はやりの病気

第75回 ニキビの治療は変わったか 2009/11/20

このコラムの2008年10月号でお伝えしたように、2008年10月21日にアダパレン(商品名はディフェリンゲル)が発売になり、ニキビの治療の歴史が変わりました。

 アダパレンは海外では10年以上の歴史を持ち、世界的にはニキビの第1選択薬として広く使われています。しかし、日本では、ピリピリするといった副作用があることや、妊婦・授乳婦には使えない、などといった否定的な側面が懸念されてなのか、2008年になってようやく認可が下りたのです。

 アダパレンが保険適用となり、当院でも多くのニキビの患者さんに処方するようになりました。(保険適用になるまでは自費で処方していました) 副作用の出現頻度は、やはり以前から報告されている通り数パーセントの患者さんにみられます。ただし、大半はピリピリするという副作用はしばらく使い続けているうちに消えていきますし、カサカサするという症状は医療用の保湿剤などを併用することによりかなり改善されます。

 しかしながら、なかには赤く腫れたり、使えば使うほど痒みが増していったりというケースもあり、こうなれば使用を中止しなければなりません。

 さて、日本皮膚科学会では、アダパレン発売後、「ざ瘡(ニキビ)治療ガイドライン」というものを制定しました。同学会は、「欧米のガイドラインをそのまま踏襲することはせず・・・」と述べていますが、完成したガイドラインをみてみると欧米のものとそう大差はありません。ということは、世界中のどこにいってもニキビのガイドラインは大きく異なることはない、ということになります。

 ガイドラインでは、ニキビの重症度に応じておこなわれるべき治療法が推薦されています。そして、治療法にはA、B、C1、C2の4段階のランクが付けられており、これらは以下のように定義づけられています。

 A:行うよう強く推奨する
 B:行うよう推奨する
 C1:良質な根拠は少ないが、選択肢の1つとして推奨する
 C2:充分な根拠がないので(現時点では)推奨できない

 では、簡単にガイドラインにある治療法を紹介していきましょう。

 まず、Aとして推奨されているのは、アダパレン、抗菌薬(抗生物質)外用及び内服で、これら3つの治療は、だいたいどの重症度でも推奨されています。

 Bとされているのは、ステロイド局注ですが、これは「少数の嚢腫/硬結をふくむもの」に対してだけなので、重症化した局所の治療に限定されます。

 C1もしくはC2とされているのは、ケミカルピーリングやイオウ製剤、漢方薬などです。

 最も古典的なニキビ治療薬のひとつであるイオウ製剤はCのランクになっているわけですが、私はアダパレンの登場でますますイオウ製剤が使われる機会が減るのではないかと考えています。というのは、アダパレンを使用すると、もちろん個人差はありますが、肌がカサカサしたり乾燥したりすると言う人が少なくないからです。乾燥した肌にイオウ製剤を外用するとピリピリとした痛みが出現することになりかねません。

 ケミカルピーリングがCにランクされていることを意外に感じる人は少なくないのではないでしょうか。ケミカルピーリングは、アルファヒドロキシ酸 (AHA) やサリチル酸などの薬剤を皮膚の表面に塗布し、新陳代謝の悪くなった角質層を剥がす治療法で、1990年代半ばあたりからニキビやシミ・クスミの改善目的で使用されるようになってきました。当初は医療機関よりもエステティック業界で取り入れられ、トラブルや誤解も相次いだという経緯があり、2001年に日本皮膚科学会がケミカルピーリングのガイドラインを制定しました。保険適用はないものの、数多くの医療機関で自費診療としてケミカルピーリングが開始されるようになり、実際ニキビの治療に積極的に推薦する医師が増えました。

 「日本皮膚科学会ケミカルピーリングガイドライン」には、疾患ごとに、どの程度ケミカルピーリングが推奨されるかが記載されています。各疾患が「高い適応のある疾患」「適応のある疾患」「適応の可能性を検討すべき疾患」のいずれかに分類されており、「高い適応のある疾患」、すなわち、積極的にケミカルピーリングを検討しましょう、と考えられている疾患はニキビだけです。

 つまり、ケミカルピーリングの立場からみたときには、ニキビが最も効果があるとされているというわけです。一方で、ニキビの立場からみたときにはケミカルピーリングはCのランクしか付けられていないということになります。

 こう考えると、ケミカルピーリングは以前謳われていたほどの有効性が期待できないのでは、と感じられます。

 そして、さらにケミカルピーリングがニキビに関して他の治療法よりもおこないにくい理由があります。

 それは、ケミカルピーリングには保険適用がなく全額自費になること、それに定期的に通院しなければならないことです。要するに、ある程度お金と時間に余裕のある人しかこの治療は続けられないということになります。その上、少なくともニキビに関しては他にもっと有効と考えられている治療法がある、とされているわけですから、今後需要が減っていくことが予想されます。

 もっとも、ケミカルピーリングが完全に姿を消すかというと、そういうことにもならないと思われます。なぜなら、それほど医学的な根拠があるとは言えないものの、実際にはシミやクスミがとれたとか、肌が白くなりキメが細かくなったという人もいるからです。今後ケミカルピーリングは、医療現場ではなくエステティック業界が中心となるのではないかと私はみています。

 日本皮膚科学会の「ざ瘡(ニキビ)治療ガイドライン」では推薦されていませんが、過酸化ベンゾイル(benzoyl peroxide)という治療薬があります。これは、海外の多くの国では薬局で販売されており、医師の処方せんがなくても購入することができます。副作用はほとんどなく、高い効果が期待できて、なおかつ値段が安いという大変魅力的な製品なのですが、なぜか日本では発売されていません。

 過酸化ベンゾイルは、米国製のプロアクティブ(Proactive)の主成分のひとつでもあります。ときどき、「プロアクティブはアメリカ製のはよく効くけど、日本製のものは・・・」という声を耳にしますが、この理由のひとつが、日本のプロアクティブには過酸化ベンゾイルが入れられていないことではないかと思われます。

 現時点では、過酸化ベンゾイルを入手しようと思うと個人輸入しかありません。(当院でも海外からの仕入れを検討していますが現時点では目処がついていません) しかしながら、アダパレンが広く使われるようになり、使いやすい抗生物質の外用薬・内服薬がそろっていますから、昔の治療(ビタミン剤や漢方薬が中心だった!)に比べると、ニキビの治療は随分と進化していると言えるのではないでしょうか。

参考:はやりの病気第62回「ニキビの治療が変わります!」

月別アーカイブ