はやりの病気
第35回 ラテックスアレルギー 2006/07/19
私は以前、アレルギー科指導医の先生のもとで、1年ほど研修を受けていたことがあり、私自身も日本アレルギー学会に入会していることもあって、外来でアレルギーの患者さんを診察させてもらうことが少なくありません。
日頃もっともよく接するアレルギー疾患のトップ3は、気管支喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎ですが、これら以外にも、ハウスダスト、ペット、金属、化粧品などによるアレルギー疾患にもよく遭遇します。食べ物によるものも少なくなく、去年から今年にかけて、マンゴーによるアレルギーで口の周りが腫れた、という患者さんを何人か診ました。
そんなアレルギー疾患のなかで、最近着実に増加しているな、と私が感じているのが、ラテックスアレルギーです。ラテックスアレルギーとは、天然ゴムに含まれる蛋白が原因となって引き起こされるアレルギーで、軽症のものから重症のものまであり、最重症の症例では死亡例もあります。
どんな患者さんに多いかと言うと、おそらく職業別で言えば、医療従事者がナンバー1だと思われます。というのは、医療従事者は手術の際などにラテックス製のグローブ(手袋)を使用するからです。最初は軽いかゆみや発赤だけしか症状がなかったとしても、何度も使用しているうちに次第に症状がひどくなってくることが多いようです。
このため、ラテックスアレルギーのある医療従事者用のグローブも用意されており、(価格は高いようですが)こういったグローブを使用することによりアレルギーの症状を防いでいます。
医療従事者以外の職業で多いのは、工場で勤務する人です。一般的に、工場でも衛生上の観点からゴム手袋を義務付けているところが多く、そのため、それまでは一切の症状がなかったのに、工場勤務を始めてから手が腫れだした、という人がいます。
ラテックスアレルギーは、たとえそのような体質であったとしても、医療従事者や工場勤務者のように日頃からゴム製品に接触するような環境にいなければ、発症することはありません。一般的に、アレルギー疾患というのは、その原因となる物質(これを「アレルゲン」と呼びます)に接触しなければ症状が出現することはないのです。
しかしながら、日常生活からゴム製品を一掃することはなかなか容易ではありません。そもそも、ラッテクスアレルギーの患者さんが増えてきているのは、衛生に関する意識が向上したことにより、結果としてグローブなどのゴム製品を使用する機会が増えているからです。良質のラテックス製品を使用することによって感染症を防ぐことができるわけですから、ゴム製品の使用をやめることによって感染症に罹患したのでは意味がありません。
感染症を防ぐ目的で使用されているラテックス製品の代表のひとつが、コンドームです。病院や工場で勤務していない人でも、状況によってはコンドームを使わないわけにはいかないでしょう。
ところが、このコンドームが悲劇を起こすこともあります。実際に、性行為の最中にラテックスアレルギーの症状が出現し、そのまま死亡した男性の症例が報告されています。
「こんな報告を聞くと、コンドームなんて怖くて使えない!」
そんなふうに思われる方もおられるでしょう。たしかに、「コンドームを使うことで死亡することもある」、などと言われれば使用に躊躇してしまいます。
しかし、一般的には先にも述べたように、何度もゴム製品を使用している間に、症状の程度が重症化してくるのが普通です。コンドーム以外にも、日常生活品のなかでゴム製品はあるでしょうから、コンドームにアレルギーのある人は、それまでにも何らかの症状が発症していた可能性が強いと言えます。軽度のかゆみや発赤が出た時点で病院を受診していれば、このような悲劇は防げた可能性が強いのです。
それまでゴム製品を触っても何もなかった人が、いきなり性行為の最中に死亡、なんていうことは可能性としてはそれほど高くないわけです。
一般的にラテックスにアレルギーのある人は、1,000人にひとりくらいだと言われています。しかし、アトピー性皮膚炎のある人の3-4%にラテックスアレルギーがあるとの報告もあり、アトピー性皮膚炎と診断されたことのある人はより注意が必要です。また、なぜか理由は分かりませんが(私が知らないだけかもしれませんが)、二分脊椎という病気のある人は、そのほとんどがラテックスアレルギーだと言われています。
もしも、あなたがラテックスアレルギーの疑いがあるなら、早めに病院を受診することをお勧めします。病院に行けば、本当にアレルギーがあるのかどうかが正確に分かり、今後の生活に注意することによって悲劇を防ぐことができるからです。
また、ラテックスアレルギーがあるかもしれない人は、ラテックスアレルギーを診てもらう以外の理由で病院を受診した際にも、必ず医師にそのことを伝えるべきだと私は考えています。
なぜなら、病院でおこなわれる処置や手術というのは、医療従事者は通常、ラテックス製のグローブを用いておこないますから、医療従事者の手が患者さんに触れることによって、患者さんにアレルギーの症状が出現することがあるからです。
では、具体的にラテックスアレルギーでは、どのような症状が出現するのかみていきましょう。
皮膚症状としては、痒疹(かゆくなる)、紅斑(赤くなる)、じんましん(かゆみのある皮膚の盛り上がり)などがあります。これらは軽症であれば、ゴムが触れた部分のみ(グローブなら手のみ)に現れますが、重症化するとこういった皮膚症状が全身に出現します。
鼻炎や結膜炎を起こすこともあります。ゴム製品の手袋やコンドームを使用すれば、目がかゆくなる、あるいは鼻水がでる、という人は疑うべきだと思われます。
さらにひどくなると、息苦しくなったり、喘息のような症状が出現したりすることもあります。これらが重症化すると、血圧が大きく下がり(これを「ショック」と呼びます)、最悪の場合は命を失うこともあります。
これらのうち、少しでも気になる症状があれば、できるだけ早く病院を受診するのが賢明です。
また、コンドームについては、現在市場に出回っているほとんどのものがラテックス製です。アレルギーのある人でも使える製品というのもメーカーによっては存在するようですが、自分の判断でラテックスアレルギーと診断してそういう製品を使用するよりも、一度医師と相談した上で対策を考えていく方がいいでしょう。
なぜなら、ラテックスアレルギーの人のためにつくられたコンドームのなかには、単にアレルギーを引き起こす成分を少なくしただけのものもあり、(これで充分なことも多いのですが)ほんの少しのラテックスでも反応する人にとっては、危険性はほとんど変わらないからです。
ラテックスアレルギーの怖いところは、多くの人々が、自身がアレルギーであることを知らず、なおかつ、ときに重症化をきたすことがあるということです。
少しでも気になることがある人は早めの受診を・・・・。
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