はやりの病気

第52回 不思議な不思議なクラミジア② 2007/12/25

前回は、クラミジアは尿道や子宮けい部だけでなく、のど(咽頭や扁桃)や肛門に感染していることもある、という話をし、さらに血液検査はそれほど有用でないという点について述べました。

 今回は、よくある質問、「自分はいつどこで誰から感染したのか」という問題について考えていきたいと思います。

 例えばこういうケースがあります。

 30代の主婦で結婚2年目、結婚後は自分の夫以外の男性とはまったく性交渉がない。不正出血が気になり、すてらめいとクリニックを受診して、念のために調べたクラミジア検査で陽性反応がでた・・・

 という場合です。この場合、不正出血の原因がクラミジアかどうかは別にして、クラミジアに陽性反応が出た以上は治療を開始しなければなりません。そして、もうひとつしなければならないことがあります。
 
 それは、自分の夫のクラミジア検査です。これは、もしも夫もクラミジアに感染している場合、自分だけが治してもいずれ再び夫からクラミジア感染をする可能性が高いからです。

 さて、この場合、この主婦はこのように考えます。

 「自分は結婚後、他の男性との性交渉がまったくない。夫がどこかで浮気してきて自分にうつしたに違いない・・・」

 場合によっては、夫を厳しく追求したり、離婚を考えたりするかもしれません。そして、夫に受けさせた検査結果が”陰性”だったとします。

 夫の検査結果が陰性だった場合、どのように考えればいいでしょうか。実際にこのようなケースは珍しくありません。

 このようなケースではいくつか考えられることがあります。

 ひとつは、この主婦が推測したとおり、夫が浮気をして自分の妻にクラミジアを感染させたというケースです。実際、これはよくあることです。

 特に多いのが、フェラチオ(fellatio)でクラミジア感染するという知識を男性が持ち合わせておらず、風俗店に行きセックスワーカー(風俗嬢)ののど(咽頭)からクラミジアに感染し、自覚症状がないこともあり自身が感染していることを知らずに妻に感染させるというケースです。

 ちなみに、日本ほど、コンドームなしのフェラチオ(fellatio)が普及している国はおそらく他にはありません。国(というか文化)によってはフェラチオなど考えられないというところもありますし、セックスワーカーがフェラチオをする地域もあるにはありますが、コンドームを使用するのが常識です。ときどき、「コンドームをしたフェラチオなんて考えられない」という日本人男性がいますが、「コンドームなしのフェラチオなど信じられない」というのがグローバルスタンダードなのです。

 さて、話を戻しましょう。

 夫が浮気などでクラミジアに感染して、気づかないまま妻にうつしたとき、妻にうつした後で自然治癒したということが可能性としては考えられます。前回、お話したようにクラミジアには自然治癒もありうるのです。

 妻がクラミジア陽性、夫は陰性というケースでは、他にもいくつかの可能性があります。

 この妻が夫と交際しだす前に、すでにクラミジアに感染していたという可能性もあります。クラミジアはときに慢性化する感染症で、数年間持ち続けていたということもあるのです。

 あるいは、交際を始める前に夫の方が以前の交際相手(ex-girlfriend)から感染していて気づいていなかったという可能性もあります。そして、妻に感染させた後に自然治癒していたということがありうるのです。

 クラミジアは自然治癒する場合が少なくないのですが、こういうケースは実はかなり多いのではないかと私は考えています。

 その最大の理由は、「日本人は抗生物質を服用するケースが多い」というものです。

 以前別のところでも述べましたが、日本ほど抗生物質を消費している国はなく、「世界の抗生物質消費量の4分の1が日本である」、と言われることもあります。

 抗生物質というのは安易に服用すべき薬では決してありません。国によっては、抗生物質は保険適用外というところもあります。海外で医療機関にかかられたことのある方なら経験があるかもしれませんが、いくら症状があっても(ウイルスや真菌ではなく)細菌に感染していることが証明されなければ(あるいは強く疑われなければ)、医師は抗生物質の処方をしません。

 ところが、日本では単なる風邪と思われるような症状でも抗生物質をほしがる患者さんが少なくありません。すてらめいとクリニックでは「抗生物質が必要な風邪症状ではありませんよ」と説明して、原則としてウイルス性と思われる”単なる風邪”には抗生物質を処方しませんが、「私は風邪のときはいつも抗生物質をもらっています」と答える患者さんもいます。

 抗生物質が安易に処方された結果がクラミジアの自然治癒の一因となっているのではないか・・・。これが私の仮説です。

 抗生物質のなかにはクラミジアには一切効果がないものも少なくないのですが、それでもなかには”単なる風邪”に処方される抗生物質が効く場合もあります。

 そろそろ、本日のまとめに入りましょう。

 夫婦間(あるいはカップル間)で、どちらかがクラミジア陽性、一方が陰性の場合、(あるいはふたりとも陽性の場合でも)、どちらが先に感染したかというのは推測不可能と考えるべきです。

 もっとも大切なのは、少しでもクラミジア感染の可能性があるなら、ふたりで検査を受けるということです。その際はクラミジアだけでなく可能性のある性感染症すべての検査をするのです。そして、どちらかが感染していることが分かった場合、その原因を追求するようなことはせずに、治療に専念し、すべての性感染症が陰性であることを確認すればいいのです。

 そして、その後は・・・、

 お互いに本当の忠誠心があれば、それからは性感染症の検査は一切必要ないはずです!

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