はやりの病気

第54回 尖圭コンジローマ -新薬登場で短期治癒が可能に- 2008/2/14

尖圭コンジローマという感染症をご存知でしょうか。

 いわゆる性感染症のひとつで、ときに治療に時間のかかるものです。この感染症は性交渉を通してヒトパピローマウイルス(以下HPV)というウイルスが感染することによって、性器にイボができます。通常このイボには痛みも痒みもありません。

 (”コンジローム”と書かれているものもあるようですが、英語ではcondylomaですし、コンジローマが正しいです。名前が似ている病気に「扁平コンジローマ」がありますが、これは梅毒に感染することによっておこる性器のイボで、尖圭コンジローマとは別の病気です)

 男性ならペニスや尿道に、女性なら外陰部や腟の中にイボができます。また、肛門周囲にできることもあります。尖圭コンジローマが不思議なのは、肛門周囲にできるのは肛門性交をする人に限らないということです。肛門周囲の尖圭コンジローマは男性同性愛者に多いのですが、異性愛者、それも肛門性交の経験のない男女にもみられます。

 尖圭コンジローマがやっかいなのは、治るまでに時間がかかることがあるからです。治療法はいくつもありますが、これは裏返せば、決定的な治療法がないという言い方もできるわけで、症例によっては治療期間が数ヶ月から1年以上になることもあります。それに、いったん治っても再発することが多く、治癒後もしばらくは注意深く観察しなければなりません。

 尖圭コンジローマに対する画期的な塗り薬が最近になって保険適用が認められるようになり、この感染症の治療法が変わりつつあります。この塗り薬は名前をイミキモド(Imiquimod、商品名はベセルナクリーム)といい、海外では数年前から使用されていた塗り薬です。日本でも最近になってようやく認可がおりて保険診療ができるようになったというわけです。

 すてらめいとクリニックでも最近この薬の処方を開始しました。これまで10人以上の患者さんに処方し、そのほとんどの人が「よく効く」と答えています。

 尖圭コンジローマに対する従来の治療方法としては、まず液体窒素があげられます。これは、マイナス196℃の液体窒素(窒素が液体から気体になるのがー196℃です)を、患部に塗布してウイルスの含まれている細胞を死滅させるという治療法です。

 液体窒素の利点としては、まず保険適用があるために比較的安価で治療ができること、痛みはあるがそれほど強くなく施術時に麻酔が必要ないこと、(レーザー治療や電気焼灼治療に比べて)傷跡が残らないこと、などが挙げられます。

 欠点は、完全に治癒するまでに何度か通院しなければならないことと、腟壁には使用できないことです。(手前側ならなんとか可能ですが、腟の奥の場合は窒素の白い気体が視界を邪魔して施術できないのです) それに、何度おこなっても効果がほとんどでないこともあります。

 他の治療法についても簡単に述べておきます。

 レーザー治療は保険適用がなく値段が高くつきますが、一度で治すことも可能です。ただし、再発しにくいというわけではありません。また、それなりの傷跡が残るのも欠点です。痛みは大きいですから麻酔をしなければなりません。

 電気焼灼治療は保険診療でおこなうことができ、一度で治すことも可能ですが、やはり麻酔が必要なこと、傷跡が残ることが欠点といえるかもしれません。またこの場合も再発しにくいというわけではありません。しかし、男性の尿道の奥や、女性の腟壁の奥の場合はこの治療法が唯一の選択肢となります。

 ヨクイニンという漢方薬があります。これは元々尋常性疣贅(「じんじょうせいゆうぜい」、いわゆる普通の”イボ”)によく効く薬ですが、尖圭コンジローマに対しても、ときによく効く場合があります。これは、尋常性疣贅の原因ウイルスもHPVだからだと考えられています。(HPVのなかには100種類以上のサブタイプがあって、尖圭コンジローマと尋常性疣贅ではそのサブタイプが異なります。これ以上の説明は専門的になるのでここではやめておきます)

 ヨクイニンはきちんとした薬ですが、実はハトムギエキスからできています。昔から、「イボにはハトムギを飲むといい」と言われていますが、これは現代医学にも応用されている民間療法なのです。

 この他には、抗がん剤の塗り薬を塗るという方法があります。もともとこういった外用の抗がん剤は一部の皮膚悪性腫瘍に使われてきました。尖圭コンジローマは悪性腫瘍ではなく良性腫瘍ですが、ときによく効くことがあります。

 しかし、抗がん剤には欠点もあります。保険適用がないこともそうですが、最大の欠点は副作用が出やすいということです。皮膚の細胞を破壊する力が大きいために、ときに正常な細胞もダメージを受けることになり、結果として、皮膚がただれたり痛みが出ることもあります。

 さて、新しく登場したイミキモドにうつりましょう。

 イミキモドはこれまでは保険適用がなかったために大変高価な塗り薬でしたが、保険診療が可能となったことで安く使用できるようになりました。(ただしそれでも高価で、保険を使っても3割負担で2週間分2千円以上もします)

 実際に使用してもらった患者さんをみていると、液体窒素の効果がいまひとつだったケースでも劇的に効いている場合が少なくありません。患者さんの満足度も大変高く強い効果を実感されます。液体窒素と併用すると効果はさらに大きくなります。

 ただ、欠点もあります。

 まず、抗がん剤と同じように、尿道や腟壁には使用できません。(粘膜に対しては効能がきつすぎて正常な細胞も破壊することがあるからです) それに、ペニスや肛門周囲、外陰部といったところにも塗りすぎるとやはり正常な細胞を破壊してしまうことがあります。そのため、寝る前に塗って朝起きてから洗い流すという作業をしなければなりません。これを怠ると、皮膚がただれてきたり痛みがでる可能性があります。

 性感染症というのは、堂々と人に言えるものでない場合が多く、できるだけ早く治してしまいたいものです。

 イミキモドの登場で大勢の患者さんが早くも恩恵を受けています。もしも、お悩みの方がおられれば医療機関を受診してみてください。

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