はやりの病気

2015年8月21日 金曜日

第144回(2015年8月)増加する野菜・果物アレルギー

 先日、3歳児の食物アレルギーが増加しているという調査結果を東京都が発表し、このサイトでも報告しました(注1)。そのときも述べたように、食物アレルギーが増えているのは小児だけではありません。成人の食物アレルギーもほぼ確実に増加しています。

 成人については東京都の調査のようなきちんとしたものをあまりみたことがなく、具体的な数字を示して論じることはできないのですが、私の印象でいえば、ここ数年間で確実に増加しているのは「野菜と果物のアレルギー」です。

 通常、食物アレルギーというのは重症化(アナフィラキシー)することが少なくなく、喘息発作や意識消失が生じることもあり、最悪の場合は死に至ることもあります。2012年に東京都調布市の小学5年生の女子生徒がチーズ入りのチジミを食べてアナフィラキシーを起こし死亡した事故はまだ記憶に新しいでしょう。

 ですから、食物アレルギーの確定がついている場合、あるいは確定までいたらなくても可能性が強い場合は、その食物を制限する(一切食べない)のが原則ということになります。調布市の小学生はチーズや卵にアレルギーがあることが判っていてあらかじめこれらを除去したチジミが出されていたのですが「おかわり」のチジミにはチーズが入っていたそうです。

 成人の場合、好きでたくさん食べ続けたものでアレルギーが生じることが多く、具体的にはエビ、カニ、ピーナッツ、ソバ、小麦(注2)、魚貝類(注3)などが多いといえます。これらを「今後一生食べられない」と言われたときに大変なショックを受ける人は少なくありません。

 今回は食物アレルギーのなかでも「野菜と果物のアレルギー」をとりあげます。これらのアレルギーはエビや小麦などのような従来のアレルギーとは症状が随分と異なります。従来のアレルギーというのは食べてから10~15分程度でじんましんや喘息などの全身症状が生じ、重症化すると死に至ることもあるもので、調布市の小学生もこのアレルギーに相当します。これを「即時型アレルギー」と呼びます。

 野菜・果物アレルギーは例外がないわけではありませんがそれほど重症化しません。症状としては口のなかに違和感・不快感が生じる程度なのです。しかも、症状出現時に口のなかを見せてもらっても視診上の異常はまったくありません。このような疾患を「口腔内アレルギー症候群」と呼ぶのですが、野菜・果物アレルギーと口腔内アレルギー症候群は事実上ほぼ同じものを指しています。

 果物のアレルギーには、食べてから2日くらいたってから口の周りに湿疹がおこるものがあり、頻度ではおそらくマンゴーが一番多いと思いますが、これは口腔内アレルギー症候群とは異なります。口の周りの湿疹は、かぶれの一種であり、食べるときに口の周りにマンゴーのエキスが付着することが原因です。したがって熟れたマンゴーにかぶりつけば生じますが、小さくカットしたものを行儀よく口に入れればアレルギー症状はでません。ただし、マンゴーを食べて口腔内アレルギー症候群を起こすこともあります。

 では、野菜・果物アレルギーはどのような野菜・果物で起こりやすいのかをみていきましょう。

 太融寺町谷口医院(以下「谷口医院」)の症例でいえば、圧倒的に多い3つが、アボカド、キウイ、バナナです。次に多いのが、クリ、リンゴ、メロン、トマト、セロリ、パパイヤ、モモ、ナシあたりだと思います。これら以外にも起こりうるものを教科書も参照して並べてみると、ニンジン、(生の)ジャガイモ、アプリコット、チェリー、プラム、イチジク、ブドウ、イチゴ、パイナップル、パッション、ピーマン、あたりが挙げられると思います。

 これらを食べてしばらくすると口のなかに違和感・不快感が生じたときは、口腔内アレルギー症候群を発症している可能性があります。では、一度でもこういった症状が生ずれば、今後その食べ物を一生避けなければならないのでしょうか。

 実はこれは大変むつかしい問題です。谷口医院の患者さんをみていると、たとえば最初はキウイだけだったのに、そのうちモモでもリンゴでも・・・、となっていくケースが少なくありません。数多い野菜・果物のなかで1つか2つだけであれば避けることに問題がないかもしれませんが(それでも好きな果物で起こることが多い!)、あれもこれも避けて・・・、となると、そのうち食べられる野菜・果物がなくなってしまいます。

 では重症度を測定してみてアレルギーの反応が強いものを避けよう、という考えがでてきますが、これもそう単純にはいきません。アレルギーの血液検査というのはあくまでも参考であり絶対視すべきでないということは過去に述べたことがあります(注4)。血液検査でIgE抗体が陽性であったとしても必ずしもアレルギー反応が生じるとは限らないのです。(IgG抗体はまったくあてになりません)

 野菜・果物アレルギーの場合、症状がでていてアレルギーであることはあきらかなのに抗体価がさほど上がらない、というケースもあります。このため、より正確に検査をおこなおうと思えば、皮膚のテストを実施する必要があります。これは特殊な針を該当する野菜や果物に刺して、その次にその針を皮膚に刺す検査です。しばらくして赤く腫れてくればアレルギーがあると考えられます。ただし、この検査は果物を用意しなければなりませんし、何かと手間がかかるために実施している医療機関はあまり多くないと思います。(谷口医院では現在検討中ですが現時点では実施していません)

 ですから、野菜・果物のアレルギーの診断は「問診」でおこなうのが現実的ということになります。一度、アレルギーを疑う軽度の症状が出現し、その次に同じものを食べていきなり重症化、ということは非常に考えにくいために、谷口医院では全例に「完全除去」を指導していません。もしも症状がでた(かもしれない)ときに薬を飲んでもらうという方法もありますから、それぞれの患者さんの重症度を勘案して検討していくことになります。

 野菜・果物アレルギーで知っておくべき重要なことが3つあります。

 1つは、頻度は少ないとはいえ、重症化がないわけではないということです。重症化することがある野菜・果物として、バナナ、アボカド、クリがあります。また野菜にも果物にも当てはまらないと思いますが、ソバとピーナッツでは全身症状が出現することがしばしばあります。

 2つめは、野菜・果物アレルギーがあるとラテックスアレルギーを起こしやすくなるということです。その逆に、ラテックスアレルギーがあると野菜・果物アレルギーを起こしやすいということもわかっています。これは、野菜・果物とラテックスの表面の蛋白質の構造が似ているからです。野菜・果物アレルギーに重症化は少ないですが、ラテックスアレルギーは海外では死亡例もあります。ラテックスアレルギーを併発しやすい野菜・果物アレルギーの原因としては、バナナ、アボカド、クリ、キウイ、セロリ、マンゴー、パッション、ピーマンなどがあります(注5)。

 3つめは、花粉症があると野菜・果物アレルギーが生じやすいということです。ラテックスと同じように、ある種の花粉と野菜・果物の表面の蛋白質の構造が似ているのです。花粉症といってもスギやヒノキの花粉症があれば生じやすいわけではありません。

 私の印象でいえば、頻度としてはシラカバが一番多いといえます。シラカバに反応する人は、リンゴ、モモ、ナシ、チェリーなどでアレルギーがでやすいのです。そのため私はこれら果物にアレルギーがありそうな人には出身地を聞くようにしています。すると、かなりの確率で彼(女)らは北海道から東北地方、北関東の出身なのです。シラカバは関西にはありませんし、リンゴやモモ、ナシ、チェリーは北日本でよく採れるものです。シラカバ以外では、全国に分布している花粉症の原因の樹木にオオバヤシャブシとハンノキがあり、これらの花粉に反応する人も野菜・果物アレルギーを起こしやすいと言われています(注6)。

 先に述べたように、例外がないわけではありませんが、一般に野菜・果物アレルギーは重症化することはそう多くありません。ですから絶対に除去しなければならないというわけでもありません。どのように対策を立てていくべきかについて、気になる人は一度かかりつけ医に相談してみてください。

注1:詳しくは下記「医療ニュース」を参照ください。

医療ニュース(2015年8月3日)「食物アレルギーが急増」

注2:このサイトで何度も紹介しましたからここでは省略しますが、「茶のしずく石けん」などに含まれていたコムギによりコムギアレルギーが生じ、その後小麦製品が一切食べられなくなったという人が相次ぎました。現在では再び小麦製品が食べられるようになっている人もいます。

参照:はやりの病気第94回(2011年6月)「小麦依存性運動誘発性アナフィラキシー」

注3:魚貝類のアレルギーは魚そのものよりも魚に寄生するアニサキスによるアレルギーの方が多いといえます。また古い魚などで蕁麻疹が生じることもあります。詳しくは下記コラムを参照ください。

はやりの病気第98回(2011年10月)「いろいろな魚介類のアレルギー」

注4:詳しくは下記「医療ニュース」を参照ください。

医療ニュース(2014年12月25日)「「遅延型食物アレルギー」に騙されないで!」

注5:下記「はやりの病気」も参照ください。ラテックスに触れる機会が多いのは、歯科医院で治療を受けるとき(衛生士や歯科医師は通常ラテックス製の手袋を用いています)、ゴム風船(甲子園球場でジェット風船を膨らませると口がかゆくなるという訴えがあります)、あとはコンドームも要注意です。

はやりの病気第35回(2006年7月)「ラテックスアレルギー」

注6(2017年3月25日追記):
花粉症と野菜・果物アレルギーを大まかに分類すると次の4つになります。尚、このコラムを書いた2015年8月時点では、本文にあるように、野菜・果物アレルギーは関東出身者に多い印象がありましたが、その後患者さんが急増し、関西出身者にもバラ科のアレルギーが増えています。また、最近重症化が目立つのが豆乳アレルギー(ハンノキ花粉症もあります)及びスパイスアレルギー(ヨモギ花粉症もあります)です。

◎カバノキ科(シラカバ、ハンノキ、オオバヤシャブシ)
バラ科(リンゴ、西洋ナシ、サクランボ、モモ、スモモ、アンズ、アーモンド)
セリ科(セロリ、ニンジン)
ナス科(ジャガイモ)
マメ科(大豆、ピーナッツ)
マタタビ科(キウイ)
カバノキ科(ヘーゼルナッツ)
ウルシ科(マンゴー)
シシトウガラシ

◎ヒノキ科(スギ、ヒノキ)
ナス科(トマト)

◎イネ科(カモガヤ)
ウリ科(メロン、スイカ)
ナス科(トマト、ジャガイモ)
マタタビ科(キウイ)
ミカン科(ミカン、オレンジなど)
マメ科(ピーナッツ)

◎キク科(キク、ヨモギ、ブタクサ)
セリ科(セロリ、ニンジン)
ウリ科(メロン、スイカ、カンタループ、ズッキーニ、キュウリ)
バショウ科(バナナ)
スパイスなど

投稿者 医療法人 谷口医院 T.I.C. | 記事URL

月別アーカイブ