はやりの病気

第46回 はしかの予防接種率はなぜ低いのか 2007/6/20

「少し学力が低下してきた」「最近性格が変わったような気がする・・・」

 この時点で、重大な病気に罹患していると感じる人はそれほど多くないでしょう。その後、痙攣(けいれん)を繰り返すようになり、病院で精密検査を受けた結果、診断される病気、それがSSPE(亜急性硬化性全脳炎)です。

 SSPEというこの病気はあまり知られていないと思いますが、この病気を引き起こす病原体は誰もが知っているウイルスです。

 そのウイルスとは、はしか(麻疹)ウイルスです。

 SSPEははしかに罹患した後、およそ2~10年の潜伏期間の後に知能低下、性格変化、動作緩慢などで発症し、その後は大脳機能がゆっくりと障害され、高度の認知症、植物状態となり死に至ります。

 SSPEの患者さんは、現在全国で150人程度だと思われます。患者さんの平均年齢はおそらく20歳前後でしょう。全国で150人と聞くと、大変珍しい病気だと感じられるかもしれませんが、150人というのは他の先進諸国からみれば信じられない数字です。先進国のなかでは日本だけが突出して発病率が高いのです。

 では、なぜ日本だけがこれだけ高い発症率を有しているかというと、それは日本人がはしかの予防接種をしないからに他なりません。

 現在約100人の会員数をもつSSPEの患者会(「青空の会」)の公式ホームページにも、「一歳になったら、はしかの予防接種を受けましょう」との案内がトップページに記載され、「先進国の中で日本だけが突出して発病が多いのは、予防接種の接種率が低いせいだといわれています」との説明があります。

 はしかが怖いのは、SSPEだけではありません。多くの人ははしかにかかっても、10日前後で回復しますが、なかには、肺炎、脳炎などを起こす人もいます。こうなると、命にかかわる病気となります。はしかはときに「死に至る病」となり得るのです。

 では、どうすれば肺炎や脳炎への進行を防げることができるのかというと、最も効果的なのはワクチン接種です。はしかは発症してからはほとんど治療法がなく、ワクチン接種以外に有効な治療法がありません。しかし、はしかのワクチンは極めて高い有効性をもつために治療法がなくても本来はそれほど恐れる必要がないのです。

 したがって、ワクチン接種を普及させれば、いずれはしかは絶滅する感染症です。実際ほとんどの先進国では、はしかの「排除」に成功しています。

 日本がはしかパニックで大混乱にある5月、はしかの「排除」に成功したことをWHO(世界保健機関)が発表した国があります。その国とはお隣の韓国です。

 韓国も、かつては日本と並んではしかを排除できない恥ずべき先進国でしたが、2000年に勃発したはしか大流行をきっかけに国家が真剣にワクチン接種普及に取り組み、小学校入学前の2回接種を徹底したことにより、わずか7年後には「排除」に成功したのです。

 一方、日本はどうでしょう。ワクチンの2回接種が世界の常識であるにもかかわらず、2回接種を開始したのは2006年の6月からです。開始したといっても行政の案内は形式的なものに過ぎず、2007年の4月に小学校に入学する児童で規定どおり2回目のワクチンを接種していたのはわずか30%という驚異的な数字です。

 では、なぜ日本ではこれほどワクチン接種がすすまないのでしょうか。このウェブサイトでも過去に何度か指摘しているように、インフルエンザやB型肝炎のワクチン接種率の低さも日本は驚異的です。参考までに、韓国ではB型肝炎のワクチンも現在ではほぼ全員が接種する体制となっています。また、現在世界60ヶ国以上で接種がおこなわれている子宮けいガンのワクチンは、日本では承認すらされていません。

 日本でワクチン接種がすすまない理由・・・。いくつもあると思いますが、そのひとつに日本人の「ワクチン恐怖症」があるのではないかと私は考えています。この恐怖症は、もちろん知識の欠如からくるものです。そして、マスコミの報道がこれに拍車をかけています。

 例えば、1980年代後半に、ある民放の報道番組が、「インフルエンザワクチンはまったく効果がなく危険性すらある」などといった誤った報道を全国ネットでおこないました。この番組に出演し、まったく根拠のない誤った学説を述べた学者がいるのですが、このとき海外のメディアは、ゴールデンタイムに出演しデタラメを言う日本人エセ学者を揶揄したそうです。

 しかし、日本のマスコミは誤った知識に対してではなく、ワクチンをバッシングすることが好きなようで、これまでも、インフルエンザだけでなく、例えばMMR(はしか、風しん、おたふく風邪の混合ワクチン)の危険性などを大きく取り上げてきました。

 ワクチンの危険性を完全にゼロにすることはできません。しかしながら、その感染症に罹患したときのリスクがワクチンの危険性を大きく上回るからワクチン接種が推奨されるのです。ワクチンの危険性だけを取り上げて、罹患したときの感染症の恐怖を伝えないのは偏った報道と言わざるを得ず、このような報道の被害者は国民であることをマスコミはもっと認識すべきだと思います。

 さて、話をはしかに戻しましょう。
 
 現在、はしか単独ワクチンは全国どこへ行っても在庫がない状況です。すてらめいとクリニックでは、様々なルートを使って、1本、2本と仕入れてきましたが、先月末からは完全に入手できなくなりました。代わりにMRワクチン(はしかと風しんの混合ワクチン)を使用していましたが、こちらもほとんど在庫切れで、日によってはせっかくワクチン接種希望で受診していただいてもワクチンがないことがあります。

 それにワクチン接種には優先順位がありますから、例えば1週間後に予約を入れていただいていても、それまでに、例えば、感染者と接触した可能性のある子供が受診すれば優先的に接種するようにしていますから、数日後のお取り置きもお約束はできない状態です。

 ワクチン接種を希望される方がおられましたら、お電話でご予約の上、なるべく早く来ていただきたくお願いいたします。

参考:
医療ニュース2007年3月6日「はしか・風しん混合ワクチンの2回目接種率わずか30%」
はやりの病気 第43回 B型肝炎にはワクチンを!

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