はやりの病気
第7回 糖尿病2 2005/05/08
前回は、糖尿病が進行したときの症状を具体的に述べ、糖尿病の「怖さ」についてお話しました。今回は、糖尿病が分かったとき、あるいは高血糖を指摘されたときに、何をすべきかということについてお話していきたいと思います。
まずは、前回の繰り返しになりますが、健康な人であっても、定期的な健康診断は受ける必要があります。糖尿病は自覚症状がないために、久しぶりに(あるいは初めて)受けた健康診断で、高血糖がかなり進行していて、直ちに強力な薬を飲まなくてはいけないような状態であったとか、あるいはインスリンの自己注射をしなければいけないような段階まできていた、ということがよくあるからです。前回も言いましたが、糖尿病はいったん進行すると、それ以上の悪化は防ぐことはできても、いったん悪くなった血管の病変を元に戻すことはできないのです。
特に若い人に多いのですが、大企業で働いている人以外は、健康診断を受ける機会がないという人がいます。企業でやってもらわなくても、地域の役所や保健所に問い合わせれば、住民対象の健康診断の情報を教えてもらえるのですが、そういった健康診断は平日におこなわれるので、参加できないという人も少なくありません。たしかに、その通りでしょう。なかなか、健康診断を目的に会社を休んだり、遅刻したり、といったことはむつかしいかもしれません。
かかりつけ医を見つけて、仕事が休みの日や、平日の夜に受診する、という方法をとるのがいいいのですが、自覚症状がないと、なかなかクリニックに行く気にならないかもしれません。
私としては、なんとか時間をみつけて、定期的な健康診断を受けることをすすめたいのですが、どうしても無理という人に対して、ここでひとつのアドバイスをしたいと思います。
それは、「定期的な体重のチェック」です。これなら誰でもできるでしょう。体重が増えていないかどうか定期的に確認し、もし増えていればなんとしても痩せるようにしましょう。あるいは肥満が分かった時点でかかりつけ医に相談するようにしましょう。
よく、何キロくらいにすればいいのですか、ということを患者さんに聞かれるのですが、30歳を超えてから体重が気になりだした人に対しては、「20歳の頃の体重に戻す」というのがひとつの答えです。健康な人というのは、20歳くらいの頃から、体重だけでなく、胸囲もウエストもあまり変わっていません。そしてこういう人は、元気があって、仕事もいきいきとしており、若くみえます。
理想の体重を示す方式にBMIという方法があります。これは、体重(Kg)を身長(m)の2乗で割った数字で、例えば、体重88キロ、身長2メートルの人なら、88÷(2x2)=22、ということになります。
元来、理想のBMIは22とされてきました。これに対して25を超えれば肥満というのが定説になっていました。
ところが、最近これをくつがえすデータが発表されて話題を呼んでいます。それはアメリカのCDCが発表したデータで、それによると、BMIが25から30未満の人が最も死亡率が低いというものです。
BMIが25から30というと、身長170センチの人なら72キロから87キロということになります。これは常識的には肥満の範囲になるものと思われます。最近、あるテレビ番組で、ある医者がこのデータを持ち出して、「本当はちょっと肥満の方が長生きするんですよ」と言っていました。そしてその番組のコメンテーターは、「なんだ、もっと太った方が身体にいいんだ」と言っていました。
しかし、これは大きな誤りです。そもそもこのデータはアメリカ人を対象としたものであって、日本人を研究の範疇に入れていません。WHOが2004年に発表したデータによると、アジア人は白人より同じBMIでも体脂肪率が高い傾向がありますし、そもそも日本人は白人に比べると、身体が肥満に耐えられるようにできていません。これは、白人なら過食によって健康を害さない肥満になれるけれども、日本人の場合は、身体が肥満になる前に糖尿病になってしまうという意味です。少し医学的にお話すると、白人の場合、過食をしてもどんどんインスリンが分泌されて、脂肪として過剰なエネルギーが身体に蓄積されるのに対して、日本人の場合は、インスリンの分泌量がそれほど多くないために、容易に糖尿病になってしまうのです。
糖尿病を防ぎたいのであれば、あなたが日本人であるなら、絶対に太ってはいけません。「太る」指標になるのは、体重と体脂肪率とウエストサイズです。
体重については、BMIでやはり従来言われてきたように22くらいを目標にすべきだと思います。つまり、身長170センチの人であれば、64キロ程度、身長160センチの人であれば、56キロ程度です。2002年にカリフォルニア大学が発表したデータによると、体重を1キロ減らせば、2型糖尿病のリスクを13%減らせるそうです。
体脂肪率は、これはなかなか正確に測定するのはむつかしく、市販の計測器はかなり誤差がでます。ただ、簡単に計測できますから、ある程度は参考になるものと思われます。一般的には、男性であれば20前後、女性であれば25前後を目標にすればいいと思います。
もうひとつは、ウエストサイズです。「American Journal of Clinical Nutrition」という医学雑誌に2004年3月に掲載された、カナダ人の医学者の研究によりますと、BMIよりもウエストラインの方が、肥満を評価するのにすぐれているそうです。臨床的にも、なるほどと思われるのは、あまり太っていない糖尿病の患者さんは、お腹だけは出ているという人が少なくないからです。
糖尿病を避けたければ、絶対に太らないということが大切なのですが、もうひとつ興味深いデータをご紹介しましょう。それは、「1日に2時間以上テレビを見る女性は、糖尿病になるリスクが14%も高い」というものです。これは「Journal of American Medical Association」という雑誌に2003年に掲載されました。
結局のところ、2型糖尿病は、かなりの部分で、自己の健康管理能力を高めることによって予防することが可能なのです。私は、2型糖尿病は、現代人を襲う最もやっかいな病気のひとつだと考えています。なぜやっかいかという点については、前回述べたとおりです。
さて、予防を怠ったがために、2型糖尿病になってしまい、服薬が必要になったときに、進行がさほど大きくなければ、飲み薬を開始することになります。飲み薬にはいくつかありますが、副作用の伴うものもあり、なかには服用することによってかえって肥満が進行してしまうものもあります。そして、一旦飲み始めると、ちょっとやそっとでやめることはできません。一生飲み続ける覚悟で服用を開始しなければなりません。
薬を毎日何度も飲まなければならないというのは、かなり大変です。お金もかかりますし、それに、糖尿病の場合は、食前、食後などの用法をきちんと守らなければなりません。「今朝は寝坊したから朝食は抜こう」というわけにはいかないのです。薬のなかには、用法として食前とか食後とか書かれていても、実際には食事に関係なく服用してもかまわない薬もたくさんあります。しかし、この糖尿病の薬に関してはそういうわけにはいきません。きちんと決まった時間に食事を摂って、その前後に薬を服用しなければなりません。これで、生活がかなり制限されてしまいます。
それに、定期的に血糖値を計測しなければなりません。毎日、自分に針を刺して、血糖値の測定をおこなわなければならないのです。これがどれだけの負担かは少し想像してみればよくわかるでしょう。
糖尿病の発見が遅れたり、内服によって血糖値のコントロールがうまくいかない場合は、インスリンの自己注射をしなければなりません。多くの患者さんが言われるように、これもまた大変です。たしかにインスリンは非常にいい薬であり、自己注射や血糖値測定に伴う煩わしさを考えなければ、理想的な薬剤と言えます。しかしながら、生活が大きく制限されることを考えると、やはり初めから糖尿病に罹患しない、つまり健康なうちから肥満に気をつけてしっかりと予防するにこしたことはないわけです。
生活習慣病の代表である糖尿病という病気に関しては、日頃の健康管理、そしてかかりつけ医への相談が絶対に不可欠です。もしも、あなたが最近体重やウエストラインが気になりだしているとするならば、ほうっておいてはいけないのです。
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