでは実際に風邪をひいてしまったときの対処方法を考えていきましょう。

 結論を言えば、「風邪をひいたときにはかかりつけ医に相談する」のが最善です。もちろん、軽症であり放っておいても自然に治ることが予想できる場合は相談せずに自宅安静でOKです。ただし、新型コロナの場合、初期は通常の軽度の風邪と区別がつかないことが多く、軽症だからといって新型コロナを否定できるわけではありません。一人暮らしの場合は自宅安静とし、職場には事情を話して職場の指示に従えばいいと思いますが、同居している家族がいる場合はどうするんだ、という問題がでてきます。

 可能であれば(あなたではなく)同居している家族全員にホテル暮らしなどをしてもらうのが理想ではありますが、少しの風邪症状で毎回これを実践するのは現実的ではないでしょう。その場合、できるだけ家族と顔を合わせないようにして食事の時間も別にします。完全な自宅安静ができず外出した場合は、かばんや上着は玄関に置いてリビングには持って入らないようにして直ちにシャワーを浴びるようにします。身体に付着したかもしれないウイルスを洗い流すためです。

 ここで「保健所に相談しなくていいの?」という質問に答えておきましょう。地域にもよりますが、軽度であれば保健所は新型コロナウイルスのPCR検査をまず受けてくれません。5月以降は随分ましになったとはいえ、まだまだ検査の「敷居」は高いのです。陽性者と”濃厚接触”があった場合ですら、(少なくとも大阪市では)断られていることが多いのが現実です。

 かかりつけ医を持っていない場合はどうすればいいでしょうか。「薬局で薬を……」と考えるのがひとつの選択肢になりますが、気軽に薬局に訪れるのは問題があります。コロナウイルスについては、理論的にはサージカルマスクをしていれば他人に感染させることはないのですが(参考:「新型コロナ 感染は「サージカルマスク」で防げる」)、薬局側が症状のある人の来店を断る可能性があります。ですから、医療機関だけでなく薬局に行くときも事前に電話で行っていいかどうかを確認するべきでしょう。

 医療機関よりも薬局の方が”敷居”は低いとは思いますが、日本の薬局ではできることが限られていますから、日本に住んでいる限り、診療所/クリニックにかかりつけ医を持っていた方がいいのは間違いありません(注)。実際、当院にはほぼ毎日、風邪症状の患者さんから電話やメールで問い合わせが入ります。診察時間中に医師が電話を取ることは困難ですが、看護師が話を聞いて助言をすることはできます。緊急性があればその場で医師に代わります。そして、さらに緊急性があれば、直近の「発熱外来」に来てもらうこともあります。

 電話で新型コロナが疑わしいと判断でき、ある程度重症化している場合は、患者さんには自宅待機をしてもらい、当院から保健所にPCR検査の交渉をします。患者さん自身で保健所に依頼してもたいていは断られますが、医療機関から交渉すればうまくいくことが多いのです。ただし、さほど重症でない場合は医療機関が依頼しても直ちに認めてくれるわけではありません。新型コロナは「指定感染症」に分類されており、行政のルールのもとで診療がおこなわれます。PCR検査は公費(患者負担ゼロ)でおこなえますが、その代わり検査の可否や順番については行政の指示に従わなければならないのです。

 そういった行政の立場は分かるのですが、我々からすると日ごろ診ている患者さんが辛い思いをしているときに、保健所の意向に従うわけにはいかないこともあります。実際、4月には私自身が保健所にしつこく食い下がってPCR検査を依頼したけれども断られた患者さんが新型コロナ陽性で、結果的に長期間の入院を余儀なくされました。後からその保健所から電話がかかってきたとき、「だから、あれほど言ったのに!!」と怒鳴りたくなる衝動を抑えるのに苦労しました。

 そういう経験もあるために、保健所の方針は理解はできるのですが、我々としてもなんとかして保健所の職員を説得せねばなりません。そこで、新型コロナは疑われるが軽症の場合は、まず当院の「発熱外来」に受診してもらい、必要に応じてレントゲン撮影や採血をおこないます。あまり知られていないかもしれませんが、新型コロナに感染すると血液検査では特徴的な結果がでることがあります。リンパ球低下、LDH高値、C反応性蛋白上昇、腎機能悪化、d-dimer高値などです。特にd-dimerが上昇しているケースは、新型コロナを強く疑う根拠になり、これを保健所に伝えればたいていはPCR検査OKと言われます。

 さて、話を戻すと「発熱外来」のキャパシティが少なすぎて、「需要>>供給」となり患者さんの期待に応えられない、のが現実です。7月に入り「熱があるから診てほしい。近くの医療機関からはことごとく拒否されている」という問い合わせがかなり増えてきています。けれども、先述したように、当院としては、日ごろ当院をかかりつけ医にしている人からの依頼には応えていますが、当院未受診の患者さんには対応できません。

 他の医療機関の悪口は言いたくないのですが、熱がある、あるいは咳があるというだけで診察を拒否する医療機関が増えています。実は上述した保健所から検査を拒否され続けた新型コロナの患者さんも10軒以上の近くのクリニックから受診拒否され、仕方なく車で1時間以上かけて当院を受診されたのです。

 しかし、もちろんそのような医療機関ばかりではありません。当院が実施しているように、一般の患者さんと時間を分けて診察をし、必要あれば保健所へPCRの交渉をしてくれたり、大きな病院への入院の手続きをしてくれたりする医師も少なからずいます。

 谷口医院は、14年前の開業時から「他院から断られ、行き場をなくした患者さん」を積極的に診てきました。もちろん、その後は近くを受診するように促しますが、現在も他府県から長時間かけて来られる人は少なくありません。受診する時間がないときはメールや(皮膚疾患の場合)写真を送ってもらい診察しています。風邪症状の場合は、メールや電話で状況を聞いて、患者さんが希望されれば当院まで来てもらっていました。しかし、コロナの時代はそうはいきません。公共交通機関が使えませんし、先述したように「発熱外来」の枠は1日2枠しかとれないからです。
 
 発熱があるという理由で「うちは診ないから自分でなんとかしなさい」という医療機関が多いのは明らかに問題です。ですが、大切なのはそういう医療機関を糾弾することではなく、そういうところは無視して、あなた自身が困ったときに何でも相談できるかかりつけ医を”近くで”見つけることです。これが「コロナ時代の風邪対策」の最重要事項なのです。

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注:これは海外に行くと異なります。日本では医療機関でしか処方できない薬を薬局で買えるという事実もありますが、それ以上に国民が薬剤師を信頼しているように見えます。例えば、タイでは国民は何かあれば薬局にいる薬剤師を頼りにします。薬剤師がまるで医師がおこなうような問診をし、軽症なら薬のみで、治療が必要であればきちんと医療機関を紹介します。私は初めてタイ人からこういった話を聞いたときに大変驚かされました。尚、日本の薬剤師がタイの薬剤師より劣っているわけではありません。日本では制度上、薬剤師ができないことが多いのです。

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

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