はやりの病気

第45回 皮膚に”できもの”ができたとき 2007/5/22

 以前ある患者さんが「皮膚に”できもの”ができた」といって受診されました。その”できもの”自体はよくある皮膚腫瘍で、簡単に手術できるものだったので、1週間後に手術をおこない問題はなかったのですが、患者さんが言った次の言葉が私には印象的でした。

 「手術をするのは外科だと思っていました」

 この患者さんは、自分の”できもの”を手術してもらおうと思って、近所の病院の「外科」を受診したそうです。そこで、「これは皮膚の腫瘍だから皮膚科に行くように」と言われて私の元にやってきたのです。その病院には「皮膚科」がないために別のところで手術を受けるべきだと言われたというわけです。

 しかし、皮膚であっても症例によっては「外科医」が摘出手術をおこなうこともあります。

 一方、すてらめいとクリニックでは「皮膚科」を看板に掲げてあるため、「皮膚の”できもの”を取ってほしい」、と言って受診される患者さんがおられます。そのなかで8割くらいは私自身が手術をおこなっていますが、なかには私では手術ができないようなタイプの”できもの”があり、そういう場合は、信頼できる形成外科医などに紹介状を書きます。

 私に手術ができない皮膚の”できもの”というのは、大きすぎるために全身麻酔が必要な場合と、”できもの”自体は小さくても部位的に極めて高度な技術が要求されるような場合です。

 ここまでをまとめると、皮膚の”できもの”を手術するのは、外科、皮膚科、形成外科などと多岐に渡り、患者さん側からみれば、どこに行けばいいのか分からなくなるかもしれません。

 今回はこのあたりの事情をご紹介したいと思います。

 まず、現在の日本の医療システムには「総合外科」というものがありません。外科医を目指すのであれば、心臓外科、脳外科、整形外科、消化器外科などから選択しなければならないのです。

 国によってはすべての外科を勉強・研修できるところもあるようですが、現在の日本ではまず自分がどの部位の外科を目指すのかを決める必要があります。

 実は、これは「内科」でも同じであって、消化器内科、循環器内科、神経内科、血液内科、などから自分がどの分野に進むのかを決めなければなりません。

 しかし、これでは患者さんの臓器をみることはできても、全体からみることができず、結果としてどこの科に行っていいか分からない患者さんや、複数の訴えのある患者さんのニーズに応えられないといった問題がでてきます。

 こういった観点から、患者さんを臓器ではなく、人としてみて総合的に診察のできる医師が必要だという議論がうまれ、「プライマリケア」「総合診療」「家庭医療」などのコンセプトへとつながります。

 したがって、現在では、数は多くないもののすべての領域のプライマリケアを習得しようとする医師が増えてきています。

 しかしながら、これは「内科系」ではできても「外科系」では極めて困難です。そもそも消化器外科や心臓外科のプライマリ領域などといったものがあるのかどうかが疑問です。

 例えば、胃がんの手術ができるようになるまでには少なくとも2~3年はかかるでしょう。これが脳腫瘍となると10年以上の修行期間が必要となります。胃がんや脳腫瘍の手術というのは極めて高度な知識と技術が要求される「専門医」の領域であり、プライマリケア医がおこなうことはできません。

 ですから、冒頭で紹介した私が手術をおこなった患者さんは、最初、病院の外科を受診しましたが、その外科医は「消化器外科医」や「呼吸器外科医」といった専門の外科医であり、「皮膚の手術は皮膚科に行くように」との助言をおこなったものだと思われます。

 では、皮膚科と形成外科医はどう違うのかと言うと、これは説明が少しむつかしいように思います。

 私としては、上に述べたように、極めて高度な技術が要求されるような症例の多くでは形成外科が適していると考えています。私は、これまで形成外科でも皮膚科でもトレーニングを受けましたが、形成外科で要求される高度な技術は、プライマリケア医がおこなうべきではないと考えています。

 しかし、皮膚科専門医のなかには形成外科で数年間のトレーニングを受けている者もいて、こういう医師は相当難易度の高い手術でもおこなえるでしょう。その一方で、皮膚科医のなかには、手術は一切おこなわない、という医師もいます。

 皮膚科と形成外科以外にも皮膚の”できもの”を手術する科があります。

 私の経験で言えば、あごにできものができました、と言って受診された患者さんに耳鼻科の専門医を紹介したケースがあります。これは、”皮膚”の腫瘍ではなく、”顎下腺”の腫瘍だったからです。また、関節の中に腫瘍がある場合は整形外科を紹介します。

 こうなると、患者さんはいったいどこに行けばいいのか分からなくなるかもしれません。

 一番いいのは、どんな”できもの”であっても、まずはかかりつけ医に相談することです。あなたが信頼できるかかりつけ医であれば、そのかかりつけ医は信頼できる「外科医」を紹介してくれるに違いありません。

 他の症状や疾患がそうであるように、”できもの”ができたときも、まずはかかりつけ医に相談するのが最善なのです。

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