はやりの病気

2016年1月22日 金曜日

第149回(2016年1月) 増加する手湿疹、ラテックスアレルギーは減少?

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)にはアレルギー疾患を持っている患者さんが少なくなく、また次第に増えているような印象があります。谷口医院をオープンする前、私が複数の医療機関で修行(研修)をしていた頃、皮膚疾患を診ている医療機関ではラテックスアレルギーの患者さんがよく来ていました。そして、今後も増加すると考えた私は、ウェブサイトのコラム『はやりの病気』第35回(2006年7月)でラテックスアレルギーを取り上げました。

 谷口医院がオープンしたのは2007年1月(当時は「すてらめいとクリニック」という名称でした)。その頃には、コンスタントにラテックスアレルギーの患者さんが受診されていたのですが、その2~3年後から次第に減少していきました。

 もちろん、ラテックスアレルギーの患者さんの大半は「ラテックスアレルギーです」と言って受診されるわけではなく、「手があれました」というのが最も多い訴えです。(ラテックスアレルギーは口元や性器にも発症します。これについては後述します) そして「手あれ」自体は減っていないどころか年々増えています。つまり、ラテックスアレルギー以外の「手あれ」が増えているということです。

 ラテックスアレルギーが減少している最大の理由は「手袋の品質が上がった」からではないかと私はみています。ただし、このようなことを検証したデータを私は見たことがなく、他の医師がどう感じているかは分かりません。これは単なる私の日々の診療を通しての「印象」であることをお断りしておきます。

 元々、ラテックスアレルギーの患者さんの半数以上は医療者でした。医師や看護師は日常的にラテックス製のグローブを使います。そのうちに身体がラテックスを異物とみなすようになり(これを「感作(sensitization)」と呼びます)、そうなれば、ラテックスに触れて数分後にアレルギー症状が出現します。

 最初はラテックスが触れた部分のみが赤く腫れ、軽度の痒みが出る程度ですが、そのうちに痒みが痛みになり、さらに重症化すると全身の蕁麻疹、鼻水、呼吸苦なども出現し、悪化すればアナフィラキシーと呼ばれる生命にかかわる状態に移行することもあります。海外では死亡例もあります。つまり、ラテックスアレルギーというのは重症化すると「死に至る病」になるのです。

 ラテックスアレルギーはいったん発症すると治すことはできません。つまり、一度ラテックスアレルギーの診断がつけば、生涯ラテックスに触れることはできないのです。そのため、医療者の場合、ラテックス以外の化学物質でつくられた手袋を使用することになります。

 手袋の品質が上がったのは、おそらくラテックスの良質な部分のみを使用するようになったからです。一言で「ラテックス」といっても、分子レベルでみてみると、おそらく数百種のタンパク質が含まれているはずです。そしてそれらタンパク質のすべてがアレルゲン(アレルギーの原因)になるわけではありません。おそらく、分子レベルの研究が進んだことにより、アレルゲンになりうるタンパク質が同定され、そのタンパク質を取り除く技術が発達したのでしょう。

 谷口医院の例でいえば、ラテックスアレルギーが減ったのは医療者だけではありません。以前は工場やパン工房で働く人にもラテックスアレルギーがけっこうあったのですが、最近は減ってきています。やはり、こういった施設でも品質改良されたラテックス製の手袋が使われるようになってきているのでしょう。

 ラテックスアレルギーで忘れてはならないのがコンドームです。性交後に性器が痒くなったり痛くなったりするという人は、男性でも女性でも一度はラテックスアレルギーを疑うべきです。以前は、コンドームによるラテックスアレルギーは決して少なくなく、そのためにポリウレタン製のコンドームを勧めなくてはならなかったのですが、最近はこういった話をする機会も減ってきました。ということは、コンドームも品質改良がおこなわれ、アレルゲンとなりうるタンパク質が除去されているのかもしれません。

 一方、さほど減っていないと思われるのが、ゴムサックと風船です。風船については、関西なら甲子園球場に行くと必ず口の周りが痒くなるという人はラテックスアレルギーを疑うべきです。ゴムサックと風船が減らないのは、おそらく手袋やコンドームと異なり、これらは今も従来のラテックスが使われているということなのかもしれません。

 手袋やコンドームの改良によりラテックスアレルギーは今後も減少の一途をたどるのでしょうか。そうあってほしいと思いますが、ひとつ私が懸念していることがあります。それは「ラテックスフルーツ症候群」です。日本人の何パーセントがこの病気を持っているのかについてはデータを見たことがありませんが、決して少なくないのでは?と私は考えています。現在野菜や果物を食べると口が痒くなる人(これだけなら「口腔内アレルギー症候群」と呼びます)は、今後ラテックスアレルギーが出現する可能性があります(注1)。

 さて、手あれ(手湿疹)に話を移します。ラテックスアレルギーは減っているのに、手湿疹が一向に減らないのは他に原因があるからです。

 古い研究ですが、医学誌『Journal of the American Academy of Dermatology』1991年11月号(オンライン版)に掲載された論文(注2)によりますと、医療者のアレルギー性接触皮膚炎の8割以上は、何らかの促進剤(accelerator)(注3)が原因だそうです。ということは、そもそも手袋を使う以上はラテックスだけに注目していればいいわけではなかった、ということになります。

 ならば、その促進剤を特定して原因物質を調べて、それが含まれていない手袋を使用すればいいではないか、ということになり、確かにその通りです。しかし、これは簡単な話ではありません。たしかに、原因の可能性のある物質を取り寄せて、パッチテストをおこなえば原因物質を特定できることがあります。しかし、現実には、原因となりうる「促進剤」は多数あり、それを入手するのが困難であり、それをいろんな濃度のものを作成し、背中に貼って丸二日シャワーを我慢し、頻繁に医療機関を受診して・・・、と何かと大変です。

 では、どうすればいいのでしょうか。まず手袋が原因で手荒れやかぶれが起こった場合、重症化しうるラテックスが原因なのかそうでないのかに注目します。ポイントは、ラテックスは接触後数分で症状が出るのに対し、ラテックス以外の物質が原因である場合は、1~3日ほど経過してから現れるということです。これは実際には必ずしも簡単に見分けられる方法ではないのですが、このことは知っておくべきです。

 ラテックスが原因でなさそうなら、別の手袋に替えて様子をみるのが現実的な方法です。しかし、症状が強いのなら医療機関を受診してそこで治療を受け、助言を受けるのがいいでしょう。

 もうひとつは、促進剤のなかでも比較的高率にアレルギーを起こすことが分かっている「チウラム」と呼ばれる物質が含まれていない手袋、あるいは含まれていても少量の手袋を選ぶという方法は有効かもしれません(注4)。

 手荒れというのは、もちろん他にも原因があります。手袋をまったく使用していなくてもアトピー性皮膚炎がある人は手が荒れやすいですし、掌蹠膿疱症、尋常性乾癬、汗疱といった皮膚疾患でも手荒れのような症状が起こります。梅毒では手のひらに痒くない発赤が起こることがありますし、手足口病でも発赤が出現します。石けんの使いすぎで手がボロボロになっている人がいますし、飲食店勤務の人は手袋をしていなくても手荒れを起こすことはよくあります。職業でいえば、美容師や理容師の人たちは、手袋も使い、頻繁に手を洗いますから手荒れには常に注意する必要があります。楽器が原因であったり、ガーデニングに問題があったり・・・、と手荒れの原因は様々です。

 原因が何であれ、治らない手荒れ、繰り返す手荒れは一度かかりつけ医に相談すべきでしょう。

注1:下記コラムも参照ください。

はやりの病気第144回(2015年8月)「増加する野菜・果物アレルギー」

注2:この論文のタイトルは「Allergic and irritant reactions to rubber gloves in medical health services」で、下記URLで概要を読むことができます。

http://www.jaad.org/article/S0190-9622%2808%2980977-2/abstract

注3:この部分は非常に訳しにくく困りました。原文をそのまま抜粋すると、「Accelerators, mainly of the thiuram group, antioxidants, vulcanizers, organic pigments」となります。

注4:現在医療機関で比較的よくおこなわれるセットになったパッチテストがあり、そのなかに「チウラム」も含まれます。ただし、これはセットですからチウラムのみを検査することはできません。このセットのパッチテストについては下記を参照ください。

http://www.stellamate-clinic.org/shishin/#q4

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2015年12月21日 月曜日

第148回(2015年12月) 不眠治療の歴史が変わるか

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の患者さんは睡眠の悩みを訴える人が多く、毎日のようにその苦痛を聞いています。谷口医院の患者さんは働く若い世代が多いですから、「睡眠」の悩みとして一番多いのは狭い意味での不眠ではなく、「眠る時間の確保ができない」、つまり「労働時間が長すぎて困っている」、というものです。

 過去に述べたように、睡眠不足は作業効率を落とし(飲酒運転と同じ!)、いろんな病気のリスクになります(注1)。また日本人を対象とした研究で「睡眠不足は死亡率を高くする」とするものもあります(注2)。

 睡眠に関するもうひとつの問題が「睡眠時間を確保しても眠れない」、つまり「不眠」です。不眠があるからといって、それだけで睡眠薬を処方するわけにはいきません。まずは規則正しい生活ができているかどうかの見直し、そして原因になっているものがないかどうかの検討をしなければなりません。実際、不眠の原因が内分泌疾患(最多が甲状腺機能亢進症)であったり、薬剤性であったり、ということはしばしばありますし、うつ病など精神疾患であることも珍しくありません。その場合、まずは原疾患の治療が必要になります。

 不眠の原因が特に見当たらず、生活習慣の見直しをおこなったけれどもそれでも不眠が続くという場合には「睡眠薬」の検討を開始することになります。

「睡眠薬」という表現以外に「入眠剤」「睡眠補助薬」「睡眠改善薬」などいろんな言葉があり混乱を招いています。ここはきちんと分類しておかないと話がややこしくなりますから、この時点で整理したいと思います。現在使われている「睡眠の薬」を分類すると次のようになります。

①ベンゾジアゼピン系:現在日本で使用されている大多数
②非ベンゾジアゼピン系:ゾルピデム(マイスリー)、ゾピクロン(アモバン)、エスゾピクロン(ルネスタ)
③メラトニン受容体作動系(ロゼレム)
④オレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ)
⑤バルビツール酸系
⑥非バルビツール酸系:ブロバリンなど

 ①ベンゾジアゼピン系が最も使用されているもので、商品名でいえば、ハルシオン、レンドルミン、リスミー、ベンザリン、ユーロジン、エリミン、サイレース、ロヒプノールなどが相当します。ごく短時間しか作用しないものから長時間作用するものまで、また比較的弱いものから強力なものまでそろっており、多くの場合すぐに効果がでますから、「確実に眠りたいときには便利な薬」という言い方ができるかもしれません。

 しかし危険性は小さくありません。まずベンゾジアゼピン系には「依存性」という大変やっかいな問題があります。これは文字通り睡眠薬に「依存」してしまう、つまりある程度使い続けるともはやベンゾジアゼピンなしでは眠れない身体になってしまう、いわば一種の「薬物依存」です。睡眠薬に限らず薬というのは減らしていくことを考えなければなりませんが、ベンゾジアゼピン系というのは依存を断ち切ることが最も困難な薬のひとつなのです。

 ベンゾジアゼピン系には「反跳性不眠」という問題もあります。これは、ベンゾジアゼピン系をある程度使い続けると、中止したときに、薬を始める前よりも不眠の重症度が強くなる、つまり、睡眠薬を使ったことにより、使う前よりも不眠症がひどくなってしまうことを言います。「依存性」と「反跳性不眠」の2つがベンゾジアゼピン系の代表的な問題点です。

 ベンゾジアゼピン系にはまだ問題があります。「筋弛緩作用」がありこれは転倒のリスクになります。また日中の倦怠感や眠気が起こることもあります。特に高齢者ではこういったリスクが増大し、実際海外では多くの国で65歳以上の高齢者には使用してはいけないことになっています。一方、日本ではベンゾジアゼピン系の使用が諸外国に比べ極めて多いことがしばしば指摘されます。さらに、充分なコンセンサスが得られているとまでは言えませんが、一部にはベンゾジアゼピン系が認知症のリスクになるとする報告もあります。

 ベンゾジアゼピン系にそんな問題があるなら②非ベンゾジアゼピン系に期待したいところですが、非ベンゾジアゼピン系も、化学構造がベンゾジアゼピン系とは異なるというだけで、実際の効果や副作用はベンゾジアゼピン系と変わりません。実際、過去に紹介した悲惨な事件の原因(注3)となったのは非ベンゾジアゼピン系の代表ともいえる「ゾルピデム(マイスリー)」です。

 ③は副作用が少なく、依存性もない大変使いやすい薬で、登場したときには期待が大きかったのですが、残念ながら効果に乏しくこれでは眠れないという人が少なくありません。この薬は国によっては薬としては認められておらず「サプリメント」の扱いです。

 ⑤と⑥はかなり強い薬で副作用が多く重症例にしか使われないものです。重症例に限り精神科専門医により処方される薬と考えればいいでしょう。

 今、もっとも注目されているのが④オレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ)です。この薬は日本人の学者により開発され2014年12月から処方開始となりました。オレキシンというのは脳でつくられる覚醒を維持するホルモンと考えればいいと思います。オレキシンがオレキシン受容体と結合することにより人は覚醒していられる、というわけです。ベルソムラはそのオレキシン受容体をブロックすることにより、オレキシンの作用を抑制するという仕組みです。

 このような理屈よりも重要なのが実際の効果と副作用です。まず副作用からみていきましょう。ベルソムラの最大の特徴は、(非)ベンゾジアゼピン系の欠点である「依存性」と「反跳性不眠」がないということです。これは大変大きいことです。副作用がまったくないわけではなく(たとえば眠気が昼間に持ち越されるといった副作用はありえます)、また歴史の新しい薬ですから長期使用での安全性については未知の部分もありますが、ベルソムラは従来の睡眠薬に比べて随分と使いやすい画期的な薬といえます。

 ③のロゼレムが登場したときも同じようなことが言われましたが、残念ながら、先にも述べたようにロゼレムでは効果が不十分であることが多かったのです。ベルソムラはロゼレムに比べて、睡眠効果も高く今後ますます使用されていくことになると思われます。

 ただし、谷口医院の患者さんをみていると、ベルソムラは、キレの良さというか、効果の強さでいえばやはり従来の睡眠薬、つまり(非)ベンゾジアゼピン系よりは弱いといえます。それに、これまで(非)ベンゾジアゼピン系を使っていた患者さんに、直ちにベルソムラに切り替えてもらってもたいていは上手くいきません。

 そこで、谷口医院では、現在(非)ベンゾジアゼピン系を使っている患者さんに対しては、いきなりベルソムラに変更するのではなく、まずはこれまで通り(非)ベンゾジアゼピン系を使用してもらいベルソムラを併用します。しばらくしてから、(非)ベンゾジアゼピン系の量を少なくします。たとえば1/2の量、もっと慎重に進める場合は3/4程度にします。そして少しずつ(非)ベンゾジアゼピン系を減らしていき、最終的にはベルソムラのみにするのです。ロゼレムで上手くいかなかったケースでもベルソムラでは成功することが多いといえます。

 先にも述べたように新しい薬というのは長期で使用して初めて判る副作用もありますから、ベルソムラの場合も手放しに歓迎というわけにはいきません。しかし、今後(非)ベンゾジアゼピン系の使用を大幅に減らすことは期待できそうです。

注1:詳しくは下記「はやりの病気第139回」を参照ください。

注2:下記に簡単な紹介がされています。

http://jeaweb.jp/journal/abstract/vol014_04.html

注3:詳しくは下記「はやりの病気第124回」を参照ください。

参考;はやりの病気

第138回(2015年2月)「不眠症の克服~睡眠時間が短い国民と長い国民~ 」
第139回(2015年3月)「不眠症の克服~「早起き早寝」と眠れない職業トップ3~」
第86回(2010年10月)「新しい睡眠薬の登場」
第124回(2013年2月)「睡眠薬の恐怖」

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2015年11月20日 金曜日

第147回(2015年11月) 毛染めトラブルの4つの誤解~アレルギー性接触皮膚炎~

 2015年10月23日、消費者安全調査委員会は「消費者安全法第23条第1項の規定に基づく事故等原因調査報告書 毛染めによる皮膚障害」というタイトルの報告書を公表しました(注1)。毛染めによる皮膚のトラブルが相次いでいて、消費者に注意を促すのが目的です。

 しかし、トラブルが相次いでいるといっても最近になって突然増え始めたわけではありません。コムギアレルギーを誘発した「茶のしずく石けん」や、白斑症を起こしたカネボウなどのロドデノールを含む化粧品、最近の事件ではダイソーが扱っていたホルムアルデヒドが含有されていたマニキュアなどの事件とは性質が異なります。

 つまり毛染め(ヘアダイ)のトラブルは昔からあり、実際、消費者安全調査委員会が公表しているデータをみても被害が急増しているとはいえません。では、なぜ今になって同委員会がこのような報告書を発表したのか。それは、避けられるはずの被害が一向に減らないから、そして毛染めに対する「誤解」が蔓延している事態を打開すべきと同委員会が判断したからではないかと私はみています。

 毛染めのかぶれに対する「誤解」は大きく4つあると私は考えています。順にみていきましょう。

 頭皮や顔面の皮膚のトラブルを訴えて受診される患者さんに対して、「これはおそらく毛染めが原因ですよ」と言うとそれを否定する人がときどきいます。そういう人がいうセリフは「前から同じものを使っているから原因は毛染めではありません」というものです。

 ここを誤解している人は非常に多いようです。毛染めのかぶれは、主に「アレルギー性接触皮膚炎」です。これはその毛染めを使い続けているうちに、身体が毛染めの成分を”外敵”とみなし、アレルギー反応が起こるようになるのです。つまり、「長い間使っていたからこそアレルギーが生じた」と考えなければなりません。

 ここは多くの人が誤解しているのでもう少し続けたいと思います。薬疹を疑ったときも「この薬はもう半年も飲んでいるから原因ではありません」という人がいますが、これも「半年間飲んだからこそアレルギーになった」と考えるべきです。抗菌薬などは飲んで2回目以降にでます。もう少し例をあげると、スギ花粉症になる人は、生まれたときからスギ花粉症なのではなく、長い年月をかけてスギ花粉を少しずつ吸い込んである一定量を超えたときにアレルギーを発症します。ペットショップのオーナーがいきなりイヌアレルギーになり廃業せざるを得なくなったとか、そば屋の主人がソバアレルギーになり店をたたまなくてはならなくなったというエピソードを思い出せば理解しやすいと思います。

 毛染めのかぶれに対する2つめの誤解は「自分が毛染めでかぶれるのは知っているし、実際いつもかゆくなる。けど、これくらいなら我慢できる」というものです。これは気持ちは分かりますが危険です。アレルギー性接触皮膚炎というのは、繰り返せば繰り返すほど重症化していきます。最初は頭皮の軽度の発赤と痒みだけだったけれど、そのうち程度が強くなり、ひどい場合は全身が腫れ上がったり、使用をやめてからも長期間通院しなければならなくなったりということもあります。実際、消費者庁に2010年度からの5年間で寄せられた事例が約1,000件あり、そのうち約170件は治療に1ヶ月以上かかった重症だったそうです。

 ちなみに、5年間で1,000件と聞くと、そんなに多くないのかなと錯覚しそうになりますが、これは届け出があった数ですから、実際にはその何百から何千倍もあるはずです。消費者安全調査委員会の報告によれば、自宅での毛染めで15.9%、美容院での毛染めで14.6%がかゆみなどの異常を感じた経験があると回答しています。

 毛染めに興味がない、あるいは縁がない、という人には理解しにくいかもしれませんので補足しておきます。少しでもかゆみが出るならそんなもの使ってはいけないんじゃないの?と考える人もいるでしょう。なぜ彼(女)らは、かぶれると知っていても使おうとするのか。それはそのリスクを抱えてでもきれいに染めたいからで、他に代替できるものがないのです。

 毛染めのかぶれの原因物質のほとんどはパラフェニレンジアミン(以下PPAとします)と呼ばれるものです。(他にはメタアミノフェノール、トルエン-2、5-ジアミンなどもあります) なぜ高頻度でかぶれることが分かっていながら市場で売られているのかというと、これほどきれいに染まる染料が他にないからです。毛染め(ヘアダイ)でのかぶれを起こしたことがある人に対して、私はヘアマニキュアを勧めるようにしています。しかし、ヘアマニキュアでは好みの色(特に明るい色)がでないことが多く、また、すぐに色が取れてしまうという問題もあります。

 フランスでは、あまりにかぶれの被害が多いことから、過去にPPAの毛染めへの使用が禁止されたことがあったそうです。しかし、それではきれいな色が出ないことで消費者から使用を認めてほしいという声が大きく、現在では6%の濃度を上限に再び許可されています。PPAは「究極の染料」と呼ばれることもあるほどです。

 3つめの誤解は「パッチテストをしたから安心していた」というものです。パッチテストというのは、毛染めをおこなう前に、あらかじめその製品を腕などに塗ってみて反応が起こらないかどうかをみるテストのことを言います。ただ、本来医療現場で言う「パッチテスト」とは、該当する物質を皮膚に塗布しその上からカバーをかぶせる(まさにpatchです)方法のことを言います。

 毛染めで本来のパッチテストをおこなうのは危険です。先に述べたようにかなりの確率でかぶれるわけですから、そのようなものをパッチして密閉すればそのテストで重症の皮膚炎が起こることもあるからです。ですから覆ってはいけません。そしてこのように該当する物質を皮膚に塗布して覆わないテストのことを「オ-プンテスト」と呼びます。しかし、消費者安全調査委員会はなぜかこの名称は用いずに報告書のなかで「セルフテスト」という名称を用いています。(本コラムでも「セルフテスト」と呼ぶことにします)

 問題はセルフテストの「判定時期」です。かぶれの正式名称は「接触皮膚炎」といい、接触皮膚炎には2種類あります。1つは「刺激性接触皮膚炎」でこれは該当物質に接触してすぐに(せいぜい15分程度で)症状がでます。もうひとつが「アレルギー性接触皮膚炎」でこれは1~3日程度たたないと判定できないのですが、ここをきちんと理解していない人が多いのです。セルフテストはその毛染めを皮膚にぬってそこを濡らさないようにして少なくとも丸2日は経過をみなければなりません(注2)。「パッチテストをした」と言っている患者さんの何割かは、せいぜい30分くらいしか経過をみていないのです。これでは意味がありません(注3)。

 そして4つめの誤解は「このようなかぶれのトラブルが起こったのは毛染め製品の会社や美容院の責任だ」というものです。これは気持ちが分からないわけではありませんが、まず会社の責任は問えません。先にも述べたように、PPAは一定の割合の人がかぶれることが初めから分かっている物質であり、これを前提に製品としているのです。では、会社に責任がないなら、販売者はどうなんだ、美容院はどうなんだ、という疑問を感じる人もいるでしょう。

 たしかに販売者にはいくらかの説明義務違反があるかもしれません。しかし薬局ならまだしも、たとえばスーパーの棚に並んでいる毛染めをカゴに入れてレジで精算をおこなうときに、レジ打ちの職員がかぶれの説明をおこなうことが現実的にできるでしょうか。

 美容室でなら、毛染めを用いる前に充分な説明をおこない、場合によってはセルフテストを先におこなうべきです。しかし、「美容室で15分間のパッチテスト(セルフテスト)をおこなったから安心と言われたのにかぶれた」と言って受診する人が少なくないのです。これはつまり、その美容師が刺激性接触皮膚炎とアレルギー性接触皮膚炎の区別がついていない、ということを意味しています。同じようなことはエステティックサロンにもいえます。エステティシャンがそのサロンで用いている美容液やクリームなどについて「パッチテスト(セルフテスト)をしました」と言ったときもそのテストを15分程度で済ませていることが多いのです。

 これは私の個人的な考えですが、アレルギー性接触皮膚炎やセルフテストのことについては美容師やエステティシャンに任せるべきではないと思います(注4)。知識のある美容師を探すよりも、自身で知識を身につけて、たとえば美容室でヘアダイを勧められたなら、そのサンプルをもらって自宅でセルフテストをおこなうといった対策をとる方がずっと現実的です。つまり「自分の身は自分で守る」べきなのです。

 最後に「毛染めトラブルの4つの誤解」をまとめておきます。

1 毛染めのかぶれは主に「アレルギー性接触皮膚炎」。使い続けるとアレルギーになるものであり「これまで使えていたから大丈夫」というわけでは決してない。

2 「これくらいなら我慢できる」は危険。アレルギー症状は次第に悪化する。重症化すれば長期間通院が必要になることも。

3 セルフテスト(パッチテスト)は少なくとも2日以上たってから効果判定しなければならない。方法がわかりにくければかかりつけ医に相談を。

4 充分な知識のない美容師(やエステティシャン)が存在するのは事実。彼(女)らに知識の向上を期待するよりも「自分の身は自分で守るべき」と考える方が現実的。

 
注1:この報告書については下記URLを参照ください。

http://www.caa.go.jp/csic/action/pdf/8_houkoku_gaiyou.pdf
 
注2:セルフテストを実施するときは原則として丸2日はシャワーもできません。これが患者さんがこのテストをいやがる最大の理由です。ただし、どうしてもシャワーをしたいいう場合は、サランラップなどを用いてその部位を濡れないような工夫をしてもらって短時間シャワーをするという方法もあります。

注3:医療機関でPPAのパッチテストをおこなうことは可能です。本文で「毛染めの(本来の)パッチテストは危険」と述べましたが、医療機関でおこなうPPAのパッチテストは濃度を調節していますので危険性はほとんどありません。下記ページも参照ください。

湿疹・かぶれ・じんましん Q&A Q4 パッチテストをしてほしいのですが・・・

注4:このようなコメントが正しい知識をもった美容師やエステティシャンに対し失礼になることは充分承知しています。しかし「30分のパッチテストをしたから美容師(エステティシャン)に大丈夫と言われた」といって受診する患者さんが当院でも一向に減らないのです。これは、「パッチテスト」の意味が分かっておらず、接触皮膚炎の刺激性とアレルギー性を混同している美容師(エステティシャン)が少なくないことを物語っているのではないかと私には思えます。

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2015年10月20日 火曜日

第146回(2015年10月) 疥癬(かいせん)と大村先生のノーベル賞

 今年(2015年)のノーベル医学・生理学賞に北里大学特別栄誉教授の大村智先生が選ばれました。大村智先生はこれまではあまりマスコミで報道されることはなかったかと思いますが、我々医師や生物学者の間では知らない者はいないといっていい偉大な先生です。

 ノーベル賞を受賞されてから各マスコミが大きく取り上げましたからおよその活躍は一気に日本全国に知れ渡ったと思います。どのマスコミも書いている内容は同じようなもので、伊東市のゴルフ場から採取した土に生息していた細菌(放線菌)から寄生虫の特効薬を開発され、それがいくつかの寄生虫疾患に有効で、特にオンコセルカ症という失明につながる感染症を防いだことがノーベル賞に値する、これまでこの薬(イベルメクチン)で助かった人は10億人にも上る・・・、とこんな感じだと思います。

 たしかに、世界に発信する記事であればこれでいいと思うのですが、日本人が日本人向けに書く記事であれば、「日本では、イベルメクチンのおかげで疥癬(かいせん)の治療が大きく進展した」という内容のものが必要です。私の知る限り、大村先生のノーベル賞受賞後の一連の報道で疥癬に触れたものはありません。というわけで、イベルメクチンが疥癬に対してどれだけ優れた薬かということを今回は紹介したいと思います。

 以前「ダニ」をまとめたコラム(注1)で紹介しましたが、疥癬はヒゼンダニというダニが原因です。ダニが来す感染症としては、ライム病や日本紅斑熱、あるいはここ数年で報告が増えたSFTSなどが有名でこれらは「マダニ」が原因です。これらは「ダニが病原体を媒介する感染症」なのに対し、疥癬は「ダニそのものが感染症」です。

 またイエダニやシラミダニであれば刺されて痒みがでますが「それで終わり」です。痒みはかなり強いですが、ステロイド外用薬を数日間使えば治ります。したがって、これらは感染症ではなく単なる「虫刺され」です。一方、ヒゼンダニの場合は、ダニそのものが人の皮膚の下に潜り、そこに卵を産み付けます。卵が孵化して成虫になるとまた新たに卵を産むことになり、人の皮膚の下で世代交代を繰り返すことになります。つまりヒゼンダニの場合は虫刺されではなく「感染症」になります。

 もっとも、ダニが皮膚の下で動き出すと強烈な痒みがでますから、「世代交代」をさせる前に患者さんは医療機関を受診することになり、体内に生息するダニを完全に退治する、つまり治療をおこなうことになります。

 では体内に侵入したダニを駆除しましよう、ということになるのですが、これがむつかしいのです。正確に言えば、「大村先生が開発したイベルメクチンが登場するまではむつかしかった」となります。

 疥癬というのは老人ホームや老人が多い病院で集団発生します。見舞いに来た家族や医療者に感染することもあります。こういった人たち(見舞いの家族や医療者)が自宅に帰り、自宅で家族に感染させることもあります。疥癬はタオルの共用などでもうつる可能性がありますし、性感染症のひとつでもあります(注2)。

 ここでどのような場合に疥癬を疑うべきか、について述べたいと思います。疥癬が湿疹と異なるのは、まず夜間に激烈な痒みが起こるということです。ほとんどの湿疹や痒みをきたす疾患では昼よりも夜に痒くなりますが、疥癬の場合はその傾向が一段と顕著なのです。これはヒゼンダニが夜に皮膚の下で動き回るからです。

 痒くなる場所は「皮膚の柔らかいところ」です。特に多いのが指と指の間の皮膚の薄いところで、ここに痒みのあるブツブツがある場合はまっさきに疥癬を疑います。また、陰嚢(男性)や外陰部(女性)の場合も疑うことになります。この場合は全体が痒いのではなく、陰嚢(または外陰部)の一部にできた「しこり」のような部分が痒くなっていることが多いと言えます。

 診断は、その部分をピンセットで採取し顕微鏡で確定します。成虫や卵が見つかれば診断確定です。ただし、初期の場合はなかなか見つからず、何度も検査をして始めて確定診断がつくということもあります。

 従来、日本の医療機関でおこなわれていた治療は、クロタミトンという塗り薬で商品名は「オイラックス」というものです。この薬は一応「効く」とされていますが、我々からみると効いているという実感がそれほどありません。実際、外国のデータで、「痒みをとる効果はなかった」とされているものもあります。

 他の治療としては、過去にはイオウの入浴剤を使うという方法がありました。「ありました」と過去形になるのは、現在この入浴剤は販売されていないからです。この入浴剤、商品名は「ムトーハップ」と言いますが、これが販売中止となった理由は、なんとも理解しがたいというか、この製品を一生懸命に作っていた人たちからするとやりきれない思いがあるに違いありません。(この理由は今回の趣旨と関係がないためにこれ以上の言及は避けます(注3))

 イオウの入浴剤がどれだけ効いていたかというと、私の経験でいえば「痒みが改善する」という人はたしかにいましたが、劇的に治るわけではなく、また「まったく効果がない」という人もいました。

 海外ではγBHCという「農薬」が使われることがあり、日本でも医療機関が輸入すれば使えないことはないのですが、やはり皮膚に農薬を塗布するということに抵抗のある人は少なくなく、また実際に接触皮膚炎(かぶれ)が起こることもあり、なかなか使いにくいものでした。

 このように何をやっても治癒させることがむつかしいのが疥癬で、そのうちに他人にうつしてしまってまた広がって・・・、ということがあり、本当に難渋する感染症なのです。しかも重症型(「ノルウェー疥癬」と呼ばれます)もあり、こうなると腎機能が低下し命にかかわることもあります。

 しかし、大村先生の開発したイベルメクチンの登場で疥癬の治療がドラスティックに変わりました。2002年、糞線虫(注4)の治療目的でイベルメクチンが保険適用となったのです。しかしこのときの保険適用は糞線虫にだけであり、疥癬に対して使用するには自費診療となり1錠800円近くもしました。ただ、内服量は体重にもよりますが3~4錠を一気に一度飲むだけですから、数千円の出費で済みます(注5)。

 いま、「数千円の出費で済む」という表現をとりましたが、これに反発したくなる人もいるでしょう。たしかに「数千円」とだけ聞くと「高すぎる!」と私自身も言いたくなります。しかし、疥癬のあの辛い痒みを考えると、「数千円でかゆみから解放されるなら安いもの」と思えてくるのです。それくらい、疥癬がもたらす眠れないほどの痒みは辛いものなのです。

 そして2006年8月、ついにイベルメクチンが保険診療で処方できるようになりました。これで、疥癬の治療が随分と簡単になり、かつてのように難渋することはほとんどなくなりました。以前のように、リスクを抱えてでもγBHCを使うべきだろうか・・・、と悩む必要もなくなったのです。

 大村先生の業績はアフリカで最も大きいのは事実ですが、日本の大勢の患者さんも救われているということをここで強調しておきたいと思います。

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注1:下記を参照ください。

はやりの病気第118回(2013年6月)「ダニほど誤解だらけの生物はいない」

注2:私が長年かかわっているタイのエイズホスピス「Wat Phrabhatnamphu(パバナプ寺)」でも疥癬の患者さんは非常に多く痒みで悩まされる人は耐えません。しかし、この施設ではヒト疥癬ではなくイヌ疥癬がほとんどです。イヌ疥癬のダニはヒトを刺しますが、感染はしません。つまりステロイド外用だけで改善します。なぜイヌに接するの?と思われるかもしれませんが、この施設では病棟にいつもイヌがいます。感染予防上よくないのでは?と感じられますが、「郷に入っては郷に従え」なのです。

注3:この理由については下記を参照ください。
医療ニュース2008年12月1日(月)「老舗の入浴剤「ムトーハップ」が製造中止に」

注4:糞線虫は世界的には重要な感染症で熱帯・亜熱帯地方では珍しくありません。一方、日本では九州南部から奄美、沖縄にはありますが、感染者の多くは高齢者であり増加してはいません。糞線虫の治療ももちろん重要ですが、なぜ製薬会社は初めから疥癬に対しても保険適用できるようにしてくれなかったのでしょうか・・・。

注5:保険診療と自費診療を組み合わせることは「混合診療」と呼ばれ禁じられている診療です。入院している患者さんにイベルメクチンを投与したとき、イベルメクチンが自費なのだから入院代も自費になるのではないかという疑問を私は過去にもったことがあります。しかし、本来の入院している疾患とは別のものと考え、疥癬だけを自費診療でおこなうと考えれば混合診療に該当しないと判断されるようです。ただし、疥癬の治療だけを目的として医療機関の外来を受診すれば診察代も含めてすべて自費になるはずです。こういう問題もあり、イベルメクチンが2006年以降疥癬の治療にも保険適用となり我々もほっとしています。

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2015年9月20日 日曜日

第145回(2015年9月) 髄膜炎菌による髄膜炎

 あまり大きく報道されなかったようですが、2015年8月に山口市で開かれた第23回世界スカウトジャンボリー(WSJ2015)に参加したイギリス人(スコットランド人)3人とスウェーデン人1人が帰国後に髄膜炎菌による感染症を発症していたことが分かりました。

 この大会はいわばボーイスカウトの世界大会で、世界162の国と地域から約3万人(日本人は約6千人)が参加しており、参加者の大半は14歳~17歳の少年(スカウト)です。感染者は4人とも日本で感染したと見なされています。国立感染症研究所によりますと(注1)、幸いなことに4名とも速やかに治療がおこなわれ軽症で済んだようです。

 今回は「髄膜炎菌」の話をしていきたいと思いますが、その前に「髄膜炎」と「髄膜炎菌」の言葉を整理しておきたいと思います。ここを曖昧にしておくと必ず混乱します。

 まず「髄膜炎」というのは髄膜に生じる炎症のことですが、これではわかりにくいので「髄膜」のおさらいから始めましょう。脳と脊髄には外側に「膜」があります。膜は三重構造になっていて、外側から「硬膜」「クモ膜」「軟膜」と呼びます。「髄膜」は「クモ膜」と「軟膜」の総称です。その「髄膜」に炎症がおこった状態が「髄膜炎」というわけです。

 髄膜の炎症は一気に広がることが多く、なんらかの原因で脊髄の髄膜の一部に炎症が生じるとその炎症は脳の髄膜に及びます。そうなると高熱、嘔吐、頭痛などに苦しめられることになります。髄膜炎の原因としては感染性が最も多く、細菌性、ウイルス性、真菌性、寄生虫性、結核性(結核菌は細菌ですが臨床上は他の細菌性と分けて考えます)に分類できます。非感染性の髄膜炎としては腫瘍性(脊髄腫瘍など)、膠原病など自己免疫疾患によるものなどがあります。

 今回とりあげるのは、感染性髄膜炎のなかの細菌性髄膜炎の原因のひとつである「髄膜炎菌」の話です。「髄膜炎を来す原因は多数あり、感染症はそのひとつ。感染症をきたす病原体のなかに細菌があり、その細菌性髄膜炎の原因のひとつに髄膜炎菌がある」ということです。決して「髄膜炎=髄膜炎菌」ではありません。

 一方、髄膜炎菌は髄膜炎以外の感染症を起こさないのか、というとそうではなく、当院の例でいえば長引く咽頭痛の原因に髄膜炎菌性のものがあります。髄膜炎菌は特徴的なかたちをしているので(注2)、のどの赤いところを綿棒でぬぐって顕微鏡で観察すると見つかることがあります。顕微鏡だけでは100%断定できるわけではないため培養検査という精密検査をおこない確定します。

 つまり、細菌性髄膜炎の原因には多数あり髄膜炎菌はそのひとつに過ぎない、一方で髄膜炎菌が起こす感染症は髄膜炎のみならず、咽頭炎なども起こしうる、ということです。

 髄膜炎菌が重要なのは「重症化」があるからです。特に10~20代では注意が必要で死亡することもあります。日本ではかつて終戦前後には年間4千例以上の感染の報告がありましたが、2000年代は10人程度です。しかし2000年代になってからも集団感染の報告、そして死亡例もあります。

 2011年5月、宮崎県の高校で寮生活をしていた4人の生徒が髄膜炎菌に感染し、うち1人が死亡しています。冒頭で紹介したイギリス人とスウェーデン人は多くの10代の生徒が集まる場で感染し、宮崎県の症例は寮で感染しています。これらが示しているように、髄膜炎菌による感染症の最も典型的なパターンがこのケース、つまり10代の生徒が集まる場所での発生です。したがって、国によっては寮に入るのに髄膜炎菌のワクチン接種が必須の条件とされています。特にアメリカではこのルールが厳格です。日本人がアメリカのハイスクールに留学するときには(州にもよりますが)通常は髄膜炎菌のワクチン接種をしていることが入寮の条件となるのです。

 しかし、このアメリカの制度、少し前まで日本人には多いに問題でした。というのは日本には正式に認可された髄膜炎菌のワクチンがなかったからです。このため、どうしても米国のハイスクールに行きたいという人は、危険を抱えて輸入モノの未承認ワクチンを接種するしか方法がなかったのです。

 2015年5月、ついに日本国内で髄膜炎菌のワクチンが発売となりました。誰がこのワクチンを接種すべきかということを考えていきたいのですが、その前に髄膜炎菌がどのようなものなのかもう少し詳しくみておきたいと思います。

 髄膜炎菌の感染はおそらくほとんどは飛沫感染だと思われます。最初に咽頭に感染し、成人の場合は、先に例を述べたように「長引く咽頭痛」などの症状から見つかることがあります。咽頭炎でとどまらない場合、菌は血中に浸入します。そして大量に増殖すれば菌血症または敗血症といって血液中に大量の髄膜炎菌が生息する状態となります。そして一部の菌が髄液に入り込み髄膜に炎症をきたすと髄膜炎となります。こうなると生命に関わる可能性もあります。

 なぜか髄膜炎菌性の髄膜炎は10代から20代に多く発症します。このため髄膜炎菌のワクチンを定期接種としている米国では、1回目を11~12歳時に接種し、追加接種を16歳時におこないます。しかし10歳未満なら髄膜炎菌が怖くないというわけでは決してありません。それ以下の小児で致死的な感染症を起こすこともあります。

 髄膜炎菌の重症化の例で医学の教科書によくでてくるのが「ウォーターハウス・フリーデリクセン症候群」と呼ばれるもので、数日の間に一気に重症化し症状が全身に及び四肢を切断しなければならないような場合もあります。私自身はこういった症例を直接診察したことはなく、論文や学会の症例報告で見聞きしたことがあるだけですが、これほど急激に進行し死に至る病、たとえ死を免れたとしても四肢を切断しなければならない感染症というのもめったにありません。しかも10歳未満の小児にもおこるのです(注3)。

 さて、どのような人がワクチンを接種すべきか、ですが、その前にワクチンの種類について簡単に説明しておきます。従来海外でよく使われていた髄膜炎菌のワクチンは「ポリサッカライドワクチン」(多糖類ワクチン)と呼ばれるもので、このタイプのワクチンは、結論をいえば強い免疫ができずに有効期間が短いという欠点があります。

 この欠点を克服したものが「結合型ワクチン」と呼ばれるもので、従来のポリサッカライドワクチンに特殊な蛋白を結合させたものです。日本で発売になった髄膜炎菌ワクチンはこのタイプです。結合型ワクチンは(B型肝炎ウイルスなどのように)一度抗体ができると長期間免疫が成立するという長所があります(注4)。しかし短所として価格が高いという問題があります。

 髄膜炎菌のワクチン接種が望ましいのは、国内外を問わず寮などの集団生活をおこなう10代から20代前半の生徒・学生ということになります。クラブの合宿などでも検討すべきでしょう。

 あと2つあります。

 ひとつはアフリカ大陸に渡航するときです。特に「髄膜炎ベルト」と呼ばれるアフリカの中央部(西はセネガルから東はエチオピアやスーダン)では髄膜炎が猛威を振るっていて、毎年数万人が罹患し、数百人から多い年は数千人もの死亡者が報告されています。

 もうひとつは、イスラム教のメッカ巡礼(「ハッジ」と呼ばれます)の時期にサウジアラビアへ入国するときです。これは自らの感染予防というよりは、サウジアラビアから求められるからです(注5)。つまり髄膜炎菌のワクチン接種をしたことの「証明書」がなければ入国を拒否されることがあるのです。

 これだけ世界中で人の流れが活発になると、もはや「日本にはない(少ない)感染症だから・・」というのがワクチンをうたない理由にならないと考えるべきでしょう。有効なワクチンのある感染症に罹患した人は「あのとき接種しておけばよかった・・・」と必ず後悔します。

 感染症対策の基本は「自分の身は自分で守る」です。今回紹介した髄膜炎菌を含めて接種すべきワクチンがないかどうか、各自がよく考えるべきです。

*************

注1:詳細は国立感染症研究所のサイトに記載されています。興味のある方は下記URLを参照ください。

http://www.nih.go.jp/niid/ja/bac-megingitis-m/bac-megingitis-iasrs/5878-pr4272.html

注2:髄膜炎菌は細菌学上の分類では「グラム陰性双球菌」となります。これはグラム染色という特殊な染色をおこなうとピンク色に染まる菌で、まん丸の菌がペアで観察されます。ただし、グラム陰性双球菌が見つかると直ちに髄膜炎菌確定というわけではありません。性的接触で感染する「淋菌」もこのグループに入り、実際、髄膜炎菌と淋菌は顕微鏡の検査だけでは鑑別がつきません。

注3:ではこの疾患の可能性を回避するために幼少時にワクチンをうつべきでないのかという意見がでてくるかもしれませんが、いまのところ推奨されてはいません。

注4:少し詳しく述べると、ポリサッカライドワクチンは、接種してもT細胞という免疫を司る細胞が刺激されず、そのためメモリー細胞という細胞がつくられず免疫の記憶が成立しません。一般的な不活化ワクチン(たとえばB型肝炎ウイルスのワクチン)ならば、メモリー細胞が残っていますから血中の抗体が消えていても免疫応答が可能なのです。

注5:このように「接種していないと入国できないワクチン」をrequired vaccine(要求されるワクチン)と呼びます。他には一部の国の黄熱ワクチンが相当します。また、本文に述べたようにアメリカのハイスクールで求められる髄膜炎菌ワクチンやその他ワクチン(麻疹やB型肝炎ワクチンも入学の条件になっていることが多い)も広義ではrequired vaccineということになるでしょう。

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2015年8月21日 金曜日

第144回(2015年8月)増加する野菜・果物アレルギー

 先日、3歳児の食物アレルギーが増加しているという調査結果を東京都が発表し、このサイトでも報告しました(注1)。そのときも述べたように、食物アレルギーが増えているのは小児だけではありません。成人の食物アレルギーもほぼ確実に増加しています。

 成人については東京都の調査のようなきちんとしたものをあまりみたことがなく、具体的な数字を示して論じることはできないのですが、私の印象でいえば、ここ数年間で確実に増加しているのは「野菜と果物のアレルギー」です。

 通常、食物アレルギーというのは重症化(アナフィラキシー)することが少なくなく、喘息発作や意識消失が生じることもあり、最悪の場合は死に至ることもあります。2012年に東京都調布市の小学5年生の女子生徒がチーズ入りのチジミを食べてアナフィラキシーを起こし死亡した事故はまだ記憶に新しいでしょう。

 ですから、食物アレルギーの確定がついている場合、あるいは確定までいたらなくても可能性が強い場合は、その食物を制限する(一切食べない)のが原則ということになります。調布市の小学生はチーズや卵にアレルギーがあることが判っていてあらかじめこれらを除去したチジミが出されていたのですが「おかわり」のチジミにはチーズが入っていたそうです。

 成人の場合、好きでたくさん食べ続けたものでアレルギーが生じることが多く、具体的にはエビ、カニ、ピーナッツ、ソバ、小麦(注2)、魚貝類(注3)などが多いといえます。これらを「今後一生食べられない」と言われたときに大変なショックを受ける人は少なくありません。

 今回は食物アレルギーのなかでも「野菜と果物のアレルギー」をとりあげます。これらのアレルギーはエビや小麦などのような従来のアレルギーとは症状が随分と異なります。従来のアレルギーというのは食べてから10~15分程度でじんましんや喘息などの全身症状が生じ、重症化すると死に至ることもあるもので、調布市の小学生もこのアレルギーに相当します。これを「即時型アレルギー」と呼びます。

 野菜・果物アレルギーは例外がないわけではありませんがそれほど重症化しません。症状としては口のなかに違和感・不快感が生じる程度なのです。しかも、症状出現時に口のなかを見せてもらっても視診上の異常はまったくありません。このような疾患を「口腔内アレルギー症候群」と呼ぶのですが、野菜・果物アレルギーと口腔内アレルギー症候群は事実上ほぼ同じものを指しています。

 果物のアレルギーには、食べてから2日くらいたってから口の周りに湿疹がおこるものがあり、頻度ではおそらくマンゴーが一番多いと思いますが、これは口腔内アレルギー症候群とは異なります。口の周りの湿疹は、かぶれの一種であり、食べるときに口の周りにマンゴーのエキスが付着することが原因です。したがって熟れたマンゴーにかぶりつけば生じますが、小さくカットしたものを行儀よく口に入れればアレルギー症状はでません。ただし、マンゴーを食べて口腔内アレルギー症候群を起こすこともあります。

 では、野菜・果物アレルギーはどのような野菜・果物で起こりやすいのかをみていきましょう。

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の症例でいえば、圧倒的に多い3つが、アボカド、キウイ、バナナです。次に多いのが、クリ、リンゴ、メロン、トマト、セロリ、パパイヤ、モモ、ナシあたりだと思います。これら以外にも起こりうるものを教科書も参照して並べてみると、ニンジン、(生の)ジャガイモ、アプリコット、チェリー、プラム、イチジク、ブドウ、イチゴ、パイナップル、パッション、ピーマン、あたりが挙げられると思います。

 これらを食べてしばらくすると口のなかに違和感・不快感が生じたときは、口腔内アレルギー症候群を発症している可能性があります。では、一度でもこういった症状が生ずれば、今後その食べ物を一生避けなければならないのでしょうか。

 実はこれは大変むつかしい問題です。谷口医院の患者さんをみていると、たとえば最初はキウイだけだったのに、そのうちモモでもリンゴでも・・・、となっていくケースが少なくありません。数多い野菜・果物のなかで1つか2つだけであれば避けることに問題がないかもしれませんが(それでも好きな果物で起こることが多い!)、あれもこれも避けて・・・、となると、そのうち食べられる野菜・果物がなくなってしまいます。

 では重症度を測定してみてアレルギーの反応が強いものを避けよう、という考えがでてきますが、これもそう単純にはいきません。アレルギーの血液検査というのはあくまでも参考であり絶対視すべきでないということは過去に述べたことがあります(注4)。血液検査でIgE抗体が陽性であったとしても必ずしもアレルギー反応が生じるとは限らないのです。(IgG抗体はまったくあてになりません)

 野菜・果物アレルギーの場合、症状がでていてアレルギーであることはあきらかなのに抗体価がさほど上がらない、というケースもあります。このため、より正確に検査をおこなおうと思えば、皮膚のテストを実施する必要があります。これは特殊な針を該当する野菜や果物に刺して、その次にその針を皮膚に刺す検査です。しばらくして赤く腫れてくればアレルギーがあると考えられます。ただし、この検査は果物を用意しなければなりませんし、何かと手間がかかるために実施している医療機関はあまり多くないと思います。(谷口医院では現在検討中ですが現時点では実施していません)

 ですから、野菜・果物のアレルギーの診断は「問診」でおこなうのが現実的ということになります。一度、アレルギーを疑う軽度の症状が出現し、その次に同じものを食べていきなり重症化、ということは非常に考えにくいために、谷口医院では全例に「完全除去」を指導していません。もしも症状がでた(かもしれない)ときに薬を飲んでもらうという方法もありますから、それぞれの患者さんの重症度を勘案して検討していくことになります。

 野菜・果物アレルギーで知っておくべき重要なことが3つあります。

 1つは、頻度は少ないとはいえ、重症化がないわけではないということです。重症化することがある野菜・果物として、バナナ、アボカド、クリがあります。また野菜にも果物にも当てはまらないと思いますが、ソバとピーナッツでは全身症状が出現することがしばしばあります。

 2つめは、野菜・果物アレルギーがあるとラテックスアレルギーを起こしやすくなるということです。その逆に、ラテックスアレルギーがあると野菜・果物アレルギーを起こしやすいということもわかっています。これは、野菜・果物とラテックスの表面の蛋白質の構造が似ているからです。野菜・果物アレルギーに重症化は少ないですが、ラテックスアレルギーは海外では死亡例もあります。ラテックスアレルギーを併発しやすい野菜・果物アレルギーの原因としては、バナナ、アボカド、クリ、キウイ、セロリ、マンゴー、パッション、ピーマンなどがあります(注5)。

 3つめは、花粉症があると野菜・果物アレルギーが生じやすいということです。ラテックスと同じように、ある種の花粉と野菜・果物の表面の蛋白質の構造が似ているのです。花粉症といってもスギやヒノキの花粉症があれば生じやすいわけではありません。

 私の印象でいえば、頻度としてはシラカバが一番多いといえます。シラカバに反応する人は、リンゴ、モモ、ナシ、チェリーなどでアレルギーがでやすいのです。そのため私はこれら果物にアレルギーがありそうな人には出身地を聞くようにしています。すると、かなりの確率で彼(女)らは北海道から東北地方、北関東の出身なのです。シラカバは関西にはありませんし、リンゴやモモ、ナシ、チェリーは北日本でよく採れるものです。シラカバ以外では、全国に分布している花粉症の原因の樹木にオオバヤシャブシとハンノキがあり、これらの花粉に反応する人も野菜・果物アレルギーを起こしやすいと言われています(注6)。

 先に述べたように、例外がないわけではありませんが、一般に野菜・果物アレルギーは重症化することはそう多くありません。ですから絶対に除去しなければならないというわけでもありません。どのように対策を立てていくべきかについて、気になる人は一度かかりつけ医に相談してみてください。

注1:詳しくは下記「医療ニュース」を参照ください。

医療ニュース(2015年8月3日)「食物アレルギーが急増」

注2:このサイトで何度も紹介しましたからここでは省略しますが、「茶のしずく石けん」などに含まれていたコムギによりコムギアレルギーが生じ、その後小麦製品が一切食べられなくなったという人が相次ぎました。現在では再び小麦製品が食べられるようになっている人もいます。

参照:はやりの病気第94回(2011年6月)「小麦依存性運動誘発性アナフィラキシー」

注3:魚貝類のアレルギーは魚そのものよりも魚に寄生するアニサキスによるアレルギーの方が多いといえます。また古い魚などで蕁麻疹が生じることもあります。詳しくは下記コラムを参照ください。

はやりの病気第98回(2011年10月)「いろいろな魚介類のアレルギー」

注4:詳しくは下記「医療ニュース」を参照ください。

医療ニュース(2014年12月25日)「「遅延型食物アレルギー」に騙されないで!」

注5:下記「はやりの病気」も参照ください。ラテックスに触れる機会が多いのは、歯科医院で治療を受けるとき(衛生士や歯科医師は通常ラテックス製の手袋を用いています)、ゴム風船(甲子園球場でジェット風船を膨らませると口がかゆくなるという訴えがあります)、あとはコンドームも要注意です。

はやりの病気第35回(2006年7月)「ラテックスアレルギー」

注6(2017年3月25日追記):
花粉症と野菜・果物アレルギーを大まかに分類すると次の4つになります。尚、このコラムを書いた2015年8月時点では、本文にあるように、野菜・果物アレルギーは関東出身者に多い印象がありましたが、その後患者さんが急増し、関西出身者にもバラ科のアレルギーが増えています。また、最近重症化が目立つのが豆乳アレルギー(ハンノキ花粉症もあります)及びスパイスアレルギー(ヨモギ花粉症もあります)です。

◎カバノキ科(シラカバ、ハンノキ、オオバヤシャブシ)
バラ科(リンゴ、西洋ナシ、サクランボ、モモ、スモモ、アンズ、アーモンド)
セリ科(セロリ、ニンジン)
ナス科(ジャガイモ)
マメ科(大豆、ピーナッツ)
マタタビ科(キウイ)
カバノキ科(ヘーゼルナッツ)
ウルシ科(マンゴー)
シシトウガラシ

◎ヒノキ科(スギ、ヒノキ)
ナス科(トマト)

◎イネ科(カモガヤ)
ウリ科(メロン、スイカ)
ナス科(トマト、ジャガイモ)
マタタビ科(キウイ)
ミカン科(ミカン、オレンジなど)
マメ科(ピーナッツ)

◎キク科(キク、ヨモギ、ブタクサ)
セリ科(セロリ、ニンジン)
ウリ科(メロン、スイカ、カンタループ、ズッキーニ、キュウリ)
バショウ科(バナナ)
スパイスなど

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2015年7月21日 火曜日

第143回(2015年7月) 本当は少なくない睡眠時無呼吸症候群

 当初考えられていたよりも実際はそれほど深刻ではなかった、という病気がある一方で、当初考えられていたよりも実は深刻だった、という病気があります。「睡眠時無呼吸症候群」は、そんな病気のひとつではないかと私は考えています。

 睡眠時無呼吸症候群という病気は昔からあり、私が医学部の学生の頃にも教科書に載っていました。この病気は簡単にまとめると、「睡眠時に気道が閉塞し呼吸が不規則になり充分な睡眠がとれず、日中に眠気が起こる」というものです。そして、「扁桃が大きい人や肥満の人に起こりやすい」とされています。

 しかし、現在の考え方では、この記載だけでは必ずしも正しくありません。「睡眠時に気道が閉塞し呼吸が不規則になり充分な睡眠がとれない」というところは、間違いありません。しかし「日中に眠気が起こる」というのは、たしかに多くの人はそうなのですが、眠気を感じない人がいるのも事実なのです。

 眠気を感じなければ何が問題なの?、と思う人もいるでしょう。たしかに自覚症状がなく日常を問題なく過ごすことができれば取り立てて騒ぐ必要はありません。怖いのは、一切の眠気がないのにもかかわらず突然「意識をなくす」ことがあるからです。

 もしも運転中に意識がなくなればどうなるでしょうか・・・。実は、自動車事故のいくらかは、本人に病識はまったくないものの睡眠時無呼吸症候群に罹患しており、ある瞬間に突然意識をなくしてしまったから生じたのではないかと言われています。

「病識がない」というのは、自身が睡眠時無呼吸症候群に罹患しているということをまったく知らず、そして意識をなくす直前まで眠気を感じていなかった、ということです。このようなケースでこの人が突然意識をなくし交通事故を起こした場合、罪を問われないケースがあります。実際、過去の判例で「睡眠時無呼吸症候群のために突発的に睡眠した疑いがあり業務上過失傷害罪が成立せず無罪」となっているケースもあります。

 あなたがこれから深夜バスに乗って長距離を移動するとしましょう。運転手は経験豊富で病気ひとつ知らない健康優良児、体調も問題なし、健康診断は先月受けたばかり、としましょう。しかし、実際、運転手本人が気付いていないものの実は睡眠時無呼吸症候群を患っており、その夜に悲劇が・・・、ということもあり得るのです。そして、あなたは命は助かったものの重症の傷を負い一生車椅子の生活に・・・、さらに裁判では運転手が無罪・・・、ということもありうるのです。

 先に睡眠時無呼吸症候群は「扁桃が大きい人や肥満の人に起こりやすい」と述べました。現在ではこの表現では不充分であることが分かっているのですが、これらが間違っているわけではありません。ならば、運転業務に就く者は健診時に扁桃の診察を受け、体重を測定し、睡眠時無呼吸症候群のリスクがあると判断されれば精密検査を受ければいいではないか、という意見がでてきます。

 たしかにその考えは間違ってはいません。睡眠時無呼吸症候群に罹患している有名人でみてみると、力士では白鵬と大乃国が有名です。彼らは稽古中にも眠気を感じるようになりパフォーマンスが出なくなったそうです。体重が増え脂肪組織が増大したことで気道が細くなってしまったのでしょう。

 タレントでは、高橋英樹さん、沢田研二さんが有名でしょう。二人とも中年期以降に体重が増え始めたことが原因ではないかと言われています。

 しかし、です。実際にはまったく肥満がないのにもかかわらず睡眠時無呼吸症候群に罹患している人もいるのです。そして、彼(女)らが、日中の眠気を感じていたとすればまだ救われる可能性があります。自身もしくは周囲が異変に気付いて医療機関の受診につながる可能性があるからです。ただし、肥満のない人が日中の眠気を訴えて医療機関を受診したとしてもすぐに睡眠時無呼吸症候群の診断がつく可能性は高くありません。睡眠障害やあるいはうつ病と診断される可能性すらあります。

 もしも彼(女)らに、日中の眠気の自覚がまったくなかったとしたらどうでしょう。この場合医療機関を受診する可能性はほとんどありません。そして彼(女)の仕事が運転手で、不幸にも事故を起こしたら・・・。

 報道された大きな事件では2008年に愛知県で大型トレーラーが赤信号の交差点につっこんで通行人を死亡させたというものがあります。この事故では最高裁で実刑が確定しましたが、名古屋地方裁では睡眠時無呼吸症候群に罹患していたという理由で「無罪」でした。そして原告は決して肥満ではありませんでした。

 もうひとつ、記憶に新しいところでは2012年に関越自動車道でツアーバスが防音壁に衝突し乗客45人が死傷したという痛ましい事故がありました。この裁判では実刑判決がでましたが、運転手は睡眠時無呼吸症候群の診断がつきました。そして肥満ではありませんでした。

 やせていても睡眠時無呼吸症候群になっていることがある、そして日中の眠気などの自覚症状がない、となると、どうやって罹患者を見つければいいのでしょうか。電車やバス、タクシーの運転手には全例検査を義務づければいいではないか、という意見もあるでしょう。私もそのように考えています。自覚がなくて通常の健診で見つけられないなら精密検査をするしかありません。

 精密検査は、PSG(ポリソムノグラフィ)というものをおこないます。これは1泊して、睡眠中に脳波や呼吸の状態を調べるものです。自宅で器械を装着しておこなう検査もありますが、精度はPSGに劣ります。公共の乗り物の運転手は全員にPSGを実施すべきではないかと私は考えています。

 一般の人で、睡眠時無呼吸症候群の疑いがあるかもしれない、という人は簡易検査でもいいかと思います。しかし簡易検査といっても実際はそれほど”簡易”ではありません。これについて述べる前に、どのような人が検査を検討すべきかを考えていきましょう。

 まず扁桃の大きい人や肥満がある人は日中の眠気などの自覚がなくても検討すべきでしょう。また、扁桃が大きくなく肥満がない人でも日中の眠気がある人も検討すべきでしょう。いびきをかく人、特に飲酒後の睡眠でいびきをかく人も可能性があります。これは飲酒で筋肉が弛緩して気道が閉塞している可能性があるからで、こういうタイプの人は解剖学的に気道が狭い可能性があります。解剖学的にはいわゆる「ほそおもて」の人にリスクが高いと言われています。しかし「ほそおもて」というのは見た目の印象に過ぎませんからこれを基準にはできないかもしれません・・・。

 それ以外では、疲労感や倦怠感がとれない人(これらと眠気の鑑別は困難です)、抑うつ感がとれない人(あるいはすでに「うつ病」の診断がついている人)、夜間に二度以上尿をする人(睡眠時無呼吸症候群の治療を開始すると尿の回数が減る人がいます)も検査をしてもいいかもしれません。

 もうひとつ、検討したいのは血圧が高い人です。特に2種類以上の降圧薬を内服している人は、肥満がなくても疑ってもいいかもしれません。実際、睡眠時無呼吸症候群の治療を始めてから血圧が安定して、降圧剤を中止することができたという人も少なくないのです。

 PSGは一泊入院が前提ですからなかなか現実的ではないかもしれません。自宅でできる簡易検査もありますが、これに対応している医療機関はさほど多くなく(注1)普及するまでにもう少し時間がかかりそうです。私自身は睡眠時無呼吸症候群はこれから最も注目されるべき疾患のひとつであり、専門クリニックがもっとつくられるべきだと考えています(注2)。

 睡眠時無呼吸症候群の治療はCPAP(シーパップと読みます)と呼ばれる持続的に鼻に酸素を供給する装置のことです。ただしこれが保険適用で認められるのは重症例に限ります。重症でない場合は口腔内に装着する装置を用いることもあります。扁桃が大きい場合は手術で取り除くこともあります。

 ただしこれらは大がかりな治療になりますから、予防できる場合は予防が先決です。誰でもすぐにできる方法が「横を向いて寝る」という方法です。もしもあなたと一緒に寝ている人のいびきがうるさいなら横を向けてあげましょう。それだけでいびきが止まってあなた自身もぐっすり眠れるようになるかもしれません。

 もうひとつ、多くの人にとってこれが最も重要なのですが、それは「減量する」ということです。CPAPは極めて有効な治療法ではありますが、出張の多い人などは何かと大変です。飛行機に搭乗する場合は事前に航空会社への報告が必要ですし、国際線の場合は、夜間のフライトとなり電源がないということもあり得ますし、なかには持ち込めない場合もあるようです。

 先に述べたように、肥満がなくても「ほそおもて」という顔の形だけで睡眠時無呼吸症候群になりやすい人がいるのは事実です。しかし、そうはいっても多くは中年期以降の肥満が原因になっています。思い当たる人は減量を開始しましょう。

注1:当院でも実施していません。当院では必要のある患者さんには睡眠時無呼吸症候群を診療している医療機関を紹介するようにしています。

注2:専門クリニックが不充分ななか、私が期待しているのは、スマホで管理できるパルスオキシメーターです。これは数年以内に市場に登場するのではないかと私はみています。パルスオキシメーターでの計測はPSGに比べると精度が劣りますが、それでも簡単に自宅でできることには意味があります。(スマホを用いての健康管理については下記コラムも参照ください)

参考:メディカルエッセイ第150回(2015年7月)「スマホで健康管理」

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2015年6月19日 金曜日

第142回(2015年6月) E型肝炎対策と生肉の楽しみ方

 2011年に集団食中毒を起こし5人の子供の命を奪った北陸の焼肉チェーン店「焼肉酒家えびす」に対し今も否定的な気持ちを持っている人は少なくないでしょう。

 この事件を受けてこの焼肉屋は倒産しましたが、事はそれで終わりませんでした。2011年10月1日、生食用牛肉の処理に関する厚生労働省の基準が改正されました。ここまではいいのですが、2012年7月にはこの事件のせいで生レバーが禁止されました。

 生レバーが大好きという日本人は少なくなく、提供禁止となる直前には焼肉屋での需要が急増し、生レバーを惜しみながら食べる人が大勢いたそうです。その後は、あからさまに生レバーを提供する店はなかったでしょうが、こっそりと「裏メニュー」のようなかたちで客に出している店があり摘発されたところもあります。

 法律のなかには「形だけ」のものもありますが、摘発が相次いだことから、今ではほぼすべての焼肉屋で生レバーを食べられなくなっています。生レバーを提供し、スタッフや客の誰かひとりが裏切って通報すればその店は即つぶれることになりますから、このようなリスクを背負う店はほとんどありません。

「焼肉酒家えびす」の事件さえなかったら・・・。このように考えている人は少なくないはずです。その後、生レバーを諦めきれない人たちがどうしたかというと、牛から豚にシフトしました。法律で決められたのは「牛の生レバー」ですから、豚や鶏など他の肉では規制がないわけです。

 そこで、豚肉を提供する焼肉屋では積極的に豚の生レバーをメニューに加えるようになりました。豚のレバーも牛に劣らないくらい美味しいらしく(私は食べたことがありませんが)、「牛生レバー禁止令」が出てからすぐに豚生レバーの知名度が上がりました。

 しかし落とし穴がありました。豚肉は牛肉と異なりE型肝炎ウイルスのリスクがあるのです。

 国立感染症研究所の報告によりますと、E型肝炎ウイルス感染の報告数は2012年以降に急増し、2014年は146人となりこれは過去最多となります。これを受けて今月(2015年6月)から、豚肉の生肉提供が法律で禁止されるようです。

 全国でたった146人と聞くと、なんだそんなものか、と思う人もいるでしょうが、実際に感染している人はこの何十倍もいるはずです。というのは、E型肝炎ウイルスは不顕性感染といって感染しても発症しない人が多く、また発症したとしても一過性で、しばらく倦怠感と微熱が続いたけどいつのまにか治った、という人も少なくないからです。このようなケースでは医療機関を受診しないことが多いでしょうし、受診したとしても軽症のまま治ってしまえば医師が感染に気付きません。

 治ったのだからいいではないか、と感じる人もいるかもしれませんが、もしも体内に入ってきたウイルス量がもっと多ければ、あるいは、体調が悪く免疫力が正常でなかったとしたら、場合によっては重症化したかもしれません。

 E型肝炎には慢性化はありません。食べ物から感染するということ、慢性化がないということ、特効薬がないということ、劇症化があり死に至ることもあること、などはA型肝炎と似ています。潜伏期間も6週間程度で、A型肝炎の場合は4週間程度ですから少し差はありますが同じような感染症と考えていいでしょう。

 教科書的な話を補足しておくと、E型肝炎の不顕性感染はA型肝炎よりは少なく、また劇症化(重症化)する確率もA型肝炎よりは多いとされています。特に妊婦さんが感染すると高率に劇症化します。この点は大変重要で、私は妊娠の可能性のある患者さんがアジア方面に旅行に行くと話された場合は、屋台での食事を控えるように助言しています。(もっとも、妊娠初期は搭乗事態が流産のリスクになりますから海外渡航は可能な限りやめてもらっていますが)

 ワクチンは現在海外で開発中で、一部はかなり実用化に近づいているという情報もありますが、日本国内で接種できるようになるにはまだ当分かかりそうです。

 肉の生食に話を戻しましょう。E型肝炎ウイルスのリスクがある豚の生肉摂取が禁止されるのは当然と私は考えていますが(注1)、他の肉にも注意が必要です。最近は「ジビエ」と呼ばれる野生のイノシシやシカを食すのがブームのようですが、こういった肉にもE型肝炎ウイルスが感染していることが知られています。火を通せば問題ありませんがユッケやタタキなど生で食べることは慎まなければなりません。

 あれも食べるな、これも食べるな、と言われると、寂しくなるというよりは反発したくなります。個人的なことを言えば、牛の生レバー禁止は解除してもらいたいと私は考えています。もちろん危険性は周知させるべきですし、一定の基準を設ける必要はあります。また、行政の抜き打ち検査のようなものは取り入れるべきでしょう。しかし、完全禁止は「食文化の否定」に他ならず、私の意見は「昔から食べていたものを安易に禁止すべきでない」というものです。

 牛肉の生レバー禁止賛成という人たちが安全衛生以外のことでよくいう理由に「生レバーを食べるのは日本人くらい」というものがありますが、これはおかしな理屈です。この理屈に従うならそのうち牛肉のタタキも食べられなくなるかもしれません。何を食べるかというのは伝統に従ってその地域の人々が決めるものであり、今回のコラムの趣旨とは異なりますが、現在話題になっているクジラやイルカを食べることを外国人が非難するのも私はスジ違いだと思います(注2)。

「グリーンピース」を代表としたNGOは日本のクジラやイルカを目の敵にしていますが、ではイヌはどうなのでしょう。よく知られているように韓国や中国ではイヌを食べる食文化がありますし、タイでも東北地方のサコンナコン県などでは今もイヌを食す人がいます。ネコについては私自身は食べたという人に会ったことはありませんが、中国の一部の地方では今もネコを食べる文化があると聞きます。イヌやネコは食べてもよくてクジラはいけない合理的な理由があるなら是非聞いてみたいものです。もしも日本が一部の環境団体からの圧力に屈しクジラを食べなくなってしまえば、おおらく次の日本食のターゲットは馬になるでしょう。馬刺しが過去の産物となりヤミ市場でしか手に入らなくなるかもしれません。

 話を感染症に戻します。大切なのはどのような法律をつくるべきかではなく、安全に美味しく食事をするにはどうすればよいか、です。法律がなくても鮮度の落ちた鶏肉や魚介類を生で食べてはいけませんし、何分以上火にかけなければならないという規則ができたとしてそれに秒単位でこだわるのはナンセンスです。

 安全に美味しく生肉を食べる方法、それは「昔からその地域で食べている方法で食べること」です。わかりやすい例を紹介したいと思います。

 タイのイサーン(東北地方)では、発酵させたサワガニの入った「ソムタム・プー」と呼ばれるパパイヤサラダがあります。「発酵」といっても実際の臭いは生のサワガニそのものであり発酵臭というよりは腐敗臭にしか日本人には感じられません。私はこの料理を初めて出されたとき、どうしても口にすることができなかったのですが、その後も何度も勧められついには食べられるようになりました。当初食べられなかった一番の理由は「臭くて吐き気を催すから」ですが、もうひとつの理由は「肺吸虫は大丈夫なのか?」というものです。生のサワガニが肺吸虫という寄生虫のリスクになることは医学を学んだものであれば常識ですから、いくら現地の人たちが毎日食べていると聞かされても躊躇するのです。

 今では私はこのソムタム・プーを抵抗なく食べられるようになりましたが(注3)、私が危惧していた事故は日本で起こりました。九州に滞在している複数のタイ人が、日本のサワガニを用いてソムタム・プーをつくり、これを食べてウエステルマン肺吸虫に罹患したという報告がおこなわれたのです(注4)。

 ところで、海外にしばらくいると無性に日本食が食べたくなることはないでしょうか。日本人の大好きな定番メニューに「卵かけご飯」があります。ほとんどの国では鶏卵は比較的簡単に入手できますが、では日本にいるときと同じように卵がけご飯を食べてもいいのでしょうか。答えは「否」です。

 現地の人が食べていないものを食べるのは原則として慎むべきです。ちなみに私は以前バンコクにいるときにどうしても生卵が食べたくなりそのために日本料理店に行ったことがあります。生卵ひとつの値段がたしか150バーツ(当時のレートで約450円)もしました。そのときは、近くの屋台で売られているゆで卵を5つ串にさしたものが20バーツ(つまり1個4バーツ)でしたから生卵は驚異的な価格です。普通にスーパーなどで売られている卵は生で食べられないのです。

 もっと分かりやすい例をあげましょう。日本では全国どこにいっても水道水が飲めますが、こんな国はほとんどありません。海外に行けば多くの国ではペットボトルの水を携帯しなければなりません。

 日本のいいところとして、四季、風景、工芸品、日本食、古典芸能、きれいな街並、日本製品、新幹線、アニメなどいろんなものが挙げられますが、私が日本がすばらしいと思う3つの点は「鶏卵を生で食べられること、水道水がどこへ行っても飲めること、トイレに紙を流していいこと」です(注5)。これら3つを適えた国は、おそらく日本以外には存在しないのではないでしょうか。

 まとめです。危険性を考えて法律で肉の生食を規制するのはある程度は必要なことではありますが、牛の生レバーを完全禁止するようなことを続けていれば、そのうちに卵がけご飯が禁止されてしまう時代がくるかもしれません。これまで食してきた文化を尊重し、いきすぎた規制には反対すべき、と私は考えています。

注1:ここでは述べませんが豚の生肉にはE型肝炎ウイルス以外に、様々な寄生虫や細菌感染のリスクがあります。寄生虫では有鉤条虫が、細菌ではサルモネラが有名です。

注2:ただし日本は「科学調査目的」と言い張って捕鯨し、実際にはクジラの肉を食べているわけで、これはおかしいと思います。かつてオーストラリアに指摘されたことがありますが、日本が科学調査目的と言い張るならキャッチ&リリースすべきです。食用として捕鯨したいのですから、アイルランドが昔から言っているように「漁民の生活のために一定の捕獲を認めてほしい」と言えばいいわけです。

注3:ただし私は今でもソムタム・プーを含めたイサーン料理を現地の人と毎日食べるとそのうちに下痢をします。また私はA型肝炎ウイルスのワクチンを接種しているから、現地の人と同じものや屋台での食事がおこなえるのです。このコラムを読んでイサーンの現地料理を食べたいと思った人がいれば渡航前にかかりつけ医に相談してください。

注4:国立感染症研究所のウェブサイトに記載があります。興味のある方は下記URLを参照ください。

http://idsc.nih.go.jp/iasr/25/291/dj2916.html

注5;少し補足しておきます。まず鶏卵の生食ですが、日本のように食べる国はないと思います。ヨーロッパでは私の知る限り鶏卵を生で食べる国はほとんどありません。アメリカやオセアニアでは「サニーサイドアップ」と呼ばれる半生の目玉焼きはありますが完全に生のものは聞いたことがありません。韓国ではユッケに生卵の黄味が使われますが卵がけご飯はないと思います。

水道水が飲める国、さらに全土で飲める国というのはあまりないはずです。UKではロンドンでは飲めるようですが、地方に行くと飲めないと聞いたことがあります。アジアで水道水が飲める国は皆無です。ただ、ニュージーランドと(たしか)オーストラリアでは日本と同じように全土で飲めると聞いたことがあります。

トイレに(便器に)紙を流していい国は、先進国では増えているようですが、それでも全土で流せる国はそう多くはないと思います。アジアではその国のどこへ行っても紙を流すことのできる国は(私の知る限り)ありません。この点については『マンスリーレポート』2012年9月号「トイレの使い方、間違ってませんか?」も参照ください。

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2015年5月20日 水曜日

第141回(2015年5月) マラリアで死んだ僕らのヒーロー

 そろそろ蚊の心配をしなければならないシーズンとなりました。昨年(2014年)はデング熱の日本で日本人が感染した症例が69年ぶりに報告され、最終的には150人以上に確定診断がつきました。デング熱を媒介するヒトスジシマカは冬になると姿を消しますが、夏前には出現しますから、そろそろ対策を立てなければなりません。

 ヒトスジシマカが媒介するやっかいな感染症にはチクングニア熱もあります。私自身は、将来的にはデング熱よりもチクングニア熱の方がむしろ重要になるのではないかとみています。(詳しくは下記「はやりの病気」を参照下さい)

 デング熱もチクングニア熱も、ウイルスを媒介する蚊はヒトスジシマカだけではなくネッタイシマカもあります。ネッタイシマカはデング熱もチクングニア熱もヒトスジシマカよりも人に感染させる可能性が高いことがわかっています。しかし、ネッタイシマカは文字通り「熱帯」に生息していますから現時点では日本にはいません。ただ、台湾で確認されていることから、今後沖縄や奄美諸島に上陸する可能性は充分にあります。

 さて、今回お話したい蚊はヒトスジシマカでもネッタイシマカでもなく「ハマダラカ」という蚊です。現在この蚊は日本にはいません(注1)。中国を含むアジア、アフリカ、中南米に生息しており、世界三大感染症のひとつであり年間60万人以上を死に至らしめるマラリアを媒介する蚊です。(ちなみに三大感染症のあとの二つは結核とHIVです)

 海外渡航をしない人や、するとしても欧米やオセアニアにしか行かないという人にはマラリアはほとんど縁がないでしょうが、アジア、アフリカ、中南米に渡航する人は充分な対策を立てなければなりません。とはいえ、例えば上海やバンコクに短期旅行や出張に出かけるという人は特に対策を立てる必要はありませんし、長期滞在の場合でも、例えば休日にジャングルを探検するといったようなことをしなければハマダラカに対する特別のことをする必要はありません。

 ただし、これらの地域にはデング熱やチクングニア熱はありますから、一般的な蚊(つまり、ネッタイシマカやヒトスジシマカ)の対策は必要です。今回は、その「一般的な蚊の対策」に加え、「マラリアに対する予防・治療」の話をしたいと思いますが、その前に、マラリアを語るときにどうしても外せないある日本人の話をしたいと思います。(「どうしても外せない」というのは私が勝手に思っているだけで、今からする話を医療者から聞いたことはありません・・・)

『快傑ハリマオ』というヒーローをご存知でしょうか。1968年生まれの私で名前を知っている程度というか、私が子供の頃は『月光仮面』と対比されて語られていたような記憶がかすかにあります。wikipediaで調べてみると「1960年4月から1961年6月まで日本テレビ系で放送」という記載がありました。再放送で観たかどうかも記憶になく、私の世代にとっては「昔のヒーロー」という印象です。

 そのハリマオが実在した人物ということを私が知ったのは大人になってからです。そして、そのハリマオこと谷豊(たにゆたか)という日本人がマレーシアでマラリアに罹患し他界したことを知ったのは医学部に入学してからです。

 谷豊は1911年に福岡県で生まれ、2歳の時に一家で現在のクアラトレンガヌに移住しています。クアラトレンガヌは(私は訪ねたことがありませんが)マレーシア半島の東海岸に位置する都市で、クアラルンプールからは飛行機で1時間程度で着きます。当時はイギリス領でした。

 谷豊は5歳の頃に日本に帰国し日本の小学校に入りますが、13歳の頃には再びマレーシアに渡り10代を過ごします。20歳になったとき徴兵検査を受けるために帰国するのですが、不合格になったそうです。この理由は諸説あり、谷豊自身が天皇制に反対していたとするものもあれば、身長が足らなかったとするものもあります。

 同時期に悲劇が起こります。谷豊が日本滞在中に満州事変が起こり、マレーシアにいる華僑が排日暴動を起こし、なんと谷豊の妹が暴徒と化した華僑に斬首されたのです。しかも暴徒は妹の首を持ち帰りさらしものにしたそうです。

 日本でこれを知った谷豊は怒りに身を任せ単身マレーシアに乗り込みます。そして10代を共に過ごしたマレー人の若者たちと徒党を組み、華僑の悪党たちを襲撃する盗賊団を結成しリーダーになります。これが『快傑ハリマオ』の原型です。マレー語をほぼ完璧に話し、すでにイスラム教に帰依している谷豊は日本人ではなくマレー人と思われていたそうです。ハリマオとはマレー語で「虎」を意味するそうですが、盗賊団のリーダーをしていた頃にハリマオと呼ばれていたかどうかには諸説あり、死後に英雄視する見方が広まりその頃に伝説の人物として「ハリマオ」という名が後からつけられたとする説が有力です。

『快傑ハリマオ』として描かれている姿と実際の谷豊にはギャップがあるでしょうが、大勢のマレー人から慕われていたのは間違いなさそうです。谷豊は日本陸軍の諜報員として活躍していたのも事実ですが、このあたりの話はここではやめておきます。(興味のある方は下記参考文献①を読んでみて下さい)

 谷豊の最期はマラリア感染です。当時もキニーネというマラリアの特効薬があったそうなのですが、谷豊は「白人のつくった薬は使いたくない」と言い、最後まで拒否し30歳で他界したそうです。作家の下川裕治氏は、谷豊の墓を探してクアラトレンガヌを訪れ紀行文を書いています。(興味のある方は下記参考文献②を読んでみて下さい)

 さて、マラリア対策ですが、まずは渡航する地域がマラリアの可能性がある土地かどうかを調べるところから始めます。先に、上海やバンコクでは心配しすぎる必要はない、と書きましたが、私はタイの医療者からバンコクでもマラリアが発症することがある、という話を聞いたことがあります。大都市滞在のみでも、マラリアの予防薬内服までは不要ですが、「一般的な蚊の対策」は必要です。

 一般的な蚊の対策としては、ホテル滞在なら蚊取り線香で充分でしょう。私はリキッドタイプのものを日本から持参します。部屋にバルコニーがついていればバルコニーには従来型の火をつけるタイプの蚊取り線香を使います。こういった蚊取り線香は現地で調達するという方法もありますが、私は日本から持参しています。(リキッド型は電源がいるために電圧変換器も持参します)

 屋外に出るときは、ジャングルまで行かなくても、森や山、あるいは海岸に行くときにはDEETと呼ばれる蚊の忌避剤を使います。私はスプレー型のものを用いていますが、クリームタイプやローションタイプのものもあります。蚊取り線香は日本から持参しますが、DEETについては私は現地のコンビニや薬局で購入しています。日本のDEETは濃度が薄いために不充分である可能性があるからです。ただし、(幸いにも私は大丈夫なのですが)海外製のDEETはかぶれやすいと言う日本人は少なくありません。そのような人は日本製のDEETを使うか、それも使えない人はシトロネラと呼ばれるレモングラスに似た植物からつくられた一種のアロマを繰り返し塗ることになります(注3)。

 ハマダラカが多数生息している地域でなければこういった一般的な蚊の対策で充分ですが、マラリア罹患率が高い地域に短期間渡航するときには、予防薬を内服すべきこともあります(注2)。

 運悪くマラリア原虫を宿したハマダラカに刺されてしまい、高熱や皮疹などそれらしき症状が出現した場合は早急に医療機関を受診しなければなりません。マラリアにも種類があり、どのタイプかで重症度が変わりますが、早期発見できて早期治療ができれば治癒が期待できます。谷豊が拒否したというキニーネは最近ではあまり使われず、キニーネよりもよく効いて副作用の少ない薬剤が用いられます。ワクチンは現時点ではありませんが、近い将来登場する可能性はでてきています。

 しかし、マラリアで最も重要なことは蚊(ハマダラカ)に刺されないようにすることです。もしも谷豊がそのときハマダラカに刺されなかったとすると、大勢のマレー人を従えたハリマオの活躍で太平洋戦争の歴史が変わったかもしれません。

 一匹の蚊が日本の運命を変えた・・・、と言えなくもありません。

注1:正確に言えば、沖縄にはハマダラカは生息しています。しかし、現在マラリアはおらず、現在沖縄に生息しているハマダラカに刺されてもマラリアを発症することはありません。

注2:具体的な予防薬については当院のウェブサイトの下記を参照ください。
http://www.stellamate-clinic.org/kaigai/#__question_6__

注3(2016年12月25日追記): 最近は「イカリジン」が注目されています。2016年後半より高濃度のイカリジンが発売されています。また、DEETも2016年後半より日本でも高濃度のものが入手できるようになりました。詳しくは下記を参照ください。

旅行医学・英文診断書など → 〇海外で感染しやすい感染症について → 3) その他蚊対策など

参考文献:
①『マレーの虎ハリマオ伝説』中野不二男著 (文春文庫)
②『アジアの日本人町歩き旅』下川裕治著 (新人物文庫)

参考:
医療ニュース「デング熱騒ぎで報道されない2つの重要なこと」(2014年9月5日) 
医療ニュース「米国国内で蚊からチクングニアに感染」(2014年8月18日)
はやりの病気第126回(2014年2月)「デング熱は日本で流行するか」
はやりの病気第133回(2014年9月)「デングよりチクングニアにご用心」

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2015年4月15日 水曜日

第140回(2015年4月) 古くて新しいニキビの治療

 宮部みゆきさん原作で現在公開中の映画『ソロモンの偽証』では、ニキビが原因でいじめられる女子生徒がキーパーソンになっています。一般の人は素直にこの映画を観ることができると思いますが、我々医師は(私だけかもしれませんが)、ストーリーにのめり込む前に、「あぁ、あの女子生徒、ちゃんと医療機関を受診してニキビを治していれば、物語は全然違う展開になったのに・・・。母親もニキビが<青春のシンボル>などと馬鹿げたこと言ってないでなんで娘に受診させないんだ・・・」、と穿った見方をしてしまいます。これも一種の”職業病”でしょうか・・・。

 私がこの映画を観たとき、この女子生徒をみて初めに抱いた印象がこのようなものであり、原作者の宮部みゆきさんを批判したい気持ちに”一瞬”なりました。しかし、次の瞬間にそれが消えました。よく考えると、この映画の舞台は現在ではなく1990年代前半です。たしかに、1990年代前半にはニキビの有効な治療法が(少なくとも日本には)なかったのです。

 医師によって見方が異なるかとは思いますが、私自身は日本でのニキビ治療のブレイクスルーが起こったのは2008年の10月だと考えています。つまり、アダパレン(商品名で言えば「ディフェリンゲル」)が発売になったときです。それまでは、高額になりますがクリニックが独自に輸入して仕入れたアダパレンを自費で処方するか、炎症が強くなり赤ニキビが悪化したときに抗菌薬の外用薬もしくは内服薬を一時的に使うか、といった方法くらいしかありませんでした。

 医療機関によってはビタミン剤や漢方薬の処方をしているところもありましたが(現在でもあるかもしれませんが)、私自身はこれらでよくなった症例をほとんど診たことがありませんし、エビデンス・レベル(科学的実証度)も低いものです。ケミカルピーリングというものもありましたが、これは費用が高くつく上に、継続して受診しなければならず、またエビデンス・レベルも低く、決して実用的なものではありませんでした。

 残念ながらアダパレンで全員が完全に治癒するとまではいきませんが、かなり有効な治療法であることは間違いありません。アダパレンの製薬会社は一時中学や高校にポスターを掲示していました。ここまでくるとやり過ぎのような気がしますが、ニキビで悩む生徒を救いたい、という強い気持ちがこのような行動につながったのだと私は思います。私はどちらかと言うと、製薬会社の行動にはだいたい批判的な立場であり、またこの中学高校へのポスター掲示に対し多くの医師から非難が相次いだようですが、この件に関しては、私自身は製薬会社の純粋な想いではなかったかと好意的にみています。

 さて、そのアダパレンをもってしてもニキビが治らないケースは次の3つです。

①ニキビではなく「ニキビ痕(あと)」になってしまっている。
②そもそも診断が間違っていてニキビではない。
③アダパレンが効かない。もしくはアダパレンの副作用が強くて使えない。

 順にみていきましょう。①の「ニキビ痕」を治すのは大変困難です。言い換えるとニキビを治すのは実はそうむつかしくはありません。しかし、ニキビに対し不適切な治療をおこなったり、つぶしたり、触りすぎたりしていると、ニキビ自体は治っても、瘢痕(ニキビ痕)が残ります。これを治すには形成外科的に瘢痕を削ったり、特殊なレーザー治療を試みたりといったことも検討しますが、完全にきれいにするのは極めて困難です。

 ニキビ痕で重要なのは、まず「それ以上触らないこと」です。時間がたてば自然に改善していく可能性もあります。もうひとつは、これが一番大事なことですが、新たにニキビをつくらない、ということです。先に述べたように、ニキビ痕の治療は困難ですが、ニキビの治療は現在ではそうむつかしくはありません。

 ②の、診断が間違っていて実はニキビでなかった、ということはときどきあります。細かい疾患まで入れるとニキビと間違われている皮膚疾患はいくつかありますが、一番多いのは「酒さ(しゅさ)」です。ニキビの治療はむつかしくはありませんが酒さは場合によっては相当困難なこともあります。ニキビと酒さがややこしいのは、確かに一見似ている場合がありますし、ニキビと同じような治療をして(一時的には)よくなることもあるからです。しかし一般に、酒さはニキビよりも治療が困難で、かなり改善することもあるのですが、しばらくするとまた再発して、ということもあり、何らかの治療は長期で続けなければならないことが多いと言えます。

 ③はどうでしょうか。本日のメインの話はここからです。2015年4月1日、待望のBPO(過酸化ベンゾイル)がついに保険診療で処方できるようになりました。BPOは、海外では1960年代頃から使われ出しており、世界的にはニキビの標準的治療薬の代表です。赤ニキビにも白ニキビにも有効で、予防効果もあります。副作用はまったくないわけではありませんが、アダパレンに比べると少ないですし、安全性も高いとされています。海外では医薬品ではなくOTC(薬局で処方箋なしで買える薬)です。私は海外に行くと、時間があれば薬局を訪ねるのが趣味みたいなものなのですが、ほとんどどこの国の薬局にもBPOは置いてあります。

 では、なぜこのような優れた薬がこれまで日本になかったのでしょうか。実はBPOは、日本では消防法により第5類自己反応性物質・第1種自己反応性物質という「危険物」に指定されているのです。この法律のせいで薬局や通販で簡単に販売することはできない、というわけです。ただ、過去にBPOが日本でも簡単に入手できた時代が2回ありました。

 一度目は米国Guthy Renker社の「プロアクティブ」が日本に導入された2001年頃です。「アメリカ製のプロアクティブはよく効くのに日本製のものはまったく効かない・・・」、このような声は非常によく聞きますが、それもそのはずで、アメリカ製のプロアクティブの有効成分はBPOそのものなのです。日本ではプロアクティブを導入するときに、当初はそのまま輸入したためにBPOが含まれていた、というわけです。ところが、その後法律上販売できないことが判り、やむをえず成分を変更したそうです。

 二度目は2011年11月です。化粧品メーカーのグラファ社がBPO配合の「BPエマルジョン」という外用剤を発売しました。(上記の法律の問題をどのようにクリアしたのかは不明です) 「BPエマルジョン」は一般の薬局では買えず、医療機関でのみ購入することができる化粧品の扱いでした。しかし、医薬品としてのBPOが発売されることが決まったときに販売終了が決まり、結果としてわずか2年程度しか流通しなかったことになります。(おそらく厚生労働省としては、同じものが一方は保険薬で一方は化粧品、というのが都合が悪いのでしょう)

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)では「BPエマルジョン」が販売されたときにすぐに取り扱いを開始して大勢の患者さんに使用してもらっていました。販売中止が決まったときは、その後も継続して使用してもらえるように大量に買っておいたのですが、ついに2014年秋に在庫がつきました。そして、約半年間のブランクを経た後、2015年4月から医薬品のBPOの処方を開始しました。(ちなみに谷口医院の患者さんは、この<空白の半年間>のBPOの入手について、海外渡航時に購入したり、海外旅行に行く知人に買ってきてもらったり、あるいはリスクを抱えて個人輸入したりされていたようです)

 さて、このBPOはおそらくこれからニキビ治療の中心的な薬になると思われます。米国のガイドラインでもヨーロッパのガイドラインでも、軽症から重症まで、また予防にも推奨されていますから、おそらく日本のガイドラインも次の改定時には「強く推奨する」という扱いで入れられるはずです。

 2015年4月から日本のニキビ治療の歴史が塗り替えられるといっても過言ではないでしょう。患者さんの満足度があがり、医療者は患者さんから感謝の言葉を聞くことになり、製薬会社も収益が上がるに違いありません・・・。

 しかし、何かおかしくないでしょうか・・・。

 海外では(それは先進国だけでなく多くの国で)、何十年も前から誰もが薬局で簡単に買えていた薬です。なぜ、日本ではわざわざ医療機関に出向いて、待ち時間を我慢して、塗り薬1本を求めなければならないのでしょうか。BPOの処方薬登場で日本のニキビ治療の歴史が変わると私は考えていますが、さらにもう一歩すすめて、BPOが海外と同じように誰もが薬局で簡単に買える時代が来ることを望みます。

 もしもBPOが海外と同じように昔から薬局で買えたなら、『ソロモンの偽証』は誕生しなかったかもしれません・・・。

参考:
トップページ「ニキビ・酒さ(しゅさ)を治そう」
はやりの病気
第75回(2009年11月)「ニキビの治療は変わったか」
第62回(2008年10月)「ニキビの治療が変わります!」

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