はやりの病気

第170回(2017年10月) 最も難渋するアレルギー疾患~好酸球性食道炎・胃腸炎~

 最も重篤なアレルギー疾患は?と問われれば、医療者も一般の人たちもおそらく「アナフィラキシー」と答えるでしょう。アナフィラキシーをいったん起こせば、迅速に適切な治療がおこなわれなかった場合、数時間以内に帰らぬ人になってしまうこともあります。

 ですが、アナフィラキシーには必ず原因があります。食べ物、薬剤、蜂などで、これらを避ければ再発は防げます。ときどき原因不明のアナフィラキシーがあり、なかなか原因物質を特定できないことがありますが、そういった場合でも毎日症状に苦しめられることはありません。偶発的に発症した場合はアドレナリンの筋肉注射(自己注射も可能)をおこなえば助かります。

 一方、毎日のように苦しめられ、治療法も確立しているとはいえないアレルギー疾患があります。それが今回紹介する「好酸球性食道炎」と「好酸球性胃腸炎」です。どちらもあまり有名でない疾患でしょうし、罹患者数は喘息やアトピー性皮膚炎と比較すると圧倒的に少ないのは事実ですが、かなりの難治性であることから厚労省の指定難病にも入っています(注1)。

 さらに、難渋するのは治療だけではありません。診断をつけるのにも非常に苦労するのです。2つの疾患をひとつずつみていきましょう。まずは好酸球性食道炎です。

 好酸球性食道炎の症状は、吐き気、胸やけ、飲み込みにくい、などで逆流性食道炎の症状とほとんど変わりません。ですから、このような症状を医師に説明して、「あなたの疾患は好酸球性食道炎に違いない」と初診時に言われることはまずありえません。すぐに内視鏡(胃カメラ)をおこなうべきこともありますが、たいていは胃酸の分泌を抑制する薬をまずは処方されます。

 こういった薬で症状が改善しないときに内視鏡をおこないます。逆流性食道炎の場合は内視鏡をすれば「ただれた粘膜」が観察されますから、この時点で診断がつきます。一方、好酸球性食道炎は、ある程度重症化していないと「異常なし」または「軽度の炎症」と言われるだけで、この時点で診断がつくことはあまりありません。内視鏡で異常がない(または軽度)であり、逆流性食道炎と同じ症状がある場合「非びらん性胃食道逆流症」と呼ばれます。つまり実際には好酸球性食道炎であったとしても、軽度の逆流性食道炎または非びらん性胃食道逆流症と「誤診」されてしまう可能性があるのです。

 逆流性食道炎でも非びらん性胃食道逆流症であっても、症状がある程度進行するとプロトンポンプ阻害薬(以下「PPI」)と呼ばれる薬が処方されます。これである程度改善することがほとんどで、改善度に乏しい場合は手術が検討されることもありますが頻度は稀です。
 
 では好酸球性食道炎はどのようにして診断をつけるのか。それには、食道の一部の粘膜を採取し、生検(顕微鏡の検査)でたくさんの好酸球を確認しなければなりません。ここにこの疾患の診断の難しさがあります。理由は2つあります。

 1つは、生検というのはそれなりに大変な検査です。粘膜を採取するわけですから、出血は起こりますし、稀とはいえその出血が止まらない、あるいは食道の壁を穿孔してしまう可能性もゼロとは言い切れません。つまり危険が伴う検査なのです。ですから、内視鏡をおこなう術者としては、大きな異常が肉眼で確認できない限りはなかなか生検実施を考えにくいのです。そして、好酸球性食道炎の場合、肉眼での大きな異常があるわけではありません。

 もうひとつの理由は、好酸球性食道炎でもPPIがそれなりに効く場合があるということです。なぜ効くのかははっきりとわかっていないのですが、効くときは効くのです。すると「PPIが効いたんだから軽度の逆流性食道炎か非びらん性胃食道逆流症だろう」と診断されてしまいます。

 ですが、好酸球性食道炎であろうがなかろうがPPIで症状がとれるなら「幸運」と言えます。なぜならPPIがまったく無効な好酸球性食道炎の場合は、ほとんど「なす術がない」からです。一般に好酸球が関与した疾患にはステロイドが効くことがあります。好酸球性食道炎の場合も、ステロイド内服は有効ですし、また喘息で用いるステロイド吸入薬を飲み込むという方法もあります。しかしステロイドの副作用を考慮すると、このような治療は安易におこなえません。

 では好酸球性食道炎の診断がつき、PPIが効かない場合はどうすればいいのでしょう。それを述べる前に、もうひとつの疾患、好酸球性胃腸炎をみていきましょう。

 好酸球性胃腸炎の症状は、嘔吐、腹痛、下痢などです。患者さんは「特定のものを食べたときに起こる」と訴えることがありますが、食物アレルギーの腹部症状とは異なります。食物アレルギーの腹部症状は食後運動をしたときに起こることが多く、原因食物のIgE抗体が陽性となるのが普通ですし、プリックテストといって皮膚にその食物を注射する検査をすると陽性となります。一方、好酸球性胃腸炎の場合、血液検査でもプリックテストでも陽性とならないことが多いのです。尚、これは好酸球性食道炎の場合も同様です。

 確定診断を得るには、好酸球性食道炎と同様、内視鏡で粘膜を採取(生検)することになりますが、食道の場合と異なり、小腸の内視鏡というのは簡単ではなくなかなかおこなえません。胃や大腸の生検は比較的おこないやすいですが、採取した部位では好酸球が多くなかった、ということもあります。症例によっては腹水が貯まり、その腹水のなかに多数の好酸球が検出されることもありますが、腹水はある程度の量が貯留しなければ採取が困難です。

 血中の好酸球が増えていることは多いのですが(好酸球性食道炎の場合も同様)、他の好酸球が上昇する疾患(例えば喘息)のために増えている可能性もあり、これらを見分けることは困難です。そもそも、好酸球性食道炎も胃腸炎も、喘息を含むアレルギー疾患を合併していることが多く、好酸球の数値はこれら疾患の決め手にはなりません。それに血中好酸球が上昇しない好酸球性食道炎・胃腸炎もあるのです。

 治療はどうすればいいのでしょうか。食道炎の場合とは異なり、好酸球性胃腸炎の場合は吸入ステロイドの内服は効きません。経口ステロイドの内服は有効ですが、やはり副作用を考慮すると長期で使える方法ではありません。

 ではどうすればいいか。実は、好酸球性食道炎にも好酸球性胃腸炎にも極めて有効な”治療法”があります。しかもその”治療法”は「安全」で「低コスト」です。しかしおこなうのは極めて困難です。というより、その”治療法”が有効で誰もが簡単におこなえるなら、厚労省は難病に指定しません。

 その”治療法”とは「6種食品除去食」を実践するという方法です。先に述べたように、患者さんのなかには「特定のものを食べると症状が出やすい」という人がいます。ということは可能性のあるものをすべて避ければいいのです。それは6つあります。①卵、②牛乳、③小麦、④大豆、⑤ピーナッツ、⑥魚介類です。これらを完全に除去すると、症状が劇的に改善すると言われています。

 ですが、実際にこれらをすべて除去することができるでしょうか。蛋白源として、卵、牛乳、大豆、魚介類がNGだとすればあとは肉しかありません。小麦NGでも炭水化物は米で摂れますが、では米と肉、野菜だけの生活を一生続けることはできるでしょうか。

 今のところ好酸球性食道炎・胃腸炎の予防法はありません。ただ、難病指定されているわけですから有効な治療の研究はおこなわれていますし、診断がつけば治療費は無料となります。疑わしい症状がある人はかかりつけ医に相談してみてください。

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注1:厚労省の下記ページを参照ください。

http://www.nanbyou.or.jp/entry/3935

 

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