はやりの病気
第53回 花粉症の治療はお早めに 2008/1/22
確実に年々増えている病気のひとつが花粉症です。
小児の花粉症、特に幼稚園以下の花粉症が増えているというのはアレルギー疾患をみているほとんどの医師が感じていることですし、高齢者の花粉症も確実に増えてきています。
また、症状も多様化しており、典型的なものは、「くしゃみ、鼻水、鼻づまり」ですが、鼻の症状に加えて目の痒みを訴える人が増えてきているように感じますし(目の症状だけを訴える人もいます)、皮膚症状(皮膚の痒みや赤み)が出てくる人もいますし、花粉症のシーズンになると咳が止まらないという人もいます。小児では花粉症と喘息が合併することも珍しくありません。
花粉症のシーズンになると、「仕事や勉強の能率が落ちる」という人が大勢おられ、ひどい場合は「外出するのが苦痛」、「日本を脱出したい」という人もいます。
「日本を脱出したい」と言っても、そうそう簡単には脱出するわけにはいきませんし、この”美しい”日本に住んでいる限り、スギやヒノキの花粉から逃れることはできません。
結局のところ適切な治療をおこなっていくしか方法がないわけですが、きちんと治療をするかどうかでクオリティ・オブ・ライフが随分と変わってきます。花粉症なんかのせいで「仕事や勉強の能率が落ちる」ようなことはなんとしても避けるようにすべきです。
治療法の話に入る前にまずは”予防法”をみていきましょう。
ある医学の教科書には、花粉症の予防として次のように書かれています。
「花粉情報を参考にしながら、花粉の飛散が多いときは外出を控え、窓や戸を閉めておく。外出時にはマスク、メガネ、帽子を使用する。帰宅したら、洗顔(眼)、うがい、鼻かみを行い、できればシャワーを浴び、衣類を着替える」
このようなことが実際にできるでしょうか。メガネ、帽子、帰宅後のうがい・鼻かみ、くらいはできるでしょうが、「外出を控える」「シャワーを浴びる」などは必ずしも現実的ではないと思われます。
ということは、”予防法”には限界があると考えるべきで、適切な治療をおこなわなければなりません。
花粉症の治療には、大きく分けて、「薬物療法」「免疫療法」「手術療法」があります。最も普及しているのは「薬物療法」ですが、先に「免疫療法」と「手術療法」をみていきましょう。
「免疫療法」は、別名「減感作療法」ともいい、日本ではスギ花粉症に対して治療がおこなわれています。スギ花粉のエキスを少しずつ注射していってスギに対する感受性を弱めるという方法です。
この方法は科学的に効果がある(evidenceがある)とされていますが、かなり長期の治療機間を要することと、ときに重症化する可能性のある副作用があることが問題として指摘されています。それに、現在の日本ではスギに対する治療しかなくて、ヒノキやブタクサといった他のアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)にはまったく効果がないことも患者さんによっては難点となります。
「手術療法」は、鼻粘膜の縮小と変調を目的としたレーザー手術や、鼻づまりの症状の改善を目的とした下鼻甲介粘膜切除術があります。レーザーは、炭酸ガスレーザーが主流ですが、施設によっては他のレーザーも試みられているようです。
患者さんからみたときの満足度は施設や術者によって様々ですが、いくつかの研究報告をみてみると、「薬物療法」をおこなったグループに比べると満足度が劣るものもあり、何度も治療をおこなうことが必要になりますから、薬物療法に比べるとまだまだ普及していないのが実情です。
結局のところ、大多数の患者さんが「薬物療法」を選択することになります。そして、最新のガイドライン(2005年改訂)に基づいた治療をおこなえば、かなり満足のいく結果となります。
すてらめいとクリニックにも昨シーズン多くの花粉症の患者さんが来られましたが(スギとヒノキの春がピークでしたが、カモガヤやブタクサのシーズンにも増えました)、ほとんどの患者さんは薬物療法のみで治療をおこなっています。
使用する薬は、基本的には第2世代の抗ヒスタミン薬と、ステロイドの点鼻薬です。第2世代の抗ヒスタミン薬のなかでもいくつかは眠くなることがほとんどなく、ほとんど副作用がないと考えていいと思います。(これに対し、市販の風邪薬などに含まれているのは第1世代の抗ヒスタミン薬で、これはかなりの割合の人が眠気を訴えます)
ステロイドの点鼻薬も非常にすぐれた薬で副作用はほとんどないと言えます。内服のステロイドは様々な(そしてときに重篤な)副作用の出現に注意する必要がありますし、湿疹などに使用する塗り薬のステロイドは使用方法を誤ると大変な副作用がでますから、それらと比べると実に使いやすいステロイドということになります。(ちなみに、喘息の治療で使う吸入ステロイドも内服や外用に比べると副作用を気にせずに使えます)
ステロイドの点鼻薬に欠点があるとすれば、効果がすぐに現れないということです。最低でも1~2日、長ければ1週間くらいして初めて効果が出ますから、使用開始時にはこのことを理解しておく必要があります。
鼻づまりに対しては速効性のある点鼻薬があって患者さんには重宝されます。ただし、こういった薬は使いすぎると副作用が出ますから、使用には注意が必要です。
これら以外の薬として、ロイコトリエン拮抗薬と呼ばれる飲み薬や、喘息のときに使用する薬などを追加することもあります。
さらに眼の症状には点眼薬を、皮膚症状には外用薬を用います。
症例によっては漢方薬を用いることもあります。なかには、漢方薬のみで花粉症を抑えることのできる人もいます。
薬物療法の最大のポイントは、花粉が飛散する前から治療を開始する!ということです。上に述べた薬の効果を最大限に出すには、花粉がまだ飛んでおらず症状が出ていないときに使い始めることが必要です。
花粉がピークになれば患者さんの数が増え、待ち時間が長くなりますから、そういう意味でも早めの受診がおすすめになるのです。
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