はやりの病気
2013年6月17日 月曜日
第108回(2012年8月) 複雑化する水虫・カビの治療
皮膚に感染するカビの治療が次第に難しくなっているような気がしています。
皮膚に感染するカビ(以下「皮膚真菌症」と呼びます)というのは、代表が水虫などをきたす白癬(はくせん)(「皮膚糸状菌」)で、他にはカンジダと癜風(でんぷう)があり、それ以外のものは稀です。
これらの治療がさほどむつかしくなかったのは、少し乱暴な言い方をすれば、「診断さえつけてしまえば後は抗真菌薬の塗り薬で治った」からです。つまり、皮膚真菌症の診療のポイントは、顕微鏡を使って迅速に正確な診断をつけることにあり、いったん皮膚真菌症の診断が確定すれば、それは治癒したも同然だったわけです。しかも、これまでは真菌の種類が白癬菌であろうが、カンジダであろうが、ほとんどどの抗真菌薬でも効いていましたから、真菌の種類までは鑑別しなくてもよかったのです。
ところが、数年前から(私の個人的な印象では2011年くらいから加速度的に)単に診断をつければいい、というものではなくなってきています。つまり、その真菌が何なのかをまずきちんと鑑別し、重症度に応じて外用薬を使い分け、さらに内服薬の選択にも注意しなければならなくなっているのです。
皮膚真菌症の治療がむつかしくなった3つの理由を紹介したいと思います。
まずひとつめは、水虫の原因の白癬菌(皮膚糸状菌)に、以前は効いていた抗真菌薬が効かなくなってきている、ということです。例えば、ケトコナゾール(商品名は「ニゾラール」など)という外用薬があります。ケトコナゾールが便利なのは、脂漏性皮膚炎というマラセチア(真菌の名前)が関与している皮膚炎に対しても処方することが可能だからです。さらにケトコナゾールはマラセチアだけでなくカンジダにも白癬菌にも有効だったのです。つまり、ケトコナゾール1種類だけで、脂漏性皮膚炎、癜風、カンジダ性皮膚炎、白癬菌(足の水虫、いんきんたむしなど)、その他多くの皮膚真菌症に対処できたわけです。
ところが、最近はケトコナゾールが効かない水虫やカンジダが増えてきています。もっとも、これは理論的には昔から言われていたことではあるのですが、実際にはほとんどの症例で効いていましたし、もちろん保険適用もありますから、ケトコナゾールだけで充分だったというわけです。現在、私は、脂漏性皮膚炎と癜風にはケトコナゾールを積極的に処方していますが、カンジダや白癬菌には処方しないようにしています。代わりに理論的にもよく効くとされている比較的新しい抗真菌薬を処方しています。
皮膚真菌症の重症例には内服薬を用います。保険適用があるのはテルビナフィン(商品名は「ラミシール」など)とイトラコナゾール(商品名は「イトリゾール」など)です。テルビナフィンは白癬菌にはよく効きますが、カンジダや癜風にはあまり効きません。そして私の印象で言えばこの傾向が以前よりも増してきています。イトラコナゾールは他の薬を飲んでいると使いにくいことがあり、やむをえずカンジダにテルビナフィンを使うことがあるのですが、これが最近はほとんど無効になってきているのです。つまり、外用だけでなく内服もしっかりと選択しなければならなくなってきた、というわけです。
皮膚真菌症はどうやって診断するの?という疑問に答えておきたいと思います。真菌の診断はとても簡単で、患部から少し剥がれた皮膚(鱗屑といいます)を採り、それを顕微鏡で観察すれば終わりです。なかには顕微鏡だけでは診断がつきにくいものもありますが、通常は真菌の有無、そしてそれが白癬菌なのかカンジダなのかマラセチアなのか、というのは形状から比較的簡単に鑑別がつきます(注1)。
皮膚真菌症の治療が困難になっている2つめの理由は「ペットからの感染が増加している」ということです。
ペットから感染する皮膚真菌症は、白癬菌(水虫)のように足や股間に多いのではなく、手や首などペットに接する部位に多いという特徴があります。Mycrosporum canisという真菌はネコやイヌに多く炎症が強いのが特徴です。最近はいろんな種類のペットが普及してきて、モルモットからArthroderma benhamiaeという真菌が感染、Trichophyton mentagrophytesという真菌がウサギから感染、といった症例がときどきあります。また、牛の飼育をしている人の手にはTrichophyton verrucosumという真菌が感染することがあるそうです。
こういったペットから感染する皮膚真菌症は、白癬菌に比べると、炎症が強く、ときには真っ赤に腫れているようにみえることもあります。このため、積極的にペットからの感染を考えないと見逃してしまいます。「身体に湿疹ができました」と言って受診される患者さんに「ペットを飼っていますか?」と尋ねると、「何でそんなことを聞くの?」というような顔をされることがありますが、これはペットからの皮膚感染(真菌だけでなくときに細菌感染やダニを疑っていることもあります)の可能性を考えているからです。
皮膚真菌症というのは見た目は湿疹と変わりません。ですから、充分に問診をせずに真菌症の可能性を考えず、顕微鏡の検査を省略してしまうとたいへんやっかいなことになります。つまり、湿疹と考えてステロイド外用を処方してしまうと一向に治らないどころか余計に悪化してしまうのです。「ステロイドは安易に処方してはいけない。少しでも可能性があれば真菌症を除外しなければならない」というのが基本中の基本です。
ステロイドを安易に処方してしまうとさらにやっかいなことがあります。よく「前医でステロイドを処方してもらったけどよくならないから受診しました」という患者さんがいて、顕微鏡で真菌がみつかり「これは湿疹でなくて真菌症です。だからステロイドをやめて抗真菌薬を使いましょう」となり、ここまではいいのですが、こういうケースではステロイドから抗真菌薬に切り替えたことで一気に悪化することがあるのです。これを「id反応」といって、ステロイドを突然やめるとこのような現象が起こることがあります。この場合、ステロイドを少しずつ弱めながら徐々に抗真菌薬に切り替えていく、という方針をとらなければなりません。このことだけを考えてもステロイドは安易に使うべきでないということが分かると思います。薬局でステロイドを(自己判断で)購入するときはこういったことにも注意しなければなりません。
さて、皮膚真菌症の治療が困難になっている3つめの理由は、マスコミが言うところの「新型水虫」というものです。「新型水虫」という表現は正しくなく、正確にはTrichophyton tonsurans(トリコフィトン・トンスランス、以下「トンスランス」とします)という真菌で、格闘家の間では以前から有名だったものです。(つまり別に「新型」というわけではありません) 格闘技を通して人間の皮膚から皮膚に感染(もしくは畳などを介して感染)することが多く、日本でも2000年代に入ってから増加傾向にあります。最近になってマスコミが取り上げだしたのは、2012年4月から中学で武道が必修となり、柔道を選択する生徒の間で流行するのではないか、とみられているからです。
トンスランスはときに難治性となり、頭部に感染すると脱毛が起こり、痛みに悩まされることもあります。こうなると塗り薬では改善せず飲み薬を使わなければなりません。しかし、日本では保険診療で認められている飲み薬の量が非常に少なく(海外での標準の使用量の半分しか認められていません)治療に難渋することがあります。特に格闘家は体重が重いことが多く、薬の使用量を増やさなければ効かないケースが多いのです。
では、今回の内容をまとめておきましょう。
1、まず基本中の基本として、皮膚真菌症を疑えば必ず顕微鏡の検査で診断をつける。(確定診断がついていないのに抗真菌薬を使うべきでない)
2、 以前は、真菌がいるかどうかの診断をつけるだけでよかったが、最近はそれが白癬菌なのか、カンジダなのか、マラセチアなのか、といった鑑別も必要。菌種によって抗真菌薬の効き具合が異なることが増えてきた。
3、内服薬も菌種によって効き具合に差がでてきている。テルビナフィン(ラミシール)は白癬菌には有効だが、カンジダにはほとんど効かないと考えるべき。
4、ペットからの感染は炎症が強く湿疹と誤診しやすい。このため疑えば医療機関を受診したときにペットについて話をするべき。
5、格闘家の間で流行している「トンスランス」はときに難治性。今後中学の武道必修化で感染する生徒が増加する可能性もある。
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注1:抗真菌薬(内服も外用も)を処方するときは必ず顕微鏡で真菌を確認するのが原則です。過去に何度か患者さんから「爪の水虫は顕微鏡で見つけにくいんでしょ」と言われたことがありますが、そんなことはありません。というより、(爪の水虫の)診断がついていないのに抗真菌薬を使うことはやめるべきです。
参考:はやりの病気
第5回(2005年4月) 「水虫」
第58回(2008年6月) 「カビの病気1(癜風・水虫)」
第59回(2008年7月) 「カビの病気2(カンジダ)」
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|2013年6月15日 土曜日
第107回 薬疹 2012/7/20
薬疹を定義づけると、「薬剤を内服した後、または注射をした後に皮膚や粘膜になんらかの症状を生じるもの」となりますが、薬を処方する医師にとって、ときに薬疹は大変やっかいなものです。薬疹を引き起こしやすい薬というのはありますが、その逆に「絶対に薬疹を起こさない薬」というのはありません。健康食品やビタミン剤、あるいは漢方薬などは”安全”というイメージが世間にはありますが、これらでもときに薬疹を起こすことがあります。
我々医療者からすると、この「どんな薬でも薬疹の可能性がある」ということは、医療機関を受診するすべての患者さんに知っておいてもらいたいのですが、実際にはさほど世間に浸透しておらず、ときに患者さんは「薬疹を起こす薬を処方したあの医師を許すことはできない!」と診察室で怒りをあらわにすることがあります。
例えば、このような例がありました。
30代男性のA氏は、前医で前立腺炎の診断を受け「セルニルトン」という薬を処方され、その2日後に全身に湿疹が出た、と言って私の元を受診しました。セルニルトンというのは花粉からつくられた薬剤で、比較的副作用が少なく使いやすい薬剤です。しかし、たしかにときに薬疹を起こすことがあります。私はA氏に「どのような薬でも薬疹を起こすことがある。セルニルトンは前立腺炎に対して最もよく使われる薬のひとつであり、前の先生が悪いわけでは決してない」、ということを何度も説明したのですが、A氏の怒りは収まりません。3日後の再診時、A氏の皮疹はすっかりおさまっていましたが、まだ前の医師への不信感は払拭できないと言います。私は改めて、「どのような薬でも薬疹が起こりうること」を説明しましたが、どこまでA氏に伝わったのか疑問です・・・。
薬疹に限らず、すべての薬には副作用があります。我々医療者は薬を処方するときに、頻度の高い副作用や重症度の高い副作用については処方時に説明をおこないますが、「どこまで説明すべきか」というのは常に悩まされます。患者さんの側からすれば、「可能性があるならすべて説明してほしい」ということになるかもしれませんが、可能性のあるものをすべて説明するなどということは現実的には不可能です。
例えば、比較的高頻度で用いられる抗生物質にレボフロキサシン(商品名は「クラビット」など)があります。レボフロキサシンの添付文書に記載のある副作用を注1に記しますが、これをすべて診察室で説明するのは到底不可能ということがお分りいただけるかと思います。ここで重要なことはレボフロキサシンが何も特別な薬であるわけではなく、多くの薬剤は同じようにたくさんの副作用の可能性があるということです。薬と一緒に患者さんに渡す紙にはいくつかの副作用について記載していますが、おこりうる副作用のすべてをカバーできるわけではないのです。
しかし、薬疹を起こしやすい薬があるのは事実であり、そのような薬に対しては処方時に医師や薬剤師は薬疹の注意点を説明します。例えば、先に述べたレボフロキサシンはニューキノロン系というグループに分類される抗生物質ですが、ニューキノロン系の抗生物質のいくつかは比較的「薬剤性光線過敏症」を起こしやすい傾向にあります。ですから、私はそのような薬を処方するときはできるだけ処方時に話をするようにしています。
レボフロキサシンは、ニューキノロン系の抗生物質のなかでは、「薬剤性光線過敏症」を起こしにくい、とされていますが、まったく起こさないわけではありません。また、薬疹の最重症型で命を落とすこともある(後述する)「Stevens-Johnson症候群」を起こす可能性もあります。しかし私はレボフロキサシンを処方するときにこれらの副作用について話をしていません。「それは無責任ではないか」という声もあるでしょうが、頻度がそれほど多くない副作用まで説明する余裕はとてもないのです。
薬疹の可能性についてあらかじめ説明するのはどのような薬を処方するときか、というのは医師によって異なると思います。私の場合、精神疾患に用いるいくつかの薬、高血圧に使う薬の一部、抗生物質の一部(先にあげたニューキノロン系の薬剤性光線過敏症も含みます)、解熱鎮痛剤の一部、(現在はほとんど処方していませんが)リウマチに使う薬や抗ガン剤の一部、などです。
あらかじめ薬疹が起こりうることを説明しておくと、実際におこったときもほとんどの患者さんはあわてずに対処してくれます。電話で問い合わされることもありますし、直接受診されることもあります。この場合、薬疹に関する治療をおこない、二度とその薬を使うべきでないことを説明します。
ときどきあるのが、複数の薬を内服していて薬疹と思われる皮疹が出現した、というケースです。この場合は、原則としてすべての薬を中止してもらい様子をみます。どの薬で薬疹が生じたのか、というのは当然知りたくなりますが、実はこれを調べるのは簡単ではありません。血液検査で調べる方法もないわけではないのですが、それほど精度の高いものではありません。ではどうするかというと、入院してもらって、可能性のある薬剤を少量から実際に内服してもらうことがあります(これを「チャレンジテスト」と呼びます)。しかし、肝臓など皮膚以外の組織にも影響がでているような場合はこのような検査は大変危険なものになりかねませんから安易にすべきではありませんし、そもそも原因の薬剤を調べるために1~2週間の入院ができる人はそれほど多くありません。現実的には、可能性のある複数の薬剤の使用を今後は控える、ということで対処していくことになります。
薬疹はときに命にかかわることもあります。Stevens-Johnson症候群と呼ばれる最重症型の薬疹は、別名「皮膚粘膜眼症候群」とも言い、口腔内、外陰部、結膜や角膜に強い炎症が起こり、死に至ることもありますし、命は助かっても失明することもあります。この薬疹はそれほど多いわけではありませんが、私の印象で言えば、「薬疹を起こすことが多いとされている薬」で起こしやすいわけではありません。私はこれまで日本では2例しか経験したことがありませんが、いずれも原因となる薬剤は特定できませんでした。この薬疹は何らかの免疫系の異常があれば起こりやすく、実際、私がボランティアをしていたタイのエイズ施設では疑い例も含めるとけっこうな割合で認めました。しかしどの症例でも原因となる薬剤の特定はできませんでした。
私は経験がありませんが、アセトアミノフェン(注2)でStevens-Johnson症候群が起こることもあるとされています。アセトアミノフェンは市販の風邪薬や頭痛薬などにもよく配合されている解熱鎮痛剤ですが、他の鎮痛剤と比べると、胃腸障害や心臓や腎臓への負担が少なく大変優れた薬剤と言えます。そのアセトアミノフェンでさえ、ときに死に至る薬疹となるStevens-Johnson症候群を起こすことがあるわけです。また、Stevens-Johnson症候群と同じように最重症型に分類される急性汎発性発疹性膿疱症や中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)が発症したという報告もあります。繰り返しになりますが、アセトアミノフェンは薬局で誰でも買える解熱鎮痛剤で、他の解熱鎮痛剤に比べると副作用が少ないのが特徴なのです。誤解のないように付記しておくと、私は「アセトアミノフェンは危険な薬だから使用しないで」と言っているわけではありません。むしろその逆で、解熱鎮痛剤が必要な患者さんに私が最も処方することの多いのがアセトアミノフェンです。
何だか薬の怖い話ばかり聞かされて薬を飲むのがイヤになった・・・。そのように感じた人もいるかもしれません。しかしほとんどの人にとって、薬とはなくてはならないものであることは事実です。
では、どうすればいいか・・。月並みな言い方ですが、やはり薬を処方されるときには医師や薬剤師の説明をよく聞くこと、薬を使って何か体調に異変が起こったときは直ちに医療機関に問い合わせることが重要です。薬局で薬を購入するときも薬剤師の話をよく聞く必要があります。薬疹に限らず薬で重篤な副作用がでたときは、救済してもらえる制度もあります(注3)。ただしこの救済制度は、医療機関で処方された薬か薬局で購入したものに限られます。例えばインターネットで個人輸入したような薬は適応されませんのでご注意ください。
すべての薬は薬疹を起こす可能性があり、薬疹には命にかかわる重症型のものもある・・・。このことは大変重要なのですが、これを理解されている患者さんは多くないように思えてなりません。小学校の保健の時間などを利用して、このことを周知してもらうことはできないでしょうか・・・。
注1:レボフロキサシン(商品名は「クラビット」など)の添付文書上の副作用は下記の通りです。
1)ショック,アナフィラキシー様症状(初期症状:紅斑,悪寒,呼吸困難等) 2)中毒性表皮壊死症(Lyell症候群),皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群) 3)痙攣 4)QT延長 5)急性腎不全,間質性腎炎 6)劇症肝炎,肝機能障害,黄疸(初期症状:嘔気・嘔吐,食欲不振,倦怠感,そう痒等) 7)汎血球減少症,血小板減少,溶血性貧血,無顆粒球症(初期症状:発熱,咽頭痛,倦怠感,Hb尿等) 8)間質性肺炎,好酸球性肺炎(症状:発熱,咳嗽,呼吸困難,胸部X線異常,好酸球増加等)(処置方法:副腎皮質ホルモン剤投与等) 9)偽膜性大腸炎等の血便を伴う重篤な大腸炎(症状:腹痛,頻回の下痢等) 10)横紋筋融解症(急激な腎機能悪化を伴うことがある)(症状:筋肉痛,脱力感,CK上昇,血中及び尿中ミオグロビン上昇等) 11)低血糖〔糖尿病患者(特にスルホニルウレア系薬剤やインスリン製剤等を投与している患者),腎機能障害患者で現れやすい〕 12)アキレス腱炎,腱断裂等の腱障害(症状:腱周辺の痛み,浮腫等)(60歳以上の患者,コルチコステロイド剤を併用している患者,臓器移植の既往のある患者で現れやすい) 13)錯乱,せん妄,抑うつ等の精神症状 14)過敏性血管炎(症状:発熱,腹痛,関節痛,紫斑,斑状血疹,皮膚生検で白血球破砕性血管炎等) 15)重症筋無力症の悪化 〈その他〉→必要に応じ中止等処置 1)過敏症(発疹等,浮腫,蕁麻疹,熱感,光線過敏症,そう痒等) 2)精神神経系(振戦,しびれ感,不眠,めまい,頭痛,幻覚,傾眠,意識障害,末梢神経障害,ぼんやり,錐体外路障害) 3)腎臓(BUN・クレアチニンの上昇,血尿,尿蛋白陽性) 4)肝臓(AST・ALT・Al-P・γ-GTP上昇,LDH上昇,肝機能異常,血中ビリルビン増加) 5)血液(白血球減少,好酸球増加等,貧血,好中球数減少,血小板数減少,リンパ球数減少) 6)消化器(悪心,腹痛,下痢,食欲不振,嘔吐,消化不良,口内炎,舌炎,口渇,腹部膨満感,便秘,腹部不快感,胃腸障害) 7)感覚器(耳鳴,味覚異常,視覚異常,味覚消失,無嗅覚,嗅覚錯誤) 8)循環器(動悸低血圧,頻脈) 9)その他(倦怠感,発熱,関節痛,熱感,浮腫,筋肉痛,脱力感,胸部不快感,四肢痛,咽喉乾燥,CK上昇,尿中ブドウ糖陽性)
注2:アセトアミノフェンについては下記コラムも参照ください。
メディカルエッセイ第97回(2011年2月) 「鎮痛剤を上手に使う方法」
注3:この制度を「健康被害救済制度」と呼び、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA) が業務を運営しています。詳しくは下記URLを参照ください。
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|2013年6月15日 土曜日
第106回 のどの痛み ~後編~ 2012/6/20
前回、前々回と感染症による「のどの痛み」について述べてきました。最終回の今回は感染症でない「のどの痛み」を中心にすすめていきたいと思います。
しかし、その前に、稀ではありますが、重症化し、ときに致死的になる細菌性の咽頭痛について紹介しておきます。前々回には、単なる風邪と思って気軽に考えていると突然呼吸困難となって助からないこともある「急性喉頭蓋炎」について述べました。のどの奥の方が大きく腫れ上がり空気が通らなくなってしまう病態で、起炎菌としてはインフルエンザ桿菌(インフルエンザウイルスとはまったく異なるものです)が多いと言われています。
もうひとつ、我々が注意している突然呼吸困難をきたす細菌性の感染症に「レミエール症候群」というものがあります。これは、咽頭痛の他、くびのどちらか(両側は稀)に痛みを伴います。通常、「くびの痛み」と聞けば我々はリンパ節の痛みをまず考えますが、レミエール症候群ではリンパ節ではなく、くびを縦に走っている静脈(内頸静脈)に炎症が起こります。のどに生じた炎症が内頸静脈にまで波及し、血管の中では血の塊ができます。この血の塊が血管内を移動し、肺の血管を詰まらせることもあり、こうなると突然呼吸困難をきたし、命にかかわる状態となることもあります。
レミエール症候群を疑えば原則入院となります。エコーやCTなどで静脈炎を確認し、抗生物質を投与します。血の塊ができていて血が固まりやすい状態になっているわけですから、血を固まりにくくサラサラにする薬(抗凝固薬)の投与を検討することもあります。通常1ヶ月程度は入院してもらうこととなります。起炎菌は、嫌気性菌と呼ばれる細菌であることが多く、よくある細菌性咽頭炎に用いる抗生物質が効かないことが多いと言えます。
さて、ここからは非感染性の「のどの痛み」について進めていきたいと思います。
まずは亜急性甲状腺炎です。この疾患はよくあるものではなく、私の場合、遭遇するのはだいたい年に1例くらいです。発熱と咽頭痛を訴えて受診されますが、動悸があって甲状腺に圧痛を伴う硬いものを触れれば強く疑います。ただし、実際には、甲状腺に圧痛を伴う硬いもの、は、それほど簡単に見つけられるわけではありません。しかし痛みが反対側に移動することがあり、患者さんから「最初は右が痛くて今は左が・・・」といったヒントをもらえることもあります。血液検査で甲状腺機能の亢進があればこの時点で診断確定です。
治療はステロイドを用います。最初の時点では診断がつかずに、前医で抗生物質が処方されていることもあります。(「発熱+咽頭痛」で、抗生物質を簡単に使うべきでない、というよい例のひとつです) 若い女性に多いために入院をしてもらうことはあまりありませんが、完治にいたるまでには最低でも2ヶ月くらいはかかります。
ところで、甲状腺疾患というのは、毎日のように新患の患者さんがやってくる、というわけではありませんが、甲状腺機能亢進症や低下症は決して稀ではありません。その甲状腺機能亢進症でよく使う薬(メルカゾールなど)の副作用で「無顆粒球症」といって、白血球がつくられなくなる状態になることがあります。すると、正常な免疫機能が保てなくなり、ちょっとした病原体にやられてしまいます。この場合は、直ちに薬を中止し、入院して免疫を活性化させる薬剤(γーCSF)を投与します。のどが痛くなるのは病原体のせいですが、甲状腺の薬を飲んでいなければ起こらないものですから、この咽頭炎は「感染性」というよりも「薬剤性」と考えるべきです。
甲状腺の薬(抗甲状腺薬)以外に無顆粒球症を起こす薬剤としては、精神疾患やてんかんに使う薬が多いのですが、不整脈の薬、抗生物質、痛み止め(市販のものも含めて)、胃薬(市販のものでもおこります)などもあり、実際にはありとあらゆる領域での薬剤が原因となりえます。我々が「今飲んでいる薬はありますか。あって今わからないなら調べてください」としつこく尋ねるのはこういったこともあるからなのです。
私は過去に「風邪だけみてくれたらええんや、何で他の薬まで言わなあかんねん!」とある患者さんに言われたことがありますが、常用薬をしつこく尋ねる理由のひとつが「薬剤性の咽頭炎」の可能性を考えているからです。また、何か薬を処方するときには、今飲んでいる薬との飲み合わせ(相互作用)を考えなければなりませんから、そういう意味でも、今飲んでいる(もしくはしばらく前まで飲んでいた)薬の情報は絶対に必要なものなのです。(ですから、医療機関はなるべく変更せずに、どんな疾患でも相談できる「かかりつけ医」を持っておくべきなのです)
さて、ここからは頻度はぐっと下がりますが、見逃してはならない「のどの痛み」について紹介していきます。まず、絶対に見逃してはならない(とは言え、実際にはのどの痛みから診断がつくことはさほど多くはないのですが・・・)のは、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患です。虚血性心疾患の症状としては、突然の胸痛、というのが有名ですが、実際にはいろんな訴えがあります。例えば、息苦しい、胸やけがする、肩が痛い、肩こりがひどい、腕がしびれる、などですが、「のどが痛い」というのも稀にあります。さすがに「のどが痛い」だけで心電図をとって狭心症の診断確定、とスムーズにことが運ぶわけではありません。たいがいは、風邪などの咽頭痛とは少し違う、と感じた時点でいろいろと質問をしたり血圧を図ったりして、疑えば心電図をとり(最近は、血液検査で迅速にわかるものも普及してきています)、診断をつけます。
虚血性心疾患以外の重要な疾患に悪性腫瘍があります。高齢者の場合は咽頭癌や喉頭癌というものがありますし、若い人でも白血病や悪性リンパ腫があればのどの痛みが生じることがあります。白血病や悪性リンパ腫では白血球がつくられなくなり、このため容易に感染症を起こしてしまうからです。(先に述べた無顆粒球症と似たような状態です)
神経痛でものどの痛みが起こることがあります。具体的には、舌咽神経痛、三叉神経痛、上喉頭神経痛などで、これらが痛む理由は様々です。最も多いのが「特発性」と言って原因がよくわからないものなのですが、なかには原因がはっきりしていて二次的に起こっているものもあり、この場合は原疾患への治療が必要となります。ヘルペスウイルスが関与していたり、神経鞘と呼ばれる神経を覆う鞘(さや)に腫瘍ができていたり、また多発性硬化症という脳の疾患が原因になっていることもあります。
太融寺町谷口医院も含めて、総合診療やプライマリケアの現場では、のどの痛みの原因が「心因性」ということもよくあります。不定愁訴(下記コラムも参照ください)のひとつとしてのどの痛みが生じることもありますし、なかにはガンやHIVに罹患しているに違いないと思い込んで、その不安から咽頭痛を訴える人もいます。(しかし、そのなかで実際にHIVや悪性腫瘍がみつかることがあるのも事実です)
さて、これまで3回にわたり「のどの痛み」について述べてきました。一言で「のどの痛み」といっても実に様々な原因があることがお分りいただけたでしょうか。「のどが痛いから抗生物質をください」というのが適切でないことも、短期間で命を落としかねないのどの痛みがあるということも、生涯にわたり苦しめられる疾患の最初の症状がのどの痛みであるということもお分りいただけたのではないか、と思います。
最後に「のどの痛み」についてまとめておきたいと思います。
・ のどの痛みには、感染性と非感染性がある。
・感染性のものには、ウイルス性、細菌性、真菌性があり、頻度は、ウイルス性が大半で細菌性は全体からみればさほど多くない。真菌性はわずか。
・ 抗生物質は細菌性には有用なことが多いが、ウイルス性のものには意味がない。
・細菌性かウイルス性かの鑑別におこなう血液検査は結果がでるまでに時間がかかる。顕微鏡検査(グラム染色)は、早くて安くて大変有用。
・ 細菌性咽頭炎には、インフルエンザ桿菌、肺炎球菌、溶連菌などの「通常の細菌」と、百日咳、マイコプラズマ、クラミジア(ニューモニエ)などの「非定型」のものがあり、使用すべき抗生物質が異なる。
・ウイルス性のものは軽症ですむことが多いが、インフルエンザウイルスは早期発見・早期治療が必要となることも多い。
・ 頻度は多くないが、ウイルス性ののどの痛みに、EBウイルス、HIV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、などもある。
・カンジダによるのどの痛みもある。ステロイド使用時でなければ、基礎疾患(膠原病やHIVなど)が潜んでいることもある。
・重症化する細菌性ののどの痛みとして、急性喉頭蓋炎とレミエール症候群が重要。
・非感染性のものとしては、亜急性甲状腺炎、薬剤性、虚血性心疾患、悪性腫瘍、神経痛などがある。また心因性のものも少なくない。
参考:はやりの病気
第91回(2011年3月) 「不定愁訴という病」
第82回(2010年6月) 「熱のない長引く咳は百日咳かも・・・」
第76回(2009年12月) 「インフルエンザ菌とそのワクチン」
第74回(2009年10月) 「混乱する新型インフルエンザ」
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|2013年6月15日 土曜日
第105回 のどの痛み ~中編~ 2012/5/20
前回は「のどの痛み」の原因として、感染性と非感染性にわけて考えるべきで、感染性はウイルス性と細菌性がほとんど、という話をしました。今回は、細菌性のものをもう少し詳しくお話したいのですが、その前に頻度の少ない真菌性のものを片付けておきたいと思います。
真菌性ののどの痛みで受診される人は月に1人いるかどうかという程度で、原因はほとんどがカンジダです。カンジダというのは誰の身体にもどこかにはいる真菌(これを常在真菌と呼びます)であり、カンジダが”いる”だけでは問題がないのですが、ときに咽頭で異常増殖することがあり、こうなると痛みがでてきて飲み薬も必要になります。
カンジダが原因ののどの痛みとして一番多いのが、喘息の治療でステロイドを吸入している場合です。喘息にステロイド吸入薬は大変すぐれた薬剤であり、ガイドライン上も第1選択薬として推奨されていますし、副作用はほとんどありません。しかし、吸入後にうがいをすることが必要です。このうがいを怠るとカンジダ性の咽頭炎をおこすことがあるのです。また、ステロイドを長期間内服している場合にもカンジダ性咽頭炎はときどきおこります。
カンジダは視診から推測することができます。咽頭が真っ赤に腫れあがり白いものが付着しています。細菌性の扁桃炎などでも白い膿のようなものが見られることがありますが、細菌性扁桃炎では通常両側(もしくは片側)の扁桃に白いものがついているのに対して、カンジダ性咽頭炎の場合は、扁桃ではなく奥の咽頭についていることが多いからです。その白い部分を綿棒などで採取し、顕微鏡でカンジダそのものをみつけて診断を確定します。
カンジダ性咽頭炎の診断がついたけれどもステロイドを使っていない、となると、なんらかの免疫系の疾患を疑うことになります。太融寺町谷口医院では、50代女性でシェーグレン症候群という膠原病がみつかった症例、30代の男性でHIVがみつかった症例、などがあります(注1)。
他の真菌によるのどの痛みとしてカリニ肺炎(以前は真菌でなく原虫の仲間と考えられていましたが現在は真菌と言われています)がありますが、それほど頻度は多くありません。通常はのどの痛みよりは咳と呼吸苦を訴えます。私はタイのエイズ施設で何十例というカリニ肺炎を診てきましたが、日本では免疫抑制剤を使っている人に発症した数例しか経験がありません。
その他の真菌による呼吸器感染症としてクリプトコッカスというものがあり、通常は免疫力が低下した人に生じるものですが、ハトの糞中に生息しており健常者でも起こりうるとされています。私の場合は、タイのエイズ施設で数例を経験したのみです。
さて、ここからは細菌性の咽頭炎の「特殊なもの」について進めていきたいと思います。「特殊なもの」といっても珍しい疾患というわけでなく、診断をつけるのも治療も(溶連菌や肺炎球菌のような)一般的な細菌とは異なるもの、という意味です。
まずひとつめは百日咳です。百日咳は小児の場合は特有の咳があることから診断は比較的簡単なのですが、成人の場合はときに大変困難です。睡眠が妨げられるほどの咳になるのですが、聴診しただけで他の感染症でおこる咳と区別できるわけではありませんし、多くの場合は高熱がでません。また、レントゲンでもほとんど異常がありません。咽頭のグラム染色をおこなったからといって鑑別できるわけではありません。抗生物質は効くのですが、一般的な細菌性の咽頭炎で最も使われることの多いセフェム系やペニシリン系の抗生物質は無効です。
血液検査で比較的精度の高い抗体検査が最近普及してきて、保険診療でおこなうことも可能なのですが、値段が高い(3割負担で1,000円以上します)のと、すぐに結果が出ないのが難点です。したがって、私の場合、百日咳を疑ったときは、何らかの事情で確定診断をつけなければならないときを除けば血液検査はすすめません。そして百日咳にも効果があると予想されるマクロライド系の抗生物質を処方するようにしています。
百日咳と並んでよくある「特殊なもの」にマイコプラズマがあります。2010年、2011年は過去最高を記録するほどマイコプラズマが流行し、今ではすっかり有名になりました。マイコプラズマは小児の場合は、レントゲンである程度推測することができるのですが、成人ではほとんど異常がでないことの方が多いといえます。マイコプラズマは顕微鏡では観察できない小さな細菌であり、グラム染色をおこなって確定できるわけではありません。しかし、咽頭のグラム染色をおこなうと、炎症細胞が多い割に細菌像をほとんど認めないという所見があり、このような所見で咳が強い症例に対しては、マイコプラズマを疑うことになります(注2)。
このように書くとマイコプラズマと百日咳は似ているように思われますが、私の経験上、これら2つの細菌感染は咳の仕方が少し異なります。どちらも夜間眠れないほどの苦しい咳となりますが、(イメージで言うと)百日咳は大きな音を伴う空咳が続くのに対し、マイコプラズマは少し湿った感じの細かい咳が断続的に生じます。
少し前までは百日咳とマイコプラズマの鑑別をつける必要はあまりありませんでした。なぜなら、どちらであったとしてもクラリスロマイシン(注3)というマクロライド系の抗生物質で治ったからです。ところが、2010年あたりからクラリスロマイシンがまったく効かないマイコプラズマが増えだしました。そして現在では、もはやほとんど無効といっても過言ではありません。国立感染症研究所感染症情報センターは、2011年10月25日、マクロライド系に耐性のある(つまりマクロライドが無効な)マイコプラズマが89.5%にも昇るという発表をおこなっています。では、どのように治療をおこなうべきかというと、クラリスロマイシン以外のマクロライド系で有効なものがある(少なくとも現時点では私はそのように感じています)ためそれを用いるか(注4)、ニューキノロン系、テトラサイクリン系のものを処方します。
マイコプラズマと性質が似ている細菌にクラミジアがあります。クラミジアには3種類あります。クラミジア・ニューモニエ(Chlamydia pneumoniae)、クラミジア・シッタシ(Chlamydophila psittaci)、クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)の3つです(注5)。
クラミジア・ニューモニエは小児に多いとされていますが、成人にも少なくないのではないか、と私はみています。咳が主症状になりますから、子供と接することの多い成人であれば感染することは充分にあります。ただし、成人の場合は、おそらく高熱が出ることは少なく、クラミジア・ニューモニエの確定診断をつける必要性は高くないのではないかとみています。(私の印象ですが)クラミジア・ニューモニエは、マイコプラズマに比べるとマクロライド系がまだまだ有効なのではないかと思われます。
クラミジア・シッタシは、オウムやインコなどの鳥の糞が乾燥したものを吸入して発症し、別名を「オウム病」と言います。ときに重症化することもありますから、しつこい咳が続いていて、鳥の飼育歴があれば疑わなければなりません。血中抗体価(CF)を調べますが、検査結果を待たずに、疑えば有効と思われる抗生物質(マクロライド系)を用います。
クラミジア・トラコマティスは、男性の尿道炎、女性の子宮頚管炎、(性交渉の仕方によっては)男女とも直腸炎をおこしますが、ときに男女とも(やはり性交渉の仕方によっては)咽頭炎をきたします。クラミジア・トラコマティスはどの部位に感染しても無症状のことが多いのですが(尿道炎と子宮頚管炎は重症化すると自覚症状がでることがあります)、咽頭炎の場合はほぼ無症状です。慢性化すると、咽頭に違和感が生じたり、声がかすれてきたりすることがありますが、このような症状がでる例は稀だと思います。
したがって、性感染症としてのクラミジア(トラコマティス)の検査は、痛みがあるから検査が必要、ではなく、リスクのある性交渉があったから検査が必要、と考えるべきです。同様に、クラミジア・トラコマティスと同じような感染の仕方をする淋菌の場合も、大半が無症状であり、症状に対してではなくリスクに対して検査を検討すべきです(注6)。
つづく・・・
注1 カンジダは咽頭炎の他にも、口腔カンジダ症という状態も引き起こすことがあります。これは舌や頬粘膜にカンジダが異常増殖するもので、重症化すると口腔内が真っ白になります。エイズの合併症として有名です。
注2 マイコプラズマの迅速キットが2011年に発売されたのですが、操作が複雑で、インフルエンザや溶連菌の迅速キットのように簡単には扱えません。検査技師が常駐しているようなところを除けばクリニックレベルでは実施するのは困難かと思われます。当院でも、何度か導入を検討しましたが現時点では採用を見合わせています。
注3 クラリスロマイシンは一般名であり、商品名で言えば、先発品は「クラリス」と「クラリシッド」があります。現在は複数のメーカーから後発品が発売されています。当院に置いているのも後発品です。
注4 マクロライド系抗生物質には、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、アジスロマイシンの3つがあります。私の印象でいえば、マイコプラズマに対し、クラリスロマイシンとエリスロマイシンは大半が無効ですが、アジスロマイシン(商品名はジスロマック)は多くの症例で効いています。しかし、今後アジスロマイシンが多量に消費されると、アジスロマイシン耐性のマイコプラズマが急増することが予想されます。
注5 最近は「クラミジア(Chlamydia)」でなく「クラミドフィラ(Chlamydophila)」という名前で呼ばれることが増えてきました。しかしこれは、ニューモニエとシッタシについてだけであり、クラミジア・トラコマティスがクラミドフィラ・トラコマティスと呼ばれることはありません。
注6 したがって、性感染症としてのクラミジア咽頭炎や淋菌性咽頭炎を疑ったときは、検査はすべきですが、保険診療ではできないのが普通です。(症状がなくリスクがあるという理由での検査は「健康診断的な検査」とみなされるからです) ただし感染していることが判り治療が必要な場合は、検査代、治療代も含めて通常は保険診療の適用となります。
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|2013年6月15日 土曜日
第104回(2012年4月) のどの痛み ~前編~
のどが痛くて困っています、のどの痛みが引かないんです、と言って受診される患者さんは少なくありません。今回はこの「のど」の痛みの原因をみていきたいと思います。
まず「のど」の定義ですが、ここでは広い範囲の「のど」を想定します。広い範囲の「のど」、何を言っているのか分かりにくいかもしれませんが、「のど」というのは医学的な用語ではなく、我々医療者は「のど」を咽頭と喉頭にわけて考えています。しかしここでは咽頭も喉頭も「のど」とします。さらに、ここでは扁桃(昔は「扁桃腺」と呼ばれていましたが、この組織は「腺」ではないために最近では「扁桃」と呼ばれるのが普通です)も「のど」に含めたいと思います。また、もう少し範囲を広げて首の周りのリンパ節や甲状腺までも含めて「のど」としたいと思います。
さて、医師がのどの痛みを訴える患者さんを診たときに、まず考えるのはそれが感染症によるものなのか感染症でないものなのか、ということです。感染症でないのどの痛みは後で述べるとして、先に感染症としてののどの痛みをみていきましょう。
感染症の原因となる病原体は、ウイルス、細菌、真菌にわけることができます。このなかで一番多いのはウイルスで次いで細菌です。真菌は少数です。
ところで、患者さんの要望に応えることができずにしばしば問題となるのが「のどが痛いから抗生物質をください」というリクエストです。
基本的なことをおさらいしておくと、抗菌薬(抗生物質)というのは細菌に対して有効なものであり、ウイルスや真菌に対しては無効であるばかりでなく副作用のリスクを背負うことになりますから有害となることもあるわけです(注1)。
では、細菌感染とウイルス感染の比率はどの程度かと言うと、これは大規模調査などがないために断定はできませんし、小規模の研究はないことはないのですが、結果は様々です。細菌性のものが過半数を超える、とするものもあれば、1割程度とするものもあります。太融寺町谷口医院の患者さんで言えば、だいたい2~3割くらいは細菌性、残りはウイルス性、真菌性は月に1例くらいです。
ここで出てくる疑問は、では「細菌性かウイルス性かをどうやって見分けるの?」というもので、実はこれは大変むつかしい問題です。プロカルシトニンという値を血液検査で測定して細菌感染の有無の参考にするという方法はたしかにあるのですが(注2)、結果がすぐに出ないことと高価なことからあまり現実的ではありません。のどが痛いという症例では、たいがいはすぐに治療を開始すべきですから時間のかかる検査結果を待つ余裕はないのです。
細菌性かウイルス性かを自覚症状からある程度推測することは可能です。例えば、咳がなく、鼻づまりもなく、片側の痛みで、扁桃に白苔が付着しているような場合は細菌性である可能性が高いといえます。一般的に高熱は細菌性と言われていますが、これは必ずしも正しくありません。百日咳は細菌性ですが成人に感染した場合さほど熱は出ないのが普通ですし、高齢者の細菌感染では平熱であることも珍しくありません。
細菌性かウイルス性かをもっとも迅速に低価格でおこなう方法は、喀痰もしくは咽頭スワブ(のどを綿棒でぬぐったもの)をスライドガラスにひいて特殊な染色(通常はグラム染色という方法を用います)をおこない、それを顕微鏡で観察する、というものです。
誰ののどにもある程度の細菌はいますから(これを常在菌とよびます)、細菌の像が観察されるだけでは異常ではありません。観察するときに最も注意するのは白血球(炎症細胞)がどれだけ観察されるか、ということです。細菌感染の場合、通常は好中球と呼ばれる白血球が細胞を食べている(これを貪食(どんしょく)といいます)ところが観察されます。好中球の数が多ければそれだけ「炎症が強い」と考えられ、その好中球に食べられている細菌の像が、円形なのか棒状なのか、また何色に染まっているのか、で、だいたいの細菌の種類の見当をつけることができます。そして予想される細菌によく効くと考えられる抗菌薬を選択することになります。
細菌が原因だったとしても風邪は風邪で重症化しない、と思っている人がいるとするとそれは誤りです。急性喉頭蓋炎といって、のどの下の方が腫れあがり空気が通らなくなり、突然呼吸困難をきたすことがあるのです。インフルエンザ桿菌(後で述べるインフルエンザウイルスとはまったく異なるものです)が原因のことが多いと言われていますが、先に紹介した溶連菌でもおこりえます。呼吸困難に移行することが疑われれば直ちに救急車で入院できる病院に行ってもらうことになりますし、救急車のなかで(あるいはクリニックで)気道確保をしなければならないこともないわけではありません。
ウイルス感染の場合は、顕微鏡の検査で白血球はあまり観察されないのが普通です。ですから、風邪症状を強く訴えられても、のどの顕微鏡上の炎症所見がさほど強くなければ、細菌性ではないと考え、抗菌薬は処方しません。(ただし、感染初期にはそれほど白血球が集まってこないこともあり注意深い経過観察が必要になることもあります)
ウイルスといっても様々なものがありますが、たいていは軽症で済むために、なんという名前のウイルスがいるかということは通常は調べません。咽頭炎を引き起こすウイルスには、代表的なものがライノウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、などです。子供の夏風邪として有名なヘルパンギーナはコクサッキーウイルスが原因であることが多く、手足口病の原因はコクサッキーウイルス以外にエンテロウイルスのこともあります。
ウイルスが原因ののどの痛みで見逃してはいけないものの代表はインフルエンザウイルスです。インフルエンザに関しては、早期診断が大切ですから、上に挙げた他のウイルスとは異なり、疑われれば直ちに迅速検査(5~15分くらいで結果がでます)をおこなうことになります。(ただし感染直後は正確な結果がでないこともあります)
インフルエンザウイルス以外で見逃してはいけないウイルスにEBウイルスがあります。これはのどが痛いだけでなく、肝機能障害をおこすために倦怠感が強くなり、また首の後ろのリンパ節が腫れることが多いという特徴があります。EBウイルスが原因のときに一部の抗菌薬を使うと全身に発疹がでることがあります。こういうこともあるために、のどが痛いというだけで抗菌薬を安易に使うようなことは止めなければならないのです。EBウイルスに比べると頻度は低下しますが、サイトメガロウイルスも同様に肝機能が悪化し似たような症状となります。EBウイルスのときもサイトメガロウイルスのときも2~4週程度の入院となることが多いといえます。
B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの初期症状の場合も、のどが痛くなり通常の風邪と似たような症状をとります。ただしこれらはあまり高熱にならず38度を超えることはほとんどありません。肝機能が悪化しますから倦怠感が強くなります。これらは通院で様子をみることもありますが、極端に肝機能が悪化している場合は入院となります。
HIVの急性感染でものどの痛みが起こることがあり、当院でも、「風邪でのどが痛いんです」といって受診されたケースでHIVが発見された症例が数例あります。HIVの場合は、B/C型肝炎ウイルスに比べて、高熱がでることが多く、また皮疹が出ることも多いのですが、なかには37度台で皮疹もまったくなかった、という人もいます。このようなHIV急性感染の場合は、まだ抗体が形成されておらず、保健所などでおこなっている抗体検査では正確な結果がでないために、遺伝子検査(NAT、PCR)をおこなう必要があります。
つづく・・・。
注1:では、細菌性以外の咽頭炎に抗菌薬がまったく無効かと言われれば、実はそうでもありません。抗菌薬の主目的は「細菌をやっつける」ことですが、それ以外にも「炎症を抑える」ことができる抗菌薬もあります。例えば、クラリスロマイシンなどのマクロライド系の抗菌薬にはこの作用があり、そのため例えばインフルエンザウイルスによる上気道炎に対して内服すると症状が緩和されることがあります。しかし、このような目的は抗菌薬の使用を不必要に増やすことにつながりますから安易に使うべきではありません。
注2:プロカルシトニン以外の血液検査で分かる項目としては、白血球の総数、好中球・リンパ球の割合、C反応性蛋白(CRP)、血沈(ESR)などがあり、これらは比較的短時間で結果がでますが、プロカルシトニンに比べれば、細菌性かウイルス性かの鑑別にそれほど有用なわけではありません。
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|2013年6月15日 土曜日
第103回 壮年型脱毛症(AGA)はどこまで改善するか 2012/3/20
壮年型脱毛症(男性型脱毛症、Androgenic Alopecia、以下AGAとします)は、寿命には関係ないものの多くの男性に小さくない影響を与えます。AGAの治療は、現在保険診療はできませんから、厚生労働省もAGAを「病気」とは見ていません。もちろん、AGAがある人のなかには、それをあまり気にしておらず、AGAを「病気」とみなされることを嫌がる人もいるでしょう。しかし、なかにはAGAから抑うつ状態になり、人と合うことを避け、ひどい場合は引きこもった状態になったりする人がいるのも事実です。こうなれば、広義的には「病気」とみるべきかもしれません。
AGAの治療は大昔から試みられており、世界各国でいろんな「秘薬」が開発されてきました。たしか私が中学生のときだったと思いますが、中国の奥地に効果抜群の発毛剤がありそれを買いに行くツアーがある、という記事をお好み焼き屋に置いてあった週刊誌で読んだ記憶があります。
しかし、実際に有効な発毛剤などというのは長い間存在せず、昔から医療機関で処方されていたカルプロニウム塩化物(商品名は「フロジン」)ですら効果はほとんど期待できません。製薬会社から反感を買うことを承知で言いますが、カルプロニウム塩化物でAGAが治ったという人を私はいまだに見たことがありません(注1)。
そんななか、1990年代に画期的なAGAの治療薬が2つも登場しました。1つはフィナステリド(商品名は「プロペシア」)、もうひとつはミノキシジル(商品名は「リアップ」)で、いずれもアメリカの製薬会社が開発したものです。
プロペシア(一般名のフィナステリドよりも名前が通っているためにここからは「プロペシア」で統一します)は米国メルク社で開発され、1997年にFDA(米国食品医薬品局)に「AGAの治療薬」として認可されました。それから8年後の2005年、日本でも厚労省に認可され一般の医療機関で処方できるようになりました。
プロペシアの作用機序についてはいろんなサイトでも紹介されていますが、ごく簡単に復習しておきたいと思います。まず、脱毛を促進する原因にDHT(ジヒドロテストステロン)という物質があります。DHTは男性ホルモンであるテストステロンが還元されたものです。(「還元」という言葉がむつかしければ、「テストステロンの形が少しだけ変わったものがDHT」と考えて差し支えありません) 脱毛を防ぐには、テストステロンからDHTへの還元を阻害してやればいいわけです。テストステロンがDHTに還元されるには、ある酵素が必要であり、この酵素(5αリダクターゼといいます)の働きを抑えてあげれば結果としてテストステロン→DHTという反応が少なくなるはずです。そしてこの酵素を抑制することのできる薬がプロペシアというわけです。
テストステロンは男性にとってなくてはならない性ホルモンですから、これを少なくするような薬であれば使えません。しかし、DHTはテストステロンそのものではありませんから、テストステロンが不足したときに起こるような副作用は出ないのではないかと考えることができます。考え方によっては、テストステロン→DHTという反応が阻害されるなら、テストステロンが増えることになる、とも言えます。一方で、DHTが増えなくなることで、結果的にテストステロンの産生が下がり(注2)、副作用が起こるのではないか、という考えもあります。
プロペシアは、アメリカで発売されてから15年、日本では7年がたち、副作用の情報が数多く集積されてきました。その結果は、どうやら発売当初に考えられていたよりも、テストステロンに影響を与える可能性がある、つまりテストステロン関連の副作用がありそうです。
テストステロンが減弱すると勃起力が弱くなったり、性欲そのものが弱くなったり、といったことが考えられますが、前者はそれほど訴える人が多くないものの、後者(性欲が少なくなる)は、太融寺町谷口医院では全体の1割くらいの人が訴えます。ただし、「夫婦生活ができなくなった」とか「セックスそのものが嫌いになった」とまで言う人はおらず、(半ば冗談かもしれませんが)「性欲がほどよく減ったおかげで、無駄な時間とお金を使わなくなり、セックスは妻とだけで満足できるようになり、夫婦の仲が以前よりよくなりました。これもプロペシアのおかげです」、などと答える人もいます。
プロペシアが原因で(あるいは他のことが原因かもしれませんが)ED(勃起不全)になったような場合、バイアグラなどED改善薬を必要時に内服するという方法があります。「そこまでするくらいならプロペシアの方をやめればいいじゃないか」という考え方もあり、こういったことは人それぞれですが、実際にED改善薬を適宜使っている人もいます。ED改善薬は(お金はかかりますが)使用法に注意すれば安全に使える薬ですし、プロペシアとの併用も問題ありません。
しかし、今年(2012年)になってから重要な副作用の報告がありました。それは精子の数や性質に異常をきたし結果として不妊症につながる、というものです(下記医療ニュースを参照)。ただし、副作用が報告された症例でも、プロペシアをやめると元に戻ったそうですから「必要なときがきたら内服を中止する」という考え方でいいのかもしれません。
もうひとつの有効なAGA治療薬はミノキシジルで、これは1999年に大正製薬から1%の外用薬(リアップ)が発売されていますが、米国では80年代から市場に登場していたそうです。日本でも米国でも医薬品ではなく薬局で誰でも買える薬品として認可を受けています。しかし、日本では発売直後に、因果関係は不明であるものの、リアップを使用して死亡した例が相次ぎました。ミノキシジルは元々は降圧剤として開発されていたために、血圧低下など循環器に影響を与えた可能性があります。
リアップは1%のものだけでなく2009年には5%のものが発売されました。日本皮膚科学会の「男性型脱毛症診療ガイドライン(2010年版)」には、「5%は1%のものに比べて有意に発毛効果が認められ副作用に差はない」と記載されています。値段が高いのは難点ですが、高い発毛効果を期待するなら5%にすべきでしょう。
ミノキシジルは海外では内服も使われており、外用よりも高い効果が期待できるのは事実です。日本でも、海外出張が多い人は出張時に現地のクリニックを受診し長期処方してもらっている人もいますし、個人輸入(注3)で入手している人もいます。
今のところ、日本の製薬会社で内服のミノキシジルの販売を予定しているところは(私の知る限り)ありません。因果関係がはっきりしないとはいえ1%の外用薬でも死亡例が複数例報告されていることから考えると、なかなか踏み切れないのかもしれません。
では、プロペシアとミノキシジル以外にはどのような薬剤があるのでしょうか。日本皮膚科学会のガイドライン(2010年版)には、いくつかの治療法と推奨度が記されています。推奨度はA、B、C、Dと分類され、Aは「強く勧められる」、Dは「まったく勧められない」、B、Cはその中間と理解して差し支えありません。このガイドラインでAランクがつけられているのはプロペシアとミノキシジル外用(リアップ)だけです。Bがついているのは1つだけあり、それは「自家植毛」です。後頭部の髪を前頭部や頭頂部の薄くなった部分に移植するという方法です。
Cがついているのは、t-フラバノン、アデノシン、サイトプリン・ペンタデカン、セファランチン、ケトコナゾール(注4)、塩化カルプロニウムです。先に紹介した塩化カルプロニウム(フロジン)でCが与えられているくらいですから、他のCランクがついているものも、試してみる価値があることは否定しませんが、効果がどれだけ期待できるのか疑問です。
最後に、女性のAGAについて述べておきましょう。まず日本皮膚科学会のガイドラインではAランクがついているのはミノキシジル外用のみで、男性用のものとは異なる「リアップリジェンヌ」というものです。ですから、女性の場合は、まずはこの商品を試すのがいいでしょう。女性にはプロペシアは使えません。
それ以外の方法としては、ガイドラインでは触れられていませんが、女性ホルモンの内服というものがあります。太融寺町谷口医院には避妊や月経困難症緩和目的、あるいはざ瘡(ニキビ)の治療目的で低用量ピル(OC)を内服している女性がおられますが、「薄毛を治したい」という目的で低用量ピルを内服している人もいます。そして、この方法はそれなりに有効です(注5)。
また、きちんとデータをとったわけではありませんが、当院に通院しているGID(性同一性障害)の人で、M→F(男性→女性)の人の場合、女性ホルモンを内服してから「髪がきれいになって量も増えた」という人が複数おられます。その逆に、F→M(女性→男性)の人で、男性ホルモン(テストステロン)の服用をしてその副作用で脱毛が起こったという人も複数います(注6)。
AGAには誰にでも必ず効く「秘薬」があるわけではありません。まずは、それぞれの治療法の長所と短所を理解するところから始めるべきでしょう。
注1 AGAは保険適用がない、と本文で述べていますが、これはプロペシアやミノキシジルに保険適用がないからです。フロジンの「適応」には、はっきりと「壮年性脱毛症」と書かれていますから、AGAを保険で治療しようと思えばフロジンのみの処方なら可能です。しかし、プロペシアも合わせて処方となれば、プロペシアは自費、フロジンは保険、となり、これは混合診療に相当してしまいますから、フロジンまで自費になってしまいます。
注2 これについて書かれた文献を見たことがないのですが、例えばDHTの量が増えたことが感知されてテストステロンの産生が増加する、いわばpositive feedbackのようなメカニズムがあるならば、この理屈が説明できます。
注3 個人輸入には「まがいもの」をつかまされるというリスクがあります。外用ならまだしも内服の場合、体に害のないまがいものならまだいいのですが、有害な成分が含まれていたり、ミノキシジルが表示よりも高濃度のものが含まれていたりすると大変危険です。また、ミノキシジルは外用でも(因果関係がはっきりしないとはいえ)死亡例が報告されているくらいですから、内服の場合はきちんとした製品であっても使用には充分な注意が必要です。
注4 ケトコナゾール外用液は海外では以前から積極的に育毛剤として使われているために、当院でも処方していたことがあったのですが、残念ながらこれのみで高い発毛効果が認められた症例はほとんどありませんでした。
注5 更年期障害に用いるエストロゲン製剤でも髪が増えることがしばしばありますから、私個人としてはガイドラインに低用量ピルや他の女性ホルモン剤を入れるべきではないかと思うのですが、なぜか検討されている気配すらありません。副作用のことを考えて、ということなのかもしれませんが、それを言うなら他の薬剤でも副作用のリスクがあるわけですから、日本皮膚科学会がもう少し積極的に検討してみてもいいのではないか、と私は感じています。
注6 本文に述べたようにテストステロンが直接脱毛を促進しているのではなく、還元されたDHTが影響を与えているものと推測されます。尚、テストステロンを服用しているのはGIDの人だけではなく、男性が例えば筋肉増強の目的で使用していることもありますが、このせいで脱毛が促進することがしばしばあります。(筋肉増強などの目的でホルモン剤を内服するのは脱毛以外の副作用の観点からも決してすすめられるものではありません)
参考:医療ニュース
2012年1月20日 「プロペシアで男性不妊症の可能性」
2012年1月30日 「アメリカ製の育毛剤で健康被害の可能性」
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|2013年6月15日 土曜日
第102回 抜け毛・薄毛を再考する 2012/2/20
難治性の皮膚疾患のひとつとして、男女ともに「抜け毛・薄毛」があります。これらはどのようなタイプのものであったとしても、寿命が短くなることはありませんし、「身体的に」しんどくて日常生活が制限されることはありません。
けれども、身体的には問題がなかったとしても、「精神的に」あるいは「社会的に」は、場合によっては相当しんどくなり、”重症化”すれば、外出が妨げられたり、登校できなくなったり、就職活動ができなくなったり、・・・、と、人間らしい営みができなくなることもあります。
今回は、抜け毛・薄毛について現在おこなわれている治療や注意点をまとめていきたいと思いますが、まず初めに抜け毛・薄毛の分類から始めていきましょう。
医療機関を受診する抜け毛・薄毛で多いのが円形脱毛症と壮年性脱毛症(最近はAGAと呼ばれることが増えてきました)です。太融寺町谷口医院の患者さんで言えば、この2つで99%を占めて、2つの割合は1:1くらいです。では、その2つについて・・・、と進む前に、まずは残りの約1%を占める「他の脱毛症」を整理しておきましょう。
年に1例あるかないかという程度ですが、見逃してはいけない脱毛として「甲状腺機能低下症に伴う脱毛」があります。比較的若い女性で、むくみ、低体温、低血圧、便秘などが伴っていれば鑑別にいれるべきです。一般に甲状腺疾患は、医師が疑わない限り調べられることはありませんから、むくみなどの症状がある場合は、脱毛とは無関係、と思わずに医師に伝えるべきです。
また、これも若い女性に比較的多い疾患ですが、全身性エリテマトーデスという自己免疫疾患に脱毛が合併することがあります。ただし、私の場合、重症化した全身性エリテマトーデスの患者さんに脱毛があったという症例は経験したことがありますが、脱毛からこの疾患を発見したという経験はありません。
感染症に伴うものとして、さほど多いわけではありませんが(私はタイでしか診たことがありません)梅毒に伴う脱毛があります。梅毒が進行すると頭皮全体に脱毛が進行することがあるのです。なぜ、日本では少ないかというと、日本ではおそらく脱毛にすすむ前に他の症状から梅毒が疑われて検査されるからだと思われます。しかし、梅毒は無症状で長期間わからないこともありますから、脱毛の鑑別のひとつにいれておかなければなりません。
かぶれが原因になっていることもあります。パーマ液や整髪用品にかぶれて悪化して脱毛が起こることがありますし、皮肉なことに育毛剤が原因で頭皮が腫れて脱毛が進むこともあります。ただ、こういったケースはきちんとかぶれの治療をおこなえば普通はすぐに治ります。
薬剤性の脱毛というものもあります。最も有名なのは抗ガン剤によるものですが、一部の利尿薬や高脂血症の薬、痛風発作の予防薬、ビタミンAの誘導体などでも起こることがあります。しかし薬剤性の脱毛であればその原因薬剤を止めれば治ります。とはいえ、毛がどんどん抜けていくのを日々体験するのは心理的につらいものがありますから、抗ガン剤を使うときには、最初から坊主頭にしてもらうことをすすめることがあります。
その他の脱毛としては、脂漏性皮膚炎が悪化したもの(これはフケが多いのが特徴で診断はさほどむつかしくありません)、アトピー性皮膚炎が悪化したもの、外傷や熱傷の瘢痕による脱毛、出産後におこる一時的な脱毛、抜毛症(若い女性に多く自分で毛を抜く)などがあります。
ここからは円形脱毛症について述べていきたいと思います。ストレスが原因、と言われることがありますが、実際には自己免疫疾患と考えられています。なぜなら、脱毛が促進した毛根の周囲を顕微鏡で観察するとリンパ球が集まっている像が認められるからです。(このように皮膚の一部を切除して顕微鏡で調べる検査を病理検査と呼びますが、麻酔をかけてメスで切除して縫合もしなければなりませんから実際におこなうことはあまりありません)
集まってきているリンパ球が何をしているかというと、大切な自分の身体の毛根の細胞を”誤って”敵と認識して攻撃しているのです。そのリンパ球の攻撃で毛根がやられてしまい脱毛が進むというわけです。ですから、治療としては過剰な免疫活動をおこなっているリンパ球を抑制してあげる必要があり、このためステロイドを用います。軽症であれば、ステロイドの塗り薬を1週間程度使うだけですっかりよくなりますが、重症化すると、ときにかなり難治性となります。
円形脱毛症は多くは直径が数センチの脱毛が1~数個程度ですが、ひとつのサイズが大きくなり、この数が広がると、ほぼすべての髪がなくなることもあります。重症化したようなケースでは、ステロイドの内服を使うという方法がたしかにありますし、場合によっては入院してもらって大量のステロイドを短期間点滴するといった方法もあり、それなりに効果はありますが、時間がたつと再び脱毛が進行・・・、ということもしばしばあります。いつまでもステロイドを使い続けるわけにはいきませんから、よほどのことがない限り、ステロイドの内服や点滴はすすめられません。
他には液体窒素を使ったり(ただし保険適用外)、副作用のほとんどない飲み薬を使ったりすることもありますが、いずれも決定的な治療法ではありません。また、難治性の皮膚疾患に対し、ときに救世主となることがある漢方薬も、円形脱毛症については(AGAに対しても)あまり効果がありません。(少なくとも私は漢方薬で劇的に脱毛症が改善したという症例を知りません)
ただ、そうは言っても飲み薬を気長に続けて、適切なステロイド外用薬をマメに続けていればそのうちに治ることが多いと言えます。(そのなかには治療によるものではなく自然治癒したものも含まれているとは思いますが・・・)
円形脱毛症は、人口の1~2%に生じると言われていますが男女比については記されているものをみたことがありません。ただ、重症化するケースは女性に多い、という印象を私は持っています。男性で、円形脱毛症が進行してカツラを使うことはさほど多くありませんが、女性の場合は診察室でカツラやウィグを外してもらって診察をおこなうことがしばしばあります。
よく「死ぬわけじゃないんだからハゲたくらいで気にするな」といった発言をする人がいますが、脱毛で苦しんでいる人の気持ちをこれほど踏みにじる言葉もありません。中学生の女子がカツラを装着して登校し、友達にカツラに気付かれないかどうかいつもヒヤヒヤして・・・、というような気持ちは本人になってみないと分からないでしょう。
壮年型脱毛症(AGA)の場合も、本人になってみないと気持ちは分からないものです。海外の禿げあがっている俳優やスポーツ選手を引き合いにだし、「ハゲていることを逆にカッコいいと思え。彼らを見習え!」などと言う人がときどきいますが、これも当事者の気持ちがまったくわかっていない発言と言えるでしょう。禿げ上がった頭が似合う人がいるのは事実ですが、似合わない人も多いわけです。特に日本人の顔立ちはヨーロッパ人に比べると似合わないと感じる人は多いわけです。
次回はそのAGAについて最近の知見を踏まえて述べていきたいと思います。
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|2013年6月15日 土曜日
第101回(2012年1月) 増加する炎症性腸疾患
2007年9月に安倍晋三首相が突然辞任を表明したとき、その理由が健康問題であると発表されました。発表された当事、その病気の名前が「機能性胃腸症」と報道され、野党からだけでなく与党からも「無責任だ」「国民に失礼だ」などという声が上がり、また機能性胃腸症はストレスで発症することから、マスコミの報道も「一国の首相たるものがストレスに負けてどうするのだ」という大変厳しいものが目立ちました。さらに海外のメディアも「安部首相は強いプレッシャーでストレスが大きくなり・・・」、という報道をおこなっていました。
しかし、安倍氏の本当の病気は機能性胃腸症ではありませんでした。首相が入れ替わり少し落ち着いた頃、月刊誌『文芸春秋』2008年1月号に安倍氏は手記を寄せ、そこで自身が長年患っていた病気の告白をおこなっています。
一国の首相を退陣にまで追い込んだその病気とは「潰瘍性大腸炎」です。
潰瘍性大腸炎とは、大腸に慢性的に広範囲に炎症が広がる疾患で、厚生労働省から難病(正確には「特定疾患治療研究事業対象疾患」といいます)に指定されています。その原因は現在でも不明なのですが、年々患者数は増加しており、現在(2012年現在)日本中で11万人以上の人が登録されています。毎年およそ8千人が新たに罹患していると言われています。
そして、増加しているのは日本だけではありません。医学誌『Gastroenterology』2012年1月号に掲載された論文(注)で報告されています。
潰瘍性大腸炎と似ている病気に「クローン病」というものがあります。クローン病も潰瘍性大腸炎と同様、原因不明の慢性疾患でやはり厚労省から難病指定されています。罹患者が年々増加していることも潰瘍性大腸炎とよく似ていますが、患者総数は潰瘍性大腸炎より少なく、現在全国で登録されているのはおよそ3万人で、毎年新たに罹患しているのは1,500人前後です。
そして、潰瘍性大腸炎とクローン病の2つを合わせて「炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease、IBD)」と呼びます。
先に紹介した論文によりますと、欧米など先進国で炎症性腸疾患が顕著に増加しています。地域差があり、人口10万人あたりの潰瘍性大腸炎の発生率(annual incidence)は、ヨーロッパで24.3例、北米では19.2例、アジア・中東では6.3例となっています。クローン病については、ヨーロッパで12.7例、北米で20.2例、アジア・中東では5.0例とされています。
炎症性腸疾患は、これまで発展途上国では少ないと言われており、今回の研究でもそれが裏付けられたようなかたちになっていますが、工業化が進むにつれて発生率が増加していることに研究者は注目しています。
潰瘍性大腸炎、クローン病のいずれも20~40歳くらいでの発生率が高くなっています。これはまさに「働き盛り」の年齢であり、社会的なコスト負担(医療費だけでなくその人が働けなくなることにより生じる損失も含めて考えます)は相当なものになります。
炎症性腸疾患はいずれも「難病」に指定されるくらいですから、(軽症例もないわけではありませんが)社会生活に支障がでるほどの症状がでます。主症状は腹痛、下痢(ときに血便を伴います)で、1日に何度もトイレに駆け込むことも多く、また症状は突然起こることもあり外出が妨げられます。ある程度重症化すると入院を余儀なくされます。
安倍氏が辞意を表明したときは症状がかなり重症化していたものと思われます。潰瘍性大腸炎という病名の公表を避けたのは、社会の混乱を防ぐことと、他の罹患者が社会的不利益を被らないように配慮されてのことではないか、と私は考えています。もしも潰瘍性大腸炎という病名が一人歩きすれば、軽症の人も含めて、例えば退職を余儀なくされる、内定が取り消される、婚約を解消される、などということが起こったかもしれません。「無責任だ」「国民に失礼だ」などと言って安倍氏を激しく非難した与野党の議員やマスコミは、後になり恥ずかしい思いをしたのではないでしょうか。(私は安倍氏を政治的に支持しているわけではありませんが、首相という公的な立場であっても難病を患っている人に対していい加減な報道やコメントをおこなうマスコミは許せません)
ここで2つの炎症性疾患についてもう少し詳しくみてみましょう。2つとも初めは単なる下痢や腹痛を訴えて医療機関を受診しますが、治りにくいことや血便を伴うことから、精密検査をおこなうこととなります。血液検査でもいくらかの異常がでることがありますが、確定には内視鏡(大腸ファイバー)が必要になります。内視鏡で直接大腸の粘膜病変を観察し、一部組織を採取して病理検査(顕微鏡でどのような細胞が観察されるかを調べます)をおこなって確定とします。
2つの疾患は似ているのですが、潰瘍性大腸炎は病変が大腸だけにとどまるのに対し、クローン病は口腔から肛門まで消化管全体に及ぶこともあります。2つとも重症化すれば、皮膚や関節、目にも病変が生じることがあります。
治療は重症化すれば手術になることもありますが、基本的には内服薬を使います。従来はステロイドが中心でしたが、最近では生物学的製剤といって免疫系に作用する薬が用いられるようになってきました。潰瘍性大腸炎もクローン病も原因不明ではありますが、免疫系の異常であることが判っているからです。また、日頃の食事内容も重要です。あぶらっこいものを食べれば症状が一気に増悪し、食事内容が大きく制限されることもあります。
若い世代に起こりやすいのは先に述べたとおりですが、潰瘍性大腸炎が男女比ほぼ1:1なのに対し、クローン病は2:1と男性に多いという違いがあります。また、クローン病は喫煙者に発症しやすいのに対し、潰瘍性大腸炎は「喫煙者に発症しにくい」と言われています。しかし、潰瘍性大腸炎の予防にタバコを吸うなどというのはまったくナンセンスなことですし、治療でタバコを吸うなどというのも(かつてはおこなわれていたこともあったようですが)勧められるものではありません。
炎症性腸疾患は日本を含む先進国で増加傾向にあり、治療には長期間かかり、ときに手術も必要になる重要な疾患ですが、我々は長引く下痢や腹痛があればまっさきにこれらを疑うわけではありません。腹痛と下痢で受診される患者さんの大半は「過敏性腸症候群」といってストレスから下痢(ときに便秘)がおこる疾患です。この疾患は非常に多く太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)にも大勢の患者さんが受診されています。また、安倍氏の病気として当初発表された「機能性胃腸炎」もありふれたものですし(「機能性胃腸炎」の腸症状だけが出現したものが「過敏性腸症候群」といえることもあります)、単純な一次的な下痢(辛いものを食べたときなど)ということもよくあります。季節によってはノロウイルスなどによる感染性胃腸炎も少なくありません。また、谷口医院でも年に数例はアメーバ赤痢が検出されます。アメーバ赤痢は教科書には「男性同性愛者に多い」と書かれていますが、私の印象ではそのようなことはなく男女ともにおこりえます。また薬が原因になっている下痢も少なくありません。谷口医院の例で言えば、ある種の胃薬と鎮痛剤が原因となっている下痢が多いといえます。
炎症性腸疾患は「難病」に指定されているくらいですから、ありふれた病気というわけではありませんが、適切な治療をしなければ日常生活が制限されることもありますし、ときに手術にいたることもあります。たかが下痢と放っておかずに、長引いているようならかかりつけ医に相談するようにしましょう。
注:この論文のタイトルは「Postoperative Complications and Mortality Following Colectomy for Ulcerative Colitis」で、下記のURLで概要を読むことができます。
http://www.gastrojournal.org/article/S0016-5085%2811%2901378-3/abstract
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|2013年6月15日 土曜日
第100回 不活化ポリオワクチンの行方 2011/12/20
2011年12月15日、神奈川県は希望者に対し、ポリオ(正確には「急性灰白髄炎」といいます)の不活化ワクチンの有料接種を開始しました。開始となったこの日は合計47人が県内の福祉事務所でワクチン接種を受けたそうです。また、12月7日の時点ですでに予約者が1,122人に上っているとの報道もあります。
この経緯は各マスコミで今年の秋頃から頻繁に取り上げられていますが、ここで簡単に振り返っておきたいと思います。
まず、数年前から現在おこなわれているポリオの生ワクチンの危険性が頻繁に指摘されだし、海外では経口ワクチンから不活化ワクチンへの切り替えがおこなわれているという背景もあり、日本も不活化ワクチンを導入すべきという発言を有識者がおこなうことが増えてきました。
結果として厚生労働省に対立するようなかたちをとった神奈川県の黒岩祐治知事も、そういった有識者のひとりです。黒岩知事は、知事に就任する前に厚生労働省予防接種部会のメンバーをつとめていたこともあり、その頃から不活化ワクチンへの切り替えを積極的に主張していたそうです。
黒岩知事が、「国が動かないなら神奈川県独自で不活化ワクチンを導入する」という意思表明をすると神奈川県在住の人たちはこれに賛同し、神奈川県以外に住んでいる人のなかには、「神奈川以外では生ワクチンしかないなら不活化ワクチンが接種できるようになるまでワクチン接種をしない」、と考える人が増えてきました。
このような情勢を受け、厚労省は2011年10月4日付けで、正式に、各都道府県に「不活化ワクチンの導入まで接種を待つことは勧められない」という通達をおこないました。さらに、小宮山洋子厚生労働相は10月18日と19日の2日間にわたり、記者団に対して「未承認で公的な健康被害の救済制度がない不活化ワクチンを神奈川県が主導してまとまった形で接種するのは慎重にしてほしい」と述べ、神奈川県の方針を繰り返し批判しました。
しかし、黒岩知事の方針に賛成する世論は次第に大きくなっていきました。そして偶然にもこのタイミングで、「WHO(世界保健機関)が生ワクチンの段階的廃止を検討中である」ということをカナダ医師会雑誌(CMAJ)の公式ニュースが11月11日に伝えるという出来事があり、これが黒岩知事にとって追い風となりました(と、私はみています)。
結果的には、「厚労省の反対を押し切って黒岩知事が不活化ワクチンを導入した」となったわけですが、両者の主張を比較してみると、黒岩知事の主張の方が明快でわかりやすいといえます。すなわち、「生ワクチンは少ない頻度とは言え重篤な副作用が起こりうる。ならば、海外ではすでに標準的になっており安全性の確立されている不活化ワクチンを接種すべき」、というもので説得力があります。
一方、厚労省は「なぜ不活化ワクチンを輸入しないのか」という単純な疑問に明確な回答をしていません。そんななか、2011年12月8日についに小宮山厚生労働相は参議院厚生労働委員会で、「生ワクチンから不活化ワクチンへ切り替える決断が遅かったと思っている」との見解を述べました。小宮山大臣が”正直に”見解を述べたことは評価できるとしても、「導入するならポリオ不活化ワクチン単独ではなく、DPT三種混合(ジフテリア・百日咳・破傷風の3種混合ワクチン)と合わせた四種混合ワクチンの開発及び導入を検討する」と発言していることには首をかしげたくなります。
以前医療ニュース(下記参照)でも述べましたが、なぜ厚労省は「混合ワクチン」にこだわるのでしょうか。海外で実績のあるポリオ不活化ワクチンを、神奈川県がおこなったのと同じように輸入すれば済むだけの話なのに、です。
ここでポリオとはどのような感染症かを確認しておきましょう。
ポリオとは、乳幼児を襲い(成人への感染もないわけではありません)、生涯にわたり麻痺を残す大変やっかいな感染症です。私が子供の頃は、ポリオに罹患して足をひきずって歩いている人が周囲に何人かいたことを記憶しています。(もっとも、医学の知識のない子供の頃の記憶ですから、そのなかには他の原因の麻痺も混じっていたかもしれません) ポリオに罹患しても特に寿命が短くなるわけではありませんから、今でも麻痺を抱えて生活している人は少なくないはずです。(幼少時にポリオに罹患し現在医師をされている人もいます)
ポリオは経口感染です。つまり病原体(ウイルス)が何らかのきっかけで口から取り込まれ腸管から体内に吸収され最終的には脊髄を侵します。ポリオウイルスは運動をつかさどる神経だけを侵すために筋肉を動かすことができなくなりますが、感覚は健常者と何らかわりません。そして運動神経が麻痺した結果、足はだらんと垂れ下がるようになり、これがポリオによる麻痺の特徴です。
いったん麻痺を発症すると手立てがなくどうしようもありません。しかし知能が低下するわけではありませんし生命予後は健常者と何ら変わりません(注1)。運動麻痺とは生涯付き合っていかなければなりません。この苦しさは健常人には到底分からないものと言えるでしょう。しかし、ポリオには治療法はありませんが、ワクチン接種をしておけばほぼ100%感染を防ぐことができます。
日本では、1940年代頃から全国各地でポリオの流行がみられ、1960年には北海道を中心に5,000名以上の患者が発生しました。そのため1961年に生ワクチンを緊急輸入し(たしかソ連からだったと思います)、一気に罹患者が激減しました。これは文字通りの「激減」であり国内では1980年の発症が最後でそれ以来1例も発症していません。わずか数滴のシロップを2回飲むだけ(注射ではないので痛みもなし)でほぼ100%ポリオを予防できるわけですから、当事は「夢の薬」と思われたに違いありません。
ポリオは世界的にみても大きく減少しており、WHOは世界的な根絶宣言を2005年末に行う予定でいました。しかし2010年の時点で、インド、パキスタン、アフガニスタン、ナイジェリアの4カ国で報告があり、 2011年7月には中国で4例の発症がありました(下記医療ニュース参照)。
では今後はこの4カ国(+中国)以外の地域では安心か、と言われると決してそういうわけではありません。例えば世界を放浪しているバックパッカーがインドのバラナシあたりの安宿でポリオに感染し、バンコクのカオサンロードに移動し、そこに旅行に来ていた日本人に感染し、翌週に成田空港がパニックに・・・、というストーリーも考えられなくはありません。
大人は大丈夫かというとそういうわけでもありません。ポリオは確かに子供がほとんどの病気ですが、成人に感染することもまったくないわけではありません。また、子供の頃にワクチンを接種しているから大丈夫、というわけでもありません。実際、私が自分自身の抗体の有無を調べてみると、2型のみ陽性で、1型と3型は陰性でした。そして先に述べた2011年7月に中国でみつかったポリオは1型だったのです。
必要以上に恐怖心を持ってほしくはないのですが、これだけ簡単に世界中を移動できる時代ですから、日本にいるから安心、とは言えないのです。生ワクチンと不活化ワクチンのどちらにすべきかという問題はさておき、少しでも早い時期に接種をおこなうことが必要です(注2)。そして、世界的には不活化ワクチンに移行しつつあることと、神奈川県がすでに実施していることを考慮すれば、厚労省は1日でも早く公費での不活化ワクチンの接種を認めるべきでしょう。
では、なぜ厚労省は混合ワクチンにこだわり、神奈川県がおこなっている海外の不活化ワクチンの輸入に躊躇するのでしょうか。私にはこの理由がまったくわかりませんが、まさか国内ワクチンメーカーと厚労省の癒着とか、そのメーカーが役人の天下り先になっているなどということはないと願いたいものです・・・。
注1:ただし中年期以降に「ポストポリオ症候群」という状態になることがあります。これは全身の筋肉がやせほそり強い疲労感を感じるようになり、ひどい場合は日常生活も困難になってきます。ポリオを抱えて生きている人たちのなかには、ポストポリオ症候群を発症するのではないかという恐怖を常に感じているという人もいます。
注2:ワクチンをいつから開始するかは議論の分かれるところですが、私個人としてはできるだけ早期に接種すべきと考えています。生ワクチンなら生後3ヶ月、不活化ワクチンなら2ヶ月の時点で1回目を接種することができます。成人の場合は、特に急ぐ必要はないでしょうが、例えばパキスタンやインドの奥地に行くような場合は渡航前に不活化ワクチンを接種しておいた方がいいかもしれません。
参考:
医療ニュース
2011年9月26日「中国でポリオが発生」
2011年5月30日「不活化ポリオワクチンがついに導入か」
2010年12月17日「ポリオ不活化ワクチンを求め患者団体が署名提出」
2010年2月22日「神戸の9ヶ月男児がポリオを発症」
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|2013年6月15日 土曜日
第99回(2011年11月) アトピー性皮膚炎を再考する
FK506って本当にいいんですか?
これは私が医学部に入って間もない頃に、ある知人から尋ねられた質問です。当時私は恥ずかしながら医学部の学生だというのに、FK506というものが何なのか知りませんでした。その後、何人もの知人(の知人も含めて)から同じ質問を受けました。私がインターネットを始めたのは1997年で、その頃は今とは比べ物にならないくらいネット人口は少なかったのですが、それでも一般の人が医学について情報を共有するようなページでは「FK506」の文字をよく見かけました。
FK506。一般名タクロリムス。商品名プロトピックと言えばアトピー性皮膚炎(以下アトピーとします)に悩んだことのある人には馴染みがあるでしょう。アトピーの患者さんからは「夢の薬」とも言われていた、当初はFK506と呼ばれていたプロトピックが発売となったのは1999年のことでした。それからすでに12年が経過しました……。(注:このコラムを執筆した時点ではプロトピックには後発品がなく、一般名の「タクロリムス」という名称はほとんど知られていませんでしたが、その後後発品が複数の製薬会社から発売され「タクロリムス」という名前が周知されることになりました)
一部の患者さんからは「夢の薬」と考えられていた一方で、別の患者さんからは「副作用の多い危ない薬」と思われていたのですが、実際はどれほど普及したのでしょうか。
太融寺町谷口医院には開院以来アトピーの患者さんが大勢受診されています。これは私がアトピーの名医だからではなく、それだけ今の日本にアトピーで悩んでいる人が大勢いることを示しています。現在の日本人のおよそ5%がアトピーを患っていると言われていますから、アトピーとはどこにでもあるありふれた病気(common disease)なのです。
アトピーの患者さんが他の病気で受診する人と異なる点がひとつあります。それは、アトピーで初めて医療機関を受診しました、という人はほとんどおらず、たいていは過去にいくつかの医療機関を受診している、ということです。アトピーは幼少時から罹患している人が多いですから、以前は小児科を受診していても当然なのですが、そうではなく、成人になってからも何度も医療機関を変えているという人が非常に多いのです。これは同じアレルギー疾患のアレルギー性鼻炎や花粉症、気管支喘息と異なります。花粉症や喘息を発症し、太融寺町谷口医院で初めて診断がついてその後も継続して受診している、という人は少なくありませんが、アトピーの診断を初めてつけられた、という患者さんはおそらく皆無だと思います。
ですから、アトピーの患者さんが初めて私の元を受診されたとき、「これまでどのような治療を受けていましたか」と私は必ず聞いています。このときに「プロトピック(もはやFK506と言う人はいません)は合いませんでした」という患者さんが非常に多いことが私にはずっと気になっていました。患者さんの方からプロトピックという言葉が出なかったときは、私の方から「プロトピックは試されたことがありますか」と尋ねるのですが、「それは使えませんでした」と答える患者さんも少なくないのです。私が不思議に感じたのは、太融寺町谷口医院を始める前に、私はある中規模病院で皮膚科の外来をおこなっていましたが、そのときはそれほどこのような言葉を聞かなかったからです。「太融寺町谷口医院にはプロトピックが使えない人が選択的に集まってきているのか?」と感じたほどです。
たしかにプロトピックには使い始めたときに熱感や痛みがでたり、逆に一時的にかゆみが増したりすることもあります。このような副作用は大半の人に認められますが、使い続けて1週間もたてばほとんどの人は気にならなくなります。まれに重篤な副作用もありますが、そのまれな副作用が気になるから合わない、と考える人はそう多くはないでしょう。
2007年の開院当初は、私は「プロトピックは合わなかった」という患者さんには、「では他の方法を考えましょう」と言ってプロトピックの話はしないようにしていたのですが、2009年頃から合わないと考えている人にも「もう一度使ってみませんか」と言うことが増えてきました。これは長期間受診していて、ある程度信頼関係のできた(と私が思い込んでいるだけかもしれませんが)何人かの患者さんに、試しに再度使ってもらったところ、ほぼすべての患者さんで成功したからです。
では、なぜ過去に副作用で使えなかったのに、今回はうまく使えたのでしょうか。それを述べる前に、まず、「なぜ患者さんが否定的な気持ちを持っているプロトピックをすすめたのか」について話しておきたいと思います。
アトピーは慢性の疾患ですから、患者さんが医療機関を受診するのは症状が「発症」したときではなく「悪化」したときです。このようなときの治療は、「ともかくいったんは強い炎症を和らげる」ことが必要であり、生活指導やスキンケア(保湿)、漢方治療などは最重要事項ではありません。強い炎症にはプロトピックも無効なことが多く、このときの治療の主役はステロイドになります。
ステロイドの誤解は最近では随分減ってきているとはいえ、まだまだ根強いものがあります。ステロイド恐怖症の人には、まずマインドコントロールを解くことから始めなければなりません。そして、ステロイドを適切に使えば、1週間もすればほとんどの場合劇的に改善します。これは文字通り「劇的に」であり、患者さんの方が驚くこともしばしばあります。
問題はここからです。ステロイドに恐怖心を持つのも困りますが、その逆に安易に使うのも問題です。ステロイドで強い炎症がとれるのは当たり前なわけで、「いざとなったらステロイドがあるからいいや」と思ってもらっては困るのです。
ステロイドの誤解は最近ではかなり減少しているのは事実です。ステロイド外用で(内服は別です)、血糖値が上がるとか、顔が丸くなるとか、骨が脆くなるとか、そのようなことを言う人は随分と減ってきました。色素沈着をきたして皮膚が黒くなる、と考えている人がいますが、これも誤りです。アトピーで皮膚が黒くなるのはステロイドの副作用ではなく、アトピーそのものの治療がうまくできていないから、と考えるべきです。
しかし、ステロイド外用薬の副作用があるのも厳然とした事実です。よくあるのがニキビや真菌症といった感染症ですが、これは比較的簡単に治すことができます。問題となるのは、ステロイドざ瘡(ステロイドを長期で使うことによっておこるニキビのような症状で難治性)、酒さ様皮膚炎、血管拡張、皮膚萎縮などです。特に皮膚萎縮は進行すると、まるで古いお札のようなペラペラの状態となり(これを「ペーパーマネースキン」と呼びます)、少し触れただけで容易に出血するようになることもあります。
ですから、アトピーが悪化したらステロイドに頼ればいいや、という考えは誤りです。そして、このステロイド外用長期使用の欠点を、ほぼ克服しているのがプロトピックなのです(注1)。プロトピックはステロイドと異なり、長期使用しても血管拡張やステロイドざ瘡、酒さ様皮膚炎、皮膚萎縮などが起こりませんから、「見た目」の副作用は(ニキビ、ヘルペス、真菌症などの感染症を除けば)ほぼないと言っていいと思われます。さらに、プロトピックが優れているのは、炎症がある部位にしか吸収されず正常な皮膚には作用しないということです。まだかゆみも感じられないほどのごく初期の炎症にも効果があり、これは予防的に使えることを意味します。つまり、炎症が取れた後に週に2回程度プロトピックを使用することにより再発を防ぐことができるのです(これを「プロアクティブ療法」と呼びます(注2))。
プロトピックは「見た目」の副作用がないことから、目立つ部位である顔や首に積極的に使うように言われることがあります。このため患者さんによっては「身体には使うべきでない」と考えている人がいますが、これは誤りです。私は全身に使うように助言しています。ただし、ある程度炎症が強いとほとんど効果がでませんから、まずはステロイドである程度炎症をおさえてからの使用となります。あるいは、部位によってはステロイドと併用するのもひとつの方法です。
プロトピックの刺激を嫌う人は少なくありませんが、多くの場合、長くても1週間程度で改善し、どうしても使えない、という人は私の印象で言えば100人に1人くらいです。しかし実際は、多くの患者さんが「プロトピックは合わない」と感じているのです。考えようによっては実にもったいない気がします(注3)。先に述べたように「プロトピックが合わない」と感じている人は、おそらく(期待しすぎて)最初におこった刺激感の副作用に嫌気がさしたのではないでしょうか。私は、まず少量を狭い範囲で使うよう助言します。それもデリケートなところは避けるように言います。いきなり顔面に塗るのではなく、首の後ろなどから始めるとたいていはうまくいきます。
もちろんプロトピックだけに頼るのはよくありません。適切な抗ヒスタミン薬をうまく使いこなし(注4)、改善した後はしっかりと保湿(スキンケア)をおこない、生活習慣のなかで悪化因子があればそれを取り除くようにし、他の症状、例えば、下痢、胃痛、頭痛、めまいなどがあればそれらも治すようにして、そして精神症状のケア(注5)もおこなえば、ほとんどの患者さんはかなりよくなります。そしてステロイドが完全に断ち切れるのです。ここまでくると人生観まで変わることも珍しくありません。
最後に一点。今回述べたプロトピックのことも含めて、私がウェブ上で述べていることや診察室で患者さんに話していることは、ほぼすべてアトピーのガイドラインに沿ったものです。私は決して「アトピーの名医」ではなく、ガイドラインどおりに治療をすすめているだけです。ときどき何時間もかけて私の元を受診する人がいますが、あなたの近くにもガイドラインどおりの標準的な治療をしている医療機関は必ずあることは覚えておいてください。
************
注1 プロトピックは副作用がまったくないわけではありません。使い始めたときの刺激感以外に覚えておかなければならないのが感染症です。特にヘルペス感染症が悪化した「カポジ水痘様発疹症」は重症化することもあり、ときに入院治療が必要になります。また、プロトピックを怖がる人で発ガンのリスクを言う人がいますが、これは動物実験と、海外で乳児に大量に使ったときの結果であり、成人に適切に使用すれば怖がるようなものではありません。(下記医療ニュースも参照ください)
注2 プロアクティブ療法はプロトピックの専売特許というわけではなく、ステロイドを用いたプロアクティブ療法も有効性が認められています。しかし、プロトピックが使えるのであればプロトピックでプロアクティブ療法をおこなうべきではないか、と私は考えています。尚、(念のために補足しておくと)プロアクティブ療法は、ニキビ治療薬の「プロアクティブ」とは何ら関係がありません。
注3 ステロイドは多くの会社から販売されていますが、プロトピックは現在マルホ株式会社からしか販売されていません。このため、プロトピックを推薦するような内容を書くとマルホ株式会社から私が利益を得ているのではないかと感じる人がいるかもしれませんが、そのようなことは一切ないことをお断りしておきます。(その後、複数の会社から後発品が発売され、現在では「タクロリムス」という名称が一般化しています)
注4 今回は触れていませんが、抗ヒスタミン薬(第2世代以降の眠くならないタイプ)もアトピーには有用な薬剤です。昔の(第1世代の)抗ヒスタミン薬は、眠くなるだけでなく、眠くならなかったとしても認知力、記憶力、集中力などが欠如するという大きな問題がありました。しかし第2世代の抗ヒスタミン薬ではそのようなことがほとんど起こらないことが分かっており、また一部の抗ヒスタミン薬は(プロトピックと同じように)予防的にも使えることが分かってきています。
注5 アトピーのある人には、不眠、不安、うつ症状などがみられることが少なくありません。これらの症状はアトピーが原因であることが少なからずありますし、原因でなかったとしても、アトピーが悪化因子になっていることはよくあります。ですから、アトピーの治療には(簡単ではない場合もありますが)メンタル面でのケアも必要になってきます。アトピーが原因で就職活動や恋愛をためらっている人がいますし、外出自体を避けている人がいますが、我々医師の目標は単に皮膚の状態を改善するのではなく精神的にも社会的にも「健康」になってもらうことなのです。
参考:
はやりの病気第78回(2010年2月) 「アトピービジネスとステロイドの誤解」
はやりの病気第44回(2007年4月) 「患者さんごとのアトピー性皮膚炎」
医療ニュース2010年3月24日 「米国の子供、アトピーの治療薬で46人がガンに」
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