はやりの病気

第36回 夏のかゆみにご用心 2006/08/20

昨年4月には「みずむし」について、昨年8月には「日焼け(日光皮膚炎)によるかゆみ」についてお話しましたが(それぞれ「はやりの病気」第5回「水虫」、及び第15回「日焼け-日光皮膚炎-」)、夏に、「このかゆみをなんとかしてください」、と言って、病院を受診する患者さんは、これら以外にもたくさんの原因をもっています。実際、春先から夏にかけては、皮膚の悩みで受診する患者さんが一気に増えます。そして、台風のシーズンが終わって涼しくなりだすと、少しずつ減ってきます。

 今回は、夏に生じるかゆみの代表疾患についてみていきましょう。

 まず、金属アレルギーによるかゆみがあります。これを「金属による接触皮膚炎」と呼びます。

 アレルギーを起こしやすい主な金属は、ニッケル、クロム、コバルト、水銀です。ニッケルはメッキとして使われる金属の代表で、合金製のアクセサリーなどにも多く使用されています。具体的には、ネックレス、指輪、ピアス、イヤリング、腕時計などが多いと言えますが、なかには眼鏡のフレームでアレルギーを起こす人もいます。

 また、ベルトの金属の部分や、ジーンズのボタンにもニッケルが使われていることが多く、「へそのあたりが赤くなってかゆい」、と言って受診する人も少なくありません。なぜ、同じファッションをしていても、冬は大丈夫で夏にだけかゆくなるのかというと、夏には汗をかくからです。汗の影響で、金属がイオン化して溶け出し、体内のたんぱく質と結合することによって体が反応するアレルゲンとなるのです。このトラブルは、Tシャツをジーンズのなかにいれて着るとほぼ確実に再発を防げるのですが、患者さんの多くは、「そんなカッコ悪いファッションはできない」と言います。

 クロムは、なめし革に使われていることがあり、そのためベルトや、あるいは腕時計のベルトでも接触皮膚炎を起こし、かゆみが生じることがあります。

 原因がニッケルであれ、クロムであれ、あるいは他の金属であれ、そのかゆみや赤みを治すのは簡単です。中くらいの強さのステロイドを数日間外用すれば、ほとんどのケースで治癒します。ただ、先にも述べたように、金属の装着をやめなければ再発するのは時間の問題です。

 アレルギーを起こしにくい金属というのもあります。その代表が、金、プラチナ、チタンです。これらは、いずれも高価なものばかりですが、装飾品をすべてこういった金属にすれば、かゆみが解消できることが多いというわけです。(ただし、実際の貴金属は金やプラチナの純正ではなく合金になっていますから、完全に安心というわけではありません。)

 ピアスやイヤリングの場合は、チタン製にするというのもひとつの方法です。金属アレルギーがあるかもしれないと思う人は、耳に穴を開ける段階から、チタン製のものを使用するのがいいでしょう。(ただし値段はちょっと高いです。)

 次に、衣類による接触皮膚炎をみていきましょう。夏になると、襟元や袖口がかゆい、と言って受診する人が大勢います。襟元の場合はネックレスをしていなければ、袖口の場合は腕時計をしていなければ、そしてナイロン製の制服を着用していれば、おそらくそれは、衣類による接触皮膚炎です。

 これらも、数日間のステロイド外用で簡単に治るのですが、ネックレスや指輪と異なり、接触皮膚炎の再発を防ぐために制服をやめるというわけにはいかないでしょう。では、どうすればいいかというと、汗をこまめにふきとる、とか、制服の下にTシャツを着るとかいった工夫をしてみるのがいいでしょう。ただし、Tシャツでも袖口に使われているナイロン糸に反応する場合もあるので注意が必要です。

 女性の場合は、ストッキングが原因になることもよくあります。私は、一度ある患者さんに、(冗談で)「ストッキングをやめて綿のパッチをはいてみたら・・・」、と言ったことがあるのですが、「そんなことできるわけがない」、と一蹴されてしまいました。では、どうすればいいかというと、これもお金がかかりますが、シルク製のストッキングを使用するのもひとつの方法です。ただ、その場合でも、ウエットティッシュや濡れタオルなどで、汗をこまめにふきとる、という努力は必要でしょう。

 脇や股、女性の場合は胸の間や下の部分が赤くなりかゆくなることがあります。これは皮膚と皮膚が触れあい、さらに汗がその部分にたまることが原因でおこるかゆみで、これを「間擦疹」と呼びます。また、こういった部分にはいわゆるあせも(汗疹)が起こることもあります。

 これらもいったん赤みやかゆみが生じれば、短期間の外用薬で治したあと、再発防止に努めなければなりません。こういったことで悩んでおられる患者さんのなかには、熱い風呂に好んで入っていたり、あるいはナイロンタオルでごしごしとかゆみのある部分をこすっていたりする患者さんがおられます。これらは、いずれも逆にかゆみを助長することになっています。熱い風呂も、ナイロンタオルも皮膚にある必要な油分が失われることになり、皮膚を乾燥させてしまうことになるのです。汗が出てかゆいのだから乾燥させた方がいいのではないか、と考えている人もいますが、それは誤りで、ある程度の油分があった方が余分な汗を防ぐことができます。ちょうど、乾燥肌にアルコールの入った化粧水を使うと、そのときは気持ちがいいような気がするが、かえって乾燥を悪化させるのと似ています。夏のお風呂は、ぬるめのお湯に使って、綿のタオルでやさしく洗うのがポイントです。

 さて、夏のかゆみでもうひとつ忘れてはならないのが、感染症です。みずむし以外にも、夏には、ケムシ、ダニ、ハチ、蚊、などかゆみをもたらすやっかいな虫がたくさんいます。たかが、蚊と考えている人もいるでしょうが、蚊でも患者さんによっては大きく腫れ上がる人がいます。特に子供ではそれが顕著です。

 ケムシのかゆみは、ときに全身に広がり強烈なかゆみをきたします。ケムシになんか触っていないのに・・・、と言う患者さんもいますが、ケムシのいる木の下を歩いただけで衣服のすきまからケムシの毛が入り込み全身が真っ赤に腫れ上がることもあります。

 ダニも非常にやっかいで、特に日本ではヒゼンダニによる「疥癬(かいせん)」に罹患する人が少なくありません。ヒゼンダニは人間の皮膚の中に寄生し卵を産み付けます。卵からかえったばかりのダニは主に夜中にごそごそと活動を開始しだすため、疥癬のかゆみは特に夜間に強くなります。疥癬は、普通先進国ではあまり見られない疾患で、外国人の医師に、日本では疥癬が多い、という話をすると驚かれます。寝たきりの人や免疫不全の人に感染しやすい、というのは事実ですが、実際には、誰でも感染しますし、家族全員が感染したという症例も珍しくありません。
 私の経験した症例に、まずその家のおじいさんが感染し、ついで嫁と孫が感染し、さらにその孫のガールフレンドにまで感染したというものがあります。疥癬は、以前は、性感染症のひとつ、と言われていたのです。

 夏のかゆみの原因は様々ですが、多くの場合、短期間の治療と再発予防をおこなえば、それ以上悩むことはなくなります。気になる人は早めの受診を・・・。

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