はやりの病気

第62回 ニキビの治療が変わります! 2008/10/16

欧米では10年以上の歴史があり、世界50ヶ国以上で使われているニキビの特効薬ともいえるアダパレン(商品名ディフェリンゲル)がついに保険診療で処方できることになります。

 この薬は、高い効果が期待できる半面、ピリピリとした感覚(副作用)が出やすいことや(ただしほとんどは数日間のみ)、原則として妊婦には使えないことなどもあったためか、日本では長い間承認されていませんでした。

 もっとも、我々医師はアダパレンの高い有効性を知っていますから、保険診療が認められていないとはいえ、これまでも(医師としての)個人輸入などをおこない、希望する患者さんには保険外(自費診療)で処方していました。

 ただ、やはり自費診療になりますから、若い患者さんにすすめるのには抵抗があり、すてらめいとクリニックにニキビで通われている患者さんに対しても実際に説明をして処方したのはごくごくわずかです。(保険診療をしている以上、自費診療は検査でも薬でも推薦しにくいのです・・・)

 さて、アダパレン(ディフェリンゲル)がなぜそんなに高い効果があるのかについてお話する前に、まずはニキビがなぜできるのかを簡単に復習して、従来の治療をおさらいしておきましょう。

 簡単に言えば、ニキビの原因は2つです。ひとつは、アクネ菌を代表とする皮膚にいついている細菌が毛穴をすみかにして増殖することです。つまり、ニキビとは「細菌感染症」なのです。細菌感染症ですから当然抗生物質が効きます。現在、日本で、保険診療でおこなうニキビの治療は抗生物質が中心です。商品名で言えば、外用薬ならダラシンゲルやアクアチムクリーム、内服薬なら、ルリッドやミノマイシンです。

 ニキビのもうひとつの原因は「毛穴がつまる」ことです。細菌は毛穴の奥をすみかとしていますから、毛穴がつまれば細菌の”思うツボ”です。なぜなら、毛穴がつまって細菌が奥に閉じ込められれば、クレンジングをしても洗顔をしても容易には洗い流されないからです。

 では、なぜ毛穴がつまるかといえば、その原因は「アブラ」にあります。顔面がアブラっぽい人にニキビができやすいのは、アブラが毛穴をふさいでしまうからです。一般に、男性ホルモンが多い人の顔面はアブラっぽいことが多いのですが、男の子が中学生になって男性ホルモンがたくさん分泌されるようになるとニキビができやすくなるのはこのためです。

 女性の場合、生理(月経)前にニキビができやすい人がいるのも、ホルモンバランスに関係があります。排卵から月経までの期間を黄体期といいますが、この期間にはプロゲステロンというホルモンがたくさん分泌されます。そしてこのプロゲステロンがアブラの分泌を促し、分泌されたアブラが毛穴をつまらせて、その結果毛穴の奥で繁殖している細菌の”思うツボ”になるというわけです。

 ですから、女性で生理前になるとニキビが悪化して、生理が始まるとおさまるという人はピルを飲めば劇的に改善することがよくあります。ピルは中用量ではなく低用量ピルで充分です。ピルによって女性ホルモンのバランスが整えられ、その結果余分なアブラの分泌が抑制され、ニキビができにくくなるというわけです。

 すてらめいとクリニックの患者さんでピルを使用している人のおそらく半分くらいはニキビ改善目的だと思います。(ピルは、元々は避妊目的に開発されたものですが、すてらめいとクリニックの患者さんをみていると、避妊というよりはむしろ、ニキビ・肌荒れの改善や、生理痛の緩和、生理周期を整える、生理前のイライラなど(月経前緊張症候群)の治療目的などで使用している人の方がずっと多いようです)

 さて、アダパレン(ディフェリンゲル)の話にうつりましょう。

 ディフェリンゲルの作用メカニズムは専門的に説明すると複雑になりますが、簡単に言えば「毛穴を広げる」ことでニキビを治します。1日1回寝る前(必ずしも寝る前でなくてもいいですが)に気になるところに塗るだけでOKです。従来の治療である抗生物質の外用・内服、あるいはピルの内服などと併用することもできます。

 高い効果を期待できるアダパレンですが、注意点がいくつかあります。

 まず、妊婦と授乳婦には使用することができません。(そのため、すてらめいとクリニックでは、妊娠している可能性のある人でアダパレンを希望する人には妊娠検査を先におこなうこともあります)

 次に、副作用の頻度がまあまあ高いということです。シオノギ製薬(アダパレンの発売元)の資料によりますと、5%以上の頻度で、皮膚乾燥、皮膚不快感、皮膚剥奪などが生じています。このうち、皮膚乾燥については、他のニキビの治療法でもおこりますし、保湿をしてあげたり痒みがひどいときは痒み止めを飲んでもらったりして対処できます。それに一時的なものであることがほとんどです。

 問題は皮膚の不快感というか、極めて不快なピリピリ感や痛みがでたときです。こういった症状も通常は数日から2週間程度で軽減することが多いのですが、なかにはこういった副作用のせいでどうしても使用できないという人もいます。

 また、0.1~5%未満の頻度で肝機能障害や血中コレステロールの増加が起こる場合もあります。場合によっては使用後2~4週間程度経過したときに血液検査をおこなうことが必要になるかもしれません。

 それから、ピーリング治療を受けている人は併用すべきではないと思われます。どちらもピリピリ感や皮膚剥奪などが問題になることがあるからで、併用するとそういった副作用が増強される可能性があるからです。

 悪いことばかり並べて書くと、なんだかとても怖いような薬に思えてきますが(実際、アダパレンは「劇薬指定」となっています)、使用上の注意点を守れば、高い効果を期待することができます。

 日頃ニキビの患者さんを見ていて思うことは、「患者さんによってニキビに対する考え方がバラバラ」ということです。なかには、ひどいニキビに長年悩みながら医療機関を受診したことがなくて、様々な民間療法を試して余計に悪化させているような人もいます。(悪徳ニキビビジネス業者に大金を騙し取られたような人もいます!) また、医療機関は受診するものの改善しなければすぐに病院をかえて(いわゆる「ドクターショッピング」)、医療不信を募らせているような人もいます。(ニキビに限らず慢性疾患は長期間腰を据えて取り組むことが必要です!)

 ニキビに悩んでいる人、これまでのニキビ治療に失望している人も、アダパレンを一度検討されてはどうでしょうか。

注:アダパレン(ディフェリンゲル)は2008年10月21日より処方開始となりました。

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