はやりの病気

第224回(2022年4月) 酒さの治療が変わります!

 比較的よくある(皮膚の)病気なのに、その名前があまり知られておらず、患者さんのいくらかは行き場をなくしているのが「酒さ(しゅさ)」です。

 太融寺町谷口医院(以下、谷口医院)にも、コロナ禍以降はやや減少していますが、それでも「酒さを治してください」と言ってやって来られる初診の患者さんが月に何人かはいます。しかも、かなりの遠方から来られる人もいます。

 また、これまで「誤診」されていたケースも目立ちます。皮膚科専門医や(私のように)皮膚科でトレーニングを受けている医師にとっては、一目で診断がつく、よくある病気(common disease)のひとつなのに、「顔が赤くなって、いろいろと受診したけれど全然治らずに、これまで酒さと言われたことは一度もない」と言う人もいます。

 医師は「前医を悪く言ってはいけない」というルールが我々の世界にはあるのですが、前医では漠然とステロイドを長期間処方されていたというケースもあって、対応に困ることもしばしばあります。そのステロイドのせいで余計に悪くなっていることもよくあります。ちなみに、誤診されている疾患の第1位は脂漏性皮膚炎(酒さが正しいのに脂漏性皮膚炎と言われていた)、第2位はアトピー性皮膚炎です。

 その酒さの治療が変わります(治療の幅が広がります)、ということを今回は述べたいのですが、先に酒さの基本的な事項をまとめておきましょう。尚、文脈によっては「酒さ」と「酒さ様皮膚炎」を区別しますが、ここでは双方を「酒さ」と呼ぶこととします。

 酒さの定義は「顔面に生じる原因不明の慢性炎症性疾患」です。通常、痛みや痒みは伴いません。顔以外に広がることもありません。では、何が問題なのか。「見た目」です。しかも、「ある日突然」とまで言うと言い過ぎかもしれませんが、それまで何の問題もなかった自慢の白く透き通るような肌が見ている間に真っ赤に腫れていく、ということもあります。そうなると、外出さえ憚られ、精神的に落ちていく人も少なくありません。

 人は見た目じゃない、という言葉がありますが、そんなことはありません。人間「見た目」はとても重要です。顔が赤くなることを気にするのは女性だけでは?という人がいますが、谷口医院の患者さんで言えば性別の区別はありません。男性も「見た目」を女性と同様、あるいは女性以上に気にします。というより、このような問題に性差はありません。

 話を進めましょう。なぜ酒さが起こるのか。谷口医院の患者さんで言えば、最も多いのが「ステロイドの不適切使用」です。ステロイドを顔に塗らなければならないことはもちろんあるのですが、外用してもいいのは(程度にもよりますが)せいぜい数日以内です。原則として1週間以上塗り続けることはありません。というより、そのようなことをしてはいけません。

 にもかかわらず、このような”タブー”を侵犯している人が少なくないのです。ステロイドはいろんなものがありますが、私の経験で最も多いのが「ロコイド」というステロイドで、患者さんのなかには「前の病院で、『これは顔用のステロイドだからいくら塗ってもいい』と言われた」と言う人がいて驚かされます。実際には医師はそんなことを言っていないとは思うのですが、患者さんがそう解釈しているのは事実です。

 このコラムで、特定の商品名を取り上げて悪口を書くのは問題かもしれません。ですが、あまりにも「ロコイドのせいで……」と言う人が多いのです。一度、ロコイドを発売している製薬会社のMR(営業担当者)にも聞いてみたことがあります。「当社では長期間の使用を控えるように案内しています。先生(私のこと)の言うように数日以内の使用にしなければならないと考えています」と言われました。ただし、念のために付記しておくと、私は「ロコイドが悪い」と言っているわけではなく、たしかに2-3日間、(もちろん酒さでない患者さんに対し)顔面に塗ってもらうこともあります。とてもいい薬剤であることを再度強調しておきます。

 ステロイドの話はまだ続きます。顔面に塗ったステロイドで酒さが誘発、という以外にステロイドの内服や注射が原因になっている(と思われる)ことがあります。これは、たいていの場合、証明することまではできないのですが、谷口医院の患者さんで言えば、数年前にステロイドを飲んでいた、あるいは注射をしていた、という人がけっこう多いのです。もちろん、一律にステロイド内服・注射が悪いといっているわけではありません。それらは必要だったから使われたのでしょう。ですが、個人輸入で入手して自分の判断で内服したり、やってはいけないとされている花粉症へのステロイド注射を受けたりして、酒さを起こした人をみると、「先に相談してくれればよかったのに……」と思わずにはいられません。

 ステロイド以外で明らかな酒さの原因は「紫外線」です。中学・高校と紫外線に当たる環境にいて、30歳を過ぎてから酒さを発症というケースがよくあります。「10年以上前の紫外線曝露が原因となぜ断定できるのか」と問われれば、たしかに証拠は示せないのですが、こういうケースがあまりにも多いのです。

 その他の要因としては「ピロリ菌の感染」があり、たしかにピロリ菌の除菌をおこなうと劇的に改善する人もいます。ですが、一方でまったく変わらない人もいるために、酒さの治療目的のみで除菌をすべきかどうかはよく検討してからになります(ちなみに、谷口医院ではピロリ菌陽性でも無症状であれば除菌を選択しない患者さんも少なくありません)。

 考えられる原因は他にもありますが、話を「治療」に進めましょう。現在、世界的に最も使用されている薬はメトロニダゾールという外用薬で、商品名を「ロゼックス」と言います。酒さは英語でrosacea(無理やりカタカナにすると「ロゼイシア」が近いと思います)と言います。名前が似ていることからも分かるように、この薬は様々な用途で用いるのですが酒さをメインのターゲットにした薬です。

 しかし、このロゼックス、日本ではこれまで褥瘡(とこずれ)に対してはできたものの、酒さに対しては保険適用がなく処方できませんでした。「ロゼックスだけ自費でください」と言われることもあるのですが、診察代を保険にすると混合診療となってしまいます。すべてを自費とするとかなりの高額になってしまうため、自費での処方も(酒さだけで受診している人にとっては)現実的ではなかったのです。

 そして最近になって、ようやくこのロゼックスが酒さに対して保険で処方できることが決まりました。谷口医院ではすぐにでも処方できる準備が整っているのですが、現時点(2022年4月20日時点)ではまだ保険処方のゴーサインが厚労省から出ていません。ただ、近日中には出されるはずですので、そこからは全国的に「酒さの治療はまずロゼックス」となることは間違いありません。

 これまで「どこでも診てもらえなかった」という患者さんは激減、というより皆無になるでしょう。酒さがよくある病気(common disease)のひとつとして認識され、またロゼックスはそれなりによく効きますから「見た目」で苦しむ人が減少するでしょう。

 とはいえ、ロゼックスだけでは完全に治らない(ロゼックスが効く場合も、中止するとたいていは悪化します)人もいますから、「ロゼックスさえあれば何も怖くない」という単純な話ではありません。

 やはり慢性疾患の酒さには長期的な対策が必要です。かかりつけ医(または皮膚科専門医)に相談するようにしましょう。

参考:
医療プレミア2017年7月9日「酒さもじんましんもピロリ菌除菌で改善?」
(無料で読めます)

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